弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人山口紀洋が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁
は検察官中野林之助が提出した答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、こ
れらを引用し、これに対して当裁判所は、次のとおり判断する。
 所論のいうところは要するに、原判決は原判示被告人の「免許証の再交付」を受
けた所為が道路交通法(以下「道交法」と略称する)一一七条の三第二号に該当す
るとして被告人を処断したが、免許証の再交付を処罰することは右条号の文言に反
するのみならず、そもそも被告人の本件所為は、運転有資格者が公安委員会に対し
免許証という単なる証明書の「再発行」を申請し、その再交付を受けたに過ぎない
ものであるのに対し、道交法一一七条の三第二号にいう「交付」とは運転資格を有
しない者が偽りその他不正の手段により運転免許証の交付を受けることを意味する
のであるから、両者は本質的にも全く異なつた行為であること、衆議院地方行政委
員会における国務大臣の右条号改正の提案理由説明によれば、同条号は、いわゆる
かえ玉受験等不正手段によつて運転免許証の交付を受けた者を処罰することを目的
として設けられたものであること、その他道交法のような行政取締法規は、自然法
と異なり、市民に倫理感を期待することは不可能であるから、その解釈は厳格でな
ければならないこと等の諸点に照らして考えると、被告人の本件所為は道交法一一
七条の三第二号に該当しないことが明らかであるのに、同条号に該当するとして被
告人を処断した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤り
がある、というのである。
 <要旨>そこで検討するに、道交法一一七条の三第二号は「偽りその他不正の手段
により、免許証……の交付を受けた者」と規定し、「再交付」という文言を
使用していないこと、衆議院地方行政委員会において担当大臣が所論のように右条
号に関する提案理由説明をしていることは所論が指摘するとおりである。しかしな
がら、刑事法における罰則規定の解釈適用にあたつては、当該条文の文言や、その
立法に関与した者の国会等における趣旨説明等を尊重しなければならないことは当
然であるとしても、その解釈は関係者の趣旨説明や条文の文言の形式的な文理解釈
のみにとどまるべきではなく、むしろ当該条文の構成要件の予想する犯罪定型は、
当該条文ならびにその属する法典全体から合理的に導かれるところに従つて決めら
れるべきものである。そして本件についてこれをみるに、道交法一一七条の三第二
号が自動車教習所における不正卒業証明書の発行、免許試験におけるかえ玉受験等
の事犯の予防をはかることを重要な立法趣旨として設けられたものであることは、
右条号の文言自体や前記大臣の提案理由の説明によつて明らかであり、当裁判所も
これを是認するものであるけれども、他方道交法一〇七条一項三号が、免許証を亡
失したため免許証の再交付を受けた免許取得者が再交付を受けた後において亡失し
た免許証を発見し、又は回復した場合に、これをすみやかに公安委員会に返還しな
ければならない旨義務づけ、これに違反した者を処罰する規定(同法一二一条一項
九号)が設けられていることに照らして考えると、道交法は免許を有する者が同時
に二通以上の免許証を所持することを罰則をもつて禁止しようとしていると解する
のが相当であり、また本件のように免許を有する者が先に公安委員会から交付を受
けた免許証を遺失したことがないのにかかわらず、これを遺失したと偽つて、免許
証の再交付申請をして免許証の再交付を受ける行為と、かえ玉試験等の不正手段に
よつて新たに免許証の交付を受ける行為とは、再交付と交付という点で文言上の相
違はあるにしても、行為の態様には何ら差異がないことを考慮すると、被告人の本
件所為は、道交法一一七条の三第二号にいう「不正な手段により免許証の交付を受
けた」場合に該当すると解するを妨げないというべきである。
 また所論は、その主張の根拠として、被告人の本件所為が道交法一一七条の三第
二号に該当するものとすれば、同条の法定刑が懲役又は罰金であるのに対し、これ
と複数の免許証の同時所持という点では違法性に何ら違いのない同法一二一条一項
九号の法定刑が罰金又は科料となつており、前者の法定刑があまりにも重過ぎ、右
の点からみても、本件所為が道交法一一七条の三第二号に該当すると解するのは不
当である、というのであるが、同条号は前記のとおり自動車教習所における不正卒
業証明書の発行、免許試験におけるかえ玉受験等の事犯の予防をはかるため、その
違反者を処罰することを重要な目的としており、その点で法定刑がある程度重くな
ることもやむを得ないと解されること、同法一二一条一項九号は、正当に免許証の
再交付を受けた者がその後たまたま先に亡失した免許証を発見又は回復したにかか
わらず、これを返還しない行為を処罰の対象とするものであるのに対し、同法一一
七条の三第二号は免許証を遺失した事実がないのに、遺失したと偽つて、いわば公
安委員会を欺罔して免許証の再交付を受けるという前者より犯情悪質な行為を処罰
の対象とするものであること、のみならず同法一一七条の三第二号により処罰され
る場合であつても、犯情によつては罰金刑を選択する余地もあることなどの点を考
慮すると、両者の法定刑に差があることをもつて本件所為が道交法一一七条の三第
二号に該当すると解するのは不当であると主張する所論もまた採用することができ
ない。
 以上の次第であるから本件被告人の免許証の再交付を受けた所為が同法一一七条
の三第二号に該当することは明らかであり、したがつて本件につき同条号を適用し
て被告人を処断した原判決には法令の適用の誤りはなく、論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 小松正富 裁判官 千葉和郎 裁判官 鈴木勝利)

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