弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人大竹武七郎、同小石幸一、同河野富一の各上告趣意は末尾に添えた書面記
載のとおりである。
 弁護人大竹武七郎の上告趣意(一)および(二)について。
 原判決摘示事実とその引用の証拠、特に原審における証人Aの訊問調書中同人の
供述記載、三原長作に対する昭和二三年五月二二日附検事聴取書中の同人の供述記
載、昭和二三年八月六日第一審第三回公判調書中証人Dの供述記載、Eに対する昭
和二三年五月二七日附検事聴取書中の同人の供述記載、昭和二四年押第五二号の九
(B労働組合労働協約の写)の記載、その他の証拠によれば、「C工業、B木材お
よびF鑄造所の各従業員は、判示の事情により昭和二二年七月頃からB労働組合な
る所謂單一組合を組織し、B木材の工場の従業員とC工業のG工場の従業員とは合
一してB労働組合G支部を結成し、なおB労働組合は同年一一月下旬H労働組合に
加入し、同組合I支部J分会と称したものであつて、B労働組合は單一組合である
こと、C工業、同木材およびF鑄造所と右B労働組合との労働協約によれば、右三
会社の連合体(以下單に会社と略称する。原判決に会社というもこの意味であるこ
と明らかである)とB労働組合のみが労働協約の交渉団体であること、および右会
社の事実上の意思決定は被告人によつてなされ、判示Aは前記H労働組合I支部J
分会の副組合長、兼B労組G支部長であつたところ、昭和二二年一一旦二一日に開
催されたB労働組合と会社との経営協議会の席上、組合側が会社の生産計画の説明
を求めたところ、会社側は突然C工業、同木材、F鑄造所の全工場の閉鎖を宣言し、
組合側はこれに反対し、全組合員の応援を求め、会社側と折衝の結果、会社側はB
木材とF鑄造所の各工場の閉鎖宣言は撤回したが、同月三〇日頃C工業のG工場と
K工場の工場閉鎖を組合側に通告してきたゝめ、組合側は組合大会を開き三会社各
工場の事業継続を要求し、同年一二月一、二日頃から会社に対し争議に入り、組合
側はC工業G工場の入口に柵を作り、同工場と、同会社K工場、L工場は作業を停
止したが、B木材とF鑄造所は依然作業を継続していたものである。しかしながら、
B木材の従業員も前記のように組合が單一であるところからこの争議に参加し、A
は組合長に代つて右争議を指導したのである。そうして争議の結果、組合側はC工
業の各工場の閉鎖を承認し、B木材とF鑄造所は作業を継続することゝし、争議費
用は会社の負担ときまつた事実」を原審は認めたことが窺われるのである。果して
しからば、本件争議の際直接作業を停止したのは所論のとおりC工業の各工場のみ
であつて、B木材、F鑄造所の各工場は作業を継続していたとしても、組合側にお
いて特別の意思表示のない限り(この事情は原判決の認定しなかつたところである)
本件において労働争議は單に直接争議の原因となつたC工業のみでなく、B木材、
F鑄造所にも共通のものであつたというべきである。なお、所論に援用する各証拠
は原審の採用しなかつたところであるされば、原判決挙示の証拠によれば、所論の
B木材、F鑄造所にも争議のあつたことを認め得るのであるから、論旨はいずれも
理由がない。
 同(三)について。
 原審は原判決引用の証拠、特に原審における証人Aの証言、第一審における証人
Mの供述記載、原審における証人Dの供述、および同人の第一審第三回公判調書中
の供述記載その他の証拠によつて、被告人が昭和二三年二月一六日Aを同人が判示
の争議行為をしたことを理由として解雇した事実を認定しているのであつて、右認
定が実験則に違背するものとは認められない。そうしてAに対する解雇の原因とし
て、たとえ同人の勤務するB木材の経営不振による過剰人員の整理の事実があつた
としても、その解雇にして同人の判示争議行為をしたことが条件となつている限り、
昭和二四年法律第一七五号による改正前の労調法第四〇条にいわゆる争議行為をし
たことを理由として解雇したものというを妨げない。次にまた、原判決引用の前掲
各証拠は、右各証人が自らそれぞれ見聞した事実に因り同人等が推測した事実を供
述したものであつて、單純な想像または風聞による推測に関するものではないから、
原審がこれを証拠としたことに違法はない(昭和二三年(れ)第九〇一号、同年八
月九日第一小法廷判決参照)。
 同(四)について。
 第一審第三回公判調書中、第二五九丁と第二六〇丁との間に立会書記の契印がな
く、しかも原判決の引用した第一審における証人Dの供述部分が正に右丁数に当る
部分に記載されていること所論のとおりであるが、公判調書に立会書記の契印を欠
く場合と雖も、直ちに以て右公判調書の無効をきたすものではなく、裁判所は諸般
の情況を勘案してその調書の成立および内容の眞否を判断して、その自由裁量によ
つてその効力の有無を判定すべきものである(昭和二三年(れ)第一二七七号、同
年一二月一八日第二小法廷判決)。 そして記録を調べてみると、右公判調書の二
五八丁裏と二五九丁表との間、および二六〇丁裏と二六一丁表との間には立会書記
の契印があり、右二五九丁の表と裏、および右二六〇丁の表と裏はおのおの表裏一
体をなし、その調書記載の筆跡も同一と認められるから、右公判調書はその末尾に
署名捺印した裁判所書記Nが正当に作成したものと認むべく、その証拠力において
何ら欠くるところはない。
 同(五)について。
 原審は所論の各証人の証言を証拠として採用せず、また被告人のAに対する解雇
が昭和二三年二月一六日以前であつたとの事実は認定しなかつたところである。所
論は原審裁判官の自由裁量に委ねられている証拠の証明力に対する判断を非難する
に帰し、採用することができない。
 同(六)について。
 論旨は原審の採用しなかつた所論各証拠に基いて、原判決引用の昇給計算書、越
年資金計算書の証明力に対する原審裁判官の判断を非難するものであつて、理由が
ない。
 なお、論旨は、原審は以上論旨(三)乃至(六)において主張するように、違法
な各証拠を綜合して事実を認定したものであつて、到底破棄を免れないと言つてい
るが、論旨(三)乃至(六)の理由がないことは以上説明したとおりであるから、
この論旨もまた理由がない。
 同(七)について
 本件労働争議が單にC工業にのみ存したものではなく、被告人の勤務するB木材、
およびF鑄造所にも共通するものであり、その当事者はB労働組合と会社であつた
ことは、既に論旨(一)および(二)において説明したところである。そして、所
論の、本件争議行為の当時、F鑄造所従業員は單一組合たるB労働組合を脱退し、
Aの勤務するB木材株式会社の従業員は争議目標なく、争議不参加の態度を明確に
しており、結局本件争議行為当時においてはB組合なる單一労働組合は存在しなか
つたとの事実は、原審の認定しなかつたところである。次に、被告人がAを解雇し
たのは昭和二三年二月一六日であつて、それは同人が判示の争議行為をしたことを
理由とするものであること、既に論旨(一)、(二)および(三)において説明し
たところであり、また原審の適法に確定した事実である。従つて原審が、被告人の
判示所為を昭和二四年法律第一七五号による改正前の労調法第四〇条を以て処断し
たことは正当である。所論は結局原判決に副わない独自の事実を主張して、原審の
事実認定、法律判断を非難するに帰し、採用することができない。
 弁護人小石幸一の上告趣章第一点について。
 論旨は事実誤認の主張であつて適法な上告理由とならない。
 同第二点の(一)について。
 論旨は、労働争議のあつたのはC工業のみであるのに、原判決は虚無の証拠によ
つてB木材、F鑄造所にも争議があつたとしたもので、理由不備の違法があると言
うのであつて、その理由がないことは大竹弁護人の論旨(一)および(二)におい
て説明したとおりである。
 同第二点の(二)について。
 論旨は、原審はAに対する解雇の理由について、原判決引用の証拠によつて判示
のように認定したが、その証拠の採用について採証法則違背の違法があると言うの
であつて、その理由がないことは大竹弁護人の論旨(三)において説明したとおり
である。
 なお、論旨は、原審が原審証人の供述を採用せずに該証人の第一審および検事に
対する供述記載を採用したことを以て、採証法則違背であると主張するが、証拠の
取捨判断は事実審たる原審の裁判官の自由裁量に委ねられているところであるから、
原審が原審証人の供述を採用せず、該証人の第一審における供述記載、またはその
検事聴取書中の供述記載を採用したからといつて、何ら違法はない。また、第一審
公判調書中の証人の供述の記載内容が虚偽であるという証拠はなく、第一審におけ
る各証人は原審においていずれも再訊問されていること記録上明らかであるから、
この点の論旨も、結局原審の証拠の採否を争うものであつて理由がない。
 同第二点の(三)について。
 原判決摘示事実はその引用の証拠と対照して読めば、B木材その他二会社の取締
役社長または代表社員であり、これ等の会社の職員および従業員に対する人事権を
掌握している被告人が、昭和二二年一二月初旬から同二三年二月七日までの前記三
会社の労働争議に当り、B木材の従業員であるAが判示B労働組合の組合長代理と
して争議行為の指導をした(原審が何を以て右争議行為の内容たる行為と判示した
かは前記大竹弁護人論旨(一)及び(二)についての説明参照)ことを理由として、
同人を解雇したことおのずから明らかである。そして改正前の労調法四〇条違反の
判示方法としては、使用者がその雇傭中の労働者を同人がした争議行為を理由とし
て解雇したことを判示すれば足るものであつて、所論のように争議の内容まで詳細
に判示するとか、被解雇者がその争議の際如何なる行為を担当したか、或いはまた、
使用者がその行為を不快に思つて解雇したものであるとの事実まで判示する必要は
ない。されば論旨は理由がない。
 同第三点について。
 検事の公訴事実も、原審の認定した事実も共に、被告人が判示Aを同人が争議行
為をしたことを理由として昭和二三年二月一六日解雇したことには変りがないので
あつて、唯両者はAのした争議行為の法律判断およびその回数において異るに過ぎ
ないものであるから、改正前の労調法四〇条に違反する解雇としては單一かつ同一
の事実と認むべきである。されば、原審には原判の請求を受けない事件について審
判した違法はない。なお、論旨の理由ないことについての詳細は、
 弁護人河野富一の上告趣意第八点において説明するとおりである。
 同第四点について。
 改正前の労調法四〇条は、労働者が雇傭関係のない他の事業場における争議行為
に関与することまでを保護するものでないことは、所論のとおりであるが、原審は
本件においてAの勤務するB木材にも争議のあつたことを認定し、同人が右争議に
当り争議行為をしたことを理由として被告人が同人を解雇したという事実を、被告
人に対する本件犯罪行為としているのであるから、それが改正前の労調法四〇条に
該当すること明らかである。所論は、B木材に争議のなかつたことを前提とするも
のであつて採用することができない。
 弁護人河野富一の上告趣意第一点について。
 論旨は、原審が漫然Aに争議行為があると判示し、その具体的説明をしないのは
理由不備であると言うのであるが、その理由がないことは大竹弁護人論旨(一)お
よび(二)において説明したとおりであつて、更に附言すると、原審は、本件労働
争議の当事者は判示三会祉の聯合体である労働協約にいわゆる会社と、右三会社の
全従業員を以て組織するB労働組合であつて、B木材にもその争議は共通であつた
こと、その争議の目的は会社側の工場閉鎖反対、但し直接にはC工業の各工場の閉
鎖反対であつたこと、争議行為の内容とせられる行為は組合側によるC工業の各工
場の作業の停止であつたことを判示しているのである。なお、論旨にいう労働争議
の当事者としての従業員とは個々の従業員ではなく、団体交渉権の主体としての従
業員その他を以て組織された労働組合である。従つて個々の従業員についてたとえ
争議行為がなくても、その従業員の属する労働組合に争議行為があれば、その事業
場に労働争議があつたものといえるのである。されば論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決には被告人のAに対する判示解雇が同人の争議行為を理由とする
ものであることについて、適確な理由を示さない理由不備の違法があると言うので
あつて、その理由がないことは大竹弁護人論旨(一)、(二)および(三)におい
て説明したとおりである。
 同第三点について。
 論旨は、Aの勤務するB木材に労働争議があつたとした原判決は、事実誤認また
は法律の解釈を誤つた違法があると言うのであつて、その理由がないことは大竹弁
護人論旨(一)および(二)において説明したとおりであるが、更に個々の論旨に
ついて附言すると、
 その(一)について。
 たとえB木材の従業員と同会社との間に主張の対立がなかつたとしても、同会社
従業員の加入する單一組合であるB労働組合と労働協約にいわゆる会社との間には、
C工業の各工場の閉鎖をめぐつて主張の対立のあつたこと、原審の判示するところ
である。そして団体交渉の当事者が單一組合と單一会社(大竹弁護人論旨(一)お
よび(二)においての説明参照)である以上、その單一組合、單一会社に属する各
支部組合、各支部会社はそのうちいずれかに労働爭議があれば、直接爭議行為のな
い他の支部組合、支部会社も亦、その爭議の当事者となると解すべきである。なお、
所論の原審証人Oの証言は原審の採用しなかつたところである。されば論旨は理由
がない。
 その(二)について。
 B木材、F鑄造所に爭議行為がなかつたとしても、C工業の各工場において作業
停止の爭議行為があつた以上、右(一)において説明したとおりB木材にも爭議が
あつたというべきである。なお、静岡地労委の斡旋による本件爭議調整の際の契約
書に、当事者の表示としてH労働組合I支部J分会とC工業会社々長Pと記載され
ていても、右は單に地労委の見解を示すに過ぎない。されば論旨は理由がない。
 その(三)について。
 論旨は、地労委の検事に対する処罰請求書には爭議はC工業に関するものである
としているのに、原審が、被告人はB木材の爭議行為に因りAを解雇したと認定し
たことは、処罰の請求を受けない事実に対し審判した違法であると言うのであるが、
その理由がないことは小石弁護人論旨第三点において説明したとおりであり、また
右は事実誤認であるとの主張については、本論旨冒頭において説明したとおりであ
る。
 同第四点および第五点について。
 本件において直接爭議行為のあつたのはC工業であつたが爭議のあつたのは三会
社共通であること、Aはその爭議に当り爭議行為をしたことは、大竹弁護人論旨(
一)および(二)、並びに前記河野弁護人論旨第三点において説明したとおりであ
り、また原審もこのように事実を認定しているのであるから、論旨はいずれも理由
がない。
 同第六点について。
 原審は爭議行為のあつたのはC工業だけであるが、爭議はC工業、同木材、F鑄
造所三会社に共通であつたと認定していること大竹弁護人論旨(一)および(二)
において説明したとおりであつて理由がない。なお、論旨は、C工業、同木材。F
鑄造所の三会社はそれぞれ独立の人格を有する別個の会社であるから、C工業の爭
議行為を以て他の二会社の爭議となし得ないと言うが、右三会社がそれぞれ独立の
人格を有する別個の会社であることゝ、三会社がそれぞれ独立に団体交渉の当事者
となり得ないこととは別個の問題である。そして本件において、三会社はそれぞれ
独立に団体交渉の当事者たり得ず、三会社を一本にした経営体(会社)のみが団体
交渉の当事者たり得ること前述のとおりである。従つて労働法上C工業のみの労働
爭議ということはないのである。次にまた、論旨は労働組合が單一組合であるとい
う理由では、三会社の従業員は全会社に対し労働関係の当事者たる地位を取得しな
いとの見解を主張するが、論旨の引用する設例はいわゆる連合団体たる労働組合と
これを構成する單位組合との関係であつて、本件のB労働組合は連合団体たる労働
組合ではなく、また各会社各工場のB労働組合各支部は單位組合ではない。即ち本
件において右のB労働組合各支部は独立に団体交渉の当事者となり得ないものであ
る。従つて單一組合であるB労働組合が爭議に入れば、その各組合支部はこれから
脱退しない以上当然爭議に入り、更にまた各支部組合のみが独立に爭議に入るとい
うこともないわけである。本論点二は、また、労働爭議の当事者を従業員の団体で
ある組合とせずに従業員個人とする謬論である。畢竟、論旨は判示三会社に労働爭
議のなかつたことを論証せんとするものであるが、いずれも独自の見解によるもの
であつて採用することができない。
 同第七点について。
 会社側のC工業各工場の閉鎖宣言は経営不振に基くものであつて、それ自体爭議
行為でないことは所論のとおりであり、原審も会社側のQ工場の工場閉鎖宣言が会
社側よりする爭議行為であるとは認定していない。しかしB労働組合がその雇傭契
約の継続を求め、工場閉鎖に反対し、会社側が右組合の要求に応じない場合は、こ
こに当事者の主張の対立があるのであるから、原判示のようにC工業の各工場にお
いて、或いは柵を設け、または従業員がその作業を停止した場合は、その会社の業
務の正常な運営阻害すること当然である。また会社側の経営不振による一方的工場
閉鎖の場合は、従業員に対する雇傭契約は依然存在し、争議の結果、会社側は工場
閉鎖を撤回し、将来その雇傭関係が継続することがあるわけであつて、所論のよう
に会社側の一方的工場閉鎖宣言によつて必然的に、雇傭契約の終了があつたとみる
べきではない。されば、原審がC工業に争議行為があると認定したことに所論のよ
うな法律の解釈を誤つた違法はなく、論旨は理由がない。なお、論旨中、事実誤認
の主張は適法な上告理由とならない。
 同第八点について。
 静岡縣地方労働委員会の検事に対する処罰請求書には、被告人は昭和二三年二月
一六日Aを、同人が昭和二二年一二月二日より昭和二三年二月七日に至る間C工業
株式会社の争議に当り、争議行為をしたことを理由として解雇したものであるとあ
り、また、検事の公判請求書には、被告人は昭和二三年二月一六日Aを、同人が昭
和二二年七月二三日より同年八月六日までと、同年一二月初旬より同年二月七日ま
での二回に亘る労働争議に当り、争議行為をしたことを理由として解雇したもので
あると記載されていて、Aのした争議行為の回数に相違のあること所論のとおりで
ある。しかし本件に関する改正前の労調法四〇条違反の犯罪構成要件は、使用者が
その雇傭中の労働者を同人がした争議行為を理由として解雇したということにつき
る。そして本件においては、被告人が昭和二三年二月一六日Aを、同人が判示B労
働組合員として会社に対し争議行為をしたことを理由として解雇したとの基本たる
事実関係において、両者異るところはない。唯、Aのした争議行為の回数において
相違あるに過ぎず、これとて、地労委の処罰請求書に掲げてある争議行為を全然不
問に附したものではなく、唯その期間の争議行為に他の期間の判示B労働組合の争
議行為を附加したものであつて、右は公訴事実の同一性を害するものではない。さ
れば、検事が地労委の請求をまたず公訴を提起したとの所論は採用することができ
ない。次にまた、原審が、被告人が昭和二二年一二月初旬より同二三年二月七日に
至るまでの労働争議におけるAの争議行為を理由に、同人を解雇したことを認定し
ていること所論のとおりであるが、本件においてはAのした争議行為の回数の多寡
にかかわらず公訴事実は同一であること前述のとおりであつて、地労委の請求、検
事の公訴、原判決認定の各犯罪事実は同一であるから、原審が公訴なき事実につい
て有罪の判決をしたとの主張も採用することができない。
されば論旨は理由がない。
 同第九点について。
 被告人がAを、同人の判示争議行為以前から解雇する意思があつて、そのために
解雇したものであるとの事実は原審の認定しなかつたところである。論旨は畢竟、
原審の専権に属する事実認定を非難するものであるか、または原審裁判官の自由裁
量に委ねられている証拠の証明力に対する判断を攻撃するに帰し、前者は適法な上
告理由とならないし、また後者はその理由がない。
 よつて、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判
決する。
 以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二六年三月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官穂積重遠は差支の為署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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