弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 被告人等(但しA被告を除く)の弁護人三浦強一、丸茂忍、A被告の弁護人田村
虎一の各控訴趣意は記録編綴の各控訴趣意書記載のとおりであり、検察官の答弁は
記録編綴の答弁書記載のとおりであるから茲に各これを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 一、 弁護人三浦強一、丸茂忍連名の控訴趣意第一、三、四点同丸茂忍の控訴趣
意第一、三点同田村虎一の控訴趣意について
 競売又は入札において競争者が互に通謀して或る特定の者をして契約者たらしめ
るため他の者は一定の価格以下又は以上に入札しないことを協定するいわゆる談合
行為の不法性、可罰性については従来より議論の存したところであつたが、昭和一
六年の刑法改正に当り新たに現行刑法第九六条の三の規定が設けられ立法的に解決
を見るに至り、その結果談合は本来それ自体において競売又は競争入札制度の本旨
と相容れないものがあるけれどもその内容の如何によつては必ずしも注文者に財産
上の損害を及ぼすものとは限らず、一面業者の正当な利益をも擁護するためすべて
の談合を以て不法性、可罰性があるものとはせず、たゞ国家又は公共団体はその特
殊の性格と事情から一般業者を相手方として契約を締結せんとするに当つては競争
入札の方法によらざるを得ない場合が多々あり、これによる不測の損害を避け公務
の適正を期する必要があるところから特に公の競売又は入札における不正の談合即
ち公正な価格を害し又は不正の利益を得る目的を以てした談合に限り可罰性を認め
然らざるものは処罰されないものとせられたことは右立法の経過等に照し明らかな
ところである。
 以上のように前記刑法第九六条の三第二項は競争入札制度を認める前提の下に国
家又は公共団体の行う競争入札においてこれに不利益を及ぼす虞のある不正の談合
を禁止し、処罰せんとするの法意であることにかんがみるときは、同条項にいわゆ
る公正なる価格とは、つとに大審院判例(昭和一七年(れ)第一五九七号昭和一九
年四月二八日第三刑事部判決)の示すとおり入札の観念を離れ一般物価水準により
測定される客観的適正価格を指すのではなく、入札における公正なる自由競争によ
つて形成される落札価格即ち当該入札において当該談合がなかつたとせば当然到達
されたであらう落札価格を指すものと解しなければならない。従つて同条項に該当
する談合であるかどうかを判定するには先ずその談合の具体的内容を明らかにしな
ければならない。
 本件において原判決の認定した事実によれば、被告人等はいずれも紹和二四年五
月二六日山口県玖珂郡a村の施行した同村立B中学校の新築請負工事の競争入札に
際し、右入札指定者又はその代理人として判示C旅館に会合し(但し被告人Dはそ
の長男Eを出席させて指図した)右入札に関し、先ず親札をa村の最高予定価格で
ある金三百六十万円とし、いわゆる「せり出し」の方法で最も多額の談合金を提供
する者を以て落札者と定める入札を行い、その結果談合金六十万円の入札をしたF
株式会社を以て落札者と定めその他の者は右親札の額より高く入札することにより
落札者とならないよう申合せて談合したというのであり、そしてその翌日a村役場
における入札の直前、右F株式会社は被告人等一部の同意を得て更に前記談合金を
四十五万円と変更すると共にその入札額も三百四十五万円と変更し、結局該工事は
同会社に右金三百四十五万円で落札となつたが、右談合金は協定(請負契約締結と
同時に先ず十二万円を平等分配し残額は第一回の工事請負金受領の際平等分配する
の約定)に従い被告人等談合者間に分配されることゝなり、その第一回の分配金と
してG、H両被告を除くその余の被告人等は各自金五千円宛を取得した、(G、H
両被告は右分配金受領前本件が発覚したため未受領に終つた)こともその挙示する
証拠によつて認められるところであつて、記録を精査するも右事実の誤認は認めら
れない。
 <要旨>以上の事実からして明らかなように、本件談合は単純に落札者のみを定め
又は営業上適正な請負価格の維持等を目的としてなされたものではなく当初
から談合金の取得を意図してなされたものであることが窺われるのみならず、右の
談合がなかつたとすれば少くともF株式会社としては金三百万円若しくは三百四十
五万円以下で入札したであらうことも容易にこれを推測することができるものとい
うべく、然るときは右の金額を以て落札となつたであらうことも疑う余地のないと
ころであるから(a村の最低予定価格はその定めがなかつたものである)、結局注
文者であるa村としては本件談合によりその差額だけ不利益を蒙つたことゝなる筋
合であり、且つ右のことは業者としてはた又前記「せり出し」の方法による談合の
参加者として被告人等の当初から知悉していたところであることも勿論であるとい
わねばならない。そして被告人等が以上のような内容の談合であることを知悉し乍
ら敢てこれに参加した以上右は正に前記同条項にいわゆる公正なる価格を害し又は
不正の利益を得る目的を以て談合した者に該当するものと断ぜざるを得ないのであ
る。
 従つて原判決がこれに対し同条項を適用処断したのは正当であつて所論のような
法令適用の誤はない。又同条項違反罪は同項所定の目的を以て協定(談合)をする
ことにより成立するものと解すべきものであるから原判決はその説明においてやゝ
簡略の嫌はあるけれども必ずしも所論のように理由不備であるとはいえない。
 要するに所論は前記同条項の解釈につき右と異る見解に立脚して原判決の事実認
定ないし法令の適用を非難するものであつてすべて採用し難い。
 二、 弁護人三浦強一、丸茂忍連名の控訴趣意第二点について
 原判決はその判示事実の認定証拠の一として「被告人等(被告人Dを除く)の当
公判廷における各供述を挙示していることは所論のとおりである。ところで記録に
よると右は主として原審第十一回公判廷における同被告人等の司法巡査及び司法警
察員に対する供述調書の任意性の調査等につき質問した際の供述を引用した趣旨で
あると解されるのであるが、右は何等所論のように原判示事実と相反する供述では
ないのみならず、本件は右供述を除外してもその挙示する他の証拠を綜合すること
によつて優に原判示事実を認定することができるのであるから論旨は結局理由がな
い。
 三、 弁護人三浦強一、丸茂忍連名の控訴趣意第五点、同丸茂忍の控訴趣意第二
点について
 原審は被告人Dに対し訴因罰条の変更手続を経ないで正犯としての本件起訴につ
き教唆犯として処断していることは所論のとおりであるけれども、元来本件は原判
決認定の事実によれば被告人Dはその長男Eと共謀して本件を犯したもの即ち右両
名は共同正犯の関係に立つものであるにかゝわらず、原審はその法的評価を誤り教
唆犯を以て擬律したに過ぎないものである。そして右の正犯と共同正犯とはその公
訴事実は勿論構成要件においても同一性を失うものではなく、且つ記録によると検
察官は原審第三回公判廷における冒頭陳述において右共犯の事実を明らかにし右の
点に関する証人Eの尋問請求をなし、同第六回公判廷において同被告人並びに弁護
人立会の上右証人尋問が行われたのであつて、被告人側としても実質的に防禦に支
障を来たしたものとも認められないから、訴因変更の手続を経なかつたとしても、
所論のような違法があるとは言えないし、又共同正犯として擬律すべきものを誤つ
て教唆犯として擬律した違法があるとしても右は判決に影響を及ぼすことが明らか
であるとは必ずしも言えないから論旨は結局理由がない。
 以上本件控訴はいずれもその理由がないから刑事訴訟法第三九六条により棄却す
べきものとして主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 秋元勇一郎 判事 尾坂貞治 判事 高橋英明)

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