弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、同B、弁護人清水正雄、同小野清一郎、同橋本順の各上告趣旨は末尾
添附別紙記載のとおりである。
 被告人Aの論旨第一点、弁護人清水正雄の論旨第一点、第三点の(七)、弁護人
小野清一郎の論旨第二点、弁護人橋本順の論旨の二は、何れも自白の任意性を争い
憲法三八条違反を主張するものであるが、任意性調査の方法は裁判所の適宜な方法
で足りること当裁判所の判例である(昭和二六年(あ)一六五七号、同二八年二月
一二日第一小法廷判決、判例集七巻二号二〇四頁)ばかりでなく、取調に当つた警
察官に対する証人訊問を通じてもその他記録上も任意性を欠くような事情は認めら
れないので違憲の主張はその前提を欠く。(小野弁護人挙示の判例は本件に適切で
ない。)
 弁護人小野清一郎の論旨第一点、弁護人橋本順の所論の一、三は自白の補強証拠
がないというのであるが原判決挙示の各証拠は、自白が架空のものでないことを十
分に示しており、当裁判所累次の判例(昭和二三年(れ)七七号、同二四年五月一
八日大法廷判決、判例集三巻六号七三四頁等)に徴し理由がない。
 弁護人清水正雄の論旨第二点の一乃至四は原判決が公平な裁判所の裁判でないと
いうのであるが公平な裁判所の裁判というのは構成その他において偏頗の虞のない
裁判所の裁判という意味であつて、法律の誤解又は事実の誤認等により偶々被告人
に不利益な裁判をした場合を含まないことは当裁判所の判例であつて(昭和二二年
(れ)一七一号、同二三年五月五日大法廷判決、判例集二巻五号四四七頁)所論は
採用できない。
 同弁護人の論旨第二点の五及び第三点の(六)及び弁護人橋本順の論旨の五、被
告人Aの論旨第二点は、証人訊問の請求を却下した原審の措置は憲法三七条二項に
反するといいまた原審相被告人を証人として尋問しなかつたこと、鑑定人Cの証人
訊問請求を却下したのは憲法三七条二項に反するというのであるが、証人尋問の限
度は裁判所の裁量であること当裁判所累次の判例であり(昭和二二年(れ)二三〇
号、同二三年七月二九日大法廷判決、判例集二巻九号一〇四五頁等)、相被告人は
何時でも尋問できるのであるから憲法に違反しないことも判例とされており(昭和
二三年(れ)一六六三号、同二五年六月二八日大法廷判決、判例集四巻六号一、一
一二頁)鑑定人Cについては、その証人訊問の請求の趣旨は単に事案を明確にする
ため(記録二〇六四丁裏から二〇六五丁表)、「一応鑑定書で明らかになつている
が更に親しく訊問して頂きたい。」(同二〇六九丁裏)というにあつて、反対訊問
権の行使がなければこれを証拠とすることに反対する趣旨のものではないこと明ら
かであるから結局鑑定書の記載の真実性と関係のないものであつて刑訴応急措置法
一二条一項による請求でないと認められる(昭和二四年(れ)一五六号、同年七月
五日第三小法廷判決、判例集三巻八号一一五九頁参照)ので憲法三七条二項違反の
主張はその前提を欠く。弁護人橋本順の所論の四は、憲法一四条違反を主張するが、
本件に旧刑訴が適用されるからといつて所論憲法に反するものでないこと当裁判所
の判例であるから(昭和二三年(れ)一五七七号、同二四年五月一八日大法廷判決、
判例集三巻六号八四七頁)理由がない。
 弁護人橋本順の所論の六は、弁護人なしに審理をしたから憲法に反するというの
であるが、被告人Dについては弁論更新前の手続の非難であり、被告人Eについて
は弁護人古賀俊一郎が出頭しており何れも違憲論の前提を欠いている。
 同弁護人の所論七は、被告人Aに対する刑罰は憲法三六条に違反するというが、
昭和二二年(れ)三二三号、同二三年六月二三日大法廷判決、判例集二巻七号七七
頁、昭和二三年(れ)三四八号、同二三年九月二二日大法廷判決に徴しその理由の
ないことは明らかである。
 同弁護人の所論の八において、原判決は憲法一三条に違反するというが、その実
質は量刑非難に過ぎないので上告適法の理由に当らない。
 弁護人小野清一郎の追加上告趣意及び再追加上告趣意について。
 所論は、先ず原判決はD(追加上告趣意書にDとあるは同Dの誤記と解する)に
対する検察事務官の(右各趣意書に検察官とあるは検察事務官の誤記と解する)第
二回聴取書を引用するにあたり「五、六万円」とあるを「五、六十万円」と変更し
たばかりでなく、「Bなどが居た為に百万円の話を出さなかつたものと思います」
という一句を殊更に省くことによつて、証拠の全趣旨を変更したとして判例違反を
主張する。即ち右聴取書に、五、六万円とあるは、被告人Bが同Aに譲渡する拳銃
の代金であつて、判示強盗の計画に関係するところがないものであるというのであ
る。
 よつて按ずるに原判決が所論聴取書中のDの供述記載として摘録したところは、
所論指摘の部分を除き、右聴取書記載の供述の趣旨と合致しているのであつて、所
論指摘の部分は右聴取書に徴すれば「G旅館でもAとFはBやEや私が拳銃を見ま
したときに相手は少くとも五、六万円は持つて来て居るだうと話しました。Bなど
が居つた為めに百方円の話は出さなかつたと思ひます。」と記載されているが、こ
れに引続き「斯様なことで大体Aが喧嘩の為めに拳銃が要るとは申しましたがその
目的は相当纒つた金を奪ふと云う決心であることはみんなよく解つて居りました。
尚その際Aは相手は今晩久留米からaに来て居るから之を初めFが二人誘出してど
こかで之を殺しそうして残りのものをAが連れ出して又これを殺して金を巻き揚げ
様と大体の手配(てはず)を話合つて出たのであります」と記載されているのであ
る。
 してみれば、AやFは、B、E、D等を前に置いて「相手は少くとも五、六万円
は持つて来て居るだう」と云つたのであつて右「相手」とはAやFが五月一九日集
金に行つたが集金できなかつたという取引の相手を指す意であつてBより拳銃を借
受け若しくは買受けようとするA自身を指すものでないことは前掲の右聴取書の記
載自体に徴して明らかである。従つてDの右供述の趣旨はこれを要するに、拳銃を
見たときのAやFの言動から取引の相手は金を持つて来ているだろうからその相手
を殺害してその金を巻き揚げようということをBやEもよく了解して皆でてはずを
話合つたというに帰するのである。してみれば原判決が右聴取書には「相手は少く
とも五、六万円は持つて来て居るだう」とあるのを「相手は少くとも五、六十万円
は持つて来ているだらう」と誤つて摘録し、又右聴取書に存する「Bなどが居た為
め百万円の話は出さなかつたものと思います」との文言を省略し摘録しなかつたこ
と所論のとおりであるけれども、これを以て原判決は右Dの供述の趣旨を変更して
証拠に供したものとはいえない。故に原判決は所論引用の判例と相反する判断をし
たとの主張はその前提を欠き採るを得ない。
 又右Dの供述は、A、F、B、E、Dらの間に本件強盗殺人についての共謀があ
つたことを示すに足りると解すべきである。更に所論被告人Eに対する検察事務官
の第二回聴取書中の供述は単に同人の主観的直観に過ぎないものではなく、原判決
引用の「私は部屋(犯行当日のG旅館の一室)に少し遅れて入つたため、このよう
なことをどこでやるのか、又相手の者がどの位の金を持つているかという話は聞い
ていなかつたが、しかし彼等について行けば、場所も判るし又金の点は聞かなくて
も、今までの話しぶりや、拳銃の借賃も四、五万円も出すというのであるから、相
当の金が取れるのだろうと思つた。」旨の供述は実験した事実により推測した事項
であつて、証拠とすることができることもとよりである。所論は右以外に証拠はな
く、若干の情況証拠らしいものがあつてもBについて強盗殺人を認定するには到底
足りないと主張するけれども、原判決挙示の証拠中原審相被告人Fに対する昭和二
二年六月七日附司法警察官代理巡査部長の聴取書(記録二〇五丁以下)中には、「
(一人を撃ち倒した後)Iさんは『どうしたのか』とBの方に歩いて行くと、Bは
『今通つた汽車に刎ねられたのではないか』と白ばくれておりBとIの距離が二米
位になつたとき突然ピストルで射ち倒した。自分は驚いて逃げ出したが誰かから『
待て』と呼び止められ『止めを刺せ』といわれIの咽喉を匕首で刺そうとすると、
Bが『身体を探して金を取れ』といつたので探したが金がないのでBにその旨告げ
たという旨の供述もあり、これらを綜合して被告人Bについて強盗殺人の自白に補
強証拠ありとして、原判決判示事実を認定したからといつて経験則違反又は事実誤
認があるとは到底いうことができない。
 その他の各論旨に違憲、判例違反等の主張もあるが何れもその実質は事実誤認、
量刑不当、訴訟法違反の主張に帰し引用の判例は適切でないから刑訴四〇五条に当
らない。
 また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴施行法二条、三条の二、旧刑訴四四六条により裁判官全員一致の意見
で主文のとおり判決する。
 検察官 大津民蔵出席
  昭和三一年四月一七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
 裁判官井上登は退官のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    本   村   善 太 郎

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