弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成24年7月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第6732号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成24年7月3日
判決
東京都大田区〈以下略〉
原告株式会社テレビショッピング研究所
訴訟代理人弁護士村瀬拓男
大阪府八尾市〈以下略〉
被告クラフトジャパン株式会社
大阪府藤井寺市〈以下略〉
被告A
主文
1被告クラフトジャパン株式会社は,原告に対し,762万3600
円及びこれに対する平成24年4月14日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
2原告の被告Aに対する請求を棄却する。
3訴訟費用は,原告と被告クラフトジャパン株式会社との間に生じた
費用は全部被告クラフトジャパン株式会社の負担とし,原告と被告A
との間に生じた費用は全部原告の負担とする。
4この判決の第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して762万3600円及びこれに対する被告
クラフトジャパン株式会社については平成24年4月14日から,被告Aにつ
いては同月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,登録商標の専用使用権者である原告が,被告クラフトジャパン株式
会社(以下「被告会社」という。)が当該登録商標に類似する標章を付した商
品を販売した行為が原告の専用使用権の侵害行為に当たり,被告会社の代表取
締役である被告Aがその職務を行うについて悪意又は重大な過失があった旨
主張し,被告会社に対し,専用使用権侵害の不法行為に基づく損害賠償の支払
を求めるとともに,被告Aに対し,会社法429条1項,430条に基づき,
被告会社と連帯して損害賠償の支払を求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)当事者
ア原告は,テレビ又はインターネットを通した通信販売等を業とする株式
会社である。
イ被告会社は,電化製品等の輸入,販売等を業とする株式会社であり,被
告Aは,その代表取締役である。
(2)原告の専用使用権
原告は,下記アの商標権(以下,その登録商標を「本件登録商標」という。)
について,商標権者であるBから下記イの専用使用権(以下「本件専用使用
権」という。)の設定及びその登録を受けた専用使用権者である。
ア商標権
登録番号商標登録第5278226号
出願年月日平成21年2月2日
登録年月日平成21年11月6日
指定商品第7類家庭用電気式床洗浄機
登録商標別紙登録商標目録記載のとおり
イ専用使用権
地域日本全国
期間商標権の存続期間満了まで(平成31年11月6
日まで)
内容指定商品家庭用電気式床洗浄機
受付年月日平成22年2月25日
(3)被告会社の本件専用使用権侵害の不法行為責任
ア被告会社の行為
被告会社は,遅くとも平成23年4月ころから,インターネットのウェ
ブサイト上で,被告会社が販売するスチームモップ(以下「被告商品」と
いう。)に関する広告に別紙被告標章目録記載1の標章(以下「被告標章
1」という。)を使用し,同目録記載2の標章(以下「被告標章2」とい
う。)を付した被告商品を販売している。
イ本件登録商標と被告標章1及び2との類否
(ア)本件登録商標は,別紙登録商標目録記載のとおりであり,「H2O」
の文字から構成されている。
被告標章1は,「2」のみをやや小さく表示した「H2O」の語と,「s
teammop」の語とを横一列に配置した構成からなるが,「st
eammop」の語は,この種の商品の用途・機能を記述的に表示し
たものにすぎず,かつ,「H2O」の語と「steammop」の語
も,1文字程度のスペースを介在させて表示されている。そのほか,全
体を不可分一体であると見るべき格別の事情も存在しないことから,被
告標章1の要部は,「H2O」の文字部分にあり,これが独立して自他
商品の識別標識として機能するものであることは明らかである。
そうすると,本件登録商標と被告標章1の要部とは,その称呼を共通
にし,かつ,いずれも「水を示す分子記号」との観念を生じさせるもの
であるから,被告標章1は,本件登録商標に類似する。
(イ)被告標章2は,涙型の青色の図形に白抜き文字で「H2O」及び「M
OP」の各文字を上下2段に配し,その下段に白いラインを配し,当該
白色ライン上に赤色の文字で「ULTRA」の文字を配してなるもので
ある。
しかるに,被告標章2において「MOP」の語に自他商品の識別標識
としての機能が認められないことは明らかであり,かつ,品質を「誇称
的に」表示する「ULTRA」の語についても自他商品の識別標識とし
ての機能が認められないから,その要部は,「H2O」の文字部分にあ
り,これが独立して自他商品の識別標識として機能するものであること
は明らかである。
そうすると,本件登録商標と被告標章2の要部とは,その称呼を共通
にし,かつ,いずれも「水を示す分子記号」との観念を生じさせるもの
であるから,被告標章2は,本件登録商標に類似する。
ウ指定商品の同一性
被告商品は,本件登録商標の指定商品である「家庭用電気式床洗浄機」
と同一の商品である。
エ専用使用権の侵害
以上によれば,被告会社による被告標章2を付した被告商品の販売は,
本件登録商標の指定商品について本件登録商標に類似する商標の使用に
当たるから,原告の本件専用使用権の侵害とみなす行為(商標法37条1
号)に該当する。
したがって,被告会社は,原告に対し,本件専用使用権侵害の不法行為
に基づく損害賠償責任を負う。
(4)被告Aの会社法429条1項に基づく責任
被告会社の代表取締役の被告Aは,被告会社の業務執行として,自ら中国
に赴くなどして,製造事業者から被告商品を買い付け,輸入を行っている。
電化製品の輸入販売事業に関わる者であれば,被告商品に付された被告標
章2を見れば,これが他者の商標ではないかとの疑いを持ち,調査確認すべ
きことは当然である。
したがって,被告Aは,被告会社が被告商品を販売する行為が,原告の本
件専用使用権を侵害する行為であることを容易に知り得たものであり,その
職務を行うについて悪意又は重大な過失があったことは明らかであるから,
会社法429条1項により,原告に対し,損害賠償責任を負う。
(5)原告の損害額
ア商標法38条1項に基づく損害額
(ア)譲渡数量(販売数量)
被告会社が平成23年4月ころから本件訴えの提起日(平成24年3
月8日)までの間に販売した被告商品の販売数量は400台を下回るも
のではない。
(イ)単位数量当たりの利益額
a原告は,平成22年6月ころから,商品名を「H2Oスチームモ
ップULTRA」とする商品(以下「原告商品」という。)を販売
している。原告商品は,原告が被告会社による本件専用使用権の侵害
行為がなければ,販売することができた商品に該当する。
b原告商品の販売価格は,1台当たり2万2800円(税込み)であ
る。
原告商品の購入原価を平成23年10月から同年12月までの3
か月間の仕入実績から算定すると,1台当たり5466円となる。
【計算式・購入総額1億3639万1390円(税抜き)÷仕入購入
台数2万6200台×1.05=5466円(税込み)】
cそうすると,原告商品の1台当たりの利益額は,1万7334円(a
-b)となる。
(ウ)損害額
したがって,商標法38条1項により算出される原告の損害額は,6
93万3600円となる。
【計算式・400台×1万7334円=693万3600円】
イ弁護士費用
被告らによる本件専用使用権の侵害行為等と相当因果関係のある原告
の弁護士費用相当額の損害は,69万円である。
ウ小括
以上によれば,原告の損害額は,合計762万3600円(前記ア及び
イの合計額)となる。
(6)まとめ
よって,原告は,被告会社に対しては本件専用使用権侵害の不法行為に基
づく損害賠償請求権に基づき,被告Aに対しては会社法429条1項,43
0条に基づき,762万3600円及びこれに対する訴状送達の日の翌
日(被告会社については平成24年4月14日から,被告Aについては同月
16日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連
帯支払を求める。
2被告らの主張
(1)被告会社の本件専用使用権侵害の不法行為責任(請求原因(3))について
被告会社が平成23年4月ころから被告標章2を付した被告商品を販売
したことは認める。被告標章2が本件登録商標に類似する商標に該当するこ
と,被告商品が本件登録商標の指定商品と同一の商品であることは,積極的
に争わない。
(2)被告Aの会社法429条1項に基づく責任(請求原因(4))について
被告会社が被告商品を輸入するに際し税関を通過したこと,被告商品を取
り扱っている業者が,被告会社の他にも複数存在していたことから,被告A
は,被告商品の輸入販売は違法ではないと判断した。
したがって,被告Aが,被告商品の販売が本件専用使用権の侵害行為に該
当する違法な行為であると認識できなかったことにつき,悪意はもとより,
重大な過失もない。
(3)原告の損害額(請求原因(5))について
原告主張の原告の損害額は争う。
被告会社が被告商品を400台輸入したことは認めるが,その販売数量は
400台を下回る。また,原告商品の1台当たりの利益額は不知。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)ないし(3)関係
証拠(甲1,5,9の1ないし4,10)及び弁論の全趣旨によれば,請求
原因(1),(2)及び(3)アの事実が認められる。
そして,被告標章2が本件登録商標に類似する商標に該当すること(請求原
因(3)イ),被告商品が本件登録商標の指定商品と同一の商品であること(同
ウ)は,争いがない。
そうすると,被告会社による被告標章2を付した被告商品の販売は,本件登
録商標の指定商品について本件登録商標に類似する商標の使用に当たるから,
原告の本件専用使用権の侵害とみなす行為(商標法37条1号)に該当すると
ころ,商標法39条において準用する特許法103条により,被告会社には,
本件専用使用権の侵害行為について過失があったものと推定される。
したがって,被告会社は,少なくとも過失により本件専用使用権の侵害行為
を行ったものと認められるから,原告に対し,本件専用使用権侵害の不法行為
に基づく損害賠償責任を負うもの(請求原因(3)エ)と認められる。
2請求原因(4)関係
原告は,被告会社の代表取締役の被告Aは,被告会社の業務執行として,自
ら中国に赴くなどして,製造事業者から被告商品を買い付け,輸入を行ってい
たものであるところ,電化製品の輸入販売事業に関わる者であれば,被告商品
に付された被告標章2を見れば,これが他者の商標ではないかとの疑いを持
ち,調査確認すべきことは当然であり,被告会社が被告商品を販売する行為が,
原告の本件専用使用権を侵害する行為であることを容易に知り得たものであ
るから,その職務を行うについて悪意又は重大な過失(会社法429条1項)
があった旨(請求原因(4))主張する。
そこで検討するに,会社法429条1項は,取締役等の会社の役員等が,会
社に対する善管注意義務及び忠実義務を負うことを前提として悪意又は重大
な過失によってこれらの義務に違反する任務懈怠行為を行い,これによって第
三者に損害を被らしめた場合において,その損害賠償義務を負うことを定めた
規定であると解されるところ,本件全証拠によっても,被告Aにおいて本件登
録商標の存在を知りながら,あえて被告会社に被告標章2が付された被告商品
を輸入及び販売させたことを認めるに足りない。また,本件登録商標が周知で
あったことをうかがわせる事情も本件の証拠上認められないことに照らすな
らば,被告Aにおいて,被告商品に付された被告標章2を見て他者の登録商標
ではないかとの疑いを持ち,調査確認をしなかったことについて,過失はとも
かく,重大な過失があったとまで認めるに足りない。
したがって,被告Aが故意又は重大な過失によって被告会社に対する任務懈
怠行為を行ったものと認めることはできないから,原告の上記主張は,採用す
ることができない。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告Aに対
する請求は,理由がない。
3請求原因(5)関係
(1)商標法38条1項に基づく損害額
証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社が平成23年4月ころ
から本件訴えの提起日(平成24年3月8日)までの間に販売した被告商品
の販売数量は400台を下回るものではないことが認められ,これに反する
証拠はない。
次に,証拠(甲7,8)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品が,原告が
被告会社による本件専用使用権の侵害行為がなければ,販売することができ
た商品に該当すること,原告商品の1台当たりの利益額が,原告の主張のと
おり,1万7334円であることが認められ,これに反する証拠はない。
そうすると,商標法38条1項により算出される原告の損害額は,原告の
主張のとおり,693万3600円であることが認められる。
(2)弁護士費用
本件事案の性質,審理の経過等諸般の事情を総合考慮すると,被告会社に
よる本件専用使用権の侵害行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用相
当額の損害は,原告の主張のとおり,69万円と認めるのが相当である。
(3)まとめ
よって,原告は,被告会社に対し,本件専用使用権侵害の不法行為に基づ
く損害賠償として762万3600円(前記(1)及び(2)の合計額)及びこれ
に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成24年4月
14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払
を求めることができる。
4結論
以上によれば,原告の請求のうち,被告会社に対する請求は理由があるから
これを認容することとし,被告Aに対する請求は理由がないからこれを棄却す
ることとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官上田真史
裁判官石神有吾
(別紙)登録商標目録
(別紙)
被告標章目録被告標章目録被告標章目録被告標章目録
イ号標章
ロ号標章

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛