弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,被控訴人らが,吹田市公文書公開条例(昭和61年吹田市条例第32
号,以下「本件条例」という。)5条に基づき,控訴人に対し,財団法人大阪府千
里センター(以下「千里センター」という。)が吹田市内に所有する物件(登記簿
上大阪府名義のものを含む。)に係る固定資産税に関する文書類の公開を請求した
ところ,控訴人が本件条例6条1項6号に定める非公開事由に該当することを理由
として,請求に係る文書を公開しない旨の決定(以下「本件非公開決定」とい
う。)をしたため,被控訴人らが,これを不服として本件非公開決定の取消しを請
求したものである。
1 本件条例の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,後記2,
3のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由第2の1ないし3に記載のとおり
であるから,これを引用する。
2 控訴人の主張
(1) 地方税法22条の趣旨について
 原判決は,地方税法22条の趣旨について,「地方税の賦課徴収に必要な限度を
越え,私人の秘密が漏示されることはプライバシーの権利を侵害することとなるた
め,このような基本的人権の侵害を未然に防止することを目的として規定されたも
のと解される」として,同条の趣旨をもっぱら納税者等のプライバシー保護に求め
ている。しかし,同条の趣旨は,税務行政の円滑適正な執行を確保し,徴税システ
ム全体を保護することにもある。租税事務に従事する者が,国家公務員法や地方公
務員法によって守秘義務を課されているにもかかわらず,地方税法等の租税法が罰
則を加重しているのは,税務調査によって得られた納税者等の秘密が外部に漏示さ
れるとなると,納税者等の協力が期待できなくなることを慮ったからであり,税務
行政秩序を維持し,確保しようとしたからにほかならない。納税者等のプライバシ
ー保護と徴税システム全体の保護はいわば表裏一体の関係にあるのであって,後者
の保護も軽視できない。租税行政庁において,租税資料開示禁止の原則が定められ
ていることを思い致すべきである。
 したがって,本
件における具体的判断に当たっても,税務行政秩序の維持・確保という側面が重視
されるべきである。
(2) 本件における具体的判断について
ア 納税通知書又はこれに代わるものについて
(ア) 原判決は,「名寄帳兼課税台帳がこれに当たるとしたうえ,課税対象の不
動産の所有者が明らかになる情報,不動産の評価額,課税標準額等の不動産の価値
及び固定資産税額が明らかになる情報は,地方税法22条の秘密の定義に当たる
が,千里センターは,大阪府が100パーセント出資している財団法人であり,そ
の役員構成や経営状況が公開されていることからすれば,その高い公益性・公共性
からして,所有不動産の評価等に関する情報を他人に知られたくないことについて
客観的に相当の利益を有しないものであり,同条にいう秘密に該当する情報を記載
した文書とは認められない。」とする。
(イ) しかし,地方税法22条の趣旨は,前記のとおり,納税者等のプライバシ
ー保護の目的に尽きるものではなく,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視
すべきであるから,千里センターに公共的性格があるからといって、同条にいう秘
密にはあたらないというような「例外的扱い」は許されないというべきである。ま
た,千里センターは,地方自治法1条の3にいう普通地方公共団体たる大阪府の出
先機関ではなく,民法34条にいう財団法人であるところ,公益法人とはいえ,事
業内容としても一般の私法人と変わらない面もあるから,その意味でも,「例外的
扱い」は許されない。
(ウ) なお,納税通知書は,納税義務者に送付されており,控訴人の手元にない
から,公開は不可能である。
イ 経緯説明書又は事情説明書について
(ア) 原判決は,これらの文書には,地方税に関する調査事務の過程で得られた
私人の秘密が含まれている可能性があるが,控訴人において,各文書がどのような
文書から成り立っているか,各文書につき地方税法22条にいう秘密が含まれてい
るか,秘密を含む文書についてそれ以外の部分を公開することができないかどうか
を具体的に主張・立証していないとする。
(イ) しかし,控訴人が当審で提出した乙3ないし5によれば,これらの文書に
地方税法22条にいう秘密が含まれていることは明らかである。
ウ 往復文書類について
(ア) 原判決は,控訴人の主張だけでは,地方税法22条にいう秘密が含まれて
いるかどうか判断できないとする。
(イ) 
しかし,控訴人が当審で提出した乙6によれば,これらの文書に地方税法22条に
いう秘密が含まれていることは明らかである。
エ 本件条例2条1項文書について
(ア) 原判決は,これらの文書も,地方税法22条の秘密の定義に当たるが,前
記アの文書と同様,千里センターの高い公益性・公共性からして,他人に知られな
いことについて客観的に相当の利益を有しないものであり,同条にいう秘密に該当
する情報を記載した文書とは認められないとする。
(イ) しかし,前記アのとおり,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視す
べきであり,千里センターに公共的性格があるからといって、「例外的扱い」をす
べきではない。
3 被控訴人らの主張
(1) 原判決は,地方税法22条にいう「秘密」について,「税務調査事務過程
において知り得た情報のうち,いわゆる実質秘,すなわち一般に知られていない事
実であって,本人が他人に知られないことについて客観的に相当の利益を有するも
のをいうと解されるところ,これに該当するといえるためには,実施機関において
当該情報が一般に知られておらず,かつ,本人が他人に知られないことについて客
観的に相当の利益を有することを主張・立証する必要がある」とするが,控訴人
は,原審において,この見解に反論せず,本件公開文書の公開がプライバシーの侵
害にならないことを容認してきたものであるから,原判決の指摘に基づいてプライ
バシーの侵害に関する主張・立証をすることは時機に遅れたもので許されない。
(2) 控訴人は,当審において,乙1(納税通知書の見本),乙2(名寄帳兼課
税台帳の見本),乙3((財)吹田センター所有地の課税・非課税・減免地積等一
覧表の見本),乙4((財)吹田センター所有地の減免等判断基準一覧の見
本」),乙5((財)吹田センター所有家屋課税・非課税床面積等一覧の見本),
乙6(回答書の見本)を提出したが,これらによっても,控訴人の主張に理由があ
るとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件非公開決定は,違法な処分であり,その取消しを認めるべき
ものと判断するが,その理由は,後記2のとおり改めるほか,原判決の事実及び理
由第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
2(1) 原判決の事実及び理由第3の2の11行目「被告」から14行目「でき
ない。」までを「この点について,控訴人は,「同条の趣旨は,税務行政の円
滑適正な執行を確保し,徴税システム全体を保護することにもあるとし,租税事務
に従事する者が,国家公務員法や地方公務員法によって守秘義務を課されているに
もかかわらず,地方税法等の租税法が罰則を加重しているのは,税務調査によって
得られた納税者等の私人の秘密が外部に漏れるとなると,納税者等の協力が期待で
きなくなることを慮ったからであり,税務行政秩序を維持し,確保しようとしたか
らにほかならない。」旨主張する。確かに,納税者等の私人の秘密と徴税システム
全体の保護は無縁なものではなく,納税者等の私人の秘密を保護することにより税
務行政秩序が守られるという側面もあるので,同条が税務行政秩序の維持・確保に
資するものであることは否定できないが,法形式並びに同条の法意及び文言に照ら
すと,それは間接的・副次的な産物にすぎず,地方税法等の租税法が罰則を加重し
ているのは,一般の公務員に比して,租税事務に従事する者は,その職務を遂行す
る過程において,私人の秘密をより多く知りうる地位にあり、また,知ることが必
要であるところから,納税義務者等の私人の秘密を侵害するおそれが高いことを配
慮したからであって,控訴人主張のような事由によるものとはいえない。」と改め
る。
(2) 原判決の事実及び理由第3の3(1)の26行目の末尾に「この点につい
て,控訴人は,「地方税法22条の趣旨は,納税者等のプライバシー保護の目的に
尽きるものではなく,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであるか
ら,千里センターに公共的性格があるからといって、同条の秘密にあたらないとい
うような「例外的扱い」をすべきではないし,また,千里センターは,公益法人と
はいえ,事業内容としても一般の私法人と変わらない面もあるから,その意味で
も,「例外的扱い」は許されない。」旨主張するが,同条の趣旨は,納税義務者等
の私人の秘密を保護するものであって,税務行政秩序の維持・確保は間接的・副次
的な産物にすぎず,控訴人主張のように,「事業内容としても一般の私法人と変わ
らない面もある。」というのみでは,いまだ千里センターが他人に知られないこと
について同条によって保護されるに値する権利利益を有するとは認められないか
ら,控訴人の上記主張は失当である。なお,控訴人は,千里センターの「納税通知
書」及び「名寄帳兼課税台帳」の内容が地方税法22条の秘密に該当することを証

る証拠として,納税通知書の見本(乙1)及び名寄帳兼課税台帳の見本(乙2)を
提出したが,これらによっても,「納税通知書」及び「名寄帳兼課税台帳」に,同
条にいう秘密が記録されているとは認められない。」を加える。
(3) 原判決の事実及び理由第3の3(2)の17行目から32行目までを削除
し,「この点について,控訴人は,①「財団法人大阪府千里センターが,現に所有
する土地の課税・非課税・減免の判断等について」(平成10年12月15日文書
番号第469号)及び②「財団法人大阪府千里センターが,現に所有する家屋の課
税・非課税の判断等について」(平成11年3月17日文書番号第648号)の内
容が地方税法22条の秘密に該当することを証する証拠として,「(財)吹田セン
ター所有地の課税・非課税・減免地積等一覧表の見本」(乙3),「(財)吹田セ
ンター所有地の減免等判断基準一覧の見本」(乙4),「(財)吹田センター所有
家屋課税・非課税床面積等一覧の見本」(乙5)が上記①,②の文書の見本である
とし,これらを提出したが,これらによっても,上記①,②の各文書に同条にいう
秘密が記録されているとは認められない。」を加える。
(4) 原判決の事実及び理由第3の3(3)の7行目から9行目までを削除し,
「この点について,控訴人は,「財団法人大阪府千里センター所有の土地に対する
照会について」(平成10年3月4日文書番号第555号)及びその回答(平成1
0年3月20日大阪府千里センター発の千管第361号)の内容が地方税法22条
の秘密に該当することを証する証拠として,「回答書の見本」(乙6)が上記回答
書の見本であるとし,これを提出したが,これによっても,その文書に同条にいう
秘密が記録されているとは認められない。」を加える。
(5) 原判決の事実及び理由第3の3(4)の11行目の末尾に「なお,控訴人
は,税務行政秩序の維持・確保という側面を重視すべきであり,千里センターに公
共的性格があるからといって、例外的扱いをすべきではないと主張するが,前示の
とおり,同条の趣旨は,納税義務者等の私人の秘密を保護するものであって,税務
行政秩序の維持・確保は間接的・副次的な産物にすぎないから,控訴人の主張は,
その前提を欠くものというほかなく,採用の限りでない。」を加える。
3 結  語
 以上によると,本件非公開決定は,違法な処分であり,その取消しを
認めた原判決は相当である。よって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判
決する。
大阪高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 大谷種臣
裁判官 佐藤嘉彦
裁判官 和田真

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