弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一、同石橋重太郎上告趣意第一点について。
 被告人に殺人の故意、即ち殺意のあつたことは原審挙示の証拠(就中被告人に対
する司法警察官の訊問調書)によつて極めて明らかである。所論は原審が証拠に採
つていない他の資料または殺意に関する証拠でない他の原審の挙示証拠を挙げて、
原審の殺意の存在に関する事実の認定を非難するものであつて、採用の限りでない。
 同第二点について。
 原審が、所論Aの証言を証拠に採つたのは、本件犯行に至るまでの犯行の動機原
因並びに経緯に関する原判示の事実を明らかにせんためであつて、殺意の有無に関
するものでないことは、その摘録挙示した証拠内容自体に照しまことに明瞭である。
論旨は理由がない。
 同第三点について。
 原審が、所論三人の証言を証拠に採つたのは、犯行の現状と被害者の被害並びに
死亡の事実を明らかにせんがためであつて殺意の有無の点に関するものでないこと
は、これまたその摘録挙示した各証拠の内容に照し極めて明瞭である。そしてB、
Cの証言中原審が摘録挙示した部分と爾余の部分とは可分的のものであることは所
論摘録の右各証人の証言自体によつても明らかであるから、原審が右両証人の証言
中より犯行現場に関する部分の供述記載のみを証拠に採つても何等の不合理は存し
ないのである。論旨は何れも理由がない。
 同第四点について。
 原判決はその挙示引用の各証拠を綜合して被告人の本件犯罪事実を認め得るとし
たのである。そして裁判所が被告人の自白とその他の証拠とを綜合して犯罪事実を
認定するにあたつては、その犯罪事実の全部にわたつて自白以外の補強証拠を必要
とするものではなく犯意の如き犯罪の主観的要件に属する事実については、それが
たとえ被告人の唯一の自白を採つて証拠としても憲法第三八条第三項(及び本件に
適用ある刑訴応急措置法一〇条三項)に反しないこと当裁判所屡次の判例とすると
ころである。(昭和二二年(れ)一五三号同二三年六月九日大法廷判決、昭和二四
年(れ)二二九八号同年一二月二四日第二小法廷判決、昭和二三年(れ)一九五三
号同二四年四月五日第一三小法廷判決)論旨は理由がない。
 同第五点について。
 所論のAについては、同人は第一審公判廷外において証人として喚問され、その
訊問には弁護人が立会い(被告人は勾留中で立会つていない)所要の訊問を裁判長
に求めていること記録上明瞭である。かようにこの証人の供述については既にその
訊問調書作成の当時弁護人に対し反対尋問の機会が与えられているのであるから、
右同人を第二審である原審が一旦証人として喚問すべき旨決定した後事情により右
決定を取消した上、第一審における同人の訊問調書中の供述記載を証拠に採つても
所論憲法第三七条第二項に違反するものではない。このことは当裁判所大法廷判例
の趣旨に徴して明らかである。(昭和二四年(れ)七三一号同二五年三月一五日、
昭和二五年(れ)二七三号同年一一月一五日各大法廷判決参照)そして以上の理は
右Aが第一審証人当時は被告人の妻であつたゝめ宣誓適格のない証人であつたが第
二審当時は被告人と離婚し、したがつて宣誓適格者となつた場合であつても、その
理を異にするものではないと解するを至当とする。論旨は採るを得ない。
 よつて、裁判官全員一致の意見により刑訴施行法第二条旧刑訴法第四四六条にし
たがい主文のとおり判決する。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二五年一二月八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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