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平成27年5月29日判決言渡し
平成26年(行コ)第177号所得税決定処分取消等請求控訴事件
主文
1原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2本件訴えのうち,上記部分についての取消請求に係る訴えをいずれも却下
する。
3原審における訴訟費用はこれを10分し,その1を被控訴人の,その余を
控訴人の負担とし,控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1主文第1,2項と同旨
2訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1事案の要旨及び本件訴訟の経過
(1)被控訴人は,自宅のパーソナルコンピュータ等を用いてインターネット
経由で勝馬投票券(以下「馬券」という。)の購入申込みができ,加入時に
開設した専用の銀行口座を通じて馬券の購入代金の支払及び当たり馬券の払
戻金の決済を行うことができるという,日本中央競馬会が提供するサービス
(PAT方式)を利用し,馬券を自動的に購入できる市販のソフトウェアを
使用して馬券を購入していた。その際,被控訴人は,回収率(購入代金の合
計額に対する払戻金の合計額の比率)を高めるように,インターネット上の
競馬情報配信サービス等から得られたデータを独自に分析し,その分析結果
に基づき,上記ソフトウェアに条件を設定してこれに合致する馬券を抽出し
た上,自らが設定した金額式により購入額を算出していた。その上で,被控
訴人は,数年以上にわたり,上記ソフトウェアの自動購入機能を利用して,
新馬戦と障害レースを除く中央競馬の全競馬場のレースにおいて極めて多種
類かつ多額の馬券を網羅的かつ自動的に購入し続けた。
被控訴人は,その所有するパーソナルコンピュータに,購入した馬券の種
類や金額とともに,前記専用口座における取引に基づいて被控訴人が受領し
た払戻金の額に関するデータを保存していたが,平成17年分から平成19
年分までについては,所得税の確定申告書を所轄税務署長に提出しておらず,
平成20年分及び平成21年分については,馬券の払戻金に係る所得の記載
のない所得税の期限後申告書を所轄税務署長に提出した(以下,平成17年
分から平成21年分までを併せて「本件各年分」という。)。
(2)本件は,生野税務署長が,被控訴人の所得税について,被控訴人が受領
した前記払戻金は一時所得に該当するとし,その総収入金額から当たり馬券
の購入金額のみを必要経費として控除することにより,平成17年分から平
成19年分までについては各決定処分及び各無申告加算税賦課決定処分を,
平成20年分及び平成21年分については各更正処分及び各無申告加算税賦
課決定処分(以下,本件各年分に係る上記各処分を併せて「本件各処分」と
いう。)を行ったのに対し,被控訴人が,主位的に,上記払戻金は雑所得に
該当するとした上で,その総収入金額から控除される必要経費には,当たり
馬券の購入金額だけでなく外れ馬券を含む馬券の購入総額が含まれると主張
し,予備的に,仮に上記払戻金が一時所得に該当するとしても,その総収入
金額からは外れ馬券の購入金額を含めた馬券の購入総額が控除されるべきで
あると主張して,被控訴人の所得額の認定を誤った本件各処分はいずれも違
法であるなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。
(3)原審は,①本件訴えのうち,被控訴人が自ら所得税に係る申告をした
部分についての取消しを求める訴えは,いずれも更正の請求の手続を経てお
らず,申告の無効を主張することができるような特段の事情もないから不適
法であるとして却下し(原判決主文第1項),②本件各処分の取消請求の
うち,本件各年分中の所得税及び無申告加算税につき外れ馬券を含めた馬券
の購入総額を必要経費として計算した額を超える各部分の取消しを求める請
求については,前記払戻金は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」
(所得税法34条1項)に当たるから一時所得ではなく雑所得に区分され,
各年中の払戻金の総額から外れ馬券の購入金額を含めた馬券の購入総額を必
要経費として控除した額が雑所得の額となるから,本件各処分のうち上記各
部分はいずれも違法であるとしてこれらを認容し(原判決主文第2,3項),
③その余の請求はいずれも理由がないとしてこれらを棄却した。
(4)控訴人は,原判決の控訴人敗訴部分(原判決主文第2,3項)を不服と
して控訴し,同部分の取消し及び取消部分に係る請求の棄却を求めたが,当
審係属後,生野税務署長が平成27年3月18日付けで,本件各処分につき,
所得税額等を原判決が認定した額に減額する更正又は再更正処分及び加算税
を原判決が認定した額に変更する決定処分(以下「本件各減額更正等処分」
という。)をして,その一部を取り消したことから,控訴の趣旨を上記第1
のとおりに変更した。
2法令の定め,前提事実及び当事者の主張は,後記3のとおり原判決を補正し,
後記4において当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実
及び理由」の「第2事案の概要」の1ないし3(原判決3頁11行目~49
頁20行目。ただし,67頁冒頭~81頁末尾及び別表1,2を含む。)に記
載のとおりであるから,これを引用する。
3原判決の補正
原判決10頁9行目から同11頁6行目までを次のとおり改める。
「(8)刑事裁判の判決
ア被控訴人は,給与所得のほか,馬券の払戻金により収入を得ていたに
もかかわらず,平成19年分から平成21年分までの所得税につき,馬
券払戻しによる収入を所得とする確定申告書を法定期限内に提出しなか
ったとして,所得税法違反の罪によって起訴された。
大阪地方裁判所は,被控訴人の馬券購入行為から生じた所得は雑所得
に分類され,外れ馬券を含めた全馬券の購入費用等が必要経費として控
除されることとなる旨判示した上で,罪となるべき事実を次のとおり認
定し,被控訴人を懲役2月に処するとともに,判決確定の日から2年間
その刑の執行を猶予するとの判決(以下「本件刑事地裁判決」という。)
をした(甲24)。
(ア)平成19年分の総所得金額が1億0730万8817円であり,
これに対する所得税額が3887万2700円であるにもかかわらず,
正当な理由がないのに,同年分の法定申告期限である平成20年3月
17日までに確定申告書を提出しなかった。
(イ)平成20年分の総所得金額が3260万8629円であり,これ
に対する所得税額が914万5500円であるにもかかわらず,正当
な理由がないのに,同年分の法定申告期限である平成21年3月16
日までに確定申告書を提出しなかった。
(ウ)平成21年分の総所得金額が2024万6010円であり,これ
に対する所得税額が398万3700円であるにもかかわらず,正当
な理由がないのに,同年分の法定申告期限である平成22年3月15
日までに確定申告書を提出しなかった。
イ検察官は,本件刑事地裁判決に対して控訴したが,大阪高等裁判所も,
被控訴人が馬券の払戻金により得ていた収入は雑所得に該当し,外れ馬
券を含む全馬券の購入費用等を必要経費として控除できる旨を判示し,
控訴を棄却する判決(以下「本件刑事高裁判決」という。)をした(甲
48)。
ウ検察官は,本件刑事高裁判決に対して上告審としての事件受理の申立
て(平成26年6月30日受理決定)をしたが,最高裁判所は,平成2
7年3月10日,次のとおり判示した上で,上告を棄却する判決(以下
「本件刑事最高裁判決」という。)をした(甲49)。
(ア)被告人(被控訴人)が馬券を自動的に購入するソフトウェアを使
用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長
期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的
な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常
的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえ
るなどの本件事実関係の下では,払戻金は営利を目的とする継続的行
為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当た
る。
(イ)本件においては,外れ馬券を含む一連の馬券の購入が一体の経済
活動の実態を有するのであるから,当たり馬券の購入代金の費用だけ
でなく,外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金の費用が当たり馬券の
払戻金という収入に対応するということができ,本件外れ馬券の購入
代金は所得税法37条1項の必要経費に当たる。」
4当審における当事者の主張
(控訴人の主張)
生野税務署長は,いずれも平成27年3月18日付けで,本件各年分中の所
得税額等を外れ馬券を含めた馬券の購入総額を必要経費として計算した額にま
で減額する更正処分(うち平成20年分及び平成21年分については再更正処
分)をし,併せて,本件各年分中の加算税を上記の額に変更する決定処分をし
て,本件各処分の一部を取り消した(本件各減額更正等処分)。
本件各減額更正等処分により取り消された部分の取消しを求める被控訴人の
訴えは,訴えの利益を失ったから却下されるべきである。
(被控訴人の主張)
本件訴訟は,控訴人が所得税法の解釈適用を誤ってした処分に起因する。よ
って,本件各減額更正等処分がされた以上,本来は控訴人が本件控訴を取り下
げるべきであるが,控訴の取下げがされず,被控訴人の訴えが却下となる場合
であっても,訴訟費用については,民事訴訟法62条に基づき,第1,2審を
通じて控訴人の負担とすべきである。
第3当裁判所の判断
1本件各減額更正等処分により取り消された部分の取消しを求める訴えの適法
性について
証拠(甲51~55)及び弁論の全趣旨によれば,生野税務署長が平成27
年3月18日付けで,控訴人が当審において主張するとおりの内容の本件各減
額更正等処分をしたことが認められる。このことからすると,本件各処分のう
ち原判決主文第2,3項で取り消すべきものとされた部分は,本件各減額更正
等処分によって処分行政庁自らの手で取り消され,その効力を失ったことが明
らかである。そうすると,本件控訴により当審の審理判断の対象となった処分
はその効力を失っており,被控訴人にはその取消しを求める訴えの利益がなく
なったものというべきである。
よって,上記訴えは不適法として却下すべきである。
2訴訟費用の負担について
生野税務署長が当審係属後にした本件各減額更正等処分は,本件刑事最高裁
判決を受けて,本件における馬券の払戻金の所得認定等に関する本件各処分当
時の解釈を変更し,被控訴人による本件訴え提起時からの主張及び原判決の判
断,すなわち,被控訴人が得た馬券の払戻金は雑所得に該当し,外れ馬券を含
む馬券の購入総額が必要経費となるとの解釈を結果として採用したものと認め
られる。そうすると,控訴費用に関しては,被控訴人の側に敗訴と同視すべき
でない特段の事情があるというべきであるから,行政事件訴訟法7条,民事訴
訟法62条の趣旨に照らし,これを全部控訴人に負担させるのが相当である。
なお,第1審における訴訟費用については,被控訴人の敗訴部分があること
から,原判決の判断を変更する必要があるとは認められない。
第4結論
以上の次第で,本件訴えのうち,本件各年分中の所得税及び無申告加算税に
つき外れ馬券を含めた馬券の購入総額を必要経費として計算した額を超える各
部分の取消しを求める訴え(原判決主文第2,3項に係る部分)は,いずれも
不適法であるから却下すべきところ,これと異なり,上記各部分の取消請求を
認容した原判決(主文第2,3項)は相当でない。
よって,原判決中,控訴人敗訴部分を取り消した上,上記取消請求に係る訴
えをいずれも却下することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,
民事訴訟法64条本文,62条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官石井寛明
裁判官阿多麻子
裁判官栩木純一

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