弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人名尾良孝、同松永東の上告趣意について。
 論旨は原判決判示(三)の事実摘示によれば「被告人等は相手方A工業株式会社
社長Bに対して害悪の通知とみらるべき言葉は述べていない。害悪の通知なるもの
が被告人の主催するC家一家を背景とする威力であるとしてもC家一家なるものは
常に不法なる威勢をa町一帯の住民に示していたかは何等客観的に明らかにされて
いない」と主張する。しかし、恐喝取財罪の成立するためには、所謂相手方に対す
る害悪の告知として必ずしも明示の言動を必要とするものではなく、自己の経歴性
行及び職業上の不法な威勢等を利用して財物の交付を要求し相手方をしてもしその
要求を容れないときは不当な不利益を醸される危険があるとの危惧の念を抱かしめ
るような暗黙の告知をなせば足るものといわなければならない(昭和二四年(れ)
九〇八号同年九月二九日当小法廷判決参照)。そして原判決がその事実認定の資料
とした証拠、殊にBに対する検察官及び司法警察官警部代理の各聴取書中の同人の
供述記載並びに被告人に対する検察事務官の昭和二二年七月二六日附聴取書中の供
述記載には、被告人がDその他数多の若者を輩下に擁してC家なる名のもとに興業
師をしていたものであるとの事実及び被告人自らも右Bに対し判示のような申出を
なすことにより、会社としても世間態が悪いので多少の金は持つて来るものと予期
しており、また被告人からかかる申出を受けたBにおいても会社として又は社長と
して責任を痛感する一方不良連中の集団であるC一家のこととて後難を怖れ個人の
資格で金一万円を被告人に交付した旨の事実を肯定するに足る資料が存在している
のである。これを要するに、原判決判示(三)の事実、すなわち被告人がBに対し
判示の如き言辞を弄してC一家を背景とする威力を示し暗に金員の交付を求めて同
人を脅し同人を畏怖させて判示のとおり現金一万円を交付させたとの事実は、原判
決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認するに足るものと認められるのである。原判
決には所論のような違法はなく、論旨は畢竟事実審たる原審の裁量権に属する事実
の認定を非難するに帰着し上告適法の理由とならない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二六年四月一二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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