弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人高橋武夫の控訴趣意は記録編綴の同趣意書記載のとおりであるから茲にこ
れを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 供出割当数量が実収高を超過する場合にはその超過部分については供出義務はな
いものと解すべきであるが、しかし所定の手続を経て一旦決定された割当数量から
所論のように自家保有米に相当する数量を控除しその残量を供出すれば足るとする
が如き規定は食糧管理法上全然なく食糧管理法の建前としては割当数量が実収高を
超過するが如き場合を除き正規に決定された割当数量は一応その全量を供出せねば
ならないものと解する<要旨>外はないのである。(昭和二六年(れ)第九七八号同
年一二月七日最高裁判所判決参照)所論の食糧管理法施行規則第三条の二は
生産数量が保有数量に満たない生産者即ちいわゆる飯米農家に対する供出割当に関
する特別規定であつて、本件被告人のように生産数量が保有数量を遥かに超過する
生産者に対し適用さるべき規定でないことはその文理に徴するも明らかなところで
あるから右規定があるからと言つて前記の解釈を左右するに足らないのである。と
ころで本件において正規の手続を経て決定された被告人に対する昭和二四年度産米
の最終供出割当数量は一四石二斗七升であることは記録により明らかなところであ
るが、この点に関し所論は同年度の被告人の実収は自家の保有米二石七斗一升七合
を差引いた残りが一一石三斗六升五合しかなく即ち一四石八升二合しか実収はなか
つたと主張するのであるけれども、原判決挙示のa村二ヶ村組合村長A作成の昭和
二四年産米供出未完了者調書検察事務官作成の差押調書の各記載と原審証人B、
C、D、E、当審証人A、F、Bの各供述を綜合すると、同年度における被告人の
実取高は少くも一四石九斗九升以上(右数字は災害による免責調査の際における実
収査定委員会の査定数量で被害を最大限度に見積つた数量である)であつたことが
認められ、右認定を覆し被告人の前記主張を肯定するに足る証拠は存しないところ
である。従つて右のように供出数量が実収高を超過したものでない以上被告人は前
記一四石二斗七升全部の供出を拒否することはできないものといわねばならない。
更に所論は保有米を割かなければ供出の完遂ができないような割当を為しその一部
が未完了になつたとて食糧管理法に触れるというのであつては憲法に保障する基本
的人権たる生存権に対する侵害であつて憲法違反であると主張するけれども当審証
人A、Bの供述等によつても明らかなように、若し保有米が真になくなればいわゆ
る還元配給の方法によつて配給を受ける途が存して居り、現に被告人の部落等にお
いても多数の生産者が還元配給を受けている事実が認められるところであるし、又
食糧管理法は憲法に違反するものでないことは既に昭和二三年一二月八日最高裁判
所の判例(昭和二二年(れ)第三四二号)の示すとおりであつて、同法の目的を達
成するため供出義務の不履行者に対し刑罰を以て臨むことも已むを得ないところで
あるというべく右は何等憲法に違反するものではない。所論はすべて独自の見解で
あつて採用し難い。
 よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却すべきものとし、当審におけ
る訴訟費用につき同法第一八一条第一項に従い主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 秋元勇一郎 判事 尾坂貞治 判事 高橋英明)

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