弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(ネ)第255号 各特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁
判所平成12年(ワ)第3645号,平成13年(ワ)第24199号)(平成14年
9月2日口頭弁論終結)
判         決
      控訴人       株式会社ユタカ・トレンズ
    訴訟代理人弁護士    脇   田   輝   次
       補佐人弁理士  下   山   冨 士 男
      被控訴人       温産業株式会社
       被控訴人       株式会社シガリオ
       両名訴訟代理人弁護士  野   間   自   子
       同           水   沼   太   郎
主         文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは,原判決別紙目録記載の製造プラント(以下「本件プラント」
という。)を使用して,玄米粉(商品名「リブレフラワー」。以下,単に「リブレ
フラワー」という。)を製造し,販売してはならない。
 3 被控訴人らは,その本店,営業所及び工場に存在するリブレフラワーの半製
品及び完成品を廃棄せよ。
 4 被控訴人温産業株式会社は,控訴人に対し,1200万円及びこれに対する
平成12年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 5 被控訴人株式会社シガリオは,控訴人に対し,1200万円及びこれに対す
る平成13年11月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 6 訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 1 控訴人は,名称を「穀物粉の製造プラント」とする発明(特許第26378
94号,以下「本件発明」といい,その特許権を「本件特許権」という。)の特許
権者である。控訴人は,本件プラントが本件発明の技術的範囲に属し,被控訴人ら
の本件プラントを使用したリブレフラワーの製造,販売が本件特許権を侵害すると
して,被控訴人らに対しリブレフラワーの製造,販売の差止め,その半製品及び完
成品の廃棄並びに不法行為による損害賠償を求めている。
 原審は,本件プラントが本件発明の技術的範囲に属さず,リブレフラワーの
製造,販売が本件特許権を侵害しないとして,控訴人の請求を棄却した。
  本件の当事者間に争いのない事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,
次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2
 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
 2 控訴人の当審における主張
  (1) 分離選別手段を具備すべき工程
 本件発明の構成要件Cは,「焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化
物を分離・選別する手段」というものであり,その具体的な手段,構成について何
ら限定がないから,本件発明を構成するいずれかの工程間に上記分離・選別する手
段が具備されていれば,構成要件Cが充足される。
  (2) サイクロンの必要性
 本件プラントに当初存在していたサイクロンは,その後に除去されたが,
本件明細書に記載されたサイクロンは,実施例としてのものであり,特許請求の範
囲に記載されていないから,サイクロンの存在は構成要件Cの充足に必要ではな
い。
 本件プラントの焙煎対象物は糠等が収穫時状態のまま付着している玄米で
あって,本件工場の建築,竣工時に設置された焙煎釜(以下「本件焙煎釜」とい
う。)により,炭化物の発生を防止することは不可能であったため,本件プラント
には,当初,炭化物の分離選別装置として必要なサイクロンが存在していた。
  (3) サイクロンの機能
 本件プラントの建設当初,焙煎された穀物粒から炭化物を分離・選別する
工程(以下「分離選別工程」という。)は,焙煎穀物から炭化物を分離し粉末化す
る工程(以下「分離粉末化工程」という。),穀物粒と炭化粉とを振り分ける工程
(以下「振り分け工程」という。),炭化粉を除去する工程(以下「除去工程」と
いう。)とから構成されており,主として,空気輸送配管が分離粉末化工程を,サ
イクロンが振り分け工程を,パルスエアが除去工程を引き受けており,補完的に,
冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機が除去工程を引き受けていた。したがっ
て,本件プラントにおいて,サイクロンは振り分け機能を果たしていたにすぎず,
冷却タンクも同じ工程を引き受けていた。
 本件プラントからサイクロンが除去され,その位置にパルスエアが移設さ
れたが,その際,本件プラントのその余の装置に変更はなかった。そうすると,本
件プラントからサイクロンが除去された後は,空気輸送配管中で粉末化された炭化
物と穀物粉及び穀物粒のすべてがパルスエアに輸送され,パルスエアのロータリバ
ルブを経由して冷却タンクに移送され,冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機
が除去工程を,専ら引き受けるに至った。
  (4) 本件集塵機の分離選別機能
 本件集塵機において炭化物の分離選別がされているという控訴人の主張の
趣旨は,上記(3)のように,冷却タンクによる振り分け工程の後,最終的に本件集塵
機が除去工程を引き受けているというものであり,空気輸送配管による分離粉末化
工程,冷却タンクによる振り分け工程を当然の前提とするものであって,本件集塵
機が単独で炭化物の分離選別工程を引き受けているというものではない。
  (5) 被控訴人らの仮処分事件における主張
 本件訴訟を本案とする仮処分事件において,被控訴人らの主張は,リブレ
フラワーの製造方法等について転々としており,本件焙煎釜の効果により炭化物の
発生が防止されるという主張も,審理の最終段階で控えめな主張をしたにすぎな
い。また,被控訴人らは,サイクロンを除去した時期を明らかにしていない。この
ような被控訴人らの訴訟態度によれば,サイクロンを除去したというのは,特許侵
害の裁判を受けることを避けるための暫定的なものというべきである。
  (6) 本件工場見学に基づく認定
 原判決は,本件工場見学の際の目視により炭化物の量を認定しており,不
正確である上,その際に焙煎釜が洗浄されていなかったとか,本件集塵機内の残留
物に他の商品の塵が混入したという認定も,根拠のないものである。また,本件工
場見学の際には,使用する玄米の内容,稼働する本件焙煎釜の台数,冷却時間等の
製造条件,製造環境等が通常のものと異なっていたから,本件焙煎釜及び本件集塵
機内に存在した炭化物の量が少なかったことは,炭化物の分離選別工程の存在を否
定する根拠とはならない。むしろ,本件工場見学の結果,本件集塵機の下端バルブ
及び集塵機内部から多量の炭化物が分離選別除去されたことは,炭化物の分離選別
工程の存在を推認させるものである。
 3 被控訴人らの当審における主張
  (1) 分離選別手段を具備すべき工程
 控訴人は,本件発明を構成するいずれかの工程間に分離選別工程が具備さ
れていれば,構成要件Cが充足されるとした上,そのような分離選別工程が存在す
ると主張するが,どの装置がどのようにして炭化物を分離,選別,除去しているの
かについて具体的に主張していない。この点について,控訴人が具体的に主張し得
ないのは,実際にはこのような工程が存在しないからである。
  (2) 本件集塵機の分離選別機能
 控訴人は,本件焙煎釜の効果に関して主張するが,科学的根拠を欠く控訴
人の憶測にすぎない。焙煎された穀物粒に炭化物が含まれていても,その量が微量
であれば,炭化物を分離,除去する必要はない。本件工場見学の際と実際の操業時
とで,製造条件,製造環境等の相違はなく,これらが相違するという控訴人の主張
も根拠を欠く。
  (3) 本件工場見学に基づく認定
 本件工場見学の際に本件集塵機から採取されたサンプルは,薄い黄土色で
あり,一見して炭化物ではなかった。各サンプルの炭素含有比率は,焙煎後,集塵
機内残留物,製品について,それぞれ,44.1wt%,47.4wt%,43.0wt%であり,本件集
塵機に炭化物を分離,選別,除去する機能が全くないことは明らかである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人の被控訴人らに対する請求は理由がないものと判断する
が,その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3
 当裁判所の判断」のとおり(ただし,原判決9頁20行目の「炭化物の」を「炭
化物を」に,同頁25行目の「分離装置によって,炭化物を」を「分離装置によ
り」にそれぞれ改め,同13頁21行目の「分離」の次に「,選別」を加える。)
であるから,これを引用する。
 2 控訴人の当審における主張について
  (1) 分離選別手段を具備すべき工程
 本件発明の構成要件Cは,「焙煎手段によって焙煎された穀物粒から炭化
物を分離・選別する手段」というものであるから,控訴人の主張するとおり,分
離・選別する具体的な手段,構成について何ら限定されるものではない。
 しかしながら,構成要件Cは,本件発明の構成要件の一部であるから,本
件発明の他の構成要件との関係によりおのずから限定を受けるものである。すなわ
ち,本件発明は,穀物粒の水洗・計量手段(構成要件A),焙煎手段(構成要件
B),分離・選別手段(構成要件C)及び粉砕手段(構成要件D)を構成要件とす
るが,焙煎手段は水洗・計量された穀物粒を焙煎する手段,分離・選別手段は焙煎
された穀物粒を分離・選別する手段,粉砕手段は分離・選別された穀物粒を粉砕す
る手段であるから,本件発明は,水洗・計量工程,焙煎工程,分離・選別工程,粉
砕工程という一連の工程から成ることを要すると解するのが,本件明細書の特許請
求の範囲の文理に添うものであり,発明の詳細な説明の記載等にも,これと別異に
解すべき根拠は見いだされない。そうすると,単に構成要件A~Dに相当する工程
を具備するというだけでは,当該方法が本件発明の技術的範囲に属するということ
はできないのであって,構成要件Cである分離選別工程が焙煎工程と粉砕工程の間
にあることが必要であると解するほかはない。
 したがって,本件発明を構成するいずれかの工程間に分離選別工程が具備
されていれば構成要件Cが充足されるとの控訴人の主張については,これを採用す
ることができない。以下,これを前提として,構成要件Cの充足性について判断す
る。
  (2) サイクロンの必要性
 サイクロンは,本件明細書の特許請求の範囲に記載されておらず,また,
発明の詳細な説明を参酌しても,サイクロンの存在が構成要件Cの充足に必要であ
ると解すべき根拠はない。これと同旨をいう控訴人の主張は,その限りにおいて首
肯し得るが,他方,控訴人は,本件焙煎釜が炭化物の発生を防止することが不可能
であったとか,本件プラントに当初サイクロンが存在していたのはそのためである
と主張するが,本件焙煎釜が炭化物の発生をどの程度防ぐ効果を奏するか,また,
その効果が不十分であるかどうかについては,これを証明する的確な証拠はない。
そうすると,本件プラントにサイクロンが必要であったとか,サイクロンが除去さ
れた後これに代わる装置が本件プラントに設置された事実を推認することはできな
い。
  (3) サイクロンの機能
 控訴人は,分離選別工程が,分離粉末化工程,振り分け工程及び除去工程
から構成されているとした上,振り分け工程を主として引き受けていたサイクロン
が除去され,その位置にパルスエアが移設された後は,空気輸送配管中で粉末化さ
れた炭化物と穀物粉及び穀物粒のすべてがパルスエアのロータリバルブを経由して
冷却タンクに移送され,冷却タンクが振り分け工程を,本件集塵機が除去工程を専
ら引き受けるに至ったと主張する。
 しかしながら,本件プラントにおいて,分離選別工程が上記3工程から構
成されるとか,その中でサイクロンが振り分け工程を主として引き受けていたこと
を証明する的確な証拠はなく,このような工程の構成及びサイクロンの機能につい
ての主張は,証拠の裏付けを欠き,控訴人の単なる推測の域を出るものではない。
したがって,本件集塵機の機能に係る控訴人の主張は,これらの工程の構成及びサ
イクロンの機能を前提とするものであるから,同様に証明を欠くといわざるを得な
い。
  (4) 本件集塵機の分離選別機能
 また,控訴人は,本件集塵機において炭化物の分離選別がされているとい
う趣旨は,分離選別工程の最終段階である除去工程を本件集塵機が引き受けている
というものであり,本件集塵機が単独で炭化物の分離選別工程に該当するというも
のではないと主張する。しかしながら,上記のとおり,この控訴人の主張について
前提となる上記(2)及び(3)の主張事実は証明されておらず,本件集塵機が炭化物の
分離選別工程の最終工程である除去工程を引き受けているとの主張は,その前提を
欠くものといわざるを得ない。さらに,上記引用に係る原判決11~12頁(3)にお
いて認定するとおり,本件集塵機は,焙煎穀物が製品になるライン上に位置するも
のではなく,不要物である粉塵を含んだ排気の排出過程に位置し,また,本件集塵
機に充てんされたフィルターは,その構造から炭化物の分離,選別ができるような
機能を備えていないのであるから,本件集塵機が分離選別工程の最終工程である除
去工程を引き受けているとは認め難い。
  (5) 被控訴人らの仮処分事件における主張
 なお,控訴人は,本件訴訟を本案とする仮処分事件における被控訴人らの
主張が転々としているなどとして,被控訴人らの訴訟態度について主張するが,上
記(2)ないし(4)のとおり,控訴人の主張事実が証拠による裏付けを欠く以上,仮処
分事件において被控訴人らの主張が変遷しているからといって,上記(1)ないし(4)
の認定判断は何ら左右されない。また,本件訴訟において控訴人が主張する本件プ
ラントは,サイクロンが存在しないものであって,これが本件審理の対象であるか
ら,本件プラントにおいてサイクロンが除去された経緯については,本件プラント
の構成要件C該当性の判断に何ら影響するものではない。
  (6) 本件工場見学に基づく認定
 加えて,控訴人は,原判決が本件工場見学の際の目視により炭化物の量を
認定しているなどとしてその認定を非難し,また,その際の製造環境等が通常のも
のと異なっていたと主張する。しかしながら,上記(2)及び(3)のとおり,控訴人の
主張事実が証拠の裏付けを欠くこと,上記(4)のとおり,本件集塵機は,焙煎穀物が
製品になるライン上ではなく不要物である粉塵を含んだ排気の排出過程に位置し,
そのフィルターが炭化物の分離,選別ができるような機能を備えていないことに照
らすと,仮に,控訴人の主張するように,本件焙煎釜及び本件集塵機内に存在した
炭化物の量が通常の製造環境の下におけるより少量であったとしても,本件プラン
トの製造工程等が不明であることに変わりはなく,本件プラントが構成要件Cを充
足するという控訴人の主張事実を証明することにはならない。
3 結論
以上のとおり,控訴人の被控訴人らに対する請求を棄却した原判決は相当で
あって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
            裁判長裁判官   篠   原   勝   美
               裁判官   岡   本       岳
               裁判官   長   沢   幸   男

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛