弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人野間泰治の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴
四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Bの弁護人河合与の上告受理申立理由第三点について。
 原審の是認した第一審判決の確定したところによれば、被告人Bは、昭和二四年
から昭和二五年の間において、偽造に係る本件増資新株式申込証拠金領収証を、そ
の偽造であることを知りながら、これを金融の担保として行使し又は行使の目的で
人に交付したというのである。そして、第一審は右領収証を刑法一六二条にいわゆ
る有価証券に該当するものとして、被告人の右所為に同法一六三条一項を適用処断
し、原審が右第一審判決を是認維持したものであることは所論のとおりである。
 思うに刑法にいわゆる有価証券とは証券に表示されている権利の行使又は移転に
通常その証券の占有を必要とするものを指称するのであるが、刑法が文書偽造罪の
外特に有価証券偽造の罪を設けた所以のものは、本来有価証券はその効用において、
一般私文書よりも高度の信用性を担保する必要あるがためであつて、すなわち偽造
の有価証券に関し一般取引界に不測の損害を防止することを目的とするものに外な
らない。従つて、その証券上の権利が証券の記載内容からは必ずしも明瞭とは謂い
難い場合でも、取引上の慣習と相まつて、その権利が証券に表彰されているものと
同様に取引の客体とされているものは、刑法上の有価証券と解するを相当とする。
 しかして昭和二五年法律一六七号による改正商法の施行(同二六年七月一日)さ
れるまでは、証券取引界においては、増資新株式申込証拠金領収書に白紙委任状を
添付して、売買、担保等の目的に利用されていたことは明らかであつて、該領収書
は、その内容と叙上の取引慣行に照し、株券類似の証券的作用を営むものと認める
ことができるから、所論商法一九〇条、二〇四条の規定に拘らず、刑法上はこれを
有価証券と解するを相当とする。それ故、行使の目的でこれを偽造した者は刑法一
六二条の有価証券偽造罪に該当し、その情を知つてこれを行使し又は行使の目的を
もつてこれを人に交付した者は、同法一六三条の偽造有価証券行使罪又は同交付罪
の規定の適用を受くべきものであつて、本件において原審が、偽造の証拠金領収書
を行使又は交付した被告人の所為に対し、同法一六三条一項を適用処断した第一審
判決を是認したことは正当である。所論は理由がない(なお、昭和三一年(あ)第
二八九三号、同三四年一二月四日言渡最高裁判所第二小法廷判決参照)。
 よつて、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三五年二月四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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