弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人鍛治利一の上告趣意は後記書面のとおりである。
 同第一点について。
 所論の原判決が憲法三八条三項に違反するという主張は、原審において主張され
ず従つて判断もされなかつた事項であるから、この点においてすでに適法な上告理
由にあたらない。(そしてまた共同審理を受けていない単なる共犯者の供述が、た
だ共犯者たるの一事をもつて完全な独立の証拠能力を欠くものとはいえないことは、
当裁判所の判例とするところであるから、論旨はこの点においても理由がない(昭
和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決、刑集三巻六号七三四頁)。)
 同第二点について。
 所論は、原判決に重要なる法則違反があるとの主張であつて、刑訴四〇五条の上
告理由にあたらない。そしてまた同趣旨の控訴趣意について、原判決の判示説明(
控訴趣意第三点)は正当であつてなんら違法のかどはない。
 同第三点について。
 所論検事の論告について記録を調べて見ると、検事が被告人の夫の前科の点に論
及していることが認められるが、その前後を合せ通読すれば、論告の趣旨は、被告
人の違法の認識すなわち進駐軍物資を所持することが違法であることを知つている
筈であることを述べたものと解すべきであつて、これを被告人に実刑を科すべき論
拠としたと解するのは相当でない。(のみならず記録を精査しても第一審判決の量
刑が被告人の夫の前科によつて影響を受けたと推認すべき事由も認められない。)
従つて所論は、検事の論告を独自の解釈をもつて、違憲の主張の前提とするのであ
つて、この前提に誤りがある以上論旨の理由を認めることはできない。
 同第四点について。
 所論は、単なる占領軍の財産の所持を処罰の対象とすることは、日本人を奴隷の
境遇に置くものであつて、憲法一八条に違反し無効であり、従つて原判決は違憲で
あると主張するが、しかし奴隷的拘束とは、人格を無視しその意思にかかわらず束
縛する状態に置く趣旨であるから、所論のようなことにはならない。(昭和二四年
(れ)第六八五号同二八年四月八日大法廷判決参照)されば所論は、独自の見解を
主張するに帰し、採用することはできない。
 その他記録を調べて見ても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条により全裁判官一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
  昭和二八年四月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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