弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原略式命令を破棄する。
     本件公訴を棄却する。
         理    由
 記録によれば、昭和六一年一一月二八日中野簡易裁判所は、同月二五日付けの被
告人に対する道路交通法違反被告事件の公訴提起に基づき、「被告人は、昭和六一
年一〇月一〇日午前一〇時五〇分ころ、道路標識により、その最高速度が四〇キロ
メートル毎時と指定されている埼玉県岩槻市a番地の一付近道路において、その最
高速度を一五キロメートル超える五五キロメートル毎時の速度で大型貨物自動車を
運転して進行したものである。」旨の事実を認定し、昭和六一年法律第六三条によ
る改正前の道路交通法二二条一項、四条一項、一一八条一項二号、同法施行令一条
の二第一項、刑法一八条、罰金等臨時措置法二条、刑訴法三四八条を適用して、「
被告人を罰金一万五〇〇〇円に処する。これを完納することができないときは、金
二〇〇〇円を一日に換算した期間(端数があるときは、これを一日に換算する)被
告人を労役場に留置する。第一項の金額を仮に納付することを命ずる。」との略式
命令を発付し、この略式命令は、正式裁判請求期間の経過により、昭和六一年一二
月一四日確定したこと、被告人の右速度違反の行為は、昭和六一年法律第六三号に
よる改正前の道路交通法一二五条一項にいう「反則行為」に該当するが、同記録中
の交通事件原票には、被告人は過去一年以内の同条二項二号所定の行政処分として、
昭和六〇年一二月二三日三〇日間の免許の効力停止処分を受けた旨の記載があり、
原裁判記録中にはこれに反する資料がなかつたことが認められる。
 しかしながら、当審の事実取調の結果によれば、右交通事件原票の記載は過誤に
よるものであり、被告人には同法一二五条二項各号に掲げる事由は存せず、被告人
は同法第九章にいう「反則者」に該当するものと認められる。したがつて、被告人
に対しては、同法一三〇条、一二七条一項、一二八条一項により、埼玉県警察本部
が反則金の納付を通告し、かつ、所定の納付期間が経過した後でなければ公訴を提
起することができないのであるから、公訴提起を受けた中野簡易裁判所としては、
刑訴法四六三条一項に従い事件を通常の手続に移したうえ、同法三三八条四号によ
り公訴棄却の判決をすべきであつたにもかかわらず、右公訴事実につき有罪を認定
して略式命令を発布したものであつて、右略式命令は法令に違反していることが明
らかである。
 よつて、本件非常上告は理由があり、しかも原略式命令は被告人のため不利益で
あるから、同法四五八条一号但書により右略式命令を破棄し、同法三三八条四号に
より本件公訴を棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
 検察官秋田清夫 公判出席
  昭和六三年四月一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   久   之
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    香   川   保   一

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