弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は、原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告が被告の設置する長野県農業試験場の職員たる地位を有することを確認す
る。
2 被告は原告に対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月一八日以降完
済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決並びに第2項につき仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨の判決並びに予備的に担保を条件とする仮執行の免脱の宣言を求める。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、昭和四一年五月一六日、被告の機関である長野県農業試験場(以下試
験場という。)の農夫として採用され、以来試験場の農芸化学部所属の職員として
勤務し、春から秋にかけての期間は、試験場の圃場管理並びに収穫作業に、また冬
期間は収穫物の調査分析・実験等の補助作業に従事してきた。
2 原告は、地方公務員法(以下「地公法」と略称する。)一七条三項但書に規定
する選考により採用された被告の正規の常勤職員である。
3(一) しかるに、被告は、原告を正規の職員とは異なるいわゆる臨時職員とし
て取り扱い、地公法の任用に関する規定・給与、勤務時間その他の勤務条件に関す
る規定の趣旨及び同法一三条の規定に違反して正規の職員との間で極めて激しい差
別的取扱を続けてきた。原告は、いわゆる臨時職員扱いの農夫として、業務の上で
は正規の職員である農夫と全く同一の仕事を、全く同じ勤務形態のもとで行いなが
ら、身分上は地方公務員としての身分保障は一切なしとされて、極めて不安定な地
位に置かれたうえ、労働条件の面では、通勤手当すら支給されず、正規の職員たる
農夫とは比較にならない低賃金であるばかりか、年次有給休暇も与えられない等の
劣悪な労働条件を強いられ、地公法上あり得べからざる差別待遇を受けてきた。
(二) 被告が原告に対する違法な差別取扱をなしていなかつたならば、原告は被
告の職員として採用される以前に四〇年間の農業に従事した経験を有していたので
あるから、長野県職員給与条例の規定によれば、原告の採用時の給料は行政職六等
級一〇号俸に該当し、その後の原告の給料は、昭和四八年一〇月一日には同四等級
一〇号俸(月額八万八、二〇〇円)、同四九年七月一日には同四等級一一号俸(月
額一一万七、九〇〇円但し、同五〇年四月一日より月額一三万〇、五〇〇円とな
る。)に各該当していたはずのものである。ところが、原告が現実に支給されてい
た賃金額は、昭和四九年一〇月分以降同年一二月分まで月額三万二五五〇円、同五
〇年一月分以降同年一一月分まで月額四万二〇〇〇円である。本俸に諸手当のうち
期末勤勉手当、寒冷地手当分を付加して計算すると賃金面で原告が受けていた差別
(未払賃金)は、昭和四八年一二月以降の分で三〇〇万円を超え、同四五年一二月
以降の分では六〇〇万円を下らない。
(三) 被告の原告に対する差別取扱によつて原告の受けた精神的苦痛は、はかり
知れないものがあるが(身分的保障を剥奪されていたため、後記3(一)記載のと
おり被告により執拗に退職を強要されたことによる苦痛も含めて)、これを慰謝す
るためには二〇〇万円をもつて相当とする。
4(一) 被告は、昭和五〇年一一月一日付で試験場を長野市から須坂市に移転し
たが、試験場の移転を理由として、同年九月末頃、原告に対し同年一〇月末日限り
解雇する旨通告し、同年一〇月中旬頃解雇期限を一一月末日まで延伸する旨通告し
た。原告は解雇通告の撤回を求めて交渉を続けたが、被告はこれに応ぜず、原告に
対し執拗に退職を迫り、一一月末日長野市における試験場の残務整理完了ととも
に、原告を事実上解雇してしまつた。
(二) しかし、被告は、試験場を廃止したのではなく、原告の従事していた業務
そのものがなくなつたのではないから、原告に対する右解雇通告は何ら根拠のない
ものであり、地公法二七条・二八条に違反する無効のものである。
(三) 仮に、被告が原告を期限付で任用したのであつたとしても、約一〇年間に
わたり右期限付任用が更新されてきたことからすれば、被告の原告に対する任用は
期限の定めのないものと同等に評価されるべきであるから、原告に対する右解雇は
解雇権の濫用にあたり無効である。
5 仮に、原告の地位確認の請求が認められないとしても、被告は、原告に対し、
長野県退職条例により退職金を支払う義務がある。右退職金の額は、昭和五〇年一
二月一日当時における原告のあるべき給料月額が前記のとおり一三万〇五〇〇円で
あることから同条例の定める方法により計算すると一七六万一七五〇円となる。
6 よつて、原告は、被告に対し、主位的に、試験場の職員たる地位を有すること
の確認並びに未払賃金・損害賠償金の内三〇〇万円(第一次的に未払賃金、第二次
的に損害賠償金に充当する。)及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五一
年六月一八日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予
備的に、退職金一七六万一七五〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和
五一年六月一八日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を
求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1は認める。
3 同2は否認する。
3 同3(一)は争う。同(二)中、原告の現実に支給されていた賃金額が昭和四
九年一〇月分以降同年一二月分まで月額三万二五五〇円、同五〇年一月分以降同年
一一月分まで月額四万二〇〇〇円であつたことを認め、その余を争う。同(三)は
争う。
4 同4(一)中、被告が昭和五〇年一一月一日付で試験場を長野市から須坂市に
移転したこと、同年九月末頃原告に対し試験場の移転を理由に同年一〇月末日限り
解雇する(日々雇用を打切る)旨通告したこと、同年一〇月中旬頃解雇期限(日々
雇用打切りの期限)を一一月末日まで延伸する旨通告したこと、原告が解雇(日々
雇用打切り)の撤回を求めて交渉したことを認め、その余を否認する。同(二)、
(三)は争う。
5 同5は争う。
三 被告の主張
1 原告は、昭和四一年五月二日、試験場における日々雇用の純非常勤職員として
採用され、同五〇年一一月二八日まで勤務してきたものである。
2 被告の一般職に属する職員をその採用・勤務態様から分類すると、常勤職員と
非常勤職員に区分でき、後者は常時勤務することを要せずまた長野県職員定数条例
の適用を受けない者をいう。被告の非常勤職員の採用その他の取扱いについては、
一般職の非常勤の職員に関する規程(以下「取扱規定」と略称する。)が定めら
れ、これによると、純非常勤職員は、勤務を要する日及び勤務時間の双方またはい
ずれか一方が常勤職員と異なるものをいうとされており、採用についてはその本来
的性格に鑑み原則として各所属長の専決処理に委ねられ、勤務時間については一日
を単位として任用される者(但し、任用は一か月二二日未満とする。)にあつては
八時間以内とされ、給与については日額報酬に限定され各種手当等他の報酬は一切
支給されず、その額は常勤職員との均衡を考慮して予算の範囲内で決定することと
され年々改定されることになつており、その他の身分的取扱として、休暇制度・退
職手当制度の適用はなく、地方公務員共済組合員資格も有しないものとされてい
る。
3 地公法には、常勤職員の外に一般職の非常勤職員を置く旨の明文の規定はない
が、同法二二条一項、二五条三項等は非常勤職員の任用を前提としており、同法に
よつて非常勤職員を採用すること及びその採用の方法、給与その他の勤務条件、服
務の具体的内容等は、各地方公共団体の人事委員会及び任命権者の定めるところに
一任されているものと解される。
4 試験場長は、昭和四一年四月中旬頃原告から試験場への採用申込みを受けた
が、当時たまたま農芸化学部には常勤の農林技師が二名しかおらず、農繁期には人
手不足の状況にあつたため、正規の常勤農夫である右農林技師の作業の補助要員と
して採用することとなり、面接のうえ、日々雇用の純非常勤職員として採用した
が、その際、原告を日々雇用の純非常勤職員として採用すること及び常勤職員との
間で前記の身分的取扱の差異のあることを説明したところ、原告はこれを異議なく
了承したのである。
5 原告は採用後仕事の呑み込みが早く一部研究員から好遇されたこと、原告の方
から継続的雇用を要求したこと、高度経済成長時代のため農夫の職種に人手が集ま
りにくいので普段から人手の確保をしておかないと繁忙期に間に合わなくなること
等の事情から、一か月の勤務日数二一日以内が事実上厳守されなくなり、昭和五〇
年三月頃までは外見上ある程度通年的に雇用されていた。しかし、職員の採用は行
政行為であり、純非常勤職員として採用したものが、採用後の常勤的勤務の継続化
により突如として正規職員たる常勤職員の身分を取得することはありえないことで
ある。
6 被告は、昭和五〇年一一月二八日付で原告に対し日々雇用を打切つたが、これ
は、試験場の須坂市移転に伴い圃場面積が縮小されること、純非常勤職員に対して
は通勤費を支給しないことから現地採用を適当としたこと、原告の高年齢化による
作業能率の低下等を理由とするものであり、日々雇用打切り通告をするについて
は、長野県職員労働組合を介して協議を尽くし、同組合との間では報償金の支給と
再就職あつせんに努力することを条件に日々雇用打切りを承認する旨の合意が成立
し、原告に対しては再就職あつせんを現実に行なう等誠意を尽くしており、被告が
損害賠償義務を負う理由は全くない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1は否認する。
2 同2は争う。取扱規定による一般職の純非常勤職員は、常時勤務を要せず、か
つ恒久的でない職について、あるいは一般職の非常勤職員として採用せざるをえな
い特段の事情がある場合においてのみ、その採用が予定されていると考えねばなら
ない。
3 同3は争う。恒久的・恒常的業務につき、職員を期限付で採用し、給与その他
の待遇面で正規の職員と差別して取り扱うことは地公法上許されない違法な措置で
ある。
4 同4は否認する。
5 同5中、原告が通年的に雇用されていたことは認め、その余は争う。
6 同6中、昭和五〇年一一月二八日付で解雇通知のあつたことを認め、その余を
争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告が昭和四一年五月一六日被告の機関である試験場の農夫として採用された
こと、原告がそれ以来試験場の農芸化学部所属の職員として勤務し、春から秋にか
けての期間は同試験場の圃場管理並びに収穫作業に、冬期間は収穫物の調査分析・
実験等の補助作業に従事してきたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告は、「原告は、地公法一七条三項但書に規定する選考により採用された、
被告の正規の常勤職員である。」と主張し、これに対し、被告は、「原告は、試験
場における日々雇用の純非常勤職員として採用されたものである。」といつて争う
ので、まず、この点について判断する。
 成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第七、第八号証、第一一ないし第一三
号証、乙第三号証、第六ないし第八号証、第一二号証、証人A、同B、同C、同
D、同Eの各証言、原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)を
総合すると、次のとおり認めることができる。
 試験場は、農業生産の増大による地域農民の福祉の増大に寄与することを目的と
して設置され、農作物の品種改良・裁培技術の試験研究を実施していたが、各職務
分担を異にする六部により組織され、その内農芸化学部は作物の生産向上を図るた
めの土壌及び肥料改良の試験研究をその職務分担としていた。農芸化学部には、昭
和四一年当時、部長一名、研究員一〇名、農林技師二名のいずれも長野県職員定数
条例(昭和二四年長野県条例第三七号)の適用を受ける常勤職員(以下正規職員と
いう。)が配置されていたが、同部にある試験研究用の約五四アールの農場を管
理・運用するについては、作物裁培の性質上作業量が季節的に増減することから、
右農場における単純な肉体的労務を内容とする農作業に従事する者としては、正規
職員である農林技師二名のみでは右作業量の増減に対応できないので、これを補助
するために日々雇用される非常勤職員を採用し稼働させていた。また、同部では実
験室における試験研究の単純な補助作業についても、冬期間に作業量が集中すると
いう季節的な作業量の増減があつたので、同様に日々雇用される非常勤職員を採用
して稼働させていた。したがつて、農芸化学部では、日々雇用される非常勤職員
は、一応は農場担当と実験室担当に区分されていて、前者は筋肉労働を主たる内容
とする労務であつたので男子が、後者は室内での細かい仕事であることから女子が
それぞれ採用されることが多かつたが、実際には、春・秋の季節に農場の作業量が
増大する時期には実験室担当の非常勤職員が、冬期間における実験室の作業量が増
大する時には農場担当の非常勤職員が相互に手伝うようになり、かくして日々雇用
の更新が年間を通じて継続されることになり、非常勤職員として採用された者の内
にも勤務の実態が事実上常勤化された者もいるようになつていた。なお、試験場に
おける日々雇用される非常勤職員の任用は、被告の「一般職の非常勤の職員に関す
る規程(昭和三三年四月二八日人第五八号)」により試験場長の権限とされていた
が、事実上は現場の要請を考慮して各部長が採用を内定し、試験場長がこれを承認
するという運用がなされていた。原告は、昭和四一年三月長野市<以下略>の長男
宅に同居するようになり、同所の近傍に試験場が所在していたところ、同年四月
頃、新聞で「行政に対する不満があれば申し出るよう。」記した被告の広告を見
て、試験場の農夫として稼働したいと考え、試験場長宛に葉書で原告を農夫として
採用してもらいたい旨申し出た。その後、同年五月初旬頃、原告は試験場に呼び出
され、庶務部長から農芸化学部に案内された。同部においては部長と研究員数名が
原告の経歴を聞く程度の簡単な面接をした後、農作業を担当する農夫たる日々雇用
の非常勤職員として採用することを内定した。右面接の際に、試験場側からは、原
告の従事する職務の概要を話したうえ、原告を採用するについて身分は正規職員と
は異なる臨時の職員であつて、給料は非常に安く、年末手当等の手当の支給は一切
ない等の正規職員とは異なる身分上の取扱がなされることを説明したが、原告はこ
れを異議なく了承した。右採用当時、原告の年齢は五四歳で、被告の正規職員に対
する当時のいわゆる退職勧奨年齢は五四ないし五五歳であつたことから、原告が正
規職員として採用される余地は殆どないものであつた。原告は、右採用当初から、
試験場において臨時職員と呼ばれていたことや、毎月一回交付される賃金支給明細
書には日給額と出勤日数が記載され出勤日数に応じて現金支給額が計算されていた
こと、更に同僚との会話により原告が正規職員とは雇用形態に差異があり、異なつ
た身分的取扱を受けていたことは理解していた。また、原告に対し、昭和四三年一
〇月三一日付で「農芸化学部勤務を命ずる。日額五九〇円を給する。任用期間は昭
和四四年三月三一日限りとする。」、同四五年四月一日付で「非常勤職員を命ず
る。報酬日額八五〇円を給する。任用条件、任用予定期限昭和四五年四月一日より
同年六月三〇日まで、勤務を要する日一か月二一日、勤務時間午前八時三〇分より
午後五時一五分まで。本日上記のとおり発令になりました。」、同四九年九月一七
日付で「純非常勤職員を命ずる。報酬日額一、五五〇円を給する。任用条件、任用
予定期限昭和四九年一〇月一日から同五〇年三月三一日まで、勤務を要する日一か
月二一日場長の指定する日、勤務時間、一、月曜日から金曜日まで午前八時三〇分
から午後五時一五分まで、二、土曜日午前八時三〇分から午後零時まで。本日上記
のとおり発令になりました。」旨の人事通知書が試験場長名で各交付されて、原告
の雇用関係を一層明確にして取扱われるに至つたが、これに対し原告が異議を唱え
たことはなかつた。原告の従事する仕事の内容は、本来農場における農作業を主と
するもので恒常的な勤務を要する職種ではなかつたが、原告の採用された昭和四一
年頃以降公害問題の多発等により農芸化学部の職務の量全体が増大する傾向にあ
り、また作業量の増大する時期のため、予め非常勤職員を確保しておかなければ時
期に応じて人手を集めることが容易でない社会情勢にあつたこと等の事情から、原
告は冬期間においても実験室の試験研究の補助作業に従事する者として通年的に雇
用が継続され、原告の勤務の態様及びその従事する仕事の内容は正規職員である農
林技師のそれとほぼ同様のものであつた。もつとも、右仕事は、農場関係にせよ、
実験室関係にせよ、全て正規職員である研究員の試験研究業務を補助するための単
純な性質の労務であつたのみならず、いずれも上司である研究員の具体的指示に基
づいてなされていたもので、その遂行に格別の専門の知識及び経験を要するもので
はなく、一般の人が比較的容易にその職務に適応できるという意味で代替性の強い
性質のものであつた。そして、原告に対しては、勤務日数に応じた日額報酬が支払
われたほかは、諸手当は一切支給されず(但し、毎年一二月には一週間ないし一〇
日分の報酬にあたる手当が恩恵的に支給された。)、有給休暇も与えられず、共済
組合員資格も与えられなかったので、原告は、失業保険、健康保険、厚生年金保険
に加入していた。
 以上の認定に反する原告本人の供述部分は、前掲各証拠と対比してたやすく措信
できず、他にはこれを左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、原告
は、任期を一日と定められ、日々雇用される非常勤職員に任用されたものであり、
その後も、あらたな任用が繰り返えされ或は日々雇用が黙示的ないし明示的(任用
予定期限の付されている場合)に更新されてきたものであつて、被告の正規の常勤
職員に任用されたものではないといわざるをえない。
三 原告は、恒久的・恒常的業務につき職員を期限付で採用することは、地公法上
許されない違法な措置であると主張する。地公法の下において職員の期限付任用が
許されるかどうかについては、法律に別段の規定はないが、地公法一条に規定する
同法の目的に鑑みると、恒常的に置く必要がある官職にあてるべき常勤の職員につ
いては、職員の身分を保障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させ、もつて
公務の能率的運営に資するため、期限の定めなしに任用するのが法の建前であり、
したがつて職員の任期を定めた任用は、それを必要とする特段の事由が存し、且つ
それが右の趣旨に反しない場合に限り許されるものと解するのが相当である。そこ
で、原告の任用に付せられた期限の定めにつき、それが地公法上許されるものであ
つたか否かにつき検討する。前示認定事実によれば、原告の従事する職務の内容
は、正規職員である常勤の農林技師のそれとほぼ同じ内容のものであつたけれど
も、その性質は肉体的労務あるいは試験研究の単純な補助作業であつて、いずれも
上司である研究員の具体的指示に基づいてなされるもので、その遂行に格別の専門
の知識及び経験を要するものでなく、一般の人が容易にその職務に適応できるとい
う意味で代替性の強い性質のものであつたから、その職務と責任の特殊性からいつ
て、任期を一日として任用しても地公法のとる前記のような建前に反するものでは
ないと考えられるし、原告がその採用当時被告のいわゆる退職勧奨年齢に達してい
たことからすると、原告を正規職員として任用することは現実には極めて困難な状
況にあつたといえるのであるから、原告の同意を得たうえ任期を一日と定めて任用
することについては、それを必要とする特段の事由が存したものと解するのが相当
である。そうとすると、原告の任用に付せられた任期の定めは、地公法上許される
ものであり有効なものといわなければならない。原告の頭書の主張は理由がない。
四 原告は、被告が原告を正規職員として取り扱わず、いわゆる臨時職員として労
働条件において正規職員との間で差別的取扱をしたのは、地公法上違法である旨主
張する。
 原告が任期を一日とする日々雇用される非常勤職員として採用されたものである
こと、原告に対しては、給料として日額報酬が支給されただけで諸手当は支給され
ず、有給休暇も与えられなかつたことは、前示二に認定したとおりである。
 ところで、地公法は、職員の給与がその職務と責任に応ずるものでなければなら
ないこと(二四条一項)、職員の給与、勤務時間その他の勤務条件を条例で定める
こと(二四条六項)、職員の給与は右給与に関する条例に基づいてのみ支給されな
ければならないこと(二五条一項)、右給与に関する条例には非常勤職員の職につ
いて行う給与の調整に関する事項を定めること(二五条三項五号)を明定している
ことに徴すると、非常勤職員についてその職務と責任の特殊性に基づいて常勤職員
との間で給与その他の勤務条件について異なつた取扱のなされることを条例で定め
ることは、同法上許されるものと解するのが相当である。そして、一般職の職員の
給与に関する条例(昭和二七年三月二九日長野県条例第六号)は、非常勤職員につ
いては同条例で給与とは報酬をいうとし(三条、なお常勤職員については給料その
他の諸手当をいうとする。)、非常勤職員については常勤職員との権衡を考慮して
予算の範囲内で報酬を支給する(四六条)旨を規定する。また、職員の勤務時間及
び休暇等に関する規則(昭和二七年五月二九日長野県人事委員会規則四号)八条の
二は、職員の勤務時間及び休暇等に関する条例(昭和二七年三月二九日長野県条例
九号)八条の規定により非常勤職員に与えられる休暇については別に人事委員会が
定めるところによると定め、一般職の非常勤の職員に関する規程(昭和三三年四月
二八日人第五八号)では、非常勤職員の有給特別休暇について規定するのみであ
る。そうすると、原告が日々雇用の非常勤職員として採用されたものである以上、
原告に対し前記のとおり正規職員とは異なる取扱をしたことは、地公法、長野県条
例に違反するものではないというべきである。
 してみれば、原告に対し正規職員と異なる取扱をしたことが違法であることを前
提として、被告に対し、未払賃金及び損害賠償金の支払を求める原告の請求は、そ
の余の点について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。
五 被告が昭和五〇年一一月一日付で試験場を長野市から須坂市に移転したこと、
同年九月末頃原告に対し試験場の移転を理由に同年一〇月末日限り日々雇用を打切
る旨通告したこと、同年一〇月中旬頃、日々雇用打切りの期限を一一月末日まで延
伸する旨を通告したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
 原告は、約一〇年間にわたる期限付任用の更新により、被告の原告に対する任用
は、期限の定めのないものと同時に評価されるべきであるから、原告に対する日々
雇用打切りの通告(解雇)は、解雇権の濫用にあたり無効である旨主張する。しか
しながら、期限付任用と「任期の定めのない任用」とは性質を異にする別箇の任用
行為であり、特に後者は厳格な要式行為であるから、任命権者による任期の定めの
ない職員への任命行為がない以上、期限付任用がいかに長期間更新されたとして
も、期限付任用としての性質を変じ、任期の定めのない任用に転換するものではな
い。原告の主張は採用できない。
 すると、原告は日々雇用の任用につき昭和五〇年一一月三〇日の経過をもつて、
同日の任期満了により当然退職して試験場の職員である地位を失つたといわなけれ
ばならない。従つて、被告に対し、試験場の職員たる地位を有することの確認を求
める原告の請求は、理由がないものといわなければならない。
六 原告は、被告が原告に対し、原告の解雇通告の撤回を求める交渉に応じないで
執拗に退職を迫り、昭和五〇年一一月末日に事実上解雇したことは違法であると主
張する。しかしながら、原告が昭和五〇年一一月末日の経過により期限満了により
当然退職したことは前示認定のとおりであり、元来日々雇用者の任用を更新するか
否かは雇用主たる被告の自由裁量に属するものである。したがつて、原告に対する
日々雇用の任用を更新しなかつたからといつてそのことが直ちに違法であるとはい
えないし、その他本件において原告が期間満了により退職したことに関して被告が
原告に対し違法行為を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はない。してみると、
被告に対し、原告の退職について損害賠償金の支払を求める原告の請求は理由がな
いものといわなければならない。
七 原告は、原告が被告の職員たる地位を失つた場合には、被告は原告に対し退職
金を支払う義務があると主張する。
 しかしながら、長野県職員退職手当条例(昭和二八年一二月一七日条例六七号)
の規定による退職手当は、常勤職員が退職又は死亡した場合に支給される(二条一
項)ものであるところ、原告が被告の常勤職員として任用されたものでないこと
は、前示認定のとおりである。したがつて、被告に対し退職金の支払を求める原告
の請求は、理由がないものといわなければならない。
八 よつて、原告の請求は、いずれも失当であるから、これを棄却し、訴訟費用に
つき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 安田実 松本哲弘 三木勇次)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛