弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金一〇、〇〇〇円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に綴つてある松山地方検察庁検察官検事岡田照志作成名
義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は弁護人亀田得治、
同三好泰治、同三野秀富連名の答弁書に記載されたとおりであるから、ここにそれ
ぞれこれを引用する。
 検察官の所論は、原判決が本件について被告人を無罪としたのは政治資金規正法
二三条、六条乃至八条の解釈適用を誤つたものであると主張する。
 よつて記録を調査して按ずるに、本件の公訴事実自体は原判決もこれを肯認して
おり、証拠上もその証明が十分であるが、原判決は、政治資金規正法の適用を受け
る政治団体の役職員等が同法七条の届出を欠いたまま他から政治資金の寄付を受け
ても、当該届出の対象となる事項が既に公知となつており、届出によらずとも他の
方法により当該選挙管理委員会にも明らかとなつている場合は同法二三条、八条の
罪は成立しないと解し、本件において被告人が当時A党愛媛県本部の執行委員長と
して同本部の代表者たる地位にあつたことは公知の事実であり、所轄選挙管理委員
会にも明らかであつたとして被告人を無罪としたものである。
 そこで所論に鑑みこの原判断の当否を考えてみるに、政治資金規正法は、同法三
条に該当する政治団体は代表者又は主幹者及び会計責任者各一名を選任し、これら
の者の氏名、住所、生年月日及び選任年月日並びに当該政治団体の主たる事務所の
所在地を文書で当該選挙管理委員会(又は自治大臣)に届け出るべきものと規定し
(同法六条)、さらに、その後これらの届出事項の内容に異動を生じたときは、そ
の旨を前同様の例によつて届け出るべきものとしている(同法七条)。そして、こ
れらの届出がなされた後でなければ、公職の候補者の推せん、支持又は反対その他
の政治活動のために、いかなる名義をもつてするを問わず、寄付を受け、又は支出
をすることを許さないものとし(同法八条)、政治団体が右に違反して政治資金を
収受し又は支出したときは、当該団体の役職員又は構成員として当該実行行為をし
た者を処罰することとしているのである(同法二三条)。
 <要旨>同法がこのような規制を講じたのは、政治資金の無制限な流通を放任する
と、とかく政治腐敗の要因となる虞れがあるところがら、政治団体において
その政治資金を管掌すべき者(代表者又は主幹者及び会計責任者)をあらかじめ選
任させてこれらの者の氏名、住所等を公の機関に登録させ、当該政治団体の政冶資
金の収支はこれらの者を通じてのみこれを行なうことができるものとして責任の所
在を明確ならしめると共に、これらの者から当該政治資金の収支の明細を公の機関
に報告させて国民に公開し(同法一二条乃至一四条、二〇条等)、もつて政治団体
による政治活動の公明を図り、公職選挙の公正を確保して民主政治の健全なる発達
に寄与することを期したにほかならない(同法第一条)。従つて同法六条及び七条
の届出は、政治団体の政治資金管掌者に関する戸籍届ともいい得べき要式的行為で
あり、同法の適正効果的な運営を果たすための重要な前提となるものであつて、有
名無名を問わず、或いは大小を問わず、すべての政治団体について等しく要求され
るものであり、その必要性は当該届出の対象となる事項の内容が公知であると否
と、或いはまたそれが偶々他の何らかの方法で所轄の選挙管理委員会に明らかとな
つていると否とによつて変わるところはないと解するのが相当である。
 しかも本件においては、当時被告人がA党愛媛県本部の代表者であつたことが公
知の事実であつたとする原判決の認定にも証拠上些か疑問の余地があり、また仮り
にこの点を肯定するとしても、そのことから当然に被告人が政冶資金規正法上の政
治資金管掌者たる地位を取得するとは解されない(因みに同法は、政治団体の代表
者以外の者でも所謂主幹者として同法上の資金管掌者となり得ることを認めてい
る)。のみならず、同法六条及び七条によれば、政治団体は、代表者又は主幹者の
ほか会計責任者の選任乃至異動の届出も義務づけられており、この届出を欠いた場
合にも同法二三条、八条の適用を免れないものと解されるのであるが、本件におい
てはこの会計責任者に関する屈出もなされていないのであり、この人事が当時所謂
公知の事実であつたものと認めるべき証拠も全く存しないのである。
 以上いずれにしても、原判決は政治資金規正法の法意を誤解して不法に本件を無
罪としたものというほかはなく、到底破棄を免れないものである。論旨は即ち理由
がある。
 よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但
書により当裁判所において直ちに判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は昭和三九年五月以降松山市a町b丁目c番地のdA党愛媛県本部の執行
委員長で同本部の代表者(主幹者)として同本部業務全般を統括する役職員であ
る。
 同本部はA党の目的達成のため、党本部との緊密な関係を保ちつつ所属支部を統
括し、同党の党員獲得、党勢拡張ならびに同党の政策の宣伝を図るとともに、昭和
四二年一月二六日施行の愛媛県知事選挙には知事候補としてBを推せん支持し、同
月二九日施行の衆議院議員総選挙には愛媛県各区につき各一名ずつの同党公認の議
員候補を推せん支持することなどを目的とした政治活動を行なつている政治団体で
ある。
 従つて同本部が愛媛県選挙管理委員会に政治資金規正法第七条にもとづき代表者
などの異動屈出をした後でなければ、前記政治活動のために何らの名義をもつてす
るを問わず寄付をうけることができないのにかかわらず右の届出をなさないで、被
告人は代表者として別表記載のとおり昭和四一年一二月一九日ごろから昭和四二年
一月二三日ごろまでの間、松山市e町f丁目g番地hC株式会社ほか五ケ所におい
て、同社ほか五団体から前記県本部に対する特別寄付金名義のもとに合計金一六五
万円の寄付をうけたものである。
 (証拠の標目)省略
 (法令の適用)
 政治資金規正法二三条、八条、七条、六条(各事実につき)、
 (罰金刑選択)
 刑法四五条前段、四八条二項、一八条一項。
 なお、弁護人は、本件可罰的違法性を欠いており、本件起訴は公訴権の濫用であ
ると主張するが、一件記録を精査しても右各主張に副う事情を肯認し難いから、論
旨はいずれも採用しない。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小川豪 裁判官 深田源次 裁判官 小林宣雄)
別 表
<記載内容は末尾1添付>

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