弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小室薫の上告趣意第一点について。
 所論証人訊問に付き原審が被告人自身に期日の通知をした事実は記録上認められ
ない。しかし、右証人は弁護人の申請したものであつて、其の弁護人には適法に通
知してある。そして、記録によれば原審裁判長は所論証人訊問後の第二回公判にお
いて、右証人の訊問調書の内容を被告人に読み聞け、其の都度、意見並びに弁解の
有無を問い且其の供述者の訊問を請求することが出来る旨及び利益の証拠が有れば
提出出来る旨を告げたのであるが、被告人は意見、弁解並びに利益の証拠は無い旨
を答え、弁護人からも何等の申出が無かつたことがわかる。これによれば右証人の
訊問及び証言に付ては、被告人も弁護人も何等異議もなく、其以上の審問をする希
望も無かつたものと見なければならない。蓋し、若し異議若しくは審問の希望があ
るならば、裁判長から特に前記の注意があつた時弁護人又は被告人から何等かの申
出があるのが当然であるに拘らず、被告人は何も求める意思が無い旨を答え、弁護
人からも前記被告人に対する不通知に関する点に付き、何等の申出も無かつたから
である。
 本来、公判廷外における訊問に対する供述は、それが其のまゝ証拠になるのでは
なく、其の調書が書証として証拠になるのであり、其の内容は必ず被告人に読み聞
けられ、それに対して不満があれば、被告人は更に審問することを請求することが
出来るのであるから、被告人に対する不通知は、実質上からいえば、そう大した意
義のあるものではないといい得るであろう。しかも、本件においては、前記の如く
証人の申請人である弁護人には通知してあり、裁判長の事後の叮寧な注意もあつて、
被告人にも弁護人にも何等異議不服も無かつたものと見られるのであるから、かゝ
る場合は、被告人自身に通知が無かつたとしても、それ丈けで判決破毀の理由とは
ならないものと解するを相当とする。其故論旨は採用し難い。
 同第二点について。
 しかし、原審の挙示した証拠の内容は完全に判示事実に一致する丈けのものがあ
るのだから、これによつて判示事実を認定した原審の措置を論旨にいう様な理由で
違法のものとすることは出来ない。論旨は畢竟原審が適法に為した事実認定に関す
る専権行使を非難するもので、上告の理由とならない。
 よつて、刑事訴訟法第四百四十六条に則り、主文の通り判決する。
 以上は、裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二三年九月二二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介

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