弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、原告の昭和三九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税につ
いて、被告が昭和四〇年六月二九日付をもつてなした更正処分(但し、昭和四一年
八月一二日付名古屋国税局長の裁決によつて一部取消がなされた後のもの)は、所
得金額五、六三四、四〇〇円、法人税額一、八七八、二七〇円を超える部分につ
き、これを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一、当事者の申立
(原告)
主文同旨の判決を求めた。
(被告)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(請求原因)
一、原告は金融業を営む株式会社であるが、昭和三九年一月一日から同年一二月三
一日までの事業年度(以下、「本件((係争事業))年度」と称する。)において
法人税法上の同族会社であつた。
二、原告は、本件年度の法人税につき、決定の申告期限内に、所得金額二、〇九
二、〇五二円、法人税額五九〇、三六〇円とする確定申告書を被告あてに提出し確
定申告をした。
三、被告は、原告の右確定申告につき、昭和四〇年六月二九日付をもつて所得金額
一〇、一二〇、九八九円、法人税額三、五八〇、七八〇円とする旨の更正処分を行
い、右更正通知書は同月三〇日原告に送達された。
四、原告は、右更正処分につき、昭和四〇年七月二九日訴外名古屋国税局長に対し
審査請求をしたところ、同国税局長は右請求の一部に理由があると認め、同年八月
一二日付をもつて前記更正処分の一部を取消し、所得金額九、九七七、八〇一円、
法人税額三、五二六、四五〇円とする旨の裁決をなし、右裁決は同月三一日原告に
通知された。
五、しかしながら、被告のなした前記更正処分は、前記のとおり名古屋国税局長に
よつて一部取消がなされた後においても法人税法の解釈、適用を誤つて、原告の所
得金額ならびに法人税額を過大に決定したものである。
 原告の本件年度における法人税については、所得金額五、六三四、四〇〇円、法
人税額一、八七八、二七〇円が正当であるから、被告のなした前記更正処分は右金
額を超える部分について違法である。
よつてその部分の取消を求めるため本訴に及ぶ。
(被告の答弁)
請求原因第一ないし第四項を認め、同第五項を争う。
(被告の主張)
一、本件年度の審査処分における所得金額の内容は次のとおりである。
1、原告の申告所得金額           二、〇九二、〇五二円
2、右に加算したもの
(イ) 受取利息計上もれ       一、三九〇、六八三円
(ロ) 債権償却特別勘定否認     二、七一一、九五六円
(ハ) 寄附金の損金算入限度額超過額 三、七八五、九五九円
(ニ) 所得税額の加算もれ          八、一二〇円
 小 計               七、八九六、七一八円
3、右1から減算したもの
申告による貸倒引当金繰入限度超過額の認容  一〇、九六九円
4、差引所得金額(1+2-3)    九、九七七、八〇一円
二、受取利息計上もれについて
(一) 被告は、原告が本件年度において貸付金に対する約定未収利息を計上して
いないものがあつたので、右年度における「収入すべき金額」に脱漏があるものと
認め、これについて受取利息計上もれと認定して金一、三九〇、六八三円を否認し
たものであり、その内訳は次のとおりである。
 受取利息計上もれ額の計算
<>22735-001>
(二) 原告は、いわゆる街の金融業者(高利貸)であつて貸金を主たる業として
営んでいる法人であるが、原告等一般の金融業者の貸付金に対する金利は、常に利
息制限法に定める利率を、はるかに超えた高利率により貸付が行なわれている実情
にある。
 これを経済的実態より観察すれば、貸付金の元本は自己資本のみでは賄いきれな
いので、他からの借入に依存していること、また貸付先の大部分が、銀行等の金融
機関から借りることの出来なくなつた資金窮乏の中小業者であること等を背景とし
ているので、金融業者は、元金の確保と利益の追及を図るため、必然的に債権額を
上廻る担保または保証を求める一方、常に利息制限法を無視した高利率により貸付
けを行ない、倒産等による不測の損失に備える等の配慮をなしつつ、より利益を確
実ならしめるようにしている実情にある。このように原告等金融業者の利益追及の
実態は、利息制限法とは無関係に、寧ろこれを無視して行なわれているものであ
る。
 しかして、利息制限法所定の利率を超過する部分は、単に同法上無効であるとい
うだけに止まり、任意に支払えば返還を請求し得ない性質のものであつて、経済的
には当然無価値のものではない。すなわち経済的取引においては、当事者がその取
引の総てについて無効とか違法といつた法的評価の結果を予見して行動する保証は
ないのであつて、利息債権の場合といえども、通常の債権と余り変りはなく、現実
の実相は約定どおりの金額が取立てられ、また債務者の方でも約束であるから支払
つてゆくというのが一般の実情である。
(三)(イ) ところで、経済法である税法上の「所得」の概念は、もつぱら経済
的に把握すべきであり、税法は一定期間内に生じた経済的利得を課税の対象とし、
担税力に応じた公平な税負担の分配を実現しなければならないので、所得の発生原
因たる債権の成否とは無関係に、いやしくも納税義務者が経済的にみて、その利得
を現実に支配管理し、自己のためにこれを享受しうる可能性の存する限り、課税の
対象たる所得を構成するものと解すべきである。
(ロ) そこで本件をみると、被告が更正処分をなした受取利息(利息制限法違反
の約定によるもの)計上もれは、原告が貸付先に対し、貸付金に対する利払期到来
後の利息債権を有し、権利としても確定しているのであつて、右受入れについて、
絶えず貸付先に請求していたところである。
 一方、借主の方も、経済的困難を打開するため仕方なく利息制限法超過の利息約
定をなしたものである。
 この約定は、法律的には超過部分につき無効であるが(したがつて、法律上強制
実現の保障を受けられないとしても)、原告が過去において制限超過の利息を収受
しており、また本件未収利息計上もれの貸付先についても、担保をそれぞれ充分に
徴しており、したがつて、取立不能とは言えず、他面担保が設定されてあること
と、前記経済的背景等を顧慮すると、借主においても支払う意思・能力がなかつた
とは言えない。
 したがつて、原告が、履行期の到来した制限超過の利息債権を取得したときは、
現実に支配管理し、自己のために享受しうる可能性のある経済的利得が発生したも
のと解され、これが課税所得金額を構成するものである。
(四) そして、特に取立不能と認められる特段の事情がない限り、課税所得を構
成すると解すべきものであり、債権者において債務の免除の意思表示をするか、事
実上取立不能に帰したときは、その事実が確定した日の属する年度において始めて
収入すべき所得がなくなつたものとして「損金」として計上しうればよく、この
点、被告が算定計上した本件未収利息については、債務の免除をしたものではな
く、また取立不能に陥いつたものでもないものである。
(五) 仮りに、利息制限法所定の利率を超過する利息の約定は無効であるから益
金に計上すべき未収利息は、制限利率によつて算出した金額に限るべきものとし
て、法の保護を与えるものであると仮定すれば、弱者の立場にある借主からは常に
高利で利息を収入するのに、一方所得については利益なしとして課税の対象とはし
ない結果を生じ、結局、法を無視したものだけが得をするということになり、その
ため、事実上租税を逋脱する傾向が著しく多くなり、従つて、適正な課税が行なわ
れなくなつて、租税負担公平の原則にも反することになろう。
三、寄附金の損金算入限度額について、
(一) 原告会社の性格
 原告は、資本金二五、〇〇〇、〇〇〇円の金融業を営む法人で、その資本構成割
合については、本件年度において、原告会社の代表者である訴外A一族が有する株
式が全体の六三パーセントを占める旧法人税法第七条の二に規定する同族会社であ
る。
(二) 原告会社と貸付先との特殊関係について
Ⅰ 日章実業株式会社について
 訴外日章実業株式会社(昭和三九年三月三一日現在の資本金は三、二〇〇、〇〇
〇円、以下訴外日章実業という)は、その代表取締役が、原告会社の代表取締役で
ある訴外Aであり、また、主だつた株主においても、ほとんど原告会社の株主と同
一人で構成されている同族会社である。訴外日章実業は次の経過により原告会社と
特殊な関係になつたものである。
1、自動車用品部
 かねて、原告会社の融資先であつた訴外日洗商事株式会社が事業に失敗して倒産
したため、原告会社が右貸付金の対価としてその事業を取得したものであるが、そ
の頃、別に原告会社代表者である訴外Aの主宰する休業中の訴外臨海タクシー株式
会社に、右事業を譲り受けさせて、その名称を日章実業株式会社と変え、および事
業目的を変更させて営業を始めたものである。
2、砕石部
 原告会社は、融資先であつた訴外Bが、昭和三八年六月、経営不振に陥つたこと
により、その事業を吸収させるため同人の右債務を前記訴外日章実業に引受させる
と共に、その事業を吸収させ、訴外日章実業の砕石部としたものである。
Ⅱ 共栄自動販売機株式会社について
 訴外共栄自動販売機株式会社(昭和三九年一一月七日現在の資本金一、〇〇〇、
〇〇〇円)においても、前記訴外日章実業と同じく、代表取締役Aの主宰する同族
会社である。
 原告会社の融資先であつた訴外共栄機器株式会社(以下訴外共栄機器という)
が、昭和三八年末に経営不振となつた際、訴外共栄機器の工具器具類を、原告会社
がその貸付債権の代物弁済として取得し、改めて、その工具器具類を訴外共栄機器
に賃貸していたところ、昭和三九年に至り、右訴外共栄機器が破産するに至つた。
そこで、昭和三九年一一月に、原告会社の代表者Aは原告会社と姉妹会社であり、
かつ、Aの同族会社である訴外共栄自動販売機株式会社を設立させ、右訴外共栄機
器の事業を承継させたものである。
Ⅲ Cについて
 原告会社の融資先であつた訴外Cは、昭和三九年頃に至つて事業不振となつたの
で、原告会社の企業系統配下に入れ、原告会社の従業員を訴外C方に派遣して事業
の監督指導に当らせていた。また、後日、原告会社の代表者である訴外Aの長男を
訴外Cの長女と婚姻させる等、特殊な関係があつた。
Ⅳ こうしてみると、原告会社の貸付先であるこれ等会社の設立関係、あるいは貸
付けの事情には、只単に何の関係もない一般の相手先に対する貸付けの場合と異な
つた、特殊な関係が認められる。
(三) 否認の内訳
被告が寄附金の損金算入限度額超過額として否認した三、七八五、九五九円の内訳
は次のとおりである。
 一、寄付金相当額算出の根拠
<22735-002>
<22735-003>
 二、寄付金の損金算入限度額超過額の計算
<22735-004>
(四) 被告は、原告会社が、訴外日章実業株式会社外二件に対する日歩三銭(訴
外Cに対しては日歩四銭)で貸付けた行為につき、右貸付行為を容認した場合にお
いては、法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるので旧法人税法
第三〇条第一項を適用し、その行為計算を否認したものであり、しかも右行為は貸
付先に実質的に特別な経済的利益を供与したものと認められるので法人税法上寄付
金として取扱い限度超過額を損金不算入として更正したものである。
Ⅰ 同族会社の行為計算の否認(旧法人税法第三〇条第一項)を適用した理由
(1) 元来法人税法は、法人が純経済人として経済的に合理的に行為計算を行う
べきことを前提として、かような合理的行為計算に基づき生ずべき所得に対し、課
税し、租税収入を確保しようとするものである。
 したがつて、法人が通常経済的に合理的に行動したとすればとるべきはずの行為
計算を法人税回避もしくは軽減の目的で、ことさらに不自然な行為計算をとること
により、または、直接法人税の回避軽減を目的としないときでも経済的合理性を全
く無視したような異常不自然な行為計算をとることにより、不当に法人税を回避軽
減したこととなる場合には、課税上かような行為計算を否認して、経済的に合理的
に行動したとすれば通常とつたであろうと認められる行為計算にしたがつて課税を
行ない得ることは当然である。
 しかるに、同族会社は、通常利害相反しない小数同族株主が過半数以上の株式数
または出資数を所有しているため、非同族会社のごとく株主一般と経営者との利害
対立により自ら経営者による恣意的な行為計算が抑制されるということがなく、同
族会社においては小数の株主など出資者によつて会社の行為計算を自由になし得る
可能性が強く、かかる恣意的行為計算のため法人税の負担を不当に免れしめるおそ
れがあるのでこのような結果を防ぐために旧法人税法第三〇条が設けられたもので
ある。
 したがつて、同条第一項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認め
られる」かどうかは、もつぱら経済的実質的見地において当該行為計算が経済人の
行為として不合理不自然なものと認められるかどうかによつてこれを判断すべきで
ある。
 また、同項に該当するか否かは、当該会社の企業の諸条件が同一もしくは類似す
る他の法人における同一もしくは類似の行為計算と比較し、その比較法人におい
て、一般的になされている行為計算を著しく超えるものであるか否かによつて判断
されるべきである。
(2) 原告会社のなした行為計算は前記条項に該当するから、右行為計算を否認
すべきである。
 原告会社は、原告と特殊な関係を有する貸付先に対してのみ、その約定利率を日
歩三銭(訴外Cに対しては日歩四銭)と計上しているもののほかは、本件年度にお
ける原告会社が他の一般貸付先に対する貸付金を調査したところ、利率別件数は日
歩六銭一件、日歩七銭二〇件、日歩八銭九件、日歩九銭一件、日歩一〇銭三一件で
あることが認められる。これらをみても日歩一〇銭と日歩七銭が圧倒的に多く、し
たがつて係争年度期間中における取引状況によれば日歩七銭の利率による取引が比
較的多数であつたことが窺われる。
 しかも、原告会社と特殊な関係にある訴外日章実業株式会社外二件を除いては日
歩三銭(訴外Cに対しては日歩四銭)で貸付けをした事実はない。
 また、原告会社と同業である街の一般金融業者(高利貸)においては、一般に通
常金銭消費貸借を締結する際日歩三銭で貸付けをしているような事実は通常あり得
ないところであり、普通一般の取引であれば借入れの際相当な担保の提供、世間一
般の金利、不履行の場合の処置の確実性などを配慮して高利で貸付を行うものであ
り、原告会社と同業種法人の当該係争年度前後における一般的金融状況を調査して
みると次表のとおりであつて(この表は、法人税確定申告書に添付されてあつたも
ののうち、原告会社となるべく同規模の、しかも近隣に所在する主として青色申告
法人の一一例を選出してその正確性を期したものである。)、金利水準は件数にお
いて日歩一〇銭ないし二〇銭が最も顕著である。
 貸付金利率比較表
<22735-005>
 本件につき、一般にいわゆる「高利貸」と称されるところの金融業を目的とする
原告会社がその特殊関係を有する取引先にのみ、通常の取引では予想されない金利
で貸付けをしたことは正に経済的、実質的にみて経済人の行為としては不合理、不
自然なものと認められる。
 そこで、被告は、もし原告が取引先に特殊な関係がないとすれば、原告会社の一
般取引状況からみて他の一般顧客に対する貸付金利である少くとも日歩七銭以上で
貸付けたことが認められるので、所得の計算を日歩七銭としたものである。
Ⅱ 旧法人税法第九条第三項(寄付金の損金不算入)を適用した理由
 以上の事実からみて、原告会社は自己の同族関係者に特別な利益(通常の取引形
態と比較して、異常と認められる低利率の金利との差額)を与えたものと認められ
るのであるから、それは旧法人税法第九条第三項の寄付金として取扱われるべきも
のである。
 即ち、旧法人税法第九条第三項にいう寄付金とは、一方が相手方に対して任意
に、しかも反対給付を伴わずにする財産的給付をいい、一般的に考えられている神
社、仏閣、慈善事業あるいは学校などに対するものに限られず、法人がその所有す
る財産を著しく低い価額で譲渡した場合で、かつ時価との差額を相手方に贈与する
ためにこれを行なつたものと認められる場合、その差額を本条にいう「寄付金」と
して取扱われるものであるとされるものであり、しかも本件のような低利息融資に
ついても法人税法の解釈上当然に一種の寄付金として適用されるべきものと解すべ
きものである。(法人税基本通達昭和二五年九月二五日直法一―一〇〇、七七参
照)
 けだし通常一般の取引形態からみれば、原告会社は当然得べき利息相当額の利益
を失なうに反し、原告会社と特殊な関係にある同系列の借入会社は右利息相当額を
免がれ同額の利益を得ることになる関係にあるから、したがつて本件のごとく経済
的利益を供与したと認められる行為は、これを法律にいう寄付金として取扱うこと
としたものである。
 右通達の趣旨は現行法人税法第三七条第五項、第六項においても明文上確認され
て現在に至つているのである。
(被告の主張に対する答弁及び原告の主張)
一、被告主張の一のうち、2の(イ)(ハ)を争い、したがつて4を争うが、その
余は認める。
二、同二のうち、「受取利息計上もれ額の計算」が、被告主張のとおりであること
は認めるが、被告の法律上の主張を争う。即ち、(一) 右計算において被告が主
張する利息約定は明らかに利息制限法に違反する。したがつて、同法の制限を超え
る部分は無効であるから、この場合益金に計上すべき未収利息は前記貸付金につき
同法による制限利率によつて算出した左記金額によるべきものであつて、被告のし
た前項の金額による利息の認定は制限利率によつて算出した金額を超える部分につ
き不当であつて、その部分は取消されるべきである。
債権者氏名 制限利率 同上による利息額 被告主張の未収利息金額のうち上記を
超えるもの
D 年一割五分 四八七、五〇〇円 三四五、一五〇円
E 年一割八分 一一三、四〇〇円 四八、〇〇六円
F 年一割五分 二三二、〇四二円 一六四、二八六円
 計 五五七、四四二円
(二) その理由は次のとおりである。
(1) 法人税の計算において、収益の発生の認識基準をいわゆる「権利確定主
義」によるものとされるのは、金銭についていえば、それが現実に支払われて現金
を入手する時期まで待たなくても、それが法律上の請求権として行使しうべきもの
となつたとき権利として確定し、それが法律上の権利として確定していることによ
つてその名目金額に相当する財産的価値があるものとして概ね事実に合致するから
である。
 しかるに、利息制限法による制限利率を超過する部分の利息約定は無効であつて
その部分については法律上の利息債権は存在しない。
(2) また法人税法上益金の発生として認識されるべき請求権の確定という場合
の請求権は必ずしも他の法律との関係で完全に適法有効なものであることを要しな
いとしても、その法律上の効果に疑いのある請求権を完全に適法、有効に成立した
それと同様にその名目金額によつて評価することが許されるためには、その請求権
が事実上行使し得る可能性が大であり、かつそのことによつて経済的利益を現実に
入手しうる可能性が明らかでなければならない。
 ところで前記三名の債務者のうちDは、原告との利息約定の効力を争い、制限超
過の利息を任意に払う意思はなかつたし、E、Fは事業に失敗して元本の弁済さえ
支払不能であつて、前記約定にしたがつて利息を支払う能力も意思もなく、しかも
かかる場合原告はこれらの債務者に対し右制限超過部分についてその支払方を強制
する法律上の手段を有していなかつたものである。
 したがつて、原告は昭和三九年末において右制限超過部分につき何らの経済的価
値を有しなかつたのであるから、これを益金に加算したのは違法である。
(3) 仮に原告が昭和三九年末までに約定利率によつて利息金の支払いを受けた
としても元本未済部分がある限り、利息制限法の制限超過部分は法律上当然に元本
に充当されることになりその部分は益金を構成しないことになる。現実に支払いを
受けても益金を構成しないものが単に利息約定に基づく事実上の請求権があるとい
うだけでその算出金額どおりの益金を構成しないことは明らかである。
(4) 被告主張二の(五)につき、
 利息制限法の制限を超える部分の約定利息はそれが未収金にとどまる限り所得を
構成しないが、右部分につき現実に支払いがなされるならば債権者の所得として課
税されることまで否定するわけではないから、右は理由がない。
三(一) 被告主張三の(一)ないし(三)の事実及び計算関係を認める。
(二) 同(四)Ⅰ(2)の事実を否認し、その法律的主張及び(四)のⅡの主張
を争う。
(三)(1) 被告主張三の(三)によると日章実業株式会社外二件の貸付金利が
他の一般の場合よりも低率となつていることは、いわゆる系列企業間における協力
の形態として異常でも不自然でもない。
 また、各債務者の経営状態と返済能力とを総合的に検討して、債務者の事業の再
建に協力することによつて原告の債権の保全と長期間をかけての回収を図つたもの
であつて経済的にみても合理的かつ合目的な理由によるものであつて、これらの行
為は否認の対象とすべきではない。
(2) 原告が昭和三九年中に貸付金の資金を獲得するために銀行から借入れを
し、そのために支払つた利息は年間を通じて日歩三銭弱であつた。したがつて、原
告の日章実業株式会社外二名の債務者に対する日歩三銭または日歩四銭の約定利息
による貸付は原告の資金コストを上廻る割合によるものであり、さらにこれらの債
務者に対する未収利息は昭和三九年に元本の額に繰入れられて昭和四〇年以降はそ
の部分につきさらに利息が付されている。
 したがつて、原告の右金利による貸付は「不当に法人税の負担を減少させる」行
為ではないものと言うべきである。
(3) 旧法人税法第九条第三項にいう寄付金とは、法人が相手方に対し、直接法
人の事業と関係なく(即ち、法人の直接の収益の増加を期待したものではなく)か
つ、対価の授受もなくて無償で贈与した金銭その他の財産的給付をいうものと解す
べきである。
 換言すれば、法人と相手方との間に資産の譲渡に関する契約が現実に行われ、そ
れが贈与契約の履行としてなされたか、あるいはこれと同一視することのできる状
態で行なわれた場合に限定されるのである。
 しかして、本件のように相手方に支払能力の有無を検討して原告が債権者として
損をせず、しかも元本債権の回収も可能と見込まれる程度に利息約定をした場合に
おいて、これを税務署長が否認してより高率によるべきであると主張したとしても
原告と相手方との間には約定利息と税務署長の認定した利息との差額を無償で供与
する趣旨の合意が存在せず、そのような合意があつたものと同一視すべき事情も存
在しない。
(4) 本件における前記四名の債務者に対する貸付金について、利息制限法上有
効な約定利率は年一割五分である。従つて被告がした日歩七銭の利率は同法の制限
に違反する高利である。かかる法律上無効な高利率による利息は、いかに税務署長
の認定にかかるとはいえ、法律上「取得すべき」ではない利息である。法律違反の
利息の徴収を国民に強制し、これを徴収しないときはそれに相当する額の贈与すな
わち法人税法上の寄付金があるとする被告の認定は違法であることが明らかであ
る。
(5) また仮りに原告が昭和三九年中において、被告認定の利率によつて、前記
四名の債務者から利息を徴収したとしても、これらの債務者に対する貸付金元本が
残存する限り、弁済を受けたもののうち利息制限法の制限超過部分は法律上当然に
元本に充当されて、原告にとつて益金を構成しない。現実に弁済を受けても益金と
はならないものが被告の認定利率によるべきであるというだけのことで、益金を構
成する受取利息(未収利息としての)となるはずはない。本件において、被告が更
正処分において認定したような収受すべき利息は存在しないし、旧法人税法第九条
第三項の寄付金は存在しない。
(6) 以上のとおり前記四名の債務者にかかる寄付金三、八四三、八〇三円(被
告主張三の(三))の認定は取り消されるべきものであり、係争事業年度中に原告
が支出したその他の寄付金一〇〇、〇〇〇円は法人税法施行規則第七〇条の限度額
の範囲内であるから、この分は全額損金算入が認められるべきものである。
 従つて被告の認定にかかる三、七八五、九五九円を寄付金損金算入限度額超過額
として原告の申告所得の額に加算した処分は取消されるべきである。
四、税額の計算
 被告のした本件更正処分は、未収利息計上もれの加算は五五七、四四二円の限度
(前記二の(一))において、寄付金損金算入限度額超過額の加算はその全額三、
七八五、九五九円(前記三の(6))において違法であるからこの限度で取り消さ
れるべきである。
 従つて原告の係争事業年度における正当所得金額は、被告の認定にかかる所得金
額九、九七七、八〇一円から前記違法認定にかかる金額の合計額四、三四三、四〇
一円を差し引いた額五、六三四、四〇〇円である。
 右正当所得金額に法人税法第一七条、租税特別措置法第四二条の規定を適用して
算出した法人税額一、八八六、三九六円から、原告が納付した所得税額八、一二〇
円を差し引いた額一、八七八、二七〇円が係争事業年度の正当な法人税額である。
 また右の正当法人税額と原告の確定申告にかかる法人税額五九〇、三六〇円との
差額一、二八七、〇〇〇円(千円未満切捨)に五%を乗じた額六四、三五〇円が正
当な過少申告加算税となる。
 従つて被告のした本件更正処分は、所得金額において五、六三四、四〇〇円、法
人税額において一、八七八、二七〇円を超える部分は取り消されるべきものであ
る。
(原告の主張に対する被告の反論)
一、原告主張二(一)の計算関係がそのとおりであることを認めるが、二(二)
(2)の事実を否認する。
 また、仮に右のような事実があつたとしても前述の「街の金融」の実態と、債権
者として実際に回収する可能性の極めて高度であるという現実を考え併せると、単
に債務者の右の意思表示のみに止まる場合とか、あるいは事業の一時的な衰退のみ
によつて、直ちに債権者たる原告において経済的利得を取得しうる可能性を失つた
とみるべきではない。
 しかも、D、Eについては翌事業年度以後において約定利息である日歩七銭分の
利息はもちろん元本も完済され支払われている。
 従つて、未だ右の程度では特に取立不能と認められる特段の事情があつたものと
はいえない。
二、同(二)(3)の主張は失当である。すなわち右の元本に充当されて益金を構
成しないことは究極的な法的効果の面をとらえてのことであつて、本件課税が経済
的、実質的な面に着目し、債権者、債務者間において現実にその金利が支払われ、
若しくはその支払の可能性があり、それが経済上、実質上の見地から税法上の所得
と解されればたりるのであつて、原告の右主張は法的効果の面を過大視しているも
のである。
三、原告主張三(三)(1)につき
 右主張は次の理由により失当である。すなわち、
 原告会社は法人税法上いわゆる同族会社であり、その実権を掌握しているのは設
立当初から現在に至るまで代表取締役であるAである。
 ところで、原告会社の一般貸付先の金利の状況は前記のとおりである。したがつ
て、本件の三銭(四銭)という、原告会社の右貸付事実からみれば、異常不合理と
いえるほどの低金利で貸付けられた所以は原告会社か同族会社であり、その実権者
がAであつたがゆえであることは極めてみやすい道理である。
 この関係は、同族会社がその資産をその役員等に無償または低廉な対価で使用さ
せ若しくは融資した場合と実質的に何らえらぶところがないのである。
 したがつて、原告主張のごとき形式的にも実質的にも別個な法人格を有する系列
企業間における協力形態とか、事業再建による債権保全のためという場合とは、本
件はその基盤を異にするものである。
四、原告主張三(三)(2)につき、
 被告は原告の資金コストがいくらかは知らないが、単に資金コストを上廻る金利
による貸付ということのみをもつて右貸付が直ちに不当でないとはいえない。
五、同(三)(4)につき、
 本件利息が制限を超過したとしても、法的効果が否定されて法は保護しないに止
まるだけであり、そのことからかかる利息は取得してはならないというものではな
く取得しても差支えないものである。
 そのうえ、本件のごとき日歩七銭の金利は、三〇銭を超える場合と異り公序良俗
違反性が特に強いわけでもない。
六、原告主張四の税額計算関係がその主張のとおりであることは認める。
(原告)
 被告の反論のうち、原告がD、Eについて翌事業年度以降において約定利息日歩
七銭の利息及び元本を受領したことは認める。
第三、証拠関係(省略)
       理   由
一、原告が、金融業を営む株式会社であり、本件年度において、法人税法上の同族
会社であつて、右年度の法人税につき、法定の申告期限内に、所得金額二、〇九
二、〇五二円、法人税額五九〇、三六〇円とする確定申告書を被告あてに提出し、
確定申告をしたこと、被告が、原告の右確定申告につき、昭和四〇年六月二九日付
をもつて所得金額一〇、一二〇、九八九円、法人税額三、五八〇、七八〇円とする
旨の更正処分を行い、右更正通知書が、同月三〇日、原告に送達されたこと、原告
が、右更正処分につき、同年七月二九日、訴外名古屋国税局長に対し、審査請求を
したところ、同国税局長が、右請求の一部に理由があると認め、同年八月一二日付
をもつて前記更正処分の一部を取消し、所得金額九、九七七、八〇一円、法人税額
三、五二六、四五〇円とする旨の裁決をなし、右裁決が、同月三一日、原告に通知
されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、そこで、被告の主張する原告の本件年度における所得金額の内容について検討
することにする。
(一) まず、前記原告の申告所得金額二、〇九二、〇五二円に加算すべきものと
して、債権償却特別勘定否認二、七一一、九五六円、所得税額の加算もれ八、一二
〇円を有し、かつ、右申告所得金額から減算すべきものとして、申告による貸倒引
当金繰入限度超過額一〇、九六九円を有することは当事者間に争いがない。
(二)(イ) 被告は、右申告所得金額に加算すべきものとして、原告の受取利息
計上もれ金一、三九〇、六八三円(未収利息)を有する旨主張するので、この点に
つき判断する。
 原告が、本件年度において、訴外D、同E、同F、同万竜ステンレス、同Gに対
し、各貸付金について未収利息債権を有し、右貸付元本の額、貸付期間(利息計算
の期間)、約定利率、未収利息の額が被告主張二(一)記載のとおりであることは
当事者間に争いがない(なお、本件年度の終了当時、右未収利息の履行期が到来し
ていたものであることについては、原告は、明らかに争わないので自白したものと
看做す。)。
(ロ) 原告は、被告の主張する原告の右D、E、Fに対する利息約定が利息制限
法に違反し、右違反部分につき、益金を構成せず、したがつて、課税の対象となら
ない旨主張するので、この点につき考える。
 法人税法は、期間損益決定のための原則として、発生主義のうちいわゆる権利確
定主義を採用しているものと解され、これは、現実の収入・支出にかかわりなく収
入すべき権利または支出すべき義務の確定したときに損益の発生を認識すべきもの
とする趣旨である。
 そして、期間損益の決定を単に会計上の事実行為に立脚した基準にのみ委ねない
で、右の建前を採つた重要な理由は、一面において納税者の恣意的判断によつて課
税の公平な負担を害される結果にならず、他面においてその基準となる時点が不明
確であつて、徴税技術上所得の画一的把握が困難となるのを避けようとする配慮に
あるものと解される。
 そこで、いかなる時期に右「収入すべき権利が確定した」とみるべきかについて
は、所得のいかんによつて一様ではないのであるが、権利確定主義が右の要請にこ
たえるものと理解すると、法人税法上の普通法人の所得(各事業年度の所得)中消
費貸借契約に基づく債権については、原則として、右債権の行使が法律上可能とな
つたときをいうものと解するのが相当である。
 したがつて、右消費貸借契約に基づく利息債権のうち、利息制限法所定の利率に
よる約定利息については、その履行期の到来により利息債権が確定し、その確定し
た年度の益金を構成するものと解されるが、右の利率をこえる部分のそれについて
は、元来その利息約定が無効であつて、その利息債権について現実に収入された場
合はさておき、未収の段階においては、その権利の行使が法律上可能とは言えない
から、収入すべき権利が確定したとは認められず、従つて、その段階における年度
の益金を構成しないものと解すべきである。
 もつとも、被告は、税法上の「所得」の概念は、もつぱら経済的に把握すべきで
あり、納税者が、履行期の到来した制限超過の利息債権を有するときは、経済的に
みて、その利得を現実に支配管理し、自己のためにこれを享受しうる可能性が存す
るから、課税の対象たる所得を構成する旨主張し、なるほど、「所得」が一定の課
税期間内における資産の純増加額をいうものであり、現実に資産の増加をきたして
いる以上、それが適法行為によるものであるか、不法行為によるもの(いわゆる不
法利得)であるかを問わないという意味において、これを経済的に把握すべきこと
を否定することはできないとしても、このことから右制限超過の利息債権が直ちに
所得を構成するとは言えないのであつて、これが所得を構成するためには、納税者
の収入となり、法律上納税者に帰属することを要し、この点(収入となるかどうか
とか、いつの時点において帰属するか等)の判断にあたつては、法律的観点を離れ
て純経済的観点のみから把握することは困難といわなければならず、したがつて、
右主張はとることを得ないものである。
 また、被告は、益金を構成する未収利息は制限利率によつて算出した金額に限る
べきものとすれば、弱者の立場にある借主からは、常に、高利で利息を収入するの
に、一方、所得については利益なしとして課税の対象としない結果を生じ、不法利
得者を適法利得者よりも税法上優遇することになる旨主張するけれども、貸主が不
法な利息約定に基づき現実に利息を取得したものと認められるときは、その時点で
益金を構成するものと言うべきであるから、右主張は採用できない。
 したがつて、原告のD、E、Fに対する前記被告主張の未収利息金額のうち同人
らに対する制限利率による利息額(前記貸付元本の額にDおよびFにつき年一割五
分、Eにつき一割八分を掛けた金額)を超える部分が金五五七、四四二円であつて
(この点は、当事者間に争いがない。)、右超過部分については、前記のとおり原
告の右債務者らに対する権利の行使が法律上可能とは言えないから、益金を構成し
ないものと言うべきである。
 よつて、前記被告主張の未収利息金一、三九〇、六八三円のうち右超過部分に相
当する金五五七、四四二円については課税の対象から除外すべきである。
(三) 次に、被告は、前記原告の申告所得金額に加算すべきものとして、寄付金
の損金算入限度額超過額三、七八五、九五九円を有する旨主張するので、この点に
つき判断する。
 原告が、資本金二五、〇〇〇、〇〇〇円の金融業を営む法人で、本件年度におい
て、原告会社の代表者である訴外A一族が有する株式が全体の六三パーセントを占
める旧法人税法第七条の二に規定する同族会社であること、被告が否認した原告の
貸付先、貸付元本(積数)、原告計上利息額(右計上利息の利率は、日章実業株式
会社((以下、単に日章実業という。))及び共栄自動販売機株式会社((以下、
単に共栄自動販売機という。))について日歩三銭、Cについて日歩四銭であ
る。)が被告主張三(三)記載のとおりであるところ、被告が右利率を日歩七銭と
して認定計算を行い、前記見出金額を益金として計上したものであることはいずれ
も当事者間に争いがない。
 被告は、右認定計算を行つた理由として、(1)原告が旧法人税法第七条の二に
規定する同族会社であること、(2)原告と右貸付先については被告主張三(二)
記載のごとき特殊関係を有すること、(3)原告が一般顧客に対し少くとも日歩七
銭以上で貸付けたこと、(4)原告が金融業を目的とし、右貸付もその一環として
行われたものであること、(5)貸付先において右貸付けにより認定利息相当の利
益を取得していること等からみて、右貸付行為を容認した場合においては、法人税
の負担を不当に減少させる結果となると認められる旨主張するので、この点につい
て検討する。
 旧法人税法は、同族会社の行為又は計算の否認を定めている(同法第三〇条第一
項)が、これは、元来、法人税法においては、法人が純経済人として、経済的に合
理的に行為計算を行うべきことを予定し、これを前提として租税収入を確保しよう
とするものであるところ、同族会社においては、その性格上租税回避行為が容易に
行われるところから、同族会社に対する課税を円滑かつ適切に行うために設けられ
たものであつて、この規定を根拠に、単に一般的な租税負担の公平という見地か
ら、具体的な構成要件の範囲を超えて安易に私人間の行為又は計算の否認が許され
ると解することはできない。
 したがつて、右規定にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認め
られる」かどうかは、経済的実質的観察において、当該行為又は計算が経済人(企
業)の行為として合目的であるかどうか、正常であるかどうか、合理的であるかど
うかを基準として判定すべきであつて(右判定にあたつては、一般の企業経営にお
ける合理性等と言つた見地を強調しすぎて、当該企業経営における個別的な特殊性
を無視することはできないのである。)、同族会社であるからと言つて、この基準
を超えて広く行為又は計算の否認が許されるものと解すべきではない。
 本件について考えるに、被告主張(1)(2)(4)については当事者間に争い
がなく(3)については、成立に争いのない乙第一号証、証人Hの証言によつてこ
れを認めることができ、(5)については、計算関係が被告主張のとおりであるこ
とは当事者間に争いがないところであるが、当事者間に争いのない被告主張三
(二)記載の事実に、証人Iの証言、右証言によつて真正に成立したものと認めら
れる甲第一、第二号証、成立に争いのない乙第一号証、原告代表者尋問の結果を綜
合すると、
(1) 原告は、本件年度において、被告主張の貸付金について、日章実業及び共
栄自動販売機に対し日歩三銭、Cに対し日歩四銭の利息約定をするに至つた事情は
次のとおりであること、すなわち、
(イ) 日章実業自動車用品部について、
 原告は、従前の融資先であつた日洗商事株式会社が、昭和三七年九月ころ倒産し
たので、その際、原告の有する多額の債権を保全し、かつ、これを長期にわたつて
回収する方策として、同会社の事業を、別に原告の代表者である訴外Aが主宰する
休業中の訴外臨海タクシー株式会社に譲渡させ、その名称を右見出しの通り変更
し、右自動車用品部において、その事業の再建をすることに協力する趣旨で従来の
金利を引下げ日歩三銭にしたものであること、
(ロ) 日章実業砕石部について、
 原告は、従前の融資先であつた訴外Bが、昭和三八年六月ごろ、経営不振に陥つ
たことにより、同人の右債務を前記訴外日章実業に引受けさせるとともにその事業
を吸収させ、訴外日章実業の砕石部としたのであるが、その後、まもなく、右砕石
部との間において右(イ)と同様の趣旨で日歩三銭の利息約定をしたこと、
(ハ) 共栄自動販売機について、 原告は、従前の融資先であつた訴外共栄機器
が、昭和三八年一二月ごろ経営不振となつた際、訴外共栄機器の工具器具を、その
貸付債権の代物弁済として取得し、改めて、その工具器具を訴外共栄機器に賃貸し
ていたところ、昭和三九年に至り、右訴外共栄機器が破産するに至つたので、同年
一一月ごろ原告の代表者であるAが訴外共栄自動販売機を設立させ、同会社に訴外
共栄機器の事業を承継させたが、前例と同趣旨で日歩三銭の利息約定をしたこと、
(ニ) Cについて、
 原告は、その融資先であつた訴外Cが、昭和三九年ごろに至つて事業不振となつ
たので、原告の従業員を訴外人方に派遣して事業の監督指導に当らせるとともに、
前同様の趣旨で日歩四銭の利息約定をしたこと、
(2) 原告は、もともと社員間の融資を比較的低金利で行うため発足したもの
で、社員より借入れ、又は、これに貸付けるにあたつては原則として日歩四銭とす
る旨の了解があつたこと、
(3) 原告は、本件当時、他の金融業者が日歩一〇銭をこえる高金利で貸付をな
したが、社員に対してはもとより社員以外の者でもたかだか日歩一〇銭の金利であ
つたこと、
(4) 原告は、本件年度中に貸付金の資金を獲得するために東海銀行その他から
借入れたが、そのために支払つた利息は、右年度を通じて日歩三銭弱であつたこと
以上の事実が認められ、右認定を動かすにたりる証拠はない。
 右事実によれば、原告が前記貸付先に日歩三銭(Cについては日歩四銭)の利息
約定をするに至つた経緯、原告が金融業として発足した事情及びその実情、ことに
本件年度における原告の資金コストが日歩三銭に満たないものであつて、右約定が
これを上廻つていること等の事情を勘案すれば、原告の右利息約定をもつて、直ち
に、異常、かつ、不合理・不自然なものとは言えず、したがつて、「法人税の負担
を不当に減少させる結果となると認められる」ものと判断することは困難である。
 また、被告は、原告と同業種法人の本件年度前後における金利水準が、件数にお
いて、日歩一〇銭ないし二〇銭が最も顕著である旨主張し、成立に争いのない乙第
五号証の一ないし一一及び前記証人Hの証言は右主張に副うけれども、右判定にあ
たつては、いわゆるひもつき金融である場合を除いては右資金コストが重要かつ適
切な資料と言うべきであるのみならず、前記のとおり一般の企業経営の合理性を強
調するのあまり当該企業の実情、特殊性を看過すべきでないから、右主張は採用で
きない(なお、成立に争いのない乙第二号証によれば、原告は、右貸付先に対し、
日歩七銭として未収利息を計上しているが、前掲証人Iの証言によれば、これは、
原告の本件年度の翌年度(昭和四一年)の納税申告書であつて、本件年度の審査請
求が棄却されたので、この時点では原告と税務当局との間にいたずらに紛争が生じ
るのを避けるために右申告に及んだものであつて、右書面によつても前記認定を動
かすにたりない。)。したがつて、法人税法上、被告が原告の右利息約定を否認
し、その主張のような認定計算をしたうえ、原告に、その差額相当額の利益が発生
したものと認め、原告がこれを前記貸付先に提供したものとして、原告の益金に加
算することは許されないものと言うべきである。
三、以上の次第で、被告のした本件更正処分は、未収利息計上もれの加算につき五
五七、四四二円の限度において、寄付金の損金算入限度額超過額の加算につきその
金額金三、七八五、九五九円において違法であるから、この限度で理由がないもの
というべきである。
 そして、これを前提とする税額の計算(原告の主張四記載)については当事者間
に争いがなく、これを正当と認められるから、被告のした本件更正処分は、所得金
額において五、六三四、四〇〇円、法人税額において一、八七八、二七〇円を超え
る部分は取消されるべきものである。
 よつて、その余の判断をするまでもなく、原告の被告に対する本訴請求は正当で
あるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 山田正武 日高千之 八束和広)

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