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平成14年(行ケ)第392号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成14年10月30日
判    決
原       告   A
同訴訟代理人弁護士永 野 周 志
同訴訟復代理人弁護士芹 澤   繁
同訴訟代理人弁理士樋 口 盛之助
被       告   特許庁長官太 田 信一郎
同指定代理人   小 澤 和 英
同藤 井 靖 子
同大 野 克 人
同大 橋 良 三
同涌 井 幸 一
主    文
     1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1) 特許庁が異議2001-71829号事件について平成14年6月6日に
した決定を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
(本案前)
主文と同旨
(本案)
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続及び本訴の提起の経緯
  (1) ケイ・アール特許管理株式会社(以下「ケイ・アール特許管理」とい
う。)は,平成2年11月20日,発明の名称を「表示画面付スロットマシン」と
する発明につき特許出願(特願平2-312916号)をした。上記特許出願につ
いて,特許庁は,平成12年9月11日に特許の査定をし,平成12年10月20
日,ケイ・アール特許管理を権利者として,特許第3121612号(以下「本件
特許」という。)の設定登録をし(以下,この設定登録により生じた特許権を以下
「本件特許権」といい,同特許に係る発明を「本件特許発明」という。),平成1
3年1月9日,本件特許に係る事項(特許法66条3項)を特許公報に掲載した
(甲4,6)。
  (2) B及びCは,平成13年7月9日,本件特許について,特許庁に特許異議
の申立てをした(異議2001-71829号事件として係属。以下「本件異議申
立事件」という。)ところ,特許庁は,同事件について,同年11月13日(発送
日)付けで,ケイ・アール特許管理に対し,本件特許の取消しの理由を通知した。
これを受けて,同会社は,平成14年1月11日付けで,特許庁に対し訂正請求書
及び意見書を提出した(甲1,6ないし9)。
  (3) 特許庁は,平成14年6月6日,本件異議申立事件について,「訂正を認
める。特許第3121612号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」旨の
決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年7月1日にケイ・アール
特許管理に送達された(甲1,弁論の全趣旨)。
(4)原告は,平成14年7月29日,ケイ・アール特許管理との間で,原告が
同会社から本件特許権の譲渡を受ける旨の譲渡契約を締結し,同月30日,特許庁
に対しその旨の移転登録申請をするとともに,本訴を提起した(甲5,6,弁論の
全趣旨)。
2 前記訂正後の本件特許発明の要旨は,次のとおりである(甲4,8)。
【請求項1】スロットマシンのリールの回りに,そのスロットマシンの正面幅
に収まる程度の大きさに形成した表示画面を液晶等の平面的表示手段により形成す
る一方,該表示画面には,このスロットマシンによるゲーム内容に関する表示と,
専用放送,一般放送等の適宜テレビ放送等による映像,画像,文字などの表示と
を,切換えて表示させるようにしたことを特徴とする表示画面付スロットマシン。
【請求項2】ゲーム内容に関する表示と適宜テレビ放送等による画像などの表
示との切換えは,ゲームの一般入賞時又は特別入賞時に得られる信号により自動切
換されるようにした請求項1の表示画面付スロットマシン。
  【請求項3】ゲーム内容に関する表示と適宜テレビ放送等による画像などの表
示切換は,手動により随時行うことができるようにした請求項1又は2の表示画面
付スロットマシン。
  【請求項4】表示画面はスロットマシン本体とは分離して形成し,スロットマ
シン本体の前面上部に後付けした請求項1~3のいずれかの表示画面付スロットマ
シン。
  【請求項5】テレビ放送は,一般のテレビ放送のほか,スロットマシン内に内
蔵するか,又は,店内等に設けられた放映設備から供給される各種の映像,画像,
文字などの表示である請求項1~4のいずれかの表示画面付スロットマシン。
 3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである(甲1)。
  (1) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は,特開平1-185279号公
報(以下「刊行物1」という。),特開平2-177988号公報(以下「刊行物
2」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであり,上記請求項1ないし5に係る発明は特許法29条2項の規定により
特許を受けることができないものである。
  (2) したがって,本件特許は,拒絶の査定をしなければならない特許出願に対
してされたものというべきであるから,取り消されるべきである。
 4 原告の主張する本件決定の取消事由の要旨
  (1) 本件決定は,引用した刊行物1及び刊行物2に記載された事項の認定を誤
り,その結果,本件特許発明がこれらの刊行物記載の発明から当業者が容易に発明
することができたとの誤った認定判断をした点で違法である。
  (2) 本件決定は,刊行物1及び刊行物2から容易に想定できない本件特許発明
固有の作用効果についての認識を誤り,その結果,本件特許発明が刊行物1及び刊
行物2記載の発明に対して進歩性を有しないとの誤った結論を導いた点で違法であ
る。
第3 本件の主たる争点は,本件訴えが原告適格を有する者により適法に提起され
たものか否かであり,この点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
1 被告
(1)特許庁がした取消決定に対する訴えは,当事者,参加人又は当該特許異議
の申立てについての審理に参加の申請をしてその申請を拒否された者に限り提起す
ることができるものである(特許法178条2項)。
(2) 本件訴えで取消しを求める対象とされている本件決定が,特許権者である
ケイ・アール特許管理を名宛人として行われたものであることことは明らかである
から,本件決定に対する訴えは,ケイ・アール特許管理が提起しなければならない
ものである。
しかるに,本件訴えは,本件決定の名宛人でない原告により提起されたも
のであり,原告適格を有しない者が提起したものとして不適法である。
(3) 原告は,平成14年7月29日,ケイ・アール特許管理との間で,原告が
同会社から本件特許権の譲渡を受ける旨の譲渡契約を締結し,同年7月30日,特
許庁に対し特許権移転登録申請をした旨主張する。
しかしながら,特許権の移転は,登録しなければ効力を生じない(特許法
98条1項)から,たとえ,原告が本件特許権につき,その主張の譲渡契約を締結
し,かつ,特許庁に対しその旨の移転登録申請をしたとしても,それが登録がされ
るまでは,原告は本件特許権の承継人ということができず,したがって,本件決定
の取消しを求めるにつき原告適格を有しないものである。しかして,上記移転登録
申請に基づき本件特許権の原告への移転の登録がされたのは平成14年8月16日
であるから,本件訴えは,ケイ・アール特許管理の承継人として原告適格を有する
者がしたということもできない。
2 原告
(1)ア特許異議の申立てに基づき取消決定がされた後に,特許権が譲渡された
場合において,その譲渡の合意がされたにとどまらず,その譲渡による特許権の移
転につき移転登録申請が特許庁に提出されたときは,その特許権の譲受人は上記取
消決定の取消しを求める原告適格を有するというべきである。
 イ 上記アのように解するのでなければ,特許異議の申立てに基づき取消決
定がされた後に特許権の譲渡を受けた譲受人は,その旨の移転登録申請をしていて
も,特許庁内部の事務処理の結果その登録がされるまでの間は,当該取消決定に対
する訴えを提起することができないから,出訴期間内に同訴えを提起することがで
きないことになる。そうすると,当該取消決定に取消事由があってもそれが確定
し,上記譲受人はその不利益を甘受せざるを得ない結果となるが,かかる事態は法
的正義に反する。
 ウまた,民事訴訟においては,第1審の口頭弁論終結後に訴訟物たる権利
を承継した者も,控訴の申立てをするとともに,訴訟引受等により訴訟承継をする
ことができると解されており,特許庁のした特許異議の申立てに基づく取消決定後
に特許権を譲り受けた者に同取消決定に対する訴えを提起する原告適格を認めない
ことは,民事訴訟における上記訴訟引受等による訴訟承継の場合と比較して均衡を
失することになる。
(2)しかして,原告は,平成14年7月29日,ケイ・アール特許管理との
間で,原告が同会社から本件特許権の譲渡を受ける旨の譲渡契約を締結し,同年7
月30日,特許庁に対しその旨の移転登録申請をしたものであり,したがって,原
告は本件決定の取消しを求める原告適格を有する。
第4 当裁判所の判断
 1(1) 特許法178条2項は,取消決定等に対する訴えは,当事者,参加人又は
当該特許異議の申立てについての審理,審判若しくは再審に参加を申請してその申
請を拒否された者に限り提起することができる旨規定している。上記規定にいう当
事者とは,特許異議申立てに基づく取消決定の場合,その特許の権利者として,当
該取消決定の名宛人となった者をいうものと解される。また,特許異議申立てに基
づく取消決定がされた後,これに対する訴えの提起前に当該特許権の譲渡があり,
その旨の移転登録がされたときには,当該特許権の譲受人は当事者の地位の承継人
として上記取消決定に対する訴えを提起する原告適格を有するというべきである
が,特許権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)は,登録しなけれ
ばその効力を生じない(特許法98条1項)から,当該特許権の譲渡があったとし
ても,その旨の移転登録がされるまでは,当該特許権の譲受人はいまだ当該特許権
の承継人ということができず,上記取消決定に対する訴えを提起する原告適格を有
するとはいえないと解するのが相当である。これと異なる原告の解釈(第3の2(1)
ア)は採用することができない。
  (2)原告は,その主張(第3の2(1)ア)のとおり解しなければ,特許異議の
申立てに基づき取消決定がされた後に特許権の譲渡を受けた譲受人は,その旨の移
転登録申請をしていても,特許庁内部の事務処理の結果その登録がされまでの間
は,上記取消決定に対する訴えを提起することができないから,出訴期間内に同訴
えを提起することができないことになり,そうすると,上記取消決定に取消事由が
あってもそれが確定し,上記譲受人はその不利益を甘受せざるを得ない結果となる
が,かかる事態は法的正義に反する旨主張する(第3の2(1)イ)。
 しかしながら,特許権の譲渡の時点に,既に当該特許を取り消す旨の決定
が存在している場合において,その取消決定に対する訴えの出訴期間内にその旨の
移転登録ができる見込みがない場合には,譲渡人において上記取消決定に対する訴
えを提起し,権利を保全する措置を講ずることができるのであり,当事者が上記譲
渡契約の締結にあたってそのような権利保全の措置について合意をしておくことに
何らの不都合もないから,上記取消決定に対する訴えの原告適格について上記(1)の
ような解釈をとっても,上記取消決定に取消事由があってもそれが確定し,上記譲
受人がその不利益を甘受せざるを得ない結果になるということはないというべきで
ある。
 また,民事訴訟においても,訴訟引受等による訴訟の承継が認められるの
は訴訟物たる権利の移転の効力が生じた場合であって,その権利の移転の効力が生
じていないのに訴訟の承継が認められることはなく,したがって,上記(1)のとおり
解しても,民事訴訟における訴訟承継の場合と比較して,両者が均衡を失するとい
うことにはならない。原告の主張(第3の2(1)ウ)は失当である。
 (3) 前記前提事実及び甲6によれば,本件特許権を有する者は,本件特許権に
つき平成14年8月16日に原告への移転登録がされるまでの間は,ケイ・アール
特許管理であったこと,したがって,本件異議申立事件においては同会社が被申立
人とされ,特許庁は同異議申立事件について審理を行った結果,平成14年6月6
日に同会社を名宛人として本件決定をし,その謄本は同年7月1日に同会社に送達
されたことが明らかである。
  したがって,本件訴えが提起された平成14年7月30日の時点で,当事
者として本件決定の取消しを求める原告適格を有する者は,ケイ・アール特許管理
のみであり,原告は,当事者の立場にはなく,また,特許法178条2項が取消決
定に対する訴えを提起することができる者として規定しているその余の者にも該当
しないから,本件訴えは,原告適格を有しない者が提起したものとして不適法とい
うべきである。
2 もっとも,特許法178条3項は,取消決定に対する訴え等は,決定等の謄
本の送達があった日から30日を経過した後は提起することができない旨規定して
いるから,原告適格を有しない者が特許異議申立てに基づく取消決定に対する訴え
を提起したとしても,上記出訴期間内にその者が原告適格を備えるに至れば,原告
適格を有しない者により提起されたという手続上の瑕疵は治癒され,上記訴えは適
法になるものと解される。
   そこで検討するに,前記前提事実1(4)記載のとおり,原告は,平成14年7
月29日,ケイ・アール特許管理との間で,原告が同会社から本件特許権の譲渡を
受ける旨の譲渡契約を締結し,同月30日,特許庁に対し特許権移転登録申請をし
ていることが認められるが,上記譲渡契約による本件特許権の原告への移転の効力
が生じたのはその旨の移転登録がされた同年8月16日であるから,本件決定に対
する訴えの出訴期間内(その期限は同年7月31日である。)に原告が原告適格を
具備したとは認められず,したがって,原告適格を有しない者が提起したという本
件訴えの手続上の瑕疵が治癒されたということはできない。
 3以上によれば,本件訴えは不適法であるから,これを却下することとし,主
文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第3民事部
  裁判長裁判官 北  山  元  章
 裁判官   青  柳     馨
       裁判官橋  本  英  史

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