弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決をつぎのとおりに変更する。
     原告の左記(一)ないし(三)の決議不存在確認の請求を棄却する。
     被告の昭和三八年一二月二三日第八七回定時株主総会における左記
(一)ないし(三)の決議を取消し、同(四)の決議は無効であることを確認す
る。
     左記
     (一) 第八七期営業報告書、貸借対照表、損益計算書、利益金処分案
を原案どおり承認する。
     (二) A、Bを取締役に選任する。
     (三) Cを監査役に選任する。
     (四) 退任取締役D、同E、同Fおよび退任監査役Gに対して、それ
ぞれ慰労金を贈呈することとして、その金額、時期、方法等については取締役会に
一任する。
     訴訟費用は一、二審ともに被告の負担とする。
         事    実
 第一、 申立と原判決主文
 (原告の申立)
 原判決を取消す。訴訟費用は一、二審ともに被告の負担とする。
 「一次的請求」
 主文表示の(一)ないし(四)の決議が存在しないことを確認する。
 「二次的請求」
 主文同旨
 「三次的請求」
 主文表示の(四)の決議を取消す。
 (被告の申立)
 控訴棄却
 (原判決の主文)
 原告の請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 第二、 事実上の主張と証拠関係
 つぎに記載する外は、原判決記載のとおりである。
 (原告の主張)
 一、 本件株主総会は、権限ある議長によつて適法に開会の宣言がなされていな
いとの主張は撤回する。
 二、 1 一部の株主は、過去において隠されていた被告の前社長Dの一億二、
〇〇〇万円に及ぶ不正又は不当の支出、並に、現社長Hの二億四、〇〇〇万円に及
ぶ架空利益金の計上と、これによる不正配当の事実を知つて、本件株主総会でこれ
を糾明しようとしていた。このように議案に反対する株主の出席を予想したHらが
警察力を利用し、その威圧の下に株主の反対発言を封じ又は無視して、不正な議案
の可決を得んものとし、仮装株主多数を会議場に出席させ、議事進行が紛糾して暴
力沙汰を生じ議場が混乱したのを奇貨として、これに乗じ議案の説明及び質疑応答
を回避し、各議案につき可決の形式を装つたものである。右のように本件株主総会
の議決は事実上存在せず決議は無効であり、しからずとするも右議決は法令に違反
し、著しく不公正な方法によるものである。
 2 本件株主総会に先立つ株主名義書換停止の直前になつて、被告はその縁故関
係にある訴外近江興産株式会社が株主になつていた一万数千株の株式を、被告の社
員百数十名にそれぞれ一〇〇株宛の仮装譲渡による名義書換を行い本件株主総会に
右仮装株主を出席せしめて、決議に参加させた。
 右名義変更を受けた社員は、いずれも株式対価の支払をしていなく、その期の株
式配当金の支払も受けていない。この事実によつても右名義変更は、株主総会対策
上の仮装譲渡であることが明瞭である。
 本件株主総会の出席株主数は三、五七八名で、そのうち委任状による者三、二六
七名を控除すると議席に列した実数は三一一名である。そのうちに百数十名の被告
の作為による仮装株主が入つていたのである。このように出席して議決権を行使し
た多数の者が株主ではなかつた。
 3 訴外Iも株主ではないのに株主である未成年の子J本人として本件株主総会
に出席して議決に参加していた。
 4 以上の事実は、議決方法が著しく不公正であるとの従前の主張内容を追加主
張するものであつて、被告主張の如く不適法なものではない。
 三、 被告の発行済株式総数は六、〇〇〇万株で、本件株主総会に出席した株主
の議決権総数は四、三一八万四、二〇三個であることは認める。
 (被告の主張)
 一、 株主総会決議取消の訴訟で取消原因の追加主張が認められるのは、決議の
日から三箇月の出訴期間内に限られる。原告の非株主が議決に参加したとの主張
は、右期間経過後になされたものであるから、商法二四八条一項に反する不適法な
もので、却下せらるべきである。
 二、 本件株主総会のための株主名簿閉鎖の前に、相当数の被告の従業員が訴外
近江興産株式会社から、その所有株式の譲渡を受けて株式名義の書換を了し、本件
株主総会に出席して議決に加つたことは認める。その余の原告主張事実は否認す
る。なお親権に服する子が所有する株式については、親権者が子の名において議決
権の行使ができるものである。
 (証拠関係)
 「原告」甲六号証提出。証人K、L、I、M、N、Oの各証言援用。原審におけ
る証拠保全としての検証の結果援用。
 「被告」証人Pの証言援用、甲六号証の成立を認。
         理    由
 一、 一次的請求に対する判断。
 <要旨第一>株主総会決議不存在確認請求の訴は、有効な決議が存在しないことの
確認を求める趣旨としてのみ肯定されるものであつて、決議無効確認請
求の訴の一種である。従つて、同一訴訟において、一次的請求として不存在の確認
を求め、二次的請求として無効確認を求めている場合にも、二個の請求が存在する
ものではなく、決議の無効事由として決議の不存在と決議内容の法令又は定款違反
とを主張する一個の請求が存在するに過ぎないものと解すべきである。よつて、本
件(四)の決議についての、不存在確認と無効確認は、これを一個の株主総会決議
無効確認の請求として、次項で判断することとする。本件(一)ないし(三)の決
議不存在確認の一次的請求は、当裁判所も失当と考えるものであつて、その理由は
原判決に記載のとおりである。よつて右請求を棄却した原判決は相当である。
 二、 (四)の決議無効の確認を求める部分に対する判断。
 株式会社の役員が取締役会の決議により会社から無制限に金員の支給を受けられ
ることになると、お手盛りまたは馴れ合いにより会社から不当な支給を受けて、会
社ないし株主に損害を与える危険があるので、これを阻止するために商法二六九条
二八〇条が設けられている。そして、不当支給はひとり職務執行の対価についての
み生ずるわけのものではなく、特別功労に対する報償金、慰労金その他の贈与につ
いても同様の危険が存在する。また、株式会社役員の交替の実情から考えると、退
職役員に対する支給についても取締役会の決議によるときはお手盛りまたは馴れ合
いの虞れが少なくない。
 <要旨第二>退職の取締役、監査役に対する慰労金というのは、一般に在職時の職
務執行の対価たるの性質を有するものであり、仮にこれが他の性質を含
んだものである場合にも、商法二六九条、二八〇条を設けた趣旨から考えると、右
規定にいわゆる取締役、または監査役に対する報酬に該当するものと解すべきであ
る。右規定により株主総会が役員の報酬を定めるにあたつては、細部を取締役会に
委譲する場合においても、支給すべき報酬の最高限度額は自らの決議により定める
ことを要し、このような制限を付することもなく、一切の決定を取締役会に一任す
るような株主総会の決議は右規定に反するものであつて無効というべきである。
 本件株主総会において、主文表示(四)の決議をしていることは、原判決記載の
とおりである。右決議は、退任取締役D、同E、同F及び退任監査役Gに対して慰
労金を贈呈することとして、その総額の最高限度を定めることもなく、金額、時
期、方法等をあげて取締役会に一任しているものである。証人Pの証言によると、
被告の取締役会は更に右権限をあげて代表取締役社長Hに一任し、その結果、同社
長は右Dに慰労金として五、〇〇〇万円を贈つたことが認められるが、他の退職役
員に慰労金を贈つたか否か、または、被告には退職役員に対してこのように多額の
慰労金を贈つた前例があつたか否かは明らかでない。被告に退職役員に対して慰労
金を贈るような慣例があつたことについては何等の主張立証もなく、前記決議に際
しては本件株主総会にHが「在任中の功労に報いるため慰労金を贈呈する」と述べ
ただけで、他に何らの説明も、また質疑討論もなされていないことは後記認定のと
おりである。他に右慰労金の性質を明確にできる資料はない。右鈴木証言と弁論の
全趣旨によると、Dには被告の子会社からも二、〇〇〇万円が贈られて、被告から
の慰労金五、〇〇〇万円と合わせた七、〇〇〇万円から課税相当額を控除した残
五、八〇〇万円を以て告訴事件になつていた被告の同人に対する仮払金五、八〇〇
万円を弁償したことに被告の帳簿上の処理がなされていることが窺えなくもない
が、この事実だけでは、横領額にみあう慰労金を同人に与えることにより、その不
正行為を正当化しようとしたものとの原告の主張を認定するに十分でなく、他にこ
れを肯定するに足る証拠もない。
 しかしながら、右慰労金が在職時の職務執行の対価としての性質以外のものを含
んでいるものであつても、商法二六九条二八〇条にいわゆる報酬に該当するものと
いうべく、その総額の最高限度の定めをすることもなく、これをあげて取締役会に
一任することとした(四)の決議は右規定の趣旨に反する無効のものと解すべきこ
とはさきに説明したところから明らかである。よつて右決議の無効確認を求める部
分は正当として認容すべきである。
 三、 (一)ないし(三)の決議の取消を求める部分に対する判断。
 1 原告は、当審において決議取消の理由として、本件株主総会における非株主
の出頭とその議決権行使の事実を主張したのに対して、被告は商法二四八条一項の
期間経過後は新たな取消理由の追加が許されないから、<要旨第三>右主張は却下す
べきであると主張する。取消訴訟において取消事由の追加変更を許さないことにす
ると、一見訴訟の解決が早くなるように考えられる。しかし訴訟資料の
入手が困難な立場にある取消訴訟の提起者が、右期間内に判明していなかつた理由
につき資料を入手する場合に備えて、概括的抽象的に取消理由を主張し、あるい
は、想定上のあらゆる具体的取消理由を主張するようになると、訴訟状態が無用に
複雑となつて、かえつて訴訟の早期解決ないし決議の効力の確定を妨げることにも
なりかねない。民事訴訟において口頭弁論の終結に至るまで攻撃防禦法の提出がで
きるとする原則が採用されていることには、相当の根拠と深い理由があるのである
から、これが例外は強い必要と合理的理由がない限り認められない。そして、行政
処分取消訴訟における出訴期間に関する規定と株主総会決議取消訴訟の出訴期間に
関する規定は同一の形式であるにも拘らず、行政処分取消訴訟の場合には出訴期間
経過後の取消事由の追加変更が許されるものとされている。しかるに、早期確定の
必要度において、行政処分の効力は株主総会決議の効力にまさるとも劣るものでは
ない。株主総会決議取消訴訟の場合の取消理由の主張につき、民事訴訟の原則に反
してまで強い制限をする必要が考えられない。右取消理由の追加変更は、民訴法一
三九条(準備手続を経たときは同二五五条)の制約の下に口頭弁論の終結に至るま
で行うことできるものと解すべきであるから、これに反する被告の抗弁は採用でき
ない。加うるに、原告の当審における追加主張の事実は、株主総会の決議方法が違
法かつ著しく不公正であるとの従来の主張の範囲でこれを補充するものに過ぎない
とも解せられる。よつて、被告の抗弁はこの点からみても失当である。
 2 原審及び当審証人Kの証言と弁論の全趣旨により成立を認めることができる
甲一、二号証と乙一号証、右K証言、当審証人P、同L、同N、同O、原審証人
C、同Q、同R、同S、同Tの各証言(いずれも後記認定に反する部分を除
く。)、及び弁論の全趣旨を合せて考えると、つぎの事実を認めることができる。
 (1) 被告は、Dに対し取締役として在職中に仮払の名目で五、八〇〇万円の
横領の疑いのあるような支払をしている外多額の不当支出をしていた。また被告の
第八一回から第八六回の各決算期の間、貯蔵品、原料等を水増しの評価をし、支払
手形、買掛金の計上を一部分しかせず、被告の建物が地上に存在する時価六〇〇万
円位の土地をいわゆる小会社に四億円で売渡したように仮装する等の方法で架空の
利益を計上し、その総額は約八億円に達していた。原告は、被告の一一万株の株主
であるが、本件株主総会の前に、当時の取締役Dを業務上横領の罪により代表取締
役社長であるHを商法四八九条三号の罪(蛸配当の罪)により、いずれも大阪地方
検察庁に告訴していた。右告訴により捜査が進められていたので一部の株主がこの
ことを知り、本件株主総会において同社長らの責任を追及しようとする気運が生じ
ていた。その頃東京の総会屋である松葉会の多数の会員に被告株式の名義が書き換
えられていた。被告の役員らはこの情報を入手したが、当時取締役を退任していた
Dが個人的に一、二度松葉会と事前折衝をしただけで、被告のH、U専務取締役ら
は、総会対策として事前に松葉会員らと折衝するようなことはなく、強い態度で株
主総会に臨む方針を決めた。
 そして本件株主総会の約一箇月前に被告から東警察署に対し、本件株主総会のと
きは種々の問題が生じるかも知れないと予報した上で、当日の警戒を依頼した。
 更に、Hらは、相当数の出席が予定される松葉会員らに対抗させるため、多数の
被告社員を株主として本件株主総会に出席せしめることとし、本件株主総会のため
の株主名簿閉鎖の前日になつて、Uの支配下にある訴外近江興産株式会社所有の被
告株式を、被告本社勤務の男子社員九〇名に、一名当り一〇〇株宛の割合で名義書
換をした。
 しかし、本件株主総会当時に株券の交付を受け、または、株式代金の支払をした
者は、右名義書換を受けた社員中に一人もなく、その決算期の株式配当金も右社員
らにではなく、すべて訴外会社に支払われた。右社員中の四、五名だけが、本件株
主総会に株式代金を支払つて株券の交付を受けているが、これも相当の日時が経過
した後のことである。
 被告の総務部長Kは、右名義変更を受けた社員と従前から被告の株主であつた社
員に対し、社長命として、「本件株主総会には開会の午前一〇時より一時間位前に
出席し、議案に賛成のときは大いに拍手をして賛成の旨を表現して貰いたい、但し
暴力の行使は絶対にしないように」と指示をした。
 (2) 本件株主総会当時の被告の発行済株式総数は六、〇〇〇万株であつて、
当日の出席株主数は委任状によるもの三、二六七名を含めて三、五七八名であり、
この議決権の個数は委任状によるもの三、八八七万三、七〇四個を含めて四、三一
八万四、二〇三個であつた。そのうち自ら出席したのは三一一名であるが、そのな
かには松葉会員の約三〇名と右名義書換をうけた約九〇名に従前からの株主を合せ
て百数名の被告の社員が含まれていた。
 原告は前記のとおりHらを告訴していた関係もあつて、本件株主総会には出席し
ていなかつた。
 被告の総務部長であり株主でもあるKは株主から被告に送付してきた委任状を持
つてこれが受任者として出席したが、右委任状の内訳は、原案に反対が三、五〇〇
株、賛成または白紙委任の合計が三、八八七万株であつて、後者の議決権数は全議
決権数の六〇パーセント前後でこれのみによつても過半数を超えるものであつた。
 (3) イ、本件株主総会は大阪市a区b町c町d番地Ve階において昭和三八
年一二月二三日午前一〇時に開かれることになつていたが、定刻前に定足数を超え
る株主が出席し、会議場は超満員の状態で騒然としていた。
 Hが定刻頃に入場して定款により議長となつて開会すべく議長席についたとこ
ろ、相当多数の株主から「議長不信任」「緊急動議」等の発言があつたが、Hはこ
れを不信任動議として取り上げようとしなかつたので数名の株主が議長席におしか
けてきた。Hは「定款に従つて議長をつとめるものであつて、一部の方が議長の資
格がないとか議長不信任とか言つても、これにとりあうわけにはまいらない」と発
言して不信任動議をとり上げない態度を明確にしたので、会場は更に混乱した。会
場内の秩序を回復することができない状態になつたので、Hは午前一〇時一五分頃
に休憩を宣して退席し、他の取締役らと控室で約一時間四〇分に亘つて対策を協議
した。
 その結果一部株主の反対を押し切つて議事を強行することとなつた。
 ロ、 午前一一時五五分頃Hは議長席につき野次と怒号で騒然たるふんいきの下
で開会を宣した。再び相当数の株主から議長に対し発言を求め、または議長不信任
の発言があつたが、Hは、これを黙殺して、発言を許さず、また議長不信任動議の
成否を確かめることもなく、第一号議案「第八七期(自昭和三八年四月二六日至同
年一〇月二五日)営業報告書、貸借対照表、損益計算書ならびに利益金処分案承認
の件」を読み上げて議題の宣告をし、直に監査役の報告を求めた。監査役Cは第一
号議案につき適法であると報告し、公認会計士の監査が行われていると付加した。
右発言はマイクにより行われたが、出席株主にはとぎれとぎれに聞える程度であつ
た。右議題については役員から何らの説明もなく、通常行われる社長の営業報告も
なされなかつた。Hは株主に質疑討論の機会も与えないで、いきなり「賛成の方は
拍手を」と発言したところ、多数の社員株主らが賛成といいながら盛んに拍手し、
Kも拍手をした。Hは同人が拍手するのを確かめて、拍手多数により可決された旨
を宣した。HはKが過半数の委任状を持つているので、同人さえ賛成すればよいと
安易に考え、議事運営が困難なふんいきの下であえて議事を強行し、右議案につき
質問の準備をしていた株主らにも質疑討論の機会を与えなかつたものである。
 また、Kは前記のとおり原案に対して反対と賛成の双方の委任状による受任をし
ていたのであるが、議案の採決に際しては何らの留保もすることなく、無条件に賛
成の拍手をしているのであるから、内心の意思如何に拘らず、自己所有株式と受任
株式の総数につき議決権の行使として賛成意思を表示したことになり、原案反対趣
旨の委任状の関係では、あきらかに委任の趣旨に反した議決権の行使をしているわ
けである。
 右強行採決に憤激した二、三の株主は、議長席に殺到して、議長のマイクを奪つ
たり、椅子を振り上げたり、またはテーブルをひつくり返す等の暴行に及び、会場
内の混乱ははなはだしいものとなつた。Hは午後〇時一〇分頃に休憩を宣して退席
した。その際二、三の株主が警戒中の警察官に逮捕されたが、松葉会員であつたか
否かは明確でない。
 ハ、 午後〇時二五分頃に会議は再開され、Hは議長として、第二号議案「取締
役三名任期満了につき二名改選の件」を読み上げて議題を宣告すると同時に、議長
に指名権を与えられたいと述べ、一部株主からの賛成の発言を聞くや、取締役とし
てA、Bを指名して賛成者の拍手を求め、Kの拍手を確かめて可決を宣した。その
頃には警察機動隊もホテルに到着して警戒に参加するに至つたが、再び会場が混乱
して、Hは退席した。
 ニ、 午後〇時四〇分頃Hは議長席につき、第三号議案「監査役一名任期満了に
つき改選の件」を読み上げて、議題を宣告し、第二号議案の場合と同様の経過で監
査役としてCを指名し、Kの拍手を見て可決を宣した。
 引続き、第四号議案「退任役員に対し慰労金贈呈の件」が上程されて、Hは「退
任取締役D、同E、同F、退任監査役Gに対し、在任中の功労に報いるため慰労金
を贈呈し、金額、時期方法については取締役会に一任願います。」と提案した上、
右同様の経過により可決を宣し、午後〇時四五分に閉会を宣した。
 ホ、 第二ないし第四号議案の審議採決も、マイクを通じた議長の発言すら株主
には十分に聞きとれない状態の騒然たる会場で、議案の説明、質疑討論もなく、K
の拍手により可決が宣せられたものであることは、第一号議案の場合と同様であ
る。
 以上のとおり認定することができる。各証人の証言中の右認定に反する部分は他
の証拠と対比して信用できない。
 <要旨第四>3(1) 訴外近江興産株式会社から株式名義の書換を受けた九〇名
の社員は、本件株主総会当時にいずれも株式代金の支払及び株券の受領
をしていなく、その決算期の株式配当金はすべて被告から訴外会社に支払われてい
ることは前記のとおりであり、この事実と前記認定のその他の事実を合わせて考え
ると、右株式名義の書換は被告のH、Uらが被告の社員を本件株主総会に出席させ
る手段として行つたものに過ぎなく、当時右社員らは被告の株主となつていなかつ
たものと認定するのが相当である。H命としてのKの指示により、右社員らが本件
株主総会に出席して株主として議決権を行使していることは前認定のとおりであつ
て、本件(一)ないし(三)の決議は非株主の参加した違法の方法によるものとい
わなければならない。
 (2) 株式総会は多数決原理の支配する会議体であり、多数決は適法なる議事
運営手続の結果である場合に限り会議体の意思としての価値を有するものとされ
る。会議体の意思としての結論は多数意思の決するところであるが、これに至る道
程としての議事運営は小数意見尊重の精神を基調としたものでなければならない。
会社の業績が良好で資本が経営を全面的に信任している場合の株主総会は、一般に
そうであるように「形式のために指揮者により迅速に演出される見物人の少い喜
劇」であつても問題とすることはない。しかし、本件株主総会のように、不正支出
や粉飾決算があるとして会社役員が株主から告訴されているような状況の下に開催
される場合においては、会議体の議事運営に関する原則に従つた実質的な質疑討論
が特に必要とされるのである。平常時に形式的な決議をする場合の慣行は、このよ
うな非常の場合の総会の議事運営につき、慣習としての効力を有しないものと解す
べきである。
 Hは蛸配当につき責任ありとして原告から告訴までされており、一部の株主は本
件株主総会において、この疑惑を解明しその責任を追及しようとしていた。そして
第一号議案は計算書類の承認に関するものであつた。Hは、このように紛争の渦中
にあつて、議事進行につき適正を欠くとの疑惑を持たれるのが当然とされる立場に
あつたのであるから、定款には社長が総会議長をする旨が定められていても、公正
なる議事運営のために自発的に議長を他に譲るべきであつたと思われる。前認定の
事実よりすると、会場が騒然となつていたのは、一部株主が経理上の疑惑に対する
会社役員の責任を糾明しようとしていたことによる興奮が主たる原因と考えられ
る。従つて、Hが議長を辞するとともに、経理上の問題点については進んで解明に
協力するの態度に出ていたとすれば、議事は本件株主総会と全く異なつた進行を遂
げ、無為に経過せしめた前後三回二時間余に亘る休憩時間も実質的質疑討論に振り
向けることができたかも知れなく、その可能性は大であつたのである。そして、こ
れが社長たる者の、また、株主総会のあるべき姿なのである。
 しかるに、Hは、相当数の議長不信任または資格なしとの発言に対しても動議と
しての成否を確かめることもなく、「一部の方が議長の資格がないとか、議長不信
任とか言つても、これにとりあうわけにはまいらない。」と述べて、議長として議
事を強行する態度を示し、興奮している株主を更に刺激して会場の混乱を助長して
いるのである。
 約一時間四〇分の休憩後に再開したが、会場内は野次と怒号のためマイクを通じ
た議長の発言すら断続的に聞える程度であつて、議長の附近に位置していた者はと
もかく、その他の株主らには議事の進行をわずかに会場の気配で感じとるの外ない
状態であつた。Hは混乱を収拾して会場の秩序を回復することもなく、正常な議事
運営の期待できない状態の下で強引に議事を進めたが、議題についての説明もな
く、株主に質疑討論の機会も与えなく、また、賛否を拍手に求めるというような不
完全な表決方法をとつて、過半数の株主の受任者たるKの賛成拍手を見て、本件
(一)ないし(三)の議決が成立したものとしたことは前認定のとおりである。
 また、Kは、前記認定のとおり原案賛成と反対の双方の委任状による受任をして
いたが、原案反対の委任状の分についても、賛成の意思を表示して議決権を行使し
ているのである。以上の事実によると、本件(一)ないし(三)の決議は、その方
法が著しく不公正であつたものといわなければならない。
 (3) そうすると、本件(一)ないし(三)の決議はその方法が法令に違反す
るとともに、著しく不公正であつたから取消さるべきである。これが取消を求める
原告の二次的請求は正当として認容すべきである。
 三、結論
 本件(一)ないし(三)の決議の不存在確認を求める原告の一次的請求を棄却し
た原判決は相当であるが、右決議の取消を求める二次的請求及び本件(四)の決議
の無効確認の請求はいずれも正当であるのに、これを棄却したことは失当であるか
ら、原判決を主文のとおりに変更することとする。
 よつて、民訴法九六条九二条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 乾久治 裁判官 前田覚郎 裁判官 新居康志)

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛