弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告が原告らに対しそれぞれ平成12年6月2日付けでした公正取引委員会平
成10年(判)第4ないし第24号課徴金納付命令審決のうち、別表4の「原告ら
主張の支払保険金を控除した場合の課徴金額」欄記載の金額を超えて課徴金の納付
を命じる部分を取り消す。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを7分し、その4を被告の負担とし、その余を原告らの負担
とする。
       事   実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 被告が原告らに対しそれぞれ平成12年6月2日付けでした公正取引委員
会平成10年(判)第4ないし第24号課徴金納付命令審決(以下「本件審決」と
いう。)のうち、別表3の「原告ら主張の課徴金額(1)」欄記載の金額又は「原
告ら主張の課徴金額(2)」欄記載の金額を超えて課徴金の納付を命じる部分を取
り消す。
(2) 訴訟費用は、被告の負担とする。
2 被告
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第2 本件審決に至る経緯
1 本件審決及び本件訴え提起当時の原告ら及びその商号は、別表1の「原告名」
欄記載のとおりであるが、平成13年10月1日、原告住友海上火災保険株式会社
と原告三井海上火災保険株式会社は、後者を存続会社、前者を消滅会社として合併
し、後者は、前者の債権債務を全部承継し、商号を三井住友海上火災保険株式会社
に変更し、同年4月1日、原告日本火災海上保険株式会社と原告興亜火災海上保険
株式会社は、前者を存続会社、後者を消滅会社として合併し、前者は、後者の債権
債務を全部承継し、商号を日本興亜損害保険株式会社に変更し、原告千代田火災海
上保険株式会社と原告大東京火災海上保険株式会社は、後者を存続会社、前者を消
滅会社として合併し、後者は、前者の債権債務を全部承継し,商号をあいおい損害
保険株式会社に変更し、原告同和火災海上保険株式会社は、商号をニッセイ同和損
害保険株式会社に変更した。
2 原告らは、損害保険業を営む者であり、平成5年3月6日以前から、日本機械
保険連盟(以下「連盟」という。)の会員となっていた。連盟は、私的独占の禁止
及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条2項の事業者団
体に該当する。
3 連盟は、平成5年3月6日以前から、機械保険及び組立保険(以下「機械保険
等」という。)に
ついて、会員が引受け(元受けに限る。以下同じ。)に当たり適用する保険料率の
維持を図るため、標準基本料率、割引率、特約料率等を決定し、会員にその内容ど
おりに主務大臣に対する認可申請をさせるとともに、認可内容に基づいて詳細な標
準基本料率、割引率、特約料率等を定めた内規と称する諸規定を決定し、これらを
引受けに当たって適用すべき統一基準(以下「タリフ」という。)として設定し、
会員にこれに従って保険料率を算定させ、また、統一基準で算定できない案件及び
高額案件等特定の案件については、会員に、連盟に対して保険料率の算定を依頼さ
せ、連盟が算定した保険料率によって保険の引受けを行わせること(以下「求率制
度」という。)を実施することによって、会員に一定料率(タリフの数値等を修正
できない一定料率)で機械保険等の引受けを行わせ、もって機械保険等の引受けの
取引分野における競争を実質的に制限した。連盟のこの行為(以下「本件違反行
為」という。)は、独禁法8条1項1号の規定に違反し、かつ、同法8条の3にお
いて準用する同法7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為である。連盟
は、平成8年3月6日に本件違反行為を取り止めた。なお、主務大臣によって認可
される上記料率は、機械、工事等の種別ごとに定められるいわゆる標準料率であっ
て、本来は、損害保険会社において、個々の保険対象の作業内容等に応じて修正す
ることができ、その修正幅にも限度がなく、種別ごとの定めのないものについて
は、認可された種別の料率のうちの類似のものを参考として定めることとされてい
る。以上は、被告が連盟に対し独禁法48条4項の規定に基づき平成9年2月5日
付けで行った勧告審決の認定するところである。
4 独禁法8条の3において準用する同法7条の2の規定によると、事業者団体が
同法8条1項1号違反の行為で役務の対価に係るものをしたときは、被告は、事業
者団体の構成事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行った期間(以下
「実行期間」という。)における当該役務の「売上額」に100分の6を乗じて得
た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。独禁法
施行令5条の規定によると、「売上高」の算定方法は、実行期間において「提供」
した「役務」の「対価」の額を合計する方法とされている。原告らが連盟による本
件違反行為の実行としての事業活動を行っ
た期間は、独禁法の一部を改正する法律(平成3年法律第42号)附則3項の規定
により、平成5年3月7日から平成8年3月6日までの3年間(以下「本件実行期
間」という。)とみなされる。
5 保険契約に基づき保険契約者から損害保険会社に支払われる保険料は、一般に
「営業保険料」と呼ばれている。原告らが本件実行期間において「提供」した「機
械保険等の引受け」に係る営業保険料(返戻金控除後のもの。以下「本件営業保険
料」という。)の合計額は、別表1の「営業保険料」欄記載の金額である。この営
業保険料は、原告らが本件実行期間中に「収受した」営業保険料である。
6 本件審決は、原告らが本件違反行為の実行として本件実行期間において提供し
た「役務」は「機械保険等の引受け」であり、その「対価」は営業保険料であるか
ら、本件営業保険料を合計した額である別表1の「営業保険料」欄記載の金額が独
禁法8条の3において準用する同法7条の2第1項の「売上額」に当たるとして、
これに100分の6(原告大同火災海上保険株式会社については、中小企業基本法
等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則3条1項の規定により
なお従前の例によることとされる改正前の独禁法7条の2第2項の規定により10
0分の3。以下同じ。)を乗じて得た額から、独禁法7条の2第4項の規定により
1万円未満の端数を切り捨てて算出した別表1の「本件審決で納付を命じられた課
徴金額」欄記載の金額を課徴金として、独禁法54条の2第1項の規定に基づき、
原告らに対しその納付を命じた(この課徴金を以下「本件課徴金」という。)。
第3 本件の主たる争点
 原告らの主張によると、営業保険料は、「純保険料」と「付加保険料」との二つ
の部分に分けられる。純保険料は、営業保険料のうち将来の保険金の支払に充てら
れると見込まれるもので、その額は、営業保険料に予定損害率(純保険料の営業保
険料に対する割合をいい、損害保険会社が「保険料及び責任準備金算出方法書」
(以下「算方書」という。)に記載して主務大臣の認可を得たもので、本件実行期
間当時、機械保険にあっては51%、組立保険にあっては65%であったもの。以
下同じ。)を乗じて得た額である。付加保険料は、営業保険料のうち純保険料以外
のもの、すなわち、損害保険代理店に支払われる手数料(以下「代理店手数料」と
いう。)、損害保険会社の経営に必要な経
費及び利潤に充てられるもので、その額は、営業保険料に予定事業費率(付加保険
料の営業保険料に対する割合をいい、損害保険会社が算方書に記載して主務大臣の
認可を得たもので、本件実行期間当時、機械保険にあっては49%、組立保険にあ
っては35%であったもの。以下同じ。)を乗じて得た額である。
 本件審決は、本件において課徴金の対象となる「役務」は「機械保険等の引受
け」であり、その「対価」は営業保険料であるとして、営業保険料の合計額を「売
上額」として課徴金を算定したが、原告らは、本件において課徴金の対象となる
「役務」の「対価」は営業保険料から純保険料(又は実際の支払保険金)及び代理
店手数料の額を控除した残額であるとして、営業保険料の合計額から純保険料(又
は実際の支払保険金)及び代理店手数料の合計額を控除して「売上額」を算定すべ
きであると主張する。
 本件の主たる争点は、本件において課徴金の対象となる役務の「対価」は、営業
保険料であるのか、あるいは、営業保険料から純保険料(又は実際の支払保険金)
及び代理店手数料の額を控除した残額であるのか、である。
第4 被告の主張
1 独禁法8条の3において準用する同法7条の2第1項は、課徴金の計算の基礎
となる売上額について、実行期間における「当該・・・役務の政令で定める方法に
より算定した売上額」と規定しており、この「当該役務」は、先行する「不当な取
引制限(本件では独禁法8条1項1号の「一定の取引分野における競争を実質的に
制限すること。」)・・・で、・・・役務の対価に係るもの」を受けた文言である
から、当該課徴金の対象となる違反行為の対象となった役務を意味する。
 連盟の本件違反行為は、機械保険等について、保険料率等の認可申請の内容を一
律に決定し、その内容で認可申請させたことに加え、認可された保険料率が具体的
な案件ごとに保険料率を限度なしに修正できる、いわゆる標準料率であるにもかか
わらず、タリフの設定及び求率制度の実施によって、一定料率による引受けを行わ
せていたことである。すなわち、本件では、機械保険等の引受けに係る取引分野に
おいて、連盟が会員に一定の保険料率での機械保険等の引受けをさせるという不当
な取引制限行為により、会員間における、保険料率という機械保険等の引受けの対
価に関する競争制限(競争停止)をもたらし、これにより保険の価格すなわち保険
料率を硬直化
した。しかも、この場合の保険料率とは、営業保険料率のことである。連盟が保険
料率のうち特に付加保険料の率だけを取り出して価格拘束をしていた事実はなく、
連盟が価格拘束を及ぼしていたのは、あくまでも付加保険料と純保険料とで構成さ
れる営業保険料の率である。したがって、連盟の本件違反行為の対象となった役務
は、会員が行う機械保険等の引受けであるというべきであるから、本件で課徴金の
対象となる「当該役務」は「機械保険等の引受け」である。
 そして、独禁法施行令5条は、課徴金の計算の基礎となる売上額の算定の方法に
ついて、「実行期間において・・・提供した役務の対価の額を合計する方法」によ
ると規定している。すなわち、個々の契約における役務の対価の額を足し合わせる
という会計的手法を規定している。個々の保険契約により損害保険会社が提供する
「機械保険等の引受け」という役務の対価は、次の2で詳述するように、個々の保
険契約者が損害保険会社に支払う保険料、すなわち営業保険料である。したがっ
て、本件の課徴金の計算の基礎としての売上額の算定に当たっては、本件実行期間
において原告らが機械保険等の引受けの対価として収受した本件営業保険料を合計
する方法によるべきであり、本件営業保険料の合計額に100分の6を乗じて得た
額が本件課徴金の額となる。
2 個々の保険契約において損害保険会社が保険契約者に対して提供する役務は、
もし保険期間中に保険事故が発生したならば損害保険会社が被保険者(保険契約者
自身が被保険者の場合もある。)に対して保険金を支払うことを約することによ
る、危険(保険)の引受けである。
 すなわち、損害保険会社は、個別の保険契約により危険の引受けを行うことによ
って、被保険者に対して、保険期間の経過ないし保険事故の発生に至るまでの間、
保険事故発生の不安から解放し安心を与えることによってその経済生活の安定を保
障するという便益を提供する。それとともに、もし保険期間中に保険事故が発生し
たときは、個別の保険契約に基づく危険の引受けは現実の保険金支払義務に転化
し、保険会社はこの義務の履行として被保険者に対して実際に保険金を支払うこと
によってその経済生活の安定を保障するという便益も提供する。損害保険会社の行
う保険金の支払は、保険事故の発生により、危険の引受けが保険金支払義務に転化
ないし具体化したものであるから、損害保険会社
が保険契約上負っている危険の引受けという役務の履行そのものであって、個別の
保険契約における中心的な役務である。したがって、個々の保険契約において損害
保険会社が保険契約者に対して提供する役務は、危険の引受け及びその具体化とし
ての保険金の支払によって被保険者の経済生活の安定を保障するという便益を提供
することであるということになる。
 商品の販売の対価とは商品の販売価格を指すものであるから、個別の保険契約の
対価は、その販売価格である。個別の保険契約の販売価格は、保険料すなわち営業
保険料である。したがって、個別の保険契約の対価は、営業保険料である。純保険
料は、保険期間中にもし保険事故が発生したときは保険契約者等に対して実際に保
険金を支払うという、保険契約上の損害保険会社の中心的な役務である保険金支払
を履行するための原資となる部分であって、これを保険契約上損害保険会社が提供
する役務に対する対価の一部を構成するとみることは当然である。
 個別の保険契約の当事者にしてみれば、損害保険会社がもし保険事故が発生した
ときには保険金支払という役務の履行をするという義務を負う旨を約束するからこ
そ、これに対して保険契約者が保険料すなわち営業保険料を払い込むという関係に
立っている。すなわち、保険事故が発生したときは保険金の支払という中心的役務
に転化することを予定した危険の引受けと、純保険料を含む営業保険料の支払と
は、個別の保険契約の当事者である損害保険会社と保険契約者との間において、互
いに経済的に見合っていると考えられているのである。
 また、現実に保険事故が発生し保険金が支払われたときも、保険契約者等は、払
い込んでいた営業保険料と比べ過分ないし過大な支払を受けたものと考えるわけで
はなく、保険事故発生の確率を見込んで計算された純保険料を含む営業保険料とい
う対価を支払っていたことと経済的に見合う当然の見返りとして、保険金支払とい
う中心的な役務の提供を受けたものと考えるのである。
3 損害保険会計においては、損害保険会社が保険引受けにより収受した営業保険
料の全体が収益として計上されるのであり、営業保険料が概念的に純保険料と付加
保険料とに分けられ、それぞれに保険数理に基づき料率算定が行われるものである
としても、両者は、実際の保険取引や会計処理においては何ら分けられておらず、
また、分けることができないものであ
る。機械保険等の引受けの対価を営業保険料とするとらえ方は、こうした損害保険
会計における処理の仕方とも整合する。
4 本件審決は、以上の趣旨により、本件実行期間の営業保険料の合計額を売上額
として課徴金額を算定したものであって、適法である。
第5 原告東京海上火災保険株式会社(以下「原告東京海上」という。)の主張
1 純保険料の額の控除について
(1)ア 本件における「売上額」の算定に当たっては、本件営業保険料の合計額
から、本件営業保険料に算方書記載の予定損害率を乗じて得られる純保険料の合計
額を控除すべきである。
イ 本件審決は、保険契約法における役務と対価の概念を基礎として、独禁法7条
の2第1項及び独禁法施行令5条にいう「売上額」、「役務」、「対価」を解釈す
るものである。保険契約法においては、損害保険会社は危険の引受けという給付を
行い、保険契約者はこれに対して保険料という対価を支払うものとされている。し
かし、これは、損害保険会社と保険契約者との関係を専ら契約法レベルで把握する
ものであり、損害保険の経済的構造・性質をすべて反映するものではない。上記の
「売上額」等は、損害保険制度、損害保険会社の役務内容及び保険契約の当事者間
で授受される金銭(保険料、保険金)の経済的性質を踏まえて把握すべきである。
 また、本件審決は、本件違反行為の対象役務が会員の行う機械保険等の引受けで
あるとしているが、機械保険等の引受けという取引において独禁法7条の2第1項
の「当該役務」をどのようにとらえるかが問題である。本件審決は、本件違反行為
が純保険料を含む営業保険料について損害保険会社の機械保険等の引受けの保険料
率を拘束したと指摘するが、損害保険会社と保険契約者との契約において締結され
る保険料率は純保険料分と付加保険料分とを含んだ「営業保険料率」であるという
取引実態の下では、この指摘は意味がない。問題は、このようにして締結された営
業保険料率の下で、保険期間経過後に判明する真の意味での純保険料部分(すなわ
ち保険金として被保険者に支払われた部分)ないしそのようなものとして予定され
た部分(純保険料)の額を控除すべきかどうかである。
ウ 損害保険制度は、同一の危険にさらされている多数の経済主体が、統計的基礎
(大数の法則)に基づいて算出された保険料を支払い、保険事故の発生によって損
害を被ったときに、各経済主体が出捐し損
害保険会社が収受した保険料(純保険料部分)によって形成された基金から保険金
を受け取ることができる仕組みである。
 損害保険会社は、まず、保険の対象として予定された危険の内容を分析し、発生
する事故の内容やその頻度の評価、事故によって発生する損害の金額的評価等を行
い、純保険料と支払保険金とが長期的に均衡するように保険数理技術を応用して適
切な保険料率を算定し、保険の設計を行う。次に、個々の保険契約の内容をなす保
険約款を作成して、保険契約者募集の準備を整え、自ら又は損害保険代理店を活用
して多数の保険契約者を募集する。そして、保険契約者から集められた営業保険料
のうち保険金の支払に充てられる純保険料を適切に運営・管理し、保険事故が発生
した際には、事故の状況を把握して損害の査定を行い、適切な保険金の額を計算
し、被保険者に対し、純保険料によって形成された基金から保険金を円滑・適正に
支払う。以上のとおり、損害保険会社が提供する役務は、妥当な保険数理に基礎を
置いて算出された純保険料を保険契約者に拠出させ、それによって形成された保険
金支払基金を適切に運営・管理し、保険金を円滑・適切に支払うという一連の活動
である。
 損害保険会社は、このような役務の提供に対して対価の支払を受けているが、損
害保険会社が収受する営業保険料の全部が対価ではなく、保険金の支払基金となる
純保険料を除いた付加保険料のみが対価となる。損害保険会社が提供する保険サー
ビスの実質は、保険契約者と被保険者との間の資金移動の仲介であり、損害保険会
社はこのような資金移動仲介サービスの対価として付加保険料を受け取っているも
のである。損害保険業における給付と反対給付という意味で役務の提供と対価の支
払を考える場合、保険金支払基金の形成と管理を通しての資金移動仲介サービスを
役務の提供とし、付加保険料をその対価として把握するのが経済的な実態に即す
る。
エ 一般に、人の経済的生活に関する法律制度は経済制度を形成・維持するための
手段たる形式であって、経済制度と法律制度は表裏一体の関係にある。例えば、売
買取引についてみれば、経済的仕組みとしての売買制度とその法律的形式である売
買契約とは、二個の主体の間の物と金銭との等価交換システムであるという点でそ
の内容を同じくしている。したがって、独禁法や独禁法施行令が一般的に前提とし
ている売買のような取引においては
、法形式の面からのみ取引を把握してその「対価」概念を構成しても、経済的実態
との間に何ら齟齬が生じない。
 経済的制度としての損害保険制度は、多数の集団を要素とするものであるが、法
律上は保険者と保険契約者という一対一の当事者の関係のみが現れ、集団的要素が
現れてこない。損害保険制度にあっては、売買のような他の経済制度とは異なり、
経済制度と法形式とが一致しないところに特質がある。保険契約法は、集団的保障
制度である損害保険制度をそのまま法形式としておらず、これを保険者と保険契約
者との一対一の権利・義務のシステムとして再構成したものにすぎない。損害保険
制度を法形式面からのみ説明しようとすれば、単に保険契約が無数に集まったもの
が損害保険制度であるということになり、それでは各経済主体による集団への資金
の出捐とその資金によってその集団に帰属する各経済主体の経済的必要を充足する
という保険の経済的仕組みが無視されてしまう結果となる。
 損害保険の経済的実態は、保険契約的に把握された損害保険の姿とは乖離するも
のであるが、このような乖離は保険分野に特有なものである。損害保険の経済的実
態を考慮して課徴金算定の基礎となる売上額の構成要素である対価を把握しなけれ
ば、一般の商品売買や役務提供に対する課徴金賦課と比較し著しい不均衡を生ずる
ことになり、独禁法の合目的的解釈を放棄することになる。
オ 損害保険の取引における保険契約の締結、保険料(営業保険料)の収受、保険
金の支払という一連の行為について、経済循環の立場から見ると、実物取引と移転
取引という全く性格を異にする二つの取引が混在している。
 純保険料の支払は、これに対する反対給付的な実物資産又はサービスの移転が何
ら存在しないという点において、通常の実物取引における対価の支払とは性質を異
にする。純保険料は、役務の対価ではなく、管理の対象となる資金そのものであ
り、保険契約者から保険事故に遭遇した被保険者に環流する資金であるにすぎな
い。単なる資金の移動にすぎない純保険料すなわち支払保険金相当額を、一般取引
における等価交換的な財貨の交換と同等に扱うのは間違いである。損害保険会社
は、純保険料は何らの対価なしに保険契約者から受領している。しかして、その部
分は保険金の支払原資とするという保険制度上の目的によって、損害保険会社の処
分の自由が実質上制限されている。
 本件審
決は、将来における条件付の保険金支払約束を与えることが危険負担ないし保険の
引受けであって、純保険料を含む営業保険料はその支払約束を含むサービスの対価
であるとしている。しかし、発生が確率的にしか確定し得ない将来の保険事故の発
生に掛かっている金銭支払義務は、計測可能な経済量としては把握することができ
ない。将来の保険金支払は、不確実でかつ定量できないものであり、また、支払っ
た保険料の額と保険金の額との間にも一定した関係がなく、結局、保険契約の締結
又は純保険料の支払は、一定の条件の下に保険金の支払を受けられる契約上の地位
ないし資格を与えるものにすぎないのであるが、このような不確実な給付に対する
資格は、資産としては取り扱えないから、保険取引において当事者間において交換
的に授受される経済量(金銭、財貨、サービス)として観念することができず、純
保険料を含む営業保険料をまとめて対価と認識することは誤りである。
 これに対し、付加保険料の支払と損害保険会社の前記サービスの提供とは、対価
関係に立ち、通常の実物取引として、売買等と同質のものである。
 保険料(営業保険料)は、保険理論上も保険実務上も、純保険料部分と付加保険
料部分とに区分されている。このことを反映し、算方書の上でも、「予定損害
率」、「予定事業費率」、「利益」を区分している。
カ 課徴金制度の趣旨は、カルテルによる不当な利得を剥奪してカルテルに対する
抑制力にしようとするものであるが、厳密にカルテルによる不当利得額を算定する
ことは困難であるため、売上額に一定の算定率を乗じて得た額を不当な利得額とみ
なすことにしたものである。したがって、課徴金制度は、一定の限度では制裁とし
ての意味を有するとはいえ、カルテルによる不当な利得額に基礎を置いているとい
う点を常に考慮しなければならず、独禁法7条の2第1項及び独禁法施行令5条に
おける「売上額」、「対価」の解釈に当たっては、できる限り不当な利得の実態を
正確にとらえてその実態との整合性を図るように努めるべきである。
 純保険料も法律的には損害保険会社に帰属することになるが、保険契約上の保険
金支払義務の履行を確保するという意味及び経済実態的な意味において、これが損
害保険会社に利得として帰属する余地はなく、この部分をも基礎として課徴金を賦
課することは、不当な利得の剥奪という立法趣旨に反することになる。経済
的には、純保険料は一種の預かり金としての性格を有しているのである。
 課徴金の算定率は、「法人企業統計」に基づいて把握された売上高営業利益率を
基礎として定められたとされているが、そこにおいて参照されたのは通常の製造
業、流通業、サービス業やこれらと同様の経済的構造を持つもののみであって、特
殊な経済的構造を持つ保険業を視野に入れたものではない。課徴金制度が一種の割
切りによって構築されたものである以上、業種における売上額の把握において経済
実態上の疑義があるときは、謙抑的な解釈態度をとるべきである。
 収受した金員の一部が、当該事業者に帰属する不当な利得に含まれるかどうかが
ある程度定型的に判断できる場合、特にその判断が当該取引の経済的な構造に根拠
を置くものである場合には、売上額の算定について相当の限定を付するのが法の趣
旨にかなうものである。損害保険業においては、収受した営業保険料のうちから、
保険金支払原資として受領した部分を何らかの形で控除することによって、不当な
利得の剥奪という意味において過剰にならず、かつ、他の業種との比較においても
公平性が保たれることになるのである。
(2) 流通業(卸・小売業)の課徴金算定率は、小売業が100分の2、卸売業
が100分の1とされている。流通業をマクロ経済的にみれば、その生産が流通サ
ービスに限られており、一般の課徴金算定率(100分の6)をそのまま適用した
のでは構造的に過大な負担となるため、課徴金算定率を低く抑えているのである。
すなわち、流通業は、商品そのものの生産は行わず、その流通を担うだけであるか
ら、本来は流通サービスのみを生産しているのであり、その観点からすれば、商品
の仕入れ原価部分はこれを控除しても差し支えないものといえる。しかし、立法に
当たっては、そのような控除をする代わりに、課徴金算定率を卸売業においては原
則の6分の1に、小売業においては原則の3分の1にすることによって、製造業と
の間の公平を図っているのである。マクロ経済的に見た流通業の経済的構造を反映
してあえて低い課徴金算定率としたものである。このような配慮を受けている流通
業と対比させた場合、マクロ経済学的にみた損害保険業の経済的構造を反映させる
解釈をしなければ、損害保険業界に極めて重い負担を負わせることになり、制度と
しての公平性を損なうことになる。
(3) 経済企画庁が毎年発表して
いる「国民経済計算」は、我が国の経済活動の全体像を包括的に記述したマクロ統
計である。国民経済計算は、我が国の経済活動を、制度的又は機能的に「部門」に
分類し、各部門ごとに生産勘定(生産)、所得・支出勘定(消費)、資本調達勘定
(蓄積)の三段階に区分し、それぞれの収支を記録しているものであって、これに
よって一国の経済循環が総合的に把握される。生産勘定は、各産業の一定期間にお
ける生産活動を記録するものである。生産勘定においては、生産高に相当する概念
として「産出額」という用語を使用し、製造業の場合、生産物の販売の結果を産出
額としている。製造業の場合、生産に投入する原材料、中間製品等は、中間投入と
して原価の構成要素となり、産出額に含まれる。国民経済計算は、損害保険会社の
役務は保険サービスの提供であり、その産出額(生産額)は基本的に受取保険料か
ら支払保険金を控除した差額、すなわち付加保険料としている。また、純保険料と
支払保険金とについては、所得・支出勘定(生産活動の結果、企業及び家計に生じ
る所得が、どのように再配分されたかを記録するために、経済主体を五つの制度部
門に分けて、各制度部門間の所得の受取と処分を記録する勘定)において、各経済
主体間の所得移転(資金の移転)として把握している。以上のとおり、損害保険業
の経済的本質を統計化した国民経済計算において、損害保険会社の役務は保険サー
ビスの提供であり、その「産出額」は付加保険料として把握され、また、純保険料
と支払保険金は各経済主体間における「所得移転」として把握されている。
 国が関与する経済統計である「産業連関表」においても、保険業の産出額(生産
額)が付加保険料相当額によって測定されている。
 これらの取扱いは、独禁法の解釈においても参酌されるべきである。
(4) 損害保険業に対する法人事業税の課税標準は、営業活動に要する一般の原
価的要素を含んだ収入金額とされている。独禁法の課徴金においても、営業活動に
要する一般の原価的要素を含んだ収入金額にほぼ等しいものを売上額として把握し
ている点において、法人事業税と共通するものがある。そして、法人事業税の場
合、収入金額は、営業保険料におおむね予定事業費率に相当する率を乗じて計算す
ることとされている。純保険料が積立金的性質のものであり損害保険会社の実質的
収入にならないことを考慮すると、収受した営業保険
料全額を課税標準とすることは担税能力に比して過大となると考えられるからであ
る。この扱いは独禁法の解釈においても参酌されるべきである。
(5) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき純保険料の合計額の具体的金額は、別表2の「原告ら主張の純保険料」欄記載
のとおりである。
2 支払保険金の額の控除について
(1)仮に、上記1の主張が認められない場合、本件における売上額の算定に当た
り、本件営業保険料(これは、原告が本件実行期間中に収受した営業保険料であ
る。)の合計額から、原告が本件実行期間中に支払った保険金の合計額を控除すべ
きことを、予備的に主張する。
 損害保険会社が収受する営業保険料のうち、現実に保険金の支払に充てられた部
分は、保険契約者から損害保険会社を介して保険契約者に環流する資金にすぎず、
所得の移転と把握されるもので、損害保険会社に帰属するものではなく、「対価」
を構成しない。支払保険金の額は事後的に確定するもので、保険契約締結時におい
ては営業保険料のうち支払保険金の原資となる部分を特定できないが、事後的とは
いえ客観的に区分できるものであれば、これを対価から除外すべきであり、保険契
約締結時点において特定できないからといって、営業保険料の全部を対価とする理
由はない。また、営業保険料のうち現実に保険金の支払に充てられた部分は、その
額を人為的にコントロールすることができず、カルテルの対象とはならないのであ
り、カルテルの効果は営業保険料から支払保険金原資部分を控除した付加保険料部
分に向けられたものであるから、付加保険料部分を対価として把握することは、課
徴金制度の目的と矛盾するものではない。
 したがって、営業保険料から現実に保険金の支払に充てられた部分を控除した残
額をもって対価とすべきであるが、具体的な売上額の算定については、実行期間中
に収受した営業保険料の合計額から、実行期間中に支払った保険金の合計額を控除
して計算するのが相当である。実行期間中に支払った保険金には実行期間前に営業
保険料を収受した保険契約に係るものが含まれ、一方、実行期間中に収受した営業
保険料には実行期間後も責任期間が継続する分が含まれており、実行期間中に収受
した営業保険料と実行期間中に支払った保険金とは、厳密にいえば、相互に対応し
ない部分を含んでいる。しかし、実行期間前に営業保険料を
収受した保険契約に基づき実行期間中に支払った保険金の額と、実行期間中に営業
保険料を収受した保険契約に基づき実行期間後に支払った保険金の額とは、通常の
保険引受けの状況からいえば、ほぼ等しい。したがって、上記の計算方法は、妥当
視される結果を導くことができ、恣意性の入る余地がなく、計算のための手間と費
用が過大とならず、独禁法施行令5条及び6条の考え方にも適応するものというべ
きである。
 なお、上記の実行期間中に支払った保険金の合計額の実行期間中に収受した営業
保険料の合計額に対する割合は、当該種目の保険に係る当該実行期間における損害
率である。実行期間中に収受した個々の保険契約に係る営業保険料から、当該営業
保険料に上記損害率を乗じて得た額を控除した残額が、当該保険契約に係る対価と
なる。この対価を合計することにより、被告のいう「個々の役務提供ごとの対価を
合計するという会計的手法」により売上額を計算したことになるが、上記計算方法
により算定した売上額と同じ額となる。
(2) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき支払保険金合計額の具体的金額は、別表2の「原告ら主張の支払保険金」欄記
載のとおりである。この支払保険金は、次のとおり算出したものである。まず、本
件実行期間中に支払われた保険金の総額を求めた。この支払保険金総額の中には、
特殊案件で本件違反行為の実行行為として行われたものではないと被告が認定した
個別契約物件(以下「個別契約物件」という。)に係るものが含まれているので、
この支払保険金総額を本件実行期間中の個別契約物件に係るものを含んだ営業保険
料総額で除し、その割合を本件課徴金の対象となった本件営業保険料の合計額に乗
じて、別表2の「原告ら主張の支払保険金」欄記載の支払保険金合計額を得た。こ
れが、本件営業保険料の合計額に対応する支払保険金合計額であり、売上額の算定
に当たり控除されるべきである。
3 代理店手数料の額の控除について
(1) 本件における売上額の算定に当たっては、本件営業保険料の合計額から、
本件実行期間中に支払われた代理店手数料の合計額を控除すべきである。
 被告は、既に、三重交通株式会社(以下「三重交通」という。)に対する課徴金
納付命令(平成2年(納)第33号。審決集37巻126頁)において、役務取引
契約である旅客運送契約の当事者ではない旅行業者を
取引の相手方とみなし、旅客運送業者が旅行業者に支払った手数料を独禁法施行令
5条3号の「割戻金」として取り扱っている。同命令に係る事件(以下「三重交通
事件」という)は、三重県内においてバス事業を営む11社を会員とする社団法人
三重県バス協会(以下「バス協会」という。)が、高校野球甲子園向け輸送及び世
界デザイン博覧会向け輸送について、貸切バスの日帰り最低運賃等を決定するとい
う違反行為を行い、会員の三重交通はバス協会の同決定に基づき行った貸切バスに
よる運送の売上額に基づいて課徴金を納付したというものである。
 三重交通事件においては、①独禁法違反とされた取引は運送役務の提供に関する
取引で、役務提供者である貸切バス会社と最終利用者である旅客との間で運送契約
(役務提供契約)が締結され、その対価である運賃は旅客から貸切バス会社に対し
て支払われている。②旅行業者は、旅客からの利用の申込みについて、貸切バス会
社との間の周旋を行い、運送契約の成立に対する支援を行っている。これによって
旅客と貸切バス会社との間に運送契約が成立するが、旅行業者自身は当該運送契約
の当事者とはなっていない。③役務提供の対価としての運賃等は、旅客から旅行業
者を通じて役務提供者である貸切バス会社に支払われている。貸切バス会社は、成
立した運送契約について、旅行業者に対して手数料を支払っている。この手数料
は、旅客との契約の周旋に対する報酬である。④旅行業者は、旅客から貸切バス会
社との間で定められた運賃を受領の上、貸切バス会社に引き渡している。その際、
貸切バス会社との間で取り決められた手数料を控除して、その差額を貸切バス会社
に引き渡す取扱いが行われている。被告は、このような事実関係を基礎として貸切
バス会社から旅行業者に支払われた手数料を、運賃の割戻金に当たるとして売上額
から控除した。
 損害保険取引においては、①保険契約は保険契約者と損害保険会社との間で締結
され、その対価である保険料は保険契約者から損害保険会社に支払われる。②損害
保険代理店は、保険契約者からの保険契約の申込みについて、損害保険会社との間
で周旋を行い、損害保険会社の代理人としてこれに対する承諾を行う。③保険料
は、損害保険代理店が損害保険会社の代理人としてこれを受領し、損害保険代理店
を介して保険契約者から損害保険会社に支払われる。④その際、損害保険代理店
は、損害
保険会社との間で取り決めた代理店手数料を控除して、その差額を損害保険会社に
引き渡している。
 以上の事実関係を対比させてみた場合、三重交通事件の貸切バス会社(役務提供
者)、旅客(役務提供の相手方)、旅行業者(契約の成立を支援する事業者)は、
損害保険における損害保険会社、保険契約者、損害保険代理店とそれぞれ極めて高
い近似性を有しており、法律適用の平等の観点から、本件は三重交通事件の例にな
らって処理されるべきである。その例にならえば、代理店手数料は、「割戻金」と
して売上額から控除されるべきである。
(2) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき代理店手数料の合計額の具体的金額は、別表3の「原告ら主張の代理店手数
料」欄記載のとおりである。
 本件実行期間中に支払われた代理店手数料のうちの個別契約物件に係る分を特定
できないため、上記の具体的金額は、本件営業保険料の合計額に、本件実行期間中
に支払われた代理店手数料総額(個別契約物件に係る分を含めたもの)を同期間中
の営業保険料総額(個別契約物件に係る分を含めたもの)で除した割合を乗じて算
出した。
4 結論
 以上のとおり、本件審決のうち、別表2の「原告ら主張の純保険料」欄記載の純
保険料又は「原告ら主張の支払保険金」欄記載の支払保険金及び別表3の「原告ら
主張の代理店手数料」欄記載の代理店手数料の額を売上額に算入して課徴金の納付
を命じた部分は、独禁法8条の3及び7条の2第1項並びに独禁法施行令5条及び
6条の解釈適用を誤ったものであって、違法である。本件営業保険料の合計額から
これらの額を控除した額を売上額として課徴金を算定すると、別表3の「原告ら主
張の課徴金額(1)」欄記載の額又は「原告ら主張の課徴金額(2)」欄記載の額
になる。したがって、本件審決のうち、これらの額を超えて課徴金の納付を命じる
部分は、取り消されるべきである。
第6 原告東京海上以外の原告17名(以下「原告17社」という。)の主張
1 純保険料の額の控除について
(1)ア 本件における「売上額」の算定に当たっては、本件営業保険料の合計額
から、本件営業保険料に算方書記載の予定損害率を乗じて得た純保険料の合計額を
控除すべきである。
イ 本件審決は、損害保険会社と個々の保険契約者との関係のみに着目し、損害保
険会社が保険契約者に対して提供する「役務」が「危険(保険
)の引受け」であり、保険契約者から収受する営業保険料が「対価」であるとして
いる。しかし、損害保険会社と個々の保険契約者との関係のみでは保険制度は成り
立たないのであり、その背後に保険集団の存在があって、はじめて保険制度が成り
立つ。損害保険会社が、保険契約者に対して、保険事故が発生した場合に保険金を
支払うことを約する行為が「保険の引受け」であるが、保険事故が発生した場合に
保険金を支払うことを約しても、その相手がただの一人であったとすれば、それは
「保険」とはいえないのである。この保険制度の集団性を踏まえ、損害保険会社と
保険契約者全体との関係でみれば、営業保険料の一部は保険契約者に必然的に還元
されていくものであり、営業保険料のうち保険契約者に還元される部分である純保
険料は、「対価」を構成しないと解するのが自然である。本件審決は、保険制度の
持つ特殊な経済的特質を看過するものである。独禁法は、100分の6という課徴
金算定率を定めるに当たり「法人企業統計」の売上高営業利益率を参酌している
が、そもそも法人企業統計には金融・保険業が欠落しており、また、課徴金制度の
制定・改正の過程で保険業への適用について特に論議されたことはなかった。した
がって、独禁法の条文を単純に保険業に当てはめることは許されず、保険業の特殊
性を踏まえ、現実の経済実態に沿った妥当な結論を導き出さなければならない。
 また、本件審決は、連盟に対する勧告審決が摘示する違反行為が「機械保険等の
引受け」であるから、独禁法7条の2第1項の「当該役務」はとりもなおさず「機
械保険等の引受け」であり、これに対して支払われる営業保険料が「対価」である
としている。しかし、連盟に対する勧告審決が違反行為として摘示する「機械保険
等の引受け」は、独禁法8条の2の規定に基づく排除措置の「範囲(外延)」を画
するものにすぎず、「役務」の内容まで規定するものではない。すなわち、連盟に
対する勧告審決における違反行為の摘示は、連盟が、どのような取引分野におい
て、どのような競争の実質的制限を行ったかを示すことにより、排除措置の範囲
(外延)を画し、かつ、必要な排除措置を導くためのものにすぎないのであって、
連盟の違反行為が「機械保険等の引受け」という取引分野において行われたことを
示すにすぎない。範囲(外延)を画された「機械保険等の引受け」という取引分野
において、損害保険会社の役務とは何であるかが、改めて検討されなければならな
い。
ウ 保険とは、個々の経済主体にとってみれば全く偶然かつ不測の出来事も、同種
の危険にさらされた多数の経済主体を一つの集団としてみると、一定期間内に少数
の主体のみが現実にそれに遭遇し、しかもその度合いが平均的にほぼ一定している
という大数の法則が成り立つことを応用して、それに属する各経済主体がそれぞれ
の危険率に相応した出捐をなすことにより共同的備蓄を形成し、現実に需要が発生
した経済主体がそこから支払を受ける方法で需要を充足する制度であり、大数の法
則が機能する集団の存在が保険の成立する大前提である。
 そして、損害保険会社などの保険者の提供する「役務」は、「保険料を徴収し保
険金を支払う保険制度の運営」、すなわち、①同種の危険にさらされている者多数
による危険集団の形成、②危険集団の構成員からの金銭徴収による基金の形成、③
基金の維持管理、及び④事故発生に伴う保険金の支払である。
 損害保険会社が上記の役務に対する報酬として受け取る「対価」は、営業保険料
のうち、将来保険金の支払に充てられるべき部分である純保険料を控除した付加保
険料である。
 個々の保険契約を取り上げると、給付と反対給付の均衡は成り立たなない。保険
事故に遭遇しなかった者は、自己が出捐した保険料に相当する反対給付を得ておら
ず、逆に、保険事故に遭遇した者は、自己が出捐した保険料を大きく上回る反対給
付を得る。保険が合理的な制度として機能するためには、純保険料の出捐と保険金
の支払との間に均衡が成立することが必要であるが、かかる均衡は、全体としての
保険契約者集団が支払う純保険料全体と、保険者(損害保険会社)が支払う保険金
全体との間で成立する(収支相等の原則)。このように、純保険料と保険金との間
では均衡が成立しており、この純保険料は、いわば「預り金」であって対価を構成
するものではない。収支相等の原則が保険に本質的なものである以上、保険におけ
る対価関係を考察する際には、収支相等の原則が機能する場面をとらえなければな
らない。そうすると、必然的に、保険契約者全体を視野に入れた上、収支相等の原
則が機能する部分(純保険料全体と保険金全体)を除外し、残る付加保険料をもっ
て保険会社の役務の対価とみるべきである。
 交換経済社会においては、給付とこれに対する反対給付の取引において均衡
が成り立っている場合に、これを対価というべきものであるから、かかる均衡が、
何と何との間に存するかが決定的に重要である。かかる対価的均衡は、損害保険会
社の提供する保険金の管理・支払等の事務と、付加保険料の支払との間で成立す
る。個々の保険契約につき「保険事故が発生したときに保険金を支払うという危険
を引き受けることとしてとらえる考え方」では、給付と反対給付の均衡を見いだす
ことができない。
 損害保険会計においては、本件審決のいうように、営業保険料が収益として計上
されている。しかし、損害保険会計は、一般の企業会計とは異なる側面を有してお
り、具体的には、責任準備金及び支払備金の積立が法律により要求されている。責
任準備金は、保険契約上の義務を履行するために会計上計上すべきものであり、支
払備金は、決算期末において既に支払義務が発生している保険金の支払見積額であ
り、共に負債性の引当金である。すなわち、損害保険会社においては、保険契約者
に支払うべき保険金は、それが法的に具体的債務として確定する以前に、契約締結
時から、会計上は負債として認識されており、これを保険契約者に返還すべきもの
であることが会計上も裏付けられている。このように、営業保険料は、収益として
計上されるが、そのうち保険計理によって算定される一定比率は、負債として計上
されるのであり、この点こそが保険会計の著しい特徴である。この特徴は、保険に
おいては、保険契約者から収受した保険料の一部を保険金として保険契約者に返還
するという、保険の本質に根ざすものである。保険会計に着目するのであれば、保
険の特殊性から導かれる保険会計の特殊性にまで思いを致し、それを全体的に考察
すべきであって、かかる考察によれば、保険契約者に返還すべき純保険料は、「対
価」を構成しないことが明かである。
 純保険料は、保険契約締結時においては、保険事故発生の蓋然率(予定損害率)
に基づいて算定せざるを得ない。保険は将来における偶然かつ不測の危険に備える
ものであるからである。保険金に相当する金額は、契約時には算方書において「純
保険料」として算定され、保険期間中は「責任準備金」(これも予定損害率を基礎
とする。)として会計上の負債として認識され、保険事故発生時においては「支払
備金」として認識された後、法的な保険金支払義務として具体化される経過をたど
る。しかし、純保険料全体と支
払保険金全体とは大局的にみれば等しくなる(収支相等の原則)のであって、純保
険料を「預り金」と称しても、何ら誤りではない。
 純保険料は、保険金の支払に充てられると見込まれるものとして、その数値が統
計的な計算によって把握できる具体的・現実的な存在であって、法的な存在として
承認することが可能である。純保険料は、保険契約者集団に返還が約束されたもの
であり、本質的に保険者に帰属するものではなく、対価を構成しない。したがっ
て、売上額の算定に当たっては、営業保険料から純保険料の額を控除すべきであ
る。
エ 純保険料が「預り金」であることは、保険契約集団と保険者(損害保険会社)
との間に信託類似の関係を見いだすことが可能であることからも理解される。「信
託」とは「ある者(委託者)が法律行為(信託行為)によって、ある者(受託者)
に財産権(信託財産)を帰属させつつ、同時に、その財産を、一定の目的(信託目
的)に従って、社会のために又は自己若しくは他人(受益者)のために、管理・処
分すべき拘束を加えるところに成立する法律関係」である。保険契約者集団は、保
険契約によって、損害保険会社に財産権(純保険料)を帰属させつつ、同時に、そ
の財産を、一定の目的(保険金支払)に従って、保険契約者のために、管理・処分
すべき拘束を加えている(具体的には、責任準備金及び支払備金という形で、会計
上、負債として認識されている。)。したがって、損害保険会社と保険契約者集団
との間においては、信託類似の関係が成立している。一般の信託の場合、信託の目
的物が報酬に含まれないことは自明である。それと同様に、損害保険会社について
も、信託の目的物に相当する純保険料は、報酬から除かれるべきであり、対価を構
成しないことが明瞭である。
(2) 法人事業税は、事業を行う者が、地方公共団体が事業に対して与える様々
なサービスについて、事業がその経費を負担すべきとする応益負担の原則に基づき
徴収される税である。法人事業税は、事業そのものに経済的価値を取得する力があ
ることに着目して課税されており、このような法人事業税の性格から、法人事業税
の課税標準はその事業の活動規模を最もよく示す数値を採用すべきものとされ、損
害保険業については、各事業年度の所得ではなく収入金額が課税標準とされている
(地方税法72条の12)。この収入金額の把握としては、営業保険料が用いられ
てお
らず、各損害保険の区分に従い、おおむね付加保険料に近い数値をもって収入金額
としている(地方税法72条の14第6項)。その理由は、純保険料は保険契約者
からの預り金としての性格を有し、その部分を収入としてとらえることは適当でな
いためである。法人事業税と課徴金とは、行政庁が事業者から一定の金額を徴収す
る制度であること、その算定方法が売上額、収入金額に一定率を乗じるという類似
の方法を採ること、売上額や収入金額の把握においては事業者の経済実態を反映す
べきことなど、類似する点が多々存する。機械保険等の引受けという業務に関し、
「役務の対価」とは何を意味するかについて、独禁法規には定義が全くないのであ
るから、類似の制度の法人事業税における損害保険業の把握方法が参酌されるべき
である。
(3)ア 重仮設業協会に対する勧告審決(昭和61年(勧)第1号。審決集32
巻71頁)及び同審決に係る課徴金納付命令(昭和62年(納)第9号。審決集3
3巻70頁)の事件(以下「重仮設業協会事件」という。)において、事業者団体
たる重仮設業協会の会員は、重仮設材を建設業者に賃貸するほか、建設業者の使用
期間が長期にわたる等の事情がある場合に、重仮設材の販売額から建設業者の使用
期間に応じた賃貸料に見合う額(以下「賃貸料相当分」という。)を控除した額で
買い戻す条件を付して重仮設材を建設業者に販売し、建設業者の使用後に当該条件
に従って買い戻す取引(以下「買戻し条件付販売」という。)を行っていた。重仮
設業協会は、会員に重仮設材の賃貸料及び買戻し条件付販売の賃貸料相当分を維持
し、引き上げる行為をさせることにより、我が国における重仮設材の賃貸の取引分
野における競争を実質的に制限した。重仮設業協会の会員は、買戻し条件付販売に
ついては、当初、重仮設材の販売額全体を「売上」計上し、その後買い戻した場合
は、買戻し額を「仕入」計上するという経理処理を行っていた。
 本件審決のように、会計上の処理に従って売上額を算定するとすれば、重仮設業
協会の会員が経理上「賃貸料」として計上したもののみの合計額を売上額とすべき
であったが、重仮設業協会事件の課徴金納付命令は、買戻し条件付販売が実質的に
は賃貸取引であるという実質的考慮から、賃貸料相当分も売上額に算入して課徴金
を算定した。
 また、本件審決のように、収益に計上された営業保険料の全額をもって売上額
とするならば、買戻し条件付販売についても、「売上」計上された販売額全額を売
上額に算入すべきであったことになるが、重仮設業協会事件の課徴金納付命令は、
買戻し額を控除しているのである。そして、「仕入」計上の買戻し額は、当初の契
約において商品ないしは役務の提供の相手方に将来返還されることが約束され、そ
の後現実に返還された金額であり、本件における純保険料に類似している。しか
も、賃貸料相当分と買戻し額とが、会員の経理処理上で別途管理されていたわけで
はなかった。この点でも、付加保険料と純保険料とが別途管理されていない損害保
険会計の扱いに類似している。
 以上のように、重仮設業協会事件の課徴金納付命令は、形式的な会計処理に従っ
て売上額の算定をするべきでなく、また、契約の相手方に返還される金額は経理上
別途管理されていなくても「売上額」に算入すべきでないという被告の考え方を示
すものであり、会計処理の形式にこだわり、純保険料の控除を認めない本件審決
は、同命令と矛盾する。
イ 株式会社ダスキンほか5名(以下「ダスキン等6社」という。)に対する勧告
審決(平成3年(勧)第14号。審決集38巻104頁)及び同審決に係る課徴金
納付命令(平成4年(納)第109号ないし第114号。審決集39巻306頁)
の事件(以下「ダスキン事件」という。)において、ダスキン等6社は、フランチ
ャイズ・システムを通じ、それぞれの傘下加盟店に対し、ダストコントロール製品
をレンタルし、又は同製品の原材料を供給し、傘下加盟店が同製品を需要者にレン
タルするという取引形態となっていた。そして、ダスキン等6社は、それぞれ、傘
下加盟店に対しその営業方法等の指導を行っており、その一環として、傘下加盟店
のダストコントロール製品の需要者向け標準レンタル価格(以下「末端標準レンタ
ル価格」という。)を定めていたが、共同して、末端標準レンタル価格の引上げを
決定することにより、我が国におけるレンタルの方法によるダストコントロール製
品の供給に係る取引分野における競争を実質的に制限した。ダスキン事件の課徴金
納付命令は、ダスキン等6社の傘下加盟店に対する売上げの合計額を売上額として
課徴金を算定した。
 本件審決のように、違反行為の対象となった商品・役務の対価の合計額をもって
売上額とするのであれば、傘下加盟店の需要者に対する売上げ(末端レンタル料
金)の合計額を
もって売上額とすべきであったことになる。しかし、ダスキン事件の課徴金納付命
令は、課徴金が違反行為者の不当利得を剥奪する制度であることに鑑み、ダスキン
等6社の現実の売上げを基礎として売上額を算定すべきであるという実質的考慮に
基づき、ダスキン等6社の傘下加盟店に対する売上げの合計額をもって課徴金算定
のための売上額としたのである。したがって、本件審決は、ダスキン事件の課徴金
納付命令と矛盾する。
ウ 医療用亜酸化窒素製造販売業者に対する勧告審決(平成9年(勧)第1号。審
決集43巻351頁)及び同審決に係る課徴金納付命令(平成10年(納)第31
4号ないし第317号。審決集45巻234頁)の事件(以下「医療用亜酸化窒素
製造販売業者事件」という。)において、医療用亜酸化窒素製造販売業者4社は、
国立大学等が競争入札、見積り合わせ等の方法で医療用亜酸化窒素を発注するに際
し、自ら又は販売総代理店若しくは取引先販売店(以下「取引先販売業者」とい
う。)を介してこれに参加していたが、入札価格又は見積書により提示する価格
(以下「入札等価格」という。)を決定することにより、医療用亜酸化窒素の国立
大学等向け納入価格を引き上げた。医療用亜酸化窒素製造販売業者事件の課徴金納
付命令は、違反行為が需要者への入札等価格に係るものであるにもかかわらず、医
療用亜酸化窒素製造販売業者4社が取引先販売業者に販売し、更に取引先販売業者
が需要者に販売していた分につき、需要者への販売額ではなく、医療用亜酸化窒素
製造販売業者4社から取引先販売業者への販売額の合計額を売上額として課徴金を
計算した。ここでも、医療用亜酸化窒素製造販売業者の現実の売上げを基礎とし
て、課徴金算定の基礎となる売上額を算定すべきであるという実質的考慮がなされ
ている。本件審決は、医療用亜酸化窒素製造販売業者事件の課徴金納付命令とも矛
盾するものである。
(4) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき純保険料の合計額の具体的金額は、各原告別に別表2の「原告ら主張の純保険
料」欄記載のとおりである。なお、この純保険料合計額は、本件課徴金算定の対象
となった個々の契約の営業保険料に算方書記載の予定損害率を乗じて得た額を合計
したものであり、これを控除しても、個々の役務の対価の額を足し合わせるという
会計的手法に矛盾するものではない。
2 支払保
険金の額の控除について
(1) 上記1の主張と選択的に、本件における売上額の算定に当たり、本件営業
保険料(これは、原告らが本件実行期間中に収受した営業保険料である。)の合計
額から、原告らが本件実行期間中に支払った保険金の合計額を控除すべきことを、
主張する。
 支払保険金は、純保険料がその目的どおりに支払われたものであり、純保険料が
まさに具体化・実現化したものであるから、純保険料と同様の理由により控除すべ
きである。
 また、支払保険金は、独禁法施行令5条3号の「割戻金」に該当するから、控除
すべきである。割戻金を控除する立法趣旨は、およそ取引において、買い手からい
ったん収受しても当該買い手に後日返戻されることが書面で明確に約束されている
ような金員については、これを実質的な意味で売上金とみることはできないという
ものである。保険契約者は、「対価」との関係では、これを集団として考察すべき
であり、保険者は、取引の当事者である保険契約者の集団から営業保険料をいった
ん収受するが、このうち純保険料は、当該保険契約集団に保険金の支払という形で
後日返戻されることが保険約款という書面により明確に約束されているのであり、
かかる保険金は、実質的な意味で売上金とみることはできない。独禁法施行令5条
3号は、取引当事者が一対一の場合のみを想定しているかのようであるが、その点
は、まさに、保険制度を念頭に置いていない現行法の欠陥である。保険において
「対価」を考察する際には、保険契約者集団を念頭に置かなければならない。
 具体的な売上額の算定については、実行期間中に収受した営業保険料の合計額か
ら、実行期間中に支払った保険金の合計額を控除して計算するのが相当である。厳
密にいえば、実行期間中に営業保険料を収受した保険契約に基づき支払った保険金
を控除の対象とすべきであろう。しかし、実行期間中に支払った保険金は、実行期
間前に営業保険料を収受した保険契約に基づき実行期間中に支払った保険金を含
み、逆に実行期間中に営業保険料を収受した保険契約に基づき実行期間後に支払っ
た保険金を含んでいないが、両者の額はほぼ等しい。したがって、実行期間中に支
払った保険金をもって控除の対象としてよい。
(2) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき支払保険金合計額の具体的金額は、各原告別に別表2の「原告ら主張の支払保
険金」欄記載のとおりである。この支払保険金合計額は、次のとおり算出したもの
である。まず、本件実行期間中に支払われた保険金の総額を求めた。次に、本件実
行期間中に支払われた保険金の総額の中には、個別契約物件に係る支払保険金が含
まれているので、この支払保険金総額の本件実行期間中に収受した個別契約物件に
係る分を含んだ営業保険料総額に対する割合を、本件営業保険料の合計額に乗じ
て、別表2の「原告ら主張の支払保険金」欄記載の支払保険金合計額を得た。
3 代理店手数料の額の控除について
(1) 本件における「売上額」の算定に当たっては、本件営業保険料の合計額か
ら、本件実行期間中に支払われた代理店手数料の合計額を控除すべきである。
 代理店手数料は「対価」に当たらない。「売上額」の算定方法として規定される
「役務の対価」は、あくまでも「役務」の「対価」(すなわち、報酬として受け取
る財産上の利益)でなければならない。定型的・制度的に、対価として損害保険会
社が収受しないことが予定されているものは、対価に該当しないし、含ませるべき
でない。
 損害保険契約においては、保険契約者の支払保険料は、損害保険代理店に対して
支払われ、損害保険代理店の銀行口座に維持された上で、当該口座から損害保険会
社に対し、代理店手数料を最初から控除した金額が送金される仕組みになってい
る。かかる仕組みは、本件実行期間当時の保険募集の取締に関する法律(以下「旧
募取法」という。)で制度化されており(12条、同法施行規則5条、6条)、か
つ、損害保険会社と損害保険代理店間の代理店委託契約でも明記されている。この
ような仕組みによらない損害保険代理店への委託形態は実務上存在しない。このよ
うに、損害保険会社が、経済的にも法制度的にも、実際に収受することのない金員
は、対価には該当しないし、実質的にみてもかかる金員について課徴金を課すこと
は、不当利得の剥奪という課徴金制度の趣旨からは、許されない。
 損害保険代理店の経済的機能は、損害保険会社の代理業務にとどまるものではな
い。損害保険代理店は、広く保険契約者(顧客)に対して、損害保険に関する相
談、アフターサービス、事故発生時の連絡役等、顧客とのインターフェースに関わ
る業務を行っている。かかる業務は、損害保険代理店が、損害保険会社の代理とし
てではなく、独立した立場から提供するサービスであって、損害保険
会社が提供する「役務」には含まれず、顧客から支払われる保険料のうちの代理店
手数料部分は、このような意味でも、損害保険会社にとって対価性に欠ける。確か
に、旧募取法上、損害保険代理店は保険契約者から受領した保険料を分別口座に管
理しなければならないが(12条、同法施行規則5条)、代理店手数料部分につい
ては、それ以外の部分とは異なり、当該分別口座から自己のため払い戻すことがで
きるとされているから(同法施行規則6条3号)、分別管理の義務があることが、
代理店手数料部分に対価性があることの理由とはならない。
(2) 仮に、代理店手数料が「対価」に当たるとしても、被告の行った三重交通
事件の先例に従い、代理店手数料は独禁法施行令5条3号の「割戻金」として売上
額から控除されるべきである。
 三重交通事件では、三重交通等の貸切バス会社の事業者団体が、旅客の最低運賃
等を決定していたとしてカルテル行為が認定され、事業者たる三重交通に対し課徴
金が課された。貸切バスの運送契約は、三重交通と旅行業者間ではなく、三重交通
と各旅客間で締結された。運賃は、旅客から旅行業者の銀行口座に支払われ、旅行
業者は当該口座から手数料を控除した金額を三重交通に支払っていた。三重交通
は、旅行業者の手数料分については、当初から収受しないことになっていた。被告
は、運送契約に係る取引の相手方ではない旅行業者への手数料分を割戻金として売
上額から控除したのである。
 三重交通事件における三重交通、旅行業者及び旅客の関係は、本件における損害
保険会社、損害保険代理店及び保険契約者の関係と、法的にも経済的にも極めて類
似している。したがって、本件の代理店手数料は、旅行業者の手数料と同様、「割
戻金」とされなければ、原告らは差別的取扱いを受けることになり、法の下の平
等、適正手続の保障に反するものといわなければならない。
(3) 本件における売上額の算定に当たって本件営業保険料の合計額から控除す
べき代理店手数料の合計額の具体的金額は、各原告別に別表3の「原告ら主張の代
理店手数料」欄記載のとおりである。この具体的金額は、次のとおり算出したもの
である。
 本件実行期間中に支払われた代理店手数料総額から個別契約物件に係る代理店手
数料を除外した。
 ただし、個別契約物件に係る代理店手数料を特定できない原告らについては、本
件実行期間中に支払われた代理店手数料総額に
、同期間中の個別契約物件に係る分を除外した営業保険料(本件営業保険料)合計
額の、除外前の営業保険料総額に対する割合を乗じた。この場合において、本件実
行期間中の月別の代理店手数料総額を把握することが困難な原告らについては、本
件実行期間とほぼ対応する年度(平成5、6、7年度)別の代理店手数料総額を用
いて計算した。
 また、年度別の代理店手数料総額を把握することの困難な原告らについては、本
件営業保険料の合計額(個別契約物件に係る分が除外されている)に、事業方法書
記載の代理店手数料率を乗じて計算した。
4 結論
 以上のとおり、本件審決のうち、別表2の「原告ら主張の純保険料」欄記載の純
保険料又は「原告ら主張の支払保険金」欄記載の支払保険金及び別表3の「原告ら
主張の代理店手数料」欄記載の代理店手数料の額を売上額に算入して課徴金の納付
を命じた部分は、独禁法8条の3及び7条の2第1項並びに独禁法施行令5条の解
釈適用を誤ったものであって、違法である。本件営業保険料の合計額からこれらの
額を控除した額を売上額として課徴金を算定すると、別表3の「原告ら主張の課徴
金額(1)」欄記載の額又は「原告ら主張の課徴金額(2)」欄記載の額になる。
したがって、本件審決のうち、これらの額を超えて課徴金の納付を命じる部分は、
取り消されるべきである。
第7 原告安田火災海上保険株式会社(以下「原告安田火災」という。)の主張
1 本件審決は、損害保険会社が提供する役務を機械保険等の引受けとし、その対
価を営業保険料であるとしている。つまり、本件審決は、損害保険会社は一定の保
険事故が発生した場合に約定の保険金を受領できる権利を販売しているととらえて
いるが、損害保険会社の役務をそのようにとらえるのであれば、次に述べるような
理由により、損害保険業は卸・小売業に準ずるものとして、課徴金算定率について
は独禁法7条の2第1項が卸・小売業について定める100分の1又は100分の
2を準用すべきである。
2 本件審決のいうように、損害保険業の役務を機械保険等の引受けととらえると
すれば、損害保険会社は、リスク引受け能力を切り売りしていることになり、一定
の保険事故が発生した場合に保険金の支払を受けるという権利を販売していること
になる。このリスク引受け能力は、契約成立と同時に発生し、損害保険会社から損
害保険代理店を介して各契約者に移転し、製造業の
ような生産という契機を要しないものである。そして、独禁法7条の2第1項にい
う卸・小売業を物品の取引に限定して解釈しなければならない理由はない。役務を
含む有形無形の一切の経済財について流通概念が考えられる。損害保険業は、卸・
小売業に準ずる流通業の性格を有している。さらに、損害保険会社は、そのリスク
引受け能力(つまり損害保険において取り引きされる権利)の大きな部分を再保険
市場から調達しており、これを損害保険代理店を通じて販売しているのであって、
損害保険業は再保険市場を川上とした流通機能を持っているのである。
3 独禁法7条の2第1項の改正の際に参照された「法人企業統計」は、すべての
業種を網羅しているものではなく、損害保険業を含む金融業を除外している上、立
法過程で金融業への適用が議論された形跡もない。そして、同項で卸・小売業にの
み別個の課徴金算定率が定められたのも、法人企業統計に含まれた各業種の中でこ
の二つの業種の売上高営業利益率が低い値を示していたからであって、卸・小売業
が法人企業統計に含まれていない業種も含めたすべての業種中の例外であるという
位置付けではない。したがって、独禁法7条の2第1項は、法人企業統計に含まれ
ない業種も含めてすべての業種に100分の6の算定率を適用する趣旨の規定と解
すべきではない。
 卸・小売業に低い課徴金算定率が設けられたのは、これらの業種の収益がマージ
ンとしての性質を持ち、売上高営業利益率が低いことから、不当利得の剥奪を超え
た課徴金賦課を避けようとする趣旨であること、課徴金は事業者に対し不利益を課
す制度であるから、その解釈は謙抑的になされるべきことからすると、独禁法7条
の2第1項における業種判定については、売上高営業利益率をその有力な指標とす
べきである。課徴金算定率の100分の6という数値は、昭和53年から平成元年
までの平均的な売上高営業利益率5.9%を参酌したものであるが、損害保険業の
元受正味保険料に対する事業利益の比率は、昭和53年から平成元年までの平均で
1.5%であり、卸・小売業の売上高営業利益率に近い。なお、被告は、上記の事
業利益に資産運用益が入っていないと批判するが、資産運用益はカルテルとは全く
関係のない利益であるから、カルテルによる不当利益の剥奪という課徴金制度の立
法趣旨からすれば、資産運用益を含めて課徴金算定率を検討することは誤りで
ある。
 損害保険業の元受正味保険料に対する事業利益の比率が、平均1.5%と、卸・
小売業と同程度に低い値を示しているのに、合理的立法事実に支えられることな
く、損害保険業に対し形式的に100分の6の課徴金算定率を適用することは、他
の業種が立法過程においてその売上高営業利益率に関するデータを参照され、その
結果、卸・小売業については業務と収益構造の特殊性を考慮されて低い課徴金算定
率が制定されたことと比較して、著しく不平等であり、憲法14条の平等原則にも
抵触するものである。
第8 被告の反論等
1 純保険料の額の控除について
(1) 第5の1(1)及び第6の1(1)の主張に対する反論
 法律制度である独禁法の適用については、保険契約者と損害保険会社との間の法
律関係を規律する個々の保険契約の内容を踏まえた解釈が必要である。原告らがい
うような保険契約者集団なるものは実在せず、法的にも、事実上も、存在するの
は、多数の、相互に無関係な個々の保険契約者だけである。個々の保険契約者が個
々の保険契約に基づいて損害保険会社に対し支払う営業保険料は、いったん支払わ
れた以上、その全額が損害保険会社に帰属し、保険契約者は返還請求権を有しな
い。営業保険料のうち、どれだけの部分が将来の保険金の支払に充てられるかは、
不確実で定量できず、保険契約者だけでなく損害保険会社も知り得ないから、保険
契約というものは、少なくとも、一定の財貨の保管・管理を損害保険会社に委ねる
という性質のものではない。純保険料の額を控除すべきであるという主張の基礎に
ある保険の経済的構造についての議論は、失当というほかない。
 損害保険会社は、収受した営業保険料と他の資金とを渾然一体とした形で資金運
用に回した上、もし保険事故が発生したときは、たとえ支払保険金の総額が純保険
料の総額を上回る事態になっても、純保険料の総額を限度とすることなく、保険契
約上支払うべき保険金を保険契約者等に支払うことを約束し、実際に支払うのであ
る。これが、「危険の引受け」であり、損害保険会社の提供する役務である。純保
険料は、損害保険会社の保険契約上の中心的な役務である保険金支払を履行するた
めの原資となる部分であって、役務に対する対価の一部を構成するものであり、こ
の純保険料を含む営業保険料の全体が役務の対価である。
 一般に、我が国の資本主義経済社会における給付とこれに対する反
対給付の対価性を規律するのは、民法の契約法上の理論である。独禁法の対価性の
解釈においても、これと異なるところはない。そして、保険契約は双務契約である
とされ、保険契約にもその性質上可能な限り民法の契約総論の理論が適用されると
ころ、保険契約が双務契約であるとは、契約当事者が互いに対価的意義を有する債
務を負担することを意味し、対価的な意義を有するかどうかは、客観的に同一価格
を有するか否かではなく、当事者の主観で定められる。独禁法の課徴金法令の保険
契約への適用に当たっても、損害保険会社が保険契約者に対して提供する、損害保
険会社が危険を負担し被保険者の経済生活の安定を保障するという便益の提供と、
これに対して保険契約者が支払う営業保険料とが、当事者双方が互いに経済的に見
合っていると思いさえすれば、この便益の提供と営業保険料とは、互いに対価的意
義を有するものと評価できるのであり、それで十分である。
 また、損害保険会社の会計処理においては、営業保険料全体が収益として計上さ
れており、純保険料と付加保険料とに分けて計上されているものではないから、個
々の役務の提供ごとの付加保険料を合計しようとしてもできないのであり、個々の
役務の対価の額を合計するという独禁法施行令5条の要求する算定方法に従うこと
ができない。原告らは、算方書における予定損害率及び予定事業費率を用いて一律
に案分し、純保険料の金額と付加保険料の金額を計算する方法を主張するが、その
方法では個々の役務提供ごとの対価を合計することにはならず、独禁法施行令5条
の要求する計算方法とはいえないから、原告らが主張するように純保険料を売上額
から控除することは、現行法令の解釈適用上できない。
 原告東京海上が主張する「保険料率は純保険料と付加保険料とを含んだ営業保険
料率であるという取引実態」は、本件において、「役務」を「機械保険等の引受
け」であるとし、その「対価」を営業保険料であると解釈するに当たって、一つの
重要な根拠となるものである。
 なぜなら、本件において、機械保険等の引受けをしていた損害保険会社各社は、
保険料率について自由な競争が可能であったのであり、本来なら、各社独自の自由
な判断と危険において、その販売する保険商品の営業保険料率について、これを構
成する付加保険料率相当部分についてだけでなく純保険料率相当部分についても自
由な設計を行い、より
安い営業保険料率を提示することによって競争をすべきだったのである。純保険料
率についても競争原理は働くし、現に純保険料率について競争は行われているので
ある。保険数理に基礎を置く純保険料率の方が削減できる余地が小さいとはいえる
が、例えば大数の法則が働く範囲内で優良な危険集団を対象に安い保険料率を設定
する商品設計により競争を行うことは可能である。本件違反行為により純保険料率
相当部分に及ぼされた価格拘束が原告らの得た不当な利得に無関係であるとは到底
いうことができない。
 原告東京海上のいう「移転取引としての損害保険取引」なるものを観念して、営
業保険料のうち、この取引に対応するものとしての純保険料についてだけは、付加
保険料と異なり「対価」でないという法的構成は、失当である。独禁法の課徴金法
令の解釈の前提となる契約法理においては、「対価」の反対給付としての「役務」
といえるためには、それが計測可能な経済量として把握できるものであることや、
会計上資産性を有することは、必ずしも必要ではない。
 「機械保険等の引受け」は、原告17社が主張するように単に「排除措置の範囲
(外延)を画する」ものではなく、本件違反行為の対象役務である「当該役務」に
該当する。また、原告17社は、損害保険会社の「当該役務」は、「保険料を徴収
し保険金を支払う保険制度の運営」であり、その対価が付加保険料である、と主張
するが、本件違反行為の内容が、機械保険等の引受けの「営業保険料率」について
された連盟の決定に構成事業者たる会員を従わせることであったという事実と矛盾
し、かつ、その営業保険料率についての価格拘束が、付加保険料率相当部分だけで
なく、純保険料率相当部分にも及んでいたということとも矛盾する。営業保険料率
を対象とする違法なカルテルによって営業保険料率が高めに設定されたものである
以上、役務の対価である営業保険料の合計額を売上額とし、これに一定率を乗じる
ことによってはじめて、課徴金法令が予定する課徴金額が計算される。
 原告17社は、損害保険会計において責任準備金及び支払備金の積立が義務付け
られていることから考えても、純保険料は対価を構成しない、と主張するが、責任
準備金及び支払備金は、負債性の引当金である。一般に、企業会計において、引当
金とは、将来の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生
の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合に、当期の
負債に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れるものであり、将
来の費用又は損失の見越計上の相手科目である。損害保険会社が支払う保険金は損
害保険会社が営業活動において保険料という収益を獲得するための費用ないし原価
であり、損害保険会社はその損益計算書において支払保険金を費用として処理して
いるが、責任準備金及び支払備金は、この支払保険金という将来の費用の見越計上
である。したがって、責任準備金及び支払備金への繰入れに向けられる純保険料の
会計上の性質もまた、将来の費用ということになる。そして、課徴金は、費用を差
し引く前の売上額を基準として賦課するものであるから、純保険料を差し引いて課
徴金額を計算するようなことは、損害保険会計を踏まえた独禁法の解釈として許さ
れない。
 原告17社は、純保険料はいわば「預り金」である、と主張するが、純保険料と
支払保険金とは、銀行預金のように他人から預かったものを返すという関係のもの
ではない。純保険料について、返還請求権を有する人はいない。そこで、保険団体
なるものを観念し、純保険料の総体が実質的にこの団体に帰属するとみるのであろ
うが、団体としての組織を備えず、保険加入者に団体構成員の意識もないところ
で、たとえ実質的にせよそれが帰属の主体だというのは無理である。また、収支相
等の原則は、特定の保険会社において、ある保険集団について、その構成員が支払
う純保険料の総額と、構成員が受け取る保険金の総額が等しくなるように純保険料
を算定するようにしなければならないという、保険会社の経営上の重要な指導原理
ではある。しかし、同原則は、あくまでも規範を示すものであって、保険会社が実
際に収受した純保険料が実際に支払った保険金の総額と、結果的にも必ず同額にな
ることまで意味するものではない。したがって、収支相等の原則は、純保険料が預
り金の性質を持つことの根拠とはならない。純保険料は預り金であるという構成
は、独禁法の解釈を方向付けるような厳密な法的構成ではない。
 また、信託は特定された財産を中心とした法律関係であるところ、損害保険にお
いては損害保険会社と保険契約者との間に特定された財産をめぐる法律関係が成立
していないことだけを取り上げても、純保険料を、法律上、信託財産とみることは
できない。
 したがって、純保険
料の額を控除して売上額を算定すべきであるという原告らの主張は、失当である。
(2) 第5の1(2)の主張に対する反論
 原告東京海上は、マクロ経済学的に見た流通業の経済的構造を反映して、あえて
低い課徴金算定率が定められている卸・小売業との対比において、マクロ経済学的
にみた損害保険業の経済的構造を反映させた解釈を行うのでなければ公平性を損な
う、と主張する。しかし、独禁法は、課徴金算定率の業種区分について、その取引
が他の業種と大きく異なる卸・小売業のみを例外とし、基本となる一定率を設定し
ている。課徴金制度は、行政措置として簡明性、明確性、透明性が要求され、か
つ、一律的な非裁量的制度であるから、個別の事案で、その経済的な構造の流通業
との類似性の有無・程度を逐一検討して、課徴金の額を決めることは許されない。
(3) 第5の1(3)の主張に対する反論
 原告東京海上主張のように、「国民経済計算」上、付加保険料相当額をもって損
害保険業の産出額とするという統計上の取扱いがなされているとしても、その取扱
いを独禁法の課徴金法令の解釈に持ち込む合理的根拠はない。
 そもそも、政府が発表する経済に関する統計である国民経済計算での損害保険の
取扱いを直接のよりどころとして、独禁法の解釈を行うことは、法解釈の方法とし
ては無理である。そうだとすると、法解釈論的には、国民経済計算上の保険の取扱
いを理論的に支えていると思われる保険所得移転説を根拠とするものと思われる。
しかし、保険制度の経済的意義を、一連の資金の流れだけに限定して把握すること
が妥当でないことは、前記のとおりである。
(4) 第5の1(4)及び第6の1(2)の主張に対する反論
 法人事業税は、地方税として、租税の一種であるから、本来なら、いわゆる「公
平の原則」により、各企業はその担税力に比例して課税されるべきであり、収入で
はなく、収入から経費を差し引いた所得を課税標準とするのが原則となり、赤字の
企業に対しては課税しないことになる。赤字の企業に課税するならば、当該企業の
更なる経営悪化、ひいては倒産ないし連鎖倒産をも招きかねず、それでは国民経済
の成長と安定に資する租税政策とはいえない。税法では、企業の継続性に配慮をす
べきことになる。
 しかし、実質的に公平な課税を実現するため、ある業種については、所得課税の
原則のいわば修正原理としての応益負担の原則に基づき
、収入等を課税標準とする外形標準課税が導入されている。その一つである保険業
については、所得を課税標準として法人事業税の課税を行うこととした場合には、
収受した保険料のほとんどが責任準備金等として損金に算入されることなどによ
り、その事業規模に見合った納税が行われないことになる。一方、保険業は、地方
自治体が行う種々の活動の恩恵を少なからず受けている。こうしたことから、保険
業については、収入を課税標準とした一種の外形標準課税が導入されている。
 こうした外形標準課税の採用に伴い、その具体的な課税標準等の要件をどう決め
るかは、優れて租税政策の問題であるが、租税政策は広く経済政策や財政政策の一
環として、国民経済の成長と安定に資すべきものであり、どの程度の租税負担が適
当であるかは、結局、財政需要との関連において、企業の継続性にも配慮しつつ、
政策的に検討すべきものである。
 保険業に対する法人事業税の課税標準としての収入の把握の仕方も、こうした政
策的な判断で決まるものである。政策論として、応益負担の原則を強調するなら
ば、付加保険料だけでなく、純保険料を含めた営業保険料収入を課税標準とするこ
とも不可能ではない。しかし、そうすると、毎期、純保険料の一定率にも徴税され
て保険金の支払原資が社外に流出することになり、ひいては保険金の完全な支払に
支障を来たし、保険業を営む企業の継続性への配慮にも欠けることになり、保険業
界に対する信用不安を招来しかねない。これでは、租税政策が広く経済政策や財政
政策の一環として、国民経済の成長と安定に資すべきものであるという政策目的に
反することになる。そこで、本来の所得課税の原則に立ち戻る方向に議論を再修正
し、純保険料が保険金支払の原資として経費としての性質を持ち、それゆえ、所得
課税の原則からは純保険料が本来非課税であることに着目し、所得課税の原則どお
り課税標準から除くという政策判断が行われたとみるのが妥当である。純保険料を
税法として預り金とみているからではないのである。
 これに対し、独禁法においては、たとえ、赤字企業が企業存続のためやむを得ず
違法なカルテル行為に訴えたものであっても摘発は免れないし、違反行為があると
認められれば、課徴金の納付が命じられる。課徴金を納付させることによって当該
企業が倒産する可能性があるとしても、そのような事情を考慮して課徴金を減額す
る又は
納付命令を猶予する等の裁量性を働かせる余地は独禁法上一切ない。赤字企業とい
えども、あくまで自らの企業努力により自由公正な競争に参加することによって黒
字への転換を目指すべきであり、それができない企業は当該市場からの退出を余儀
なくされるという市場原理の考え方に立脚するのが独禁法である。
 このように、課徴金法令と税法は、その立法趣旨が全く異質であって、課徴金額
の算定についての考え方と、税額の算定に関する考え方は全く無関係である。した
がって、税額の算定に関する考え方を課徴金額の算定について準用なり類推適用な
りして持ち込むことは、独禁法の解釈論としては、およそ成り立ち得ないものであ
る。
(5) 第6の1(3)の主張に対する反論
 本件審決は、当該事業者における経理処理の形式のみを基準に商品・役務の対価
ないし売上額を把握しなければならないとまでいっているものではない。したがっ
て、重仮設業協会事件で、被告が、会員の帳簿上の経理処理の形式に拘泥せずに、
個々の買戻し条件付販売ごとの賃貸料相当部分を把握した上で、これを売上額に算
入したとしても、本件審決とは矛盾してはいないし、経理上の処理を離れて実質的
考慮を働かせたというものでもない。
 本件審決の基本的な考え方は、独禁法施行令5条にいう「商品」、「役務」と
は、違反行為の価格拘束を受けた商品・役務であるというものである。重仮設業協
会事件で違反行為により価格拘束を受けたのは、重仮設材の賃貸料及び買戻し条件
付販売の場合の賃貸料相当分であって、買戻し条件付販売価格自体が拘束されたわ
けではない。そこで、重仮設業協会事件の課徴金納付命令は、同事件での役務の売
上額は賃貸料及び買戻し条件付販売の場合の賃料相当分の合計額であるという考え
方を採ったものである。本件審決も、連盟の違反行為により価格拘束を受けたのは
純保険料を含む営業保険料であるとして、その合計額を売上額としたもので、重仮
設業協会事件の課徴金納付命令と同趣旨である。
 そして、重仮設業協会事件の課徴金納付命令が「仕入」計上の買戻し額を売上額
に算入しなかったのは、買戻し額が、同事件の勧告審決において、違反行為たる価
格拘束が及んでいたとは認定されなかった部分であったからである。原告17社が
いうところの「実質的考慮」を働かせるなどして「控除」したものではなく、契約
相手方に返還された金額は控除するという趣旨の
ものではない。
 しかも、純保険料は、個々の保険契約において損害保険会社が保険契約者に対し
返還を約していたものではなく、重仮設業協会事件の買戻し額との間に類似性は全
くない。
 独禁法施行令5条(旧4条)は、課徴金算定の基礎となる売上額の算定の方法に
ついて、「引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する」と定めている
が、独禁法の課徴金法令の趣旨が、違反行為者に生じた不当な利得の剥奪にあるこ
とに照らせば、同条の上記文言は、違反行為者が自ら引き渡した商品又は自ら提供
した役務の対価の額を合計することを意味するものと解すべきである。ダスキン事
件及び医療用亜酸化窒素製造販売業者事件の課徴金納付命令は、独禁法施行令旧4
条又は現行5条の解釈に基づき、形式的に、メーカー等が取引先販売業者等に引き
渡した商品の対価の額を合計する方法により売上額を算定したものにすぎず、原告
17社のいうような「実質的考慮」を払った事例ではない。
(6) 第5の1(5)及び第6の1(4)の主張に対する認否
 純保険料について原告らが主張するような計算式を立てた場合の合計額が別表2
の「原告ら主張の純保険料」欄記載の額になることは認める。
2 支払保険金の額の控除について
(1) 第5の2(1)及び第6の2(1)の主張に対する反論
 売上額の算定に当たり営業保険料から純保険料の額を控除すべきでないのと同じ
理由で、支払保険金の額を控除することもできない。
 また、独禁法施行令5条3号に規定する割戻金としての控除は、提供した役務の
対価の修正と認められるもののみを対象とする観点から、役務の提供の相手方に対
し、役務の提供の実績に応じて支払われることを要件としているところ、支払保険
金がこの要件に該当しないことは明らかであるから、支払保険金の額を同条同号の
規定に基づいて控除することはできない。
 そして、売上額の算定方法については、独禁法施行令5条において、実行期間に
おいて提供した個々の役務の対価の額を合計するという会計的手法を用いることが
定められており、本件実行期間中に締結された個々の保険契約ごとの対価を特定
し、それを合計する方法を採らなければならないのであって、実行期間中に支払わ
れた保険金の合計額を控除する方法では、実行期間における個々の機械保険等の引
受けごとの対価の額を合計する方法とはいえないから、失当である。
 さらに、原告ら主張
の計算方法では、本件実行期間前に締結された保険契約に基づき本件実行期間中に
支払われた保険金を考慮に入れることになる反面、本件実行期間中に締結された保
険契約に基づき本件実行期間後に支払われた保険金を排除することになる。原告ら
が控除を主張する支払保険金は、控除の対象となる本件営業保険料(これは、原告
らが主張するとおり、原告らが本件実行期間中に収受した営業保険料である。)と
対応しておらず、本件実行期間中に提供した役務に係るものとはいえないのであ
る。
 なお、原告東京海上は、本件実行期間中に支払った保険金合計額の本件実行期間
中に収受した営業保険料合計額に対する割合は本件実行期間中の損害率であるか
ら、本件実行期間中に収受した個々の保険契約に係る営業保険料にこの損害率を乗
じて得た額を、同営業保険料から控除し、これを合計すれば、「実行期間において
提供した役務の対価の額を合計する方法」となる、と主張する。しかし、上記の営
業保険料合計額と支払保険金合計額とはそもそも対応していない上、実行期間全体
での控除額をその合計額の形で把握し、そこから計算した「損害率」を逆に個々の
保険契約に当てはめる方法では、独禁法施行令5条の要求を厳密に充たしたことに
はならない。
(2) 第5の(2)及び第6の2(2)の主張に対する認否
 支払保険金について原告らが主張するような計算式を立てた場合の合計額が別表
2の「原告ら主張の支払保険金」欄記載の額になること、及びその計算のため原告
らが用いた基礎数値が原告ら主張のとおりのものであることは認める。
3 代理店手数料の額の控除について
(1) 第6の3(1)の主張に対する反論
 機械保険等の元受けに係る取引分野においては、損害保険会社各社は、営業保険
料の設定等に当たって優劣を競いながら競争を行うべき立場に立っているのに対
し、損害保険代理店は、損害保険会社の委託を受けて保険契約の締結の代理を行う
ものであり、扱った保険契約の報酬として損害保険会社が得た営業保険料全体の一
定割合の代理店手数料を損害保険会社から得るという法律関係に立っているにすぎ
ず、損害保険代理店が損害保険会社と同じ立場で競争しながら保険契約者に対して
役務を提供するという関係に立つものではない。
 損害保険代理店が何らかの意味で損害保険会社から独立した立場でサービスを行
っているとみることが可能な場合でも、そのサービスは
、少なくとも本件において独禁法の適用の対象となった機械保険等の元受けに係る
市場で提供される役務ではなく、損害保険代理店は、この市場における独立した競
争の主体とは位置付けられるものではなく、市場の競争者の補助者としての位置付
けでしかない。本件への独禁法の適用上は、損害保険代理店が独自の立場から役務
を提供していると構成することはできない。
 そうだとすると、独禁法の適用場面では、当該市場において、競争者として「役
務」を提供し、これに対する「対価」を得ているのは損害保険会社であって、損害
保険会社が損害保険代理店に支払う代理店手数料は、損害保険会社が、損害保険代
理店を補助者として用いて当該市場で競争していくためのコストすなわち費用とい
うことになる。
 代理店手数料の支払方法として、損害保険代理店が、保険契約者から受け取った
営業保険料をいったんすべて損害保険会社に引き渡してから、改めて損害保険会社
から代理店手数料の支払を受ける代わりに、損害保険代理店が自らの取り分である
代理店手数料をあらかじめ差し引いた残りを損害保険会社に支払うこととしている
にすぎない。すなわち、損害保険会社は、営業保険料全額を収益として計上してい
る。損害保険代理店委託契約書においても、損害保険会社が領収した収入保険料に
対して代理店手数料を支払うと位置付けており、損害保険代理店は領収した営業保
険料を損害保険会社に納付するまでは自己の財産と明確に区分して「保管」するも
のとされ、営業保険料全額を納付した上で損害保険会社から代理店手数料の支払を
受けるか、これを控除した上で納付するかは、営業保険料を精算する上での選択の
問題としている。したがって、代理店手数料控除後の金額が送金されるのは、単に
便宜上、相殺されているにすぎないのである。
 以上のように、代理店手数料は、損害保険会社にとって費用であり、「対価」を
構成するものである。
(2) 第5の3(1)及び第6の3(2)の主張に対する反論
ア 「割戻金」というためには、本件のような役務の取引では、「役務の提供の相
手方に対して」支払われるものであることが要件である。そして、役務の提供の相
手方に対して支払われるものは割戻金に該当し得るが、役務の提供の相手方以外の
者に対して支払われるものは割戻金に該当しないというのが、独禁法施行令5条3
号の趣旨であり、被告の従来からの法令解釈である。
 
そうすると、代理店手数料は、上記のような取引分野ないし市場で考えたとき、損
害保険会社による保険(危険)の引受けという役務の提供の相手方である保険契約
者に支払われるものではないから、独禁法施行令5条3号の要件に該当せず、割戻
金と扱うことはできない。
 したがって、代理店手数料を割戻金として売上額から控除すべきであるという原
告らの主張は失当である。
イ 課徴金納付命令は非裁量処分であるから、被告による裁量権の行使に関する公
平性等の観点をいれる余地はなく、三重交通事件についての勧告審決及び課徴金納
付命令(以下「三重交通事件審決等」という。)における被告の判断内容は本件と
は関係がないというほかないので、三重交通事件と本件との比較は本件の結論に影
響がない。
ウ なお、三重交通事件における被告の準司法的作用としての公権的判断とは、三
重交通事件審決書等に記載された判断内容である。準司法的作用たる審決例の取扱
いとして、ある審決がいかなる事実認定をし、これについていかなる法の解釈適用
をしたかについては、当該審決書等に記載されたところを手がかりに判断すべきで
ある。しかるに、三重交通事件の課徴金納付命令書には、割戻金としての控除に関
する記載がないから、三重交通事件審決等は、本件で代理店手数料を割戻金として
扱うべきであるとの原告らの主張の根拠として援用するのにふさわしいものである
とはいえない。
エ さらに、念のため付言するに、三重交通事件審決等は、貸切バス会社と旅行業
者との間の取引関係に着目し、この取引関係上、貸切バス会社が旅行業者に対して
バスを貸切利用に供する役務を、違反行為の対象となる役務、すなわち違反行為に
よる価格拘束が及ぼされた役務であるとした先例である。すなわち、三重交通事件
における違反行為は、個々の旅客から支払を受ける運賃についての価格協定ではな
く、貸切バス会社が旅行業者に対して貸切バスを利用させるに当たり、旅行業者か
ら支払を受ける、貸切バス一両当たりの料金についての価格協定である。
 三重交通事件審決書等は、貸切バス会社と旅行業者との間に貸切運送契約関係が
成立するとまで明確に述べているわけではないが、三重交通事件審決書には、①バ
ス協会が決定したのは、旅客一人当たりではなく、大型車一両当たりの日帰り最低
運賃等であったこと、②バス協会がこの決定内容を文書により周知することを決定
したのは、三
重県内の旅行業者に対してであったこと、③バス協会が、この決定に基づき、高校
野球甲子園向け輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送について、上記最低運賃等を
記載した文書を作成し、配布した相手は、三重県内の旅行業者であったこと、④バ
ス協会の会員が、上記決定に基づき、高校野球甲子園向け輸送及び世界デザイン博
覧会向け輸送の運賃等を交渉し、収受していた相手は、旅行業者であったこと、の
事実が摘示されている。そして、同審決書には、貸切バス一両当たりの最低運賃額
が記載されているが、旅客一人当たりの運賃は記載されていない。このような同審
決書における事実摘示の内容や記載の仕方からすると、三重交通事件審決等は、貸
切バス会社と旅行業者との間の取引関係、つまり貸切運送契約に着目し、この取引
関係に基づいて、貸切バス会社が旅行業者に対して提供する役務、すなわち、貸切
バスを旅行業者の利用に供する役務をもって、違反行為の対象となった役務、すな
わち独禁法7条の2第1項の「当該役務」とした先例であると理解するのが合理的
であり、適切である。
 これに対し、本件違反行為の対象は損害保険会社が保険契約者に対して提供する
機械保険等の引受けという役務であるから、三重交通事件は本件とは事案を異にす
る。
(3) 第5の3(2)及び第6の3(3)の主張に対する認否
 代理店手数料について原告らが主張するような計算式を立てた場合の合計額が別
表3の「原告ら主張の代理店手数料」欄記載の額になることは認める。
4 第7の主張に対する反論
 卸・小売業がほかの業種における取引と違うとされた理由は、商品を右から左へ
流通させることによって、それに対するマージンを対価として受け取る側面が強い
ことにある。しかし、本件審決は、保険者が保険(危険)の引受けをなし、被保険
者の経済生活の安定を保障すること自体が、保険制度の本質的内容をなす一つの経
済的給付であり、保険契約者の支払う保険料はこの危険負担に対する対価であると
の認識に立っているのであって、決して、損害保険業が商品を右から左へ流通させ
ることによって、それに対するマージンとして対価を受け取るという側面が強いな
どとはとらえていない。したがって、本件審決の役務のとらえ方と、原告安田火災
の主張する損害保険業の卸・小売業に準じる流通業的性格なるものとは、全く無関
係である。損害保険業には、少なくとも独禁法の解釈との
関係では、流通業的な性格は認められないから、そうした流通業的性格を前提とす
る再保険市場との関係についての主張も、失当である。
 また、課徴金算定率の業種区分は、簡明かつ透明性のある業種区分という観点か
ら、その取引が他の業種と大きく異なる卸・小売業のみを例外として、基本となる
一定率を設定したものであるから、問題となる事案ごとに売上高営業利益率を指標
としてその業種判定をすることは許されない。なぜなら、課徴金制度は、行政上の
措置として簡明性、明確性、透明性が要求され、かつ、一律的な非裁量的制度であ
るとされていることからすれば、個別の事案で、事業者ごとに異なる売上高営業利
益率を指標として逐一業種判定することは、被告の業種判定における判断の幅が無
限定に広がりかねず、一律の非裁量的な制度であるとされている課徴金納付命令に
おいて裁量を許すことと事実上同じ結果となってしまう危険があるからである。
       理   由
第1 支払保険金の額の控除について
1 独禁法8条の3で準用する同法7条の2第1項は、課徴金算定の基礎となる売
上額について、実行期間における「当該・・・役務の政令で定める方法により算定
した売上額」と規定しており、この「当該役務」は、先行する「不当な取引制限
(本件では独禁法8条1項1号の「一定の取引分野における競争を実質的に制限す
ること。」)・・・で、・・・役務の対価に係るもの」を受けたもので、競争制限
という違反行為の対象となった役務を意味する。連盟の本件違反行為は、タリフの
設定及び求率制度の実施により、会員に一定の保険料率による機械保険等の引受け
をさせたというものであるから、本件における「当該役務」は、「機械保険等の引
受け」である(前記事実第2の3参照)。
 そして、独禁法施行令5条は、「法第七条の二第一項(法第八条の三において準
用する場合を含む。・・・)に規定する政令で定める売上額の算定の方法
は、・・・実行期間において・・・提供した役務の対価の額を合計する方法とす
る。」と規定しているから、本件において課徴金算定の基礎となる売上額は、原告
らが本件実行期間において提供した「機械保険等の引受け」の対価の額を合計する
方法によって算定することになる。
2(1) 損害保険会社の「機械保険等の引受け」という役務を、損害保険会社と
個々の保険契約者との間の法律関係の面からとらえると、機械保険
等の保険者として、保険契約者との間で締結する保険契約に基づき、保険事故が発
生した場合に被保険者に保険金を支払いその損害を填補することを引き受けるこ
と、ということができる。更に詳述すれば、機械保険等の引受けは、保険者として
保険事故が発生すれば保険金を支払うことを引き受けること、すなわち危険を負担
することによって、被保険者の経済生活の不安を除去・軽減することである。危険
を負担することによって、保険事故が現実に発生するかどうかを問わず、したがっ
て保険金を支払うかどうかを問わず、被保険者の経済生活の安定を保障することで
ある。そして、現実に保険事故が発生した場合は、被保険者に保険金を支払う。保
険金の支払は危険負担の具体化であり、危険負担と保険金支払は同一性を有し、保
険事故の発生によって前者が後者に転化する。すなわち、機械保険等の引受けは、
機械保険等の保険者として危険を負担し、保険事故が発生した場合は保険金を支払
うことである。
 なお、付言するに、機械保険等の引受けという役務は、当然のことながら、保険
期間の満了等によって保険契約が終了するまで継続するのであり、現実に保険事故
が発生して保険金を支払うことをもその内容に含むものである。
(2) 損害保険会社は、保険契約に基づき、保険者として、保険契約者に対し
て、上記の機械保険等の引受けという給付を行うのであるが、保険契約者は、その
反対給付として、損害保険会社に対して保険料を支払う。したがって、保険契約法
の上では、機械保険等の引受けに対する対価は、保険契約者が損害保険会社に対し
て支払う保険料(すなわち営業保険料)ということができる。このように解すべき
ことは、商法629条の「損害保険契約ハ当事者ノ一方カ偶然ナル一定ノ事故ニ因
リテ生スルコトアルヘキ損害ヲ填補スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其報酬ヲ与フルコ
トヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス」との規定からも明らかである。
 被告は、このことを根拠として、本件における課徴金算定の基礎となる売上額
は、原告らが本件実行期間中に提供した「機械保険等の引受け」という役務の対価
として保険契約者から収受した営業保険料を合計する方法により算定すべきであ
る、と主張するものである。
(3) しかしながら、機械保険等の引受けと営業保険料の支払とが対価的な給
付・反対給付となっているというのは、あくまでも、保険契約の二当事者間の保険

約法上の債権・債務、権利・義務としての構成である。二当事者間の保険契約法上
の債権・債務としての給付・反対給付をもって、それがそのまま経済法たる独禁法
の規定する役務・対価に当たると速断することはできず、更に独禁法の趣旨に沿っ
ての検証が必要である。
3 独禁法は、公正で自由な競争を維持・促進し、市場メカニズムの作動を円滑な
らしめることを目的としている。契約当事者間の権利・義務を調整することを目的
とするものではない。そして、独禁法が定める課徴金制度は、国が一定のカルテル
行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによっ
て、社会的公正を確保するとともに、違反行為の抑止を図り、カルテル禁止規定の
実効性を確保し、もって独禁法の目指す競争的市場構造の維持・回復を図ることを
目的とする行政上の措置である。
 独禁法8条の3及び7条の2第1項並びに独禁法施行令5条にいう「当該役務」
と「対価」の解釈適用も、市場における公正かつ自由な競争の維持・促進という独
禁法の目的と、その目的のため国が事業者からカルテル行為による不当な経済的利
得を剥奪するという課徴金制度の趣旨に沿って行う必要がある。
 なお、課徴金制度はカルテルによる不当利得を剥奪する趣旨のものであるとはい
え、各事業者についてカルテルによる個別具体的な利得を正確に算定することはほ
とんど不可能である。そして、課徴金制度は行政上の措置であるため、算定基準が
透明・明確なものであることが望ましく、また、制度の迅速・効率的運用が抑止効
果を確保するために不可欠であるため、算定が容易であることが必要である。そこ
で、独禁法は、課徴金の計算について、実行期間における売上額に一定率を乗じて
得た額の納付を命じるという画一的で簡明な算定方法を採用しており、法定の算定
方法により計算された額は、実際の利得額に一致するものではない。したがって、
この点で、課徴金制度が制裁的色彩を伴っているものであることは否定できない
が、課徴金制度の基本的性格はあくまでもカルテルによる経済的利得の剥奪にある
から、役務とその対価を把握するに当たっては、可能な範囲では課徴金の額が経済
的に不当な利得の額に近づくような解釈を採るべきである。
4(1) まず、独禁法の目的からの検証であるが、独禁法は、公正かつ自由な競
争を促進するという目的実現策の一環として、8条1項1号で事業者
団体が「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。」を禁止し、8条
の3及び7条の2第1項で、事業者団体の構成事業者に対し、違反行為である「当
該行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動が
なくなる日までの期間における当該・・・役務」の売上額に一定率を乗じて得た額
の課徴金を賦課することを定めている。したがって、上記「当該役務」は、事業者
が「事業活動」、すなわち市場における経済的な活動として提供する役務をいうの
であり、「当該役務」の把握に当たっては、まず当該「事業活動」の経済的性質・
実態の分析を行う必要がある。一般に、経済的活動に関する法律制度は経済制度を
形成・維持するための手段・形式であり、法律制度と経済制度とは表裏一体の関係
にある。そして、契約制度は事業者の事業活動を法律的に形成・維持するためのも
のであるから、一般的には、事業者が個々の消費者との間で締結する契約の単純な
集積をもって、そのまま事業活動とみることが可能である。個々の契約がそれぞれ
完結し、それぞれ独立して給付・反対給付の経済的均衡を保ち経済的に成り立つ場
合には、上記のようにみることに問題がない。損害保険契約と損害保険業との関係
がこのような一般的場合に該当するかどうかを判断するためには、損害保険業の経
済的性質・実態を分析することが必要なのである。
(2) 損害保険会社は個々の保険契約者と保険契約を締結するが、保険契約は経
済的な保険制度の存在を前提としている。
 この保険制度については、「個々の経済主体について見れば全く偶然的・不可測
的な出来事であっても、これを多数の主体についていわゆる大数的に観察すれば、
一定の期間内にその全体についてそれが現実に発生する度合は平均的にほぼ一定し
ている-いわゆる大数の法則-。そして、過去の経験実績やその他の資料によって
統計的に観察すれば、全体について将来それが発生する度合も、実際の結果ときわ
めて近似性をもった確率ないし蓋然性が予測できる。この理を応用すれば、ある特
定の偶然な出来事に遭遇する可能性のある多数の経済主体を糾合し、その全体につ
いて、将来その出来事の発生する蓋然性と、その発生による資力弱化の場合にそな
えるために必要な総金額もまた、蓋然的に予測できることとなる。そこで、右の予
測額を、このような危険に曝されている多数の経済主体をしてその危険率
に応じて公平に分担させ、いわば共同的な備蓄金を構成しておいて、ある経済主体
が現実にその出来事に遭遇した場合に、これによる資力弱化の補正に要する金額を
その基金から受けうるものとする制度が考えられる。このような制度においては、
これに参加する各個経済主体の負担・醵出すべき金額が、右に述べたように合理的
基礎にもとづいて算定せられ、その総額においてほぼ全体の所要額を賄うに過不足
ない程度に定められ-給付反対給付均等の原則-、しかも各主体についてはそれぞ
れの危険率に適応してそれぞれ公正に定められる。また多数の経済主体の全体につ
いてのその出来事の発生率が比較的僅少であればあるだけ、個々の経済主体の負担
額は僅少で足ることとなる。このようにして、・・・個別的貯蓄制度についてみと
められるような不確実性・不経済性・不完全性などの欠点は多分に除かれ、各個経
済主体はこれを利用することにより、比較的少額の負担をもって経済的に、かつ比
較的確実に、その経済生活の不安定を除去・軽減しうることになる。このような趣
旨の、いわば団体的共同備蓄とも称すべき制度がすなわち保険の制度である。」、
「保険制度は経済的には多数の加入者を糾合してなすいわば共同的備蓄の制度であ
り、技術的には、その多数の加入者について危険を綜合平均化し、いわゆる危険の
分散を行う制度である。その意味で、多数の加入者の間には経済的には一種の団体
的共属関係を生じ、技術的には各加入者の保険関係はこのいわゆる「保険団体」の
一構成要素たる関係にあり、右に述べた危険の綜合平均化の要請から生じる各種の
制約に服しなければならない。」(審B第20号証の1ないし7「大森忠夫・保険
法(補訂版)」)と説明されており、この説明に異論はみられず、当裁判所もこれ
に従うものである。
 そして、「保険契約は、保険制度の存在を前提として、これに加入することを目
的として締結されるものである。保険契約は保険という経済制度を形成するための
手段であり、保険制度を権利・義務のシステムとして再構成するための法律形式で
あるから、多数の保険契約を介して保険団体が形成されるべきものである。一人一
人の孤立した契約は、たとえそれが商法629条または同法673条に相当する内
容を有する場合でも、これを保険契約とみとめるわけにはいかない。加入者相互間
に同一の保険団体構成員としての関係が存在し、各人が団体の基
金に出資をする義務を負い、また事故に遭遇した構成員が基金から保険金を受け取
る権利を有するという集団的なシステムが必要であり、この集団性から切り離され
たものとして個別の保険契約を考えることはできない。」(審B第18号証の1な
いし3「西島梅治・保険法(第三版)」)と説明することができるのである。
 このような解釈は、実定法の上にもその根拠を見いだすことができる。すなわ
ち、本件実行期間当時施行されていた保険業法(以下「旧保険業法」という。)1
条及び10条1項並びに同法施行規則(以下「旧規則」という。)13条の2は、
保険事業は算方書等を主務大臣に提出してその免許を受けなければこれを営むこと
ができず、算方書等で定めた事項を変更するときも主務大臣の認可を受けなければ
ならず、この算方書では予定損害率及び予定事業費率に関する事項を定めなければ
ならないと規定している。この予定損害率は純保険料(保険料のうち将来の保険金
の支払に充てられると見込まれるもの)の保険料に対する割合であり、予定事業費
率は付加保険料(保険料のうち純保険料以外のもの)の保険料に対する割合である
(現行保険業法施行規則10条7号及び8号参照)。すなわち、保険契約の上では
保険料(営業保険料)のみが現れるにすぎないが、保険事業の上では保険料は純保
険料と付加保険料とに区分されて把握されている。そして、旧保険業法88条及び
旧規則33条ないし35条は、保険会社は、保険契約上の責任を果たすため、毎決
算期に、旧規則33条及び34条の規定に従って計算した初年度収支残高と、旧規
則35条の会社の定める方法によって計算した金額(すなわち算方書に定められた
方法に従って計算した未経過保険料)とのいずれか大きい金額を、責任準備金とし
て積み立てなければならないと規定している。また、旧規則28条は、保険会社
は、毎決算期に、既に発生した事故の未払保険金又はその見積額を積み立てなけれ
ばならないと規定している。これらの制度は、純保険料によって基金(共同的備
蓄)が形成されるべきことを物語るものである。次に、旧保険業法10条3項は、
保険事業の免許のために必要な基礎書類について、主務大臣がその変更を認可した
ときに、変更認可の際現に存する保険契約についても、将来に向かって変更の効力
が及ぶものとすることができるとし、保険団体内部における旧契約者と新契約者の
衡平を図る途
を設けている。旧保険業法111条1項は、保険契約の移転は責任準備金算出の基
礎を同じくする保険契約の全部を移転しなければならないと規定しているが、一団
となっている同一種類の保険契約のうちの個々の保険契約を任意に抽出して移転す
ることを認めては、団体として設計されている保険の財務的健全性を損なうことに
なるため、一団となっている保険契約は一括して移転しなければならないとの趣旨
である。旧保険業法17条2項、21条2項、112条2項3項及び128条2項
は、保険会社の資本減少・組織変更・包括移転・合併に対する保険加入者の異議に
ついて規定しているが、これらの規定も、保険契約が技術的に集団として処理され
なければならないことを考慮したものである。
 最高裁判所大法廷昭和34年7月8日判決(民集13巻7号911頁)が「保険
契約関係は、同一の危険の下に立つ多数人が団体を構成し、その構成員の何人かに
つき危険の発生した場合、その損失を構成員が共同してこれを充足するといういわ
ゆる危険団体的性質を有するものであり、従って保険契約関係は、これを構成する
多数の契約関係を個々独立的に観察するのみでは足らず、多数の契約関係が、前記
危険充足の関係においては互に関連性を有するいわゆる危険団体的性質を有するも
のであることを前提としてその法律的性質を考えなければならないのである。」と
判示するのも、前記解釈と同趣旨である。
 なお、原告共栄火災海上保険相互会社及び原告第一火災海上保険相互会社は、保
険契約者をその社員とする社団で、社員相互の保険を目的とした保険団体であり、
法形式上も、保険契約者が団体を形成して相互の保険を行っている。
 損害保険会社は、事業活動としてこのような保険制度を運営しているものであ
り、その中において損害保険会社が保険者として提供している役務の内容をみる
と、まず、保険の対象として予定された危険の内容やその頻度を評価・分析し、事
故によって発生する損害の金銭的評価等を行い、保険数理を用いて適切な保険料を
算定して、保険の設計を行い、個々の保険契約の内容をなす保険約款を作成し、多
数の保険契約者を募集するという準備活動を行った上、①保険契約により保険契約
者に対し準備活動の成果を提供し、②多数の保険契約者から保険料(営業保険料)
を集めて、その一部(純保険料部分)により保険金支払のための基金(共同的備
蓄)を形成し、③この基金を適切に運営・管理し、④保険事故が発生した場合に
は、保険契約に基づき、事故の状況を把握して損害の査定を行い、保険金の額を計
算し、被保険者に対し基金から保険金を支払うこと、ということができる。
 したがって、本件において課徴金の対象となる事業活動としての「機械保険等の
引受け」という役務は、機械保険等の設計を行い、多数の保険契約者を募集すると
いう準備活動を行った上で、「多数の保険契約者と保険契約を締結し、多数の保険
契約者から営業保険料を集めてその一部により保険金支払のための共同的備蓄たる
基金を形成し、これを適切に運営・管理し、保険事故が発生した場合にはいつでも
被保険者に保険金を支払える態勢を整え、実際に保険事故が発生した場合には基金
から保険金を現実に支払うことであり、それにより被保険者の経済生活の安定を保
障すること」ということができる。これが、損害保険会社が市場において需要者に
提供している役務の実態であり、この役務についての対価を見極めることが、課徴
金算定の基礎たる売上額を把握する上において必要となる。
 このような実態を有する役務の中から、損害保険会社が個々の保険契約者に対し
て保険契約に基づき負担する法的債務を取り出すと、前記2で述べたように、機械
保険等の保険者として、保険契約に基づき、保険事故が発生した場合に被保険者に
保険金を支払いその損害を填補することを引き受けることとなるが、それはあくま
でも上記役務の保険契約法的な一面を表現したものにすぎず、保険制度に不可欠な
団体的共同備蓄の要素を無視するものであって、保険契約法の面から直ちに上記役
務の対価を導き出すことは誤りというべきである。
(3) そこで、上記のような「機械保険等の引受け」という役務の対価、すなわ
ち保険契約者の行う経済的な反対給付が何であるかを改めて検討することとする。
 保険契約者は、保険契約に基づき、損害保険会社(保険者)に対して、営業保険
料を支払う。損害保険会社は、前記のとおり、多数の保険契約者から営業保険料を
集め、その一部(純保険料部分)から基金(共同的備蓄)を形成した上、被保険者
の中で実際に保険事故に遭遇した者が現れた場合には、保険契約に基づき、被保険
者に対し基金から保険金を支払う。保険金の支払も「機械保険等の引受け」という
役務の一部をなしている。被保険者は、自己のためにする保険では保険契約者自
身であり、他人のためにする保険では第三者であるが、保険契約者自身である場合
が多く、第三者の場合も、保険契約者が指定する者であり、保険制度の中では保険
契約者と一体のものとみることができる。そうすると、営業保険料のうち現実に保
険金の支払に充てられた部分は、保険団体を形成する多数の保険契約者から集めら
れ、当初の保険契約に基づき、保険団体の構成員で事故に遭遇した保険契約者又は
その指定する被保険者に還元されるもので、経済的には保険団体内部での資金の移
動とみるべきものである。そして、この資金の移動を円滑適正に行うことこそが、
機械保険等の引受けという損害保険会社の役務の中心をなすものというべきであ
る。したがって、営業保険料のうち保険金の支払に充てられた部分は、基金(共同
的備蓄)に留保され、保険団体内部での資金移動に供せられるだけのものであるか
ら、前記役務に対する経済的な反対給付、すなわち対価とみることはできない。営
業保険料から支払保険金に充てられた部分を控除した残りの部分をもって対価とみ
るべきである。保険団体を構成する多数の保険契約者から資金を集めて基金を形成
し、この基金から保険団体の構成員で事故に遭遇した保険契約者(又はその指定す
る被保険者)に保険金を支払うという損害保険会社の役務に対する対価は、営業保
険料から支払保険金の額を控除した部分である。
(4)確かに、保険契約法の上では、保険契約者の支払う営業保険料の全体が損害
保険会社の行う機械保険等の引受けに対する報酬・対価としてとらえられている。
保険者と保険契約者との間では、保険契約法的には、交換的な債権・債務契約とし
ての保険契約のみが成立しているだけで、各保険契約者に団体的共属関係は存在せ
ず、また、基金(共同的備蓄)なるものは存しない。営業保険料の全体が保険契約
者の保険契約上の債務として保険者に支払われてその所有となり、保険金は保険者
の保険契約上の債務として被保険者に支払われる。保険事業の運営は保険者自身の
責任と計算において行われ、保険者は、保険団体の他の構成員(保険契約者)の保
険料の支払が未履行で、基金未形成であることを理由に保険金の支払を拒むことは
できない。一方、保険事業の収支による差額は保険者に帰属するのである。しかし
ながら、前記のとおり、保険契約は、経済的な保険制度の目的を実現するための法
的形式にすぎず、経済的に保険と認め
られる事業活動の一環として締結されるものである。保険契約は、保険制度を形成
するための契約、ないしは保険制度の存在を前提として、これに加入するための契
約であるということもでき、保険者を媒介として間接的、結果的に多数の構成員か
らなる保険団体が形成されることを当然の前提としているのである。大数の法則が
適用できるような危険集団がなければ、損害保険は成り立たないのであり、この集
団から切り離されたものとして個別の保険契約を考えることはできないのである。
保険契約は、経済的な保険制度を保険者と保険契約者との二当事者間の個別的な債
権・債務、権利・義務として再構成する法律形式にすぎないのであって、経済的な
保険制度をそのまま表現するものではなく、保険制度に契約法的な変容を加えてい
るのである。したがって、二当事者間の個別的な保険契約のみから、損害保険会社
の役務とその対価を把握するのは誤りである。
 なお、保険の団体性を強調して保険契約法の解釈原理とすることは妥当でない、
との指摘があるが、それは保険契約法上の債権・債務を解釈する上において過度に
団体性を強調することの誤りを指摘するものにすぎず、経済的な保険制度において
保険団体が中核的地位を占めていることは否定することができない。
(5) 損害保険会社は営業保険料の一部で形成された基金(共同的備蓄)から保
険金を支払うと先に述べたが、この基金というのは観念的なもので、特別の名称が
付せられた金銭が別途保管されているわけではない。損害保険会社は、営業保険料
として収受した資金のほかに、固有の資金を有しており、また、これらの資産の運
用を行っている。損害保険会社は、営業保険料として収受した資金、固有の資金及
び資産運用益を一体とした資金をもって、保険事業を営み、保険金を支払い、利潤
を得ている。したがって、厳密には、保険金が営業保険料の一部で形成される基金
から支払われるとはいえないのではないか、保険金の一部には損害保険会社固有の
資金や資産運用益が入っているのではないか、との反論が考えられる。しかし、金
銭は純粋に交換価値を体現し、量でのみ把握できるものであって、個性を持たない
から、具体的な保険金が営業保険料の一部で形成された資金のみから支払われたの
か、損害保険会社の固有の資金、あるいは資産運用益からも出ているのかといった
色分けはできないのである。しかるところ、先に述
べたように、損害保険会社は、収受した保険料から保険金を支払うことを当然の前
提として、保険事故発生の蓋然性を測定し、これに基づいて支払の予想される保険
金の総額と徴収すべき純保険料の総額が均衡するような仕組みで純保険料を徴収し
(旧規則13条の2参照)、純保険料により共同的備蓄を形成し、また、毎決算期
に責任準備金を積み立て(旧保険業法88条)(この責任準備金は、初年度収支残
高、すなわち事業年度において収入した保険料中よりその年度において保険料を収
入した保険契約のために支払った保険金等を控除した残額か、未経過保険料、すな
わち収入保険料のうち決算期における保険契約の未経過期間に対応する保険料の、
いずれか多い金額とされている(旧規則33条ないし35条)。)、そこから保険
金を支払うという仕組みで保険事業を営んでいる。そして、課徴金の徴収は国家が
事業者に課する不利益処分であるから、保険金の原資についてもともと色分けがで
きないような場合には、事業者に有利な計算方法を採るべきであることを考える
と、課徴金の賦課に当たっては、支払保険金の総額が量的に営業保険料の総額の範
囲内である限りは、保険金は営業保険料の一部で形成された資金から支払われたも
のとみるべきである。
5 次に、課徴金制度の趣旨が、国が事業者からカルテル行為による不当な経済的
利得を剥奪することを基本としていることに照らし、対価として把握しようとする
対象が事業者の経済的利得の源泉をなすものかどうかを検証しておく必要がある。
しかるところ、営業保険料のうち保険金の支払に充てられた部分は、保険制度を支
える大数の法則の下では、当初の予定どおり被保険者に支払われたものであり、保
険制度の仕組みの中において、もともと損害保険会社の利得の源泉を構成するもの
ではないから、不当な利得の剥奪を基本的な目的とする課徴金の対象とすることは
できない。保険制度上、損害保険会社が支払保険金を減額することによって営業保
険料の額を低く抑え、他の事業者と競争するという関係にはない。保険金の支払に
充てられた部分からも課徴金を徴収することは、保険原資の一部を奪うもので、需
要者たる保険契約者の利益を害することにもなるのである。この点からも、課徴金
の算定に当たっては、営業保険料から支払保険金の額を控除した額をもって、機械
保険等の引受けという役務の「対価」ととらえるのが相当である
というべきである。
6 被告は、本件においては、営業保険料率を対象とする違法なカルテルによって
営業保険料率が高めに設定されたものである以上、営業保険料の合計額を売上額と
し、これに一定率を乗じることによってはじめて、課徴金法令が本来予定する課徴
金額が計算される、と主張する。
 しかし、営業保険料のうち実際に保険金の支払に充てられた部分が、その性質
上、機械保険等の引受けの対価を構成するものでない以上は、本件違反行為が営業
保険料率についてのカルテル行為であるからといって、営業保険料全体が対価に変
わるものではない。また、営業保険料率(保険料率)は、損害保険における営業保
険料(保険料)の保険金額に対する割合をいうが、営業保険料率についてカルテル
を結んでも、その競争制限的拘束力が支払保険金の額にまで及ぶということはでき
ない。保険契約締結の時点においては、保険金の支払額を確定的に把握することが
できないため、営業保険料には、保険金の支払に充てられる部分が、その部分とし
て区分されることなく含められてはいるが、一般に、保険金の支払は、保険契約で
約定された保険金額の範囲内で、現実に生じた損害額を限度とし、又はそれを基準
として支払われるものであり、損害保険会社がその額を恣意的に決定できるもので
はない。原告らは上記のような保険金を全額支払うことを当然の前提として、営業
保険料率を設定しているのである。営業保険料率についてカルテルが結ばれたこと
が、保険契約に従って実際に支払われた保険金の額を控除することの妨げとはなら
ない。
 また、被告は、損害保険会社の支払う保険金は営業保険料という収益を獲得する
ための費用ないし原価であり、課徴金は費用を差し引く前の売上額を基準として算
定するのであるから、保険金を差し引いて課徴金額を計算することは許されない、
と主張する。
 しかし、損害保険会社が第三者に対価を支払って保険金を調達し、これを被保険
者に交付しているというのであれば、保険金を費用ないし原価ととらえることも可
能であろうが、損害保険会社は保険金を支払う相手である保険契約者から保険金支
払のための資金を受け取っているのである。経済的には、支払保険金は、契約相手
方の保険契約者より収受する営業保険料から拠出されるものであり、営業保険料か
ら拠出される支払保険金が、営業保険料を獲得する費用ないし原価であるというの
は、経済的に
は成り立たない理論である。
 保険金の支払は、多数の保険契約者が支払う営業保険料から拠出された資金を、
事故に遭遇した被保険者(保険契約者又はその指定する者)に還元するものであっ
て、資金の移動とみるべきであり、この資金の移動を円滑適正に行うことが機械保
険等の引受けという役務の中核であるとみるべきである。
 また、支払保険金は新たな営業保険料という収益を獲得するために役立てられる
費用である、という説明がされることがあるが、これは、保険金の支払を確実に行
うことで顧客の信用を得て損害保険業を継続することができ、新たな営業保険料を
獲得していけるという関係を述べるものにすぎず、損害保険会社が現に収受した営
業保険料との対応関係で支払保険金の費用性を論じるものではないから、独禁法上
の対価の解釈としては関連性のない議論である。
 なお、損害保険会社は、会計処理上、収受した営業保険料を収益項目に計上し、
支払った保険金を費用項目に計上しているが、機械保険等の引受けの対価が何であ
るかは実質的にみるべきもので、このような会計処理は上記解釈の妨げになるもの
ではない。
7(1)次に、「機械保険等の引受け」という役務の「売上額」の具体的な算定方
法について検討する。
(2) 独禁法7条の2第1項は、課徴金算定の基礎となる売上額について、実行
期間における当該役務の政令で定める方法により算定した売上額と規定している。
「当該役務」とは、カルテル行為の対象となった役務の全体を指し、カルテル行為
の対象とされている役務である限り、それが実際にカルテル行為の実行としてなさ
れたものであるかどうかは問わない。課徴金制度の趣旨を徹底させるならば、個々
の取引が実際にカルテルの実行としてなされたものであるかどうかを確認する必要
があろうが、その作業には多大の労力が必要となるため、実行期間中の取引は一応
カルテルの実行行為の対象となっているものとして取り扱われるのである。本件に
おいては、本件実行期間における「機械保険等の引受け」の全部が「当該役務」と
なり、その売上額を計算することになる。
 独禁法7条の2第1項の規定を受けた独禁法施行令5条は、売上額の算定方法に
ついて、「実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計す
る方法とする。」と規定している。「引き渡した」又は「提供した」とは、売上額
の算定方法は「企業会計原則」の「売
上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したも
のに限る。」との実現主義に従うことを明らかにしたものであり、実現主義を「引
き渡した」又は「提供した」という具体的な形で表現しているものである。本件に
おいては、本件実行期間中に「提供」した「機械保険等の引受け」の対価を合計す
る方法により売上額を算定することになる。しかるところ、原告らが本件実行期間
中に「提供」した「機械保険等の引受け」に係る営業保険料(本件営業保険料)の
合計額が別表1の「営業保険料」欄記載の金額であること、及びこの営業保険料は
原告らが本件実行期間中に収受した営業保険料であることについては、当事者間に
争いがない。本件審決は、営業保険料が「対価」であり、その合計額が「売上額」
であると判断した。しかし、当裁判所は、先に述べたとおり、営業保険料から支払
保険金の額を控除した金額をもって「対価」とすべきであると考えるものである。
(3) そこで、営業保険料から支払保険金の額を控除した金額を対価とする場合
の売上額の具体的算定方法について検討する。
 基本的な考え方としては、本件営業保険料の合計額から、本件営業保険料に係る
保険契約に基づき支払われた保険金の合計額を控除した額をもって、売上額とすべ
きものと考える。この算定方法によった場合、個々の保険契約ごとの対価の額を区
分できないから独禁法施行令5条にいう「提供した役務の対価の額を合計する方
法」とはいえないのではないか、あるいは、保険金の支払の時期まで対価の額が確
定しないのではないか、という問題がある。
 しかしながら、先に述べたように、そもそも損害保険会社が事業活動として提供
する保険の引受けという役務は、多数の保険契約者から営業保険料を集めて、その
一部(純保険料)により保険金支払のための基金を形成し、この基金から偶然の事
故に遭遇した一部の被保険者に対し保険金を支払うことであって、保険契約者全員
がそれぞれに保険金の支払を受けるものではないから、支払保険金を保険契約ごと
に区分することはできない。個々の保険契約ごとの営業保険料の合計額から、個々
の保険契約に基づき支払われた保険金の合計額を控除することをもって、極めて特
殊な経済的性質を有する保険という役務に適合した「提供した役務の対価の額を合
計する方法」というべきである。また、独禁法7条の2第1項は、実行期間に
おける合計としての売上額を課徴金算定の基礎とし、独禁法施行令5条も、実行期
間において提供した対価の合計額を売上額とする趣旨であるが、上記の方法で算定
した額は、実行期間において提供した役務の対価の合計額であり、実行期間におけ
る合計としての売上額に当たることが明らかである。
 そして、上記の算定方法では、保険金の支払の時期まで対価の額が確定しないこ
とになるが、保険の引受けという役務は、保険期間の終了又は保険金の支払の時期
まで継続し、保険金の支払も役務の一部をなすものであるから、保険金の支払によ
って対価の額が確定するとしても、何ら問題はない。
(4) ところで、上記の算定方法では、損害保険会社が実行期間中に収受した営
業保険料に係る保険契約に基づき実行期間後に支払われた保険金も計算に入れるこ
とになり、実行期間終了の時点では課徴金の額を算定することができないことにな
る。
 売上額の実現主義による原則的な算定方法を定めた独禁法施行令5条は、本文で
「実行期間において引き渡した商品又は提供した役務の対価の額を合計する」と規
定し、1号及び2号で「実行期間において」行われた値引き及び返品の額を控除す
ると規定し、3号で「実行期間におけるその実績について当該契約で定めるところ
により算定した割戻金の額」を控除すると規定し、売上額の契約基準による例外的
な算定方法を定めた独禁法施行令6条も、「実行期間において締結した商品の販売
又は役務の提供に係る契約により定められた対価の額を合計する」と規定してい
る。いずれも、実行期間中に実現し又は発生し、実行期間終了の時点でその額が確
定できるものを算定の対象としており、課徴金を速やかに算定して課徴金制度の迅
速・効果的な運用を図ろうとしている。実行期間経過後に契約が解除されたり、契
約額が変更されたり、あるいは値引き・返品が行われても、実行期間中の売上額の
計算上考慮しない仕組みになっているのである。継続する事業活動を実行期間とい
う期間で機械的に区切って、売上額を計算しようとしているのである。このような
課徴金算定のシステムの下では、実行期間経過後に支払われた保険金の額は、たと
えそれが実行期間中に収受した営業保険料に係る保険契約に基づくものであって
も、控除するのは独禁法令に適合しない。
 一方、損害保険会社が実行期間の前に収受した営業保険料に係る保険契約に基づ
き実行期間中に支
払った保険金(以下「継続分の支払保険金」という。)の額は控除すべきであると
考える。損害保険会社が実行期間の前に収受した営業保険料に係る「機械保険等の
引受け」という役務は、実行期間中も継続しているのであり、カルテル行為の対象
となった「機械保険等の引受け」という役務に属するものである。「機械保険等の
引受け」という役務は、保険契約が保険期間の満了等により終了するまで継続する
ものであり、保険金の支払は、役務の最後を構成するものである。このような特質
を有する役務について、実行期間という期間を区切ってその売上額を計算するため
には、損害保険会社が実行期間中に収受した営業保険料を合計し、そこから損害保
険会社が実行期間中に支払った保険金の合計額を控除する方法が、損害保険会社の
実行期間中における「機械保険等の引受け」という役務に係る対価を最もよく表す
ものであり、これ以外に適切な方法がないのである。また、継続分の支払保険金の
額を控除することによって、実行期間中に収受した営業保険料のうちの実行期間終
期における未経過保険料(損害保険会社の危険負担責任が残存している期間に対応
する保険料)も課徴金算定の売上額に計上しながら、それに対応する支払保険金の
額を控除しないことによる不公平を是正することができるのである。そして、この
計算方法は、独禁法施行令5条1号及び2号が、実行期間前に引き渡した商品又は
提供した役務について実行期間中に値引き及び返品があれば、その額を売上額から
控除するという計算方法を採用していることにも符合するのである。一定期間ごと
の支払保険金の額は平準化していると考えられるから、上記の方法によって計算し
た額と、実行期間中に収受した営業保険料の合計額から当該営業保険料に係る保険
契約に基づき支払われた保険金の合計額を控除した額とは、ほとんど変わらないと
考えられる。
(5) 被告は、継続分の支払保険金は実行期間中に収受した営業保険料に対応す
るものではないから、これを控除する方法では、実行期間において提供した役務、
すなわち、個々の機械保険等の引受けごとの対価の額を合計する方法とはいえな
い、と主張する。しかし、独禁法は、実行期間中におけるカルテルの対象となった
商品又は役務全体の売上額を求めているのであり、独禁法施行令5条1号及び2号
が、実行期間前に引き渡された商品又は提供された役務に係る実行期間中
の値引き及び返品を控除の対象としていることからも分かるとおり、被告主張のよ
うな個別の商品又は役務ごとの厳密な対応関係は必ずしも必要ではない。そして、
継続分の支払保険金は、実行期間中も継続している「機械保険等の引受け」という
役務に係るものであるから、継続分の支払保険金を含む実行期間中に支払われた保
険金は、損害保険会社が実行期間において提供を継続している「機械保険等の引受
け」という役務に係るものということができる。すなわち、実行期間中に収受した
営業保険料と、実行期間中に支払った保険金とは、いずれも、損害保険会社が実行
期間において提供している「機械保険等の引受け」という役務に係るものであり、
両者の対応関係はそれで十分である。
8 以上によれば、本件においては、原告らが本件実行期間中に収受した営業保険
料(本件営業保険料)の合計額から本件実行期間中に支払った保険金の合計額を控
除した額をもって、課徴金賦課の基礎となる売上額とすべきである。原告らが本件
実行期間中に収受した営業保険料(本件営業保険料)の合計額は、別表1の「営業
保険料」欄記載のとおりである。原告らが本件実行期間中に支払った保険金の合計
額について、原告らが主張する計算方法は相当と認められ、用いられた基礎数値に
ついても当事者間に争いがないところ、原告らが主張する計算方法によった場合の
同合計額が別表2の「原告ら主張の支払保険金」欄記載のとおりになることについ
ても当事者間に争いがないから、この額を控除することになる。そして、本件営業
保険料の合計額から、原告らが本件実行期間中に支払った保険金の合計額を控除し
た額は別表4の「営業保険料から原告ら主張の支払保険金を控除した額」欄記載の
とおりであり、これを売上額として算定した課徴金の額は別表4の「原告ら主張の
支払保険金を控除した場合の課徴金額」欄記載のとおりである。したがって、本件
審決のうち、原告らに対し別表4の「原告ら主張の支払保険金を控除した場合の課
徴金額」欄記載の金額を超えて課徴金の納付を命じる部分は、違法として取消しを
免れない。
第2 純保険料の額の控除について
1 原告らは、本件違反行為に係る役務の対価の把握に当たり、営業保険料から純
保険料の額を控除すべきである、と主張する。
 原告らの主張する純保険料は、損害保険会社が保険契約者から収受する営業保険
料のうち将来の保険金の支払に充て
られると見込まれるものであり、その具体的な額は、営業保険料に主務大臣の認可
を得た算方書記載の予定損害率を乗じて得た額であるという。この予定損害率は、
純保険料の営業保険料に対する割合として認可され、機械保険にあっては51%、
組立保険にあっては65%である。営業保険料の計算の方法も、主務大臣の認可を
得ている。営業保険料の計算方法に対する主務大臣の認可は、具体的には、標準料
率としての標準基本料率、割引率、特約料率等の認可としてなされる(審A第25
号証、第26号証の1ないし3)。標準料率とは、標準とする危険要因に標準とな
るべき基準料率を定めておき、契約の都度、保険の目的の種類・性質、危険の実
態、その他具体的事情に応じて修正して適用するもので、その修正幅には限度がな
い。
 そして、原告らは、本件における売上額の算定にあたっては、本件営業保険料の
合計額から、本件営業保険料に上記の予定損害率を乗じて得た純保険料の合計額で
ある別表2の「原告ら主張の純保険料」欄記載の金額を控除すべきである、と主張
する。
2 一般概念としての純保険料は、営業保険料のうち将来の保険金の支払に充てら
れると見込まれるものであり、一定期間(保険期間)内の危険率と保険金額を基礎
として算定され、保険者が支払うべき保険金の予想総額と収受する純保険料の総額
とが均衡するように定められる。しかし、純保険料の算定の基礎となる保険金の総
額は、あくまでも算定段階における統計的確率に基づく予測にすぎず、純保険料の
総額が実際の支払保険金の総額と一致するとは限らない。したがって、純保険料の
総額は、結果的に、実際の支払保険金の総額を上回ることがあり得るのであり、支
払保険金の総額を上回る分は、損害保険会社の事業費や利潤に充てられることにな
るのである。
 その上、損害保険会社は純保険料に付加保険料を加えて営業保険料を算定するの
であるが、原告らは、本件実行期間中、カルテルによる営業保険料率(営業保険料
の保険金額に対する割合)を適用したもので、原告ら主張の純保険料の計算の基礎
となる営業保険料自体が、純粋な保険数理に基づき算定されたものとはいえず、利
潤の水増しをもたらす可能性の高いものである。
 そして、原告らは、この営業保険料に、保険種目ごとに一律の予定損害率を乗じ
て得た額が純保険料であると主張するのであるが、カルテルによる営業保険料率を
適用して算定
した営業保険料を基礎に、上記のような方法で純保険料の額を算定すれば、その純
保険料には、実際に保険金の支払に充てられるもののほかに、事業費及び利潤に充
てられるものが含まれる可能性が高いのである。
 以上のとおり、原告らの主張する純保険料は、事業費及び利潤に充てられるもの
を含んでいる可能性がある。現に、原告らが主張する本件実行期間中の純保険料の
合計額は別表2の「原告ら主張の純保険料」欄記載のとおりであり、原告らが主張
する本件実行期間中の支払保険金の合計額は別表2の「原告ら主張の支払保険金」
欄記載のとおりであって、1社を除き、前者が後者を上回っており、その程度も、
20社中10社については、前者が後者を2倍程度も上回っているのである。事業
費及び利潤に充てられる部分は「対価」を構成し、課徴金賦課の対象となるから、
営業保険料から純保険料の額を控除すべきであるという原告らの主張は採用するこ
とができない。
第3 代理店手数料の額の控除について
1 営業保険料には、損害保険代理店に支払われる代理店手数料が含まれていると
ころ、本件営業保険料に対応する代理店手数料について、原告らが主張するような
計算式を立てた場合の合計額が別表3の「原告ら主張の代理店手数料」欄記載の額
になることは、当事者間に争いがない。
2 原告17社は、代理店手数料は、損害保険会社が、制度的にも経済的にも、実
際に収受することのない金員であるから、「対価」を構成しない、と主張する。
 本件実行期間当時施行されていた旧募取法9条の規定によれば、損害保険会社の
役員、使用人又は同法4条2項の規定により登録された損害保険代理店でなければ
損害保険の募集(保険契約の締結の代理又は媒介をなすこと)を行うことができ
ず、同法において損害保険代理店とは、損害保険会社の委託を受けて、その損害保
険会社のために損害保険契約の締結の代理をなす者である(同法2条2項)。原告
らが控除を主張する代理店手数料の支払を受けた損害保険代理店が、旧募取法にい
う損害保険代理店であることは、原告らの主張から明かである。
 損害保険代理店は、保険契約の締結に伴い損害保険会社のため保険料を収受した
ときは、遅滞なく損害保険会社に送金するか、自己の財産と明確に区分して保管し
なければならず、保険料の保管は、原則として損害保険会社別の保険料専用の預貯
金口座に預け入れてしなければならない(旧
募取法12条1項、同法施行規則5条及び6条)。損害保険会社と損害保険代理店
との関係は、両者間の委託契約で定まるものであり、また、損害保険会社は損害保
険代理店の権限に関する事項を事業方法書に記載して主務大臣の認可を受けるもの
であるが(旧保険業法1条2項2号、10条1項、旧規則11条1項2号)、標準
的な委託契約では、損害保険代理店は、締結を代理した保険契約について、収受し
た保険料に委託契約において定める一定割合を乗じて得た額の代理店手数料を損害
保険会社に請求することができ、収受した保険料を損害保険会社に送金する際、代
理店手数料を控除して送金することができる(査第15号証)。また、標準的な委
託契約では、損害保険代理店は、損害保険会社を代理して、①保険契約の締結、②
保険契約の変更・解除等の申出の受付、③保険料の領収又は返還、④保険証券の交
付並びに保険料領収証の発行及び交付、⑤保険の目的の調査、⑥その他保険募集に
必要な事項で損害保険会社が特に指示した業務を行うとされている(査第15号
証)。
 以上のように、損害保険代理店は、損害保険会社との委託契約に基づき、損害保
険会社のために保険契約の締結の代理を行う者であり、その報酬として損害保険会
社から代理店手数料の支払を受けるものである。損害保険会社からみれば、代理店
手数料は、損害保険会社が、損害保険代理店を通して保険契約者を募集し保険契約
を締結する場合、保険契約の締結を代理した損害保険代理店に支払うもので、損害
保険会社の保険契約締結のための費用であり、事業費の一部である。したがって、
機械保険等の引受けという役務の対価を構成するものである。代理店手数料の額が
委託契約で保険料の一定割合と画一的に定められるとしても、費用であることに変
わりはない。損害保険代理店が損害保険会社に収受した保険料を送金する際、代理
店手数料を差し引いた上で残額を送金するとしても、保険料の全額をいったん送金
して、改めて損害保険会社が損害保険代理店に代理店手数料を支払うのと変わりは
なく、代理店手数料が費用であることに変わりはない。
 原告17社は、代理店手数料が委託契約で保険料の一定割合としてあらかじめ定
められ、損害保険代理店は収受した保険料から代理店手数料を差し引いた残りを損
害保険会社に送金するのが一般で、代理店手数料は定型的に損害保険会社の許に届
かないから、対価に算入
すべきでない、と主張するものであるが、そのような仕組みがあるからといって、
代理店手数料が費用であり対価を構成することを否定する理由にはならない。
 また、原告17社は、損害保険代理店は広く保険契約者(顧客)に対して保険相
談、アフターサービス、事故発生時の連絡役等、顧客とのインターフェースに関わ
る業務を行っており、代理店手数料はその業務に対する報酬であり、損害保険会社
の役務に対する対価でない、と主張する。
 しかし、損害保険代理店は、顧客に対し上記業務を行っているにしても、保険契
約の締結とは別個独立に、上記業務の報酬として顧客から代理店手数料の支払を受
けるものではない。代理店手数料は、あくまでも、保険契約の締結を代理した場合
に、損害保険会社から支払われるものである。損害保険会社の事業としては、保険
契約締結前における保険の宣伝・募集等の活動があり、保険契約後における事故の
査定、保険金支払等の活動がある。損害保険代理店の上記業務も、損害保険会社か
らの受託に基づき行っているとみるべきである。そして、損害保険会社からの受託
に基づく上記業務が保険契約締結という成果に結実したときに、その報酬として保
険料の一定割合の代理店手数料が損害保険会社から支払われるのである。したがっ
て、代理店手数料は、保険契約締結のための費用であり、損害保険会社の事業費の
一部であるというべきである。
3(1) また、代理店手数料は、独禁法施行令5条3号の割戻金にも該当しな
い。
 独禁法施行令5条3号は、割戻金控除の要件として、「役務の提供の相手方に対
し・・・提供の実績に応じて割戻金を支払うべき旨が書面によって明らかな契
約・・・があった場合」と明記している。同号は、割戻しが対価の額の修正とみら
れる性格を有する場合や、取引の相手方のマージン相当分の後払いの性格をもって
いる場合のように、割戻し分が本来対価を構成しないとみられる場合に限って、割
戻金の控除を認める趣旨であり、控除の対象となる割戻金を役務提供の相手方に支
払われるものに限定している。原告らの機械保険等の引受けという役務の提供の相
手方は保険契約者である。代理店手数料は保険契約者に対して支払われたものでは
ない。したがって、代理店手数料を割戻金として控除することはできない。
(2) 原告らは、被告は三重交通事件において貸切バス会社が旅客運送契約の相
手方でない旅行業者に支
払った手数料を独禁法施行令5条3号の割戻金として扱っているから、法律適用の
平等の観点から、代理店手数料も割戻金として売上額から控除すべきである、と主
張する。
 確かに、被告の職員が個人の資格で雑誌「公正取引」489号に書いた「平成二
年度における課徴金納付命令の概要」という解説記事のうちの三重交通事件に関す
る部分に、「運送契約はバス会社と利用者との間で成立することとなっている。課
徴金の算定に当たっては、バス会社とエージェントとの間で取引が行われていると
解し、バス会社がエージェントを通じて利用者から収受する運賃及び料金のうちエ
ージェントがあらかじめ差し引いて支払っている斡旋手数料分は、独占禁止法施行
令第四条第三号の割戻しに当たるとして売上額から控除している。」との記載があ
る(審B第27号証の1ないし3)。「バス会社とエージェントとの間で取引が行
われていると解し」との記載もあり、同部分は、貸切バス会社の役務提供の相手方
が利用者であるというのか、エージェントであるというのか必ずしも明らかではな
いが、相手方が利用者であると解説しているとも受け取れる。
 しかし、課徴金の算定並びにそのための売上額の算定方法及び割戻金の額の控除
は、独禁法7条の2並びに独禁法施行令5条及び6条によって一義的・確定的に規
定され、被告は、この規定に羈束され、その解釈適用について裁量を有するもので
はない。仮に、被告が過去にこれらの規定に違反する行政処分を行ったとしても、
被告がその先例に拘束されるいわれはない。被告としてはこれらの法条に従って課
徴金を算定するほかなく、それで適法というべきである(最高裁判所第二小法廷昭
和33年3月28日判決・民集12巻4号624頁参照)。そして、前記のとお
り、独禁法施行令5条3号は、売上額から控除すべき割戻金を「役務の提供の相手
方に対し」支払われるものに限定しているところ、代理店手数料はこれに該当しな
いのであるから、割戻金として控除する余地はなく、三重交通事件の先例を理由に
控除することも許されないのである。
 また、仮に、被告の長期にわたる特定の法規適用態度が国民の信頼を生み、被告
の恣意的な適用改変が平等原則に違反するという場合があるという見解に立ったと
しても、三重交通事件というわずか一回限りの適用が、このような意味で被告を拘
束すると解する余地はない。
 さらに、仮に、被告の過去に
おける判断が、何らかの先例的効力を有するとしても、それはあくまでも被告の審
決又は命令において明示的に示された被告の公権的判断であるべきである。被告の
職員が雑誌に掲載した解説記事の内容は、もとより被告の公権的判断ということは
できず、被告が単に「役務の相手方」以外の者とも解し得る者に支払われた金員を
割戻金として控除した結果となるという処分をしただけでは、原告らの主張するよ
うな先例的効力を認めることはできない。しかるに、三重交通事件審決等(審B第
28号証の1ないし3、乙第9号証)は、割戻金に関する被告の公権的判断を明示
的に示してはいないのである。したがって、三重交通事件審決等は、割戻金の解釈
運用について被告を拘束するものということはできない。
 念のために、三重交通事件審決書をみるに、①バス協会が「大型車一両当たりの
最低運賃等」を決定したこと、②バス協会がこの決定内容を文書により「三重県内
の旅行業者」に周知することを決定したこと、③バス協会が、高校野球甲子園向け
輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送について上記最低運賃等を記載した文書を作
成し、「三重県内の旅行業者」に配付したこと、④協会の会員が、上記決定に基づ
き、高校野球甲子園向け輸送及び世界デザイン博覧会向け輸送についての運賃を
「旅行業者らと交渉し、収受していた」こと等の事実が摘示されている一方、旅客
一人当たりの運賃等は記載されていない。また、旅客運送業界においては、貸切旅
客運送契約の一形態として、旅行業者が取次人として自己の名をもって(契約の当
事者となって)貸切バス会社との間で運送契約を締結し、旅客はその経済的負担を
負い、契約上の実質上の利益を享受するという取引が存在する(査第20号証及び
21号証)。これらの点に照らすと、三重交通事件審決等は、貸切バス会社が貸切
バスによる運送という役務を旅行業者に対し提供したと認定したものと解する余地
も残されている。少なくとも、三重交通事件審決等の文面からして、旅客が契約当
事者であり、旅行業者が代理人であると認定した上で、代理店手数料を割戻金とし
て控除した先例であると解することはできない。
 したがって、三重交通事件との対比において法律適用の不平等をいう原告らの主
張は、いずれにせよ採用することができない。
第4 卸・小売業に係る課徴金算定率の適用について
 原告安田火災は、損害保険業は卸・小売業
に準ずるものとして、課徴金の算定率については独禁法7条の2第1項が卸・小売
業について定める100分の1又は100分2を準用すべきである、と主張する。
 独禁法7条の2第1項の「卸売業」とは、字義的に、生産者・輸入商から大量の
商品を仕入れて小売業者に売り渡す業務と解すべきであり、同じく「小売業」と
は、商品を卸売業者等から買い入れてこれを一般消費者に分けて売る業務と解すべ
きである。卸・小売業は、商品を右から左へ流通させることによって、商品仕入額
に販売手数料を付加した額を対価として受け取る側面が強く、他の業種における取
引と大きく異なっており、平均的な売上高営業利益率が他の業種より低いため、1
00分の1又は100分の2という一般より低い算定率が定められたものである。
 保険業は、保険者が多数の人々との間に保険契約を締結し、保険料を収受して前
記のような危険引受けという役務を提供する業務であり、卸・小売業とは別個の業
種である。統計法3条2項及び8条2項並びに統計調査に用いる産業分類並びに疾
病、傷害及び死因分類を定める政令2条の規定に基づき定められた日本標準産業分
類(平成5年総務庁告示第60号)において、「卸売・小売業」と「金融・保険
業」は別個独立の大分類となっていることも参酌されるべきである。
 また、課徴金制度は一律的な非裁量的制度として法定されており、「卸売業」及
び「小売業」のみを明示して例外的な算定率を定めている独禁法の下では、保険業
に流通業的性格があるとか、保険業と卸・小売業の各売上高営業利益率が近似して
いるという点をとらえて、保険業に卸・小売業に係る算定率を準用することは許さ
れない。そして課徴金制度は、カルテル行為による不当な利益を剥奪する趣旨のも
のではあるものの、強制的行政措置としての非裁量性、簡明性、明確性、透明性、
迅速性の要請から、卸・小売業のみを例外として一律の算定率を定めるものであ
り、その結果、課徴金の額が現実の不当利得の額と乖離し、その乖離の幅にも業種
によって差が生じる可能性があるが、この差は行政措置としての上記要請に基づき
生じるもので、合理性を有し、憲法14条の規定に違反するものではない。
 したがって、原告安田火災の上記主張は採用できない。
第5 結論
 以上のとおりであるから、本件審決は、機械保険等の引受けの対価は営業保険料
であるとして、本件営業保険料の合計額を
もって課徴金算定の基礎となる売上額とし、原告らが本件実行期間中に支払った保
険金の合計額(別表2の「原告ら主張の支払保険金」欄記載の金額)を控除しなか
った点において、独禁法8条の3及び7条の2第1項並びに独禁法施行令5条の規
定に違反した違法がある。したがって、本件審決のうち、別表4の「原告ら主張の
支払保険金を控除した場合の課徴金額」欄記載の金額を超えて課徴金の納付を命じ
る部分は、独禁法82条2号の規定に基づき取り消されるべきであり、原告らの本
訴請求はこの限度で理由があるが、原告らのその余の請求はいずれも理由がない。
よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条並びに民訴法61条、64条及
び65条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官 泉徳治
裁判官 飯田敏彦
裁判官 持本健司
裁判官 川口代志子
裁判官 菅野博之

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