弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人湊貴美男の上告受理申立て理由について
 1 本件は,秋田県北秋田郡に属するa町(以下「町」という。)の住民である
上告人らが,町が平成8年度にb地区で実施した農業集落排水事業の管路工事(以
下「本件工事」という。)について,本件工事は,その全体を一つの工区として単
一の請負契約を締結して実施すべきものであって,同契約を締結することについて
地方自治法(以下「法」という。)96条1項5号に規定する議会の議決を経るこ
とを要するものであったところ,町長の職にあった被上告人が,違法に本件工事を
上記議会の議決を要しない規模の三つの工区に分割してそれぞれの工区ごとに請負
契約を締結し,町に単一の契約によった場合の請負代金額との差額相当額の損害を
与えたと主張して,法242条の2第1項4号(平成14年法律第4号による改正
前のもの)に基づき,町に代位して,被上告人に対し,上記損害の賠償を求める住
民訴訟である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 町は,法96条1項5号,地方自治法施行令(平成12年政令第55号に
よる改正前のもの)121条の2第1項,別表第1を受けて,「議会の議決に付す
べき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」(昭和39年a町条例第6号。以
下「本件条例」という。)を定めており,その2条は,工事の予定価格が5000
万円以上の請負契約を締結する場合には町議会の議決を要する旨を規定している。
 (2) 町は,国及び秋田県の補助事業として農業集落排水事業(以下「本件事業」
という。)を実施していた。本件事業は,沿線住民の生活向上に直結するものであ
り,b地区の住民からは,その早期着工を求める旨の陳情がされていた。町は,平
成8年度における本件事業の実施地区をb地区に決定して本件工事を計画し,同時
に,同地区の統合簡易水道事業に伴う工事も併せて実施することを計画し,同年度
内に上記各工事をいずれも完了する予定で,その前提の下に,国及び秋田県に対し
補助金の交付申請をし,その交付決定を受けていた。本件事業の工事費に係る補助
率は,国が50%,秋田県が15%である。
 (3) 被上告人は,本件工事を第1審判決別紙第一の(一)記載の工事区間等によ
る単一の工区の工事として実施する内容の設計をし(以下,同設計に係る工事を「
(一)の工事」という。),平成8年8月9日,指名競争入札を実施し,その落札者
との間で請負契約を締結することについての議案を町議会に提出したが,町議会は
,同月12日,上記入札に関して談合疑惑があることなどの理由により,同議案を
否決した。
 (4) 被上告人は,本件工事の設計を第1審判決別紙第一の(二)記載の工事区間
等による単一の工区の工事として実施する内容に変更し(以下,この変更後の設計
に係る工事を「(二)の工事」という。),平成8年9月9日,指名競争入札を実施
し,その落札者との間で請負契約を締結することについての議案を町議会に提出し
たが,町議会は,同月19日,町による談合疑惑の調査が不十分であるなどの理由
により,同議案を否決した。
 (5) 被上告人は,平成8年10月14日,町議会の全員協議会を開催して,本
件工事を三つの工区に分割して発注する方法により実施することを説明した。そし
て,被上告人は,本件工事の設計を第1審判決別紙第一の(三)の1ないし3記載の
三つの工区に分けて実施する内容に変更し(以下,この変更後の設計に係る工事を
「(三)の工事」といい,この設計変更を「本件設計変更」という。),同月21日
,指名競争入札を実施し,同別紙の(三)の1及び3記載の工事について同月22日
,同別紙の(三)の2記載の工事について同月25日,それぞれ同別紙の(三)の1な
いし3記載の各落札価格により,各落札者との間で請負契約を締結した(以下,こ
れらの契約を併せて「本件各契約」という。)。(二)の工事と(三)の工事とは,実
質的に同じ工事を行うものである。(三)の工事による場合の予定価格の合計額は,
(二)の工事による場合のそれより高いが,その増額割合は約6.2%にとどまる。
 3 原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 ①
本件工事のような土木工事については,その実施場所を一定の区域ごとの工区に分
け,それぞれの工区ごとに請負契約を締結することはあり得ることであり,本件工
事について複数の請負契約を締結することがおよそ非常識であるということはでき
ないし,工区の分割方法も,およそ非常識に細分化したものということはできない
こと,②
本件工事は,平成8年度に完了する予定で,その前提の下に補助金の交付が決定さ
れていたこと,③
本件工事は,b地区の住民の利益になるものであることが明らかであったし,同地
区の住民から早期着工の陳情がされていたこと,④
被上告人が,本件工事に関して1個の請負契約を締結することについて議会の議決
を求める議案を改めて提出しても,否決される可能性があったこと,⑤
本件工事を同年度内(平成9年3月31日まで)に完了させるためには,工期の短
縮が必要であり,工事を分割すると同年度内に完了する可能性があったこと,⑥
本件工事に係る指名競争入札において談合が行われたことを認めるに足りる証拠は
なく,2回目の指名競争入札における町の措置に格別違法な点はないこと,⑦
被上告人は,本件工事に係る国等からの補助金を繰り越すことが難しく,同年度内
に本件工事を実施するのが住民の利益にかなうものであり,実質的に議会の議決を
回避する結果となるとの非難を受けてもやむを得ないとの判断から,本件工事を(
三)の工事の内容に分割して請負契約を締結するに至ったものと認められること,

被上告人は,本件工事を分割発注して実施することについて町議会議員の賛同を得
るべく一応の努力をし,その意思を尊重しようとする態度を示していること,⑨
本件工事の予定価格は,(三)の工事による場合の方が(二)の工事による場合より高
くなるが,その増額割合は約6.2%にとどまることなどを考慮すると,被上告人
が,本件工事について,(二)の工事を内容とする請負契約の締結についての議会の
議決が得られなかった後,本件設計変更をした上で本件各契約を締結して実施した
ことには,一応合理的でやむを得ない理由があり,これが,予算の執行として行う
公共事業に係る工事の請負契約の締結に関して普通地方公共団体の長が有する裁量
権を逸脱した違法なものとは認められない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 公共事業に係る工事の実施方法の決定は,予算の執行権限を有する普通地方公共
団体の長が,財政状況,国等から交付される補助金の額や交付条件,公共事業の性
質や実施状況,工事の必要性や緊急性,工事の実施場所や内容,住民らの要望等の
諸般の事情を総合考慮して高度な経済的,政治的判断として行うものである。
 ところで,法96条1項5号は,「その種類及び金額について政令で定める基準
に従い条例で定める契約を締結すること」については,長ではなく,議会の議決に
よるものとしている。その趣旨は,政令等で定める種類及び金額の契約を締結する
ことは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから,これに
関しては住民の利益を保障するとともに,これらの事務の処理が住民の代表の意思
に基づいて適正に行われることを期することにあるものと解される。そうすると,
長による公共事業に係る工事の実施方法等の決定が当該工事に係る請負契約の締結
につき同号を潜脱する目的でされたものと認められる場合には,当該長の決定は違
法であると解するのが相当である。
 【要旨】前記事実関係等によれば,被上告人は,本件工事の実施方法として,ま
ず(一)の工事の内容により,次いで(二)の工事の内容により,2度にわたってその
予定価格が本件条例2条に定める金額を超える1個の請負契約を締結して実施する
ことを決定し,当該契約を締結することについての議案を町議会に提出したが,2
度とも否決された後,(二)の工事と実質的に同じ工事につき一の工事の予定価格が
いずれも5000万円未満となる本件設計変更をした上,本件各契約を締結したと
いうのである。このような経過に照らすと,被上告人は,(二)の工事と同じ内容の
工事を実施するに当たり,専ら法96条1項5号の適用を回避する意図で本件設計
変更をした上で本件各契約を締結したとみるべきではないかとも考えられ,仮にそ
うであるとすると,被上告人が本件各契約を締結したことは,同号を潜脱する目的
で行った違法なものといわざるを得ない。しかしながら,被上告人が本件設計変更
をして(三)の工事の内容による本件工事の実施を決定したのが,本件工事を実施す
る高度の必要性があり,その実施に不可欠で既に交付決定を受けていた補助金を利
用するためには本件工事に係る請負契約を締結して本件工事を平成8年度内(平成
9年3月31日まで)に完了させるほかなく,工期の短縮等の手段として工区を三
つに分割することが,本件工事の内容,性質,実施場所等に照らして合理的であっ
たなどの特段の理由に基づくものと認められる場合には,被上告人が本件各契約を
締結したことについて,同号を潜脱する目的で行った違法なものということはでき
ない。
 以上の点について,原審は,前記3の各事情を挙げて被上告人が本件各契約を締
結したことには一応合理的でやむを得ない理由があると判断しているが,本件記録
によっても,本件工事の実施場所もこれをどのように三つの工区に分割することに
したのかも判然としない上,原審が挙げる上記諸事情の中には,本件工事が複数の
工区に分割して契約するのに適したものかどうか,町が国等に対して本件工事に係
る補助金の繰越し等についてどのような折衝をしたか,工区の分割によりどの程度
工期が短縮されるかなど,上記諸事情の基礎となる事実関係について具体的な認定
を伴わないものがあり,原審が上記の観点から検討を尽くしているものとはいい難
い。そうすると,原審の上記判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及ぼすこと
が明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は,この趣旨をいうものとし
て理由がある。
 5 以上によれば,原判決は破棄を免れず,上記特段の理由の有無について審理
を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田
宙靖)

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