弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
以下においては,文中に記載するもののほか,別紙略称一覧表記載のとおり略称
を用いる。
第1請求
1原告P1関係
(1)甲事件
ア豊能税務署長が平成17年7月19日付けでした原告P1の平成14年
分の所得税の更正のうち,総所得金額4852万5823円,還付を受け
るべき税額238万1400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
のうち過少申告加算税の額6万9000円を超える部分を取り消す。
イ豊能税務署長が平成17年7月19日付けでした原告P1の平成15年
分の所得税の更正のうち,総所得金額430万5199円,還付を受ける
べき税額352万6090円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を
取り消す。
(2)丁事件
ア豊能税務署長が平成19年3月2日付けで原告P1に対してした平成1
6年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処
分を取り消す。
イ豊能税務署長が平成19年5月18日付けで原告P1に対してした平成
17年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知
処分を取り消す。
2原告P2(承継人P3)関係
(1)乙事件
ア三木税務署長が平成17年2月21日付けでした原告P2の平成13年
分の所得税の更正のうち,総所得金額2314万3045円,還付を受け
るべき税額767万3750円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
を取り消す。
イ三木税務署長が平成17年2月21日付けでした原告P2の平成14年
分の所得税の更正のうち,総所得金額3042万7791円,還付を受け
るべき税額871万6530円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
を取り消す。
ウ三木税務署長が平成17年2月21日付けでした原告P2の平成15年
分の所得税の更正のうち,総所得金額2245万3408円,還付を受け
るべき税額864万3050円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定
を取り消す。
(2)丙事件
ア三木税務署長が平成19年3月2日付けで原告P2に対してした平成1
6年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処
分(ただし,還付を受ける税額826万0250円を超える部分)を取り
消す。
イ三木税務署長が平成19年5月18日付けで原告P2に対してした平成
17年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知
処分を取り消す。
第2事案の概要
1事案の骨子
本件は,原告らが,本件各受託銀行との信託契約を介して投資した米国所在
の本件各建物の貸付に関する所得が不動産所得(所得税法26条1項)に当た
ると主張して,その減価償却費等による損益通算をして所得税の申告又は更正
の請求を行ったところ,所轄税務署長が,当該所得は不動産所得に該当せず減
価償却費等の損益通算は許されないとして,原告P1に対して本件P1各更正
処分及び本件P1各賦課決定処分(原告P1の平成14年分及び平成15年分
所得税・甲事件)並びに本件P1各通知処分(原告P1の平成16年分及び平
成17年分所得税・丁事件)を,原告P2に対して本件P2各更正処分及び本
件P2各賦課決定処分(原告P2の平成13年分~平成15年分所得税・乙事
件)並びに本件P2各通知処分(原告P2の平成16年分及び平成17年分所
得税・丙事件)をしたため,原告P1及び承継人P3がそれぞれ上記各処分
(ただし,原告らが認める総所得金額及び税額を超える部分)の取消しを求め
ている事案である。
2法令等の定め
(1)所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)
ア2条(定義)
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
6号内国法人国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。
7号外国法人内国法人以外の法人をいう。
8号人格のない社団等法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の
定めがあるものをいう。
(なお,法人税法2条3号,4号及び8号にも同旨の規定がある。)
イ4条(人格のない社団等に対するこの法律の適用)
人格のない社団等は,法人とみなして,この法律(別表第1を除く。)
の規定を適用する。
ウ13条(信託財産に係る収入及び支出の帰属)
1項信託財産に帰せられる収入及び支出については,次の各号に掲げる
場合の区分に応じ当該各号に定める者がその信託財産を有するものと
みなして,この法律の規定を適用する。(ただし書略)
1号受益者が特定している場合その受益者
エ26条(不動産所得)
1項不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空
機(以下この項において「不動産等」という。)の貸付け(括弧内
略)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)を
いう。
2項不動産所得の金額は,その年中の不動産所得に係る総収入金額から
必要経費を控除した金額とする。
オ69条(損益通算)
1項総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合におい
て,不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所
得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは,政令で定める順序
により,これを他の各種所得の金額から控除する。
(2)国税通則法65条(過少申告加算税)
4項第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事
実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を
含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由がある
と認められるものがある場合には,これらの項に規定する納付すべき税額
からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定
めるところにより計算した金額を控除して,これらの項の規定を適用する。
(3)旧民法
ア33条
法人ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ依ルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス
イ36条
1項外国法人ハ国,国ノ行政区画及ヒ商事会社ヲ除ク外其成立ヲ認許セ
ス但法律又ハ条約ニ依リテ認許セラレタルモノハ此限ニ在ラス
(4)措置法41条の4の2(特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特
例)(平成17年法律第21号により新設〔平成18年1月1日施行〕,以
下の条文は施行時のもの)
1項特定組合員(組合契約を締結している組合員(これに類する者で政令
で定めるものを含む。以下この項において同じ。)のうち,組合事業に
係る重要な財産の処分若しくは譲受け又は組合事業に係る多額の借財に
関する業務の執行の決定に関与し,かつ,当該業務のうち契約を締結す
るための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合員以外のものをい
う。)に該当する個人が,平成18年以後の各年において,組合事業か
ら生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額
の計算上当該組合事業による不動産所得の損失の金額として政令で定め
る金額があるときは,当該損失の金額に相当する金額は,所得税法第2
6条第2項及び第69条第1項の規定その他の所得税に関する法令の規
定の適用については,生じなかったものとみなす。
2項この条において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定める
ところによる。
1号組合契約民法第667条第1項に規定する組合契約及び投資事業
有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限
責任組合契約並びに外国におけるこれらに類する契約(政令で定める
ものを含む。)をいう。
3前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認めら
れる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)
(1)原告P1に対する課税の経緯等
ア原告P1が平成14年分及び平成15年分の所得税についてした確定申
告,修正申告(平成14年分のみ)及び審査請求,豊能税務署長がした本
件P1各更正処分及び本件P1各賦課決定処分,並びに国税不服審判所長
がした審査裁決の経緯は,別紙1(課税等の経緯)記載のとおりである。
また,原告P1が平成16年分及び平成17年分の所得税についてした
確定申告,更正の請求,異議申立て及び審査請求(平成20年4月24日
に取下げ),並びに豊能税務署長がした本件P1各通知処分及び異議決定
の経緯は,別紙2(課税等の経緯)記載のとおりである。
イ被告が主張する原告P1の平成14年分及び平成15年分の所得税額等
の計算過程は,別紙3(本件P1各更正処分等の計算過程)(別表を含む。
以下,別紙4,7及び8も同じ。)記載のとおりである(なお,平成14
年分所得税に係る不動産所得のうち,本件建物(P)以外の不動産貸付に関
する必要経費の否認額189万0010円については当事者間に争いがな
いため,原告P1は,平成22年5月17日付け訴えの変更申立書により,
平成14年分所得税に係る更正処分及び賦課決定処分の取消請求を一部減
縮した。)。
また,被告が主張する原告P1の平成16年及び平成17年分の所得税
額等の計算過程は,別紙4(本件P1各通知処分の計算過程)記載のとお
りである。
(2)原告P2に対する課税の経緯等
ア原告P2が平成13年分から平成15年分までの所得税についてした確
定申告,異議申立て及び審査請求,三木税務署長がした本件P2各更正処
分及び本件P2各賦課決定処分,並びに国税不服審判所長がした審査裁決
の経緯は,別紙5(課税等の経緯)記載のとおりである。
また,原告P2が平成16年分及び平成17年分の所得税についてした
確定申告,修正申告(平成16年分のみ),更正の請求,異議申立て及び
審査請求(ただし,平成20年4月24日取下げ),並びに三木税務署長
がした本件P2各通知処分及び異議決定の経緯は,別紙6(課税等の経
緯)記載のとおりである。
イ被告が主張する原告P2の平成13年分から平成15年分までの所得税
額等の計算過程は,別紙7(本件P2各更正処分等の計算過程)記載のと
おりである。
また,被告が主張する原告P2の平成16年分及び平成17年分の所得
税額等の計算過程は,別紙8(本件P2各通知処分の計算過程)記載のと
おりである(なお,平成16年分所得税に係る分離長期譲渡所得額36万
4686円については当事者間に争いがないため,原告P2は,平成22
年7月9日付け訴えの変更申立書により,平成16年分所得税に係る更正
の請求に理由がない旨の通知処分の取消請求を一部減縮した。)。
(3)原告らが行った取引の概要等
ア原告P1関係
(ア)原告P1に関する契約及び取引の概要は,後記(イ)以下に記載する
ほか,別紙9(本件における契約及び取引関係の概要)記載のとおりで
ある。また,原告P1関係の関連会社及び契約内容等(ただし,本件L
PS契約(P)の内容は除く。)の概要は,別紙10(関連会社及び契約
内容等(P1))記載のとおりである。
(イ)原告P1は,P4証券との間で,平成13年8月15日,P4証券
をファイナンシャル・アドバイザーとする本件アドバイザリー契約(P)
(乙A1)を締結するとともに,米国所在の中古集合住宅である本件建
物(P)を対象とした,投資金額を1口20万ドルとする本件不動産投資
事業(P)に参加を申し込んだ。
また,原告P1は,本件不動産投資事業(P)に投資するため,P5銀
行との間で,自己を委託者兼受益者,P5銀行を受託者とする本件基本
信託契約(P)(乙A2)を締結し,同契約に基づいて,P5銀行に開設
された口座(エスクロー口座)に現金資産を拠出した。
(ウ)P5銀行は,本件GP(P)との間で,平成14年3月28日,本件
GP(P)をゼネラル・パートナー,P5銀行をリミテッド・パートナー
とする本件LPS契約(P)(乙A3)を締結し,本件LPS(P)を組成し
た。そして,P5銀行は,本件LPS契約(P)に基づき,本件LPS(P)
のパートナーシップ持分の発行と引き換えに(againsttheissueofp
artnershipinterest〔和訳に争いあり〕),原告P1が拠出した現金
資産を本件LPS(P)に拠出した。
(エ)本件LPS(P)は,P7との間において,本件不動産(P)に係る本件
売買契約(P)(乙A4),本件土地賃貸借契約(P)(乙A5)及び本件売
買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)(乙A6)を
締結し,本件建物(P)を購入し,本件土地(P)を賃借して,本件建物(P)
を第三者に対して賃貸した(本件不動産賃貸事業(P))。なお,本件不
動産賃貸事業(P)に関して,本件LPS(P)は,P8から,本件建物(P)
購入等に係る資金を借り入れ,P5銀行からの上記拠出資金及びP8か
らの上記借入金を本件不動産賃貸事業(P)の資金とした。
また,本件LPS(P)は,本件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務
について,P9との間で,平成14年3月28日,本件LPS(P)を委
託者,P9を受託者とする本件管理契約(P)(乙A7)を締結した。
(オ)本件LPS(P)は,P7との間で締結された本件売買契約(P)及び本
件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)に基づい
て,P7から本件建物(P)を636万6500ドルで取得した。
本件LPS(P)は,P7との間で締結された本件土地賃貸借契約(P)に
基づいて,同契約の締結日である2002年(平成14年)3月28日
に,P7から本件土地(P)を基本賃借料として年17万9048ドルで
賃借した。
本件不動産賃貸事業(P)に係る資金には,原告P1らを含む個人投資
家からの出資金のほか,本件LPS(P)がP8より借り入れた537万
ドルが充てられた。
本件不動産賃貸事業(P)における管理・運営業務は,管理者であるP
9が,所有者である本件LPS(P)との間で締結した本件管理契約(P)に
基づいて行われている。
(カ)原告P1は,P4証券からの依頼に従い,P5銀行に対し,「Re.
MasterFiduciaryContract–P22」と題する書面(乙A8)に
よって,本件基本信託契約(P)を解約する旨を通知し,また,P4証券
は,原告に対し,「DOITプログラム・ファイナンシャル・アドバ
イザー業務の譲渡について」と題する書面(乙A9)によって,原告
P1のファイナンシャル・アドバイザーとしての業務をP10に譲渡
する旨を通知した。
これに伴い,原告P1は,P10との間で,平成15年10月1日,
本件新アドバイザリー契約(P)(乙A10)を締結し,また,P11銀
行との間で,同年11月17日,本件新信託契約(P)(乙A11)を締
結した。
他方,P5銀行及びP11銀行は,原告P1の指示に基づき,「ASSI
GNMENTOFLIMITEDPARTNERSHIPINTEREST(P22)」と題する書面
(乙A12)に署名をして,原告P1に係る本件LPS(P)のパートナ
ーシップ持分をP5銀行からP11銀行に譲渡した。
イ原告P2関係
(ア)原告P2に関する契約及び取引の概要は,後記(イ)以下に記載する
ほか,別紙11(本件における契約及び取引関係の概要)記載のとおり
である。また,原告P2関係の関連会社及び契約内容等(ただし,本件
LPS契約(C)の内容は除く。)の概要は,別紙12(関連会社及び契
約内容等(P2))記載のとおりである。
(イ)原告P2は,P4証券との間で,平成12年11月20日,P4証
券をファイナンシャル・アドバイザーとする本件アドバイザリー契約
(C)(乙B1)を締結するとともに,米国所在の中古集合住宅である本
件建物(C)を対象とした,投資金額を1口20万ドルとする本件不動産
投資事業(C)に参加を申し込んだ。
また,原告P2は,本件不動産投資事業(C)に投資するため,P5銀
行との間で,自己を委託者兼受益者,P5銀行を受託者とする本件基本
信託契約(C)(乙B3)を締結し,同契約に基づいて,P5銀行に開設
された口座(エスクロー口座)に現金資産を拠出した。
(ウ)P5銀行は,P12と共に,本件GP(C)との間で,本件GP(C)を
ゼネラル・パートナー,P5銀行及びP12をリミテッド・パートナー
とする本件LPS契約(C)(乙B4)を締結し,本件LPS(C)を組成し
た。そして,P5銀行は,本件LPS契約(C)に基づき,本件LPS(C)
のパートナーシップ持分の発行と引き換えに(againsttheissueofp
artnershipinterest〔和訳に争いあり〕),原告P2が拠出した現金
資産を本件LPS(C)に拠出した。
(エ)本件LPS(C)は,P14との間において,本件不動産(C)に係る本
件売買契約(C)(乙B5),本件土地賃貸借契約(C)(乙B6)及び本件
売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)(乙B7)
を締結し,本件建物(C)を購入し,本件土地(C)を賃借して,本件建物
(C)を第三者に対して賃貸した(本件不動産賃貸事業(C))。なお,本件
不動産賃貸事業(C)に関して,本件LPS(C)は,P15及びP16から,
本件建物(C)購入等に係る資金を借り入れ,P5銀行からの上記拠出資
金及びP15等からの上記借入金を本件不動産賃貸事業(C)の資金とし
た。
また,本件LPS(C)は,本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務
について,P17との間で,平成12年12月22日,本件LPS(C)
を委託者,P17を受託者とする本件管理契約(C)(乙B8)を締結し
た。
(オ)原告P2は,P4証券からの依頼に従い,P5銀行に対し,「Re.
MasterFiduciaryContract–P23」と題する書面(乙B9)によ
って,本件基本信託契約(C)を解約する旨を通知し,また,P4証券は,
原告に対し,「DOITプログラム・ファイナンシャル・アドバイザー
業務の譲渡について」と題する書面(乙B10)によって,原告P2の
ファイナンシャル・アドバイザーとしての業務をP10に譲渡する旨を
通知した。
これに伴い,原告P2は,P10との間で,平成15年10月1日,
本件新アドバイザリー契約(C)(乙B11)を締結し,また,P11銀
行との間で,同年11月17日,本件新信託契約(C)(乙B12)を締
結した。
他方,P5銀行及びP11銀行は,原告P2の指示に基づき,「ASSI
GNMENTOFLIMITEDPARTNERSHIPINTEREST(P23)」と題する書面
(乙B13)に署名をして,原告P2に係る本件LPS(C)のパートナ
ーシップ持分をP5銀行からP11銀行に譲渡した。
(4)本件スキームの概要
本件各信託契約は,P4証券が企画したDOIT(DualOwnershipInves
tmentTactics)プログラム(本件スキーム)に基づいて一体的に実行され
ることが企図された複合契約の一部である。本件建物(C)に係る本件スキー
ムの概要は次のとおりである。
アP4証券は,本件LPS(C)を利用して本件建物(C)を賃貸することやそ
の投資効果など本件スキームの内容を説明した「"DOIT"DualOwnership
InvestmentTactics海外不動産投資事業プログラムのご案内(基本コン
セプト)」,「海外不動産投資事業プログラムのご案内(ハイライト)」
及び「P21‐予想投資損益の概略‐」と題するパンフレットを作成し,
一般個人投資家を対象に本件建物(C)の賃貸事業へ参加を勧誘したことか
ら,原告らを始め多数の一般個人投資家が参加した。
イ「P21‐予想投資損益の概略‐」の記載
(ア)本件スキームに係る出資金額
1口当たり2000万円
(イ)本件不動産賃貸事業(C)に係る受取キャッシュ
本件土地(C)に係る地代他支払後の出資金2000万円(1口)当た
りの受取キャッシュは,投資期間は6~7年とし(2006年10月販
売活動開始),7年経過後の本件建物(C)の売却価格が購入価格から価
格上昇しないことを前提とした場合,
2001年10月において7000円
2002年10月において9000円
2003年10月において1万2000円
2004年10月において41万3000円
2005年10月において73万9000円
2006年10月において105万0000円
2007年10月において137万3000円
であると見込まれており,その合計360万3000円が,7年間に投
資者が受領する受取キャッシュの総額であると想定されている。
(ウ)本件不動産賃貸事業(C)に係る不動産所得
前記(イ)と同様の条件を前提とした場合,本件不動産賃貸事業(C)に
係る出資金2000万円(1口)当たりの不動産所得(前記(イ)の受取
キャッシュから減価償却費を差し引いた金額)は,
2001年10月において▲2102万2000円(損金)
2002年10月において▲2102万1000円(損金)
2003年10月において▲2101万8000円(損金)
2004年10月において▲2061万6000円(損金)
2005年10月において▲393万4000円(損金)
2006年10月において105万0000円(益金)
2007年10月において137万3000円(益金)
と見込まれており,その合計▲8518万8000円(損金)が,7年
間における投資家の不動産所得になると想定されている。
(エ)7年後の本件建物(C)売却時の受取キャッシュ
本件建物(C)が購入価格から価格上昇しないことを前提とした場合,
本件建物(C)売却予定時である2007年10月における出資金200
0万円(1口)当たりの本件建物(C)売却に係る受取キャッシュは54
1万8000円であると想定されている。
(オ)投資効果
出資金額に対する「税務効果(節税額)」(下記(a))及び「税引き
後受取金額」(下記(b))の7年間通算の合計額(手数料等支払後)が
約3258万2000円であり,「投資効果(7年間総合)」は約16
3パーセントであると想定されている。
(a)「税務効果(節税額)」
「税務効果(節税額)」とは,「P21‐予想投資損益の概略‐」
(乙A15,乙B16)の4枚目の表「⑤納税想定額」欄の合計額2
350万5000円のことであり,7年間における「還付金」の合計
額から「支払」の合計額を差し引いた金額である。
この税務効果は,7年間その他の損益通算する所得があり,かつ,
還付金以上の税額を支払うべき所得があることを前提としている。
なお,「還付金」とは,本件不動産投資事業(C)に係る損失を不動
産所得の損失として他の所得と損益通算した結果,我が国において原
告P2を含む投資家が負担すべき所得税額及び住民税額の合計額と,
当該損失がなかったとした場合に投資家が負担すべき合計額との差額
のことであり,「支払」とは,本件不動産投資事業(C)に係る不動産
所得の金額と本件建物(C)売却による譲渡所得の金額に対して投資家
が負担すべき所得税額及び住民税額の合計額のことである。
各年ごとの出資金2000万円(1口)当たりの納税想定額は以下
のとおり想定されている。
2001年10月において777万9000円(還付金)
2002年10月において1051万0000円(還付金)
2003年10月において1050万9000円(還付金)
2004年10月において1030万8000円(還付金)
2005年10月において413万5000円(還付金)
2006年10月において51万1000円(還付金)
38万9000円(支払)
2007年10月において1985万7000円(支払)
(b)「税引き後受取金額」
「税引き後受取金額」とは,7年間の投資期間における,本件不動
産賃貸事業(C)からの受取キャッシュ(前記(イ))及び7年後の本件
建物(C)売却に伴う受取キャッシュ(前記(エ))の合計額である。
(カ)以上の記載によると,本件スキームにおいては,1口2000万円
の出資に対し,我が国において投資家が本来負担すべき所得税額及び住
民税額が合計2350万5000円軽減されるとともに,7年間におけ
る本件不動産賃貸事業(C)による現金収入360万3000円及び7年
後の本件建物(C)売却による現金収入541万8000円が得られるこ
とにより,合計約3258万2000円(ただし,上記金額の合計額は
3252万6000円である。)の利益があるものと想定されている。
ウ「"DOIT"DualOwnershipInvestmentTactics海外不動産投資事業プ
ログラムのご案内(基本コンセプト)」の記載内容
本件スキームは,我が国の税法上,法定耐用年数の全部を経過した中古
の木造賃貸用住宅の耐用年数が簡便法によれば4年とされていることから,
不動産所得の計算において短期間に減価償却費を計上できることを利用し,
税務計算上,不動産所得に損失を生じさせ,不動産所得以外の他の課税所
得と損益通算することによって,投資家の所得税額及び住民税額を減少さ
せるものである。具体的には,出資1口(2000万円)当たり,各年の
不動産所得につき約2100万円の損失を4年間生じさせることにより,
各年につき税額を約1050万円減少させ,4年間で合計4200万円の
税額を減少させるものと想定されている。
ただし,このような税務効果が生じるのは,個人の適用限界税率50パ
ーセント(所得税37パーセント,住民税13パーセント)で,損益通算
することができる所得がおよそ3600万円以上ある場合とされている。
(5)本件各LPSの米国租税法上の取扱い(甲共31,78,81,92~9
5,弁論の全趣旨)
ア米国では,1997年に米国財務省規則(Treasuryregulations)にお
いて,いわゆるチェック・ザ・ボックス規則(Check-the-boxregulatio
n)が定められ,ある一定の事業体はcorporation(コーポレーション)
として事業体課税を受けるか,又はpartnership(パートナーシップ)と
して構成員(パススルー)課税を受けるか,選択できるものとされている。
イ米国財務省規則では,信託又は内国歳入法(InternalRevenueCode)
において別段特別の取扱いがなされるものでない事業体を,「ビジネス・
エンティティ(businessentity)」としている(米国財務省規則301.77
01-2(a))。このビジネス・エンティティのうち,当該事業体が2人以上
のメンバーを有しており,かつ連邦,州又はインディアン族の制定法によ
りincorporated,corporation,bodycorporate,bodypoliticと規定さ
れている事業体や保険会社等の一定のcorporation(米国財務省規則301.
7701-2(b)(1)及び(3)から(8)までに規定するcorporation)以外のビジネ
ス・エンティティ(以下「適格事業体」という。)である場合には,当該
事業体は,corporationかpartnershipかを選択することができるものと
されている(米国財務省規則301.7701-3(a))。
そして,上記の2人以上のメンバーを有する米国の適格事業体において
上記の選択がない場合には,デフォルト・ルールとして,partnershipを
選択したものとみなされる(米国財務省規則301.7701-3(b)(1)(i))。ま
た,適格事業体がpartnershipを選択した場合,又はデフォルト・ルール
によりpartnershipを選択したものとみなされる場合には,当該事業体は
納税義務者とならず(内国歳入法701条),当該事業体の構成員が納税
義務者となる。
ウ本件各LPSは,corporationかpartnershipを選択することができる
適格事業体であるところ,本件各LPSにおいては特に明示的な選択が行
われていないことから,デフォルト・ルールとして,partnershipを選択
したものとみなされている。そのため,本件各LPSは,米国租税法上の
納税義務者とならず,本件各LPS及び本件各受託銀行を通じて得られた
所得については,本件各LPSではなく,原告らがその持分割合に応じて
米国で納税している。
第3主たる争点及び当事者の主張
1問題の所在
原告らは,本件各信託契約を介して本件各LPSを組成し,本件各建物を取
得してその貸付を行ったとして,本件各建物の貸付に係る損益は原告らの不動
産所得に該当すると主張して,本件各損失をもって原告らの他の所得と損益通
算をして申告し又は更正の請求をした。そこで,本件においては,原告らが主
張する本件各損失の損益通算が許されるかどうか,すなわち,本件各不動産賃
貸事業から生じる損益が原告らの不動産所得に該当するか否かが最大の争点で
あり,より具体的には,上記損益が本件各LPSに帰属することなく(パスス
ルー),不動産所得の性質を有したまま本件各信託契約を介して原告らに帰属
するのか否かという点が問題となっている。
なお,本件各不動産賃貸事業から生じた損益自体が所得税法26条1項の不
動産所得に該当すること,本件各信託契約が所得税法13条1項本文に規定す
る信託に該当すること(同項ただし書に規定する投資信託に該当しないこと)
については,当事者間に争いがない。
2本件の主たる争点は,次のとおりである。
(1)本件各LPSが米国で営む本件各不動産賃貸事業から生じた損失を,我が
国の所得税法上,原告らの不動産所得の金額の計算上生じた損失として取り
扱うべきか否か
ア本件各LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か
イ本件各LPSが我が国の租税法上「人格のない社団等」に該当するか否

ウ本件各LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分
(2)仮に本件各損失の損益通算が許されない場合,原告らに過少申告加算税額
を課されない「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるか否か
3上記の各争点に関する当事者の主張の概要は別紙「当事者の主張の概要」記
載のとおりであり,その骨子は次のとおりである。
(1)被告の主張の骨子
ア本件各LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か(争点(1)
ア)
(ア)外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かは,
当該事業体が我が国の私法において法人に認められる権利能力と同等の
能力を有するか否か,すなわち,当該事業体が,①その構成員の個人財
産とは区別された独自の財産を有するか否か,②その名において契約を
締結し,その名において権利を取得し義務を負うなど独立した権利義務
の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名において
訴訟当事者となり得るか否かに基づいて判断するのが相当であり,当該
事業体が上記①から③までの能力を有するか否かは,その設立準拠法や
設立契約の内容,実際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮
要素として,個別具体的に判断すべきである。
(イ)本件各LPSの法人該当性につき,設立準拠法である本件LPS法
や本件の事実関係に照らして個別具体的に検討すると,本件各LPSは
構成員である各パートナーとは別個の独立した法的主体(separateleg
alentity)とされていること(201条(b))に加え,①本件各LPS
が構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有する事業体であるこ
と(106条(b),701条等,なお,原告らが指摘する本件各LPS
契約4.5条における「不可分の持分」の規定は,本件LPS法上,本
件各LPSの財産に対する特定の所有権を意味するものとは解されない
から,本件各LPSが構成員の財産から区別された独自の財産を有する
ことを否定するものではない。),②本件各LPSがその名において契
約を締結し権利義務の帰属主体となり得る事業体であること(106条
(a)(b),303条等,なお,原告らが指摘する503条,本件各LPS
契約4.7条及び4.8条は,各パートナーへの損益の直接の帰属を定
めるものではないから,本件各LPSが権利義務の帰属主体であること
と矛盾するものではない。),③本件各LPSがその名において訴訟当
事者となり得る事業体であること(105条(a)等)から,本件各LP
Sは,我が国の租税法上の法人に該当する。
イ本件各LPSが我が国の租税法上「人格のない社団等」に該当するか否
か(争点(1)イ)
仮に,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当しないとしても,
本件各LPSは,昭和39年最判の4要件に照らし,人格のない社団等に
該当するというべきである。
ウ本件LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分(争点(1)ウ)
(ア)本件各LPSは我が国の租税法上の法人に該当するから,本件各L
PSを通じて原告らが得た損益は不動産所得に該当せず,その利益のみ
配当所得(所得税法25条1項)に該当する。また,仮に本件各LPS
が我が国の法人に該当しないとしても,本件各LPSは人格のない社団
等に該当するから,本件各LPSを通じて原告らが得た損益は不動産所
得に該当せず,その利益のみ雑所得(同法35条1項)に該当する。
したがって,原告らの本件各損失は,原告らの不動産所得の金額の
計算上生じた損失の金額(同法69条1項)に該当せず,原告らは,本
件各損失をもって損益通算の適用を受けることができない。
(イ)仮に,本件各LPSが我が国の租税法上の法人及び人格のない社団
等のいずれにも該当しないとしても,本件LPS法の解釈及び本件にお
ける事実関係の下では,原告らは本件各建物の貸主となり得る権原を有
しておらず,原告らが本件各建物を貸し付けているとは認められないか
ら,原告らに割り当てられたとする本件各損失が原告らの不動産所得の
金額の計算上生じた損失になるとは認められない。
エ過少申告加算税を課されない「正当な理由」があるか否か(争点(2))
原告らが指摘する平成12年7月政府税調中期答申の記載内容について
は,米国のLPSが我が国の租税法上の法人に含まれないことを明言する
ものではなく,政府の公の見解が表明されたものでもない。また,原告ら
が主張するその余の事情は,結局,原告ら独自の期待に基づき本件各LP
Sが法人に該当しないと信じたというものにすぎず,法令の解釈を誤って
いたということに尽きるから,これをもって国税通則法65条4項に規定
する「正当な理由」があるとはいえない。
(2)原告らの主張の骨子
ア本件各LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か(争点(1)
ア)
(ア)被告が主張する,外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該
当するか否かの判断基準については,その法的根拠が示されていないこ
と,内国の事業体と同様の形式的な基準で判断せずに外国の事業体につ
いてのみ個別具体的な実質判断を行うものであり,我が国租税法の建て
付けに反すること,被告が主張する判断基準の要素は,我が国の租税法
上組合とされる事業体にも当てはまるものであって,法人と組合を区別
する基準としては機能しないことなどから,我が国の租税法の解釈とし
ては採用し得ない。
外国の事業体が「法人」に該当するか否かの判断基準としては,内国
法人の法人法定主義同様の専ら形式的な基準による判断として,当該外
国の事業体の準拠法において,その事業体が外国における「法人」に該
当する,すなわち,その事業体に法人格が与えられているか否かで判断
すべきものと解せば必要十分である。ここで,「当該外国の事業体の準
拠法においてその事業体に法人格が与えられている」とは,当該外国の
事業体の準拠法において,その事業体が「corporation」や「bodycorp
orate」や「juristicperson」又はこれらと同等の概念に該当すると規
定されていることを意味すると解すべきである。
(イ)そして,本件各LPSの準拠法である本件LPS法には,同法に基
づき組成されるLPSが「corporation」等の概念に該当する旨の規定
はなく(なお,同法においてLPSが「separatelegalentity」とさ
れていることは,LPSに法人格が与えられることを意味するものでは
ない。),その他社会通念等に照らしても,本件各LPSは我が国の租
税法上の法人に該当しない。
仮に,被告が主張する判断基準によったとしても,①本件各LPSが
独自の財産を有するとはいえないこと(特に,701条は,パートナー
はLPSの特定の財産について持分を有しないと定めているが,本件各
LPS契約の場合,当該条項はパートナー間の内部関係において本件各
LPS契約4.5条により修正されており,本件各LPSのパートナー
はパートナーシップ財産について不可分の固有の権利を有するものと解
されるから,本件各LPSが独自の財産を有しているとはいえない。),
②本件各LPSは独立した権利義務の帰属主体とはならないこと(特に,
503条並びに本件各LPS契約4.7条及び4.8条によれば,本件
LPS法上のLPSは,LPSにおける配当決議による配当を待たずし
て,グロスの損益(収益の総額と損失の総額)が直接に各パートナーに
帰属するから,本件各LPSは損益の帰属主体ではなく,独立した権利
義務の帰属主体でもない。),③本件各LPSはその名において訴訟当
事者となり得るが,法律により特に認められているにすぎず,「corpor
ation」のように性質上当然に認められているものではないこと,以上
からすれば,本件各LPSは我が国の租税法上の法人に該当しない。
イ本件各LPSが我が国の租税法上「人格のない社団等」に該当するか否
か(争点(1)イ)
本件各LPSにおいては,昭和39年最判の4要件のいずれの要件も満
たさないから,「人格のない社団等」には該当しない。
ウ本件LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分(争点(1)ウ)
(ア)本件各LPSは我が国の租税法上の法人とも人格のない社団等とも
認められないから,これを前提とする被告の主張は失当である。
(イ)被告は,本件各LPSが我が国の租税法上の法人にも人格のない社
団等にも該当しない場合であっても,本件各損失が不動産所得に該当せ
ず損益通算が許されない旨主張するが,本件各LPSが法人でも人格の
ない社団等でもなければ,原告らが本件各LPSを通じて行った本件各
不動産賃貸事業に係る所得は,信託を介して原告らに直接帰属するので
あり,当該所得が不動産所得に区分されることは明らかであるから,本
件各損失が原告らの不動産所得の金額の計算上生じた損失に該当するこ
ともまた明らかであり,被告の主張は失当である。
エ過少申告加算税を課されない「正当な理由」があるか否か(争点(2))
仮に,本件各損失が不動産所得の金額の計算上生じた損失に該当せず,
損益通算が許されないとしても,平成12年7月政府税調中期答申の記述,
同年4月の委員会資料,その他課税執行当局者の論稿等に照らせば,原告
らが本件各LPSを法人又は人格のない社団等に該当しないと解釈するこ
とはやむを得なかったというべきであり,過少申告加算税の趣旨に照らし
ても原告らに同加算税を賦課することは不当又は酷であるから,本件にお
いては国税通則法65条4項にいう「正当な理由」がある。
第4当裁判所の判断
1認定事実
前記前提となる事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の
事実が認められる。
(1)本件LPS法(乙A24,乙B25)
本件LPS法では,要旨以下のとおり規定されている(なお,原則として
乙A24及び乙B25添付の日本語訳のとおり記載するが,日本語訳に争い
がある部分については,該当部分の原文を付記し,適宜原告らの訳文を注記
し又はこれに差し替える。)。
ア101条定義
(9)「LPS」及び「州内LPS」とは,デラウェア州法のもとで2人以
上の主体によって組織されたLPSを意味し,1以上のゼネラル・パー
トナーと1名以上のリミテッド・パートナーで構成され,さらにデラウ
ェア州法のもとでは,リミテッド・ライアビリティ・リミテッド・パー
トナーシップを含むものとする。
(13)「パートナーの持分」とは,LPSの損益のうちパートナーが保有
する持分,及びLPSの資産の分配を受ける権利をいう。
(14)「主体」(者Person)とは,自然人,(無限責任・有限責任を問
わない)パートナーシップ,リミテッド・ライアビリティー・カンパニ
ー,信託,財団,社団,企業,受託者,受取人,その他それ自体あるい
はその代表権を有する個人や主体を意味し,いずれの場合にもデラウェ
ア州内に存在するか否かを問わない。
イ105条州内LPSに対する訴状・召喚状の送達
(a)いかなる州内LPSに対する法定訴状・召喚状も,デラウェア州に存
在するLPSの経営代理人,総代理人,又はゼネラル・パートナー,あ
るいはデラウェア州に存在するLPSの登記代理人に対し直接写しを手
渡すことにより,又は当該経営代理人,総代理人,ゼネラル・パートナ
ー,登記代理人(略)のデラウェア州内の住居(中略)に送付すること
により,送達されたものとみなされる。(以下略)
ウ106条認可事業の性格及び権限
(a)LPSは,第8編の126条に規定されている保険証券を発行する
(grantingpoliciesofinsurance)事業,保険リスクを引き受ける事
業及び銀行業を除き,営利目的か否かを問わず,いかなる合法的な事業,
目的,活動をも実施することができる。
(b)LPSは,本章,その他の法律,又は当該LPSのパートナーシップ
契約によって付与された全ての権利又は特権,及びこれに付随する全て
の権利(当該LPSの事業,目的,活動の実行,促進,達成のために必
要な,あるいは便宜的な権利や特権を含む。)を保有し,それを行使す
ることができる(Alimitedpartnershipshallpossessandmayexer
ciseallthepowersandprivilegesgrantedbythischapterorby
anyotherlaworbyitspartnershipagreement,togetherwithan
ypowersincidentalthereto,includingsuchpowersandprivilege
sasarenecessaryorconvenienttotheconduct,promotionorat
tainmentofthebusiness,purposesoractivitiesofthelimited
partnership.)。
エ201条LPS証明書
(a)LPSを設立する(組成するform)ためには,1以上の主体(ゼネ
ラル・パートナーの合計数を下回らない数とする)がLPS証明書に署
名/捺印(execute)しなければならない。LPS証明書には以下の事
項を記載し,州務長官登録局に登録するものとする。
(1)LPSの名称
(2)登記上の本社所在地,及び本編の104条によって記載が義務づ
けられている訴状・召喚状の送達のための登記代理人の名称及び住所
(3)各ゼネラル・パートナーの名称,事業所あるいは居住地の住所,
又は郵送用の住所
(4)パートナーがLPS証明書に記載することを決定したその他の事

(b)LPSは,LPS証明書が最初に州務長官登録局に登録された時点,
あるいはLPS証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立され
る(組成されるisformed...)ものとし,いずれの場合においても,
本項の要件を完全に満たすものでなければならない。本章に基づき組織
されたLPSは,独立した法的主体(separatelegalentity)となり,
その独立した法的主体としての地位はLPS証明書のLPSによる解除
まで継続する。
オ303条第三者に対する責任
(a)リミテッド・パートナーは,自己がゼネラル・パートナーである場合
あるいはリミテッド・パートナーとしての権利や権限の履行に加えて当
該事業の経営管理に関与している場合を除き,LPSの債務を弁済する
責任を負うものではない。(以下略)
カ503条損益の分配
LPSの損益は,パートナーシップ契約の規定に従い,パートナー,及
びパートナーのクラスやグループの間で割当が行われる。パートナーシッ
プ契約に規定がない場合,損益は,各パートナーによって拠出され(oft
hecontributionsmadebyeachpartner)LPSによって受領され返却
されていない出資に関して合意された価額に基づき割り当てられる(配分
されるshallbeallocated...)(LPSの記録に基づく。)。
キ701条パートナーシップ持分の性格
パートナーシップ持分は,動産である。パートナーは,LPSの特定財
産に対していかなる持分も所有しない。
ク1101条パートナーシップ契約の構築と適用
(c)契約における自由原則,及びパートナーシップ契約の執行性に最大限
の効果を与えるのが本章のねらいである。
(2)本件LPS契約(P)(乙A3)
本件LPS契約(P)では,要旨以下のとおり規定されている(なお,特記
しない限り原則として乙A3添付の日本語訳のとおり記載するが,日本語訳
に争いがある部分については,該当部分の原文を付記し,適宜原告らの訳文
を注記し又はこれに差し替える。)。なお,本件LPS契約(C)の規定は,
本件LPS(P)の規定とおおむね同じである。
ア第1条一般条項
1.1パートナーシップの名称及び設立(組成Formation)
(前略)本件LPS(P)は,LPS証明書(本件GP(P)に代わり,本
件GP(P)が正式に任命した代理人,P18が作成。当該任命は本契約
により確認されている。)をデラウェア州事務局に提出することにより,
本件LPS法に従い,デラウェア州のLPSとして設立された(組成さ
れたhasbeenformed)。
1.3目的
本件LPS(P)は,本件不動産(P)の購入,取得,開発,保有,賃貸,
管理,売却その他の処分の目的のみのために設立され(組成されiso
rganized...),当該目的を実施するために必要又は便宜的な範囲で次
の権限を有する。
(a)本件不動産(P)の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その
他の処分(土地の賃貸借又はその持分不動産所有権などを制限なく含
むものとする。)。
(b)銀行口座の開設及び維持並びに支払のための小切手その他為替の振
り出し。
(c)必要又は望ましいと考えられる条件で,随時,金額又は支払方法及
び支払時期の制限なく金員を借り入れ,又は,約束手形その他流通性
のある,又は流通性のない負債証書を発行,受領,裏書及び作成する
こと,及び本件LPS(C)の財産の全部又は一部を担保に供し,差し
入れ,委譲し,又は譲渡することによって(bymortgageuponorpl
edge,conveyanceorassignmentofthewholeoranypartofthe
propertyofthePartnership)上記借入等及びそれらの利息の支払
を,所有時か又は取得した後かに関わらず保証すること,及び本件L
PS(P)に関する当該書類及び負債証書を売却したり,担保に供した
りその他処分すること(原告ら及び被告の主張に係る日本語訳)。
(d)第三者に対する請求について訴訟を提起し,提起され,解決又は和
解し,本件LPS(P)に対する請求を解決又は和解し,それらに関連
して必要又は望ましいと考えられる書類を作成し,表明,許可及び権
利放棄を行うこと。
(e)独立した弁護士,会計士(中略),その他上記の目的に関連して必
要又は望ましいと考えられる者の雇用。
(f)その他上記事項を達成するために必要,適切又は便宜的な活動及び
取引を行い,契約その他約束を締結し,作成し,実施すること。
1.4期間
本件LPS(P)は,次のいずれか早い方の時まで継続する。
(a)2037年12月31日
(b)本件LPS(P)の現金以外の資産の全てを売却その他処分して得ら
れた収益の最終支払を本件LPS(P)が現金で受領した日
1.5パートナーの性質及び責任
(a)契約,不法行為その他により生じたかを問わず,本件LPS(P)の
負債,債務及び義務は本件LPS(P)の単独の負債,債務及び義務で
あり,リミテッド・パートナーは,リミテッド・パートナーであると
いう理由のみで本件LPS(P)の負債,債務,又は義務について個人
的に責任を負わない。(以下略)
イ第2条管理
2.1一般的な管理
本件LPS(P)の管理及び運営は,本件GP(P)に独占的に権利を付与
される。本件GP(P)は,これにより,本件LPS(P)に代わり,及び本
件LPS(P)の名前で1.3条に定める本件LPS(P)の目的の全てを実
施する権限を有する(中略)。リミテッド・パートナーは,本件LPS
契約(P)に定める場合を除き本件LPS(P)の管理又は運営に参加しては
ならず,いかなる事項に関しても,本件LPS(P)に代わって又は本件
LPS(P)の名前で行為する権限又は権利を有さない。(以下略)
2.7不動産投資及び資産等の登録
本件LPS(P)が行う全ての不動産投資その他所有する資産は,本件
LPS(P)の名前又は本件GP(P)が随時決定できる名義人の名前で登録
される。(以下略)
ウ第3条費用等
3.3管理報酬
本件LPS(P)は,本件GP(P)に対し,(中略)本件LPS(P)の管
理・運営について毎月1310ドルの管理報酬を支払う。管理報酬は,
本件土地賃貸借契約(P)に従い,同契約に定める優先順位で支払う。本
件LPS(P)が当該管理報酬を支払う十分なキャッシュフローがない場
合,未払の報酬は,当該管理報酬を支払う十分な資金があると本件GP
(P)が判断する時まで繰り越される。ただし,本件LPS(P)は,本件L
PS(P)が解散した時点で未払となっている繰延管理報酬については,
本件LPS(P)が当該繰延管理報酬全てを支払うための十分なキャッシ
ュフローがない範囲で,責任を負わず,支払う義務はない。3.3条に
従って支払う管理報酬は,内国歳入法707条に従った本件LPS(P)
の費用として扱われ,本件LPS法607条の限度が適用される分配と
することを意図するものではない。
エ第4条資本,税金引当等
4.1租税に関する定義
本件LPS(P)で使用されている次の用語は,次の意味を有する。
「会計年度」とは,9.1条に定める本件LPS(P)の連邦所得税の
課税年度を意味する。
会計年度その他の期間の「利益」及び「損失」とは,次の調整を加え,
内国歳入法703条(a)及び規則に従って決定される,当該年度又は期
間の本件LPS(P)の課税対象利益又は損失に相当する額を意味する。
4.2出資
本件GP(P)は,本件LPS(P)の資本に当初の出資をする必要はない。
リミテッド・パートナーはそれぞれ,本件LPS(P)の資本に対し,別
紙A(乙A3原文32頁,以下略)のそれぞれの名前の隣に記載された
金額を「資本出資」として出資する。
4.3非強制の資本出資
(a)4.2条に他の方法が規定されている場合を除き,リミテッド・パ
ートナーは本件LPS(P)の資本に対して,追加出資を含む出資を行
う必要はないものとする。
4.4資本の利用
パートナーが本件LPS(P)の資本に対して出資した全ての出資金の
合計及び本件LPS(P)の分配されない純利益は,本件LPS(P)の目的
を実施するために本件LPS(P)が利用できる。
4.5パートナーシップ出資割合
パートナーは,別紙Aのそれぞれの名前の隣に記載されたパートナー
シップ出資割合を有する(パートナーシップ出資割合)。各パートナー
は,本件LPS(P)の資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当す
る不可分の持分を有する(パートナーシップ持分)。
4.6分配
(a)税金分配
本件LPS(P)は,本件GP(P)の単独で絶対的な裁量により,各会
計年度の3月30日までに各パートナーに対して次と同額の分配を行
うことができる。
(i)本件LPS(P)の前会計年度に,4.7条その他の条項に基づい
て当該パートナーに対して割り当てられた所得,利益その他の項目の
正味金額に(ii)40パーセントを掛けた金額(以下略)
(b)裁量分配
本件LPS(P)は,本件GP(P)の単独で絶対的な裁量により,パー
トナーに対して随時,現金の分配を行うことができる。本件LPS契
約(P)に定めるものを除き,パートナーは,資本出資又は収益の分配
を要求したり,受領する権利を有さない。4.6条(b)による現金の
出資は,次の優先順位に従って分配されるものとする。(以下略)
4.7及び4.8利益及び損失の割当て(配分Allocation)
会計年度の利益及び損失は,基本的にパートナーのパートナーシップ
出資割合に応じてパートナーに割り当てられる(配分されるbealloc
ated)。(なお,原文及びその訳文とは異なるが,その意味において当
事者間に争いがない。また,本件LPS契約(C)4.7及び4.8条は,
上記から「基本的に」を除いたものがその訳文である。)
4.9その他ゼネラル・パートナーによる決定事項
本件LPS契約(P)を解釈する上で必要な範囲で,本件GP(P)は,
(中略)全ての目的のために,合理的な慣例を適用する完全かつ絶対的
な裁量を有する。本件GP(P)による当該決定は,最終的なもので,パ
ートナーを拘束する。
4.12一般条項
(a)本件LPS契約(P)で別途定められていない限り,本件LPS(P)の
所得,収益,損失及び控除のパートナーの分配持分は,利益及び損失
の分配持分と同じとする。
オ第6条パートナーの脱退
6.1リミテッド・パートナーの脱退
リミテッド・パートナーは,本件LPS(P)から脱退する権利を有す
る。ただし,本件GP(P)の単独かつ絶対的な裁量による同意がある場
合に限られる。本件GP(P)がリミテッド・パートナーの脱退に同意し
た場合,当該リミテッド・パートナーは,脱退時に,パートナーシップ
持分の脱退した日時点での公正価格を受け取る権利を有する。(以下
略)
6.2ゼネラル・パートナーの脱退
本件GP(P)は,本件LPS(P)から脱退する権利を有さない。
カ第7条持分の譲渡可能性
7.1ゼネラル・パートナーシップ持分の譲渡可能性
本件GP(P)は,そのパートナーシップ持分の全部又は一部を売却,
譲渡してはならず,いかなる方法によっても処分したり,担保を設定し
たり,設定を認めたりしてはならない。第三者が本件GP(P)と利害関
係を持つこととなるような契約を締結してはならない。(原告ら及び被
告の主張に係る日本語訳)
7.2リミテッド・パートナーシップ持分の譲渡可能性
リミテッド・パートナー(疑義を避けるため,受益者ではないものと
する)は,本件GP(P)の単独で絶対的な裁量による書面による同意を
することなく,当該リミテッド・パートナーの持分の全部又は一部を売
却,譲渡してはならず,いかなる方法によっても処分したり,担保を設
定したり,設定を認めたりしてはならない。また,個人,企業又は会社
が当該リミテッド・パートナーと利害関係を持つことになるような契約
を締結してはならない。(中略)前述に関わらず,受託者が保有する持
分がその受益者に譲渡される場合,本件GP(P)の同意は必要ない。
(原告ら及び被告の主張に係る日本語訳)
キ第8条パートナーシップの終了及び清算
8.1終了
本件LPS(P)は,次のいずれかの事項が最初に発生した場合に終了
する。
(a)本件GP(P)の解散
(b)本件GP(P)が本件LPS(P)を解散すべきとの決定
(c)1.4条に定める本件LPS(P)の期間の終了
(d)適用法令に基づいて本件LPS(P)の終了となるような事項の発生
8.2清算
本件LPS(P)が終了した時は本件GP(P)が,又は8.1条(a)に従
って本件LPS(P)が終了した場合はリミテッド・パートナーのパート
ナーシップ出資割合の過半数により選任された清算受託者が,(i)本件
GP(P)又は清算受託者が必要又は望ましいと考える本件LPS(P)の現
金以外の資産を現金化し,(ii)次の措置を講じ,以下の方法及び順序で
本件LPS(P)の資産から次の分配を行う。
(a)本件GP(P)又は清算受託者が,パートナーではない本件LPS(P)
の債権者の全ての請求を支払い,消滅させ,本件LPS(P)の偶発債
務又は予測不能な負債若しくは債務の補填に必要又は対応可能と考え
る準備金(中略)を設定する。ただし,偶発債務がなくなり,現金そ
の他資産がある場合は,特別準備金は8.2条(c)に定めるとおり分
配される。
(b)パートナーである本件LPS(P)の債権者全ての請求を按分して支
払い,消滅させる。
(c)4.6条(b)に従い,資産の残りをパートナーに支払い,分配する。
(以下略)
8.3分配の形式
8.2条(a)及び(b)に従って行われる分配は,現金のみで行われる。
同条(c)に従って行われる分配は,本件GP(P)又は清算受託者が決定す
るとおり,現金又はその他資産又はその両方で行うことができる。
ク第9条会計及びパートナーへの報告
9.8決定事項の拘束力
本件GP(P)が会計事項に関連して行う決定は,最終的なものであり,
リミテッド・パートナー及びそのそれぞれの法定代理人を拘束する。
ケ第10条雑則
10.7準拠法
本契約は,デラウェア州法に準拠し,それに従って解釈される。(以
下略)
10.15分割に対する権利の放棄
各パートナーは,当該パートナーが本件LPS(P)の動産や資産に関
連する分割の訴訟を維持するために有する権利を本件LPS(P)期間中,
取り消し不能の条件で放棄し,パートナーシップ会計のための訴状を提
出したり,他のパートナーや本件LPS(P)に対していかなる方法によ
ってもそれに反するような方法で手続しないことに同意する。
(3)本件LPS(P)の財産や権利義務の帰属状況,本件不動産賃貸事業(P)の管
理・運営業務の実態(乙共7の2,乙A3~7,21,31~33)
ア本件LPS(P)は,本件LPS(P)の名義で,2002年(平成14年)
3月28日付け本件売買契約(P)及び本件売買契約,リース契約及び共同
エスクロー契約(P)をP7との間で締結してP7から本件建物(P)を購入し,
同建物の譲渡について作成された特定的担保責任譲渡証書(SPECIALWARR
ANTYDEED)に基づいて同建物を取得した。この特定的担保責任譲渡証書
に基づき,同建物が所在する米国フロリダ州デュバル郡を管轄する登録所
に同建物の譲渡が登録された。米国の不動産登録情報確認システムにおい
ても,本件建物(P)は,2002年(平成14年)3月28日にP7から
本件LPS(P)に売却され,同年4月5日に,譲渡証書(grantdeed)に
より登録所に登録され,所有者は本件LPS(P)となっている(なお,米
国では,不動産の譲渡については,一般的に権利書(deed)を作成した上
で物件が所在する郡の登録所に登録される。)。
イ本件LPS(P)は,本件LPS(P)の名義で,同年3月28日付け本件土
地賃貸借契約(P)をP7との間で締結し,本件建物(P)の敷地である本件土
地(P)をP7から賃借した。
ウ本件LPS(P)は,本件LPS(P)の名義で,本件建物(P)の購入資金な
ど本件不動産賃貸事業(P)に係る資金として,P8から同日付けで537
万ドルを借り入れた。
エ本件LPS(P)の管理及び運営の権利・権限は本件GP(P)に独占的に付
与されており,本件GP(P)は,本件LPS(P)の名義において,本件不動
産賃貸事業(P)に関する全てのことを行う権限を有しており,本件LPS
(P)の管理・運営は,本件GP(P)によって,全て本件LPS(P)の名義で
行われている。
オ本件LPS(P)は,本件不動産賃貸事業(P)に関する管理・運営業務を管
理者であるP9に委託するため,本件LPS(P)の名義で,同日付け本件
管理契約(P)をP9との間で締結し,本件不動産賃貸事業(P)の管理,運営
などの業務をP9に委託した。
本件管理契約(P)に基づき,P9は,本件LPS(P)を代理して,本件L
PS(P)の費用負担において,本件不動産(P)の賃貸借契約の締結・解約,
賃料の徴収,修理,運営,監督及び維持等を行う権限・権能を有しており,
また,本件不動産賃貸事業(P)に関する訴訟提起等の法的手続を本件LP
S(P)の名義において行う権限も有している。
(4)本件LPS(C)の財産や権利義務の帰属状況,本件不動産賃貸事業(P)の管
理・運営業務の実態(乙共7の1,乙B4~8,21,22,35~37)
ア本件建物(C)の所有権及び登録名義
本件LPS(C)は,本件LPS(C)の名義で,2000年(平成12年)
12月22日付け本件売買契約(C)及び同月19日付け本件売買契約,リ
ース契約及び共同エスクロー契約(C)をP14との間で締結してP14か
ら本件建物(C)を購入し,同建物の譲渡について作成された譲渡証書(gra
ntdeed)に基づいて同建物の所有権を取得した。この譲渡証書に基づき,
同建物が所在する米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡を管轄する登録所
に同建物の譲渡が登録された。米国の不動産登録情報確認システムにおい
ても,本件建物(C)は,同月15日にP14から本件LPS(C)に売却され,
同月26日に,譲渡証書により登録所に登録され,所有者は本件LPS
(C)となっている。
その後,本件LPS(C)は,本件建物(C)を,2007年(平成19年)
2月21日に,P19に譲渡している。
イ本件LPS(C)は,本件LPS(C)の名義で,2000年(平成12年)
12月22日付け本件土地賃貸借契約(C)をP14との間で締結し,本件
建物(C)の敷地である本件土地(C)をP14から賃借した。
ウ本件LPS(C)は,本件LPS(C)の名義で,本件建物(C)の購入資金な
ど本件不動産賃貸事業(C)に係る資金として,P15から同日付けで24
1万4900ドルを,P16から同月5日付けで3285万ドルを,それ
ぞれ借り入れた。
エ本件LPS(C)の管理及び運営の権利・権限は本件GP(C)に独占的に付
与されており,本件GP(C)は,本件LPS(C)の名義において,本件不動
産賃貸事業(C)に関する全てのことを行う権限を有しており,本件LPS
(C)の管理・運営は,本件GP(C)によって,全て本件LPS(C)の名義で
行われている。
オ本件LPS(C)は,本件不動産賃貸事業(C)に関する管理・運営業務を管
理者であるP17に委託するため,本件LPS(C)の名義で,同月22日
付け本件管理契約(C)をP17との間で締結し,本件不動産賃貸事業(C)の
管理,運営などの業務をP17に委託した。
本件管理契約(C)に基づき,P17は,本件LPS(C)の費用負担・責任
において,本件不動産(C)の賃貸借,運営,監督,維持,修理及び管理を
行う専属的な権限・権能を有しており,本件LPS(C)に代わって本件L
PS(C)の賃貸人としての全ての義務を履行する権限を有している。
2本件各LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か(争点(1)ア)
(1)外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断方法
及び判断基準について
ア我が国の租税法においては,「内国法人」の意義は「国内に本店又は主
たる事務所を有する法人をいう」とされ(所得税法2条6号,法人税法2
条3号),「外国法人」の意義は「内国法人以外の法人をいう」とされて
いるが(所得税法2条7号,法人税法2条4号),これらの規定からは法
人の意義自体は明らかではなく,他に法人の意義を明らかにする規定はな
い。また,我が国の租税法上,法人の意義について,民商法等の私法が前
提とする「法人」の観念と異なる観念を採用していると解すべき特段の規
定もないことからすると,我が国の租税法においては,法人の意義として,
我が国の私法が前提とする法人の意義と同一の意義を採用していると解す
るのが相当である(いわゆる借用概念)。そして,私法の一般法である民
法の解釈において,法人とは,「自然人以外のもので,権利義務の主体と
なることのできるもの」をいうと解されていることからすれば(我妻著
書),我が国の租税法上の法人概念についても,これと同様の観念を採用
していると解するのが相当である。したがって,外国法人についても,我
が国の私法上「法人」に該当するということは,すなわち我が国の法制度
上の権利義務につき,その主体となることのできるものであることを意味
するというべきである。
イところで,どのような団体にどのような手段・方法でどのような能力や
属性を認めるかは,それぞれの国家の価値判断に基づいて行われるもので
あり,当該国家の立法政策の問題に帰するのであるから,外国において我
が国と同様の法人制度が採用されていないことも十分想定され,また,そ
の類似する相互の法令上の概念が,必ずしも厳密に一致するとも限らない。
したがって,ある外国において我が国の「法人」に類似する概念があり,
ある事業体がこれに該当するとされていたとしても,そのことから直ちに
当該事業体が我が国の私法上の法人と同様の意味において「権利義務の主
体となることのできるもの」であるということはできないし,逆に,ある
外国において我が国の法人以外の団体(組合等)に類似する概念があり,
ある事業体がこれに該当するとされていたとしても,そのことから直ちに
当該事業体が「権利義務の主体となることのできるもの」に該当しないと
いうこともできない。
そうすると,外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか
否か,すなわち,当該事業体が「権利義務の主体となることのできるも
の」であるかどうかの判断に当たっては,当該事業体がその準拠法におい
てどのような概念として定義付けられているかのみによって結論を導くこ
とはできず,実質的な観点から,当該事業体に認められている能力及び属
性の内容を検討し,その上で,我が国の私法上「法人」とされることによ
って当然に認められる能力及び属性(法人格から当然に派生する能力及び
属性)を全て具備していると評価できるか否かにより決するほかはないと
いうべきである。
ウそこで,法人とされることによって当然に認められる能力及び属性とは
具体的にいかなるものであるかについて検討するに,「法人」とは,「自
然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」であるから,
あたかも自然人のごとく権利義務の帰属主体となること,すなわち,実体
法的にいえば,その名において不動産等の財産を所有し(物権の帰属),
その名において法律行為を行い(法律行為の主体たる資格),法律行為等
により発生する債権を有し債務を負う(債権債務の帰属)ということが,
法人とされることにより当然に認められる能力等ということができる。
加えて,「財産の所有」能力に関しては,所有者として権利行使ができ
るためには対外的,社会的に認知されることが必要であり,我が国の法人
は,不動産を取得する際,単に実体法上所有者として扱われるだけではな
く,あたかも自然人のごとくその名義により登記を得ることができるので
あり(なお,自動車等の登録も同様である。),しかも,我が国における
法人については,「構成員の個人財産から区別され,個人に対する債権者
の責任財産ではなくなって,法人自体の債権者に対する排他的責任財産を
作る法技術」であると指摘されていること(星野論文270頁参照)も考
慮すると,第三者に不動産の物権の帰属を公示するためその名義により登
記を得る能力は,法人とされることによって当然に認められる「財産の所
有」能力の内容をなす重要な要素であるということができる。そうすると,
外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かの判断に当たっ
ては,実体法的に当該事業体が構成員とは区別された独自の財産を有する
こと(裏を返せば,当該事業体の財産につき構成員が直接の具体的な持分
を有していないこと)のみならず,当該外国において当該事業体がその所
有する不動産につき登記を得るなど社会的公示制度において権利者として
扱われることも,必要不可欠な要素として考慮する必要があるというべき
である。
これらの点から考察するに,外国の事業体が我が国の租税法上(私法
上)の「法人」に該当するか否かを判断するにあたっては,実体法的には,
当該事業体が,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有す
ること(具体的には,当該事業体の財産につき構成員が直接の具体的な持
分を有しておらず,かつ,当該事業体の名義により登記等の公示を行うこ
とができること),及び②その名において契約等の法律行為を行い,その
名において権利を有し義務を負うことができること,という能力等を有す
るかどうかにより判断するのが相当である。
また,手続法的には,実体法上権利義務の帰属主体となることができる
者は当然に訴訟上の当事者能力を有するということができるから(民事訴
訟法28条参照),③その名において訴訟当事者となり得ること(訴訟上
の当事者能力)も,法人とされることによって当該事業体に当然に付与さ
れる能力等の一つであるということができ,外国の事業体の法人該当性の
判断要素の一つとすることが相当である。
以上によれば,外国の事業体が我が国の租税法上(私法上)の法人に該
当するか否かの判断に当たっては,当該事業体が上記①から③までの能力
等を全て有しているか否かを基準として判断するのが相当である。
なお,星野論文によれば,「『法人』とは,(イ)構成員の個人財産から
区別され,個人に対する債権者の責任財産ではなくなって,法人自体の債
権者に対する排他的責任財産を作る法技術である。なお,法人は,(ロ)そ
の名において契約を締結し,その名において権利を取得し,義務を負い,
(ハ)その権利義務のためにその名において訴訟当事者となる。」とされて
おり(甲共96・270頁),また,江頭賢治郎・株式会社法(第2版)
によれば,「わが国で『法人』と呼ばれるものにのみあり非法人団体には
絶対にない属性を見つけることは難しく,他方,『法人』全てには,(1)
その名において権利を取得し義務を負う,(2)訴訟当事者能力,(3)自己名
義の債務名義によってしか強制執行を受けないとの三属性は,最低限帰属
することが分かる」とされている(甲共9・28頁)。これらの分析から
しても,前述した①から③までの判断基準は,法人とされることにより当
然に認められる能力等を表すものとして,合理的であるといえる。
エそして,外国の事業体が上記①から③までの能力等を全て具備している
かどうかの判断に当たっては,どのような団体にどのような手段・方法で
どのような能力等を認めるかは,それぞれの国家の価値判断に基づく立法
政策の問題であることからすれば,原則として,当該事業体の準拠法の規
定及びその解釈を基礎として判断されるべきである。ただし,当該準拠法
において,上記①から③までの点に関して構成員間の契約等による変更や
修正を認めている場合など,上記能力等の有無を判断するために契約内容
等を検討することが必要な場合もあり得るし,また,準拠法に明確な規定
がないために,当該事業体の活動実態等を考慮する必要もあり得るから,
そのような場合には,準拠法の規定内容以外の事情も考慮する必要がある
ものと解される。
オ原告らの主張について
(ア)原告らは,ある事業体が「法人であること」と「法人とされたこと
から生じる効果のうちの特定のものと同じ効果を法律により認められて
いること」とは同義ではないとし,さらに,被告の主張する判断基準は
外国の事業体についてだけ法人該当性について実質判断を行うものであ
って,我が国の租税法の建て付けと整合せず,組合や人格のない社団等
が法人に区分けされてしまう誤りを内包しているとか,外国法人と外国
の人格なき社団等との区別が不可能となるとか,被告の基準は我が国の
租税法上組合とされる事業体にも当てはまるなどとして,法人該当性の
判断基準として機能しないと主張する。
しかし,上記説示のとおり,我が国の租税法上の「法人」概念は私法
上の「法人」概念を借用したものであり,法人とは「自然人以外のもの
で,権利義務の主体となることのできるもの」であると解されるところ,
日本の法律を準拠法とする事業体については,民法33条が法人法定主
義を採用しているために,法律によって法人として認められているかに
より形式的にその法人該当性を決することが可能であるが,外国におい
ては,我が国と同様の制度(法人法定主義)や概念が用いられていると
は限らないのであるから,民法33条の法人法定主義を前提とする形式
的な判断基準をもってしては,当該事業体が「権利義務の主体となるこ
とのできるもの」であるかどうかを的確に判断することはできないので
あって,問題となっている外国の事業体の準拠法が当該事業体に日本の
法人と同様の能力等を付与しているかどうか,すなわち,当該事業体が,
我が国の私法上「法人」とされた場合に当然に認められる能力等(法人
格から当然に派生する能力等)と同様の能力等を具備しているかどうか
という実質的な判断手法を採るほかにないのであり,これに反する原告
らの上記主張はいずれも採用することができない。
また,原告らは,組合や人格のない社団等が法人に区分けされてしま
う誤りを内包しているなどと主張するが,上記説示に係る①から③まで
の要件の内容に照らしてみれば,組合の場合,その財産は総構成員の共
有(いわゆる合有)とされ(民法668条),組合名義による登記はで
きないから,たとい②及び③の要件を満たす組合であっても,①の要件
を満たさないことは明らかである。また,人格のない社団等の場合も,
その財産は構成員に総有的に帰属するとされ,社団独自の所有権は認め
られておらず,また,その社団の名において構成員全体のために権利を
取得し,義務を負担するものの,それは全ての構成員の氏名を列挙する
ことの煩を避けるためにほかならず,したがって,その社団の名におい
て登記することはできないとされている(昭和39年最判,最判昭和4
7年6月2日・民集26巻5号957頁)。したがって,上記①から③
までの要件のあてはめにおいて,外国の組合や人格のない社団等が法人
に区分けされてしまうということはなく,原告らの主張は採用すること
ができない。
(イ)原告らは,古田補足意見を引用した上で,被告が主張する判断基準
においては,法人が「損益の帰属すべき主体」であるという観点からの
考察が欠けているなどと主張する。しかし,ある事業体が「権利義務の
主体となることのできるもの」であり,その事業活動において,その名
において財産を取得し,法律行為を行い,債権を有し債務を負うのであ
れば,その事業活動に伴う損益も当然に当該事業体に帰属するのであっ
て,「損益の帰属すべき主体」であることを殊更別途の要件として設定
するまでもないから,原告らの主張は採用することができない。
(ウ)原告らは,外国の事業体が「法人」に該当するか否かの判断基準と
しては,当該外国の事業体の準拠法において,その事業体が「corporat
ion」や「bodycorporate」や「juristicperson」又はこれらと同等の
概念に該当すると規定されているかどうか否かにより判断すべきである
と主張する。
なるほど,原告らの主張する判断方法は,その概念如何により形式的
に法人該当性を判断することができる点で,予測可能性や明確性に優れ
ているようにも思われる。しかし,繰り返し述べるとおり,外国では必
ずしも我が国と同様の制度が採用されているとは限らず,その概念も必
ずしも一致しないのであるから,原告らの主張する概念が我が国の「法
人」概念と同一のものであり,他に我が国の「法人」に該当する概念が
ないことが明らかでない限り,そのような概念による形式的な判断基準
をもって判断することは不可能というべきであって,我が国の私法(租
税法)の解釈として採用することはできない。原告らの主張によれば,
ある事業体が我が国の法人と全く同様の能力等を有するにもかかわらず,
その概念のみをもって法人性を否定することにもなりかねず,結論の妥
当性にも疑問がある。また,仮に原告らの主張に沿って「corporatio
n」等の概念に該当するものが我が国の「法人」に該当するとしても,
本件で問題となっている「separatelegalentity」について,これが
原告らのいう「corporation」等と同等の概念に該当するものかどうか
を判断せざるを得ないのであり,そのためには,やはり実質的な検討な
くしては判明しないというべきであり(なお,米国において当然に事業
体課税を受ける事業体という意味であれば,概念により明確に区別でき
る可能性があるが,そのような基準は,我が国の私法上の「法人」概念
に合致しない。),結局,上記説示に係る①から③までの3要件を用い
る場合と大きな差はない。もとより,米国デラウェア州の法人制度が我
が国の法人制度と同一であり,我が国の「法人」概念と同義のものとし
て原告らが主張する「corporation」等の概念が用いられていることを
認めるに足りる証拠はなく,両者の法人制度や概念が異なるものである
以上,我が国の「法人」に該当するか判断するに当たって実質的な検討
を要することは当然である。
なお,原告らは,外国の事業体が我が国の私法上「外国法人」である
というためには,旧民法36条1項により「商事会社」でなければなら
ないとも主張する。しかし,旧民法36条1項の外国法人の認許とは,
当該外国法人が我が国において法人として活動することを認めるという
ことにすぎず,認許されない「外国法人」が存在することはその文理か
らも明らかであるから,原告らの上記主張は採用することができない
(甲共6・199頁参照)。
(エ)原告らは,以上のほかにも様々な観点から,被告の主張する判断基
準が誤っており,原告らの主張する判断基準が正当である旨をるる主張
するとともに,被告が援用する水野意見書やLLC地裁判決及びLLC
高裁判決を論難するが,上記アからエまでの説示内容に反する限りにお
いて,いずれも採用することができない。
(2)本件各LPSが構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否
か(要件①)
ア前記認定事実によれば,本件各LPSの準拠法である本件LPS法にお
いて,LPSは,同法及びその他の法律,当該LPSのパートナーシップ
契約によって付与された全ての権利又は特権,及びこれに付随する全ての
権利(当該LPSの事業,目的,活動の実行,促進,達成のために必要な,
あるいは便宜的な権利や特権を含む。)を保有し,それを行使することが
できるとされており(106条(b)),しかも,パートナーシップ持分は
動産(personalproperty)であり,パートナーは,LPSの特定財産(s
pecificlimitedpartnershipproperty)に対していかなる持分も所有し
ないとされている(701条)。
また,本件LPS法において,不動産登記等の公示に関して直接定めた
規定を見出すことはできないが,本件各LPS契約において,本件各LP
Sが行う全ての不動産投資その他所有する資産は,本件LPS(又は本件
各GPが随時決定できる名義人)の名前で登録することができるとされて
おり(「Allrealestateinvestmentsandotherpropertyownedbyth
ePartnershipmayberesiseteredinthePartnershipname,...」2.
7条),実際にも,本件各建物の譲渡は,いずれも本件各LPSの名義で
米国の登録所に登録されている。
以上の本件LPS法の各規定や本件各建物が本件各LPSの名義で登録
されていることに照らせば,本件各LPSは,構成員の個人財産とは区別
された独自の財産を有する(当該事業体の財産につき構成員が直接の具体
的な持分を有しておらず,かつ,当該事業体の名義により登記等の公示を
行うことができる)と認めるのが相当である。
イ本件各LPS契約4.5条(不可分の持分条項)について
(ア)ところで,本件各LPS契約4.5条は,各パートナーは,本件各
LPSの資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当する不可分の持
分を有する(EachPartnershallhaveandownanundividedinteres
tinthePartnership'spropertyequaltoitsPartnershipPercent
age.)としており,この規定は,一見すると,パートナーはLPSの特
定財産に対していかなる持分も有しないとする701条と矛盾するよう
にみえる。
しかし,ピルバリーメモ(乙共8)によれば,「上記のパートナーシ
ップ契約条項(本件各LPS契約4.5条)は,701条に齟齬するも
のではない。(中略)この条項は,各パートナーがそれぞれの割合に応
じてパートナーシップ持分を有することを定めるための条項である。こ
の条項では,各パートナーが,パートナーシップの資産全体に対して,
その割合に応じた不可分の持分を有することを示しており,パートナー
シップの特定の資産(例えば不動産)に直接の持分を有していると定め
たものではない。」としており,また,モリス回答書(乙共19)も,
「この言葉(undividedinterest)が,デラウェア州のLPS又はその
他のエンティティの財産に対して,特定の所有権を規定することを意図
するものであるというのは,我々の一般的な理解とは異なるもので
す。」「この解釈は,LPS契約に,各パートナーはパートナーシップ
の財産に不可分の持分(anundividedinterest)を持つと規定するこ
とが,各パートナーが特定のパートナーシップ財産に持分を持つという
パートナーたちの意思を明確に表示することにはならないということを
示しています。」としている。これらの各意見書の内容に加えて,本件
各LPS契約4.5条がその文末において「anundividedinterestin
thePartnership'sproperty...」を「PartnershipInterest」に置き
換えていることからすれば,上記の「anundividedinterestintheP
artnership'sproperty」(パートナーシップの資産に対する不可分の
持分)とは,本件各LPSの特定財産に対する直接の持分を意味するも
のではなく,いわばLPSの全体財産に対する分け前というべき,10
1条(13)が定義する「Partnershipinterest」(LPSの損益のうちパ
ートナーが保有する持分,及びLPSの資産の分配を受ける権利)を意
味するものと解するのが相当である(なお,ピルバリーメモは,701
条や101条(13)は,本件LPS法に基づいて組成されたLPSの本質
的な特徴を定義付ける条文であり,LPS契約で変更できる条文ではな
いとしており,モリス回答書においても,701条については,パート
ナーシップ契約での修正を認めない強制的な規定であると判断される公
算が高いとしている。)。
したがって,本件各LPS契約4.5条は,本件各LPSの各パート
ナーがその出資割合に応じたパートナーシップ持分を有する旨を定めた
ものにすぎず,各パートナーが本件各LPSの特定財産に対する直接の
持分を有すること(すなわち,本件各LPSの財産を各パートナーの共
有財産とすること)を定めたものとは解されないから,本件各LPSが
構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有することを否定する根
拠とはならないというべきである。
(イ)これに対し,原告らは,本件LPS法は1101条により契約自由
の原則とパートナーシップ契約の執行可能性を最大限に尊重する旨を定
めており,本件各LPS契約4.5条によりパートナー間の内部関係に
おいて701条は修正されていると主張し,また,被告が提出するモリ
ス回答書も原告らの上記主張に沿うものであると主張する。
確かに,モリス回答書は,「パートナーシップの財産に特定の持分を
所有することが,全てのパートナーたちにとって,彼らたちの間で,有
益であるとみなされる状況があるときには,デラウェア州の裁判所は,
201条(b)及び701条の規定は第三者には関係なく,全パートナー
間のみの関係において,修正することができると決定することは考えら
れます。」としている。しかし,モリス回答書は,これに続けて,「我
々は,デラウェア州裁判所が財産所有権の取扱いを二分する方法を適用
した事例を知りませんし,かつ全パートナーたちがかかる取扱い方法か
ら実現される重要なメリットについても承知しておりません。」として
いるのであり,その前後の記載内容を全体としてみれば,モリス回答書
は,内部関係に限定して701条が修正されるという考え方について否
定的な見方を示していることは明らかである。加えて,本件各LPS契
約の他の条項をみても,同契約4.5条がパートナー間の内部関係にお
いて701条を修正する趣旨であると解すべき裏付けとなるような規定
も見当たらないことや(かえって,同契約10.15条によれば,各パ
ートナーは,当該パートナーが本件各LPSの動産や資産に関連する分
割の訴訟を維持するために有する権利を放棄する旨定められている。),
デラウェア州に限らず,我が国においても,特定財産の所有権の帰属に
つき取扱いを二分すること(対外的には事業体が単独で所有してその名
において公示し,内部的には構成員の共有とすること)は通常考え難い
ことからすれば,原告らの上記主張は,何ら裏付けのない解釈に基づく
ものであって,モリス回答書が様々な可能性を慎重に検討した一部分を
抜き出して自己に有利に援用するものにすぎず,採用することができな
い。
さらに,前述のとおり,法人格付与の判断において問題となる財産所
有の主体性とは,対外的関係において所有主体として取り扱われるかど
うかということであり,仮に内部的には事業体の財産に対するパートナ
ーの持分を観念できるとしたとしても,それは本件各LPSの対外的財
産所有の主体性を否定するものではない。我が国においても,例えば内
部的には組合に近い合名会社において,合名会社の特定財産を構成員の
共有財産とする旨の合意がされた場合,事案の内容によっては,あくま
でも構成員間の内部関係において有効と解する余地があり得るかもしれ
ないし,あるいは解散時の残余財産の分配に関する合意であると限定解
釈する余地があるかもしれないが,それにより合名会社が権利義務の主
体ではなくなるとか,その法人性が否定されるということにはならない。
そうすると,仮に,本件各LPSの特定財産について各パートナーの持
分を認める旨の合意が,内部的にかつごく限定的な場面で有効と解され
る可能性があるとしても,それにより前述の結論が左右されるものでは
ないというべきである。
(ウ)原告らは,ピルバリーメモやモリス回答書の内容が信用できないと
して様々な観点から論難するが,これらのメモ及び意見書の内容につき
特に不自然,不合理であったり,非論理的であったりする点は見当たら
ず,また,これらに記載された意見の信用性を揺るがすに足りる十分な
証拠等も見当たらない。
これに対し,原告らは,ポッター意見書(甲共73)を提出し,同意
見書において,本件LPS契約(C)4.5条について何らの留保も付さ
れることなく,デラウェア州法上適法かつ有効で法的拘束力があり執行
可能である旨の意見が述べられているとして,同意見書を原告らに有利
に援用する。しかし,ポッター意見書は,本件LPS契約(C)4.5条
が701条を修正し又は変更する内容の規定であるかどうか(701条
と齟齬しないものであるかどうか)について,原告らが主張する解釈を
前提にしているかどうかを明らかにしておらず,したがって,被告らが
主張する解釈とも矛盾するものではないから,ポッター意見書は原告ら
の主張を裏付けるものとはいえない。
(エ)以上によれば,本件各LPS契約4,5条に係る原告らの主張は採
用することができず,上記アで記載したとおり,本件各LPSは,構成
員の個人財産とは区別された独自の財産を有すると認めるのが相当であ
る。
(3)本件各LPSがその名において契約等の法律行為を行い,その名において
権利を有し義務を負うことができるか否か(要件②)
ア前記認定事実によれば,本件各LPSの準拠法である本件LPS法にお
いて,LPSは,一定の業務を除き,営利目的か否かを問わず,いかなる
合法的な事業,目的,活動をも実施することができ,同法及びその他の法
律,当該LPSのパートナーシップ契約によって付与された全ての権利又
は特権,及びこれに付随する全ての権利(当該LPSの事業,目的,活動
の実行,促進,達成のために必要な,あるいは便宜的な権利や特権を含
む。)を保有し,それを行使することができるとされている(106条
(a)(b))。また,リミテッド・パートナーは,自己がゼネラル・パートナ
ーである場合あるいはリミテッド・パートナーとしての権利や権限の履行
に加えて当該事業の経営管理に関与している場合を除き,LPSの債務を
弁済する責任を負うものではないとされている(303条(a))。
また,本件各LPS契約においても,本件各LPSは,本件各不動産の
購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却等の目的を実施するために必
要な権限を有するとされ(1.3条),契約,不法行為その他により生じ
たかを問わず,本件各LPSの負債,債務及び義務は本件各LPSの単独
の負債,債務及び義務であり,リミテッド・パートナーは,リミテッド・
パートナーであるという理由のみで本件各LPSの負債,債務,及び義務
について個人的に責任を負わないとされている(1.5条(a))。また,
実際にも,本件各LPSは,その名において本件各売買契約や本件各土地
賃貸借契約等を締結している。
以上の本件LPS法の各規定に加え,本件各LPSが現実にその名にお
いて様々な契約を締結していることなどからすれば,本件各LPSは,そ
の名において契約等の法律行為を行い,その名において権利を有し義務を
負うことができると認められる。
イ503条及び本件各LPS契約4.7条及び4.8条について
(ア)これに対し,原告らは,ある事業体が権利義務の帰属主体であるか
どうかは,その事業体の事業活動により生じた損益が当該事業体に直接
帰属するのか,あるいは当該事業体の構成員に直接帰属するのかという
点が重要なメルクマールとなるとした上,503条及び本件各LPS契
約4.7条及び4.8条によれば,本件各LPSには損益が帰属せず直
接に各パートナーに帰属するから,本件各LPSは独立した権利義務の
帰属主体とはいえないと主張する。
(イ)そこで検討するに,503条は,LPSの損益は,パートナーシッ
プ契約の規定に従い,パートナー等の間で割当が行われ,パートナーシ
ップ契約に規定がない場合,損益は,各パートナーによって拠出されL
PSによって受領され返却されていない出資に関して合意された価額に
基づき割り当てられる旨規定する。他方,106条(a)(b)は,LPSは,
一定の業務を除き,いかなる合法的な事業,目的,活動をも実施するこ
とができ,本件LPS法及びその他の法律,当該LPSのパートナーシ
ップ契約によって付与された全ての権利又は特権,及びこれに付随する
全ての権利を保有し,それを行使することができる旨規定する。そうす
ると,本件LPS法上のLPSは自ら実施する事業活動から生じた債権
債務の帰属主体となり,かつ財産の取得,処分等をするのであるから
(本件各LPS契約1.3条参照),当該事業活動から生じた損益もま
たLPSに帰属することは明らかというべきである。したがって,50
3条については,各パートナーへの損益の直接の帰属を定める趣旨であ
るとか,損益の直接の帰属を前提とする規定であると解することは困難
であり,いったんLPSに帰属した損益の配分方法及び割合について定
めるものにすぎないと解するのが相当である。
(ウ)また,本件各LPS契約4.7条及び4.8条(なお,本件LPS
契約(P)と本件LPS契約(C)とでは規定内容が異なるが,以下,本件L
PS契約(C)の条文を念頭において検討する。)は,会計年度の利益及
び損失は,パートナーのそれぞれのパートナーシップ出資割合に応じて
パートナーに割り当てられる(配分される)と定めているが,上記(イ)
で述べたところによれば,上記4.7条及び4.8条についても,50
3条と同様,いったんLPSに帰属した損益の配分方法及び割合につい
て定めるものにすぎないと解するのが相当である(なお,原告らは,本
件LPS法及び本件各LPS契約の原文でいう「Allocation」「beall
ocated」について,「割当」「割り当てられる」ではなく,「配分」
「配分される」と訳すべきであるとするが,いずれにしても上記判断を
左右するものではない。)。
(エ)これに対し,原告らは,本件各LPS契約4.7条及び4.8条は,
我が国の法人とは異なり,本件各LPSの損益が,何らの利益処分の決
議を要することなく「直接に各パートナーに帰属する」ことを明らかに
しているとし,実際にも,本件各LPSが,各会計年度における情報申
告書である連邦パートナーシップ情報申告書(Form1065)を作成し(甲
共95の2,115),その別表として,本件各パートナーである本件
各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営む原告らごとのパートナー持分
に関する情報申告書(スケジュールK1)を作成し(甲共78,11
6),原告らに各会計年度のパートナーシップの損益が直接帰属してい
ることが示されているなどとして,この点は本件各LPSが我が国の
「法人」には該当しないことを示す一つの証左であると主張する。
しかし,事業損益とは,事業に伴う資産や負債が帰属することにより
発生するものであるところ,前述のとおり,少なくとも本件各LPSの
事業に基づき発生する債務は,直接リミテッド・パートナーに帰属する
ものではない以上,リミテッド・パートナーに直接損益が帰属するとい
うことはできない。ある事業体が損益の帰属主体であるかという問題と,
ある事業体に生じた損益をどのような手続により構成員に配分するかと
いう問題は,次元の異なる問題であって,当該事業体に生じた損益を,
当該事業体の機関による決議等によることなく,あらかじめ定めた一定
の割合等に従って構成員に分配することとしても,それによってある事
業体が損益の帰属主体でなくなるというものではない。また,本件各L
PSから原告らに割り当てられるとする損益の米国における税務上の取
扱いがどうであるかは,本件各LPSの法人該当性に直接影響するもの
ではない。
また,原告らは,本件各LPS契約4.12条(a)は,パートナーシ
ップの収益,利益,損失及び控除の「全ての項目」の配分割合について
定めるものであり,各項目が総額(グロス)ベースで本件各パートナー
である本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営む原告らに対して配
分されるべきことを明確に示しているとし,実際にも,「組合外支出調
整後損益計算書」(甲共79等)においては,当該パートナーの損益が
総額(グロス)ベースで報告されており,フォーム1040NR(甲共
80)においても,不動産賃貸損益(RentalRealEstate)は他の課税
所得(taxableinterestなど)とは別に計算されており,本件各LP
Sから純額(ネット)の損益のみが配分されるのではなく,個別の所得
の性質ごとに,本件各パートナーである本件各受託銀行を通じて不動産
賃貸事業を営む原告らの持分に従って,本件各LPSの所得(又は損
失)が原告らに配分されていることを示していると主張する。
しかし,原告らが上記において主張する内容は,本件各不動産賃貸事
業から生じた損益が本件各LPSにおいて集計された後の取扱いについ
て述べるものにすぎないというべきであり,本件各LPSが権利義務の
主体であり,損益の帰属主体であると解することと矛盾するものではな
い。また,前述のとおり,本件各LPSから原告らに割り当てられると
する損益の米国における税務上の取扱いがどうであるかは,本件各LP
Sの法人該当性に直接影響するものではない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。
(4)本件各LPSがその名において訴訟当事者となり得るか否か(要件③)
ア前記認定事実によれば,本件各LPSの準拠法である本件LPS法にお
いて,LPSに対する訴状・召喚状は,LPSの代理人,ゼネラル・パー
トナー等に対して直接写しを手渡すことにより,又は,これらの者のデラ
ウェア州内の住居等に送付することにより,送達されたものとみなされる
と規定されており,LPSが訴訟当事者となり得ることが前提とされてい
る。また,本件各LPS契約においても,本件各LPSは,第三者に対す
る請求について訴訟を提起し,提起され,解決又は和解し,本件各LPS
に対する請求を解決又は和解し,それらに関連して必要又は望ましいと考
えられる書類を作成し,表明,許可及び権利放棄を行う権限を有するとさ
れている(本件各LPS契約1.3条(d))。
したがって,本件各LPSは,その名において訴訟当事者となり得ると
認められる。
イこれに対し,原告らは,「corporation」は当然に訴訟当事者となり得
ることが認められるが,「partnership」は,法律の定めがない限り,当
然には訴訟当事者とはならないのであり,これは我が国の組合と同様であ
るなどと主張する。
しかし,原告らの上記主張は,米国デラウェア州の法制度や概念が我が
国のものと必ずしも同一ではないという点を捨象した立論であって,採用
することができない。明確な法律の定めがあるか解釈上当然に認められて
いるかにかかわらず,当該事業体が現実に訴訟当事者となり得るのであれ
ば,前述の判断基準の③の要件を満たすというべきであり,その他の要件
(上記①及び②)を満たす限り,我が国の租税法上(私法上)の法人に該
当すると認めるのが相当であるから,原告らの上記主張は採用することが
できない。
(5)小括
以上によれば,本件各LPSは,①その構成員の個人財産とは区別された
独自の財産を有し(本件各LPSの財産につきパートナーの共有とされてお
らず,また,本件各LPSの名において不動産等の登録をすることができ
る。),②本件各LPSがその名において契約等の法律行為を行い,その名
において権利を有し義務を負うことができ,③その名において訴訟当事者と
なり得ると認められる。したがって,本件各LPSは,「自然人以外のもの
で,権利義務の主体となることのできるもの」であり,我が国の租税法上
(私法上)の「法人」に該当すると認められる。
(6)原告らの主張について
ア「separatelegalentity」について
(ア)原告らは,「separatelegalentity」の概念は本件LPS法上
「法人格を有するという意味」を持たないとか,アレン教授意見書(甲
共90)を引用した上で,上記概念は「survivability(存続性)」を
より明確にするものにすぎないなどとして,「separatelegalentit
y」の概念は法人該当性の根拠とはならない旨主張する。
しかし,そもそも,前述のとおり,外国において我が国と同様の法人
制度が採用されていないことも十分想定され,また,その類似する相互
の法令上の概念が,必ずしも厳密に一致するとも限らないのであるから,
ある外国において我が国の「法人」に類似する概念があり,ある事業体
がこれに該当するとされていたとしても,そのことから直ちに当該事業
体が我が国の私法上の法人と同様の意味において「権利義務の主体とな
ることのできるもの」であるということはできないし,逆に,ある外国
において我が国の法人以外の団体(組合等)に類似する概念があり,あ
る事業体がこれに該当するとされていたとしても,そのことから直ちに
当該事業体が「権利義務の主体となることのできるもの」に該当しない
ということもできない。
(イ)そうすると,本件LPS法に基づき組織されたLPSは,独立した
法的主体(separatelegalentity)となるとされているが(201条
(b)),この概念から直ちに本件各LPSが我が国の租税法上の「法
人」に該当すると解することはできないし,他方,我が国の租税法上の
「法人」に直ちに該当しないと断ずることもできないのであって,結局
のところ,LPSがLPS証明書の登録により「separatelegalentit
y」になるとされていること自体は,法人該当性の判断において決定的
な意味を有するものではなく,この概念の解釈如何は本件の結論を左右
するものではない(なお,外国の事業体につきその私法上の概念自体か
ら法人該当性如何が容易に判断できる場合もあるとは思われるが,本件
各LPSにおける「separatelegalentity」とは,双方の主張を検討
しても,その概念自体から法人該当性如何を容易に判断することのでき
るような概念であるとは認められない。)。
そして,以上の理は,本件各LPSが「corporation」ではなく「par
tnership」とされていることについても同様である(すなわち,本件各
LPSが「partnership」の一類型であるからといって,我が国の租税
法上「法人」であると解することと矛盾するものではない。)。
イ社会通念,租税実務等について
(ア)原告らは,米国法上の「corporation」こそが,日本法を設立準拠
法とする「法人」と同じ法的性質を有しており,corporationこそを日
本法を設立準拠法とする「法人」と同等の概念と解することが通常の理
解に合致しているとか,米国におけるcorporationやlegalentityの
歴史的沿革に鑑みても,デラウェア州法上のLPSは日本法を設立準拠
法とする「法人」と同等の事業体ではないなどと主張する。
しかし,米国のcorporationが我が国の租税法上の「法人」と認めら
れるからといって,それ以外の事業体が全て「法人」に該当しないとい
うことにはならないのであり,また,本件各LPSが上記①から③まで
の全ての要件を満足し「自然人以外のもので,権利義務の主体となるこ
とのできるもの」に該当することは前述のとおりであるから,原告らの
主張は採用することができない。
(イ)原告らは,本件各LPSが組成された当時の日本における租税実務
において米国LPSは租税法上の「法人」には含まれないものとして取
り扱われていたと主張し,その根拠として,平成12年7月政府税調中
期答申やその委員会資料(甲共26)のほか,税務大学校研究部教育官
であった遠藤克博氏の論文(甲共27)や,東京国税局調査第一部主任
国際調査審理官(前税務大学校研究部教授)である長谷部啓氏の講演録
(甲共75)を挙げる。また,権威ある商法学者の文献(甲共10,1
4)においても,米国のLPSは租税法上の「法人」には含まれないも
のとして整理されているとも主張する。
しかし,そもそも,外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当す
るか否かを判断するに当たり,当該外国の法律概念に関する我が国の
「社会通念」が存在するとは思われないし,仮にあるとしてもそれを基
礎として判断することは適当でない。しかも,原告らが指摘するこれら
の文献や資料は,概して,米国のLPSにつき「partnership」の一類
型として一般的抽象的に分類するものにすぎないところ,米国において
は州によって法制度が大きく異なるのであるから,デラウェア州の本件
LPS法を準拠法とするLPSが,我が国の租税法上の法人に該当しな
い旨の意見が示されていたということはできないし,また,我が国にお
いてそのような社会通念が形成されていたということもできない。また,
遠藤克博氏の論文においては,デラウェア州のLPSを例に挙げて,組
合型所得計算方式の問題点が論じられているものの,デラウェア州のL
PSの法人該当性に焦点を当てて検討したものではない上,執筆者の個
人的見解であり,国税庁及び税務大学校の公式見解ではないとされてい
る(乙共18)。その他,原告らは,様々な観点から,本件各LPSを
我が国の租税法上の法人とすることは社会通念に反するとるる主張する
が,上記のとおり,これを採用することはできない。
ウその他の主張について
以上のほかにも,原告らは,本件は平成17年税制改正により新設され
た措置法41条の4の2の実質的な遡及適用であるとか,本件スキームは
租税回避行為ではなく,課税庁は航空機リース事件の過ちを繰り返してい
るなどとるる主張するが,いずれも本件の結論を左右するものではなく,
採用することができない。
3本件各LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分について
以上のとおり,本件各LPSは我が国の租税法上の「法人」に該当するとい
うべきであるから,本件各LPSが営む本件各不動産賃貸事業から生じた損益
は,本件各LPS自身に直接帰属することになる。したがって,本件各LPS
の不動産賃貸事業から生じた損益が本件各LPSをパススルーして不動産所得
の性質を有したまま原告らに帰属するということはできず,上記損益は原告ら
の不動産所得には該当しない(なお,本件各LPSから配分された利益は配当
所得に該当すると解される。)。
したがって,原告らの本件各損失は,原告らの不動産所得の金額の計算上生
じた損失の金額(所得税法69条1項)に該当せず,原告らは,本件各損失を
もって損益通算の適用を受けることができない。
そして,原告P1に対する本件P1各更正処分及び本件P1各通知処分並び
に原告P2に対する本件P2各更正処分及び本件P2各通知処分については,
上記の点(本件各損失による損益通算の可否)に関する部分を除き,計算の基
礎となる金額及び計算方法に当事者間に争いはないから,上記各処分はいずれ
も適法である。
4過少申告加算税額を課されない「正当な理由」(国税通則法65条4項)に
ついて
(1)過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則と
してその違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正
に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るととも
に,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を
図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照
らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合とし
て国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合と
は,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記の
ような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦
課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最
判平成19年7月6日・裁判集民事225号39頁参照)。
(2)原告らは,米国LPSは租税法上の「法人」には含まれないという見解が,
平成12年7月に財務省主税局作成の資料中(平成12年7月政府税調中期
答申)において公に表明されていたとか,その内容について議論された委員
会資料(甲共26)において,米国LPSは法人格のない事業体の欄に分類
されていたとか,前述の遠藤克博氏の論文(甲共27)や,長谷部啓氏の講
演録(甲共75)においても,パートナーシップには法人格がないことが前
提とされていたなどとして,原告らが本件各LPSを「法人」に該当すると
判断することは不可能であり,原告らが平成15年までの本件各損失につき
損益通算を行って申告したことにつき,国税通則法65条4項の「正当な理
由」があると主張する。
しかし,平成12年7月政府税調中期答申及びその委員会資料は,そもそ
も政府の公の見解を表明するようなものではない上,各州ごとに法制度の異
なる米国のLPSについて,一律に法人格を有しないものとして取り扱われ
ることを明言したということもできない。また,原告らが指摘するその他の
資料や論文等をみても,本件LPS法に基づくデラウェア州のLPSが我が
国の法人に該当しないことを政府の公式見解として表明するものではないこ
とは明らかであり(なお,長谷部啓氏の講演録によれば,「逆に日本の投資
家が,外国のパートナーシップや米国LLCなどに投資する(アウトバウン
ド)例も,相当増えてきています。この場合の具体的な投資形態については,
外国事業体が我が国の租税法において法人と取り扱われるか又は組合類似の
事業体と取り扱われるかについて,必ずしも明確にされておらず,課税関係
が不明確な面があります。そのため,(中略)現地に法人を設立し,その現
地法人を経由して,現地のパートナーシップなり米国LLCなどに投資をす
るという間接投資を採用し,課税上のリスクを回避している例が多いのでは
ないかと思われます。」とされており(甲共75の185頁),米国のLP
Sが法人として取り扱われる可能性を否定していない。),さらに,米国の
LLCが「外国法人」に該当する旨の国税庁のQ&Aが平成13年6月に発
出されていること(弁論の全趣旨)も考慮すれば,原告らが本件各損失を不
動産所得に該当するとして損益通算ができると判断したことは,原告らの主
観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないというべきである。し
たがって,本件の事情の下では,「真に納税者の責めに帰することのできな
い客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過
少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」に該当するとはいえ
ず,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるということはできな
い。
(3)したがって,本件P1各賦課決定処分及び本件P2各賦課決定処分は,い
ずれも適法である。
5結論
以上によれば,原告P1に対する本件P1各更正処分,本件P1各賦課決定
処分及び本件P1各通知処分,並びに原告P2に対する本件P2各更正処分,
本件P2各賦課決定処分及び本件P2各通知処分は,いずれも適法であると認
められる。
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文
のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官直江泰輝
(別紙)
略称一覧表
【当事者等】
原告P1甲事件及び丁事件原告P1
原告P2乙事件及び丙事件訴訟承継前原告P2
原告ら原告P1及び原告P2
被告全事件被告国
承継人P3乙事件及び丙事件原告(亡P2訴訟承継人)P3
【法令,概念等】
LPSリミテッド・パートナーシップ(LimitedPartnership)
LLCリミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LimitedLi
abilityCompany)
本件LPS法米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシッ
プ法(デラウェア州法第6編第17章。ただし,本件各
LPS設立時のもの)
○○○条本件LPS法17-○○○条
GC法DelawareGeneralCorporationLaw(甲共72)
措置法租税特別措置法
旧民法平成16年法律第147号による改正前の民法
負担軽減措置法経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税及び
法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年法律第
8号。ただし,平成17年法律第21号による改正前の
もの)
昭和39年最判最判昭和39年10月15日・民集18巻8号1671

【関係会社等】
P4証券P4証券会社P20支店(CommerzSecurities(Japan)
CompanyLimited)
P5銀行P5(現在はP24)
P11銀行P11
P10株式会社P10
本件GP(P)P6
本件LPS(P)P22
P7P7
P9P9
P8P8
本件GP(C)P13
本件LPS(C)P23
P12P12
P14P14
P17P17
P15P15
P16P16
【原告P1関係】
平成○年P1確定(修正)申告書
原告P1の平成○年分の所得税の確定(修正)申告書
本件P1各更正処分平成14年分及び平成15年分の原告P1の所得税につ
いて平成17年7月19日付けでされた各更正処分
本件P1各賦課決定処分平成14年分及び平成15年分の原告P1の所得税につ
いて平成17年7月19日付けでされた過少申告加算税
の各賦課決定処分
本件P1各更正の請求原告P1が平成18年3月13日に豊能税務署長に対し
てした平成16年分所得税の更正の請求及び平成19年
3月14日に同税務署長に対してした平成17年分所得
税の更正の請求
本件P1各通知処分本件P1各更正の請求に対して豊能税務署長が平成19
年3月2日及び同年5月18日にした更正すべき理由が
ない旨の各通知処分
本件建物(P)物件名「P26」の建物
本件土地(P)本件建物の敷地
本件不動産(P)本件建物(P)及び本件土地(P)
本件アドバイザリー契約(P)
原告P1とP4証券との間で平成13年8月15日締結
されたファイナンシャル・アドバイザリー契約
本件不動産投資事業(P)本件建物(P)を対象とした海外不動産投資事業
本件基本信託契約(P)原告P1とP5銀行との間で平成14年3月26日締結
された「MASTERFIDUCIARYCONTRACT」と題する信託契

本件不動産賃貸事業(P)本件建物(P)の賃貸事業
本件LPS契約(P)P5銀行と本件GP(P)との間で平成14年3月28日
に締結された「PARTNERSHIPAGREEMENTOFP22」と
題するLPS契約
本件売買契約(P)本件LPS(P)とP7との間の平成14年3月28日付
け「BUY-SELLAGREEMENT」と題する契約
本件土地賃貸借契約(P)本件LPS(P)とP7との間の平成14年3月28日付
け「GROUNDLEASE」と題する契約
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)
本件LPS(P)とP7との間の平成14年3月28日付
け「PURCHASEANDSALEAGREEMENT,AGREEMENTTOLEASE
ANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」と題する契約
本件管理契約(P)本件LPS(P)とP9との間で平成14年3月28日に
締結された本件不動産(P)の管理委託契約
本件新アドバイザリー契約(P)
原告P1とP10との間で平成15年10月1日締結さ
れたファイナンシャル・アドバイザリー契約
本件新信託契約(P)原告P1とP11銀行との間で平成15年11月12日
に締結された「P1DOITTRUST」と題する信託契約
【原告P2関係】
平成○年P2確定(修正)申告書
原告P2の平成○年分の所得税の確定(修正)申告書
本件P2各更正処分平成13年分から平成15年分までの原告P2の所得税
について平成17年2月21日付けでされた各更正処分
本件P2各賦課決定処分平成13年分から平成15年分までの原告P2の所得税
について平成17年2月21日付けでされた過少申告加
算税の各賦課決定処分
本件P2各更正の請求原告P2が平成18年3月13日に三木税務署長に対し
てした平成16年分所得税の更正の請求及び平成19年
5月18日に同税務署長に対してした平成17年分所得
税の更正の請求
本件P2各通知処分本件P2各更正の請求に対して三木税務署長が平成19
年3月2日及び同年5月18日にした更正すべき理由が
ない旨の各通知処分
本件建物(C)物件名「P21」の建物
本件土地(C)本件建物の敷地
本件不動産(C)本件建物(C)及び本件土地(C)
本件アドバイザリー契約(C)
原告P2とP4証券との間で平成13年8月15日締結
されたファイナンシャル・アドバイザリー契約
本件不動産投資事業(C)本件建物(C)を対象とした海外不動産投資事業
本件基本信託契約(C)原告P2とP5銀行との間で平成12年12月8日締結
された「MASTERFIDUCIARYCONTRACT」と題する信託契

本件LPS契約(C)P5銀行,本件GP(C)及びP12との間で平成14年
3月28日に締結された「PARTNERSHIPAGREEMENTOF
P23」と題するLPS契約
本件不動産賃貸事業(C)本件建物(C)の賃貸事業
本件売買契約(C)本件LPS(C)とP14との間の平成12年12月22
日付け「BUY-SELLAGREEMENT」と題する契約
本件土地賃貸借契約(C)本件LPS(C)とP14との間の平成12年12月22
日付け「GROUNDLEASE」と題する契約
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)
本件LPS(C)とP14との間の平成12年12月22
日付け「PURCHASEANDSALEAGREEMENT,AGREEMENTTOL
EASEANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」と題する契約
本件管理契約(C)本件LPS(C)とP17との間で平成12年12月22
日に締結された本件不動産(C)の管理委託契約
本件新アドバイザリー契約(C)
原告P2とP10との間で平成15年10月1日締結さ
れたファイナンシャル・アドバイザリー契約
本件新信託契約(C)原告P2とP11銀行との間で平成15年11月17日
に締結された「P2DOITTRUST」と題する信託契約
【包括的呼称】
本件各損失原告らが本件訴訟で争っている米国所在の不動産所得に
係る各損失
本件スキームP4証券が企画したDOIT(DualOwnershipInvestment
Tactics)プログラム
本件各LPS本件LPS(P)及び本件LPS(C)
本件各LPS契約本件LPS契約(P)及び本件LPS契約(C)
本件各パートナー本件各LPSの各パートナー
本件各GP本件GP(P)及び本件GP(C)
本件各建物本件建物(P)及び本件建物(C)
本件各不動産本件不動産(P)及び本件不動産(C)
本件各不動産賃貸事業本件不動産賃貸事業(P)及び本件不動産賃貸事業(C)
本件各売買契約本件売買契約(P)及び本件売買契約(C)
本件各土地賃貸借契約本件土地賃貸借契約(P)及び本件土地賃貸借契約(C)
本件各管理契約本件管理契約(P)及び本件管理契約(C)
本件各受託銀行P5銀行及びP11銀行
本件各信託契約本件基本信託契約(P)及び本件新信託契約(P)並びに本件
基本信託契約(C)及び本件新信託契約(C)
【証拠関係等】
我妻著書我妻榮・新訂民法總則(民法講義Ⅰ)(114頁~11
7頁部分につき甲共5)
星野論文「いわゆる『権利能力なき社団』について」星野英一・
民法論集第1巻227頁以下(甲共96)
古田補足意見最判平成19年9月28日(民集61巻6号2486
頁)における古田裁判官の補足意見(甲共97)
LLC地裁判決さいたま地裁平成19年5月16日判決(乙A30,乙
B34)
LLC高裁判決LLC地裁判決の控訴審である東京高裁平成19年10
月10日判決(乙共1)
水野教授水野忠恒一橋大学大学院法学研究科教授
水野意見書水野教授の平成20年5月16日付け鑑定意見書(乙共
2)
中里教授中里実東京大学教授
中里意見書中里教授の平成20年9月22日付け鑑定意見書(甲共
45)
ピルバリーメモピルバリー・ウィンズロップ・ショー・ピットマン・エ
ルエルピー作成に係る2007年10月10日付けメモ
ランダム(乙共8)
モリス回答書米国弁護士事務所(Morris,Nichols,Arsht&Tunnell
LLP)からの調査報告書(乙共19)
アレン教授ニューヨーク大学のWilliamT.Allen(ウィリアム・テ
ィー・アレン)教授
アレン教授意見書アレン教授作成の意見書(甲共90)
ポッター意見書デラウェア州の法律事務所「PotterAnderson&Corroo
nLLP」が作成した意見書(甲共73)
平成12年7月政府税調中期答申
平成12年7月14日付け「わが国税制の現状と課題-
21世紀に向けた国民の参加と選択-」(甲共25)
(別紙)
当事者の主張の概要
第1本件各LPSが米国で営む本件各不動産賃貸事業から生じた損失を,我が国
の所得税法上,原告らの不動産所得の金額の計算上生じた損失として取り扱う
べきか否か
1本件各LPSが我が国の租税法上「法人」に該当するか否か
(被告の主張)
(1)外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断方法
及び判断基準
ア我が国の租税法上,「内国法人」及び「外国法人」を定義する規定はあ
るが,「法人」そのものを定義付ける規定は存在しないことから,我が国
の租税法上の「法人」は,我が国の私法上の「法人」と同義と解すべきで
ある。
そして,私法の一般法である我が国の民法の解釈において,「法人」と
は,「自然人以外のもので,権利義務の主体となることのできるもの」
(我妻著書45頁)をいい,「(イ)構成員の個人財産から区別され,個人
に対する債権者の責任財産ではなくなって,法人自体の債権者に対する排
他的責任財産を作る法技術である。なお,法人は,(ロ)その名において契
約を締結し,その名において権利を取得し,義務を負い,(ハ)その権利義
務のためにその名において訴訟当事者となる。」(星野論文270頁以
下)とされている。
この点,法人とは自然人以外のもので権利義務の帰属主体となるものを
いうが,どのような団体に法人格を付与するか,また,法人格を付与する
ことによって法人にどのような権利能力を認めるかについては,それぞれ
の国家の価値判断に基づいて行われるものであり,立法政策の問題に帰す
るのである。法人制度の内容がそれぞれの国家の価値判断に基づく選択の
結果である以上,外国において我が国と同じ法人制度が採られていないこ
とも十分想定されるところである。このように,それぞれの国における法
人制度が異なっていることを前提とした上で,どのような性質を有する外
国の事業体が我が国の私法に照らして法人格を有する団体であるといえる
かについては,我が国の私法上,法人に付与されている権利能力の内容と,
当該外国の事業体が有する権利能力の内容とを比較し,当該外国の事業体
が我が国の法人に付与されるのと同じ内容の権利能力を有しているか否か
により判断すべきである。なぜなら,我が国において法人に認められる権
利能力と同じ内容の権利能力が認められている外国の事業体について,こ
れを我が国の私法上(租税法上)の「法人」と認めることに何ら支障がな
いばかりか,我が国の私法(租税法)の解釈として合理的であって,等し
く法人として取り扱うことが我が国の法人制度の目的に沿うものであり,
公平な取扱いになるということができるからである。
したがって,外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上
の「法人」に該当するかは,我が国の私法において法人に認められる権利
能力と同等の能力を有するか否か,すなわち,当該事業体が,①その構成
員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否か,②その名におい
て契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負うなど独立した権
利義務の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名にお
いて訴訟当事者となり得るか否かに基づいて判断するのが相当である。
そして,外国の法令に基づき設立された事業体が上記①から③までの能
力を有するか否かは,その設立準拠法や設立契約の内容,実際の活動実態,
財産や権利義務の帰属状況等に基づいて判定されるべきであるから,我が
国の租税法上(私法上)の「法人」に該当するか否かの判断に当たっては,
当該事業体の設立準拠法や設立契約の内容,実際の活動実態,財産や権利
義務の帰属状況等を考慮して,個別具体的に判断するのが相当である。
イ水野教授も上記アと同様の判断方法を妥当とされていること
外国の事業体が我が国の租税法上どの組織に該当するかについて,水野
教授は,「事業体がどの組織に該当するかという基準については,わが国
の国内法によるべきであるが,その基準にあてはまるかどうかという性質
決定は,現地の準拠法に基づき,いわゆるdualprocessによるべき」
(水野忠恒・租税法〔第2版〕324頁)とされている。
この判断方法につき,水野教授は,水野意見書において,外国の法令に
基づき設立された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かは,
我が国の法人に関する租税法上(私法上)の考え方によって判断すべきで
あること,法人該当性の判断の考慮要素となる具体的な法律関係の内容に
ついては,当該事業体が我が国において類似する組織に関する我が国の法
律によるのではなく,当該事業体が設立の際に準拠した外国の法律の規定
や当事者の契約の内容によるべきであること,外国の事業体が我が国の租
税法上の「法人」に該当するかの判断方法について,外国の法令の内容と,
団体の実質とによって,法人格の有無の判定をするという判断方法が妥当
であること,さらに,外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当する
か否かを判断する際の基準については,①訴訟当事者となること,②事業
体の名において財産を取得・処分すること,③事業体の名において契約を
締結することなどに加えて,構成員から独立した存在としての法人格「se
paratelegalentity」の有無を形式基準として考慮すべきであるとして,
上記「法人」該当性の判断基準と同様の基準により判断すべきとされてい
る。
ウ裁判例においても上記アと同様の判断方法が採用されていること
LLC地裁判決は,外国の事業体の我が国の租税法上の性質判断に当た
り,「我が国の租税法上,「法人」に該当するかどうかは,私法上,法人
格を有するか否かによって基本的に決定されていると解するのが相当であ
る」と判示して,我が国の租税法上の判断基準を明らかにした上で,「外
国の法令に準拠して設立された社団や財団の法人格の有無の判定に当たっ
ては,基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが
相当であり,本件LLCは,米国のニューヨーク州法(NYLLC法)に
準拠して設立され,その事業の本拠を同州に置いているのであるから,本
件LLCが法人格を有するか否かについては,米国ニューヨーク州法の内
容と本件LLCの実質に基づき判断するのが相当である」と判示し,当該
事業体の設立準拠法の内容や当該事業体の実質を考慮要素として我が国の
私法上の法人に該当するか否かを判断することによって我が国の租税法上
の法人該当性を判断する,上記アで述べたのと同様の判断方法を採用する
ことを明らかにしている。そして,同判決は,設立準拠法であるNYLL
C法の内容や不動産所有や契約関係の実質を検討した上で,「本件LLC
は,NYLLC法に基づき,その名において,①訴訟当事者になること,
②財産を取得し,処分すること,③契約を締結する権能を有し,実際に,
訴訟手続の当事者となることや財産を所有することを前提とした規定を本
件オペレーティング契約に置いた上で,その名において,財産を所有・管
理し,契約を締結していること」に加えて,④NYLLC法は同法に基づ
き設立されたLLCを構成員からは独立した法的主体(separatelegale
ntity)と位置付けていること,⑤NYLLC法は,LLCの個別財産に
ついて,LLCの構成員は,一切の利益ないし持分(interest)を有しな
いと規定していることを根拠として,「本件LLCは,米国ニューヨーク
州法上法人格を有する団体であり,我が国の私法上(租税法上)の法人に
該当すると解するのが相当である」と判示している。このように,我が国
の租税法上(私法上)の法人該当性の判断に当たり,①訴訟当事者になる
こと,②財産を取得・処分すること,③契約を締結する権能を有すること
等,上記1で述べたのと同様の要素を判断基準としている。
また,上記判決の控訴審であるLLC高裁判決も,原判決の上記判示部
分を引用してその判断方法及び結果を妥当としている。
エ上記アの判断方法は学説においても支持されていること
東京大学の増井良啓教授は,上記(ア)と同様の判断方法を採用した国税
不服審判所平成13年2月26日裁決を支持している(乙共3,4)。ま
た,東京大学の石黒一憲教授も,上記(イ)の水野教授の考え方(dualpro
cess)を支持している(乙共5)。
(2)本件各LPSが我が国の租税法上の「法人」に該当すること(あてはめ)
ア本件各LPSが「独立した法的主体」(separatelegalentity)であ
ること
(ア)本件各LPSは,本件LPS法に準拠して設立されたLPSであり,
201条(b)によれば,本章に基づき組織されたLPSは,独立した法
的主体(separatelegalentity)となると規定されている。
英米法辞典によれば,一般に「entity」は「法主体」と訳され,訴訟
当事者たる能力を持つものという意味に用いられるのが通常であるが,
法分野によってその意味を異にすることがあるとされる。これに対し,
「legalentity」は「法的実在;法的主体;法的人格」と訳され,Corp
oration(法人)のように,法的に機能し,権利の主体となり,当事者
能力を有する自然人以外の主体とされている(乙共6・507頁)。
そうすると,「separatelegalentity」とは,独立して「法的に機
能し,権利の主体となり,当事者能力を有する自然人以外の主体」と考
えられるところ,ここでいう「独立して」とは,関係者すなわち構成員
からの独立(分離)を意味すると解することが自然かつ合理的な解釈と
いえる。
この本件LPS法上の「separatelegalentity」の規定に関し,水
野教授は,米国全州に共通する統一パートナーシップ法に定める「enti
ty」との違いについて着目され,「“entity”と,“separatelegale
ntity”とでは,法的意味合いは異なる。つまり,“entity”とは,当
該事業組織が団体性をもつという組織の実質をいうのにとどまるが,“
separatelegalentity”とは,法的実体もしくは法的主体という意味
であり,法律的に,文字通り,法人,もしくは法人格を有するという意
味をもつのである。」(水野意見書・10頁)と述べられている。
(イ)このように,「separatelegalentity」とは,権利の主体となり
当事者能力を有する「独立した法的主体」を意味するものと解されるの
であるが,この解釈は,飽くまでデラウェア州ないし米国における制度
を前提とするものであり,本件各LPSが「separatelegalentity」
であることのみをもって,直ちに制度の異なる我が国の租税法上(私法
上)の「法人」に該当するといえない可能性もあることから,更に検討
をする必要がある。
この点,水野教授も,「外国の事業体については,法人の意味や効力
も異なることもありうるので,(中略)①訴訟当事者となること,②事
業体の名において財産を取得・処分すること,③事業体の名において契
約を締結することなどに加えて,構成員から独立した存在としての法人
格“separatelegalentity”の有無を形式基準として考慮すべきであ
る。米国の連邦法人税の対象となる形式基準は“corporation”の名称
を用いているかどうかであり,“corporation”とは“legalentity”
を意味するとされているところであるが,州法上,Partnership等の事
業体を“legalentity”と呼んでいる特定の場合には必ずしも法人税が
課せられているわけではない。そのため,構成員から独立した存在とし
て法人格“separatelegalentity”を有しているか否かという形式ア
プローチと外国の法令の内容と団体の実質へのアプローチとの組合せに
より,外国の事業体が我が国の租税法上の法人に該当するかどうかを判
断するのが相当であると考える。」(水野意見書・8頁)と指摘されて
いる。
したがって,更に設立準拠法等により認められる本件各LPSの性質
等に基づいて,本件各LPSが我が国の租税法上(私法上)の「法人」
に該当するか否かを検討する。
イ本件各LPSが構成員の財産とは区分された独自の財産を有すること
(ア)本件各LPSの設立準拠法,設立契約の内容,実際の活動内容,財
産や権利義務の帰属状況等からすると,①本件各LPSは,その事業,
目的のために必要ないかなる権利をも保有しそれを行使することができ,
本件各不動産を購入するなど自らの名義で資産を取得・保有することが
できること(106条(b),本件各LPS契約1.3条(a),同2.7
条),②本件各パートナーは本件各LPSの資産に対していかなる持分
も有さないこと(701条),③本件各LPSが所有する資産は本件各
LPSの名義で登録することができ,本件各建物の譲渡は,いずれも本
件各LPSの名義で米国の登録所に登録されていること(同契約2.7
条)がそれぞれ認められる。
以上のことからすれば,本件各LPSは,構成員である本件各パート
ナーの個人財産とは明確に区別された独自の財産を有しているといえる。
(イ)本件各LPS契約4.5条(不可分の持分条項)について
本件各LPS契約では,本件各パートナーは,本件各LPSの資産に,
そのパートナーシップ出資割合に相当する分配されない持分を有すると
規定されているものの(同契約4.5条),ここでいう持分とは,パー
トナーシップの資産全体(Partnership'sproperty)に対する持分を意
味し,パートナーシップの有する個別の資産(701条が規定するspe
cificlimitedpartnershipproperty)に対する持分ないし所有権を意
味するものとは解されないのであり(モリス回答書),また,本件各パ
ートナーは,本件各LPSの資産に関する分割の訴訟を行うために有す
る権利を放棄する旨規定されていることから,本件各パートナーは,本
件各LPSの資産に対して何らの持分も実質的には有していないものと
いえる(701条,同契約4.5条,同10.15条)。
この点,原告らは,本件各LPS契約4.5条により,201条(b)
及び701条の各規定は排除又は変更されたものと解されると主張する。
しかし,デラウェア州のパートナーシップ法においては,「パートナー
シップ存在証明書及びパートナーシップ契約」に別途定めることにより,
201条(b)及び701条と同様の規定の適用を回避できることを明ら
かにしているが,本件LPS法においては,上記各条項の適用を回避で
きる旨が規定されていない。また,当該各条項においては,一般に法的
拘束力の程度が高く強制的規定に用いられる「shall」という単語が使
用されている(モリス回答書)。これらの点からすると,本件LPS法
の上記各規定は,パートナーシップ契約による修正を認めない強制的な
規定であると解されるから,原告らの主張は誤っている。
また,原告らは,モリス回答書が,「デラウェア裁判所としては,第
三者との関係についてではなくパートナー間においては,パートナーが
パートナーシップ財産についてそれぞれ固有の権利を有することに意味
があるような状況であれば,そのような合意は701条及び201条
(b)を修正する効力ありと判断できるとの解釈を示すこともあるだろ
う」と述べているのは,原告らの主張に沿うものであると主張するが,
原告らが指摘する上記の部分は,極めて限定的な条件の下においては,
原告らが主張するような解釈を示す可能性もあるだろうという推測を述
べているにすぎないと解される。そして,モリス回答書が想定する条件
に合致する状況を想定することは困難であるが,例えば,パートナーシ
ップを解散する際に,第三者との債権債務関係を清算した後の特定の残
余財産の分配の場面を挙げることはできそうである。しかし,このよう
な残余財産の分配請求権は法人の構成員には一般的に認められるもので
あり,モリス回答書を素直に理解すれば,本件各LPS契約4.5条に
おける不可分の権利条項は,201条(b)及び701条を排除又は変更
するものではなく,極めて限定された状況においてこれらの各規定と抵
触しない範囲でその適用が認められるものと解するのが相当である。
原告らは,本件各LPS契約4.5条が本件各LPSの内部関係にお
いて有効であると主張するが,我が国の法人に限らず,所有権について,
ある財産が第三者との関係においては事業体の所有するものとして取り
扱われ,同時に事業体の構成員間の内部関係においては構成員の共有と
して取り扱われるというような解釈は,権利関係を複雑にし,法的安定
性を害するもので,極めて不合理かつ非現実的である。モリス回答書に
おいても,前述のとおり,「第三者との関係についてではなくパートナ
ー間においてはパートナーはパートナーシップ財産についてそれぞれ固
有の権利を有することに意味があるような状況であれば」という極めて
限定的な条件が設けられているのであり,原告らは殊更にこの点を無視
するものである。
ウ本件各LPSがその名において契約を締結し権利義務の帰属主体となる
こと
(ア)本件各LPSの設立準拠法,設立契約の内容,実際の活動内容,財
産や権利義務の帰属状況等からすると,①本件各LPSは自ら独立して
負債,債務及び責任を負担するが,この本件各LPSの個別の債務等に
ついて,本件各受託銀行のようなリミテッド・パートナーが債務の弁済
等の個人的な義務及び責任を負うことはないこと(303条(a),本件
各LPS契約1.5条),②本件各GPは,本件各LPSを代理して,
本件各LPSの名義において本件各不動産賃貸事業の遂行に必要なあら
ゆる行為を行うことができ,本件各LPSは,買主として本件各売買契
約を締結して本件各建物の所有権を取得し,本件各土地賃貸借契約を締
結して本件各土地を賃借し,本件各不動産賃貸事業のために多額の資金
を借り入れ,本件各管理契約を締結して本件各不動産の管理を委託する
など,自ら契約当事者として契約を締結し,権利を取得するとともに義
務を負っていること(本件各LPS契約2.1条)がそれぞれ認められ
る。
以上のことからすれば,本件各LPSは,独立した権利義務の帰属主
体として存在し,活動を行っているといえる。
(イ)原告らは,503条並びに本件各LPS契約4.7条及び4.8条
によれば,本件LPS法上のLPSは,我が国の民法上の組合と同様に,
デラウェア州法上,グロスの損益(収益の総額と損失の総額)が直接に
各パートナーに帰属するから,本件各LPSは,「権利義務の主体とな
る」ものには該当しないと主張する。
しかしながら,原告らが上記主張の根拠とする503条は,「LPS
の損益は,パートナーシップ契約の規定に従い・・・割当が行われ
る。」と規定しているにすぎず,各パートナーへの損益の直接の帰属を
定めるものではないから,当該条項は原告らの上記主張の根拠とはなり
得ない。
また,本件各LPS契約4.7条及び4.8条は,同契約4.1条の
定義によれば,「本パートナーシップの連邦所得税の課税年度の課税対
象利益(又は損失)に相当する額は,パートナーのそれぞれのパートナ
ーシップ出資割合に応じてパートナーに割り当てられる。」と解すべき
であるから,本件各LPSのパートナーがそれぞれのパートナーシップ
出資割合に応じて割り当てられるのは,本件各LPSの連邦所得税の課
税年度の課税対象利益(又は損失)に相当する額,すなわち収入及び支
出について差引計算した後の純額であって,原告らが主張するように
「グロスの損益(収益の総額と損失の総額)」が「直接に各パートナー
に帰属する」ものではない。
エ本件各LPSがその名において訴訟当事者となることができること
本件各LPSの設立準拠法,設立契約の内容,実際の活動内容,財産や
権利義務の帰属状況等からすると,本件各LPSは,本件各LPSの名義
において,訴訟を提起し,訴訟を提起されるなどの自ら法的手続を行う権
限・能力を有していることが認められる(105条(a),本件各LPS契
約1.3条(d))。
よって,本件各LPSは,自己の名において訴訟当事者となることがで
きるといえる。
オ小括
したがって,本件各LPSは,構成員の個人財産とは区別された独自の
財産を有し,独立した権利義務の帰属主体として活動し,かつ,自己の名
で訴訟当事者となることもできる事業体であるから,我が国の租税法上,
「法人」に該当すると認められる。水野教授も,水野意見書において,本
件各LPSが我が国の租税法上の「法人」に該当すると明確に判断してい
る。
(原告らの主張)
(1)外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断方法
について(被告の主張に対する反論)
ア被告主張に係る基準が導かれる法的根拠が示されていないこと
本件訴訟において,原告らは被告に対して被告が挙げる「法人」該当性
の判断基準がいかなる法的根拠に基づき認められるのか全く明らかではな
いと主張してきたが,弁論終結に至るまで,ついに被告からは何ら説得的
な根拠が示されることはなかった。そのこと自体が,被告の主張する基準
に何らの根拠もなく合理性もないことを示している。
この点,被告は,星野論文からの引用と,我妻著書からの引用を行って
おり,これらを被告の基準の一応の根拠としているようである。しかしな
がら,星野論文は,「法人」とされたことから生じる「効果」について論
じたものであり,法人の判断基準を論じたものではない。すなわち,ある
事業体が「法人であること」(つまり「法人格を付与されていること」)
と,ある事業体が「『法人』とされたことから生じる『効果』のうちの特
定のものと同じ効果を法律により認められていること」とは同義ではない。
また,「法人」ではない事業体の法人「化」は,現代において多く見られ
る(例えば,投資事業有限責任組合契約に関する法律や有限責任事業組合
契約に関する法律)が,そのことによりそれらの組合が我が国の私法上
「法人」とされたということにはならないことは,民法33条に照らして
明らかである。このように,ある事業体が,法律により我が国の私法上
「法人」とされたことにより,当該事業体にさまざまな「効果」が生じる
ということと,「法人」ではない事業体の法人「化」とは異なる。
また,被告は,我妻著書に,法人とは,「自然人以外のもので,権利義
務の主体となることのできるもの」と記述されていることをその根拠とし
て引用しているように見える。確かに,法人が自然人以外のもので,権利
義務の主体となることのできるものであることはそのとおりであるとして
も,さらに深く考えてみれば,この我妻博士の記述は,事業体が「法人」
とされたことにより生じる「効果」の全体(特定の一面ではなく全体)を
短く表現するものとしてされていることは明らかである。古田補足意見に
おいても,法人とは,「法律により,損益の帰属すべき主体として設立が
認められるもの」でもある。この古田補足意見は,「法人」が権利義務の
主体であることの一側面(権利義務や取引の主体となったことの結果とし
て生じるのが損益であるから,権利義務が帰属するのであれば,その結果
も当然帰属すると解するのでなければ論理的ではない。自然人の場合でも
全く同じことが言える。)を捉え,我妻博士によるところの「権利義務の
主体」を作るために法人を設立するということは,同時に「損益の帰属す
べき主体」を作ることをも意味することを端的に指摘する。ところが,被
告の「法人」該当性の3要件に関する主張においては,古田補足意見にお
いて言及されている「損益の帰属すべき主体」に関する私法上の分析ある
いは言及は一切みられない。私法上損益の帰属すべき主体となっているこ
とは,内部規律を柔軟に組成することが可能な合名会社,合資会社及び合
同会社であっても決して失うことのない私法上の法的性質であり,法人と
組合の決定的な差異である。
イ被告の主張する基準は,外国の事業体についてだけ法人該当性について
実質判断を行うものであって,我が国租税法の建付けと整合しないこと
租税法上,外国の事業体が,(a)「外国法人」,(b)外国の「人格のない
社団等」及び(c)外国の組合(複数の個人である構成員の集合体)のとお
りに区分けされることは,内国の事業体が(A)「内国の法人」,(B)内国
の「人格のない社団等」及び(C)内国の組合(複数の個人である構成員の
集合体)と区分けされることと同様である。したがって,その区分けのあ
り方も,外国の事業体の場合と内国の事業体の場合とで原則として同様で
あるべきである。
内国の事業体が(A)の「内国の法人」に該当するか否かについては法人
法定主義により形式的一義的に決定され,事業体の性質に関する実質的な
内容は判断されない。他方,(B)の内国の「人格のない社団等」は「(A)に
該当せずかつ権利能力なき社団の4要件に当てはまるもの」,(C)は「(A)
に該当せず権利能力なき社団の4要件も充足しないもの」として,事業体
の実質に着目した判断がされる。ある事業体が(A),(B)及び(C)の要件を
同時に満たすことは論理的には生じず,また(A)と(B)又は(C)は形式的一
義的に区分される。そうだとすれば,外国の事業体についてだけ,本来
(b)の外国の人格のない社団等や(c)の外国の組合に該当すべき外国の事業
体までも(a)の「外国法人」に広く含めて区分けしてしまうような考え方
は,内国の事業体の場合の区分けと著しく乖離するものであるから,誤り
というべきである。したがって,外国の事業体についても,内国法人の場
合の法人法定主義と同様に,専ら形式的な基準により(a)の外国法人該当
性を判断すべきであり,そしてその形式的な基準による判断から漏れた外
国の事業体のうち権利能力なき社団の4要件という実質的な基準の充足と
いう実質的判断をクリアできた事業体のみを(b)の外国の「人格のない社
団等」に該当するものとして外国法人とみなして扱うことを,租税法の規
定が前提としていると解すべきである。
翻って,被告の主張する基準をみるに,被告の基準は,外国の事業体に
ついてだけ,その準拠法上の法人格の有無という形式的な基準(つまり内
国の事業体と同様の基準)で判断せず,三つの要件を立てたうえで諸般の
事情を考慮して個別具体的な実質判断を行うものであり,内国の事業体の
場合の判断と著しく相違している。このような解釈は,外国の事業体につ
いてだけ,本来(b)の外国の人格のない社団等や(c)の外国の組合に該当す
べき外国の事業体までも不可避的に(a)の「外国法人」に区分けしてしま
う誤りを内包するもので,上記で述べた我が国租税法の建付けに反し,失
当である。
ウ被告の主張する基準は,「人格のない社団等」該当性に係る確立した最
高裁判例の判断基準と矛盾抵触すること
被告の主張するような基準で「法人」該当性を個別具体的な実質判断と
して行うならば,租税法上本来外国の「人格のない社団等」として取り扱
われるべき事業体(すなわち権利能力なき社団の4要件という実質的な基
準の充足という実質的判断をクリアした事業体)も不可避的に「外国法
人」として取り込まれてしまうことになる。すなわち,被告の主張する
「法人」該当性の3要件を権利能力なき社団の4要件と対比してみると,
権利能力なき社団の4要件を満たす事業体は,<1>その構成員の個人財産
とは区別された独自の財産(つまり「総有」とされる財産)を有し,<2>
その名において契約を締結しその名において権利を有し義務を負うなど独
立した権利義務の帰属主体となり得,<3>その権利義務のためにその名に
おいて訴訟当事者となり得るから(民事訴訟法29条),被告の主張する
「法人」該当性の基準によれば,すべからく(所得税法及び法人税法に定
義されている「人格のない社団等」と区別されるところの)「法人」に該
当してしまう。
結局,被告の基準によると,外国法人と,外国の「人格のない社団等」
の区分けが,全く不可能になると言わざるを得ず,本来外国の「人格のな
い社団等」に区分けされるべき事業体がすべからく「外国法人」として区
分けされてしまうという帰結を不可避的に招くことになる。換言すると,
被告が主張する「外国法人」該当性の実質的判断と,外国の「人格のない
社団等」該当性の実質的判断は,不可避的に抵触する関係にあるのである。
結局のところ,被告の主張する「法人」の3要件は,昭和39年最判の規
範を排除するもの,つまり確立した判例に矛盾抵触するものであるといわ
ざるを得ない。
「外国法人」に該当するか外国の「人格のない社団等」に該当するかの
問題は,両者の課税上の取扱いに差異が設けられているため実質的に見て
も深刻な違いをもたらす。したがって,ある外国の事業体が「外国法人」
に該当するのか,それとも外国の「人格のない社団等」に該当するのかの
区別は,一義的に明確にされなければならないことは当然であり,上記の
矛盾抵触は租税法上の解釈として到底許容されるものではない。
エ被告の主張する基準は,我が国の租税法上組合とされる事業体にもあて
はまるものであって,法人と組合を区別する基準としては機能しないこと
被告が主張する判断基準は,我が国租税法上組合とされる事業体にもあ
てはまるものであって,法人と組合とを区別する基準として機能しない。
(ア)「その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否
か」という要件については,「構成員の個人財産から区別され,個人に
対する債権者の責任財産ではなくなって,法人自体の債権者に対する排
他的責任財産を作る法技術」は,我が国では法人以外についても認めら
れている(例えば,我が国の民法上の組合)から,私法上の「法人」の
判断基準とするのは不合理である。このように我が国において区分の基
準にならない要件を外国の事業体においては区分の基準とすることに合
理性はない。
(イ)「その名において契約を締結し,その名において権利を取得し義務
を負うなど独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か」という要件
については,外国の制度は日本と異なっている点に留意する必要がある。
自己の名前で取引をしていたとしても私法上「法人」とはされていない
外国の事業体が存在することは,平成12年7月政府税調中期答申にお
いても認識されていた。したがって自己の名前で取引することは必ずし
も法人格を付与されていることを意味しない。単に形式上自己の名前で
取引を行っていることをもって私法上の「法人」の判断基準とするのは
誤りである。
(ウ)「その名において訴訟当事者となり得るか否か」という要件につい
ても,我が国では民事訴訟法29条の解釈論として,代表者の定めがあ
れば組合の場合にも訴訟当事者となることが認められている。すなわち,
この判断基準は私法上の「法人」に特有なものではないことは明らかで
ある。我が国において区分の基準にならない要件を,外国の事業体にお
いて区分の基準とすることに合理性はない。
(エ)さらに,被告は,「当該事業体の設立準拠法や設立契約の内容,実
際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮して,個別具体的に
判断するのが相当である」と主張するが,当該事業体が設立準拠法上ど
のような権利能力を有するかということが,設立契約の内容,実際の活
動実態,財産や権利義務の帰属状況等といった一義的に確定できない要
素により,設立後に事後的に左右されることを許容する主張は,我が国
の「法人」の理解とはあまりにもかけ離れており,我が国私法及び租税
法の解釈として失当である。
オLLC地裁判決及びLLC高裁判決は被告主張の根拠となり得るもので
はないこと
被告は,ニューヨーク州法上のLLCを租税法上の「法人」と認定した
LLC地裁判決及びLLC高裁判決を挙げて自らの主張を根拠づけようと
している。しかしながら,LLC地裁判決は論理一貫性がなく,原典の読
み方を誤った酒井克彦教授の意見書(甲共3)に基づいているにすぎない
根拠薄弱な判決であるとともに,LLC高裁判決はLLC地裁判決を新た
な根拠を示すことなく追認したにすぎない。特に,LLC地裁判決におけ
る法人該当性の判断基準の根拠とされている上記意見書は林良平・前田達
朗編『新版注釈民法(2)』(甲共4)63頁以下を誤解・誤読して判断
基準を導き出している。LLC地裁判決が根拠薄弱な判決である点につい
ては,中里教授も,中里意見書(甲共45・14頁)において,「LLC
判決の根本的な問題点は,同判決が「法人」の要件として挙げる①~④が,
何法のいかなる条文から導かれるのか,その法解釈上の根拠が明らかでは
ないという点である。」と端的に指摘している。また,ニューヨーク州法
上のLLCはデラウェア州法上のLPSと比べて「corporation」に近い
事業体とされており,両者はその内容面で大きな差がある。LLC地裁判
決及びLLC高裁判決における判断の射程は,本件訴訟には全く及ばない。
カ水野意見書は被告の主張する「法人」該当性の判断基準を基礎付けるも
のではなく,その他の学説においても被告の判断基準は支持されていない
こと
被告は,自らの判断基準の根拠として水野意見書を挙げているが,水野
意見書における見解は水野教授の従来の見解と矛盾しているとともに,詳
細な分析に基づかず結論を先取りすることにより導かれた見解となってい
ると評さざるを得ない。また,水野意見書はデラウェア州法上のLPSが
「separatelegalentity」であることから法人該当性を導き出している
が,この解釈は本件LPS法の解釈として誤りである。したがって,水野
意見書に依拠して被告の基準を基礎付けることはできない。
また,被告は,自らの判断基準を支持している学説として,増井論文
(乙共4)及び石黒論文(乙共5)を挙げるが,増井教授は被告の判断基
準を支持すると述べてはいないし,石黒教授は水野教授の見解は我が国の
私法に基づくものではないと喝破しており,いずれの学説においても被告
が主張する「法人」該当性の判断基準は支持されていない。
(2)外国の事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断方法
について(原告らの主張)
ア外国の事業体が「法人」に該当するか否かの判断基準としては,内国法
人の法人法定主義同様の専ら形式的な基準による判断として,当該外国の
事業体の根拠法において,その事業体が外国における「法人」に該当する,
すなわちその事業体に法人格が与えられているか否かで判断すべきものと
解せば必要十分である。ここで,「当該外国の事業体の根拠法においてそ
の事業体に法人格が与えられている」とは,当該外国の事業体の根拠法に
おいて,その事業体が「corporation」や「bodycorporate」や「juristi
cperson」又はこれらと同等の概念(以下「corporation等」という。)
に該当すると規定されていることを意味すると解すべきである。すなわち,
外国の事業体がその根拠法においてcorporation等に該当すると規定され
ていること=外国の事業体がその根拠法において法人格を与えられている
こと,となる。加えて,原告らはかねてから「外国法人」の意義を,外国
法の規定により成立する権利義務の主体となる社団であると主張している
が,外国法の規定により成立する権利義務の主体となる社団とは,正に,
その根拠法において法人格を与えられている(=corporation等に該当す
ると規定されている)外国の事業体をいうのである。
イ原告らの主張する基準こそが従前の裁判例,租税実務及び社会通念に合
致し,今後の実務上も機能すること
外国の事業体の根拠法においてその事業体に法人格が与えられているか
どうかという事業体の区分けのあり方は,既に原告らが主張したとおり,
裁判例上も明示的に採用されている。大阪控訴院明治37年12月1日判
決は,「旧民法第36条第1項ニ謂フ所ノ商事会社ハ其本国法ニヨルモ亦
人格ヲ有スル会社ニ限レルモノト解釈セザルヘカラス」と判示している
(大審院明治38年4月17日判決(甲共34)に引用されている。)。
同判決は,旧民法36条1項の解釈において,外国の事業体が法人格を有
するか否かの判断にあたっては,「其本国法ニヨル」つまり当該外国の事
業体の準拠法に従って判断すべきことを判示している。つまり,同判決は,
外国の事業体の法人格の有無という問題について,当該外国の事業体の準
拠法とは別個に日本法の観点から何らかの実質的な基準を設定して判断す
るなどということは,その前提とはしていない。あくまでも当該外国の事
業体の準拠法の解釈として同事業体が法人格を有するか否かを直接問題と
すれば足りるのである。このように,原告らの主張する「外国法人」性の
判断基準は,従前の裁判例に照らしても,正しい解釈であるというべきで
ある。のみならず,上記のような考え方は,平成12年7月政府税調中期
答申及び委員会資料(甲共26)という租税法立案当局が作成した公的な
文書並びに遠藤論文(甲共27)及び長谷部講演録(甲共75)といった
課税執行当局者の論稿においても一貫して前提とされている。したがって,
外国の事業体の根拠法においてその事業体に法人格が与えられているかど
うかという事業体の区分けのあり方は,社会通念上ないし租税実務上も広
く認知されかつ浸透しているとともに,実務上もその判断の形式性,ひい
ては法的安定性により十分機能し得る基準である。
ウ原告らの主張する基準はデラウェア州を含む米国の諸州においても有効
に機能すること
現地の準拠法の解釈上確立されている取扱いに従うという手法は,上記
大阪控訴院明治37年12月1日判決が対象としたドイツのようなシビル
・ロー(大陸法)を継受した国のみならず,本件で問題となっているデラ
ウェア州を始めとする米国の諸州などコモン・ロー(普通法)を継受した
国においても実際に有効に機能する。
米国は英国において発達したいわゆるコモン・ローを継受し,コモン・
ローからの歴史的継続性を有する法制度,法概念を擁していることは広く
知られているところであって(田中英夫「英米法総論(上)」(甲共10
1)6,7,9,253及び254頁),そのような法域においては,コ
モン・ローとの関係を抜きにした制定法の解釈はおよそ法律解釈としての
基本に悖るものである(甲共101・15及び16頁)。とりわけパート
ナーシップに関する法はまずコモン・ローとして発達したものであるから,
パートナーシップに関する制定法の理解は,コモン・ローとの関係を正し
く考慮せずに行えるものではない。特に,米国においては,コモン・ロー
上の原則を変更することを目的として作られた制定法であることが明示さ
れている場合を除き,長きにわたり確立しており,かつ熟知されている法
理であるコモン・ローが制定法に優位するという推定をもって制定法を解
釈すべきであることを明言する米国連邦最高裁のIsbrandtsenCo.v.Jo
hnson判決もあること(甲共102),中里教授も正にこの点を指摘して
おられること(甲共103・134頁)を考慮すれば,単純に制定法の文
言を表面的に理解しようとするだけでは十分な理解はできないというべき
である。米国では本件各LPSを含むパートナーシップはcorporation等
には該当しないということや,どのような事業体が法人格を有するかにつ
いて制定法で明確に定義されていないということは,確立したコモン・ロ
ーの法解釈である「corporationは法人格を有するが,partnershipはそ
うではない」という解釈が,制定法で変更されておらずなお妥当すること
を示すものである。
したがって,デラウェア州のみならず米国の州法においては,現地の準
拠法の解釈上確立されている取扱い(本件では,本件各LPSは法人格を
有しないということ)に従うことにより,当該準拠法上の法人格の有無を
専ら形式的かつ明確な基準により判断することが可能なのである。むしろ,
被告の主張するように,ある事業体がcorporation等に該当することが制
定法で明確に定められていないにもかかわらず,その事業体の持っている
corporation等と共通する一部の性質を制定法上の何の根拠もなく抜粋し
てcorporationと同等の事業体とみなすという手法は,上記のコモン・ロ
ーの正統な解釈手法を全く無視したものであり,社会通念に反するばかり
か,コモン・ローを継受した各国の法実態を無視した課税を強行すること
にもなり,実務上も有効に機能しない。
エ原告らの主張する基準は旧民法36条の認許の要件も満たすこと
外国の事業体の根拠法において法人格が与えられている外国の事業体が,
我が国租税法上の「外国法人」として認許されるためには,旧民法36条
1項に従い,「商事会社」でなければならないが,外国の事業体が,構成
員により構成され営利を目的とする事業体であり,かつ「外国法人」(旧
民法36条1項)に該当する以上は,その事業体は,商行為を為すことを
業とする目的を以て設立したる社団であるという要件も満たすことになる
ため,「商事会社」にも該当することになる。したがって,「外国法人」
に該当する外国の事業体は,旧民法36条1項に基づき,我が国の私法及
び租税法上も「外国法人」として認許されることになるのである。
(3)本件各LPSが我が国の租税法上の「法人」に該当しないこと(あては
め)
ア本件各LPSにはその根拠法上法人格はないこと
本件各LPSの根拠法である本件LPS法には,同法に基づき組成され
るLPSをcorporationやbodycorporateやjuristicpersonのように,
権利能力及び行為能力を有するものとして設立されたものとする,という
規定,つまり法人格が与えられたことを意味する法令の規定はない。なお,
本件各LPSがseparatelegalentityとされていることは,corporatio
nやbodycorporateやjuristicpersonであることとは全く異質な概念
であり,本件各LPSに法人格が与えられることを意味するものではない
から,そのことをもって本件各LPSが「外国法人」に該当するか否かの
メルクマールになるなどということはあり得ない。したがって,本件各L
PSは,その根拠法上法人格を与えられているものではないから,租税法
上の「外国法人」に区分けされることはない。
イseparatelegalentityの意義はsurvivabilityをより明確化するもの
にすぎず,被告はseparatelegalentityの解釈を誤っていること
被告は,デラウェア州法上,本件各LPSがseparatelegalentityで
あることは,我が国の法人に認められる権利義務の主体となる能力を有す
ることを意味するとし,租税法上の「法人」該当性の判断の重要な要素で
あると主張する。この点,被告は,英米法辞典(乙共6)の断片的な記載
や「separatelegalentity」に関して何の根拠も示さず独自の見解を述
べるだけの水野意見書を根拠にし,かかる主張を繰り返す。しかしながら,
法律用語はその歴史的沿革を踏まえて解釈すべきであって,英語の辞書的
な意味を強調するだけでは法律用語の正しい理解に到達することはできな
い。以下に再度要約するとおり,legalentityの意義やその歴史的沿革,
及びデラウェア州法を熟知する著名な法律家であるアレン教授意見書等に
鑑みると,separatelegalentityなる概念は,我が国租税法上の「法
人」該当性の判断の重要な要素となるデラウェア州法上の法人格の有無の
メルクマールになり得るような法的重要性を有するものではないことは明
らかである。
(ア)separatelegalentityやlegalentityであることは,デラウェ
ア州法上「法人格を有するという意味」を持たないこと
corporationやpartnershipの歴史的沿革に鑑みると,corporation
とは近代史上常に例外なくentityとして扱われてきたのに対して,par
tnershipはその歴史的沿革に鑑みると,その法的性質においてcorpora
tionとは明確に異なっている。それにも拘わらず,partnershipについ
ても,取引の相手方の保護等の便宜のために後発的かつ部分的にlegal
entityとして説明されるに至った。すなわち,corporationとpartne
rshipはいずれもlegalentityとして説明されるが,その歴史的経緯
や法的な意味づけは全く異なるのである。つまり,legalentity(enti
tyでも意味は同じ。)という概念は多様な事業体を説明するために用
いられている概念であり,我が国における「法人格」の概念とは明らか
に次元が異なり,租税法上の「法人」該当性を判断する際のメルクマー
ルにはならないことは明らかである。
また,被告が英米法辞典の断片的な記載を根拠に「separatelegale
ntity」を「独立した法的主体」と解釈することが誤りであることは,
アレン教授意見書によっても明らかであることに加え,そのような解釈
をすると日米友好通商航海条約が定める内国民待遇に反すること,英米
法辞典(甲共38)の他の記載や本庄講義(甲共39)及びブラックの
法律辞書(甲共40)からも明らかである。この点については,中里教
授も,「separatelegalentity」とする規定は,名目上,ないしは形
式名義上の取引主体性を認めるという一点にのみその意義があるのであ
って,「incorporatedlegalentity」ないし「corporation」,すなわ
ち法人格を付与された法人とは別物であると指摘している。
(イ)separatelegalentityの意義はsurvivabilityをより明確化する
ものにすぎないこと
デラウェア州法を熟知する著名な法律家であるアレン教授は,パート
ナーシップに関するユニフォーム・アクトとデラウェア州制定法との関
係を明快に解説したうえで,separatelegalentityという文言は,ゼ
ネラル・パートナーシップもリミテッド・パートナーシップも,当事者
であるゼネラル・パートナーの死亡又は脱退後も同一性を持った事業体
(entity)として存続し得るという効果,すなわち「survivability
(サバイバビリティ。GP死亡・脱退後存続性)」を明確化するにすぎ
ず(アレン教授意見書和訳7~9頁),201条(b)における「separat
elegalentity」とは,ゼネラル・パートナーとは区別されたという意
味であるが,この中の「セパレート(separate)」という語には,何ら
法的な重要性はないと述べている(アレン教授意見書和訳8頁)。
このように,separatelegalentityという文言は,デラウェア州法
上の法人格の有無のメルクマールになり得るものではない。このため,
separatelegalentityを「法人格を有するという意味」として扱って
いる水野意見書はseparatelegalentityの解釈についての理解を誤っ
ており,水野意見書を根拠としてseparatelegalentityを我が国租税
法上の「法人」該当性の判断の重要な要素とする被告主張は誤った解釈
に基づく主張であり到底認められるものではない。
ウ社会通念に照らしても,本件各LPSが「法人」に該当しないこと
納税者にとっての予測可能性・法的安定性を確保するため,「法人」の
意義の解釈適用は社会通念ないしは「その語の通常持つ意味」に沿って行
われるべきであるという観点からも,本件各LPSが租税法上の「法人」
すなわち外国法の規定により成立する権利義務の主体となる社団に該当す
るとの結論は到底認められない。
(ア)米国法上の「corporation」こそが,日本法を設立準拠法とする
「法人」と同じ法的性質を有しており,corporationこそを日本法を設
立準拠法とする「法人」と同等の概念と解することが通常の理解に合致
していること
a日本における従来からの通説的な見解
日本の比較法研究者の研究等においても,デラウェア州法上はその
事業体がcorporationに該当する場合は,社会通念上,形式的一義的
に日本法を設立準拠法とする「法人」と同等の事業体として「法人」
に該当するといえるとされている。「法人」という日本語が外国法上
いずれの語に対応するかという問題も古くから認識されていたものと
思われるところ,比較法研究者の研究等を通じてそれなりの理解が形
成されてきている。例えば,『新版注釈民法(2)総則(2)』(甲共
4)で木南敦助教授がcorporationの訳語として「法人」をあててい
るのは,偶然ではなく,比較法研究者の多くの研究の成果を反映させ
た結果であると合理的に推測することができる。
また,同書(甲共4)において,英米法における法人の要件の一つ
として挙げられている「法人印影(corporateseal)」とは,「(1
8世紀)コーポレーションがその団体の法的な正式文書を作成し認証
するために用いる印影」(ブラックの法律辞書(甲共105))であ
り,正にcorporationが,自らがcorporationであることの正当性を
示すために正式文書に用いる印影をいうのであるから,英米法におけ
るcorporationを法人と解するのは通常の理解に合致しているという
べきである。
さらには,日米租税条約において,我が国における「権利義務の主
体となる」事業体である「法人格を有する団体」について,corporat
ionと同義である「bodycorporate」という用語が用いられているの
に対して,「法人以外の団体」については,英文では,「anestate,
trust,andpartnership」を含むものとされており,パートナーシ
ップは法人以外の団体とされている。
bデラウェア州のGC法の検討によっても,「corporation」こそが
「法人」と同等の概念であると認められること
次に,昭和39年最判が挙げた4要件に着目して,GC法と本件L
PS法の条文構成を比較しても,日本法を設立準拠法とする「法人」
と同等の事業体といえるのはデラウェア州法上の「corporation」で
あり,デラウェア州法上の「limitedpartnership」ではないことは
明らかである。また,(i)「corporation」の設立のためにはacerti
ficateofincorporation(定款)という基本文書を登録しなければ
ならないこととされていること(GC法101条(a)),(ⅱ)「franc
hisetax(フランチャイズ・タックス)」という,法人形式で事業を
行う特権に対して賦課される税金(Ataximposedontheprivilege
ofcarryingonabusiness)(ブラックの法律辞書(甲共10
5))を支払う義務を負うことなども,corporationが「法人」と同
等の事業体であることを示している。
c米国の文献により解説されるcorporationは,正に日本の「法人」
と同等の概念であること
「成立要件」,「永続的存在」,「所有者及び運営者の変更」,
「民事・刑事上の責任主体」といった様々な観点から,米国法上の
「corporation」と日本法を設立準拠法とする「法人」とを比較して
みても,両者は同じ法的性質を全て等しく有していることが分かるの
であり,米国法上では「corporation」こそが,日本法を設立準拠法
とする「法人」と正に同等の概念であることは,疑う余地もない。
(イ)米国におけるcorporationやlegalentityの歴史的沿革に鑑みて
も,デラウェア州法上のLPSは日本法を設立準拠法とする「法人」と
同等の事業体ではないこと
米国における歴史的沿革に鑑みても,デラウェア州法上corporation
に該当する事業体は,社会通念上,当然に日本法を設立準拠法とする
「法人」と同等の事業体であり法人格が与えられているといえる。一方
で,legalentityは,歴史的沿革からみても極めて広い概念であり,l
egalentityに該当する場合であっても「法人」に該当するとは言えず,
またデラウェア州法のLPSがseparatelegalentityとされているこ
との意味は「GP死亡・脱退後存続性」という「効果」が法律により与
えられたことを確認する趣旨にすぎないのであって,「法人格」を付与
する規定と解すべき余地は全くないのであるから,デラウェア州法上の
LPSは日本法を設立準拠法とする「法人」と同等の事業体であるとは
到底いえない。
(ウ)本件各LPSが組成された当時の日本における租税実務において米
国LPSは租税法上の「法人」には含まれないとして租税実務上取り扱
われていたこと
米国LPSは租税法上の「法人」には含まれないという見解は,平成
12年7月に財務省主税局作成の資料中において公に表明されていた
(「平成12年7月政府税調中期答申」)。また甲共25の内容につい
て議論された「委員会資料」(甲共26)では米国LPSは法人格のな
い事業体の欄に分類されている。これは財務省主税局の当時の理解を公
に示したものである。さらに,「遠藤論文」(甲共27)は,デラウェ
ア州法上のLPSが我が国の法人税法上「法人」とは扱われないことを
前提として実務上の取扱いを説明している。これは,執行の局面で,税
務当局もまた,デラウェア州法上のLPSを我が国の租税法上「法人」
と取り扱っていなかったことを明確に示している。前・税務大学校研究
部教授であり,現在,東京国税局調査第一部で主任国際調査審理官をし
ておられる長谷部啓氏により平成20年10月1日に開催された講演を
まとめた「長谷部講演録」(甲共75)においても,米国のLPSには
法人格がないことが述べられている。
これらは正に社会通念上デラウェア州法のLPSは当然に日本法を設
立準拠法とする「法人」と同等の事業体ではないという理解が,実務上
も,そして政府の考え方としても広く共有され社会通念となっているこ
とを示している。かかる原告らの主張に対する被告の主張は,現在に至
るまで上記各資料は政府の公式見解ではない等の主張を繰り返すだけで
あり,論理的な反論ではなく,またそれを否定するような証拠も提出さ
れていない。
(エ)日本における権威ある学者の見解に鑑みても,デラウェア州法のL
PSには法人格はないと整理されていたこと
現代の商法・会社法の権威である江頭憲治郎教授は米国のLPSには
法人格はないと明言し,我が国における法人格に相当するものはないと
整理されている(甲共9「江頭株式会社法」10頁)。同じく商法の権
威である竹内昭夫教授も同様に整理されている(甲共14)。
(オ)米国における租税実務上の取扱いに鑑みても,デラウェア州のLP
Sをcorporationになぞらえて解釈することは不自然,不合理であるこ

デラウェア州法のLPSは,税務上チェック・ザ・ボックス規則の既
定のルール(defaultrules)としてpartnershipを選択したものとみ
なされていること,partnershipの規定のルールが構成員課税と分類さ
れているのはそのような取扱いとすることが正に納税者の期待に沿う
(matchtaxpayers’expectations)ものであると考えられたからとさ
れていること(甲共113)などに鑑みると,デラウェア州法上のLP
Sをcorporationになぞらえて解釈することは不自然,不合理である。
(カ)デラウェア州法上のLPSをニューヨーク州法上のLLCと実質的
に同様な事業体であるとして「法人」と取り扱うこともできないこと
被告は,LLC地裁判決及びLLC高裁判決でニューヨーク州法上の
LLCが「法人」と扱われたことを根拠に,デラウェア州法のLPSも
「法人」と扱うべきと主張しているかのようにも思われる。これらの判
決がそもそも誤っていることは前記のとおりであるが,それをさておい
たとしても,被告のかかる主張は社会通念に明らかに反する主張である。
被告は本件LPS法の条項をニューヨーク州LLC法の条項と対比さ
せながら本件各LPSの法人該当性を述べるも,その主張に見るべき内
容はなく,社会通念上これらを同様のものとして扱うべき根拠は一切示
されていない。原告らが,本件LPS法,デラウェア州LLC法及びニ
ューヨーク州LLC法の条文を比較検討した原告概念対照表(甲共11
1)を引用しつつ詳細に述べたとおり,ニューヨーク州法上のLLCは,
デラウェア州法上のLPSと比べ,①有限責任性が貫かれていること
(甲共111の6の概要(10頁)),②定款の作成が必要であること
(甲共111の2①及び②の概要(1~3頁)),③多数決原理が導入
されていること(甲共111の3①~③の概要(4~7頁)),④組織
の継続性が強く指向されていること(甲共111の4①及び②の概要
(7~9頁)),⑤所有と経営とを分離することが可能な組織体となっ
ていること(甲共111の5の概要(9及び10頁))など,ニューヨ
ーク州法上のLLCはデラウェア州法上のLPSと比べてよりcorpora
tionに近い事業体といえることを明らかにした。このようなニューヨ
ーク州法上のLLCとデラウェア州法上のLPSの間の顕著な差異を考
慮すると,デラウェア州法上のLPSをニューヨーク州法上のLLCと
実質的に同様な事業体と扱い「法人」に該当するなどとは到底解するこ
とはできない。
(キ)デラウェア州法上のLPSにおいて生じた損益は構成員である各パ
ートナーに直接帰属すること
ある事業体の事業活動により生じた損益が当該事業体に帰属するのか,
あるいは当該事業体の構成員に直接帰属するのかという点は,当該事業
体が我が国の「法人」に該当するか否かの判断において重要なメルクマ
ールとなるところ,我が国の「法人」と異なりデラウェア州法上のLP
Sにおいて生じた損益は構成員である各パートナーに直接帰属する(5
03条)。この点は,古田補足意見が指摘するとおり,損益の帰属点を
つくるということが「法人」の意味であるという我が国の理解に照らせ
ば,本件各LPSを含むデラウェア州法上のLPSが法人ではないこと
の正に証左というべきである。この点に鑑みても,本件各LPSが「法
人」に該当するとの結論は誤りであるというべきである。
(ク)国税不服審判所の裁決例でもデラウェア州法上のLPSの「法人」
該当性が否定されていること
本件各LPSが「法人」に該当するかどうかという問題については,
本件に係る国税不服審判所裁決がこれを否定し(国税不服審判所平成1
8年11月28日裁決。甲A2,甲B3),また他の類似事案において
も本件各LPSと同様,本件LPS法を準拠法として組成されたデラウ
ェア州法上のLPSの「法人」該当性が否定されている(国税不服審判
所平成18年2月2日裁決・裁決事例集71号118頁)。このように,
国税不服審判所の裁決例に照らしても,デラウェア州法上のLPSが
「法人」に該当すると結論づけることは,明らかに社会通念に反するの
である。
(ケ)我が国の法人やcorporationはその準拠法国の法律により創設的に
設立されるが,デラウェア州法上のLPSは,当事者間の契約によって
組成されること
「法人」とは,生まれながらにして権利義務の主体として存在する自
然人と異なり法律の規定により創設的にその存在が認められるものであ
るから,法人とはその準拠法国の法律の規定により,創設的に設立され
るものである。我が国における法人である事業体の典型例である株式会
社と比較するとこの点はより明確となる。すなわち「株式会社は,その
本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」と定め
る会社法49条の趣旨は,設立の登記をすることにより法人としての株
式会社を成立させる効力があるというものであり(甲共9「江頭株式会
社法」102頁),株式会社は,法律に基づく設立の登記により創設的
に設立されるのである。一方で我が国における法人ではない事業体の典
型例である組合は,当事者の合意によって成立し,法律の規定により
「創設的」にその存在が認められるものではない。したがって,その準
拠法国の法律により創設的に設立されない事業体を「法人」とすること
は明らかに社会通念に反するのである。
デラウェア州法上のLPSはLPS契約の締結によって組成され,L
PS証明書の提出は,単にこれを通知する意味しかないのに対し,corp
orationは,正に法律によって創られたものであって設立証明書を提出
する行為は設立行為そのものである,ということは,「デラウェア法律
意見書」(甲共23)第1項,第4項が述べているとおりである。実際
にも本件各LPSは,本件各LPS契約の前文で,「前文と以後に規定
される相互の約定を約因として,パートナーら〔ゼネラル・パートナー
とリミテッド・パートナー〕は,〔本件LPS〕法及びその他の適用あ
る法律に従い以後に規定される条項に基づいてパートナーシップを組成
することに合意し,ここにパートナーシップを組成する。」と定めてお
り,パートナーシップ契約によりLPSが組成されていることを明言し
ている。
したがって,デラウェア州のLPSは,法律により創設的に設立され
る事業体ではなく,この点は「法人」及びデラウェア州のcorporation
と著しく異なっている。このような差異を無視してLPSを「法人」と
することは明らかに社会通念に反する。
エ被告の判断基準によったとしても,本件各LPSは租税法上の「法人」
に該当しないこと
(ア)本件各LPSが独自の財産を有するとはいえないこと
被告は,201条(b)において「separatelegalentity」と定められ
ていること,本件各LPS自らの名義で本件各建物の登録がされている
こと,701条において「Apartnerhasnointerestinspecificli
mitedpartnershipproperty(パートナーはLPSの特定の財産につい
て持分を有しない。)」と定められていること等により,本件各LPS
が構成員の財産とは区分された独自の財産を有すると主張する。
しかしながら,本件各LPSが「separatelegalentity」であるこ
とは,本件各LPSがデラウェア州法上「法人格を有する」ことを意味
するわけではないことから,被告の主張するような本件各LPSが「独
自の財産を有すること」の根拠とはなりようがない。
次に,本件各LPS自らの名義で本件各建物の登録がされているとい
う点については,取引の便宜を考慮して実際上1個の事業体となること
は我が国の「法人」と同じ意味において構成員の財産とは区分された独
自の財産を有することを意味しない。かかる取引便宜上の取扱いは我が
国の投資事業有限責任組合に認められた取引便宜上の取扱いと類似のも
のである。我が国の投資事業有限責任組合が構成員の財産とは区分され
た独自の財産を有することは被告も争っていない。
加えて,701条においてパートナーはLPSの特定の財産について
持分を有しないと定められてはいるが,本件各LPS契約の場合,当該
条項はパートナー間の内部関係において本件各LPS契約4.5条によ
り修正されており,本件各LPSのパートナーはパートナーシップ財産
について不可分の固有の権利を有するものと解されるから,本件各LP
Sが構成員の財産とは区分された独自の財産を有するとの被告主張の根
拠とはならない。すなわち,1101条は,本件LPS法は契約自由の
原則とパートナーシップ契約の執行可能性を最大限に尊重する旨を定め
ており,契約によりそのほとんどの条項を修正することができるとされ
ているところ,本件各LPSは,本件各LPS契約4.5条において
「EachPartnershallhaveandownanundividedinterestintheP
artnership’spropertyequaltoitsPartnershipPercentage(和訳
:各パートナーは,パートナーシップの財産についてそのパートナーシ
ップ割合に等しい不可分の持分を有するものとする)」と定めることに
より,701条をパートナー間の内部関係において修正している。
この点につき,被告は「ピルバリーメモ」(乙共8)を引用して反論
する。しかし,同メモがデラウェア州のパートナーシップの実務経験に
基づくものか疑問があるし,また,同メモは,701条及び101条(1
3)を契約により変更できない条文としているが,何の根拠も挙げておら
ず独自の見解を述べたものにすぎないというべきであって,同メモの信
用性については多くの疑問がある。なお,本件各LPS契約4.5条に
基づく原告らの「本件各パートナーは本件各LPSの財産について不可
分の持分を有する」という主張に対し,被告はモリス回答書を根拠に反
論する。しかし,モリス回答書はかかる反論の根拠とならないばかりか,
かえって原告らの主張を裏付けるものとなっている。
aモリス回答書は被告の主張の根拠となるものではないこと
モリス回答書の前提となる質問は,いずれの質問も質問自体が適切
さを欠くものであったことから,モリス回答書の作成者は,回答にお
いて様々な限定を付すなどして,質問に対して正面から回答すること
を回避しつつ議論を進めている。そのようにして作成されたモリス回
答書が,本件各LPS契約4.5条の文言である「不可分権利条項
(UndividedInterestClause)」の解釈にどの程度意味のあるもの
かについては,基本的な点において非常に大きな疑義があると言わざ
るを得ず,そうである以上,モリス回答書は被告主張の根拠となるも
のとは言い難い。
b本件各LPS契約4.5条がデラウェア州法上適法かつ有効で法的
拘束力があり執行可能であることはポッター意見書により既に確認済
みであること
ポッター意見書(甲共73)は,本件LPS契約(C)をはじめとす
る契約書を締結するにあたってのクロージング・オピニオンとしての
性質上,重い専門家責任により担保された公平中立な意見であるとい
うことができる。このポッター意見書B.4項は4.5条を含む本件
LPS契約(C)の各条項がデラウェア州法上適法,有効かつ法的拘束
力のあるものであり,パートナーに対して執行可能であると明記して
おり,本件LPS契約(C)4.5条は,留保の対象とはされていない。
このことは,ポッター意見書が,100%の確信をもって,本件LP
S契約(C)4.5条はデラウェア州法上適法かつ有効で法的拘束力が
あり執行可能であると述べていることを意味する。そして,本件LP
S契約(P)の各条項,なかんずく本件LPS契約(P)4.5条について,
これと別異に解すべき根拠は全くない。
c被告はモリス回答書中の被告主張にとって不利な部分については黙
殺しており,モリス回答書中被告が引用していない部分の議論は,原
告らの主張と整合すること
モリス回答書は,「不可分権利条項(theundividedinterest)」が
701条及び201条(b)に違反するものであって無効であるなどと
は一言も述べていない。逆に,デラウェア裁判所としては,第三者と
の関係についてではなくパートナー間においては,パートナーがパー
トナーシップ財産についてそれぞれ固有の権利を有することに意味が
あるような状況であれば,そのような合意は701条及び201条
(b)を修正する効力ありと判断できるとの解釈を示すこともあるだろ
う,とまで述べている。また,モリス回答書は,デラウェア州みなし
信託法においてデラウェア州のみなし信託の実質的所有者が当該信託
の財産に対して『undividedbeneficialinterest』を有すると規定
されていることに言及し,不可分権利条項(UndividedInterestCla
use)における『undividedinterest』の意義につき,『undividedb
eneficialinterest』との類似性を認めることも容認され得ることを
前提とする議論を展開している。これらの議論はいずれも原告らの主
張に整合するものである。
(イ)本件各LPSは独立した権利義務の帰属主体となるとはいえないこ

a権利義務の帰属主体となる事業体には多様な事業体が含まれており,
その意味も一義的ではないこと
権利義務の帰属主体という要件は,我が国の事業体に関する限り,
要件を充足するか否かは法律上明らかであるが,我が国とは法制度が
全く異なる外国においては,ある事業体が我が国において法人格を法
律上与えられた法人におけるのと同様の意味において「権利義務の主
体となる」かどうかは,慎重な検討を要する。我が国においても,法
人格を与えられ,「権利義務の主体となる」事業体とされる株式会社
と,法人格を与えられていないことから「権利義務の主体となる」事
業体であるとは取り扱われていない民法上の組合との間には,双方の
特徴を合わせ持つような中間的な事業体である投資事業有限責任組合,
有限責任事業組合及び合同会社が,米国におけるモデルを参考として,
近時,次々と導入された。
また,注目すべきことは,我が国では,法人と同じ意味において
「権利義務の主体となる」事業体ではないとされている組合でさえ,
これを1個の事業体として取り扱う方が取引の便宜にかなうことから,
例えば,組合の代表者が,その権限に基づき組合のためにその組合代
表者名義をもって振出した手形については,同組合の組合員は,手形
上各組合員の氏名が表示された場合と同様に共同振出人として合同し
てその責を負うものとされるなど,組合代表者名義で取引をすること
が認められており,組合財産は組合員の財産とは区別されたうえ,団
体的拘束が加えられており,また,代表者の定めがあれば訴訟の当事
者となることもできる。
さらに,法律上法人とはされておらず基本的な性質は民法上の組合
と同じであると解されている投資事業有限責任組合や有限責任事業組
合の場合には,組合契約を登記できる。構成員の財産と事業体の財産
を区別すること,訴訟の当事者となれること,登記がされることなど
は,いずれも我が国の「法人」に認められる特徴であり,さらに正確
に言えば,法人格を与えられたことによって認められる効果の一部で
あるが,これらが「法人」に固有の特徴であるとは言えず,ましてや
「権利義務の主体となる」事業体であるか否かを決定する基準にはな
り得ない。蓋し,これらの効果は我が国において「法人」とはされて
いない事業体にも与えられているものだからである。
b権利義務の帰属主体となる事業体であるためには,損益が実質的に
帰属していることが必要であること
また,ある事業体の事業活動により生じた損益が当該事業体に帰属
するのか,あるいは当該事業体の構成員に直接帰属するのかという点
は,当該事業体が権利義務の主体であるか否かの判断において重要な
メルクマールとなることは,古田補足意見に照らしても明らかである
ところ,デラウェア州法上,LPSには損益が帰属せず各パートナー
に直接損益が帰属するため,本件各LPSは独立した権利義務の帰属
主体とはいえない。我が国の私法を参照して考察すると,独立した権
利義務の帰属主体となる,即ち「権利義務の主体となる」事業体の場
合は,単に形式上自己の名前で取引を行っているだけではなく,それ
に伴う損益もその事業体自体に帰属するなど,実質的に「権利義務の
主体となる」ことが前提とされ損益が帰属するということを例外なく
内包している。デラウェア州法上使い勝手をよくするために権利義務
の帰属先名義人とされている事業体が,その権利の行使又は義務の履
行に係る損益の帰属先ではないとされている場合には,日本法上の法
人が権利義務の主体であるのと同じ意味において「権利義務の主体と
なる」事業体とはいえない。平成12年7月政府税調中期答申も,外
国の多様な事業体の中にはその本国において私法上「法人」とはされ
ないものの自己の名前で取引をしている事業体が存在することを指摘
しており,本件各LPSは,正にそのような事業体である。
cデラウェア州法上,本件各LPSの損益は構成員に帰属しているこ

本件各LPSは,実際にも,各会計年度における情報申告書である
連邦パートナーシップ情報申告書(Form1065)を作成し(甲共95の
2,115),その別表として,本件各パートナーである本件各受託
銀行を通じて不動産賃貸事業を営む原告らごとのパートナー持分に関
する情報申告書(スケジュールK1)を作成し(甲共78,116),
原告らに各会計年度のパートナーシップの損益が直接帰属しているこ
とが示されていることからしても,本件各LPSの損益が「直接に各
パートナーに帰属する」ものではないとの被告の反論には理由がない。
この点,我が国の「法人」において,ある会計年度における利益が,
何らの機関決定なく自動的に株主の出資割合に応じて配当されること
はおよそあり得ないことであり,ましてや損失を出資割合に応じて配
分するということは我が国の法人に関する法制度上認められていない
ことに鑑みると,本件各LPSの損益が「直接に各パートナーに帰属
する」ことは,正に本件各LPSが我が国の「法人」には該当しない
ことを示す一つの証左である。
また,被告は,「本件各LPSのパートナーがそれぞれのパートナ
ーシップ出資割合に応じて割り当てられるのは,本件各LPSの連邦
所得税の課税年度の課税対象利益(又は損失)に相当する額,すなわ
ち収入及び支出について差引計算した後の純額」であるとしているが,
誤っている。本件各LPS契約4.7条及び同4.8条の定義規定に,
ネットの金額のみが帰属するということが規定されているわけではな
い。むしろ,同4.12条(a)は,パートナーシップの収益,利益,
損失及び控除の「全ての項目」の配分割合について定めるものであり,
各項目が総額(グロス)ベースで本件各パートナーである本件各受託
銀行を通じて不動産賃貸事業を営む原告らに対して配分されるべきこ
とを明確に示している。実際にも,「組合外支出調整後損益計算書」
(甲共79等)においては,当該者の損益が総額(グロス)ベースで
報告されている。またフォーム1040NR(甲共80)においても,
不動産賃貸損益(RentalRealEstate)は他の課税所得(taxableinter
estなど)とは別に計算されており,本件各LPSから純額(ネッ
ト)の損益のみが配分されるのではなく,個別の所得の性質ごとに,
本件各パートナーである本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営
む原告らの持分に従って,本件各LPSの所得(又は損失)が原告らに
配分されていることを示している。
被告は,第三者に対する関係(対外関係)のみに着目しており,本
件各LPSに係る資産又は事業から生ずる収益及び費用の帰属を判定
するに当たり重視すべき本件各LPSの実質・実体を表す当事者間の
関係(内部関係)を無視している。本件各LPSの総額(グロス)の
損益(収益の総額と費用の総額)は,何らの機関決定を経ることなく
本件各パートナーである本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営
む原告らに対して直接に帰属させることが準拠法(私法)上も,契約
上も事実上も認められているのである。
(ウ)本件各LPSがcorporationと同様の意味において訴訟当事者とな
るとはいえないこと
デラウェア州法上,LPSが訴訟当事者となる資格があること自体は
原告らも争うものではない。しかし,corporationとLPSが訴訟当事
者となるという意味はその根底において異なっており,「法人」である
ことにつき争いがなく認められるcorporationと同様の意味において本
件各LPSが訴訟当事者になるとはいえない。訴訟の当事者能力は,co
rporationについては当然に認められるが,partnershipについては当
然に認められるものではない(甲共62)。つまり,corporationはco
rporationであることのみをもってその名において訴え又は訴えられる
資格が認められるのに対して,パートナーシップの場合には,訴え又は
訴えられる資格があることについて特に法律で定めてもらうことが必要
であったという点が重要なのである(連邦民事訴訟法17条(b)(2),
(3)(a)(甲共65))。結局,パートナーシップの場合には,corpora
tionと異なり,その効果を有すると特に認める法律がない限り,訴え,
又は訴えられる資格の点においても「法人」とされたことにより生じる
効果と同じ効果を当然に認められるものではないのである。この点は我
が国の組合と全く同様である。
2本件各LPSが我が国の租税法上「人格のない社団等」に該当するか否か
(被告の主張)
(1)総論
人格のない社団(権利能力のない社団)といえるためには,①団体として
の組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更にもかかわらず団
体そのものが存続し,④その組織により,代表の方法,総会の運営,財産の
管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならないと
解されている(昭和39年最判)。
(2)①団体としての組織を備えていること
本件各LPSは,本件各GPをゼネラル・パートナー,本件各受託銀行等を
リミテッド・パートナーとして,本件LPS法に基づき設立されたLPSで
あるから(本件各LPS契約の前文及び1.1条),これを組織する構成員
は特定されている。また,本件各LPSの管理及び運営に関する独占的権限
は本件各GPに付与され(同契約2.1条),リミテッド・パートナーには,
一定の条件の下に本件各GPを解任する権限が認められている(同契約2.
6条)。そして,本件各LPSとしての意思決定や本件各売買契約を締結す
る等の行為を,上記のとおり付与された独占的権限に基づいて本件各GPが
本件各LPSを代表して行っているのであるから,本件各LPSは,団体と
しての組織を備えていると認められる。
(3)②多数決の原則が行われていること
原告らも主張するとおり「本件各LPSの経営判断は原則的にゼネラル・
パートナーにより行われることとされている。」のであるが,これは,上記
(2)のとおり,本件各パートナーが本件各LPS契約により同意したことに
基づくものであるし,本件各GPは,パートナーシップ持分の80パーセン
トを超える持分を有するリミテッド・パートナーの賛成又は同意により解任
される(本件各LPS契約2.6条)のであるから,本件各LPSにおいて,
多数決の原則が一定の程度行われているということができる。
(4)③構成員の変更にもかかわらず団体が存続すること
本件各LPS契約には,ゼネラル・パートナーの解任(同契約2.6条),
新規パートナーの承認(同契約5.2条及び7.6条),リミテッド・パー
トナーの脱退(同契約6.1条),LPS持分の譲渡可能性(同契約7.2
条)などの規定があり,現に,「所有していたパートナーシップ持分を本件
GP(C)に譲渡した原告が」おり,当該譲渡後においても本件LPS(C)は存
続していると認められるから,本件各LPSは,構成員の変更にもかかわら
ず団体が存続するものであることが認められる。
(5)④団体としての主要な点が確定していること
上記(2)及び(3)のとおり,本件各LPSにおいては,本件各パートナーの
同意により本件各GPが業務執行を行う代表と定められており,その解任に
ついての規定も存在する。また,本件各LPSは,構成員の財産とは区分さ
れた独自の財産を有しており,当該財産の管理は,その権限を付与された本
件各GPが行っている。さらに,本件各LPSに生じる費用の支払(本件各
LPS契約3.1条から3.4条まで),資本の利用(同契約4.4条),
損益の割当て及び分配(同契約4.6条から4.8条まで),パートナーシ
ップの終了及び清算(同契約8条),会計及びパートナーへの報告(同契約
9条)に関する規定も存在する。そして,これらの規定を含む本件各LPS
契約の内容は,ゼネラル・パートナー及びリミテッド・パートナーの持分の
過半数によって署名した書面で修正することができる(同契約10.2条)
ことなどからすれば,本件各LPSは,代表の方法や団体の独立した財産の
管理方法等,団体としての主要な点が確定しているということができる。
(6)まとめ
以上のように,本件各LPSは,昭和39年最判が示した4つの要件を満
たしているということができるから,本件各LPSは,人格のない社団等に
当たるといえる。
(原告らの主張)
(1)総論
本件各LPSにおいては,以下のとおり,昭和39年最判の4要件のいず
れの要件も満たさないから,「人格のない社団等」には該当しない。
(2)①団体としての組織の有無
「団体としての組織をそなえ」ているとは,意思決定のための構成員によ
る総会や幹事会などを意味すると考えられるところ,本件各LPSは,ゼネ
ラル・パートナー1名とリミテッド・パートナー1名(但し,本件LPS
(C)の場合は2名)により構成されている極めて単純なLPSであり,この
ような内部組織を全く備えていない。したがって,本件各LPSは,団体と
しての組織を備えていない。
(3)②多数決の原則
「多数決の原則が行われ」ているとは,団体としての意思決定をする際に,
構成員の多数決により決定するといった規則が設けられていることを意味す
ると考えられるところ,本件各LPSについては,本件各LPS契約2.1
条によれば,本件各LPSの管理運営・業務執行は原則的にゼネラル・パー
トナーのみにより行われることとされている。したがって,多数決の原則が
行われているとはいえない。
(4)③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続すること
「構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続」するとは,構成員の
加入又は脱退があったとしても,また,仮に構成員が1人になったとしても,
団体そのものがそれまでと同様に存続することを意味すると考えられる。
この点について,101条(9)は,LPSとは,2人以上の者により組成
されるパートナーシップであり,1人以上のゼネラル・パートナーと1人以
上のリミテッド・パートナーにより構成される旨を定めている。また,80
1条(3)及び(4)によれば,LPSは,ゼネラル・パートナー又はリミテッ
ド・パートナーが0人になった場合は,新たにゼネラル・パートナー又はリ
ミテッド・パートナーが補充されない限り,解散することとされている。言
い換えれば,本件各LPSのような米国デラウェア州のLPSは,構成員が
1人では組成できないし,また,構成員が1人となった場合には,そのまま
では存続もできないのである(デラウェア法律意見書(甲共23)第5項,
甲共111の4①最低構成員数,4②脱退後の解散/存続(7及び8頁)参
照)。したがって,本件各LPSについては,「構成員の変更にもかかわら
ず団体そのものが存続」することはなく,上記③の要件も満たさない。
(5)④団体としての主要な点が確定していること
「その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体とし
ての主要な点が確定している」ことは,問題となっている事業体が,個々の
構成員間における単なる約束を超えて,団体そのものとしての実体を備えて
いることを確かめるための要件と考えられる。
この点を本件各LPSについてみると,本件各LPSの管理及び運営は本
件各GPに委ねられており,本件各GPが一般に本件各LPSのためにその
名において行為するものとされている(本件各LPS契約2.1条)。した
がって,本件各LPSの代表は定められているということができる。しかし
ながら,代表の方法は,格別定められていない。このように現在の代表の次
を定めるルールが設けられていないことは,本件各LPSは,所詮は,当事
者間における契約にすぎないものであって,構成員を超えた団体としての実
体はないことを如実に示すものといえる。
次に,総会の運営については,本件各LPS契約においてはそもそも構成
員の総会自体が予定されていないので,総会の運営については当然ながら何
らの規定も存在しない。
さらに,財産の管理については,本件各LPS契約は,具体的にどのよう
に財産を管理するかという点に関しては,何らの規定も設けられていない。
したがって,本件各LPSは,「その組織によって代表の方法,総会の運
営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定している」とはいえない。
(6)なお,被告は,判例・裁判例を誤って解釈したうえで,4要件については
全てを独立して満たす必要はなく,被告が指摘した諸事情を総合すると,本
件各LPSは十分に人格のない社団等に該当すると認めることができるとい
う独自の主張を展開する。しかし,このような被告の主張自体,本件各LP
Sは4要件を全て独立して満たさないことを被告自らが自認したものにほか
ならない。加えて,租税事件における「人格のない社団等」の解釈について
判示した判例,裁判例や租税事件以外の民事事件において当該4要件が問題
とされた最高裁判決に鑑みると,「人格のない社団等」に該当するためには,
4要件の全てを独立して満たす必要があることは明らかである。
3本件各LPSを通じて原告らが得た損益の所得区分
(被告の主張)
(1)本件各LPSが我が国の租税法上の法人又は人格のない社団等と認められ
た場合の所得区分
前記1(被告の主張)記載のとおり,本件各LPSは我が国の租税法上の
法人に該当するから,本件各LPSを通じて原告らが得た損益は不動産所得
に該当せず,その利益のみ配当所得(所得税法25条1項)に該当する。し
たがって,原告らの本件各損失は,原告らの不動産所得の金額の計算上生じ
た損失の金額(同法69条1項)に該当せず,原告らは,本件各損失をもっ
て損益通算の適用を受けることができない。
仮に,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当しないとしても,前
記2(被告の主張)記載のとおり,本件各LPSは人格のない社団等に該当
するから,本件各LPSを通じて原告らが得た損益は不動産所得に該当せず,
その利益のみ雑所得(同法35条1項)に該当する。したがって,原告らは,
本件各損失をもって損益通算の適用を受けることができない。
(2)本件各LPSが我が国の租税法上の法人とも人格のない社団等とも認めら
れない場合の所得区分(予備的主張)
ア不動産所得について
不動産所得とは,賃貸借契約等に基づいて,貸主が相手方である借主に
不動産等の目的物を使用及び収益をさせることを約束することにより,借
主から貸主に移転される経済的利益のうち,借主がこの目的物を使用収益
することの対価としての性質を有するものであるから,ある所得が不動産
所得に該当するためには,一般的に賃貸借契約の貸主となり得る権利・権
原(所有権等)を有していることを前提として,貸主が当該賃貸借契約の
対象となる不動産等を借主に貸し付け,これを使用収益させることによっ
て得た対価としての性質を有するものであることが必要である。
イ本件各LPSのリミテッド・パートナーは,本件各不動産賃貸事業の対
象となる本件各建物を「所有」しているとはいえないこと
原告らは,本件各受託銀行との間で締結した本件各信託契約を通じて本
件各LPSに出資することにより,リミテッド・パートナーとなった本件
各受託銀行を介してパートナーシップ持分を取得しているところ,この
「パートナーシップ持分」とは,LPSの損益のうちパートナーが保有す
る持分である。そして,パートナーはLPSの特定財産に対して直接の持
分は観念し得ないとされている。一方,本件各LPSは,構成員である各
パートナーの個人財産とは区別された独自の財産として本件各建物を所有
している。
このことからすると,本件各LPSのリミテッド・パートナーは,本件
各LPSに対してパートナーシップ持分を有するにすぎず,本件各不動産
賃貸事業の対象とされている本件各建物は本件各LPSが所有しているた
め,リミテッド・パートナーが本件各建物の所有権を有していると認める
ことはできないし,また本件各建物の「貸主」となり得る占有権等の権利
・権原を有していると認めることもできない。
ウ本件各LPSのリミテッド・パートナーは,本件各不動産賃貸事業の対
象となる本件各建物を貸し付けていないこと
本件各LPSは,買主として本件各売買契約を締結して本件各建物の所
有権を取得し,本件各土地賃貸借契約を締結して本件各土地を賃借し,本
件各不動産の管理契約を自ら契約当事者として締結して管理を委託し,自
らが契約当事者(貸主)として賃貸借契約を締結しているのであるから,
本件各不動産賃貸事業の対象となる本件各建物を「借主」に使用収益させ,
それによって対価を得ているのは,本件各LPSである。
一方,リミテッド・パートナーは,本件各LPSの管理又は運営に参加
してはならず,いかなる事項に関しても,本件各LPSの名前で行為する
権限又は権利を有さないこととされ,本件各LPSの管理及び運営につい
ては,本件各GPに独占的に権限又は権利が付与されているのである。
これらのことからすると,本件各不動産賃貸事業の対象となる本件各建
物を「借主」に貸し付ける債務,すなわち本件各建物を借主に使用・収益
させる債務を履行しているのは本件各LPSであって,本件各LPSのリ
ミテッド・パートナーが本件各建物を貸し付けていると認めることはでき
ない。
エまとめ
以上のとおり,ある所得が不動産所得に該当するためには,一般的に賃
貸借契約の貸主となり得る権利・権原(所有権等)を有していることを前
提として,貸主が当該賃貸借契約の対象となる不動産等を借主に貸し付け,
これを使用収益させることによって得た対価としての性質を有するもので
あることが必要であるところ,本件各LPSのリミテッド・パートナーで
ある本件各受託銀行は,本件各建物を所有しているということはできず,
また,実際に本件各建物に関する占有権を取得したこともなく,賃貸借契
約上の貸主としての債務(借主に目的物を使用収益させる債務)を履行す
ることが可能な法的地位を何ら有していないのであるから,本件各LPS
のリミテッド・パートナーである本件各受託銀行が本件各建物を借主に貸
し付けているとみることはできない。
したがって,本件スキームから本件各受託銀行を介して原告らが受ける
利益又は損失は,賃貸借契約の目的物を使用収益させることによって得た
対価としての性質を有するものとはいえず,不動産所得には該当しない
(なお,この場合に本件スキームから本件各受託銀行を介して原告らが受
ける利益は,配当所得及び事業所得には該当せず,また,利子所得,給与
所得,退職所得,山林所得,譲渡所得又は一時所得のいずれにも該当しな
いことは明らかであるから,雑所得に該当することとなる。)。
(原告らの主張)
(1)本件各LPSが我が国の租税法上の法人又は人格のない社団等と認められ
た場合の所得区分について
上記1及び2の(原告らの主張)記載のとおり,本件各LPSは我が国の
租税法上の法人とも人格のない社団等とも認められないから,これを前提と
する被告の主張は失当である。
(2)本件各LPSが我が国の租税法上の法人とも人格のない社団等とも認めら
れない場合の所得区分(予備的主張)について
ア被告の主張は法律上の根拠なく不当に不動産所得の範囲を狭く解するも
のであり,誤りであること
(ア)不動産所得の要件として所得の帰属主体に貸主としての何らかの権
利・権原を要するという被告の主張は根拠のないものであること
被告は,「ある所得が不動産所得に該当するためには,・・納税者が,
賃貸借契約の『貸主』となり得る何らかの権利・権原(所有権あるいは
占有権等)を有していることを前提とした上で,不動産を『借主』に貸
し付け,これを使用収益させることによって得た対価としての性質を有
するものであることを要する」として,原告らに不動産所得が帰属する
とはいえないと主張する。しかしながら,所得税法26条1項は単に
「不動産所得とは,不動産〔中略〕の貸付け〔中略〕による所得」と規
定しているのみであり,同条の文理上,不動産を貸し付けた主体が納税
者本人であるか,納税者本人が貸し付けた不動産を所有等しているかは
要件とはされていない。被告の主張は,明文なき要件を付加して不動産
所得の範囲を不当に狭く解するもので,失当である。
被告の上記主張は,酒井論文(乙A29,乙B33)を根拠とするも
のであるが,酒井論文は,判例・学説に基づかない独自の見解であり,
法解釈としては,およそ信用性に乏しいものである。また,被告は,名
古屋地裁平成17年3月3日判決(甲共20)をその論拠としているよ
うであるが,この裁判例は被告の主張のような「権利・権原必要説」は
何ら判示していないばかりか,むしろ不動産所得の範囲が極めて広い
(目的物の使用収益の対価たる性質を有するならば不動産所得にあた
る)ことを述べている。さらに,被告から証拠として提出された「青柳
判例評釈」(甲共21)も,不動産所得は,事業所得と同様に,不動産
等の貸付けに係る事業活動により生じた所得をも包含し得るとしており,
貸付の主体や不動産の帰属主体と納税者との関係をより緩やかに捉える
解釈を示している。したがって,被告の主張に理由はない。
(イ)本件各LPSのリミテッド・パートナーは本件各建物を所有してい
ないとする被告の主張は失当であること
本件各LPSのリミテッド・パートナーは,本件各LPS契約の4.
5条に基づき,パートナー間の内部関係において,本件各LPSの財産
すなわち本件不動産に固有の権利を有するのであるから,この点に鑑み
ても,原告らに帰属する所得は不動産所得に該当することは明らかであ
る。被告は,雑所得であるとの主張の根拠として,本件各LPSのリミ
テッド・パートナーは本件各建物を所有していないなどと主張するが,
そのこと自体デラウェア州法の理解(本件各LPS契約の4.5条に係
る問題の捉え方)を誤ったものであるし,そもそも本件各LPSが我が
国の私法及び租税法上の法人にも人格のない社団等にも該当しないので
あれば,我が国の私法及び租税法上は,本件各LPSの構成員が本件各
建物を所有しているものと解するほかないのである。したがって,被告
の主張は失当である。
(ウ)本件各LPSのリミテッド・パートナーが本件各LPSの管理又は
運営等の権限を有することを要するとする被告の主張は失当であること
さらに,被告は,本件各LPSのリミテッド・パートナーが本件各L
PSの管理又は運営等の権限を有しないことも,本件各不動産投資事業
に係る所得が不動産所得に該当しないことの理由として挙げているが,
誤りである。不動産所得は,財務省主税局の立案担当者が直截に解説す
るとおり,「不動産の貸付け」(所得税法26条1項)の「規模や業務
への関与度合いに関係なくその損失の他の所得との損益通算が可能とさ
れている」という「特質」を有するものである(甲共83)。事業所得
の場合についてはその規模や業務への関与度合いが薄ければ所得区分が
雑所得となり損益通算が否定されるが,不動産所得はそうではないと明
言されているのである。そのような不動産所得の「特質」ゆえに,平成
17年度税制改正という創設的立法がされたのである。よって,本件各
LPSのリミテッド・パートナーの本件各LPSの管理又は運営等の権
限の有無などといった点は,本件各不動産賃貸事業に係る所得が不動産
所得に区分されるか否かを何ら左右しない。さらに,この点は,被告の
主張する「法人」該当性の判断基準とも何ら関係がないから,本件各L
PSの「法人」該当性ないし所得の帰属の問題とも無関係である。
なお,本件各LPSのリミテッド・パートナーは,(ゼネラル・パー
トナーが有するような)本件各LPSの管理又は運営等の権限を有する
ものではないが,本件各LPSの事業活動に関する監視権やゼネラル・
パートナーの解任権を有し,事業の成功に関する利害関係を本件各パー
トナーが有するものであるから,本件各不動産賃貸事業は,航空機リー
ス事件が前提としている組合型の事業体における共同事業性の要件も満
たしており,まぎれもなくパートナー間の共同事業であるといえる。こ
の点からも,原告らが不動産所得の計算上生じた損失を有するとして損
益通算を受けることを否定すべき理由はない。
イ被告は原告らに帰属する所得は雑所得であると主張するが,誤りである
こと
本件各LPSが法人にも人格のない社団等にも該当しない場合,①原告
らが本件各LPSを通じて行った本件各不動産賃貸事業に係る所得は,原
告らに直接帰属し,かつ②かかる所得は不動産所得に区分されることは明
らかであるから,雑所得に該当する余地はない。上記所得が雑所得に該当
する旨の被告の主張は失当である。
第2仮に本件各損失の損益通算が許されない場合,原告らに過少申告加算税額を
課されない「正当な理由」(国税通則法65条4項)があるか否か
(原告らの主張)
1「正当な理由」(国税通則法65条4項)の意義
国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,
真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算
税の趣旨(当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質
的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正
な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げる)に照らしてもなお納税者
に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解する
のが相当である(最判平成19年7月6日・裁判集民事225号39頁)。
2本件へのあてはめ
仮に,本件各LPSが「法人」又は「人格のない社団等」に該当すると判断
されるとしても,本件においては,平成13年分から平成15年分までの所得
税の納税義務の成立時点においては,本件各LPSが「法人」又は「人格のな
い社団等」に該当するとの解釈を原告らがとらなかったとしても,原告らに帰
責性があるとは到底いえないような事情がある。
パートナーシップの我が国の租税法上の取扱いについては,平成12年7月
政府税調中期答申において,「法人格を持たない事業体を法人課税上どのよう
に取り扱うかという問題は法人税制全般に関わるものです・・・」,「・・・実質的
な基準により税法上の認識ルールを作ることや・・・」などと記述され,この問
題はどのような法人税制上の制度を作るかという立法論の問題であると理解・
整理されていたことは明らかである。
加えて,平成12年7月政府税調中期答申の内容が議論された平成12年4
月の委員会資料(甲共27)においては,米国のLPSは法人格のない事業体
の欄に分類されており,租税法立案当局も米国のLPSには法人格はないとい
う理解であったことが如実に示されている。また,遠藤論文(平成10年6月
の甲共26)及び長谷部講演録(平成21年の甲共75)といった課税執行当
局者の論稿においても,パートナーシップには法人格がないことを前提とする
記述が同中期答申の前後を通じて一貫してされている。さらに,我が国の投資
事業有限責任組合は米国のLPSをモデルに立案されたものであるし(平成9
年の甲共10の1,平成10年の甲共10の2),また我が国の有限責任事業
組合も英米法のリミテッド・ライアビリティー・パートナーシップをモデルに
立案されたものである(甲共10の1,10の2,12)。
上記に挙げた各事情に鑑みるならば,平成13年分から平成15年分までの
所得税の納税義務の成立時点においては,米国のLPSには法人格はないとい
う理解,すなわち我が国の租税法上の「法人」には該当しないという理解しか
導くことができなかったし,そのような米国のLPSが,我が国の租税法上
「法人」と扱われることがあるとすれば,それは将来の立法論としての議論で
あるとしか考えられなかった。したがって,本件各LPSが「法人」に該当す
るなどという結論を,現行法の解釈として原告らが導くことは,文字どおり不
可能であったというべきである。
他方で,およそ外国のパートナーシップが「法人」に該当し得るとの解釈は,
平成17年度税制改正の解説として平成17年8月頃に示され(甲共16・1
56及び157頁),さらに同年税制改正に伴う法令解釈通達の整備に関連し
て,国税庁個人課税課が発遣した平成18年1月27日付け「平成17年度税
制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合
事業に係る利益等の課税の取扱いについて(情報)」において最初に公式に明
らかにされた。しかし,それ以前においては,およそ外国のパートナーシップ
が「法人」に該当し得るとの解釈が課税庁により公式に明らかにされたことは
なかったものである。なお,米国のLLCが「外国法人」に該当する旨の国税
庁のQ&Aが平成13年6月に発出されているが,本件各LPSはLPSであ
ってLLCではないし,上記Q&Aも特定の州のLLCの取扱いにつき述べる
ものではなくLLC一般につき述べるものにすぎないから,本件各LPSが
「法人」に該当するかどうかなどという問題は上記Q&Aのまったくの射程外
であって,上記Q&Aが発出されているからといって,原告らは本件各LPS
が「法人」に該当すると解すべきであったなどということは到底できない。
そして,本件各LPSが「法人」に該当するかどうかという問題については,
本件に係る国税不服審判所裁決がこれを否定し(前記国税不服審判所平成18
年11月20日裁決),また他の類似事案においても本件各LPSと同様,本
件LPS法を準拠法として組成されたデラウェア州のLPSの「法人」該当性
が否定されている(国税不服審判所平成18年2月2日裁決)。このことは,
とりもなおさず,平成18年の時点においても,本件各LPSが「法人」に該
当しないという見解にもなお相応の論拠があることを如実に示している。
また,本件各LPSを含むデラウェア州のLPSの「人格のない社団等」該
当性については,課税庁の公式な見解は今日に至るまで示されていない。
以上のとおりの事実関係に鑑みると,仮に本件の係争年分に係る所得税の納
税義務の成立時点において本件各LPSを「法人」に該当するという結論を課
税庁がとるのであれば,それは平成12年7月政府税調中期答申が示唆すると
おり法令の改正によるべきであったというほかない。また,仮に,法令の改正
によらないとしても,平成13年分から平成15年分の所得税の納税義務の成
立時点より前に,法令解釈通達等により課税庁の公式解釈を示すことにより,
デラウェア州のLPSを「法人」と解する取扱いを納税者に周知させ,これが
定着するよう必要な措置を講ずべきであったというべきである。しかしながら,
上記のとおり,課税庁は,平成18年1月に至るまで,そのような公式解釈を
示す措置を講じなかったものである。そうすると,少なくともそれまでの間は,
原告らにおいて,本件各LPSが「法人」にも「人格のない社団等」にも該当
しないものと解し,本件各LPSの事業による所得が原告らに直接帰属しかつ
不動産所得として損益通算を行って申告したとしても,それをもって原告らの
主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはでき
ない。
そうすると,本件においては,原告らが上記のとおり申告したことには真に
原告らの責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の
趣旨に照らしてもなお原告らに過少申告加算税を賦課することが不当又は酷に
なるというべきであるから,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があ
る。
(被告の主張)
1原告らが主張する事情のうち,平成12年7月政府税調中期答申等の記載内
容については,米国のLPSが我が国の租税法上の法人に含まれないことを明
言するものではなく,政府の公の見解が表明されたものでもないのであるから,
仮に当該記載内容により本件各LPSが我が国租税法上の法人に該当しないと
考えたとしても,国税通則法65条4項の正当な理由があるという余地はない。
また,原告らが主張するその余の事情は,結局のところ,原告ら独自の見解
ないし期待に基づき本件各LPSが法人に該当しないと信じたというものにす
ぎず,法令の解釈を誤っていたということに尽きる。
2そもそも,本件各不動産賃貸事業は,損益通算による租税負担の減少を目的
としたスキームの一環であり,原告らは,かかる利益にあずかるため,同スキ
ームに参加し,本件各不動産賃貸事業から生じた損失を原告らの不動産所得の
金額の計算上生じた損失として所得税の確定申告をしたことが強く推認される。
そして,原告らも認めるとおり,米国のLLCが「外国法人」に該当する旨の
国税庁のQ&Aが平成13年6月に発出されていることも併せ考慮すれば,原
告らは,本件各LPSが我が国租税法上の法人に当たり,本件各不動産賃貸事
業から生じた損失を原告らの不動産所得の計算上生じた損失として損益通算で
きない可能性があることを認識し,あるいは認識し得たにもかかわらず,本件
スキームによる利益にあずかるため,法令を正しく解釈することなく申告に至
ったものといえるのであり,これをもって国税通則法65条4項に規定する
「正当な理由」があるといえないことは明らかである。
(別紙3)
本件P1各更正処分等の計算過程
1平成14年分
(1)総所得金額6887万8860円
総所得金額は,次のアからオまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額2490万9908円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の各金額を控除した後の金
額である。
(ア)総収入金額4454万0207円
上記金額は,別表1「②被告主張額」欄・順号4記載のとおりであり,
その内訳は,同1から3まで記載のとおりである。
(イ)必要経費の合計額1953万0299円
上記金額は,別表1「②被告主張額」欄・順号15記載のとおりであり,
その内訳は,同5から14まで記載のとおりである。
(ウ)青色申告特別控除10万0000円
上記金額は,措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの)2
5条の2の規定により計算した金額であり,別表1「②被告主張額」欄・
順号17記載のとおりである。
なお,別表1「①確定(修正)申告の額」欄・順号1から3まで及び5
から14まで記載の各金額(上段と下段の金額を合計したもの。)は,原
告P1が平成14年分所得税青色決算書(不動産所得用)に記載した各金
額と同額である。
イ配当所得の金額3121万5800円
上記金額は,原告P1が平成15年10月3日に豊能税務署長に提出した
平成14年分P1修正申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額971万5960円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
エ雑所得の金額220万0272円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した雑所得の
金額と同額である。
オ一時所得の金額83万6920円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した一時所得
の金額と同額である。
(2)所得控除の額の合計額156万3426円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した社会保険料
控除の額75万0426円,生命保険料控除の額5万円,損害保険料控除の額
3000円,扶養控除の額38万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額
である。
(3)課税総所得金額6731万5000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額6887万8860円から前記(2)の所得
控除の額の合計額156万3426円を控除した後の金額(国税通則法118
条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(4)納付すべき税額514万9200円
上記金額は,次のアの金額から,イからオまでの各金額を差し引いた後の金
額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り
捨てた後のもの。)である。
ア課税総所得金額に対する税額2241万6550円
上記金額は,前記(3)の課税総所得金額6731万5000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
イ配当控除の金額156万0790円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額3121万5800円に所得税
法92条1項の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収額736万1080円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
オ予定納税額809万5400円
上記金額は,原告P1が平成14年分P1修正申告書に記載した予定納税
額(第1期及び第2期の合計額)と同額である。
(5)過少申告加算税額82万2000円
上記金額は,平成14年分所得税の更正処分により原告P1が新たに納付す
べきこととなった税額822万円(ただし,国税通則法118条3項の規定に
より1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに同法6
5条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額である。
2平成15年分
(1)総所得金額2597万5142円
上記金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額1426万3708円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の各金額を控除した後の金
額である。
(ア)総収入金額3908万0143円
上記金額は,別表2「②被告主張額」欄・順号4記載のとおりであり,
その内訳は,同1から3まで記載のとおりである。
(イ)必要経費の合計額2471万6435円
上記金額は,別表2「②被告主張額」欄・順号15記載のとおりであり,
その内訳は,同5から14まで記載のとおりである。
(ウ)青色申告特別控除10万0000円
上記金額は,措置法25条の2の規定により計算した金額であり,別表
2「②被告主張額」欄・順号17記載のとおりである。
なお,別表2「①確定申告の額」欄・順号1から3まで及び5から14
まで記載の各金額(上段と下段の金額を合計したもの。)は,原告P1が
平成15年分所得税青色決算書(不動産所得用)に記載した各金額と同額
である。
イ給与所得の金額971万5960円
上記金額は,原告P1が平成16年3月15日に豊能税務署長に提出した
平成15年分P1確定申告書に記載した給与所得の金額と同額である。
ウ雑所得の金額199万5474円
上記金額は,原告P1が平成15年分P1確定申告書に記載した雑所得の
金額と同額である。
(2)分離課税株式等の譲渡所得0円
上記金額は,原告P1が平成15年分P1確定申告書に記載した分離課税株
式等の譲渡所得の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額154万8170円
上記金額は,原告P1が平成15年分P1確定申告書に記載した社会保険料
控除の額73万5170円,生命保険料控除の額5万円,損害保険料控除の額
3000円,扶養控除の額38万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額
である。
なお,原告P1の平成15年分の合計所得金額(原告P1の場合は前記アの
総所得金額2597万5142円)が1000万円を超えることから,老年者
控除の適用はない。
(4)課税総所得金額2442万6000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額2597万5142円から前記(3)の所得
控除の額の合計額154万8170円を控除した後の金額(国税通則法118
条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(5)納付すべき税額259万0900円
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り
捨てた後のもの。)である。
ア課税総所得金額に対する税額654万7620円
上記金額は,前記エの課税総所得金額2442万6000円に所得税法8
9条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算出
した金額である。
イ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
ウ源泉徴収額112万3050円
上記金額は,原告P1が平成15年分P1確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
エ予定納税額258万3600円
上記金額は,原告P1が平成15年分P1確定申告書に記載した予定納税
額(第1期及び第2期の合計額)と同額である。
(6)過少申告加算税額89万1500円
上記金額は,平成15年分所得税の更正処分により原告P1が新たに納付す
べきこととなった税額611万円(ただし,国税通則法118条3項の規定に
より1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに同法6
5条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額61万1
000円と,同条2項の規定に基づき50万円を超える部分に相当する税額5
61万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨
てた後のもの。)に100分の5の割合を乗じて算出した金額28万0500
円との合計額である。
(別紙4)
本件P1各通知処分の計算過程
1平成16年分
(1)総所得金額1711万4074円
総所得金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額541万5792円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の各金額を控除した後の金
額である。
(ア)総収入金額6814万7901円
上記金額は,別表1「②被告主張額」欄・順号4記載のとおりであり,
その内訳は,同1から3まで記載のとおりである。
(イ)必要経費の合計額6263万2109円
上記金額は,別表1「②被告主張額」欄・順号15記載のとおりであり,
その内訳は,同5から14まで記載のとおりである。
(ウ)青色申告特別控除10万0000円
上記金額は,措置法25条の2の規定により計算した金額であり,別表
1「②被告主張額」欄・順号17記載のとおりである。
なお,別表1「①更正の請求の額」欄・順号1から3まで及び5から1
4まで記載の各金額(上段と下段の金額を合計したもの)は,原告P1が
平成16年分所得税の更正の請求書に添付した青色決算書(不動産所得
用)に記載した各金額と同額である。
イ給与所得の金額971万5960円
上記金額は,原告P1が平成16年分P1確定申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
ウ雑所得の金額198万2322円
上記金額は,原告P1が平成16年分P1確定申告書に記載した雑所得の
金額と同額である。
(2)分離課税の株式等の譲渡所得0円
上記金額は,原告P1が平成16年分P1確定申告書に記載した分離課税の
株式等の譲渡所得の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額95万3440円
上記金額は,原告P1が平成16年分P1確定申告書に記載した社会保険料
控除の額52万0440円,生命保険料控除の額5万円,損害保険料控除の額
3000円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(4)課税総所得金額1616万0000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額1711万4074円から前記(3)の所得
控除の額の合計額95万3440円を控除した後の金額(国税通則法118条
1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
(5)納付すべき税額217万0100円
上記金額は,次のアの金額からイ及びウの各金額を差し引いた後の金額(た
だし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた
後のもの。)である。
ア課税総所得金額に対する税額361万8000円
上記金額は,前記(4)の課税総所得金額1616万0000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
イ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
ウ源泉徴収税額119万7846円
上記金額は,原告P1が平成16年分P1確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
2平成17年分
(1)総所得金額△1453万5377円
(△は損失を示す。)
上記金額は,純損失として翌年以降に繰り越される金額でもあり,次のア
からウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額1123万3968円
上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の各金額を控除した後の
金額である。
(ア)総収入金額7211万0593円
上記金額は,別表2「②被告主張額」欄・順号4記載のとおりであり,
その内訳は,同1から3まで記載のとおりである。
(イ)必要経費の合計額6077万6625円
上記金額は,別表2「②被告主張額」欄・順号14記載のとおりであ
り,その内訳は,同5から13まで記載のとおりである。
(ウ)青色申告特別控除10万0000円
上記金額は,措置法25条の2の規定により計算した金額であり,別
表2「②被告主張額」欄・順号16記載のとおりである。
なお,別表2「①更正の請求の額」欄・順号1から3まで及び5から
13まで記載の各金額(上段と下段の金額を合計したもの)は,原告P
1が平成17年分所得税の更正の請求書に添付した青色決算書(不動産
所得用)に記載した各金額と同額である。
イ給与所得の金額971万5960円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した給与所
得の金額と同額である。
ウ雑所得の金額235万4695円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した雑所得
の金額と同額である。
エ総合譲渡所得(長期)の金額△3784万0000円
(△は損失を示す。)
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した総合譲
渡所得(長期)の金額と同額である。
(2)分離課税株式等の譲渡所得の金額2959万5938円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した分離課税株
式等の譲渡所得の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額95万0440円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した社会保険料
控除の額51万7440円,生命保険料控除の額5万円,損害保険料控除の額
3000円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(4)課税所得金額1874万1000円
上記金額は,前記(2)の分離課税株式等の譲渡所得の金額2959万593
8円から,前年から繰り越された株式等に係る譲渡損失の金額990万412
7円及び前記(3)の所得控除の額の合計額95万0440円を控除した後の金
額(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた
後のもの)である。
なお,前記(1)の総所得金額は損失であるため,課税所得金額を構成しない。
(5)納付すべき税額△133万0508円
(△は還付税額を示す。)
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額である。
ア課税所得金額に対する税額131万1870円
上記金額は,前記(4)の課税所得金額1874万1000円に措置法37
条の11の税率を乗じて算出した金額である。
イ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
ウ源泉徴収税額129万7578円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
エ予定納税額109万4800円
上記金額は,原告P1が平成17年分P1確定申告書に記載した予定納税
額(第1期及び第2期の合計額)と同額である。
(別紙7)
本件P2各更正処分等の計算過程
1平成13年分
(1)総所得金額4320万0000円
総所得金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額0円
上記金額は,別紙5の「更正処分等」欄の「不動産所得の金額」のとおり
零円となる。
イ配当所得の金額44万0000円
上記金額は,原告P2が平成14年3月14日に三木税務署長に提出した
平成13年分P2確定申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額4276万0000円
上記金額は,原告P2が平成13年分P2確定申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
(2)所得控除の額の合計額497万3500円
上記金額は,原告P2が平成13年分P2確定申告書に記載した社会保険料
控除の額118万0500円,小規模企業共済等掛金控除の額84万円,生命
保険料控除の額10万円,損害保険料控除の額3000円,扶養控除の額24
7万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(3)課税総所得金額3822万6000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額4320万円から前記(2)の所得控除の額
の合計額497万3500円を控除した後の金額(ただし,国税通則法118
条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)である。
(4)納付すべき税額△25万2660円
(△は還付税額を示す。以下同じ。)
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額である。
ア課税総所得金額に対する税額1165万3620円
上記金額は,前記(3)の課税総所得金額3822万6000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの。以下同
じ。)を乗じて算出した金額である。
イ配当控除の金額2万2000円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額44万円に所得税法92条1項
の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収額1163万4280円
上記金額は,原告P2が平成13年分P2確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
(5)過少申告加算税額91万5000円
上記金額は,平成13年分所得税の更正処分により原告P2が新たに納付す
べきこととなった税額742万円(ただし,国税通則法118条3項の規定に
より1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに同法6
5条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額74万2
000円と,同条2項の規定に基づき,平成13年分P2確定申告書の「還付
される税金」欄の金額△767万3750円に源泉徴収金額1163万428
0円を加算した金額を当該新たに納付すべきこととなった税額742万100
0円から差し引いた金額に相当する額346万円(ただし,国税通則法118
条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の
5の割合を乗じて算出した金額17万3000円との合計額である。
2平成14年分
(1)総所得金額5243万5000円
上記金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額0円
上記金額は,別紙5の「更正処分等」欄の「不動産所得の金額」のとおり
零円となる。
イ配当所得の金額84万0000円
上記金額は,原告P2が平成15年3月13日に三木税務署長に提出した
平成14年分P2確定申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額5159万5000円
上記金額は,原告P2が平成14年分P2確定申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
(2)所得控除の額の合計額505万2650円
上記金額は,原告P2が平成14年分P2確定申告書に記載した社会保険料
控除の額125万9650円,小規模企業共済等掛金控除の額84万円,生命
保険料控除の額10万円,損害保険料控除の額3000円,扶養控除の額24
7万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(3)課税総所得金額4738万2000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額5243万5000円から前記(2)の所得
控除の額の合計額505万2650円を控除した後の金額(ただし,国税通則
法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)
である。
(4)納付すべき税額△57万3940円
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額である。
ア課税総所得金額に対する税額1504万1340円
上記金額は,前記(3)の課税総所得金額4738万2000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
イ配当控除の金額4万2000円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額84万円に所得税法92条1項
の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収額1532万3280円
上記金額は,原告P2が平成14年分P2確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
(5)過少申告加算税額89万0500円
上記金額は,平成14年分所得税の更正処分により原告P2が新たに納付す
べきこととなった税額814万円(ただし,国税通則法118条3項の規定に
より1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに国税通
則法65条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額8
1万4000円と,同条2項の規定に基づき,平成14年分P2確定申告書の
「還付される税金」欄の金額△871万6530円に源泉徴収金額1532万
3280円を加算した金額を当該新たに納付すべきこととなった税額814万
2500円から差し引いた金額に相当する額153万円(ただし,国税通則法
118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に10
0分の5の割合を乗じて算出した金額7万6500円との合計額である。
3平成15年分
(1)総所得金額4444万5000円
上記金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額0円
上記金額は,別紙5の「更正処分等」欄の「不動産所得の金額」のとおり
零円となる。
イ配当所得の金額54万5000円
上記金額は,原告P2が平成16年3月11日に三木税務署長に提出した
平成15年分P2確定申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額4390万0000円
上記金額は,原告P2が平成15年分P2確定申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
(2)所得控除の額の合計額456万8812円
上記金額は,原告P2が平成15年分P2確定申告書に記載した社会保険料
控除の額140万5812円,小規模企業共済等掛金控除の額84万円,生命
保険料控除の額10万円,損害保険料控除の額3000円,扶養控除の額18
4万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(3)課税総所得金額3987万6000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額4444万5000円から前記(2)の所得
控除の額の合計額456万8812円を控除した後の金額(ただし,国税通則
法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)
である。
(4)納付すべき税額△51万4130円
上記金額は,次のアの金額からイからエまでの各金額を差し引いた後の金額
である。
ア課税総所得金額に対する税額1226万4120円
上記金額は,前記(3)の課税総所得金額3987万6000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
イ配当控除の金額2万7250円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額54万5000円に所得税法9
2条1項の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収額1250万1000円
上記金額は,原告P2が平成15年分P2確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
(5)過少申告加算税額102万5500円
上記金額は,平成15年分所得税の更正処分により原告P2が新たに納付す
べきこととなった税額812万円(ただし,国税通則法118条3項の規定に
より1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)を基礎として,これに国税通
則法65条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した金額8
1万2000円と,同条2項の規定に基づき,平成15年分P2確定申告書の
「還付される税金」欄の金額△864万3050円に源泉徴収金額1250万
1000円を加算した金額を当該新たに納付すべきこととなった税額812万
8900円から差し引いた金額に相当する額427万円(ただし,国税通則法
118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に10
0分の5の割合を乗じて算出した金額21万3500円との合計額である。
(別紙8)
本件P2各通知処分の計算過程
1平成16年分
(1)総所得金額4449万5000円
総所得金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額0円
上記金額は,別紙6の「修正申告」欄の「不動産所得の金額」のとおり零
円となる。
イ配当所得の金額59万5000円
上記金額は,原告P2が平成18年1月6日に三木税務署長に提出した平
成16年分P2修正申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額4390万0000円
上記金額は,原告P2が平成16年分P2修正申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
(2)分離課税長期譲渡所得金額36万4686円
上記金額は,原告P2が平成16年分P2修正申告書に記載した分離課税長
期譲渡所得の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額484万8102円
上記金額は,原告P2が平成16年分P2修正申告書に記載した医療費控除
の額47万5860円,社会保険料控除の額121万2242円,小規模企業
共済等掛金控除の額84万円,生命保険料控除の額10万円,扶養控除の額1
84万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(4)課税所得金額
ア課税される総所得金額3964万6000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額4449万5000円から前記(3)の所
得控除の額の合計額484万8102円を控除した後の金額(ただし,国税
通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のも
の)である。
イ課税される分離課税長期譲渡所得金額36万4000円
上記金額は,前記(2)の分離課税長期譲渡所得金額と同額(ただし,国税
通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のも
の)である。
(5)納付すべき税額△67万4510円
(△は還付税額を示す。)
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額である。
ア課税所得金額に対する税額1223万3620円
上記金額は,次の(ア)及び(イ)の合計額である。
(ア)課税される総所得金額に対する税額1217万9020円
前記(4)アの課税される総所得金額3964万6000円に所得税法8
9条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
(イ)課税される分離課税長期譲渡所得金額に対する税額5万4600円
前記(4)イの課税される分離課税長期譲渡所得金額36万4000円に
措置法31条1項の税率を乗じて算出した金額である。
イ配当控除の金額2万9750円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額59万5000円に所得税法
92条1項の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収税額1262万8380円
上記金額は,原告P2が平成16年分P2修正申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
2平成17年分
(1)総所得金額4185万9000円
上記金額は,次のアからウまでの各金額の合計額である。
ア不動産所得の金額0円
上記金額は,別紙6の「確定申告」欄の「不動産所得の金額」のとおり零
円となる。
イ配当所得の金額69万5000円
上記金額は,原告P2が平成18年3月13日に三木税務署長に提出した
平成17年分P2確定申告書に記載した配当所得の金額と同額である。
ウ給与所得の金額4116万4000円
上記金額は,原告P2が平成17年分P2確定申告書に記載した給与所得
の金額と同額である。
(2)分離課税株式等の譲渡所得0円
上記金額は,原告P2が平成17年分P2確定申告書に記載した分離課税株
式等の譲渡所得の金額と同額である。
(3)所得控除の額の合計額420万4116円
上記金額は,原告P2が平成17年分P2確定申告書に記載した社会保険料
控除の額129万1116円,小規模企業共済等掛金控除の額84万円,生命
保険料控除の額10万円,損害保険料控除の額3000円,扶養控除の額15
9万円及び基礎控除の額38万円の合計額と同額である。
(4)課税総所得金額3765万4000円
上記金額は,前記(1)の総所得金額4185万9000円から前記(3)の所得
控除の額の合計額420万4116円を控除した後の金額(ただし,国税通則
法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)で
ある。
(5)納付すべき税額△47万0870円
(△は還付税額を示す。)
上記金額は,次のアの金額から,イからエまでの各金額を差し引いた後の金
額である。
ア課税総所得金額に対する税額1144万1980円
上記金額は,前記(4)の課税総所得金額3765万4000円に所得税法
89条1項の税率(負担軽減措置法4条の特例を適用したもの)を乗じて算
出した金額である。
イ配当控除の金額3万4750円
上記金額は,前記(1)イの配当所得の金額69万5000円に所得税法9
2条1項の規定により100分の5の割合を乗じて算出した金額である。
ウ定率減税額25万0000円
上記金額は,負担軽減措置法6条2項の規定により算出した定率減税額で
ある。
エ源泉徴収税額1162万8100円
上記金額は,原告P2が平成17年分P2確定申告書に記載した源泉徴収
税額と同額である。
(別紙10)
関連会社及び契約内容等(P1)
1関連会社について
(1)P4証券
P4証券は,ドイツ連邦共和国所在のP25銀行を親会社として,日本に
おけるP25銀行グループの証券業務の中核を担うものとして,昭和61年
に設立された。
本件において,P4証券は,原告らを含む日本人投資家との間でファイナ
ンシャル・アドバイザリー契約を締結し,投資家に対して投資事業プログラ
ム「DOIT」(本件スキーム)の紹介及び提供等をし,その対価としての
報酬を受領していた。
なお,平成15年12月ころ,P4証券は,リストラクチャリングの一環
として,P4証券のスペシャル・プロダクト部門(旧金融商品開発部門)に
おける営業を終了し,同証券のDOITプログラムにおける役務提供を含む
資産コンサルティング部門の営業を,P10に営業譲渡した。
(2)P5銀行
P5銀行は,ルクセンブルク大公国の法律に基づき設立された同国所在の
法人である。
P5銀行は,本件基本信託契約(P)において,受託銀行(受託者)とされ
ている。
また,本件において,P5銀行は,本件LPS(P)のリミテッド・パート
ナーとして,本件GP(P)との間で本件LPS契約(P)を締結した。
(3)本件GP(P)(P6)
本件GP(P)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社(LLC)である。
本件において,本件GP(P)は,本件LPS(P)のゼネラル・パートナーと
して,リミテッド・パートナーであるP5銀行との間で本件LPS契約(P)
を締結した。
(4)本件LPS(P)(P22)
本件LPS(P)は,本件LPS法に基づき,本件GP(P)をゼネラル・パー
トナー,P5銀行をリミテッド・パートナーとして組成された米国のLPS
である。
本件LPS(P)は,P7との間の本件売買契約(P)における買主であり,ま
た,本件土地賃貸借契約(P)における借主である。
(5)P7
P7は,米国デラウェア州所在のLPSである。
P7は,本件売買契約(P)における売主であり,また,本件土地賃貸借契
約(P)における貸主である。
(6)P8
P8は,米国デラウェア州所在の法人である。
本件において,P8は,本件LPS(P)に対し,本件建物(P)の購入資金と
して537万ドルを融資している。
(7)P9
P9は,米国コロンビア特別区所在の法人である。
本件において,P9は,本件LPS(P)との間の本件管理契約(P)による本
件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務を行う管理者である。
(8)P10
P10は,平成15年7月17日に設立され,P4証券より,同年末に,
その資産コンサルティング部門を営業譲渡された。
P10は,P4証券から原告P1のファイナンシャル・アドバイザーとし
ての業務の譲渡を受け,原告P1との間で本件新アドバイザリー契約(P)を
締結し,それに基づいて,原告P1のファイナンシャル・アドバイザーに就
任した。
(9)P11銀行
P11銀行は,米国の法律に基づいて設立された米国西海岸最大の信託銀
行である。
本件において,P11銀行は,P5銀行から本件LPS(P)のパートナー
シップ持分を譲り受けた,本件新信託契約(P)における受託者である。
2契約内容等について
(1)本件アドバイザリー契約(P)(契約①)
本件アドバイザリー契約(P)は,原告P1とP4証券の間で締結された,
原告P1のファイナンシャル・アドバイザーとしてのP4証券が提供する役
務の内容等に関する契約である。
(2)本件基本信託契約(P)(契約②)
本件基本信託契約(P)は,委託者兼受益者である原告P1と受託銀行であ
るP5銀行の間で締結された契約であり,その内容は,要旨以下のとおりで
ある。
ア原信託財産の拠出
投資家(原告P1)は,P5銀行がその資格で預金受け入れ銀行に開設
した口座(エスクロー口座)に,本件建物(P)に対する投資となるドルで
一定金額(以下「現金資産(P)」という。)を拠出することを約定した,
若しくは約定する予定である。
投資家は,P5銀行との間でこの信託契約(本件基本信託契約(P))を
締結し,それに基づきP5銀行が,リミテッド・パートナーとして,投資
家の固有の危険と単独の利益において,本件LPS契約(P)を締結して本
件LPS(P)に現金資産(P)を拠出するため,現金資産(P)をP5銀行に譲
渡するよう指図することを約定した,若しくは約定する予定である。
投資家は,随時,P5銀行に,現金資産(P)を原信託財産として譲渡し,
原信託財産をここに定めるとおり当てることを欲し,P5銀行は,かかる
譲渡を受け,原信託財産を当てて,ここに定めるその義務を果たす用意が
ある。
イ受託銀行の任命(1条)
投資家は,これにより,本契約に定める投資家のために受託する者とし
て行動する「受託銀行」を任命し,「受託銀行」は,この任命を受託する。
原信託財産の譲渡は,この基本信託契約の条件に従う。
ウ原信託財産の譲渡(2条)
投資家は,P5銀行が承認する様式の通知書(以下「譲渡・指図通知書
(P)」という。)により,P5銀行に対して現金資産(P)の譲渡を承諾する
よう要求することができる。かかる譲渡は,全て投資家,投資家の代理人
としてのP4証券とP5銀行の間で合意した日(以下「クロージング日
(P)」という。)に行うものとする。
エ原信託財産の保有(3条)
クロージング日(P)以降,P5銀行は,原信託財産をP5銀行の名義で,
しかし投資家自身のために,また投資家自身の危険負担と利益において保
有する。
オ本件LPS(P)に対する出資(4.1条)
投資家は,譲渡・指図通知書(P)により,P5銀行に対し,本件LPS
(P)のパートナーシップ持分の発行と引き換えに,リミテッド・パートナ
ーとして,当該譲渡・指図通知書に定める現金資産(P)を本件LPS(P)に
拠出するよう指図する。
カパートナーシップ持分等の保有(4.4条)
本件LPS(P)によりP5銀行に対し発行された上記オのパートナーシ
ップ持分及びそれから発生する全ての所得は,P5銀行がその名義で,専
らその受託銀行としての資格において,ただし投資家のために,及び専ら
投資家の危険負担と利益において,信託財産として保有する。
キ本件LPS(P)の運営(5.1条)
本件LPS(P)は,本件GP(P)が運営を行い,P5銀行は,本件LPS
(P)に関するいかなる業務運営の遂行,また引き受けの義務を負わない。
本件GP(P)は,とりわけ本件建物(P)の管理(本件建物(P)の入居者と
P9の関係を含む),適用法令の遵守,並びに本件建物(P)の売却(買手
の選別,売却価格の交渉を含む)に責任を負う。
ク議決権(5.2条)
パートナーシップ持分の議決権行使を求められた場合,P5銀行は,パ
ートナーシップ持分の議決権の行使方法につき,投資家からの指図を求め
るものとする。P5銀行は,かかる指図が法令等に違反する場合,同銀行
に支払を負わせる場合又は同銀行が費用,経費,若しくは損失を被るおそ
れがある場合には,かかる指図に従うことを拒否することができる。本条
項は,指図がかかる違反を含むか否かを確認する義務を課すものと解釈し
てはならない。P5銀行の合理的な意見により,同銀行の利益を保護する
必要がある場合には,さらに,同銀行は,投資家の指図を拒否する権利,
及び,あらゆる場合に,パートナーシップ持分に与えられた議決権を行使
し,又は行使しない権利を有する。
パートナーシップ持分に付随する議決権行使のために,投資家又はその
指図人に対し委任状を発行することを,投資家がP5銀行に対して要請し
てはならないことが明示的に合意された。
ケ分配(5.4条)
パートナーシップ持分に関してP5銀行が受領した,あらゆる配当,及
びその他の分配の純額は,P5銀行がその資金(fullyclearedfund)を
受領した後,2営業日後の価額で,専ら投資家がP5銀行に有する銀行口
座に振り込まれる。本件LPS(P)の追加パートナーシップ持分の分配の
場合は,P5銀行が,かかるパートナーシップ持分を,この取り決めに従
い信託財産として保有する。
コ監視の義務の不存在(5.7条)
投資家は,P5銀行が,本件GP(P)の作為若しくは不作為を監視し,
又は本件建物(P)の状況(法律及び規制状況を含む)を監視する義務を負
わないことを,了解し,合意した。
サ本契約の期間(14.1条)
本契約は,7年の確定期間(FixedDuration)を有する。ただし,各当
事者は,書面による3か月前の事前通知により,確定期間中に本契約を終
了することができる。いずれかの当事者により書面による1か月前の事前
通知により終了されない限り,本契約はその後無期限に存続する。ただし,
P5銀行は,確定期間終了後は,投資家に対し,1か月前の書面による事
前通知により,随時辞任することができる。
シ準拠法(16.1条)
本契約は,ルクセンブルク法,特に金融機関の信託契約に関する,19
83年7月19日付けの大公勅令に準拠し,それに従って解釈されるもの
とする。
(3)本件LPS契約(P)(契約③)
本件LPS契約(P)は,2002年(平成14年)3月28日付けで,本
件LPS(P)のリミテッド・パートナーであるP5銀行及びゼネラル・パー
トナーである本件GP(P)の間で締結された契約である。
(4)本件売買契約(P)(契約④)
本件売買契約(P)は,本件建物(P)の本件LPS(P)への売却等に関し,2
002年(平成14年)3月28日付けで,本件土地(P)の地主であるP7
及び借地人である本件LPS(P)の間で締結された契約である。
(5)本件土地賃貸借契約(P)(契約⑤)
本件土地賃貸借契約(P)は,本件土地(P)の本件LPS(P)への賃貸借に関
し,2002年(平成14年)3月28日付けで,本件土地(P)の地主であ
るP7及び借地人である本件LPS(P)の間で締結された契約である。
(6)本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)(契約
⑥)
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)は,本件
売買契約(P)を始めとする,本件不動産賃貸事業(P)に関し,2002年(平
成14年)3月28日付けで,本件建物(P)の売主であるP7及び買主であ
る本件LPS(P)の間で締結された契約である。
(7)本件管理契約(P)(契約⑦)
本件管理契約(P)は,本件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務に関し,
平成14年3月28日付けで,本件建物(P)の所有者である本件LPS(P)及
び本件不動産(P)の賃貸に係る管理者であるP9の間で締結された契約であ
り,その内容は,要旨以下のとおりである。
ア代理権の内容(1条)
本件LPS(P)は,本件不動産(P)を賃貸し,運営し,管理するために,
その代理人として,本件管理契約(P)に定める条件で,本件管理契約(P)に
定められた期間(開始日:2002年(平成14年)3月28日から同終
了日:2009年(平成21年)3月27日までの7年間),P9を専属
的に雇用する。ただし,上記期間が終了する60日前までに,当事者の一
方が相手方に本契約を終了する旨の通知をしない限り,当該期間は,その
後2年間自動的に更新される。更新後においてもその期間が終了する30
日前までに,当事者の一方が相手方に本契約を終了する旨の通知をしない
ときも同様とする。
イ本件土地賃貸借契約に関する事項(2条)
本件LPS(P)は,次の目的のためにP9を雇用する。
(ア)本件土地賃貸借契約(P)の4条(g)に定めるあらゆる報告書の作成
(イ)本件土地賃貸借契約(P)の4条(h),(i)及び(j)に定める支払等の実行
(ウ)本件土地賃貸借契約(P)の7条に定める保険の契約
(エ)本件土地賃貸借契約(P)の6条(a),17条(d)に定める通知の連絡等
ウ本件建物(P)の賃貸に関する事項(3条)
P9は,本件管理契約(P)に基づき,本件建物(P)の管理,リース,運営
及び運用を行うため本件建物(P)を管理する。P9は,本件管理契約(P)に
従い,忠実に合理的な努力及び慎重な管理業務を行う。
ただし,本件LPS(P)は,P9が本件建物(P)の経済的な実績の保証人
ではないことを承認する。
P9が履行する業務は,以下のとおりである。
(ア)リースの交渉
(イ)予算及び月次報告
(ウ)資金管理
(エ)管理者従業員の保証
(オ)追加の財政報告
エ権限の賦与(4条)
本件LPS(P)は,本件管理契約(P)により,P9に以下の権限を賦与し,
承認済み予算に適ったその費用及び経費を負担する。
(ア)本物件の賃貸について広告等する権限
(イ)本物件の賃貸借に関する法的手続をする権限
(ウ)本物件の修理等に関する権限
(エ)本物件の管理運営に従事する従業員の雇用,監督等に関する権限
(オ)従業員を専属的に従事させる権限
(カ)電気,ガス等の供給サービス等必要,適切な契約を締結する権限
オ免責と免除(5条)
本件LPS(P)及びP9は,それぞれの契約違反,故意又は重大な過失
による損害等を相互に免責する。
カ準拠法(6条)
本契約は,法の抵触の規定にかかわらず,あらゆる点においてカリフォ
ルニア州法に基づき,準拠し,解釈する。
(8)本件新アドバイザリー契約(P)(契約⑧)
本件新アドバイザリー契約(P)は,原告P1及びP10の間で締結された,
原告P1のファイナンシャル・アドバイザーとしてのP10の提供する役務
の内容等に関する契約である。
(9)本件新信託契約(P)(契約⑨)
本件新信託契約(P)は,委託者兼受益者である原告P1及び受託者である
P11銀行の間で締結された契約であり,その内容は,要旨以下のとおりで
ある。
ア本件新信託契約(P)の目的(前文)
この契約により,委託者(原告P1。以下同じ。)は,P11銀行に,
列挙した財産(P5銀行が所有していた本件LPS(P)パートナーシップ
持分。以下同じ。)を移転する。P11銀行は,本証書(本件新信託契約
(P))に記載された条件に基づく信託で受領した全ての財産を保有するも
のとする。
イ初期資産(2.1条)
信託の初期資産は,本件LPS(P)に対するパートナーシップ持分を含
むものとする。
ウ分配(2.3条)
(a)P11銀行が自らの裁量のみで得策と考える場合又は(b)委託者によ
り書面で指示された場合は,P11銀行は,委託者に対し,信託が受領し
又は保有する純分配可能額の全部又は一部を分配するものとする。「純分
配可能額」は(a)パートナーシップ利益に関してP11銀行が受領した金
額又は(b)2.7条に準拠してP11銀行が受領した売上金の金額のいず
れかの金額を意味する。
エ議決権(2.6条)
パートナーシップ持分に関して議決を求められた場合,P11銀行は,
委託者に対しパートナーシップ持分に関していかに議決すべきか指示を求
めるものとし,以下の条文に従い,その指示に従うものとする。P11銀
行は,指示が法令等への違反を含む場合,同銀行が支払を行う義務を負う
場合,同銀行が個人的にコスト等を引き受けることになる場合には委託者
の議決指示に従うことを拒絶することができる。
前文にかかわらず,P11銀行は,議決指示が前文で述べられた論点又
は問題を発生させるか否か確定する積極的義務を負わないものとする。さ
らに,P11銀行は,相応の意見において同銀行の権利を保護するために
必要である場合には委託者の指示を拒絶する権利,及びいかなる状況にお
いてもパートナーシップ持分に付随した議決権を行使し又は行使を控える
権利を有する。委託者は,パートナーシップ持分に付与された議決権の行
使にあたり,P11銀行に対して,自己宛の又は自己が指示する内容の委
任状を発行するよう求めてはならない。
オパートナーシップ持分の保有及び売却(2.7条)
P11銀行は,信託が終了する時まで,又は委託者がP11銀行に対し
て本項の残りの規定に従って当該資産を売却するよう指示する時まで,信
託の資産を分散投資する義務を負うことなくパートナーシップ持分を保持
するものとする。パートナーシップ契約及び適用可能な法律に従い,及び
以下の文に従い,委託者は,いかなる時でもP11銀行に対しパートナー
シップ持分の全てを指示した購入者に指示した価格及び指示した条件で売
却することを指示することができる。パートナーシップ持分のいずれかの
売却と関連して,P11銀行は,(i)受託者がパートナーシップ持分の法
的所有者であること,(ii)パートナーシップの契約の規定に従いP11銀
行はパートナーシップ持分を売却する権原を与えられていること以外に,
何らかの説明又は保証を購入者に与えるなどの義務を負わないものとする。
カ信託の終了(3.1条)
1.1条(委託者の解約権についての規定)に従う取消し又は全ての信
託財産の売却及び分配の結果としての早期終了ではない場合,信託は,
(a)本証書の実施日付から10年後,(b)委託者の死亡のうちいずれか早期
の時点で終了するものとする。
上記(a)の場合,P11銀行は全ての信託を委託者に分配するものとす
る。上記(b)の場合,P11銀行は全ての信託を承継委託者に交付するも
のとする。
キ準拠法(8.1条)
本証書の有効性,解釈及びそれによって創設される信託の管理並びに分
配に関しては,争訟に関する法律を除き,米国カリフォルニア州法を準拠
法とする。
(10)P5銀行に係る本件LPS(P)のパートナーシップ持分の譲渡に関する契
約(契約⑩)
P5銀行に係る本件LPS(P)のパートナーシップ持分の譲渡に関する契
約は,譲渡人であるP5銀行及び譲受人であるP11銀行との間で締結され
た契約であり,その内容は,要旨以下のとおりである。
ア事実の説明
P5銀行は,本件LPS(P)のリミテッド・パートナーであり,本譲渡
される持分を持っている。
P5銀行は,ルクセンブルクの法律に準拠した信託契約により,受益者
(原告P1)のために受託者として,本譲渡される持分を保有している。
受益者の指示に従い,P5銀行は,本譲渡される持分を譲受人に譲渡し,
パートナーシップから脱退するため,本譲渡証書を作成する。
受益者の指示に従い,譲受人は,本譲渡される持分を受け入れ,譲渡人
の代わりに代替リミテッド・パートナーとしてパートナーシップへの参加
の承認を受けるため,本譲渡証書を作成する。
イ譲渡(2条)
P5銀行は,本譲渡証書により譲渡される持分における同銀行の権利,
権原,持分の全てをP11銀行に売却,割当,委譲,譲渡する。P11銀
行は,本譲渡証書による譲渡を受け入れ,パートナーシップにおいてP5
銀行に代わって受益者のために,信託の受託者として譲受人に認められる
範囲で,代替リミテッド・パートナーとなることに同意する。譲渡される
持分の受益所有権は,本譲渡証書の如何にかかわらず,引き続き受益者に
与えられる旨,承認されている。
ウ代替リミテッド・パートナーとしての任命(4条)
本譲渡証書の日付において,P11銀行は,本譲渡証書により譲渡され
る持分に関し,パートナーシップに対してP5銀行と同じ権利と出資率を
持つ代替リミテッド・パートナーとして認められる。
エ脱退(5条)
本譲渡証書の日付において,本譲渡証書3条によりパートナーシップに
対してP11銀行が任命された後直ちに,P5銀行は,パートナーシップ
から脱退し,パートナーシップにおけるリミテッド・パートナーではなく
なる。
オ脱退と代替の効果(6条)
前記の2条に規定されているように,本譲渡証書による譲渡は,譲渡さ
れる持分の受益所有権には影響せず,受益者は譲渡される持分の受益権所
有者のままである。
カ権利放棄と同意(8条)
ゼネラル・パートナーである本件GP(P)は,本譲渡証書において,(i)
P5銀行からP11銀行への本譲渡される持分の譲渡,(ii)P5銀行のパ
ートナーシップからの脱退,(iii)代替リミテッド・パートナーとしての
P11銀行のパートナーシップへの参加,に同意する。
本件GP(P)は,本譲渡証書に署名している。
(別紙12)
関連会社及び契約内容等(P2)
1関連会社について
(1)P4証券
別紙10関連会社及び契約内容等(P1)1(1)記載のとおり
(2)P5銀行
P5銀行は,ルクセンブルク大公国の法律に基づき設立された同国所在の
法人である。
本件基本信託契約(C)において,P5銀行は,受託銀行とされている。
また,本件において,P5銀行は,本件LPS(C)のリミテッド・パート
ナーとして,P12と共に,本件GP(C)との間で本件LPS契約(C)を締結
した。
(3)P12
P12は,英国領ケイマン諸島の法令に基づいて設立された同島所在の法
人であり,いわゆる不動産ヘッジファンドである。
本件において,P12は,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーとし
てP5銀行と共に,本件GP(C)との間で本件LPS契約(C)を締結した。
(4)本件GP(C)(P13)
本件GP(C)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社(LLC)である。
本件において,本件GP(C)は,本件LPS(C)のゼネラル・パートナーと
して,リミテッド・パートナーであるP5銀行及びP12との間で本件LP
S契約(C)を締結した。
(5)本件LPS(C)(P23)
本件LPS(C)は,本件LPS法に基づき,本件GP(C)をゼネラル・パー
トナー,P5銀行及びP12をリミテッド・パートナーとして組成された米
国のLPSである。
本件LPS(C)は,P14との間の本件売買契約(C)における買主であり,
また,本件土地賃貸借契約(C)における借主である。
(6)P14
P14は,米国カリフォルニア州所在のLPSである。
P14は,本件LPS(C)との間の本件売買契約(C)における売主であり,
また,本件土地賃貸借契約(C)における貸主である。
(7)P15
P15は,米国カリフォルニア州所在のLPSである。
本件において,P15は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金
として241万4900ドルを融資している。
(8)P16
P16は,米国デラウエア州所在の法人である。
本件において,P16は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金
として3285万ドルを融資している。
(9)P17
P17は,米国カリフォルニア州所在の法人である。
本件において,P17は,本件LPS(C)との間の本件管理契約(C)による
本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務を行う管理者である。
(10)P10
P10は,平成15年7月17日に成立され,P4証券より,同年末に,
その資産コンサルティング部門を営業譲渡された。
P10は,P4証券から原告P2のファイナンシャル・アドバイザーとし
ての業務の譲渡を受け,日本人投資家との間で本件新アドバイザリー契約
(C)を締結し,それに基づいて,投資家のファイナンシャル・アドバイザー
に就任した。
なお,P10は,P12の日本における子会社である。
(11)P11銀行
P11銀行は,米国の法律に基づいて設立された米国西海岸最大の信託銀
行である。
本件において,P11銀行は,P5銀行から本件LPS(C)のパートナー
シップ持分を譲り受けた,本件新信託契約(C)における受託者である。
2契約内容等について
(1)本件アドバイザリー契約(C)(契約①)
本件アドバイザリー契約(C)は,原告P2とP4証券の間で締結された,原告
P2のファイナンシャル・アドバイザーとしてのP4証券が提供する役務の内
容等に関する契約である。
(2)本件基本信託契約(C)(契約②)
本件基本信託契約(C)は,委託者兼受益者である原告P2と受託銀行である
P5銀行の間で締結された契約であり,その内容は,要旨以下のとおりである。
ア原信託財産の拠出
投資家(原告P2)は,P5銀行がその資格で預金受け入れ銀行に開設し
た口座(エスクロー口座)に,本件建物(C)に対する投資となるドルで一定
金額(以下「現金資産(C)」という。)を拠出することを約定した,若しく
は約定する予定である。
投資家は,P5銀行との間でこの信託契約(本件基本信託契約(C))を締
結し,それに基づきP5銀行が,リミテッド・パートナーとして,投資家の
固有の危険と単独の利益において,本件LPS契約(C)を締結して本件LP
S(C)に現金資産(C)を拠出するため,現金資産(C)をP5銀行に譲渡するよ
う指図することを約定した,若しくは約定する予定である。
投資家は,随時,P5銀行に,現金資産(C)を信託財産(以下「原信託財
産」という。)として譲渡し,原信託財産をここに定めるとおり当てること
を欲し,P5銀行は,かかる譲渡を受け,原信託財産を当てて,ここに定め
るその義務を果たす用意がある。
イ受託銀行の任命(1条)
投資家は,これにより,本契約に定める投資家のために受託する者として
行動する「受託銀行」を任命し,「受託銀行」は,この任命を受諾する。
原信託財産の譲渡は,この基本信託契約の条件に従う。
ウ原信託財産の譲渡(2条)
投資家は,随時,P5銀行が承認する様式の通知書(以下「譲渡・指図通
知書(C)」という。)により,P5銀行に対して現金資産(C)の譲渡を承諾す
るように要求することができる。かかる譲渡は,全て投資家,投資家の代理
人としてのP4証券とP5銀行の間で合意した日(以下「クロージング日
(C)」という。)に行うものとする。
エ原信託財産の保有(3条)
クロージング日(C)以降,P5銀行は,原信託財産をP5銀行の名義で,
しかし投資家自身のために,また投資家自身の危険負担と利益において保有
する。
オ本件LPS(C)に対する出資(4.1条)
投資家は,譲渡・指図通知書(C)により,P5銀行に対し,本件LPS(C)
のパートナーシップ持分の発行と引き換えに,リミテッド・パートナーとし
て,当該譲渡・指図通知書に定める現金資産(C)を本件LPS(C)に拠出する
よう指図する。
カパートナーシップ持分等の保有(4.4条)
本件LPS(C)によりP5銀行に対し発行された上記オのパートナーシッ
プ持分,及びそれから発生する全ての所得は,P5銀行がその名義で,専ら
その受託銀行としての資格において,ただし投資家のために,及び専ら投資
家の危険負担と利益において,信託財産として保有する。
キ本件LPS(C)の運営(5.1条)
本件LPS(C)は,本件GP(C)が運営を行い,P5銀行は,本件LPS
(C)に関するいかなる運営業務の遂行,また引き受けの義務を負わない。
本件GP(C)は,とりわけ本件建物(C)の管理(本件建物(C)の入居者とP
17の関係を含む),適用法令の遵守,並びに本件建物(C)の売却(買手の
選別,売却価格の交渉を含む)に責任を負う。
ク議決権(5.2条)
パートナーシップ持分の議決権行使を求められた場合,P5銀行は,パー
トナーシップ持分の議決権の行使方法につき,投資家からの指図を求めるも
のとする。P5銀行は,かかる指図が法令等に違反する場合,同銀行に支払
を負わせる場合又は同銀行が費用,経費,若しくは損失を被るおそれがある
場合には,かかる指図に従うことを拒否することができる。本条項は,指図
がかかる違反を含むか否かを確認する義務を課すものと解釈してはならない。
P5銀行の合理的な意見により,同銀行の利益を保護する必要がある場合に
は,さらに,同銀行は,投資家の指図を拒否する権利,及び,あらゆる場合
に,パートナーシップ持分に与えられた議決権を行使し,又は行使しない権
利を有する。
パートナーシップ持分に付随する議決権行使のために,投資家又はその
指図人に対し委任状を発行することを,投資家がP5銀行に対して要請して
はならないことが明示的に合意された。
ケ分配(5.4条)
パートナーシップ持分に関してP5銀行が受領した,あらゆる配当,及び
その他の分配の純額は,P5銀行がその資金(fullyclearedfund)を受領
した後,2営業日後の価額で,専ら投資家がP5銀行に有する銀行口座に振
り込まれる。本件LPS(C)の追加パートナーシップ持分の分配の場合は,
P5銀行が,かかるパートナーシップ持分を,この取り決めに従い信託財産
として保有する。
コ監視の義務の不存在(5.7条)
投資家は,P5銀行が,本件GP(C)の作為若しくは不作為を監視し,又
は本件建物(C)の状況(法律及び規制状況を含む)を監視する義務を負わな
いことを,了解し,合意した。
サ本契約の期間(14条)
本契約は,7年の確定期間を有する。ただし,各当事者は,書面による3か
月前の事前通知により,確定期間中に本契約を終了することができる。いず
れかの当事者により書面による1か月前の事前通知により終了されない限り,
本契約はその後無期限に存続する。ただし,P5銀行は,確定期間終了後は,
投資家に対し,1か月前の書面による事前通知により,随時辞任することが
できる。
シ準拠法(16.1条)
本契約は,ルクセンブルク法,特に金融機関の信託契約に関する,198
3年7月19日付けの大公勅令に準拠し,それに従って解釈するものとする。
(3)本件LPS契約(C)(契約③)
本件LPS契約(C)は,2000年(平成12年)12月19日付けで,本
件LPS(C)のリミテッド・パートナーであるP5銀行及びP12並びにゼネ
ラル・パートナーである本件GP(C)の間で締結された契約である。
(4)本件売買契約(C)(契約④)
本件売買契約(C)は,本件建物(C)の本件LPS(C)への売却等に関し,20
00年(平成12年)12月22日付けで,本件土地(C)の地主であるP14
及び借地人である本件LPS(C)の間で締結された契約である。
(5)本件土地賃貸借契約(C)(契約⑤)
本件土地賃貸借契約(C)は,本件土地(C)の本件LPS(C)への賃貸借に関し,
2000年(平成12年)12月22日付けで,本件土地(C)の地主であるP
14及び借地人である本件LPS(C)の間で締結された契約である。
(6)本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)(契約⑥)
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)は,本件売
買契約(C)を始めとする,本件不動産賃貸事業(C)に関し,2000年(平成1
2年)12月19日付けで,本件建物(C)の売主であるP14及び買主である
本件LPS(C)の間で締結された契約である。
(7)本件管理契約(C)(契約⑦)
本件管理契約(C)は,本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務に関し,2
000年(平成12年)12月22日付けで,本件建物(C)の所有者である本
件LPS(C)及び本件不動産(C)の賃貸に係る管理者であるP17の間で締結さ
れた契約であり,その内容は,要旨以下のとおりである。
アP17の業務内容
P17は,本件不動産(C)の賃貸業務を管理,運営,監督することを望み,
本契約(本件管理契約(C))に従った本件LPS(C)の指示により,全て本件
LPS(C)を代理して,本契約に規定する取引条件に従って,貸地人である
P14に対して本件土地賃貸借契約(C)に基づき本件LPS(C)の債務を履行
することを望んでいる。
本件LPS(C)は,P17を雇い本件不動産(C)の賃貸業務の管理,運営,
監督を行わせることを望み,本契約の条件に従った本件LPS(C)の指示に
より,全て本件LPS(C)を代理して,本契約に規定する取引条件に従って,
P14に対して本件土地賃貸借契約(C)に基づき本件LPS(C)の債務を履行
することを望んでいる。
イ管理者の権限及び義務(4.01項)
本契約の条項を条件として,P17は,本契約の条件に従って,本件不動
産(C)の賃貸借,運営,監督,維持及び管理する専属的な権限,権利,権能
及び義務があるものとする。本契約にこれと異なる規定のある場合を除き,
本契約に基づき及び年間事業計画又は承認予算に従って,P17によって正
式に負担された債務又は費用は,本件LPS(C)のために,本件LPS(C)の
勘定で,本件LPS(C)に代わって,本件LPS(C)の総支出とすることとし,
P17は,自分の資金をその支払に充てることを要求されない。また,当該
費用及び債務を支払うに足る営業利益が常時存在する限り,本件LPS(C)
は当該あらゆる費用及び債務を負担し支払うことに明示的に同意する。
ウ賃料及び料金の集金(4.04項)
P17は,賃料等を徴収する特定の権限を有する。
P17は,本件不動産(C)の入居希望者に関して通常の信用調査を行い,
それに関する合理的な申込費用を請求するものとする。入居希望者又は本件
不動産(C)の既存の入居者によってP17に払われる全ての申込費用は,本
件LPS(C)のために信託口座(6.01項に規定される)に預けられるも
のとする。
エ保証金(4.05項)
カリフォルニア州法によって課される規制を条件として,6項に従って,
P17は,保証金を徴収し,当該資金を本件LPS(C)によって適宜指定さ
れる口座又は複数の口座に預ける権利及び義務を有する。契約満了時に請求
された場合,P17は入居者の保証金を返金する権限を有する。
オ賃貸人の義務(5.02項)
P17は,当該賃貸借契約が常に有効で,P17の行為又は怠慢を理由と
して賃貸人である本件LPS(C)に対して契約不履行の主張が行われないよ
うに,本件LPS(C)に代わって各賃貸借契約に基づく本件LPS(C)の全て
の義務を実行することに同意し,P17は各賃貸借契約及び変更禁止規則を
厳密に実施することに同意する。
カ徴収及び銀行口座(6.01項)
P17は,本契約に従って本件不動産(C)から得られる全ての金額(入居
者の保証金を含む)を本件LPS(C)に承認された銀行にP17が開設した
信託口座(以下「信託口座(C)」という。)に毎日預けるものとする。信託
口座(C)の全ての資金は,常に本件LPS(C)の独占的資産であるものとし,
他のどのプロジェクトの口座の資金又はP17の資金と混同されないものと
する。本契約によって要求され信託口座(C)に預金された全ての資金は,P
17の管理下にあり,そうあり続けるものとする。
キ報告書(6.02項)
P17は,本契約の期間中各月15日又はそれ以前に,本件不動産(C)の
前月の運営に関する本件不動産(C)の個別報告書を本件LPS(C)及びP4証
券に配布するものとする。
ク管理手数料(8.01項)
本件LPS(C)は,本契約に基づく管理者としてのサービスに対して当初
期間及び更新期間(月の中途の場合適切に按分)の各月の20日に後払で,
管理手数料の支払期日の前月の月次営業利益の3パーセントに相当する額を
管理手数料としてP17に支払うことに同意する。
ケ準拠法(11.06項)
本契約は,法原則間の矛盾にかかわらず,カリフォルニア州内で全面的に
実行される契約に適用可能なカリフォルニア州法に従って作成したものとみ
なし,支配され解釈されるものとする。
(8)本件新アドバイザリー契約(C)(契約⑧)
本件新アドバイザリー契約(C)は,原告P2及びP10の間で締結された,
原告P2のファイナンシャル・アドバイザーとしてのP10の提供する役務の
内容等に関する契約である。
(9)本件新信託契約(C)(契約⑨)
本件新信託契約(C)は,委託者兼受益者である原告P2及び受託者であるP
11銀行の間で締結された契約であり,その内容は,要旨以下のとおりである。
ア本件新信託契約(C)の目的
この契約により,委託者(原告P2)は,P11銀行に,列挙した財産
(P5銀行が保有していた本件LPS(C)パートナーシップ持分)を移転す
る。P11銀行は,本証書(本件新信託契約(C))に記載された条件に基づ
く信託で受領した全ての財産を保有するものとする。
イ初期資産(2.1条)
信託の初期資産は,本件LPS(C)に対するパートナーシップ持分を含む
ものとする。
ウ分配(2.3条)
(a)P11銀行が自らの裁量のみで得策と考える場合又は(b)委託者により
書面で指示された場合は,P11銀行は,委託者に対し,信託が受領し又は
保有する純分配可能額の全部又は一部を分配するものとする。「純分配可能
額」は(a)パートナーシップ利益に関してP11銀行が受領した金額又は(b)
2.7条に準拠してP11銀行が受領した売上金の金額のいずれかの金額を
意味する。
エ議決権(2.6条)
パートナーシップ持分に関して議決を求められた場合,P11銀行は,委
託者に対しパートナーシップ持分に関していかに議決すべきか指示を求める
ものとし,以下の条文に従い,その指示に従うものとする。P11銀行は,
指示が法令等への違反を含む場合,同銀行が支払を行う義務を負う場合,同
銀行が個人的にコスト等を引き受けることになる場合には,委託者の議決指
示に従うことを拒絶することができる。
前文にかかわらず,P11銀行は,議決指示が前文で述べられた論点又は
問題を発生させるか否か確定する積極的義務を負わないものとする。さらに,
P11銀行は,相応の意見において同銀行の権利を保護するために必要であ
る場合には委託者の指示を拒絶する権利,及びいかなる状況においてもパー
トナーシップ持分に付随した議決権を行使し又は行使を控える権利を有する。
委託者は,パートナーシップ持分に付与された議決権の行使にあたり,P1
1銀行に対して,自己宛の又は自己が指示する内容の委任状を発行するよう
求めてはならない。
オパートナーシップ持分の保有及び売却(2.7条)
P11銀行は,信託が終了する時まで,又は委託者がP11銀行に対して
本項の残りの規定に従って当該資産を売却するよう指示する時まで,信託の
資産を分散投資する義務を負うことなくパートナーシップ持分を保持するも
のとする。パートナーシップ契約及び適用可能な法律に従い,及び以下の文
に従い,委託者は,いかなる時でもP11銀行に対しパートナーシップ持分
の全てを指示した購入者に指示した価格及び指示した条件で売却することを
指示することができる。パートナーシップ持分のいずれかの売却と関連して,
P11銀行は,(i)受託者がパートナーシップ持分の法的所有者であること,
(ii)パートナーシップの契約の規定に従いP11銀行はパートナーシップ持
分を売却する権原を与えられていること以外に,何らかの説明又は保証を購
入者に与えるなどの義務を負わないものとする。
カ信託の終了(3.1条)
1.1項(委託者の解約権についての規定)に従う取消し又は全ての信託
財産の売却及び分配の結果としての早期終了ではない場合,信託は,(a)本
証書の実施日付から10年後,(b)委託者の死亡のうちいずれか早期の時点
で終了するものとする。
上記(a)の場合,P11銀行は全ての信託を委託者に分配するものとする。
上記(b)の場合,P11銀行は全ての信託を承継委託者に交付するものとす
る。
キ準拠法(8.1条)
本証書の有効性,解釈及びそれによって創設される信託の管理ならびに分
配に関しては,争訟に関する法律を除き,米国カリフォルニア州法を準拠法
とする。
(10)P5銀行に係る本件LPS(C)のパートナーシップ持分の譲渡に関する契約
(契約⑩)
P5銀行に係る本件LPS(C)のパートナーシップ持分の譲渡に関する契約
は,譲渡人であるP5銀行及び譲受人であるP11銀行との間で締結された
契約であり,その内容は,要旨以下のとおりである。
ア事実の説明
P5銀行は,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーであり,本譲渡さ
れる持分を持っている。
P5銀行は,ルクセンブルクの法律に準拠した信託契約により,受益者
(原告P2)のために受託者として,本譲渡される持分を保有している。
受益者の指示に従い,P5銀行は,本譲渡される持分を譲受人に譲渡し,
パートナーシップから脱退するため,本譲渡証書を作成する。
受益者の指示に従い,譲受人は,本譲渡される持分を受け入れ,譲渡人の
代わりに代替リミテッド・パートナーとしてパートナーシップへの参加の承
認を受けるため,本譲渡証書を作成する。
イ譲渡(2条)
P5銀行は,本譲渡証書により譲渡される持分における同銀行の権利,権
原,持分の全てをP11銀行に売却,割当,委譲,譲渡する。P11銀行は,
本譲渡証書による譲渡を受け入れ,パートナーシップにおいてP5銀行に代
わって受益者のために,信託の受託者として譲受人に認められる範囲で,代
替リミテッド・パートナーとなることに同意する。譲渡される持分の受益所
有権は,本譲渡証書の如何にかかわらず,引き続き受益者に与えられる旨,
承認されている。
ウ代替リミテッド・パートナーとしての任命(4条)
本譲渡証書の日付において,P11銀行は,本譲渡証書により譲渡される
持分に関し,パートナーシップに対してP5銀行と同じ権利と出資率を持つ
代替リミテッド・パートナーとして認められる。
エ脱退(5条)
本譲渡証書の日付において,本譲渡証書3条によりパートナーシップに対
してP11銀行が任命された後直ちに,P5銀行は,パートナーシップから
脱退し,パートナーシップにおけるリミテッド・パートナーではなくなる。
オ脱退と代替の効果(6条)
2条に規定されているように,本譲渡証書による譲渡は,譲渡される持分
の受益所有権には影響せず,受益者は譲渡される持分の受益権所有者のまま
である。
カ権利放棄と同意(9条)
ゼネラル・パートナーである本件GP(C)は,本譲渡証書において,(i)P
5銀行からP11銀行への本譲渡される持分の譲渡,(ii)P5銀行のパート
ナーシップからの脱退,(iii)代替リミテッド・パートナーとしてのP11
銀行のパートナーシップへの参加,に同意する。
本件GP(C)は,本譲渡証書に署名している。

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