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平成15年(ネ)第4173号 損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
平成14年(ワ)第15438号)(平成16年1月28日口頭弁論終結)
          判           決
       控訴人       特定非営利活動法人
 家庭教師派遣業自主規制委員会
訴訟代理人弁護士  澤 田 保 夫
       被控訴人      有限会社旭学園
       代表者代表取締役   
訴訟代理人弁護士  松 岡   宏
同         森 本 耕太郎
          主           文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,「家庭教師派遣業自主審査実行委員会」との名称を使用しては
ならない。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人が使用する「家庭教師派遣業
自主審査実行委員会」との名称(以下「本件名称」という。)は,控訴人の業務に
係る営業表示として需要者の間に広く認識されている「家庭教師派遣業自主規制委
員会」の表示(以下「控訴人表示」という。)と類似しており,控訴人の営業と混
同を生じさせているとして,不正競争防止法2条1項1号,3条1項に基づき,本
件名称の使用差止めを求めた事案である。
 なお,原審においては,株式会社日本家庭教師センター学院(以下「原審原
告学院」という。)も共同原告となり,本件被控訴人に対し,原判決「事実及び理
由」欄の第1「請求の趣旨」記載の請求をし,全部敗訴したが,控訴を提起しなか
ったため,原判決中,原審原告学院の関係部分は確定した。また,控訴人は,当審
において,原審における請求のうち,上記「請求の趣旨」第8項記載の本件名称の
使用差止請求以外のすべての請求について,当該請求に係る訴えを取り下げた。
 本件の前提となる事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,以下の
とおりである。
1 前提となる事実
(1) 控訴人は,控訴人代表者Aが中心となって家庭教師派遣業者により平成12
年12月28日に設立された特定非営利活動法人である(甲1,弁論の全趣旨)。
(2) 被控訴人は,家庭教師派遣業を営む有限会社である(乙15)。
(3) 被控訴人が「岐阜県PTA」新聞及び「愛知のPTA」新聞の平成14年6
月号及び7月号に掲載した広告には,その右下部分に,「疑問や不安を感じたら悩
まずに通報して下さい!消費者被害トラブル相談室・・・家庭教師派遣業自主審査
実行委員会」と記載されており,本件名称の表示がある(甲15の1~3,6,
7)。
2 争点
(1) 控訴人表示は,控訴人の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識さ
れているものと認められるか。
(2) 被控訴人が本件名称を使用しているか。
(3) 被控訴人による本件名称の使用は,類似の営業表示を使用して控訴人の営業
と混同を生じさせる行為に当たるか。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(控訴人表示の周知性の有無)
(控訴人の主張)
 本件において,不正競争法防止法2条1項1号に規定する「需要者」と
は,「家庭教師派遣業者」ではなく,家庭教師を雇う「一般消費者」を意味するも
のである。
 控訴人は,家庭教師派遣業者の自主審査を実行し,優良業者にAAAの認
定評価を付与して,消費者を保護するとともに,家庭教師派遣業界の発展に寄与す
る団体である。家庭教師派遣業者にとって,自主審査を実行する団体は特定非営利
活動法人である控訴人のみであると認識されているからこそ,被控訴人を含む多数
の業者が,控訴人に対し,自主審査を申し込んできたのであり,そのことは,取り
も直さず,一般消費者の間においても,控訴人表示が広く認識されていることの反
映である。
 控訴人は,家庭教師派遣業者を審査し,AAAの認定評価をして,その評
価を一般消費者に知らせることにより,これを保護することを目的の一つとしてい
るから,一般消費者に対する認定評価結果の宣伝広告が非常に重要となる。その意
味で,控訴人表示は,上記のとおり,一般消費者を対象としている。
(被控訴人の主張)
 控訴人表示は,一般消費者の間においてはほとんど認識されていない。
 控訴人が,控訴人表示を使用するのは,家庭教師派遣業者に対し何らかの
審査を実行する場合であって,控訴人表示は,一般消費者を対象として使用される
ものではない。
(2) 争点2(被控訴人が本件名称を使用している事実の有無)
(控訴人の主張)
 原判決は,上記1(3)の事実を認定しながら,「家庭教師派遣業自主審査実
行委員会」という団体(以下「本件団体」という。)と被控訴人とが別の団体であ
ることは明らかであるとして,被控訴人が本件名称を使用しているとはいえないと
判断した。しかしながら,被控訴人が本件名称を使用しているか否かと,被控訴人
と本件団体とが別の団体であるか否かとは関係がない。被控訴人が本件団体の一員
として本件名称を使用する形態は当然にあり得るのであって,上記1(3)の例が正に
その場合である。したがって,被控訴人は,本件名称を使用している。
(被控訴人の主張)
 被控訴人は,自らの掲載する広告紙面の一部を提供し,家庭教師の紹介を
口実にした「悪質商法」の被害に遭わないよう,消費者に対し注意を喚起するとと
もに,被害者の救済を目的とする「消費者被害トラブル相談室」の電話番号を掲記
したものである。そして,そうした運動の主体が,営利を目的としない業界団体で
あることを明らかにすべく,本件団体を紹介しているのであって,いかなる営業行
為もしていない。
 また,被控訴人が「岐阜県PTA」新聞及び「愛知のPTA」新聞におけ
る広告に本件名称を使用したのは,平成14年6月~8月の3回のみであり,それ
以後は全く使用していない。
(3) 争点3(被控訴人表示と本件名称との類否,混同のおそれの有無)
(控訴人の主張)
 控訴人表示と本件名称とは,文言上,「規制」と「審査実行」の部分が相
違するだけであり,類似している。そして,被控訴人が本件名称を表示した広告を
行ったことにより,控訴人と本件団体とは同一又は類似のものとして消費者に認識
されるようになったのであるから,被控訴人の行為は,正に,類似の表示を使用し
て控訴人の営業と混同を生じさせる行為である。
(被控訴人の主張)
 控訴人の上記主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(控訴人表示の周知性の有無)について
(1) 控訴人は,上記第2の1(1)のとおり,控訴人代表者Aが中心となって家庭
教師派遣業者により平成12年12月28日に設立された特定非営利活動法人であ
り,証拠(甲1,6,7)及び弁論の全趣旨によれば,家庭教師派遣業者のサービ
ズ評価を自主審査し,消費者が家庭教師を依頼したり,個別指導教室を選択すると
きの目安として,「AAA」「AA」「A」等の格付けを行い,「優良AAA業
者」等の認定評価を付与し,その認定料等の収入を事業活動費に充てることを主な
業務とする団体であることが認められる。
 ところで,控訴人表示は,控訴人の名称から団体の種別を示す「特定非営
利活動法人」の文字を除外した「家庭教師派遣業自主規制委員会」の文字からなる
標章であるが,控訴人が上記のとおり設立された後,平成13年4月ころ作成の
「特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会ご入会案内」(甲1),同年
12月ころ作成の「経済産業省ガイドライン『サービス評価』審査システム『優良
AAA業者』認定登録証交付のご案内」(甲6)等のパンフレット,同年12月5
日付け「教育報道新聞」の記事(甲8-1),同月20日付け「訪販ニュース」の
記事(甲8-2),平成14年6月3日付け「教材新聞」の記事(甲13),同年
6月12日付け大一印刷有限会社作成の控訴人あての請求書(甲14),平成13
年12月1日付け控訴人のインターネットホームページ(甲9-3),同年11月
29日付け控訴人理事会の議事録(甲16-1),同年12月28日付け控訴人臨
時総会の議事録(甲16-2),同年7月~9月ころの控訴人と家庭教師派遣業者
間のファックス送信文書(甲18~21の各1,2,甲23,乙11,12-1~
3)等に,控訴人表示それ自体,又は上記団体種別表示を控訴人表示の冒頭に冠し
た表示が付されており,これによれば,控訴人の設立後,控訴人表示が一定の範囲
で控訴人の営業表示として使用されていたことが認められる。しかしながら,上記
文書類は,家庭教師派遣業者に対して控訴人への入会又は自主審査への応募を勧誘
することを目的とする文書,控訴人と家庭教師派遣業者との間の通信文書,控訴人
の内部文書,控訴人の営業行為に伴う取引文書,あるいは,家庭教師派遣業者に関
連する業界内のみに流布していたいわゆる業界紙の類であって,いずれも家庭教師
を雇う「一般消費者」を対象としたものではないことが明らかである。
 不正競争防止法2条1項1号にいう営業表示の周知性の認識主体について
は,当該営業の種類,性質,取引の実情等により個々具体的に判断すべきものであ
るが,控訴人は,当審において,本件名称の使用差止請求の根拠としている同号所
定の「需要者」とは,「家庭教師派遣業者」ではなく,家庭教師を雇う「一般消費
者」であることを明示的に主張しているところ,上記証拠によっては,控訴人表示
が控訴人の営業表示として上記需要者の間において広く認識されていたものと認め
ることは到底できない。また,平成14年2月~平成15年1月の職業別タウンペ
ージ(静岡県東部版)(甲25)上に掲載された「平成学院スパルタ塾」の広告中
には,「AAA優良業者です。(NPO家庭教師派遣業自主規制委員会認定)」と表示
されているが,わずかに1業者の1地域における広告である上,同広告文面の末尾
に小さく表示されているにすぎないことなどからみても,これをもって,控訴人表
示の一般消費者に対する周知性を肯定することは困難というほかはない。なお,控
訴人代表者Aが同じく代表者を務める原審共同原告の原審原告学院が「家庭教師派
遣業自主規制委員会」の商標登録(平成9年12月19日登録)を得ている(甲3
-3)ことも,控訴人表示の一般消費者に対する周知性を基礎付けるものというこ
とはできない。
    他人の営業表示が不正競争防止法2条1項1号の周知性を具備すべき時点
は,同号に該当する営業主体混同行為の差止請求の関係では,差止請求訴訟の事実
審の口頭弁論終結時である(最高裁昭和63年7月19日判決・民集42巻6号4
89頁参照)ところ,本件口頭弁論終結時の平成16年1月28日の時点におけ
る,控訴人表示の一般消費者に対する周知性については,以上のとおり,これを認
めるに足りる証拠はない。
(2) これに対し,控訴人は,控訴人表示の周知性を認めるべき根拠として,①家
庭教師派遣業者の間では,自主審査を実行する団体は特定非営利活動法人である控
訴人のみであると認識されていたこと,②被控訴人を含む多数の業者が,控訴人に
対し,自主審査を申し込んできたこと,③控訴人は,家庭教師派遣業者を審査し,
AAAの認定評価をして,その評価を一般消費者に知らせることにより,これを保
護することを目的の一つとしているから,一般消費者に対する認定評価結果の宣伝
広告が非常に重要となることを主張する。
 しかしながら,家庭教師派遣業者の認識(上記①)や,多数の業者の自主
審査への応募の事実(上記②)については,これを認めるに足りる証拠がないばか
りでなく,仮にそのような事実が認められたとしても,直ちに一般消費者の間にお
ける控訴人表示の周知性に結び付くわけではないことが明らかであるし,また,一
般消費者への広告の重要性の点(③)も,実際に,一般消費者を対象とする広告,
宣伝が実施されたことを示す的確な証拠が何ら提出されていない以上,上記(2)の認
定判断を左右しないというべきである。
(3) 以上のとおりであるので,控訴人表示は,需要者である一般消費者の間に広
く認識されているものであると認めることができない。
2 以上によれば,控訴人の被控訴人に対する不正競争防止法2条1項1号,3
条1項に基づく本件名称の使用差止請求は,その余の点について判断するまでもな
く理由がないから,これを棄却すべきである。
 よって,以上と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,
これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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