弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成22年7月20日判決言渡
平成19年(ネ)第10032号特許権侵害差止等請求控訴事件
口頭弁論終結日平成22年1月28日
(原審東京地方裁判所平成16年(ワ)第24626号)
判決
控訴人・附帯被控訴人株式会社陽紀
同訴訟代理人弁護士松本司
同田上洋平
同補佐人弁理士森義明
同三枝英二
同眞下晋一
同松本尚子
同森脇正志
被控訴人・附帯控訴人株式会社豊栄商会
同訴訟代理人弁護士竹田稔
同川田篤
同訴訟代理人弁理士折居章
同補佐人弁理士大森純一
主文
第1控訴人の控訴及び附帯控訴人の附帯控訴(当審で追加された請求のうち主位
的請求の拡張に係る部分を含む)に基づき,原判決の主文1ないし4を以下。
のとおり変更する(主文1,2には変更部分はない。。)
1控訴人・附帯被控訴人(被告)は,原判決添付の別紙被告製品目録記載の取
鍋を使用し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をしては
ならない。
2控訴人・附帯被控訴人(被告)は,原判決添付の別紙被告製品目録記載の取
鍋を廃棄せよ。
3控訴人・附帯被控訴人(被告)は,被控訴人・附帯控訴人(原告)に対し,
4968万8617円及び
内金523万6000円に対する平成16年12月1日から,
内金2029万2160円に対する平成18年5月26日から,
内金2019万5507円に対する平成21年2月24日から,
内金396万4950円に対する平成22年1月16日から,
各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
4被控訴人・附帯控訴人(原告)のその余の主位的請求を棄却する。
第2被控訴人・附帯控訴人(原告)の附帯控訴(当審で予備的請求を追加した部
分に係る附帯控訴部分)に基づき,
1控訴人・附帯被控訴人(被告)は,被控訴人・附帯控訴人(原告)に対し,
96万5609円及びこれに対する平成21年2月24日から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
2被控訴人・附帯控訴人(原告)のその余の予備的請求を棄却する。
第3訴訟費用は,第1,2審を通じ,訴訟費用のうち訴えの提起及び控訴の提起
,,()の手数料に係る部分はこれを5分しその4を控訴人・附帯被控訴人被告
の,その1を被控訴人・附帯控訴人(原告)の各負担とし,その余の訴訟費用
は各自の負担とする。
,,。第4この判決は金員の支払いを命じた部分につき仮に執行することができる
事実及び理由
第1請求
(控訴)
1原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2同取消部分にかかる被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
(附帯控訴)
1主位的請求(特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求)
附帯被控訴人(1審被告)は,附帯控訴人(1審原告)に対し,2億500
0万円並びに内金1000万円に対する平成16年12月1日から支払済みま
で,内金9000万円に対する平成18年5月26日から支払済みまで,内金
1億3000万円に対する平成21年2月24日から支払済みまで,内金20
00万円に対する平成22年1月16日から支払済みまで,各年5分の割合に
よる金員を支払え。
2予備的請求(実施料相当額の支払いを免れたことによる不当利得返還請求)
上記第1項と同旨。
第2事案の概要
(以下,被控訴人・附帯控訴人(1審原告)を単に「原告」といい,控訴人・附
帯被控訴人(1審被告)を単に「被告」という)。
1本件は,原告が,被告に対し,被告の使用する溶融アルミニウム合金搬送用
加圧式取鍋が,原告の有する特許発明の技術的範囲に含まれ,また,原告の有する
意匠権に係る意匠と類似するとして,特許権侵害及び意匠権侵害に基づき,前記加
圧式取鍋の使用差止等及び損害賠償を求めた事案である。被告は,原告の特許権に
は進歩性欠如の無効理由があり,また,被告には先使用権が認められるなどと主張
して,これを争っている。
なお,被告が控訴して,原告の請求棄却を求めたことに伴い,原告も附帯控訴し
て,主位的に,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに,同損
害賠償請求権が消滅時効にかかった場合に備えて,予備的に,不当利得の返還請求
をしている。
2原審における原告の請求(訴訟費用等に関する部分を除く)。
(1)被告は,別紙被告製品目録記載の取鍋を使用し,譲渡し,貸し渡し,又はそ
の譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
(2)被告は,別紙被告製品目録記載の取鍋を廃棄せよ。
(3)被告は,原告に対し,1億円及び内金1000万円に対する平成16年12
月1日から,内金9000万円に対する平成18年5月26日から各支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
3原判決の主文(訴訟費用等に関する部分を除く)。
(1)原審における原告の請求(1)に同じ。
(2)原審における原告の請求(2)に同じ。
(3)被告は,原告に対し,7293万7600円及び内金1000万円に対する
平成16年12月1日から,内金6293万7600円に対する平成18年5月2
6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4前提事実及び争点
以下のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案
の概要「1前提となる事実「2本件における争点」記載のとおりであるか」」,
ら,これを引用する。
(1)原判決12頁9行目から13頁4行目までを,以下のとおり改める。
「ア本件特許1に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のも
の。以下『本件明細書1』という。甲1の2,甲30の1,2参照)の特許請求。
の範囲の請求項1ないし3(以下『本件特許発明1−1』のようにいう)の記載。
は次のとおりである。なお,下線部分は,それぞれ最後に訂正された部分で,以下
同様である。
a)請求項1
『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器と,前記容
器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが可能な流路と,前記
容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小
径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器
の内外を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,
前記容器内部の気密を確保するハッチとを具備し,公道を介してユースポイントま
で搬送されることを特徴とする溶融金属供給用容器』。
b)請求項2
『請求項1に記載の溶融金属供給用容器において,前記貫通孔に取り付けられ,
前記容器の上面部から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲
げられ,接続部が水平方向に導出された配管を更に具備することを特徴とする溶融
金属供給用容器』。
c)請求項3
『請求項2に記載の溶融金属供給用容器において,前記配管は,前記貫通孔に着
脱可能に螺着されていることを特徴とする溶融金属供給用容器」。』
(2)原判決14頁11行目から15頁19行目までを,以下のとおり改める。
「ウ本件特許3に係る明細書(平成21年7月17日付け審決による訂正後の
もの。以下『本件明細書3』という。甲3の2,甲45の1,2参照)の特許請。
求の範囲の請求項1及び5(以下『本件特許発明3−1『本件特許発明3−7』』,
という)の記載は次のとおりである。なお,上記訂正により,当初の請求項7が。
請求項5に繰り上がった。
a)請求項1
『溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ
溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌によ
り搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,フレーム
,,と前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライニングと
前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され,前記第1の熱伝導率より
も低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと,配管とを有し,前記第1のラ
イニングは,容器内底部に近い位置から容器上面側の露出部まで溶融金属の流路を
内在し,当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される空間とを分離するゾーンで
かつ容器上面側の露出部まで充填され,前記第2のライニングは,前記流路からみ
て前記容器内の溶融金属が貯留される空間とは反対側で,かつ前記流路を内在する
第1のライニングの外側に配され,前記配管は,前記露出部の流路に接続され,先
端の出入口が下向きであり,前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の
内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が
設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属
を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行
,,,,うためのハッチを有し前記ハッチは前記容器の上面部の中央に設けられかつ
前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられてい
ることを特徴とする容器』。
b)請求項5(当初の請求項7)
『溶融金属を収容することができ,内外の圧力差を調節することにより,内部へ
溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌によ
り搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,溶融金属
を貯留する貯留室と,前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフ
,,ェース部と前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有し
これらの間を仕切る壁と,前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備
し,前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており,前記貯留室及び前記
インターフェース部と,前記フレームとの間には,第1の熱伝導率を有する第1の
ライニングと,前記第1の熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライ
ニングとが前記第1のライニングを内側にして積層され,前記壁は,前記連結口か
ら前記インターフェース部の上部に向けて前記第1のライニングが充填されたゾー
ンを有し,前記インターフェース部が当該インターフェース部と前記フレームとの
間に介挿された前記第2のライニングにより保温されるとともに,前記ゾーンを介
して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属から前記インターフェース部側への熱
,,伝導が促進されるように構成されており前記容器の上面部に開閉可能に設けられ
前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するため
の貫通孔が設けられ,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内
に溶融金属を供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器
の予熱を行うためのハッチを有し,前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設け
られ,かつ,前記貫通孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に
設けられていることを特徴とする容器」。』
(3)原判決15頁20行目から16頁5行目までを,以下のとおり改める。
「エ本件特許4に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のも
の。以下『本件明細書4』という。甲4の2,甲46の1,2参照)の特許請求。
の範囲の請求項1(以下『本件特許発明4−1』という)の記載は次のとおりで。
ある。
『,,溶融アルミニウムを収容することができ内外の圧力差を調節することにより
外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて公道を介して
ユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器であって,フレ
ームと,前記フレームの内側に設けられ,かつ,前記容器内の底部付近に開口を有
し,当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと,前記配管
取付部に取付けられ,前記流路に連通する第1の配管と,前記容器本体内を加圧す
るための第2の配管とを具備し,少なくとも前記流路の内径は,約65㎜∼約85
㎜であり,前記大蓋は,その略中央に開口部が設けられ,当該開口部には開閉可能
であって,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融アル
ミニウムを供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の
,,,予熱を行うためのハッチが配置されており前記第2の配管は前記ハッチの中央
または中央から少しずれた位置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され,前記
容器本体内への加圧は,前記容器を工場内で搬送するためのフォークリフトに搭載
された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器本体内に加圧気体
が供給されることにより行われることを特徴とする容器」。』
(4)原判決16頁6行目から21行目までを,以下のとおり改める。
「オ本件特許5に係る明細書(平成20年5月9日付け審決による訂正後のも
の。以下『本件明細書5』という。甲5の2,甲47の1,2参照)の特許請求。
の範囲の請求項1及び7(以下『本件特許発明5−1『本件特許発明5−8』と』,
いう)の記載は次のとおりである。なお,上記訂正により,当初の請求項8が請。
求項7に繰り上がった。
a)請求項1
『内外を連通し,容器内の加圧を行うための貫通孔を有し,溶融金属を収容する
ことができ,加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができ
る容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1の
流路と,前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶融
金属の通過を規制する規制部材と,前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部
から上方に向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向にて折り曲げられ,接続部
が水平方向に導出された配管と,前記配管の先端に取り付けられ,カプラを構成す
るプラグと,前記カプラを構成するソケットからなり,前記規制部材が介在され,
前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配
管の接続部を塞ぐ着脱可能な栓とを具備することを特徴とする溶融金属供給用容
器』。
b)請求項7(当初の請求項8)
『溶融金属を収容することができる容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融
金属を流通することが可能な第1の流路と,前記容器の上部に設けられ,前記容器
の内圧を逃がすことができ,容器内の加圧を行うための圧力開放管と,前記圧力開
放管に,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記圧力開放管を塞ぎ,
気体を通過させ,かつ,前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能
な規制部材と,を具備したことを特徴とする溶融金属供給容器」。』
(5)原判決18頁4行目の後に「なお,当事者の主張欄においては,訂正前の,
構成要件の分説を用いている部分がある」を付加する。。
(6)原判決18頁7行目から19頁1行目までを以下のとおり訂正する。
「a)本件特許発明1−1
,,1−1A溶融金属を収容することができ上部に第1の開口部を有する容器と
1−1B前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが
可能な流路と,
1−1C前記容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1
の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,
1−1D前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,容
器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容器内部の気密
を確保するハッチとを具備し,
1−1E公道を介してユースポイントまで搬送されることを特徴とする溶融金
属供給用容器。
b)本件特許発明1−2
1−2A請求項1に記載の溶融金属供給用容器において,
1−2B前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出
し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ,接続部が水平方向に導出された
配管を更に具備する
1−2Cことを特徴とする溶融金属供給用容器。
c)本件特許発明1−3
1−3A請求項2に記載の溶融金属供給用容器において,
1−3B前記配管は,前記貫通孔に着脱可能に螺着されている
1−3Cことを特徴とする溶融金属供給用容器」。
(7)原判決20頁16行目から22頁8行目までを以下のとおり訂正する。
「a)本件特許発明3−1
,,3−1A溶融金属を収容することができ内外の圧力差を調節することにより
内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車
輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,
3−1Bフレームと,
3−1C前記フレームの内側に設けられる第1の熱伝導率を有する第1のライ
ニングと,
3−1D前記フレームと前記第1のライニングとの間に介挿され,前記第1の
熱伝導率よりも低い第2の熱伝導率を有する第2のライニングと,
3−1E配管とを有し,
3−1F前記第1のライニングは,容器内底部に近い位置から容器上面側の露
出部まで溶融金属の流路を内在し,当該流路と前記容器内の溶融金属が貯留される
空間とを分離するゾーンでかつ容器上面側の露出部まで充填され,
3−1G前記第2のライニングは,前記流路からみて前記容器内の溶融金属が
貯留される空間とは反対側で,かつ前記流路を内在する第1のライニングの外側に
配され,
3−1H前記配管は,前記露出部の流路に接続され,先端の出入口が下向きで
あり,
3−1I前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,
前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じ
られたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先
立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチ
を有し,
3−1J前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通
孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられている
3−1Kことを特徴とする容器。
b)本件特許発明3−7(請求項5)
,,3−7A溶融金属を収容することができ内外の圧力差を調節することにより
内部へ溶融金属を導入し,または外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車
輌により搭載されて公道を介してユースポイントまで搬送される容器であって,
3−7B溶融金属を貯留する貯留室と,
3−7C前記貯留室と外部との間の溶融金属の流路となるインターフェース部
と,
3−7D前記貯留室下部と前記インターフェース部下部との間の連結口を有
し,
3−7Eこれらの間を仕切る壁と,
3−7F前記インターフェース部上部に接続された配管とを具備し,
3−7G前記容器の外周は金属製のフレームにより覆われており,
,,3−7H前記貯留室及び前記インターフェース部と前記フレームとの間には
第1の熱伝導率を有する第1のライニングと,前記第1の熱伝導率よりも低い第2
の熱伝導率を有する第2のライニングとが前記第1のライニングを内側にして積層
され,
3−7I前記壁は,前記連結口から前記インターフェース部の上部に向けて前
記第1のライニングが充填されたゾーンを有し,前記インターフェース部が当該イ
ンターフェース部と前記フレームとの間に介挿された前記第2のライニングにより
保温されるとともに,前記ゾーンを介して前記貯留室内に貯留された前記溶融金属
から前記インターフェース部側への熱伝導が促進されるように構成されており,
3−7J前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通し,
前記溶融金属を供給する際に前記容器内を加圧するための貫通孔が設けられ,閉じ
られたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融金属を供給するに先
立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器の予熱を行うためのハッチ
を有し,
3−7K前記ハッチは,前記容器の上面部の中央に設けられ,かつ,前記貫通
孔は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位置に設けられている
3−7Jことを特徴とする容器」。
(8)原判決22頁11行目から22行目までを以下のとおり訂正する。
「4−1A溶融アルミニウムを収容することができ,内外の圧力差を調節する
ことにより,外部へ溶融金属を供給することが可能で,運搬車輌により搭載されて
公道を介してユースポイントまで搬送される上部開口部に大蓋が配置された容器で
あって,
4−1Bフレームと,
4−1C前記フレームの内側に設けられ,かつ,前記容器内の底部付近に開口
を有し,当該容器の上方の配管取付部に向かう流路を内在するライニングと,
4−1D前記配管取付部に取付けられ,前記流路に連通する第1の配管と,
4−1E前記容器本体内を加圧するための第2の配管とを具備し,
4−1F少なくとも前記流路の内径は,約65㎜∼約85㎜であり,
4−1G前記大蓋は,その略中央に開口部が設けられ,当該開口部には開閉可
能であって,閉じられたときに前記容器内部の気密を確保し,当該容器内に溶融ア
ルミニウムを供給するに先立ち,開けられてガスバーナが容器内に挿入されて容器
の予熱を行うためのハッチが配置されており,
4−1H前記第2の配管は,前記ハッチの中央,または中央から少しずれた位
置に設けられた内圧調整用の貫通孔に接続され,
4−1I前記容器本体内への加圧は,前記容器を工場内で搬送するためのフォ
ークリフトに搭載された加圧気体貯留タンクから前記第2の配管を介して前記容器
本体内に加圧気体が供給されることにより行われる
4−1Jことを特徴とする容器」。
(9)原判決22頁25行目から23頁16行目までを以下のとおり訂正する。
「a)本件特許発明5−1
5−1A内外を連通し,容器内の加圧を行うための貫通孔を有し,溶融金属を
収容することができ,加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させるこ
とができる容器と,
5−1B前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1
の流路と,
5−1C前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,
溶融金属の通過を規制する規制部材と,
5−1D前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に向けて突出
し,所定の高さの位置で水平方向にて折り曲げられ,接続部が水平方向に導出され
た配管と,
5−1E前記配管の先端に取り付けられ,カプラを構成するプラグと,
5−1F前記カプラを構成するソケットからなり,前記規制部材が介在され,
前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配
管の接続部を塞ぐ着脱可能な栓と
5−1Gを具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。
b)本件特許発明5−8(請求項7)
5−8A溶融金属を収容することができる容器と,
5−8B前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な第1
の流路と,
5−8C前記容器の上部に設けられ,前記容器の内圧を逃がすことができ,容
器内の加圧を行うための圧力開放管と,
5−8D前記圧力開放管に,前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には
前記圧力開放管を塞ぎ,気体を通過させ,かつ,前記溶融金属の流通を規制するよ
うに設けられた着脱可能な規制部材と,
5−8Eを具備したことを特徴とする溶融金属供給容器」。
(10)原判決26頁16行目から27頁17行目を,以下のとおり改める。
「ア本件特許1について
被告は,平成17年11月9日,本件特許1について無効審判を申し立てた。
特許庁は,平成18年7月19日,本件特許1の請求項1ないし3を無効とする
旨の審決(乙54)をした。
原告は,同年8月28日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成18年
(行ケ)第10389号)を提起するとともに,同年10月19日,同特許につき
訂正審判を請求した。
,,()。知財高裁は同年11月15日上記審決を取り消す旨の決定をした甲34
上記取消決定を受けて特許庁に差し戻された同特許に係る無効審判請求におい
て,原告は,新たな訂正の請求を行わなかったため,訂正審判請求書に添付した訂
正した明細書(甲30の2)のとおり訂正請求がされたものとみなされた。
特許庁は,平成19年6月5日,同特許につき,訂正を認めるとともに,請求項
1ないし3に係る特許を無効とする旨の審決をした(乙63。)
原告は,同年7月13日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年
(行ケ)第10258号)を提起した。
知財高裁は,平成21年1月28日,上記審決を取り消す旨の判決をした(乙7
4。)
特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月7日『訂正を認める。本件,
審判の請求は成り立たない』旨の審決をした(甲48。。)
イ本件特許3について
被告は平成17年11月14日本件特許3について無効審判を申し立てた無,,(
効2005−80327号。)
特許庁は,平成18年7月19日,本件特許3の請求項1,2及び4ないし8を
無効とし,請求項3に対する請求は成り立たない旨の審決(乙55)をした。
被告は,同年8月24日,上記審決のうち請求項3に係る部分について,審決取
消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10384号)を提起するとともに,同月
31日,新たに,無効審判請求をした(無効2006−80167号。)
他方で,原告は,同月28日,上記審決の請求項1,2及び4ないし8に係る部
分につき,審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10390号)を提起す
るとともに,同年10月19日,同特許につき訂正審判を請求した。
知財高裁は,同年11月15日,上記審決(請求項3に対する部分を含む)を。
取り消す旨の決定をした(甲35。)
上記取消決定を受けて特許庁に差し戻された同特許に係る無効審判請求におい
て,原告は,同年12月11日,訂正審判請求における訂正明細書(甲31の2)
と同じ内容の訂正請求を行った(甲38の1,2。)
特許庁は,無効2005−80327号事件及び無効2006−80167号事
件につき審理を併合した上で,平成19年6月13日,本件特許3につき無効とす
る旨の審決をした(乙70。)
原告は,同年7月23日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年
(行ケ)第10268号)を提起するとともに,同年10月22日,訂正審判請求
をした(訂正2007−390118号。甲45の1,2。)
知財高裁は,同年11月9日,上記審決を取り消す旨の決定をした。
特許庁は,その後,さらに審理した上で,平成20年3月18日,本件特許3の
一部につき無効とする旨の審決をした。
原告は,同年4月25日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年
(行ケ)第10154号)を提起した。
,,()。知財高裁は平成21年2月4日上記審決を取り消す旨の判決をした乙75
特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月17日「訂正を認める。無,
効2005−80327号に係る審判の請求のうち『特許第3489678号の,
,,。』。請求項124∼6に係る発明の特許を無効とするとの請求は成り立たない
無効2006−80167号に係る審判の請求は成り立たない」旨の審決をした。
(甲49。)
ウ本件特許4について
被告は,平成17年11月8日,本件特許4について無効審判を申し立てた。
特許庁は,平成18年7月19日,本件特許4の請求項1,3,4及び6に対す
る請求は成り立たない旨の審決(乙56)をした。
被告は,同年8月24日,上記審決について,審決取消訴訟(知財高裁平成18
年(行ケ)第10383号)を提起した。
知財高裁は,平成19年5月29日,上記審決を取り消す旨の判決をした。
,,,,,,特許庁はその後さらに審理した上で同年9月28日付けで請求項13
4,6に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした(乙72。)
原告は,同年11月9日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成19年
(行ケ)第10381号)を提起するとともに,平成20年1月11日,訂正審判
請求をした(訂正2008−390005号。甲46の1,2。。)
知財高裁は,同月30日,上記審決を取り消す旨の決定をした。
特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年3月18日,請求項1,3,5に
係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした。
原告は,同年4月25日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年
(行ケ)第10155号)を提起した。
,,()。知財高裁は平成21年2月4日上記審決を取り消す旨の判決をした乙76
特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年7月7日『訂正を認める。本件,
審判の請求は成り立たない』との審決をした(甲50。。)
エ本件特許5について
被告は,平成19年5月15日,本件特許5につき,無効審判請求をした。
特許庁は,上記審判請求を無効2007−800095号事件として審理し,平
成20年3月6日,本件特許5の一部につき無効とする旨の審決をした。
原告は同年4月2日上記審決につき審決取消訴訟知財高裁平成20年行,,,((
ケ)第10123号)を提起するとともに,同月3日,訂正審判請求をした(訂正
2008−390038号。甲47の1,2。)
また,被告は,同月9日,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年
(行ケ)第10132号)を提起した。
特許庁は,同年5月9日,訂正を認める旨の審決をした。
知財高裁は,同年6月26日,上記両事件につき,前記無効審決を取り消す旨の
判決をした。
特許庁は,その後,さらに審理した上で,同年12月16日『本件審判の請求,
は成り立たない』との審決をした(甲43。。)
オ本件意匠について
被告は,平成19年5月18日,本件意匠につき無効審判請求をした。
特許庁は平成20年3月5日本件審判の請求は成り立たないとの審決無,,『。』(
効2007−880006号)をした。
被告は,その後,上記審決につき,審決取消訴訟(知財高裁平成20年(行ケ)
第10131号)を提起した。
知財高裁は,平成21年1月28日,被告の請求を棄却する旨の判決をした(乙
77」)。
(11)原判決27頁18行目から29頁4行目までを削除する。
(12)原判決29頁5行目の「(9)」を「(8)」と改める。
(13)原判決29頁6行目から9行目までを,以下のとおり改める。
「被告は,平成15年5月25日ころから平成18年8月ころまでは,溶融アル
ミニウム合金搬送用加圧式取鍋(製品名『ポットリーベ。以下『被告製品』とい』
う)を使用していたが,同月ころから現在に至るまで,貫通孔を小蓋(ハッチ)。
ではなく大蓋に設けた取鍋(以下『被告現製品』ともいう)を使用している。。
被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりである」。
(14)原判決29頁10行目の(10)を(9)と改め被告製品の後に及「」「」,「」「
び被告現製品」を加える。
(15)原判決29頁11行目及び12行目,21行目及び22行目を削除する。
「」「」,「」「」,(16)原判決29頁13行目のイをアと17行目のウをイと
23行目の「オ」を「ウ」と,25行目の「カ」を「エ」と,26行目の「キ」を
「オ」と,それぞれ訂正し,23行目の「5−1,同」を削除し,さらに,同頁2
6行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。
カ被告現製品は本件各特許発明134−1の技術的範囲に属しない争「,,,(
いがない。。)
キ被告現製品は,規制部材(本件特許発明5−1,5−8)に関しては,被告
製品と変わりがない(争いがない」。)。
(17)原判決30頁4行目を削除し,以下のとおり追加する。
「,()」イ被告製品が本件各特許発明1の技術的範囲に属するか否か争点1−2
(18)原判決30頁16行目を削除し,以下のとおり追加する。
「,()」エ被告製品が本件各特許発明3の技術的範囲に属するか否か争点3−4
(19)原判決30頁19行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。
「ウ被告製品が,本件特許発明4−1の技術的範囲に属するか否か(争点4−
3」)
(20)原判決30頁22行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。
「ウ被告製品及び被告現製品が,本件特許発明5−1の技術的範囲に属するか
否か(争点5−3」)
(21)原判決31頁3行目を削除し,以下のとおり追加する。
「,()。ア被告製品及び被告現製品の意匠は本件意匠に類似するか争点7−1
イ本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか(争点7−2)
(8)被告の過失の有無(争点8」)
(22)原判決31頁4行目を「(9)損害(争点9」と訂正する。)
(23)原判決31頁5行目の「争点8−1」を「争点9−1」と訂正し,同頁6
行目の「争点8−2」を「争点9−2」と訂正する。
第3争点に関する当事者の主張
次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3争点に
関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決の32頁24行目の「なお」から33頁1行目までを削除し,改行,
した上で,以下のとおり挿入する。
「なお,一般論として,明示の合意がなくても,取引担当者間において,信義則
上当然に守秘義務が生じる場合があるといえる。
しかし,本件では,日本坩堝株式会社(以下『日本坩堝』という)が平成12。
年9月13日に作成した乙3の3図面は,遅くとも同月末日までにトヨタ自動車に
提出されたが,同社は,乙3の3図面に記載の技術情報につき,明示の守秘義務は
負担していないし,信義則上の守秘義務も負担しているといえる状況にはない。
まず,乙3の3図面は,公知・公用の傾動式取鍋の小蓋に,注湯をスムーズにす
るための内圧調整用の貫通孔を設けるという,極めて簡単な改良に関する図面であ
り,このような図面を見たトヨタ自動車が,信義則上の守秘義務を負うべき情報と
思うとは考えられない。
また,乙3の3図面と同様,日本坩堝が作成し,被告を介してトヨタ自動車に提
,,出された取鍋の設計図である甲10及び11を被告の競合先である原告が入手し
自己の証拠として提出しているのである。
したがって,乙3の3図面は,遅くとも平成12年9月末までに守秘義務を負わ
ないトヨタ自動車に開示されたことにより,同図面に記載された技術事項は公知と
なったものである」。
2原判決33頁5行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。
「d)①なお,加圧式取鍋において,大小の『二枚蓋』を設け,小蓋に貫通孔を
設置する構成も,公知ないし周知の構成である(乙64の1,64の2参照。)
乙64の1,2は公道搬送用の取鍋ではないかもしれないが,公道搬送用の取鍋
は乙1の発明が開示するもので,乙1には,開閉可能な受湯口小蓋19が開示され
ている。
また,乙64の1,2には,大蓋10A及び小蓋(密閉蓋10B)を備えた構成
が開示されており,あえて二重蓋とされている以上,小蓋10Bが開閉を予定され
たものであることは明らかである。
②そして,小蓋に取り付ける配管も,小蓋の開閉のじゃまにならないように短
く構成されればよく,仮に配管が小蓋の開閉のじゃまになるなら,そのような配管
は必要時(加圧時又は減圧時)には接続され,小蓋の開閉時には貫通孔から外され
るという着脱自在に構成するのが技術常識である(本件特許1の明細書の段落【0
055【0057,乙2の9参照。】,】)
したがって『開閉が予定されていない大蓋の方に,配管の接続される貫通孔を,
設置するのが通常の設計であり,開閉が予定されている小蓋に,あえて配管の接続
』,される貫通孔を設置することは通常は想定し難いとの原判決の判断は誤りであり
加圧式取鍋に係る4件の公知発明(乙2の3,乙2の4,乙2の9,乙49参照)
には,開閉可能な蓋(ハッチ)に配管及び貫通孔に相当する構成を設けることが示
されている。
確かに,乙2の3,2の4,2の9及び乙49の発明に開示されているのは,二
重蓋ではなく一重の蓋であるが,これらの蓋は開閉可能であり,しかも配管及び貫
通孔に相当する構成が開示されており,これによって,開閉可能な蓋に加圧用配管
等が接続される技術が周知であることを明らかにするものである。
そして,乙1は二重蓋の構成であり,この二重蓋の構成である乙1の引用発明1
を前提にして,その開閉可能な受湯口小蓋19に貫通孔を設けることが容易想到か
が問題となっている。
もっとも,本件各特許発明1は,確かに二重蓋の構成ではあるが,大蓋が開閉可
能であることは構成要件となっておらず,むしろ大蓋は本体に固定されるものであ
って,小蓋(ハッチ)は本体との関係で一重の蓋ともいえる。
③このほか,引用発明1(乙1)の記載からすれば,公道搬送による揺れ等に
より,溶湯の飛沫が注湯口ノズル等に付着する問題が既に当業者に認識されていた
といえるから,内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少ない位置であ
(),。る小蓋ハッチに貫通孔を設けることは当業者は容易に想到できるものである
そして『蓋のほぼ中央部にある小蓋に貫通孔を設置することにより,液の跳ね返,
りによる汚れが減少する』という本件特許発明1−1の作用効果も,当業者なら予
測し得る範囲内の作用効果にすぎない。
なお,本件明細書にも,気密性を確保するための技術や,具体的構成の説明はな
いように,気密性確保の技術は,当業者には容易な周知技術であって(乙2の1∼
9参照,二重蓋の構成の採用を排斥する理由にはならない。また,逆に,加圧式)
取鍋においても,乙1の引用発明1(傾動式取鍋)と同様に,清掃,予熱のために
二重蓋の構成を採用する必要があり,特に,訂正後の本件各特許発明1の加圧式取
鍋は,加圧排出はするが減圧吸入をしない構成であるため,二重蓋の構成を採用す
る必要がある」。
3原判決の33頁6行目の「d)」を「e)」とする。
4原判決の38頁23行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「④なお,訂正により『公道を介してユースポイントまで搬送される容器』,
であることが相違点となる。しかし,公道を介して搬送可能な溶融金属の容器の構
成については,引用文献1に記載されている。乙2の7公報に開示された構成は,
加圧式注湯炉に関するものであり,公道を介して搬送することを予定するものでは
ない。しかし,加圧式取鍋とは,溶融金属を供給する容器として技術分野を共通に
,。するとともに収容された溶湯を加圧供給するための基本構成においても共通する
したがって,乙2の7公報に開示された加圧式注湯炉を加圧式取鍋に転用すること
は,当業者が容易になし得ることである」。
5原判決の41頁12行目の後に,改行して,以下のとおり追加する。
「なお,公然実施をされていない開発段階にある図面につき,それを開示された
側が信義則上守秘義務を負うのは当然である。
また,甲10記載の被告製品は,平成14年12月9日に初めて使用され,火災
事故を起こしたが,遅くとも火災事故後の平成15年5月の連休明けに使用が再開
された時点では公然実施されている。被告は,その後,同年7月ころから,被告製
品をトヨタ自動車以外の中京地区の会社に売込みを開始している。甲10及び11
は,これらの一連の売込みの際に使用されたものである。このような,被告製品が
公然実施された後の売込みに使用された図面が,信義則上守秘義務を負う性格のも
のでないことは明らかである」。
6原判決の42頁3行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「③乙64の1,乙64の2は,同じ特許出願人により同じ日に出願されたほ
ぼ同一の内容のものであり,実質的には同一の公報である。
そして,これらの公報には『上部の開口部を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで,
被覆する』との記載しかなく,上蓋10A及び密閉蓋10Bの具体的構成について
は,開口部を被覆するということ以外は全く書かれていない。その【図1】を考慮
しても『10B密閉蓋』は,溶融金属を供給するたびごとに開閉することが予定,
された構成にはみえず,むしろ『10A上蓋』と合わせて一枚の蓋を構成するよ,
うに見える。また,これらの公報の段落【0009【0010【図1】を考慮】,】,
しても『上蓋10A』において『密閉蓋10B』が開閉自在になっていることを,
示唆する記載はない。また,これらの公報に記載のものは『10保持炉』の中に,
さらに『20給湯容器』が設けられるという二重の容器の構造となっており『2,,
』,『』。0給湯容器との関係でいえば10B密閉蓋は一重の蓋とみることもできる
いずれにしても,これらの公報に記載のものは,工場内において使用するもので
あり,トラックなどの運搬車輌に搭載されて公道を介して搬送されるようなもので
はなく,溶融金属を搬送する度に『ハッチ』を開閉し,溶融金属の貫通孔の詰まり
を確認するという技術的思想は開示されていない。
以上のとおり,これらの公報に記載されたものは,少なくとも本件特許発明1−
1におけるような開閉自在な『ハッチ』とは構成が異なるというべきである。
④配管を,小蓋を開閉する度に付けたり外したりする必要のない構成を採用す
るのが通常である。確かに,本件特許発明1−3に係る配管は,貫通孔に対して着
脱可能に螺着されているが,これは,小蓋の開閉と同じく,配管の詰まり具合を確
認するためのものにすぎない。
⑤乙2の3の『小蓋23,乙2の4の『炉蓋30,乙2の9の『蓋3,乙』』』
49の『炉蓋30』のいずれも,そもそも『二重の蓋』ではなく『一重の蓋』の構
成である『一重の蓋』の構成において,加圧のための配管を設ける貫通孔が設け。
られる位置は,容器本体の溶融金属を満たした位置よりも上の部分か,一重の蓋の
いずれかの部分である。容器本体に配管を設けることが困難な事情,例えば容器本
体の強度に悪影響があるとか,容器の構造上貫通孔を設けにくいことが考えられる
が,そのような事情があれば,開閉することを予定しているか否かにかかわらず,
やむを得ず,一重の蓋の部分に設けることになる。
しかし,そこからさらに一重の蓋を二重の蓋の構成にすることが導かれるわけで
はない。特に加圧式においては,二重の蓋の構成にして,気体が洩れるおそれのあ
,,,る箇所を増やすことは気密性確保の上で不利であり何らかの必要性のない限り
二重の蓋の構成にすることはない。
さらに,二重の蓋の構成を設けた場合でも,二重の蓋を開閉自在にし,その開閉
自在な蓋に配管を取り付けるようにすることは,作業性及び安全性からみて,通常
想起することではない。容器が大きくなるほど,高温になるほど,周辺部に設けな
いと,作業性及び安全性において問題がある。
いずれにしても,被告の一重の蓋に基づく議論は,その前提が異なる。
『』,『』,⑥引用発明1の注湯口ノズル30は注湯口18に設けられるもので
そこから溶融金属を外部へ注ぎ出す箇所であるから,溶融金属を注ぎ出す度に溶融
金属が付着するのは当然である。
また,引用文献1では,鋳鉄製にすることにより湯切れがよくなることが記載さ
れており,これは,溶融金属を注ぎ出す際に溶融金属が付着しても,容易に剥がす
ことができるとの趣旨である。
いずれにしても,搬送中は『注湯口ノズル30』には『栓31』を挿入するの,
で,乙1の取鍋につき,搬送中に『注湯口ノズル30』に溶融金属が付着すること
は想定されていない」。
,。7原判決44頁4行目から45頁9行目までを削除し以下のとおり挿入する
「(,)2争点1−2被告製品が本件各特許発明1の技術的範囲に属するか否か
(1)原告の主張
ア本件各特許発明1,3及び4の『ハッチ』は,開閉が可能であり,かつ容器
の上面部の中央に設けられ,そのハッチに加圧用の配管用の貫通孔が設けられ,容
器内を『加圧』して溶融金属の供給(又は流通)を可能にすることができるように
容器内部の気密を確保することができるものである点に,その技術的特徴がある。
そして,このような技術的特徴を備えた『ハッチ』を,被告製品が備えることは明
らかである。
被告は,加圧により溶融金属を供給することにしか用いられない被告製品は,本
件各特許発明1,3及び4の『ハッチ』の構成を備えない旨主張するが,このよう
な被告の主張は『加圧』による溶融金属の供給を特許請求の範囲としている本件,
各特許発明1,3及び4の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当で
ある。
イなお,被告が減圧による取鍋内への溶融アルミニウムの導入を用いていない
のは,原告と異なり,いわゆる『加圧吸引機構(フォークリフト上の加圧式取鍋』
内の溶融アルミニウムの残存量に応じて圧力を調整しながら,溶融アルミニウムを
加圧により供給し,減圧により導入をするための機構)を持ち合わせていないとい
う被告固有の事情によるもので,このような事情は,被告の加圧式取鍋が本件各特
許1,3及び4の技術的範囲に属さなくなる理由とはならない。
ウこのように,被告製品は,本件各特許発明1,3及び4の技術的範囲に属す
るものである。
(2)被告の主張
ア本件特許1に係る審決取消判決(乙74)からすれば,本件特許1に開示さ
れた溶融金属供給用容器が,単に加圧により溶融金属を容器外に供給するのみなら
ず,減圧により溶融金属を取鍋内に収納可能な構成をも発明の要旨として取り込ん
でいることが明らかである。
このように,本件特許1における溶融金属供給用容器は,特許請求の範囲に記載
,『』,がないにもかかわらず減圧により容器内に溶融金属が導入可能であることが
本件特許1の技術的範囲となっている。
イこれに対し,被告製品目録記載の取鍋は,取鍋内を加圧して溶融金属の導出
はできるが,予熱及び溶湯供給のために受湯口及び開閉可能な受湯口小蓋を設けた
ものであり,取鍋内を減圧して溶融金属を導入できる構成にはなっていない。
すなわち,被告製品目録記載の取鍋においては,受湯口から取鍋内に溶融金属を
収納せざるを得ず,減圧により溶融金属を取鍋内に収納することはできず,現実に
もそのような方法にて使用されていない。
また,本件特許1における『第2の開口部『ハッチ』は溶融金属の導入に用い』,
られないもの,すなわち,乙1発明の『受湯口』及び『受湯口小蓋』とは機能を異
にするものであるとともに,必須のものでないことが要求されている。
しかし,被告製品目録記載の取鍋の『小開口部23』及び『小蓋3』は,溶融金
属の導入に用いられるとともに,予熱及び溶融金属の導入のために必須のものであ
る。
ウしたがって,被告製品目録記載の取鍋(被告製品)は,本件特許1における
『第2の開口部』及び『ハッチ』の構成を充足せず,非侵害である」。
8原判決の52頁3行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「オなお『即時実施の意図』とは,現実の時間的間隔を意味するものではな,
く,採用に当たってトヨタ自動車の承認が必要なことと,被告が即時実施の意図を
有しているか否かは無関係である。
被告及び中央窯業としては,即時実施の意図を遅くとも平成13年12月17日
,,。及び18日の実湯テスト時には客観的に認識できる態様程度において表明した
乙12の23上の記載は即時実施の意図とは無関係である上乙12の2の湯,,,『
漏れ』については,クランプの長さを調整することにより簡単に解決している。
乙10の1の記載からも,被告が,本件各特許発明2の出願日前に,配管折りた
たみ構成を採用することを決定していたことが明らかである。
また,溶融金属搬送容器(取鍋)は大量生産されるものではなく,新たな設備の
購入が必要であったり,材料を大量に購入する必要があるものではない。
カ特許法79条には『発明の実施の事業』と規定されており,当該発明を実,
施する意図があれば足りるここでいう事業とは先使用権の成立範囲を画する事。,『
業の目的の範囲内において』を判断するための要件にすぎず,原告のように事業を
広く解することは,先発明者と特許権者との間の公平をその趣旨とする特許法79
条の趣旨に反するものである」。
9原判決の53頁2行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「,,『(,)なお乙12の3にはトヨタ側でも鍋を製作中真空吸引加圧排出式?
で2/20頃できあがる。このため豊栄,陽紀,トヨタ3方式を2月以降にテスト
を行う』との記載があり,平成14年2月20日ころより後にテストをさらに行。
うことが予定されている。
また,その他,乙12の2,3の記載からすれば,配管関係についてなお改良の
必要性があることや,配管が回転する構造の加圧式取鍋の問題点が明らかである。
以上のとおり,乙12の3の記載には,多くの不確定な点があり,実際に被告の
加圧式取鍋が初めてトヨタ自動車の衣浦工場への溶融アルミニウムに使用されたの
は,火災事故を起こした平成14年12月9日のことで,それまでの間に相当の紆
余曲折があったことが想起され『後は,細部の改良とトヨタ自動車の承認が降り,
るのを待つだけであった』との認定は誤りである」。
10原判決の54頁6行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「d)そもそも『即時実施の意図』が認められるかどうかは,発明の実施である,
『事業』を基準に考えるべきである。
本件において,単位となる『事業』は『被告製品(加圧式取鍋)による溶融ア,
ルミニウム供給事業』である。たとえ,被告製品の一部の構成要素にすぎない『折
り畳みパイプ』について平成13年12月ころに発明が完成していたとしても,被
告製品による溶融アルミニウム供給の『事業の準備』に着手したといえるような状
況に至らなければ,その先使用に係る発明について『即時実施の意図』を認めるこ
とはできないというべきである。
そして被告製品加圧式取鍋による溶融アルミニウム供給事業について事,(),『
業の準備』に着手したといえるような状況が現出するのは,早くとも,その発明が
被告製品(加圧式取鍋)による溶融アルミニウム供給事業のために使用することが
最終的に決定された『平成14年10月』のことであり,同決定により初めて,被
告は『事業の準備』に着手できたというべきである。そして,最終的に加圧式取鍋
が日本坩堝に発注された時点(平成14年10月28日)が,事業の準備への着手
と評価されるべきである」。
11原判決68頁5行目から21行目までを削除し,以下のとおり挿入する。
「(,),9争点3−4被告製品が本件各特許発明3の技術的範囲に属するか否か
争点4−3(被告製品が,本件特許発明4−1の技術的範囲に属するか否か)及び
争点5−3(被告製品及び被告現製品が,本件特許発明5−1の技術的範囲に属す
るか否か)について
(1)原告の主張
ア前記2(1)のとおり,被告製品は,本件特許発明3−1,3−7,4−1の
各技術的範囲に属する。
イまた,被告製品及び被告現製品は,いずれも本件特許発明5−1の技術的範
囲に属するものである。
ウ原告は,被告が,平成18年8月ころ,添付の別紙『改造前後の被告製品対
照図』のとおり一審被告製品『ポットリーベ』に改造したこと,被告現製品が,本
件特許発明1−1の構成要件1−1D,本件特許発明3−1の構成要件3−1J及
び本件特許発明3−7の構成要件3−7K,本件特許発明4−1の構成要件4−1
Hを充足しないこと,本件各特許発明1,3,4−1の技術的範囲に属さないこと
は争わない。
しかし,改造といっても『ハッチ』上の『内圧調整用の貫通孔』をプラグで塞,
いであるだけであり,内圧調整用の貫通孔に加圧ポートを付け替えて,本件特許発
明1−1の構成要件1−1D,本件特許発明3−1の構成要件3−1J及び本件特
許発明3−7の構成要件3−7K,本件特許発明4−1の構成要件4−1Hを充足
するようにして,改造前の被告製品の状態に復元することは,いつでも,極めて容
易にできることである。
(2)被告の主張
ア本件特許3,4とも,本件特許1と同じく,特許請求の範囲に記載がないに
もかかわらず『減圧により容器内に溶融金属が導入可能』であることが,その技,
術的範囲となっており,そのことを前提として無効審決が取り消されたものである
(乙75,76参照。)
よって,本件特許3及び4とも,本件特許1と同様『ハッチ』は溶融金属の受湯
に用いられないもの,すなわち乙1発明の『受湯口小蓋』とは機能を異にするもの
であるとともに,必須のものでないことが要求されている。
しかし,被告製品目録記載の取鍋の『小蓋3』は溶融金属の導入に用いられるだ
けでなく,同導入のために必須のものである。
したがって,被告製品目録記載の取鍋(被告製品)は,本件特許3及び4におけ
る『ハッチ』の構成を充足せず,非侵害である。
イなお,被告は,平成18年9月1日以降,貫通孔を小蓋(ハッチ)ではなく
大蓋に設けた取鍋(本件特許4との関係では,取鍋の流路の内径も80mmに設計
変更した)を使用しており,これは,本件特許1,3及び4の技術的範囲に属さ。
ない。
ウ被告製品の栓(焼結ベント)72とソケット71とは,人間の手で取り外し
ができるものではなく,上記焼結ベント72は,本件特許発明5−1の構成要件5
−1Fの『着脱可能な栓』には相当しない」。
12原判決の77頁2行目の後に,改行した上で,以下のとおり追加する。
「そして,請求項1には,容器の大きさや,出湯時間(出湯管内部流速)を特定
するような記載は一切存在しない。実際にも,取鍋のサイズは搬送ルートや搬送先
の工場設備により異なるので,取鍋のサイズが自ずと決まるということはない。
また,供給速度と時間についても,同様に,取鍋のサイズや工場の条件により異
なるものであって,自ずと決まるということはない」。
13原判決の79頁8行目の後に,改行した上で,以下のとおり追加する。
「d)公道を介して搬送される取鍋の大きさは,搬送のため使用する公道の幅が
一定であり,それに合わせて公道を搬送する運搬車輌の大きさも一定であることか
ら,自ずから決まるといえる。
また,このような構造及び仕様の公道を介して搬送される加圧式取鍋において,
実用的な溶融アルミニウムの供給速度も,自ずから定まるというべきである。当業
者であればわずか数秒で供給することはあり得ないと考えるであろうし,他方,5
分もかけて供給すれば,流路が詰まることも当然に予測し得ることである。
流路の内径という一つの条件を特定するに当たり,当業者において溶融アルミニ
ウムの供給速度をすべて実測し,その実測値まで発明の詳細な説明に記載し,かつ
特許請求の範囲において特定しなければならないとすることは,特許出願人に無用
の困難を強いるものである」。
14原判決81頁10行目の「ものである」を「ものであり,又は,少なく,
とも当業者が容易に想到できる発明であって,進歩性欠如の無効原因を有する」。
と改める。
15原判決の83頁13行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「(3)被告の主張・無効理由3について
仮に,甲10についての原判決の判断が正しい場合には,被告は甲10に代えて
乙65を主引例とする。乙65は,本件特許1の公開特許公報(公開日平成14
年9月10日)であり,ここには,請求項1の発明の構成要件5−1C及び請求項
8の発明の構成要件5−8Dの『規制部材』に係る構成以外のすべての構成が開示
されている。また,乙65には,加圧式取鍋において,容器内が所定の圧力以上と
なるという問題点が開示されている(段落【0058】参照。)
以上からすれば本件特許発明5−1及び5−8は乙65記載の発明以下乙,,(『
65発明』という)を主引例として,乙8の3,乙28及び平成14年12月9。
日のトヨタ自動車衣浦工場における溶湯湯漏れ火災事故の原因(乙8−15.推
定原因)から,当業者が容易に想到可能であり,進歩性欠如の無効理由を有する。
なお,乙65の段落【0058】の記載は,溶融金属を吐出する際に配管が詰ま
るため圧力が上昇する場合にも該当するとしても,主として,公道搬送中の圧力上
昇の問題を説明したものといえる。
また,本件特許5の基準日前に公開された,原告出願の特開2001−3409
57号(乙80)には,公道搬送中に取鍋内の圧力が上昇するという問題点が説明
されており,この問題点は公知の知見であったものである。
(4)被告の主張・無効理由4について
ア被告は,乙65公報を主引例とし.乙66等の公知の刊行物を副引例とする
進歩性欠如を主張する。
イ請求項1に係る発明は,乙65発明と構成要件5−1A,B,Dで一致し,
5−1C(前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,溶
融金属の通過を規制する規制部材と)の部分で相違する。
しかし,乙66記載の考案(以下『乙66考案』という)では,請求項1の発。
明の『前記貫通孔に通じる第2の流路』に相当する『減圧用パイプ(13』に,)
本件特許5の『規制部材』に相当する『空気は流通するが,溶湯は通過させない焼
結ベント(20』を介在させる構成要件5−1Cと同じ構成が開示されている。)
そして,乙66考案の『焼結ベント』は,主として本件特許5の技術分野と同一
又は極めて近接する技術分野であるところの,溶融金属を用いた鋳造装置に使用さ
(),『』れている周知慣用技術であり乙67ないし69参照本件特許5の規制部材
も,乙66考案の『焼結ベント(20』も,その目的はいずれも溶融金属が外部)
に流出することの防止である上,加圧式取鍋において,容器内が所定の圧力以上と
なり,溶融金属が外部に流出する可能性があることは知られていた(乙65の段落
【0058】参照。)
したがって,乙66考案の焼結ベントを適用する動機付けがあるといえ,乙65
発明に乙66考案を組み合わせることに何ら阻害事由もない。
ウなお,本件特許5においても,容器内が所定の圧力以上となったときの対策
としてリリーフバルブが掲げられており(段落【0132】参照,乙65発明に)
おいてリリーフバルブの対策があること(段落【0058】参照)が,乙65発明
に乙66考案を組み合わせる阻害事由にはなり得ない。
したがって,請求項1に係る発明は,当業者が容易に想到できる,進歩性を欠如
した発明である。
エまた,請求項8に係る発明は,乙65発明と構成要件5−8A,B,C,E
で一致し,D(前記圧力開放管に,前記溶融金属の流通を規制するように設けられ
た規制部材と)の部分で相違する。
しかし,乙66考案では,請求項8の発明の『圧力開放管』に相当する『減圧用
パイプ(13』及び『規制部材』に相当する『空気は流通するが,溶湯は通過さ)
せない焼結ベント(20』を介在させる構成が開示されている。)
したがって,請求項1と同様の理由により,請求項8に係る発明は当業者が容易
に想到できる,進歩性を欠如した発明である。
オ以上のとおり,本件特許5の請求項1及び8に係る発明は,乙65発明を主
引例として,これに乙66考案,乙8の3及び乙67ないし69の周知技術を組み
合わせれば,当業者が容易に想到可能な発明であり,進歩性欠如の無効理由を有す
る。
(5)被告の主張・無効理由5について
乙73(特開2004−209521号)は,有限会社杉浦商店の出願に係る特
許公開公報であり,同特許は,本件特許5の基準日である平成14年12月28日
に出願されたものであるが,同特許に係る発明は,本件特許発明5と実質同一であ
る。
すなわち,本件各特許発明5の詳細な説明には,乙73の構成が実施例として記
載されており,乙73記載の取鍋も,貫通孔に加減圧用の配管66が設けられるも
のであることは段落【0027】記載のとおりである。そして,規制部材を加減圧
用の貫通孔に設けるか,配管に介在させるかは,作用効果に相違がない以上,当業
者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。
このように,乙73発明と本件各特許発明5とは,その明細書の記載内容及び図
面からして,起源を同一とする発明であることは明らかであり,また,出願すれば
出願公開されることは自明であるから,原告が有限会社杉浦商店に対し守秘義務を
課していたとは考えられず,以上からすれば,本件各特許発明5は,出願日以前に
秘密状態を脱し,公然知られたものとなっていたといえる。
したがって,本件特許5−1及び5−8は,新規性欠如の無効理由を有するもの
である」。
16原判決の83頁14行目の「(3)」を「(6)」とする。
17原判決の85頁10行目の「(4)」を「(7)」とする。
18原判決86頁7行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「(8)原告の主張・無効理由3及び4について
ア乙65の段落【0058】における『容器100内が所定の圧力以上となっ
たときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになってい
る』との記載は,異常な加圧をしたときの容器内の圧力の急激な上昇を防止する。
との課題を記載したものである。すなわち,加圧により溶融金属を供給する際に,
①異常な加圧が『第2の流路』を通じてされ,②その結果,容器の内圧が異常に高
まり,③リリーフバルブが自動的に開放されることにより,その内圧を下げるとい
うのが,上記段落【0058】の趣旨であり,これは,本件特許発明5−1及び5
−8において,加圧式の容器を搬送する際に『第2の流路(加圧ポート)を密閉,』
すると,容器の内圧が少しずつ上昇し,溶融金属が『流路57』及び『配管56』
を介して外へ流出するおそれがあることを防ぐことを課題とする『規制部材』の技
術的思想とは根本的に異なる。このような課題は,原告においても当初は認識がな
く,加圧式の容器を開発している際に『第2の流路(加圧ポート)を密閉して試』
験していた際に『流路』の液面が異常に高まることを発見したものである。,
そして,このような課題を想起しなければ,そもそも焼結ベントであれ,金属製
のウールであれ,加圧用の気体の配管を密閉することを想起するのは困難である。
イ乙66の『13減圧用パイプ』は,その溶融金属の供給原理(サイフォン)
においても,その構成(サイフォン管の途中に設けられサイフォン現象を開始させ
るためのもの)においても,本件特許発明5−1の構成要件5−1Cの『第2の流
路』や本件特許発明5−8の構成要件5−8Cの『圧力開放管』とは異なる。
このほか,乙67ないし69においては,あくまで溶融金属を『圧力』をかけて
流す際に機能させるために『焼結ベント』が設けられているにすぎない。
なお,鋳造の技術に使用されることが『焼結ベント』の本来の技術分野であるの
に対し,本件特許発明5−1及び5−8の『規制部材』は,溶融金属の安全な搬送
に関する技術であり,鋳造とは直接関係がない。
また『焼結ベント20』が,鋳造において,鋳型の空気抜きから溶融金属が流,
出するのを防ぐとしても『焼結ベント20』自体が,本件特許発明5−1の構成,
,,要件5−1Cと同一の構成になるわけではなくこれを同一の構成にするためには
『規制部材』を『第2の流路』に設けることが必要である。そして『規制部材』,
を設ける必然のない『第2の流路』に『規制部材』を設ける構成を想到するために
は,そのような結び付きを想起するに至るだけの動機付けが必要である。
このほか『第2の流路』は,搬送中は密閉した方が,溶融金属が冷えないこと,
に加え,万一,容器が転倒した場合でも,密閉していた方が安全である。これらの
事情は明らかに『規制部材』を設ける際の阻害事由となる。
また『リリーフバルブ』は,加圧の際の異常な内圧を防止するためのものであ,
るが,これが搬送中の異常な内圧を防止するためにも作用すると当時の当業者が想
到するのであれば『規制部材』を設ける際の阻害事由となり得る。しかし,当時,
の当業者は,そのような課題を知らなかったものである。
ウ乙80の課題は,溶湯(マグネシウム)の急激な酸化であり,それは,取鍋
のライニングに残存する水分が気化して圧力が次第に上昇するとの本件特許発明5
の課題とは大きく異なる。その解決方法も,溶湯の酸化を防止するために不活性ガ
スを充填するというもので,空気を通過させる規制部材を設けて圧力上昇を防止す
るとの本件特許発明5の課題解決手段とは大きく異なる。すなわち,不活性ガスを
充填しても,取鍋のライニングに残存する水分が気化して圧力が上昇することを防
止できず,他方で,空気を通過させる規制部材を設けたところで,溶湯の急激な酸
化による爆発による急激な圧力上昇を防止できない。
(9)原告の主張・無効理由5について
開発関係者において,公然実施される前の開発中の製品の詳細につき信義則上守
秘義務を負うべきことは当然である。本件各特許発明5については,トヨタ自動車
及びその関係者は,その内容につき守秘義務を負うが,同守秘義務は,原告自身に
より,又はその承諾の下に出願され,それが出願公開された時点で解除される。有
限会社杉浦商店も,原告の承諾の下に出願をしているのであるから,原告自ら出願
をした場合と同様,何ら問題はない」。
19原判決の86頁25行目の「と」の後に「や,乙68及び69の記載」,
を挿入する。
20原判決の86頁25行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「乙8の2対策書添付の見取図に寸法等の記載がないことや,焼結ベントのサン
プルの取寄せや具体的に使用する焼結ベントの効果試験が後日されたという事実
は,発明の完成ではなく,実施品の開発が後日行われたということである。
すなわち,焼結ベントといっても種々の種類,仕様があり,具体的な加圧式取鍋
に取り付けた場合の確認の試験をしたものであって,発明自体の効果を検証するた
。,。」めの試験ではない原判決は発明の完成と実施品の開発行為とを混同している
21原判決の87頁6行目の後に,改行して,以下のとおり挿入する。
「原判決は,被告が提出した,焼結ベントを使用するとの着想は事故直後の平成
14年12月9日に開催された対策会議において,トヨタ自動車従業員Aが提案し
たとの報告書(乙59)を無視しているが,仮に甲19及び20の記載が真実であ
ったとしても,その記載からは,ポートの先端に焼結金属などを取り付けて,溶湯
,,湯洩れの発生を防止するとの着想がトヨタ自動車の従業員から発案があったのか
原告従業員から発案があったのかは明記されていない。また,甲20の記載を確認
した甲29のトヨタ自動車の従業員の確認書においても,発案者が原告従業員であ
ることは明記されていない。
,『』,,前述のとおり焼結ベントは鋳造分野において周知慣用技術であるところ
エンジンやその部品の鋳造を行っているのはトヨタ自動車であるのに対し,原告は
溶融金属の製造・販売を業としているのであって(取鍋の製造も他社に発注してい
るものと推測される,鋳造技術についての知見に乏しいことからすれば,焼結ベ。)
ントの着想は,トヨタ自動車の従業員の着想であると判断すべきである」。
22原判決の89頁24行目の「後のことである」の後に,以下のとおり挿。
入する。
「甲19及び20(原告の研究員作成の議事録,甲29(トヨタ自動車の本社)
の関係者の確認書)からすれば,本件特許発明5−1及び5−8に係る発明が原告
の従業員によることは明らかであり,被告の『焼結ベント』を『加圧用配管部』に
設けるとの発明は,原告従業員による発明に由来するものである」。
,,。23原判決の100頁10行目の後に改行した上で以下のとおり挿入する
「なお,前述のとおり,即時実施の意図の有無と,実施品が現実にトヨタ自動車
の承認を得て採用されるか否かとは無関係であり『即時実施の意図』が現実の時,
間的間隔を意味するものでもない。
そして結露テストが行われたのは取鍋本体についてであり本件特許67取,,,(
鍋本体に結露が発生することを防いだり,カプラの形状を具体的に定める発明では
ない)に関する構成とは無関係である。平成15年2月21日に製作されたもの。
は,現実に使用する製品であり,試作品でないことは,乙29の2の記載からも明
らかである」。
24原判決の103頁9行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「なお,本件特許発明6−2及び7−2の課題が,平成14年12月9日の火災
事故にあり,その原因が何らかの理由により容器のいずれかの箇所に存在した水分
にあることからすれば『結露テスト』が本件特許発明6−2及び7−2と無関係,
であるはずがない。
そして,乙9図面に基づく試作品について結露テストが行われたのは,本件特許
発明6−2,7−2の基準日である平成15年2月21日より後の同月22日であ
り,結露テストだけで安全性を確認することができるはずはなく,その後さらにそ
の他のテストが行われたことが容易に推認される。
以上からすれば,被告製品による溶融アルミニウム供給事業について『事業の準
備』といえるような状況が現出するのは,早くとも同月22日の結露テストの後で
ある」。
25原判決の104頁3行目を「16争点7−1(被告製品及び被告現製,
品の意匠は,本件意匠に類似するか」と改める。)
,,。26原判決の114頁15行目の後に改行した上で以下のとおり挿入する
「f)原判決は,本件意匠の取鍋本体,大蓋,小蓋,突出し部及び配管の組合せ
からなる取鍋の全体的形状が要部であることを認定しているところ,突出し部及び
,。配管の具体的態様の差異は両意匠に共通する美感を左右するほどのものではない
特に,両意匠は,パイプ部材及び配管が逆U字状に屈曲していることに変わりな
く,取引者及び需要者は,この形状に注目し,これと取鍋の全体形状から両意匠に
共通する美感を認識するものである。突出し部の直角三角形の形状の『長辺』が取
鍋本体に接するか『斜辺』に接するかは,看者が注意深く観察しなければ気がつ,
かないような微差であり,その微差が,本件意匠及び被告意匠が生じさせる『横方
向への広がりを持ち伸びやかな美感』に影響を与えることは考えられない。
なお,公知意匠2は,本体が有底円筒形状ではなく,突出し部に相当するものも
なく,配管において本体から横方向への広がりもない。これに対し,被告意匠は,
その本体は有底円筒形状であり,突出し部を備え,配管も取鍋本体から横方向への
広がりがある。このように,被告意匠は,その全体的な構成において,本件意匠と
同様に『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』を生じさせている。
また,そもそも『公知意匠であることから,直ちに,登録意匠の要部となり得な
いと考えるべきではない』ことについては,被告も認めている」。
「」,27原判決の120頁9行目の公知意匠から11行目までを削除した上で
以下のとおり挿入する。
「なお,一般には『公知意匠であることから,直ちに,登録意匠の要部となり,
得ないと考えるべきではない』かもしれないが,創作法である意匠法の類否判断と
しては,公知な部分と新規な部分は軽重をつけてしかるべきである」。
,,。28原判決の122頁26行目の後に改行した上で以下のとおり挿入する
「(iii)このように,本件意匠の突出し部4は,その上面部が水平面であるのに
対し,被告意匠の突出し部④は,その上面部が突出し部の斜線に垂直で外側にやや
傾いており,かつ,円錐台状をしている。また,本件意匠には5Cで指示される特
徴的な部材があるのに対して,被告意匠にはこれがない。
原判決は,本件意匠の要部は,被告意匠と共通する取鍋本体,大蓋及び小蓋であ
るとして,両者の類否判断をしたとしか考えられず,仮にそうでないとしても,新
規部分である突出し部の位置並びに配管形状の相違を無視した判断であるといわざ
るを得ない。このような原判決の判断は,公知部分である取鍋本体,大蓋及び小蓋
の形状が共通するすべての取鍋に意匠権の効力が及び得ることを意味するもので,
創作法である意匠法の判断として不当であり,しかも,看者は取鍋の取引者及び需
,,。要者であって一般消費者ではないことも考慮すれば原判決の判断は誤りである
なお,公知意匠2は,パイプ部材に当たる部分がなく,配管の傾斜具合が概ね下
向きであるのに対し,本件意匠は概ねやや上向きに横の方向に広がっている点にお
いて本件意匠と大きく異なる。
また,本件意匠のフランジ接合された3つの配管は,全体的な傾斜具合が概ねや
や上向きに横の方向に広がっていることから『横方向への広がりを持ち伸びやか,
な美感』を生じているとされている。これに対し,被告意匠は,パイプ状の部材の
存在において本件意匠と共通するものの,突出し部の形状は,本件意匠は直角三角
形の長辺が取鍋本体に接しているのに対し,被告意匠は,直角三角形の斜辺が取鍋
本体に接しているものであり,この点のみをもってしても,看者に与える美感が相
違する。
さらに,被告意匠の配管は,その傾斜具合が公知意匠2と同じく概ね下向きであ
り,同じく概ねやや上向きに横の方向に広がっている本件意匠と大きく異なる。そ
れ故,本件意匠のような『横方向への広がりを持ち伸びやかな美感』を生じず,美
感において明らかに相違する」。
29原判決の123頁7行目の後に,改行した上で,以下のとおり挿入する。
「17争点7−2(本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか)について
(1)被告の主張
ア溶融金属を搬送するために使用する容器は,工場において溶融された高温の
溶融金属を入れた状態でトラック等に積載されて別の工場に搬送され,工場内をフ
ォークリフトに搭載されて移動し,他の容器に溶融金属を排出,供給するものであ
るが,その供給方法によって『傾動式』と『加圧式』の2種類に分類される。すな
わち,傾けることによって,溶融金属を注湯する傾動式の取鍋と,取鍋内に加圧気
体を送り込み,配管から溶融金属を排出する加圧式の取鍋が存在する。
両者は,溶融金属の供給方式の違いを除けば,高温の溶融金属(溶湯)を保持す
るための取鍋本体と,取鍋本体を密閉するための蓋と,取鍋本体の内部に貯留した
溶融金属を外部に供給するための注湯口を備えていることが機能的な必然性から共
通する。
,。,供給方式の相違に起因する形状の第1の相違点は配管の有無であるすなわち
傾動式は,容器(取鍋)を傾けることによって注湯するので,溶融金属を注湯する
配管は必要がない。これに対し,加圧式は,溶湯が加圧力により勢いよく飛び出す
ので,収容溶湯の取出し部には下向きの配管が必要となる。
,,,,()また第2の相違点は突出し部の位置であり傾動式においては容器取鍋
を傾けて溶融金属を排出するのであるから,突出し部は取鍋本体の側面の高さの中
ほどの位置に取り付けられることになる。これに対し,加圧式は,加圧して溶融金
属を排出するにつれて,溶融金属の液面が低下していくので,溶融金属排出用の流
路が傾動式のように取鍋本体の中段部にあると,これ以上加圧しても流路よりも下
に残った溶融金属は供給できないことになる。
そこで,加圧式の場合は,溶融金属排出用の流路は取鍋本体のできるだけ『底部
に近い位置』にあることが技術的に求められる。
イ本件意匠は,加圧式取鍋に係る意匠であり,公知意匠1は,傾動式取鍋に係
る意匠である。
そして,本件意匠と公知意匠1及び公知意匠2を比較すると,本件意匠と公知意
,,,。,,匠1は取鍋本体大蓋小蓋及び突出し部の形状が共通する他方で両意匠は
突出し部の位置において相違する。
しかし,前述のとおり,加圧式取鍋では,溶融金属を別の容器に注ぐためには,
取鍋内の下部に多くの溶融金属を残留させないようにするために,排出用の流路を
容器内の貯留空間に容器の底部付近で接続させることが必要不可欠になる。したが
,,って突出し部の位置において本件意匠が取鍋本体の底部付近で接続してなる点は
傾動式取鍋の形状から本件意匠の出願前に当業者が容易にすることができる形状の
変更である。
また,本件意匠と公知意匠2では,配管の形状において,全体が逆U字状に屈曲
し,途中に2枚のフランジが設けられてなる点が共通する。先端が下向きの配管を
設けることは,前述のとおり,傾動式取鍋の形状から本件意匠の出願前に当業者が
容易にできる形状の変更である。その配管の形状を具現化したのが公知意匠2や乙
2の8第1図に掲載の意匠であり,本件意匠の出願前に当業者が容易に創作し得る
形状である。
したがって,傾動式取鍋の形状を加圧式取鍋の構成に置換することは,本件意匠
の出願前より当業者にとって容易であり,その置換に伴って傾動式取鍋における各
構成部分を加圧式取鍋に適した形状に適宜変更することができるものである。
ちなみに,意匠法の保護対象である意匠(デザイン)は,著作権法の保護対象の
1つである純粋美術ではなく,いわゆる工業製品のデザインであり,これは,意匠
の創作性や,技術的・機能的側面からの発想が渾然一体となって決定されていくも
のである。そうであれば,意匠法3条2項の創作性の判断においても,技術的・機
能的観点からの考察を入れることは,何ら不当ではない。
ウよって,本件意匠は,その出願前,当業者が,公知意匠1及び2に基づき容
易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反して登録された無効理由を有す
る。
(2)原告の主張
ア意匠法3条2項に規定する創作容易といえるためには,①出願に係る意匠が
出願前に公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいているこ
と,及び②それら公知の形状などに基づき容易に意匠の創作ができたことが要求さ
れる。
原審が認定した『公知意匠1』は,被告が提出した『公知意匠図面』に基づくも
のであるがこれがいつごろ公然知られたのかについては何ら立証がなく当初公,,『
知意匠図面』として添付されていた『写真』自体も,いつごろ撮影されたか立証さ
れていない『公知意匠図面』は,被告が本訴のための作成したものにすぎず,そ。
もそも意匠法41条及び特許法104条の3に基づいて,本件意匠を意匠無効審判
において無効とされるべきものと認めるための基礎となるべき公然知られた意匠と
しての適格性を欠く。したがって,原告としては,本来,これ以上の主張は不要で
ある。
,『』『』,イ仮に公知意匠図面に記載のものを公知意匠1として扱うとしても
公知意匠1と本件意匠とは,①突出し部の大きさとその位置が相違し,また,②当
該突出し部の上端に取り付けられ,先端部が下方に屈曲した配管が公知意匠1にな
い点が相違する。
具体的にも,取鍋本体の上部外縁に設けられたフランジの厚さが,公知意匠1で
はより薄く感じ,本件意匠のような重厚さが感じられない。また,本件意匠よりも
公知意匠1の方が縦長であるため,大蓋の高さが高く感じる。さらに,本件意匠に
比べ公知意匠1の突出し部は極めて小さく,配管に近い印象を受ける点で,正面か
ら見た印象が大きい三角形状に見える本件意匠と著しく相違する。
原判決も,乙1の実施品であると被告が主張する公知意匠1は,本件意匠と大き
く相違し,美感も異にするものと認めている。
以上のとおり,公知意匠1は,本件意匠と大きく異なる。
『』,【】,ウ公知意匠2についてはその公報における図1は部分断面図であり
具体的な形態を特定できず,平面図である【図2】を参酌しても,意匠を特定する
際に必要な6面図のうち2面についての図しかなく【図1】の意匠の形態はなお,
不明確である。
以上のとおり公知意匠2の特定は容易ではないが念のため図1及び図,,,【】【
2】などの記載から公知意匠2の形態を把握できる範囲において,反論することと
する。
公知意匠2においては,本件意匠の基本的構成態様の突出し部が存在しない点で
相違する。また,本件意匠では取鍋本体が有底円筒形状であるのに対し,公知意匠
2は,上から見て長方形をしており,その正面も前傾収容部を除けば正方形に近い
形状であり,円筒形とは異なっている。
さらに,被告が突出し部と主張する部分も,上からみると,本件の横幅がそのま
ま迫り出して長方形を形成しており,本件意匠の突出し部とは明らかにその形状を
異にする。
配管についても,本件意匠では外側に取鍋本体と突出し部を合わせた横幅に対し
,,約1/2の長さで延びているが公知意匠2では約1/11しか外側に出ておらず
しかも2枚のフランジの横方向間隔は,本件意匠ではその取鍋本体と突出し部を合
わせた横幅に対し約1/3.5であるが,公知意匠2では当該溶湯運搬炉本体の最
大横幅に対して1/16であるため,全体として公知意匠2の配管は,他の部分に
埋没してしまうほどの大きさしかない。
このように,公知意匠2もまた,本件意匠と大きく異なり,このような公知意匠
2に,やはり本件意匠とは大きく異なる公知意匠1を組み合わせたとしても,本件
意匠と同様の美感を有することは極めて困難である。
エなお,容易に創作をすることができるといえるのは,意匠の構成要素を他の
,,,意匠に単純に置き換えるか又は複数の意匠をそのまま組み合わせることにより
当該意匠と実質的に同一の形状の意匠を容易に創作することができるような場合の
みである。これに対し,公知意匠Aに公知意匠Bを組み合わせるに当たり,公知意
匠Bの一部分のみを任意に取り出し,公知意匠Aの任意の部分と置き換えたり,組
,『』。み合わせたりするようなことはもはや創作容易性の範囲を超えるものである
まして,公知意匠Aの任意の部分の配置を変更した上で,さらに,公知意匠Bの一
部分のみを任意に取り出して,配置を変更した部分と置き換えたりするようなこと
は,およそ創作容易性の要件を満たすとはいえない。なぜなら,公知意匠の配置を
変更した上で,他の公知意匠の一部分のみを取り出し,それと置き換えたりするこ
とにまで,意匠法3条2項を適用するのでは,当業者の立場からみた意匠の着想の
新しさないし独創性を問題とする同項の趣旨に反し,着想の新しさ,独創性が認め
られる意匠についてまで,複数の公知意匠を自由に変形し,かつ組み合わせること
により,その創作性を否定することが可能となり,不当だからである。
これを本件についてみるに,公知意匠1において『突出し部の本体への取付け,
位置を,本体の外周底部付近に修正するとともに,公知意匠2の配管を組み合わせ
る』ことにより,本件意匠出願前に当業者が容易に創作することができた意匠であ
るという被告の主張は,①公知意匠1の構成要素の配置を変更した上,②公知意匠
2の部分のみを任意に取り出し,③公知意匠1の構成要素と組み合わせるという創
作容易性の範囲を明らかに超える創作をしており,主張自体失当である。
オ被告は,傾動式取鍋と加圧式取鍋について,その機能的な観点について説明
しているが,物品の類似性を説明するためであればともかく,意匠法3条2項の創
作容易性との関係においては,全く意味がない。なぜなら,意匠法3条2項の創作
容易性は,物品の類似性を問題としていないからである。被告は,このほかにも,
物品の機能に係る主張をするが,意匠法3条2項の創作容易性の趣旨に反するもの
であり,失当である。
また,被告が主張する『供給方式の相違に基づく機能的必然性から導かれる相違
点,例えば,傾動式取鍋の『突出し部』と加圧式取鍋の『突出し部』の位置の相』
違は,供給方式の相違に基づく機能的必然性から導かれるものですらない。機能的
には,溶融金属を供給する『流路』の下端が容器の底部付近にあれば,突出し部を
どこに設けても加圧式の容器として機能する。さらには,いわゆるストーク式のよ
うに,突出し部自体がなくても,加圧式の容器として機能する。
以上のとおり,機能的必然性からくる被告の主張は,そもそも意匠法の議論とし
て失当である上,突出し部の位置は,供給方式の相違に基づく機能的必然性ですら
ない。
また,意匠の創作について技術的な制約がある場合においても,具体的な美的外
観である意匠の創作は可能である。
カ以上からすれば,本件意匠は,その出願前,当業者が公知意匠1及び2に基
づき容易に創作できた意匠とはいえない。
18争点8(被告の過失の有無)
(1)原告の主張
訂正は,特許請求の範囲の減縮などを目的とするものに限られ,訂正において新
規事項の追加は認められず,実質上特許請求の範囲を拡張したり変更したりしては
ならない。このような要件を満たす訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張,変更す
るものではなく,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。適法な訂正がされ
た結果,第三者の実施行為が特許請求の範囲に属さなくなることはあれ,新たに特
許請求の範囲に属することはない。
以上のような訂正の趣旨を踏まえれば,適法な訂正が第三者に不測の不利益を与
えることはあり得ず,訂正後の特許請求の範囲との関係では過失の推定の適用の基
礎が失われるかのような被告の主張は全く理由がない。
(2)被告の主張
ア特許法103条の趣旨は,侵害者の故意・過失の立証の困難さを解決すると
ともに,過失推定の根拠として公示制度の存在が前提となっているが,同条はあく
までも推定規定であり,無過失責任を定めるものではなく,無過失の立証がされれ
ば,原告の損害賠償請求が認容される余地はない。
そして,特許法104条の3により,侵害訴訟において権利の有効性につき争う
ことができる。これは,無効理由があると判断し当該判断に至ったことに過失がな
い場合,すなわち,特許権が無効であると判断したことに過失がない場合は,特許
権侵害についての過失が否定されることにほかならない。
イ特許権者は,時期の面からいえば,ほぼ無制限に特許請求の範囲を訂正する
ことができる。確かに,訂正についてはその要件が法定されており,特許請求の範
囲の実質拡張変更は禁止されているが,明細書に記載された事項からどの部分を特
許請求の範囲とするかは出願人の専権に属しているとともに,訂正要件を満たす限
,,,りどのように特許請求の範囲を訂正するかも出願人の専権にゆだねられており
しかも,訂正の効果は遡及する。
そして,権利者以外の者が,あらゆる訂正可能性を考えて行動しなければならな
いとすれば,特許請求の範囲のみならず,明細書の記載から特許請求の範囲の減縮
に当たる部分すべてが事実上特許請求の範囲となってしまう上,特許請求の範囲の
減縮に当たるか否かは微妙な判断がつきまとう。
加えて,本件特許1,3及び4は,いずれも複数回にわたって(本件特許1及び
4は2度,本件特許3は3度(ただし請求項3は2度)訂正請求ないし訂正審判)
請求がされたものである。
このほか,被告は,被告製品目録記載の取鍋を,平成18年8月まで使用してい
ただけであり,生産を行ったことはない。そして,すべての使用者に特許権の調査
義務を課すことは妥当ではない。
ウ以上に挙げた評価根拠事実を総合的に勘案すれば,被告が上記各特許権は無
効であって,被告が上記各特許権を侵害していないと判断したことについての無過
失が証明されたことは明らかであり,原告の,本件特許1,3及び4の侵害を理由
とする損害賠償請求は理由がない」。
30原判決の123頁8行目の「17争点8」を「19争点9」とする。
31原判決の123頁10行目の「争点8−1」を「争点9−1」とする。
32原判決の123頁12行目から15行目までを,以下のとおり訂正する。
「①被告は,平成15年5月12日ころから現在に至るまで,被告製品による
溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年は800
0トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成1
,,,8年は6300トン平成19年は8500トン平成20年は1万1700トン
平成21年は8910トンの納入をしている」。
33原判決の124頁9行目から19行目までを,以下のとおり訂正する。
「③溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月
,(。。),から12月までが平成187円1円未満の端数は切り捨てたもの以下同じ
②平成16年1月から12月までが,平均200円,③平成17年1月から12月
までが,平均206円,④平成18年1月から12月までが,平均296円,⑤平
成19年1月から12月までが,平均296円,⑥平成20年1月から12月まで
が,平均312円,⑦平成21年1月から12月までが,平均178円である。
以上の,被告の溶融アルミニウムの納入量,本件各特許発明の実施について認め
られるべき料率及び溶融アルミニウムの納入価格の各事実と,本件特許1から7ま
での特許権設定登録の時期とを考慮すれば,被告が被告製品を使用して溶融アルミ
ニウムを納入したことによる原告の損害額は,①『別紙1−1』の平成15年5月
12日から平成17年12月31日までの期間の7億0931万9894円②別,『
紙1−2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期間の9億2
358万8000円,③『別紙1−3』の平成21年1月1日から平成21年12
月31日までの1億8238万7700円を合計した18億1529万5594円
となる」。
34原判決の125頁17行目から126頁3行目までを,以下のとおり訂正
する。
「被告製品がすべて平成15年5月12日に製造されたものとみなし,平成16
年5月12日,平成17年5月12日,平成18年5月12日,平成19年5月1
2日,平成20年5月12日,平成21年5月12日及び平成22年5月12日に
それぞれ修繕されるものとみなし,かつ,本件特許1から7までについての特許権
設定登録の時期を考慮するならば,被告が被告製品を使用していることによる原告
の損害額は,平成15年5月12日から平成21年12月31日までの期間におい
ては,①『別紙2−1』の平成15年5月12日から平成17年12月31日まで
の期間の8389万3523円,②『別紙2−2』の平成18年1月1日から平成
20年12月31日までの期間の1億1385万円,及び③『別紙2−3』の平成
21年1月1日から平成21年12月31日までの期間の3795万円を合計した
2億3569万3523円である。
c)よって,原告は,被告に対し,本件各特許に基づき,上記損害金18億15
29万5594円又は2億3569万3523円のうち,2億0400万円並びに
内金800万円につき平成16年12月1日から支払済みまで,内金7200万円
につき平成18年5月26日から支払済みまで,内金1億1000万円につき平成
21年2月24日から支払済みまで,内金1400万円につき平成22年1月16
,。」日から各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による遅延損害金の支払を求める
35原判決の126頁4行目の「争点8−2」を「争点9−2」とする。
36原判決の126頁6行目から9行目までを,以下のとおり訂正する。
「①被告は,平成15年5月12日ころから現在に至るまで,被告製品による
溶融アルミニウムをトヨタ自動車の衣浦工場に納入しており,平成15年は800
0トン,平成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成1
,,,8年は6300トン平成19年は8500トン平成20年は1万1700トン
平成21年は8910トンの納入をしている」。
37原判決の126頁26行目から127頁8行目までを,以下のとおり訂正
する。
「③溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラム当たり,①平成15年5月
,(。。),から12月までが平成187円1円未満の端数は切り捨てたもの以下同じ
②平成16年1月から12月までが,平均200円,③平成17年1月から12月
までが,平均206円,④平成18年1月から12月までが,平均296円,⑤平
成19年1月から12月までが,平均296円,⑥平成20年1月から12月まで
が,平均312円,⑦平成21年1月から12月までが,平均178円である。
以上の,被告の溶融アルミニウムの納入量,あるべき実施許諾料相当額及び溶融
アルミニウムの納入価格を考慮すれば,被告が被告製品において本件意匠を使用し
て溶融アルミニウムを納入したことによる原告の損害額は,①『別紙3−1』の平
成15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の7293万7600
円,②『別紙3−2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期
間の8031万2000円,③『別紙3−3』の平成21年1月1日から平成21
年12月31日までの期間の1585万9800円を合計した1億6910万94
00円である」。
38原判決の128頁3行目から15行目までを,以下のとおり訂正する。
「被告製品がすべて平成15年5月12日に製造されたものとみなし,平成16
年5月12日,平成17年5月12日,平成18年5月12日,平成19年5月1
2日,平成20年5月12日,平成21年5月12日及び平成22年5月12日に
それぞれ修繕されるものとみなし,かつ,本件意匠の登録の時期とを考慮するなら
ば,被告が被告製品を使用していることによる原告の損害額は,平成15年5月1
2日から平成21年12月31日までの期間においては,①『別紙4−1』の平成
15年5月12日から平成17年12月31日までの期間の2103万6438
円,②『別紙4−2』の平成18年1月1日から平成20年12月31日までの期
間の2310万円,及び③『別紙4−3』の平成21年1月1日から平成21年1
2月31日までの期間の770万円を合計した5183万6438円である。
c)よって,原告は,被告に対し,本件意匠に基づき,上記損害金1億6910
万9400円又は5183万6548円のうち,4600万円並びに内金200万
円につき平成16年12月1日から,内金1800万円につき平成18年5月26
日から,内金2000万円につき平成21年2月24日から,内金600万円につ
き平成22年1月16日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める」。
39原判決の128頁17行目から22行目までを,以下のとおり訂正する。
「よって,原告は,被告に対し,本件各特許権及び本件意匠権侵害による損害賠
償として,合計2億5000万円並びに内金1000万円につき平成16年12月
1日から,内金9000万円につき平成18年5月26日から支払済みまで,内金
1億3000万円につき平成21年2月24日から支払済みまで及び内金2000
万円につき平成22年1月16日から,各支払済みまで,それぞれ民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める。
なお,平成18年1月1日以降の損害賠償請求権については,不法行為を請求原
因とする限りにおいては,平成21年2月23日(控訴審での1回目の訴えの変更
申立書が送達される日)までに,3年の消滅時効期間が経過した分があることにな
る。そこで,仮に,被告がこの期間の損害賠償請求権について時効を援用すること
に備えて,原告は,予備的に不当利得に基づく請求原因として,
a)同期間において,被告が,本件特許1から7まで及び本件意匠について法令
又は契約に基づく実施権もないのに,本件特許発明1から7まで及び本件意匠を実
施し,その実施について,同期間の損害賠償請求権(前述のとおり)と同額の金銭
の支払を免れることにより利益を受けたこと,
b)その結果,原告がその実施について金銭を受けられないことにより,被告が
受けた利益と同額の損失を受けたこと
を追加する」。
40原判決の128頁26行目から129頁2行目までを削除し,以下のとお
り挿入する。
「b)加圧式取鍋を使用して衣浦工場に納入する際に,本件特許発明1−1から
1−3までを使用しない構成,すなわち大蓋に貫通孔を設けた構成については,安
全性が確保されることが確認されない限り,トヨタ自動車としては被告による溶融
,,アルミニウムの供給を受け入れることはできず少なくとも損害が発生した当時は
そのような安全性は確認されていない。そして,現在,トヨタ自動車は,大蓋に貫
通孔を設けた構成について,被告の要望により,身長が高くない作業者にも取り扱
いやすくなるなどの理由により,やむを得ず,そのような構成を受け入れている。
また,原告は,被告の火災事故までは,加圧ポートには規制部材を設けていなか
った。しかし,現在,被告の火災事故を受けて,トヨタ自動車は,規制部材のない
構成は受け入れない状況にある。したがって,原告も規制部材を設けて,本件特許
発明5−1及び5−8の構成を実施しており,上記の火災事故後は,本件各特許発
明5の規制部材は,衣浦工場への納入については必須の構成とされている。
さらに,ストーク式の取鍋の意匠も多数存在する。なお,被告は,突出し部のな
い加圧式取鍋(ストーク式)を用いれば,本件意匠を実施する必要がないとも主張
するが,新たな加圧式取鍋を開発するためには,改めてトヨタ自動車から号口(合
格品)との認定を受ける必要があり,被告にとって,本件意匠を使用し続けること
の利点は大きい。
c)原告は,被告が,原告から本件各特許権及び意匠権について実施権の許諾を
受けることなく,当該取鍋を使用して溶融アルミニウムを譲渡することにより利益
,。を得ていることを踏まえた特許法102条3項による損害額の算定を求めている
そして,被告が,取鍋を販売することによってではなく,当該取鍋を使用して溶
融アルミニウムを譲渡することにより利益を得ていることに着目するならば,実施
権許諾料算定の基礎となる数値は,溶融アルミニウムの譲渡による売上高しかあり
得ない。
そのため,原告は,被告の溶融アルミニウムの売上高に実施権許諾料の料率を乗
じることにより,原告の損害額を算定するよう求めており,原審の判断は正当であ
る。
d)これに対し,被告は,取鍋の購入価格に基づいて損害額を算定するよう求め
るが『購入』する行為,すなわち『譲り受ける』行為は,特許法2条3項の『実,
』,『』,施行為とはされておらず譲り受ける行為自体により被告の利益は生じ得ず
原告の損害も生じ得ない。そして,本件では,被告が再譲渡により利益を得ている
事情はない。
また,本件における被告の利益は,取鍋の交換価値ではなく,使用価値において
生じているにすぎない。したがって,購入価格というような取鍋の交換価値に着目
した算定方法は実情に合わない。
このように,取鍋の購入価格に基づく被告の損害額の算定は不当である。
そもそも,溶融アルミニウムの譲渡により利益を上げるためには,溶融アルミニ
,,ウムを販売する意思表示だけでは足りず実際に溶融アルミニウムの占有を移転し
契約を履行することが不可欠である。その契約の履行において加圧式取鍋を用いて
いるのであるから,被告は,加圧式取鍋の使用により,溶融アルミニウムの譲渡に
よる利益を取得しているといえる。
,,e)衣浦工場についていえば原告と被告とが溶融アルミニウムを納入しており
全体の納入量が変わらなければ,一方が増加すれば他方が減少する関係にある。原
告の損害は,まさしく被告が本件各特許発明の構成を模倣した加圧式取鍋を使用す
ることで,原告よりも有利な競争条件で衣浦工場に溶融アルミニウムを供給する機
会を得ることにより発生している。このようにして原告が得た不利益を補填するた
めには,被告による溶融アルミニウムの供給価格を基礎として,それに一定の実施
権許諾料相当額を上乗せする必要がある。
,,オ被告製品はすべて本件各特許発明の技術的範囲に属するというべきであり
損害賠償額の算定に当たっては,本件特許発明2−1,2−2及び2−5,同3−
,,。」1及び3−7同4−1同6−2並びに同7−2の実施料を加算すべきである
,,。41原判決の129頁18行目の後に改行した上で以下のとおり挿入する
「なお,本件は,特許法102条3項及び意匠法39条3項における『実施に対
し受けるべき金銭の額』を損害額として請求している事案であり,特許法102条
2項や意匠法39条2項による請求をしていない以上,被告の『利益』に相当する
『損害』を受けている旨の原告の主張は,前提において失当である。
そして,損害の発生自体は原告の立証事項であり,確かに特許法2条3項1号,
意匠法2条3項において『使用』は『実施』に該当し,差止請求の対象となるが,
それをもって損害が発生したことにはならない。
また,原告が加圧式取鍋の製造販売を業としておらず,溶融アルミニウムの供給
により利益を得ているとしても,当該事情は,民法709条に基づく実損害額を主
張する上では一事情となり得ても,特許法102条3項や意匠法39条3項に基づ
。『』く損害算定規定の適用については関連性がない実施に対し受けるべき金銭の額
の請求である以上,当事者間の固有の関係に着目することとは相容れず,原告の業
務という個別的事情を考慮することは明らかに失当である」。
42原判決の129頁20行目から130頁6行目までを,以下のとおり改め
る。
「a)物の発明の侵害行為と相当因果関係のある損害と認められるのは,当然そ
の『物』についての『実施』に当たる行為である。
そして,物の発明に係る特許権においては,当該物の販売額を前提に,相当な実
施料率を掛けて実施料相当額を算定することは,裁判所に顕著な事実とでもいうべ
き事項である。
それにもかかわらず,実施にかかる物の販売額ではなく,その物の使用により,
容器により運搬した物(溶融アルミニウム)の販売額を基礎として実施料相当額を
算定するのであれば,そのような業界慣行を原告において主張立証すべきであり,
このような事情がない限り,通常の業界慣行に従って,実施にかかる物の販売額に
基づいて『実施に対し受けるべき金銭の額』を定めるべきである。,
b)被告の使用した取鍋の購入価格は1台約250万円であり,被告は,該取鍋
を約50台使用していた。また,約1年6月ごとに,その補修費として1台約20
0万円が必要であった。
以上を前提とすると,平成14年12月6日から平成18年7月末までの取鍋の
購入価格,修理・改修費用は,別紙『一審被告取鍋費用明細』記載のとおり,総額
2億2270万5383円である。
なお,被告は,平成18年8月以降『被告製品』を使用していないので,当該,
時点以降について原告が被告製品の使用による損害を被ることはあり得ないが,念
のため平成14年12月6日から平成21年12月10日までの総額を明らかにす
ると,別紙『一審被告取鍋費用明細』記載のとおり,総額4億0206万8959
円となる。
さらに,原告が損害賠償の対象としているのは平成15年5月12日以降である
ところ,その主張からすれば,上記金額からそれぞれ5520万円を控除すること
になる。
そして,本件特許1,3ないし5及び本件意匠の合計した実施料率は,多くとも
2%を超えないことからすれば,原告の損害額は(2億2270万5383円−,
5520万円)×2%=335万0107円にすぎない」。
43原判決の130頁20行目から23行目までを削除し,以下のとおり挿入
する。
「オ本件特許1,5及び本件意匠を実施しなければトヨタ自動車の衣浦工場に
溶湯の納入が困難であるとの原判決の判断は誤りである。
まず,本件特許1の実施品でなくても溶湯の納入は可能である。現に,被告が現
在使用している取鍋は,加圧式ではあるが,貫通孔を小蓋(ハッチ)ではなく大蓋
に設けた取鍋である。また,安全に運搬する機構を設けることが,トヨタ自動車に
溶融アルミニウムを供給するに当たり必要であることは事実であるが,必ずしも本
件各特許発明5を実施する必要はなく,原告が,規制部材を使用していない取鍋を
溶湯の納入に使用している可能性もある。そして,本件意匠についても,原告は,
突出し部の存在しない加圧式取鍋(ストーク式)を使用している。
したがって,溶融アルミニウムの納入販売による利益と被告製品の使用との間に
は相当因果関係はない。
原判決のように,使用する対象物(搬送対象物)に係る利益を前提にするなら,
該対象物によって損害額が変動することになる。このように,同じ特許権や意匠権
とは直接関係しない該対象物の相違によって,損失填補である賠償が変動するもの
となってしまう。
そして,溶融アルミニウムの納入価格ないし利益を前提として,取鍋の実施料相
当額を定めるという業界慣行など存在しないのであるから,原判決の判断が不当で
あることは明らかである。
カ原告も,平成18年8月以降,被告が『被告製品』を使用していないことを
争っておらず,同月以降の損害賠償を求める原告の主張は失当である。なお,原告
は,被告が同月以降に使用している取鍋が,本件特許5及び本件意匠を侵害する旨
主張するようであるが,具体的な該当製品の特定がされておらず,主張自体失当で
ある。
また,平成18年1月1日から平成21年2月19日付け訴えの変更申立書が送
達された日の3年前までの期間の損害賠償請求については,時効が成立しているの
で,被告は当該時効を援用する。なお,原告は,時効の抗弁に対して予備的に不当
利得の返還を請求するが,被告は,少なくとも本判決が確定するまでは善意の受益
者であり,付帯請求については失当である」。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,基本的に原判決の判断は相当であるが,原告の損害額については,
被告による溶融アルミニウムの売上額だけでなく,被告製品ないし被告現製品の購
入,修理価格をも考慮して総合的に算出すべきであり,その結果,原審の認定した
損害額は過大であると解するため,同損害額を変更することとする。
その理由は次のとおり付加訂正するほかは原判決の事実及び理由欄の第,,「」「
4争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
「」。1原判決130頁25行目の及び争点1−2から26行目までを削除する
2原判決131頁2行目の後に改行して,次のとおり挿入する。
「a)本件特許1に係る明細書(平成21年7月7日付け審決による訂正後のも
の。甲30−2参照)には,以下の記載がある。。
『0001【発明の属する技術分野】【】
本発明は,例えば溶融したアルミニウムの運搬に用いられる溶融金属供給用容器に関する。
【0002【従来の技術】】
多数のダイキャストマシーンを使ってアルミニウムの成型が行われる工場では,工場内ばか
りでなく,工場外からアルミニウム材料の供給を受けることが多い。この場合,溶融した状態
のアルミニウムを収容した取鍋を材料供給側の工場から成型側の工場へと搬送し,溶融した状
態のままの材料を各ダイキャストマシーンへ供給することが行われている。
【0003】
従来から用いられている取鍋は,溶融金属が貯留される容器本体の側壁に供給用の配管を取
り付けたいわば急須のような構造で,かかる取鍋を傾けることにより配管から成型側の保持炉
に溶融金属を供給することが行われている。
【0004【発明が解決しようとする課題】】
しかしながら,このような取鍋では,例えば取鍋の傾斜をフォークリフトを用いて行ってお
り,そのような作業は必ずしも安全なものとはいえなかった。また,取鍋を傾斜させるために
フォークリフトに回動機構を設ける必要があるため,構成が特殊となり,更にそのような操作
のためにフォークリフトの操作に熟練した作業者が必要とされる,という課題があった。
【0005】
そのため,本発明者等は,圧力差を利用した溶融金属の供給システムを提唱している。この
システムは,密閉された容器に外部に溶融金属を導出するための配管を設け,さらにこの容器
に加圧気体を供給するための配管を接続し,容器内を加圧することで金属導出用の配管から外
部の例えば成型側の保持炉に溶融金属を導出している。
【0006】
,,,。しかしながら上記構成の容器では加圧気体供給用の配管が詰り易いという問題がある
特に,上記のシステムでは,例えば容器はトラックに搭載され公道を介して工場から他の工場
に運搬されるために揺れことが多く,このため容器内の溶融金属の液面が傾いたり,液滴が容
器内で飛び散り,これらが加圧気体供給用の配管に付着する。そして,例えばこのような付着
が度重なることで配管詰りが発生している。
【0007】
以上の事情に鑑み,本発明の主たる目的は,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止
することができる溶融金属供給用容器を提供することにある。
【0008【課題を解決するための手段】】
かかる課題を解決するため,本発明の主たる観点に係る溶融金属供給システムは,溶融金属
を収容することができる容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可
能な流路と,前記容器の上面部に開閉可能に設けられ,前記容器の内外を連通する内圧調整用
の貫通孔が設けられたハッチとを具備するものである。
【0009】
通常,かかる容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナ等の加熱器により容器を予熱
している。この予熱は,ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入することで行われる。従
って,ハッチは容器内に溶融金属を供給する度に開けられるものである。本発明では,このよ
うなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので,容器内に溶融金属を供給する度に内圧調
整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。そして,例えば貫通孔に金属が付
着しているときにはその都度それを剥がせばよい。従って,本発明では,内圧調整に用いるた
めの配管や孔の詰りを未然に防止することができる。また本発明においては,このハッチは容
器内部を気密を確保するためのパッキン等の封止部材を備えている。パッキンは例えばシリコ
ン製のものなど耐熱性を有するものが好ましい。
【0010】
本発明の溶融金属供給用容器は,前記ハッチが,前記容器の上面部のほぼ中央に設けられて
いることを特徴とするものである。
【0011】
容器が揺れて液面が傾いたり,液滴が飛び散る場合,容器内の外周付近よりも中央部に近い
方がより液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さい。本発明では,ハッチに内圧調整用の貫
通孔が設けられ,しかもそのハッチが上記のように液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さ
い位置に対応する容器の上面部のほぼ中央に設けられているので,金属が内圧調整に用いるた
めの配管や孔に付着することが少なくなる。従って,本発明では,内圧調整に用いるための配
管や孔の詰りを防止することができる。
【0012】
本発明の溶融金属供給用容器は,前記貫通孔に取り付けられ,前記容器の上面部から上方に
向けて突出し,所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ,水平方向に導出された配管を更
に具備するものである。
【0021】
本発明の更に別の観点に係る溶融金属供給用容器は,溶融金属を収容することができ,上部
に第1の開口部を有する容器と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を連通することが可
能な流路と,前記容器の第1の開口部を覆うように固定的に配置され,ほぼ中央に前記第1の
開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ,前記
容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備するものである。
【0022】
本発明では,このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので,容器内に溶融金属
を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。従って,本
発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。本発明で
は,ハッチに内圧調整用の貫通孔が設けられ,しかもそのハッチが上記のように液面の変化や
液滴が飛び散る度合いが小さい位置に対応する容器の上面部のほぼ中央に設けられているの
で,金属が内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少なくなる。従って,本発明で
は,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。更に,本発明では,ハ
ッチが蓋の上面部に設けられているので,ハッチの裏面と液面との距離が蓋の裏面と液面との
距離に比べて蓋の厚み分だけ長くなる。従って,貫通孔が設けられたハッチの裏面に金属が付
着する可能性が低くなる。よって,本発明では,内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防
止することができる。
【0055】
また,ハッチ62の中央,或いは中央から少しずれた位置には,容器100内の減圧及び加
圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。この貫通孔65には加減圧用の配
管66が接続されている。この配管66は,貫通孔65から上方に伸びて所定の高さで曲がり
そこから水平方向に延在している。この配管66の貫通孔65への挿入部分の表面には螺子山
がきられており,一方貫通孔65にも螺子山がきられており,これにより配管66が貫通孔6
5に対して螺子止めにより固定されるようになっている。
【0057】
本実施形態では,大蓋52のほぼ中央部に配置されたハッチ62に加減圧用の貫通孔65が
設けられている一方で,上記の配管66が水平方向に延在しているので,加圧用又は減圧用の
配管67を上記の配管66に接続する作業を安全にかつ簡単に行うことができる。また,この
ように配管66が延在することによって配管66を貫通孔65に対して小さな力で回転させる
ことができるので,貫通孔65に対して螺子止めされた配管66の固定や取り外しを非常に小
さな力で,例えば工具を用いることなく行うことができる」。』
3原判決131頁3行目の「a)」を「b)」と訂正する。
4原判決133頁16行目から134頁9行目までを削除し,以下のとおり挿
入する。
「c)引用発明1と本件特許発明1−1との対比
両発明は『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器,
と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を流通することが可能な流路と,前記
容器の第1の開口部を覆うように配置され,ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小
径の第2の開口部を有する蓋と,前記蓋の上面部に開閉可能に設けられたハッチと
を具備し,公道を介してユースポイントまで搬送される溶融金属供給用容器』で。
ある点で一致する。
他方で,両発明は,以下の点で相違する。
①本件特許発明1−1は,溶融金属を加圧により流通することが可能な流路を
具備しているのに対して,引用発明1には,この点が記載されていない点。
②本件特許発明1−1におけるハッチは,容器の内外を連通し,容器内の前記
加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容器内の気密を確保すると
しているのに対して,引用発明1における受湯口小蓋は密閉型であるものの,これ
らの点が記載されていない点。
③本件特許発明1−1は加圧式取鍋であるのに対し,引用発明1は傾動式取鍋
である点」。
5原判決134頁10行目の「②」を「④」とする。
6原判決140頁19行目の後に改行して,次のとおり挿入する。
「⑧特開平10−244352号公報(乙64の1)
『発明の詳細な説明【0001【発明の属する技術分野】本発明は,アルミニウム合金【】】
やマグネシウム合金などの溶融金属の給湯方法および装置に係り,特に,保持炉内に貯蔵され
た溶融金属の溶湯を,所望の一定量ずつダイカストマシン等の射出スリーブへ給湯することが
できる溶融金属の給湯方法および装置に関する。
【0003【発明が解決しようとする課題】】
しかしながら,上記のようなレードルを使用する給湯方法では,次のような欠点がある。
(1)計量・搬送・注湯中に,溶湯が外気に曝され,酸化が進行するとともに,溶湯温度の低
下を招く。
(2)射出スリーブの上部開口部より溶湯を注湯するため,溶湯の落下距離により空気の巻き
込みを生じるとともに,泡立ちが起こり溶湯の清浄度が低下する。また,ダイカストマシン近
くに大容量の保持炉を上部が開口したまま設置し,給湯作業が間欠的に行われるため,周囲へ
の熱放散が大きく作業環境の悪化を招くばかりでなく,熱効率の低下を招来していた。このた
め,密閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ供給できる溶融
金属の給湯ほうほうや装置が待望されていた。
【0006【発明の実施の形態】本発明の溶融金属の給湯方法は,保持炉内に設けられ保】
持炉との連通・遮断が自在で保持炉内の溶湯に浸漬された給湯容器内に満たされた溶湯の液面
高さを検知するとともに,溶湯を満たした該給湯容器を密閉状態に保って,該給湯容器内に圧
縮気体を注入して溶湯を加圧し,該給湯容器と射出スリーブとを接続する給湯配管を経由して
該溶湯を該射出スリーブへ給湯し,該給湯容器内の液面高さが所定の給湯量に相当する液面高
さに低下したとき圧縮気体の注入を停止することにより該射出スリーブへの給湯を停止し,所
望の給湯量を該射出スリーブへ給湯するようにしたため,保持炉の溶湯を外気に触れることな
く,給湯配管へ必要量を搬送することができる。
【0007】また,第2の発明の装置では,溶融金属の給湯装置を,溶湯を貯蔵し加熱・保
温する保持炉と,該保持炉内に設けられ該保持炉内の溶湯に浸漬され底部に連通・遮断自在な
開口部を有する給湯容器と,該給湯容器と射出スリーブとを接続する給湯配管と,該給湯容器
内に設けられ該給湯容器内の溶湯の液面高さを検知する液面高さ検知装置と,該給湯容器内へ
圧縮気体を注入する圧縮気体供給装置と,前記開口部の開閉制御ならびに該液面高さ検知装置
の検知信号に基づいて圧縮気体の注入・停止を司る制御装置とからなる構成としたため,底部
の開口部より給湯容器内に取り込んだ溶湯を圧縮気体の押圧力により加圧して給湯配管で射出
スリーブへ移送し,所定の給湯を終えたことを液面高さ検知装置で給湯容器内液面高さの低下
で読み取って制御装置を介して圧縮気体の注入を停止し溶湯の給湯を終え,遠隔操作で自動的
に所望の一定量の溶湯を射出スリーブへ給湯できる。
【0009】図1に示すように,溶融金属給湯装置(以下,給湯装置という)100は,溶
融金属Mを貯溜し保持する保持炉10と,保持炉10内に浸漬された給湯容器20と,給湯容
器20内に配設された液面高さ検知装置30と,給湯容器20内に圧縮気体を供給する圧縮気
体供給装置40と,給湯配管50と,制御装置60とで構成される。
【0010】保持炉10は,金属容器に溶融金属(溶湯)Mの溶湯を貯溜し,上部の開口部
を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっており,この保持炉10内に溶湯Mに
浸漬される状態で,底部に開口部20aを備えた直立円筒状の給湯容器20が配設される。給
湯容器20の開口部20aは,エアシリンダ24等によって昇降自在な溶湯補給弁22によっ
て開閉され,保持炉10内の溶湯Mの給湯容器20内への連通・遮断が行なわれる』。
⑨特開平10−244353号公報(乙64の2)
上記文献は『溶融金属の給湯装置』との名称の発明に係る公報であり,乙64,
の1(溶融金属の給湯方法および装置』との名称の発明に係る公報)とは特許出『
願人も同じで,以下に示すように,ほぼ同一の発明である。
『0003【発明が解決しようとする課題】【】
・・・このため,密閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ
供給できる溶融金属の給湯装置が待望されていた。
【0009】図1に示すように,溶融金属給湯装置(以下,給湯装置という)100は,溶
融金属Mを貯溜し保持する保持炉10と,保持炉10内に浸漬された給湯容器20と,給湯容
器20内に配設された浮力検知センサ30と,給湯容器20内に圧縮気体を供給する圧縮気体
供給装置40と,給湯配管50と,制御装置60とで構成される。
【0010】保持炉10は,金属容器に溶融金属(溶湯)Mの溶湯を貯溜し,上部の開口部
を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっており,この保持炉10内に溶湯Mに
浸漬される状態で,底部に開口部20aを備えた直立円筒状の給湯容器20が配設される。給
湯容器20の開口部20aは,エアシリンダ24によって昇降自在な溶湯補給弁22によって
開閉され,保持炉10内の溶湯Mの給湯容器20内への連通・遮断が行なわれる」。』
7原判決141頁3行目の「なお」から8行目までを削除し「」を加え,(,,。
改行した上で,以下のとおり挿入する。
②前記a)からすれば本件特許発明1−1における従来の技術の課題は圧「,,『
力差を利用した溶融金属の供給システムにおいて,密閉された容器に,外部に溶融
金属を導出するための配管を設け,さらに加圧気体を供給するための配管を接続す
るとの構成を採ったとき,容器内の溶融金属の液滴が容器内で飛び散り,加圧気体
供給用の配管に付着し,これが度重なることで配管詰まりが発生する』点にある。
そして,本件特許発明1−1は,このような課題を解決するために,容器の上面部
に開閉可能に設けられ,容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハ
ッチを具備するという構成を採用し,この構成により,ハッチを開けて加熱器の一
部を容器内に挿入して予熱をする際に,内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を
確認することができ,内圧調整に用いるための配管や孔の詰まりを未然に防止でき
るという作用効果を有するものである。
これに対し前記d)⑧⑨からすれば乙64の164の2はいずれも密,,,,,『
閉式で熱放散が少なく,かつ,一定の給湯量を能率良く射出スリーブへ供給できる
溶融金属の給湯方法や装置』を得ることを目的とした発明であって,その目的にお
いて,本件特許発明1−1とは全く異なる。また,各明細書には『上部の開口部,
を上蓋10Aおよび密閉蓋10Bで被覆するようになっておりいずれも段落0』(【
010)と記載されてはいるものの,その具体的構成についての記載はなく【図】,
1】からは『密閉蓋10B』が溶融金属を供給するごとに開閉することが予定さ,
れているとはみられない。
さらに,上記各発明は,いずれも,トラック等の運搬車輌に搭載されて公道を介
して搬送されるようなものとは認められず,本件特許発明1−1とは,その利用場
面が異なるものである。
以上のとおり,乙64の1及び64の2に記載された各発明は,いずれも本件特
許発明1−1とは,解決すべき課題,構成,利用場面において大きく異なる。
したがって,乙64の1及び64の2を参酌しても,本件特許発明1−1を想到
するのが容易であるとはいえない」。
8原判決141頁9行目の「②」を「③」と訂正する。
9原判決142頁8行目の後に,以下のとおり挿入する。
「なお,被告は,同作用効果は,当業者であれば予測し得る範囲内である旨主張
するが,そもそも,当業者が,加圧式取鍋において,液の跳ね返りによる汚れや内
圧調整用配管の詰まりを減少させるべきとの課題を認識しているとは認められず,
そうである以上,上記の作用効果が予測の範囲内であるとはいえない。
また,被告は,小蓋に取り付ける配管も,小蓋の開閉のじゃまにならないように
短く構成されればよく,仮にじゃまになるなら,そのような配管は着脱自在に構成
すればよいとも主張する。
しかし,配管につき,小蓋を開閉する度に着脱する必要がない構成を採るのが通
常というべきであり,被告の上記主張は採用できない」。
10原判決142頁12行目の「③」を「④」と訂正する。
11原判決143頁1行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「なお,乙3の3図面が,公知・公用の傾動式取鍋の小蓋に,注湯をスムーズに
するための内圧調整用の貫通孔を設けるという,簡単な改良に関する図面であると
しても,それによって,同図面に記載された事項につき,信義則上の守秘義務がお
そよ生じ得ないものではない。
また,被告は,そもそも第三者であるトヨタ自動車は信義則上守秘義務を負わな
い旨主張するが,仮に第三者的な立場にあっても,公然実施されていない段階の秘
,,密情報や図面の開示を受けた者が信義則上守秘義務を負うのは当然のことであり
被告の上記主張は採用できない。
このほか,日本坩堝が作成し,被告を介してトヨタ自動車に提出された取鍋の設
計図(甲10)や写真(甲11)は,乙3の3図面とは全く別の書面であり,甲1
0,11の取扱いが乙3の3図面と異なっても不合理ではない。
⑤被告は,乙2の3,2の4,2の9及び乙49においては,一重の蓋ではあ
るが,開閉可能な蓋に配管や貫通孔に相当するものが設けられていると主張する。
しかし,本件特許発明1−1の『ハッチ』は,通常使用時に取鍋本体50に固定
された『大蓋52』の上に設けられたものであって,取鍋内に溶湯を導入する前の
,,予熱や配管詰まりの監視のため溶湯供給作業を行う度に開閉することを目的とし
その目的達成に必要な程度の開閉可能性が要求されるものである。これに対し,被
告指摘の,乙2の3,2の4,2の9及び乙49を子細に検討してみても,貫通孔
が設けられた蓋が開示されるにとどまり,当該蓋を開けて予熱や監視を行うような
記載は見当たらず,そもそも予熱や配管詰まりの監視の目的達成に必要な程度の開
閉可能性を満たす蓋が開示されていると認めることはできない。
以上によれば,被告の上記主張は採用できない。
⑥被告は,本件特許発明1−1では,大蓋が開閉可能であることは要件となっ
ておらず,むしろ大蓋は本体に固定されるもので,小蓋(ハッチ)は,本体との関
係で一重の蓋といえるとも主張する。
しかし,前述のとおり,本件特許発明1−1の『ハッチ』は,通常使用時に取鍋
本体50に固定された『大蓋52』の上に設けられたものであるから,これを実質
。,『』上は一重の蓋の構成にすぎないといえないことは明らかであるまた同ハッチ
は,取鍋内に溶湯を導入する前の予熱や配管詰まりの監視という目的達成に必要な
程度の開閉可能性が要求されるものであるから,これを実質上は一重の構成である
として,一重の蓋に加圧用の貫通孔を設けた周知技術と同様のものとみることはで
きない。
このように,被告の上記主張は理由がない。
⑦被告は,引用発明1の記載からすれば,公道搬送による揺れ等により,溶湯
の飛沫が注湯口ノズル等に付着する問題は既に当業者に認識されていたものであ
り,配管や孔に付着することが少ない位置である小蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける
ことは当業者が容易に想到できた旨主張する。
しかし,引用発明1に開示されているのは傾動式取鍋であり,乙1に加圧式取鍋
特有の内圧調整用配管の詰まりについての記載はないから,当業者が,上位の溶湯
の揺れによって,溶湯がこぼれたり傾動式の注湯口に付着することを認識するにと
どまり,乙1の記載から当業者が本件特許発明1−1の技術的課題(内圧調整用配
管の詰まり)を認識するということはできない」。
,。12原判決144頁1行目から15行目までを削除し以下のとおり挿入する
「①共通点
両発明は『溶融金属を収容することができ,上部に第1の開口部を有する容器,
と,前記容器の内外を連通し,前記溶融金属を加圧により流通することが可能な流
路と,前記容器の第1の開口部を覆うように配置された蓋とを具備する溶融金属供
給用容器』である点において,一致する。。
②相違点
容器の第1の開口部を覆うように配置された蓋が,本件特許発明1−1において
は,ほぼ中央に第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有するのに対して,乙2
の7公報に開示される構成では,この点が記載されていない(相違点1。)
また,本件特許発明1−1が,蓋の上面部に,開閉可能に設けられ,容器の内外
を連通し,容器内の前記加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられ,前記容
器内の気密を確保するハッチを具備しているのに対し,乙2の7公報に開示される
構成では,蓋に注湯炉内の加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられている
(相違点2。)
さらに,本件特許発明1−1では,容器が公道を介してユースポイントまで搬送
されるとしているのに対し,乙2の7公報に開示される構成では,この点が記載さ
れていない(相違点3」)。
13原判決145頁7行目の『なお』から9行目までを削除する。
14原判決152頁2行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「ウ前述のとおり,平成13年12月17日から18日にかけて,被告の西尾
工場で,乙4の2・3図面に基づいて試作された加圧配湯ポットリーベの実湯テス
トが行われたものであるところ,中央窯業が作成した『加圧配湯ポットリーベ実
湯テスト』と題する同月19日付け書面(乙12の2,12の3)には『トヨタ,
側でも鍋を製作中(真空吸引,加圧排出式?)で2/20頃できあがる。このため
,,。』,,豊栄陽紀トヨタ3方式を2月以降にテストを行う旨実湯テストにおいて
配湯パイプ固定クランプ2個中1個のロックが解け,接合部に湯漏れが生じたが,
付着地金を除去し,クランプの長さを調整した旨が記載されている。
以上からすれば,更なるテストが予定されていたとしても,これは,トヨタ自動
車側で平成14年2月以降に取鍋を完成させるためにすぎず,平成13年12月1
,,。」7日から18日の時点で湯洩れや配管の問題点は解決済みであったといえる
15原判決152頁3行目の「ウ」を「エ」に訂正する。
16原判決153頁11行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「ウなお,原告は『即時実施の意図』の有無につき,発明の実施である『事,
業』を基準に考えるべき旨主張するが,特許法79条においては『その発明の実,
施である事業』と規定されるのみであって,先願主義の下,特許権者と,その出願
前に既に同一発明を実施し,若しくはその実施の準備をしていた者との利益の公平
を図るために,先使用による通常実施権を規定する趣旨からすれば,原告主張のよ
うに解すべき理由はない。
前述のとおり,被告らが,本件特許2の特徴的事項である折り畳み式パイプ部分
につき,発明として完成させ,その部分につき実施のための準備をしているにもか
かわらず,取鍋全体を溶融アルミニウム供給事業のために使用できる状態になるま
で『即時実施の意図』がないとするのでは,特許権者・使用者間の公平に反し,相
当ではない」。
「」「,」。17原判決154頁2行目の甲3の2の後に甲45の2を挿入する
18原判決154頁4行目の「本件公報」から5行目までを削除する。(
19原判決154頁9行目の「同・」以降を削除する。(
20原判決154頁19行目の「同・」以降を削除する。(
21原判決154頁23行目の「同・」から24行目までを削除する。(
22原判決155頁26行目の「甲3の2」の後に「,甲45の2」を挿入す
る。
23原判決156頁4行目の「本件公報・」以降を削除する。(
24原判決156頁21行目から164頁15行目までを削除し,以下のとお
り挿入する。
「本件特許発明3−1は,前記第2.1(4)ウのとおり,平成21年7月17日
付け審決により訂正が認められた結果『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉,
可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加された。
他方で,前記1(1)のとおり,本件特許発明1−1は『大小2枚の蓋とともに,,
小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成を有するが故に進
歩性が認められているところ,これと同じ構成を備える本件特許発明3−1は,同
,,じ引用例及び周知技術を前提とした場合にはその余について判断するまでもなく
本件特許発明1−1と同様に進歩性が認められることになる。
(2)本件特許発明3−7
上記(1)同様,本件特許発明3−7についても,平成21年7月17日付け審決
により訂正が認められた結果『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋,
(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加されたため,同じ引用例及び周知技
術を前提とした場合には,その余について判断するまでもなく,本件特許発明1−
1と同様に進歩性が認められることになる。
,,,。」(3)以上のとおり本件各特許発明3はいずれも進歩性があり無効ではない
25原判決164頁16行目の「9」を「8」とする。
26原判決164頁17行目から169頁19行目までを削除し,以下のとお
り挿入する。
「本件特許発明4−1は,前記第2.1(4)エのとおり,平成21年7月7日付
け審決により訂正が認められた結果『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可,
能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成が付加された。
他方で,前記1(1)のとおり,本件特許発明1−1は『大小2枚の蓋とともに,,
小さい方の開閉可能な蓋(ハッチ)に貫通孔を設ける』との構成を有するが故に進
歩性が認められているところ,これと同じ構成を備える本件特許発明4−1は,同
,,じ引用例及び周知技術を前提とした場合にはその余について判断するまでもなく
本件特許発明1−1と同様に進歩性が認められることになる。
9争点4−2(本件特許発明4−1の記載不備)について
(。(1)本件特許4に係る明細書平成21年7月7日付け審決による訂正後のもの
甲4の2,甲46の2参照)には,以下の記載がある。。
『0085】【
,。流路57及びこれに続く配管56の内径はほぼ等しく65mm∼85mm程度が好ましい
従来からこの種の配管の内径は50mm程度であった。これはそれ以上であると容器内を加圧
して配管から溶融金属を導出する際に大きな圧力が必要であると考えられていたからである。
これに対して本発明者等は,流路57及びこれに続く配管56の内径としてはこの50mmを
大きく超える65mm∼85mm程度が好ましく,より好ましくは70mm∼80mm程度,
更には好ましくは70mmであることを見出した。すなわち,溶融金属が流路や配管を上方に
向けて流れる際に,流路や配管に存在する溶融金属自体の重量及び流路や配管の内壁の粘性抵
抗の2つパラメータが溶融金属の流れを阻害する抵抗に大きな影響を及ぼしているものと考え
られる。ここで,内径が65mmより小さいときには流路を流れる溶融金属はどの位置におい
ても溶融金属自体の重量と内壁の粘性抵抗の両方の影響を受けているが,内径が65mm以上
となると流れのほぼ中心付近から内壁の粘性抵抗の影響を殆ど受けない領域が生じ始め,その
領域が次第に大きくなる。この領域の影響は非常に大きく,溶融金属の流れを阻害する抵抗が
下がり始める。溶融金属を容器内から導出する際に容器内を非常に小さな圧力で加圧すればよ
くなる。つまり,従来はこのような領域の影響は全く考慮に入れず,溶融金属自体の重量だけ
が溶融金属の流れを阻害する抵抗の変動要因として考えられており,作業性や保守性等の理由
から内径を50mm程度としていた。一方,内径が85mmを超えると,溶融金属自体の重量
が溶融金属の流れを阻害する抵抗として非常に支配的となり,溶融金属の流れを阻害する抵抗
が大きくなってしまう。本発明者等の試作による結果によれば,70mm∼80mm程度の内
径が容器内の圧力を非常に小さな圧力で加圧すればよく,特に70mmが標準化及び作業性の
観点から最も好ましい。すなわち,配管径は50mm,60mm70mm,と10mm単位,,
,。』で標準化されており配管径がより小さい方が取り扱いが容易で作業性が良好だからである
(2)ア本件特許4は,前述のとおり,平成21年7月7日付け審決により訂正が
認められたことにより『大小2枚の蓋とともに,小さい方の開閉可能な蓋(ハッ,
チ)に貫通孔を設ける』との構成が付加され,それによって,進歩性が認められた
ものである。上記各構成が加えられる前の本件特許4に係る発明は,被告が本訴で
問題としている,流路の有効内径の数値限定部分等を発明の本質的事項の一部とし
ていたといえるが,上記訂正により,同部分は,それによって進歩性が認められる
ような事項ではなく,単に望ましい構成を開示しているにすぎないことが明らかに
なったといえる。
イ以上を前提として,まず,実施可能要件違反の有無を検討するに,本件特許
発明4−1の目的の1つと解される『溶融金属を容器内から導出するために必要な
圧力を小さくすること』を達成するためには,溶融金属の重量,流路の粘性抵抗等
の条件を設定する必要があり,そのうち粘性抵抗については,溶融金属の性状,ラ
イニングの性質,表面粗さ等のパラメータによって決定され,溶融金属の重量やそ
れによる影響は,金属の種類や流路の長さ,流速等のパラメータによって決定され
るものである。
そうすると,単に『溶融金属を導出するために必要な圧力を小さくする』との目
的のみを達成するためであれば,流路の有効内径以外のパラメータも設定する必要
があることは自明であり,その限りにおいて,被告の主張は誤りではない。
ウしかしながら『導出圧力の最小化』は,本件特許発明4−1においては付,
随的な目的にすぎない。この点を措くとしても,原告が主張するように,公道を介
して搬送する取鍋の内径は,取鍋を搬送するトラックの車幅との関係で,一定の限
度内に収まらざるを得ないのであり,また,そのトラックの車幅も,公道の幅員等
により,自ずから相当の限度内になるものということができる。この点につき,被
告は,公道搬送可能な取鍋の大きさは千差万別である旨主張するが,取鍋の標準的
な大きさは一定の範囲で自ずから存在するものであり,逆に,単に『望ましい』事
項を記載しているにすぎない部分においても,あらゆる大きさや種類のトラックに
対して有効なすべてのパラメータを提供しなければならないとするのでは,特許権
者や出願人に過大な要求をするものであって,相当ではない。
また,作業に慣れた当業者(本件においては,溶融金属を取鍋等を用いて運搬す
る者)が出湯を行う場合であれば,その出湯時間や速度に,大きな差があるとは考
えられない。
そして,溶融アルミニウムを流路や配管を通じて排出する場合に粘性抵抗がある
こと自体は,当業者にとって自明であり,望ましいとされる流路の有効内径が提供
されれば,それを最大限に生かすべく,他の条件を設定するよう努めるのは当然で
,。,あってここで必要とされる試行錯誤が過度なものであるとは認められないまた
導出圧力の最小化のみを目的とする場合の数値限定と,これが単に付随的な目的に
すぎない場合の数値限定では,必然的に相違が生じ,後者の場合には,他の条件と
の兼ね合いにより,当該目的達成の程度が変化することは明らかである。
エ以上からすれば,本件特許発明4−1における,流路の有効内径に関する数
値限定部分において,他のパラメータにつき記載がないことをもって,実施可能要
件に違反するということはできない。
,『』,(3)また前述の訂正によって溶融金属を導入する圧力を小さくすることは
既に本件特許発明4−1の主たる目的ではなくなっている上,特許請求の範囲や発
明の詳細な説明に記載すべき事項については,特許出願人において適宜選択すべき
ものであって,本件特許発明4−1についても,その効果が実際に存在するかどう
かはともかくとして,特許請求の範囲に記載された流路の有効内径の記載自体は明
確であって,他のパラメータの記載がないからといって直ちに,同発明が不明確に
なるとはいえない。
(4)このように,被告の上記主張はいずれも理由がない。
,,,(,,,10争点1−23−44−35−3被告製品が本件特許発明13
4−1,5−1の各技術的範囲に属するか否か)について
(1)被告現製品が,本件特許1,3,4の構成要件の一部を充足しないことにつ
いては,当事者間に争いがない。
(2)ア他方で,被告は,被告製品が,本件特許1,3,4の各構成要件を文言上
充足することは争わないものの本件特許134に係る審決取消訴訟の判決乙,,,(
74ないし76参照)を根拠に,本件特許1,3,4においては,①単に加圧によ
り溶融金属を容器外に供給するのみならず,減圧により溶融金属を取鍋内に導入可
,『』『』,能であること②第2の開口部及びハッチは溶融金属の導入に用いられず
必須ではない(必須であってはならない)こと(ただし『第2の開口部』につい,
ては本件特許1のみ)が,いずれも各特許発明の技術的範囲となっており,以上を
前提とすると,被告製品はこれらの特許を侵害しない旨主張する。
イしかし,被告の上記主張は,いずれも本件特許1,3,4に係る特許請求の
範囲の記載に基づくものではない。
また,被告が,自らの主張の根拠とする各審決取消訴訟の判決においても,乙7
4において「・・・加圧を行うための』という文言をもっても,本件発明1は減,『
圧の場合を排除していないというべきであり,本件発明1が取鍋内を加圧して溶融
金属の導出ができるが,取鍋内を減圧して溶融金属を導入できる構成にはなってい
ないということはできない」とされており(51頁2行∼5行参照。なお,乙75
の68頁19行∼23行,乙76の63頁5行∼9行にも,それぞれ同旨の記載が
ある,単に『取鍋内を減圧して溶融金属を導入する場合を排除していない』と認。)
定されたにとどまる。また,乙74において「本件発明1の加圧式の容器の場合,
は,一つの流路を通して溶湯の導入と導出とを行う注湯方式であり加減圧用の配管
が容器に接続されていればよいのであるから,傾動式の容器で必要な受湯口及び受
湯口小蓋は必須なものではない」とされ,受湯口及び受湯口小蓋が必須ではない。
とされるにとどまり(47頁14∼17行参照。なお,乙75の65頁16∼19
行,乙76の60頁14∼17行にも,それぞれ同旨の記載がある,これらが必。)
須であるような構成が,各特許の特許請求の範囲外であるとするものではない。
このように,上記各判決は,本件特許1,3,4における特許発明の技術的範囲
が,上記①及び②によって限定されるものとしているわけではなく,いずれにして
も,被告の上記主張は理由がない。
ウそうすると,被告製品は,本件特許1,3,4の各技術的範囲に属すること
になる。
(3)被告は,被告製品の栓(焼結ベント)72とソケット71とは,人間の手で
取り外しができるものではなく,焼結ベント72は本件特許発明5−1の構成要件
5−1Fの『着脱可能な栓』には相当しない旨主張する(なお,被告は,この点以
外,被告製品ないし被告現製品が本件各特許発明5の構成要件を充足していること
につき,争っていない。。)
しかし『着脱可能』という文言の意味につき『人間の手で取り外しができるこ,,
と』と限定的に解釈すべき根拠はなく,被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載
に基づくものではなく,採用できない。したがって,被告製品は,本件特許発明5
−1の技術的範囲に属することになる。
そして,改造後の被告現製品は,規制部材に関しては,被告製品と変わりがない
(当事者間に争いがない)ので,被告製品が本件特許発明5−1の技術的範囲に。
属するのと同様に,被告現製品もまた,本件特許発明5−1の技術的範囲に属する
ものというべきである。
(4)なお,原告も認めるとおり,被告現製品は,本件特許1の技術的範囲には属
しないものであるが,別紙『改造前後の被告製品対照図』のとおり,ハッチ上の内
圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,これを改造前の被告製品の構成に
戻すことは容易であるものと解される」。
27原判決169頁20行目の「10」を「11」と訂正する。
28原判決170頁11行目の後に改行して,次のとおり挿入する。
「(3)ア本件特許5に係る明細書(平成20年5月9日付け審決による訂正後の
もの。甲47の2参照)には,以下の記載がある。。
『0005】そこで,本発明者等は,容器内に圧力を加えることで保持炉に溶融金属を供【
給したり,容器内を減圧することで容器に溶融金属を吸引することが可能な差圧式の溶融金属
供給システムを提唱している。このような差圧式の容器を採用することで,安全性や作業性が
向上するばかりか,より細やかな供給サービスが可能となる(例えば,特許文献1参照。)
【0007【発明が解決しようとする課題】例えば上記特許文献1に記載された容器を運】
搬するような場合,加給器が接続される孔から溶融金属が漏れ出ないようにこの孔を塞ぐ必要
がある。
【0008】しかしながら,このよう孔を塞いで容器を密閉した場合には,容器内の気体が
温度上昇により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出する,という問題が
生じた。容器のライニングの乾燥が不十分な場合にはこのような問題はさらに顕著なものとな
る。
【0009】本発明は,かかる事情に基づきなされてもので,溶融金属が漏れ出ないように
貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することがで
きる溶融金属供給用容器を提供することを目的としている。
【0013】本発明では,貫通孔に通じる第2の流路に介在され,気体を通過させ,かつ,
溶融金属の通過を規制する規制部材を設けた安全装置を具備したので,溶融金属が漏れ出ない
ように貫通孔を塞ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止するこ
とができる。つまり気体の膨張や,水分の蒸発等によって容器の内圧が上昇してしまった場合
でも,溶融金属の流路配管,圧力開放管,規制部材,乃至は規制部材を備えた栓により,この
圧力は外部へ逃がすことができる。したがって溶融金属が不用意に外部へ漏れでるのを防止す
ることができる。一方,この規制部材を備えた開口部それ自体からも溶融金属が漏れ出るのを
防止することはない。これは焼結金属やセラミクスファイバーの成型品等の規制部材が,気体
に対しては通過するものの,溶融アルミニウム合金などの溶融金属に対しては十分大きな抵抗
になるからである。また細孔やオリフィスの場合には,溶融金属がこの孔を通過しようとする
ときに熱を奪われて固化し,固化した金属自体が溶融金属のさらなる流通を規制する。このよ
うな規制部材乃至は安全装置は熱容量及び表面積が大きい方が好ましい。これはこの安全装置
を溶融金属が流通しようとした場合に,熱容量が大きいほど溶融金属が冷えて固まりやすく,
表面積が大きいほど規制部材が受熱した熱量を外部へ放散しやすいからである。
【0014】ここで,規制部材としては,例えば空気は通過させるが,溶融したアルミニウ
ムを通過させない部材であり,例えばセラミックファイバーを成形したもの,焼結金属の成型
品,スヤキ,メタルに細い貫通孔やオリフィスを設けた部材を挙げることができるが,本発明
の目的を達成できるものであれば,これらに限定されるものではない。いずれにせよ本発明に
おける規制部材は,空気や水蒸気などの気体については十分に抵抗が小さく,溶融したアルミ
ニウム合金等の溶融金属に対しては十分に抵抗が大きくなるようなものである。
【0105】図5は,容器100内の圧力を調整するための圧力調整機構の構成図を示して
いる。レシーバタンク71は加圧気体用配管49aに接続され,この加圧気体用配管49aは
切替弁80に接続されている。また,真空ポンプ72も同様に真空用配管49bに接続され,
この真空用配管49b切替弁80に接続されている。切替弁80には,フィルタ81を介して
エアーホース57の一端に接続されており,エアーホース57の他端は,接続機構73により
容器100側の配管66に接続されている。エアーホース57の容器100への着脱は,接続
機構73を容器100に対して着脱することにより行われるようになっている。このエアーホ
ース57をフレキシブルとすることにより,例えば容器100の加圧孔に設けられた配管66
がどのような方向に向いていてもエアーホース57を配管66に容易に着脱することができる
ようになる。フレキシブルとするためのエアーホース57の材料としては,例えばゴム等の合
成樹脂製のものを用いることができ,更に,高温である容器100に近いので耐熱性のものを
用いることが好ましい。
【0106】加圧気体用配管49aには,レシーバタンク71側(上流側)から圧力コント
ローラ58,圧力計84,リリーフ弁82及びリーク弁86が接続されている。真空用配管4
9bには,真空ポンプ72側(下流側)から電子圧力コントローラ58,圧力計84,リリー
フ弁等93が接続されている。各電子圧力コントローラ58は,上述したように,加圧気体用
配管49a内及び真空用配管49b内の圧力をそれぞれ調整し,また,それぞれの配管49a
及び49bの連通及び遮断(オン/オフ)をも行うようになっている。リリーフ弁82は,加
圧気体用配管49a内の圧力を上記圧力コントローラ58により定められた所定の圧力に保持
するようになっている。リーク弁86は,加圧気体用配管49a内の圧力が最高値に達したと
きに外部へ圧力を開放するようになっている。切替弁80は,エアーホース57と加圧気体用
配管49aとの接続及びエアーホース57と真空用配管49bとの接続の切替を行うようにな
っている。フィルタ81は,加圧気体用配管49a内,真空用配管49b内及びエアーホース
57内の不純物を除去するようになっている。
【0107】これらの圧力コントローラ58,リリーフ弁82及び93,切替弁80は電子
的に上記した電気制御盤61で制御されるようになっており,上記した手元操作盤60の操作
により容器100内の圧力差を調整できるようになっている。また,リーク弁86は例えば自
動リーク弁を使用している。
【0108】図5において,40はフォークリフト側の装備を示している。また,77は加
圧系,78は減圧系を示している。そして,加圧系77と減圧系78との切り替えは手元操作
盤60に設けられたスイッチ(図示を省略)の操作によって行われるようになっている。
【0112】また,本実施形態では,接続機構73とレシーバタンク71との間に,すなわ
ち,フォークリフト40側にリリーフ弁82やリーク弁86等の制御弁を設ける構成としたの
で,圧力調整のためのこれらの弁を当該容器100ごとに設ける必要がなく,高温の溶融金属
を収容する容器100の熱等による弁の損壊及び老朽化を防止でき,溶融金属を取り扱う際の
安全性を向上させることができる。
【0132】ハッチ162の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔165とは
対向する位置には,圧力開放用の貫通孔168が設けられ,圧力開放用の貫通孔168には,
リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより,例えば容器
100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放さ
れるようになっている。
【0177【発明の効果・・・本発明によれば,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞】】
ぐことができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる』。
イ乙65(特開2002−254158号公報)には,以下の記載がある。
『0001【発明の属する技術分野】本発明は,例えば溶融したアルミニウムの運搬に用【】
いられる溶融金属供給用容器に関する。
【0009】通常,かかる容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナ等の加熱器によ
り容器を予熱している。この予熱は,ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入することで
行われる(以下略)。
【0056】この配管66の一方には,加圧用又は減圧用の配管67が接続可能になってお
り,加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており,減圧
用の配管には減圧用のポンプが接続されている。そして,減圧により圧力差を利用して配管5
6及び流路57を介して容器100内に溶融アルミニウムを導入することが可能であり,加圧
により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの
導出が可能である。なお,加圧気体として不活性気体,例えば窒素ガスを用いることで加圧時
の溶融アルミニウムの酸化をより効果的に防止することができる。
【0058】ハッチ62の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔65とは対向
する位置には,圧力開放用の貫通孔68が設けられ,圧力開放用の貫通孔68には,リリーフ
バルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより,例えば容器100内
が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるよう
になっている。
【0084】更に,蓋2114には,容器本体2110の中心2111からずれた位置21
12から容器本体2110外に配設された配管2130が取り付けられている。配管2130
の下端2131は容器本体2110内の底部付近まで位置している。この下端2131を開閉
自在とする機構を設けても構わない。これにより,容器が倒れたときに湯が流出することを防
止することが可能となる。配管2130は,容器本体2110外において,例えば上方に向け
て5°∼10°程度傾斜する傾斜部2132と,下方に向けて開口する吐出部2133とを有
する』。
ウ乙8の1(トヨタ自動車衣浦鋳鍛造部作成の『購入溶湯取鍋湯洩れ火災事故
状況』と題する議事録)には,平成14年12月9日午前9時40分ころ,溶解ト
ラックヤード内で,被告が溶湯を取鍋で衣浦工場に運搬する際に,火災事故が発生
したこと,同日午後に,衣浦第1ハウス1F大会議室で,会議が行われたこと,事
故発生原因につき『耐火物に含まれた水が,アルミ溶湯の熱により気化『密閉,』,
容器であるため気化した文の体積変化が内圧上昇を引き起こし内部を加圧※,,』,『
結果としては乾燥が不足であったと考えられる』と推定されたことが,それぞれ記
載されている。
エ株式会社ファインシンター作成の「焼結ベントP型」と題するパンフレッ
ト(乙8の3参照)には,以下の記載がある。
『◆焼結ベントとは・・・
P型焼結ベントとは,下の写真に見られるように,きわめて多数の平行な直線状の孔をもっ
た焼結品で,粉末冶金独特の溶浸法により製作したユニークな製品です』。
『◆焼結ベントの用途
1.Al合金の重力・低圧鋳造のガス抜き
・焼結ベントは,スリットベントや溝付ベントに比べて空孔率が4∼30倍と大きいため,
外径が小さくても充分にガス抜きができます。
・Al合金の大型鋳物では,孔径0.5mmで有効径の大きいものが,また小物で鋳込圧の
高い場合は,孔径0.3mmが適当です。
・ガス抜き効率がよいので,隅肉の欠落,凸部先端の鋳込み不良等を防止し,細部まで正確
な型抜きができます。
・すでに,日本だけでなく世界各国の自動車会社でも,Alの金型鋳造に焼結ベントをご使
用いただいております。
2.射出成形のガス抜き(略)
3.樹脂のブロー成形のガス抜き(略』)
オ乙28(特開平10−156513号公報)には,以下の記載がある。
『0001【発明の属する技術分野】【】
本発明は,繊維材を充填した鋳型内を減圧し,溶融金属を前記減圧された鋳型内に注入する
ことにより繊維を含む金属部材を鋳造する装置に於いて,前記減圧用の排気口から繊維材及び
溶融金属を流出することを防止するための鋳造用フィルタに関するものである。
【0006】本発明は上記したような従来技術の問題点に鑑みなされたものであり,その主
な目的は,繊維(固体)及び溶融金属(液体)は通過させずに気体のみを通過させることがで
きると共に溶融金属が凝固後に容易に離型可能であり,更に溶融金属に侵されない耐熱性を有
する再使用可能な鋳造用フィルタを提供することにある。
【0007【課題を解決するための手段】】
上記した目的は本発明によれば,繊維材を充填した鋳型内を減圧し,溶融金属を前記減圧さ
れた鋳型内に注入することにより繊維を含む金属部材を鋳造する装置に於いて,前記減圧用の
排気口から繊維材及び溶融金属が流出することを防止するための鋳造用フィルタであって,前
記溶融金属よりも融点の高い耐熱性金属または合金からなる線径20μm乃至100μmの金
属細線を絡ませて焼結させた多孔質材からなることを特徴とする鋳造用フィルタを提供するこ
とにより達成される。
【0011】ここで,フィルタ5は金型内の空気は通過するが,繊維F及び溶融金属Mは通
過しないようになっている。しかも,溶融金属に接触していても,溶融せず,酸化もしない耐
,。,,熱性を有し更に溶融金属が凝固した後に容易に離型可能となっている具体的には例えば
鉄−クロム(20wt%)−アルミニウム(5wt%)からなる線径が20μm∼100μm
の多数の耐熱性金属細線を絡ませ,焼結した多孔質材からなり,その空孔率を60%以上(∼
90%)としたものである(後略』。)
カ乙66(実開昭62−159963号公報)には,以下の記載がある。
『3考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本考案は,アルミニウムまたはその合金の精錬を終えた熔湯をるつぼごと搬送用取鍋に移し
クレーンにより搬送し低圧鋳造機の保持炉に移送する等の場合に有利に使用される溶融金属の
移送装置に関する。その他,溶解炉から精錬用保持炉へ移湯する等の場合にも広般に使用可能
である(2頁7行∼15行)。』
『移湯を開始させるための減圧用パイプ(13)は頂上部(9a)の受湯側寄りに,第2図
に示すように,頂上部(9a)の内径の下面(A)より低い取付位置に接続されて立上り,そ
の上端にストツプバルブ(14,真空ポンプ接続用パイプ(15,真空ゲージ(16)を取))
付けて構成される。この取付位置で充分に溶湯のサイフオン作用を発起させることができる。
移湯を停止させるための大気開放用パイプ(17)は頂上部(9a)に接続されて立上り,
その上端にストツプバルブ(18)を取付けて構成される。大気開放用パイプ(17)のこの
取付位置は移湯停止の際の湯切れを迅速にする(7頁9行∼8頁1行)。』
『またこれらパイプ(13(17)の上端には空気は流通するが,溶湯は通過させない焼)
結ベント(20)を接続し上部装備との間に介在させるのがよい。この焼結ベント(20)は
。』()減圧時および移湯初期に溶湯が外部に流出することを確実に防止する8頁10行∼14行
『上記構成の本考案装置は次のように操作して使用される。
先づストツプバルブ(14(18)とも閉として置く。真空ポンプ接続パイプ(15)に)
真空ポンプを接続して運転を開始する。ストツプバルブ(14)を徐々に開くとサイフオン管
内の減圧が始まり,その圧力が80∼100mmHgに達するとサイフオン作用による移湯が
開始される。移湯側容器(2)内の湯面が低下し始め移湯開始が確認されると減圧用パイプの
ストツプバルブ(14)を閉とする。この状態で移湯は継続される。
移湯を停止するには大気開放用パイプのストツプバルブ(18)を開く(8頁15行∼9。』
頁7行)
キ乙67(特開昭61−38767号公報)には,以下の記載がある。
『産業上の利用分野][
本発明は溶融金属を高速で金型内に射出し,製品に仕上げるダイカスト鋳造方法に関し,特
に円形鋳物を鋳造するにあたっての最適ガス抜き取付け位置に関する』。
『発明が解決しようとしている問題点及び目的][
しかし,上述の方法ではしばしばガスが残存し,鋳巣を発生させている。
本発明は投影した形状が略円形状のダイカスト鋳型のガス抜孔の最適位置を明確にし,ガス
巻込のない鋳造欠陥のない鋳物を得る鋳型を提供することを目的とする』。
『作用(中略)[]
8はガス抜で,気体は通過出来るが溶湯は通過出来ない程度の寸法に刻設されている(中。
略)
ガス抜孔部材としては焼結ベント,押出ピン(2重シェルタイプ及び/又は,外周に溝又は
細隙を有するもの)等が有効に使用できる』。
ク乙68(特開平6−47519号公報)には,以下の記載がある。
『0001【産業上の利用分野】本発明は,ゲートピストンの先端面を鋳型の下型表面に【】
当接させて,前記先端面に形成された凹部を前記下型に形成された溶湯通路の一端に被せるこ
とにより,その溶湯通路を閉塞する構造を備える差圧鋳造装置に関する。
【0003【発明が解決しようとする課題(中略)本発明の技術的課題は,ゲートピスト】】
ンの内部に所定の厚みで製作された断熱部材を装着し,この断熱部材をゲートピストンの上部
でのみ固定することにより,断熱部材とゲートピストンとの熱膨張率の差に起因する力がその
断熱部材に加わらないようにすること。また,断熱部材が鋳型の下型上面に当接しないように
することにより,ゲートピストンが下型の上面に当接する際の衝撃が直接,断熱層に加わらな
いようにするものである。
【実施例(中略)】
【0007(中略)さらに上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており,この貫】
通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベ
ント76が取り付けられている。前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成さ
れており,この排気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピス
トン72の内部空間に連通している。また前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧
装置に接続されている。この構造によって,前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の
内部空間が排気通路74c,焼結ベント76を介して減圧される』。
ケ乙69(特開平9−103865号公報)には,以下の記載がある。
『0001【産業上の利用分野】本発明は,天井部を備える筒状のゲート部材を鋳型に形【】
成された溶湯通路の開口部に被せ,その溶湯通路を塞ぐとともに,そのゲート部材の内側に溶
湯を蓄える構造の鋳造装置に関する。
【0003【発明が解決しようとする課題(中略)請求項1に記載の発明は,ゲートピス】】
トンに対する断熱部材(断熱層)の取付け方法を改良することにより,両者の熱膨張率の差に
起因した断熱部材の剥離を防止して,ゲートピストンの耐久性を向上させようとするものであ
る。ここまで
【0007(中略)さらに上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており,この貫】
通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベ
ント76が取り付けられている。
【0008】前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成されており,この排
気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピストン72の内部空
間に連通している。また,前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧装置に接続され
ている。この構造によって,前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の内部空間が排気
通路74c,焼結ベント76を介して減圧される』。
コ乙80(特開2001−340957号公報)には,以下の記載がある。
『請求項4】請求項1に記載の溶融金属運搬容器であって,前記本体内の圧力が所定以上【
となったときに本体内を大気開放する弁を更に具備することを特徴とする溶融金属運搬容器。
【請求項5】請求項1に記載の溶融金属運搬容器であって,前記本体に対して脱着可能で,
前記本体内を加圧する手段を更に具備することを特徴とする溶融金属運搬容器。
【発明の詳細な説明【0001【発明の属する技術分野】本発明は,アルミニウムやマグ】】
ネシウム,亜鉛等の金属又はこれらの合金の溶融金属を保持及び搬送するための溶融金属の運
搬容器,運搬方法及び固持装置に関する。
【0005】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり,溶湯の運搬の際,溶湯
の温度の低下を抑制し,省エネルギ化に寄与する溶融金属運搬容器を提供することを目的とす
る。
【0006】また本発明の別の目的は,このような溶融金属運搬容器の運搬に安全かつ好適
な溶融金属の運搬方法及び固持装置を提供することにある。
【0018】更に本体2には,図3に示すように容器内部の圧力を測定する圧力計P1,容
器内部を大気開放する圧力制御弁V1及び溶湯13の温度を測定する温度計T1が設置され,
また容器内を加圧するための脱着可能な窒素ガスボンベ16が設置されている。圧力制御弁V
1としてはリリーフ弁や圧力安全装置弁等を使用する。更に本体2には空間8のガス(空気)
の圧力及び温度をそれぞれ測定する圧力計P2及び温度計T2,また空間8を減圧するための
圧力制御弁V2,容器内を減圧するための脱着可能な真空ポンプ42がそれぞれ設置されてい
。。る圧力制御弁V2は圧力制御弁V1と同様にリリーフ弁や圧力安全装置弁等を使用している
なお,空間8のガスを減圧するために真空ポンプ42を併用する。
【0021】ところで本発明に係る溶融金属は,生成自由エネルギが小さいアルミニウムや
マグネシウム等の軽金属を使用するため,酸化しやすく,燃焼や爆発の危険性が高い。従って
。,運搬中の容器内の圧力及び酸素量を所定量に制限しなければならないそこで本実施形態では
容器内の圧力が上限設定値,本実施形態では0.5気圧∼2気圧を超えると圧力制御弁V1に
より自動的に容器外部へガスを放出することで,運搬容器1の爆発を防止して安全性を確保す
ることができる。また真空ポンプ42により容器内を所定値まで減圧して酸素量を減少させ,
その後,容器内を不活性ガスである窒素ガスを投入して加圧することにより,溶湯の酸化を防
止して燃焼又は爆発を防止することができる。従って容器内の溶湯の品質を最適に維持して,
かつ運搬中の安全性を確保することができる。なお,容器内の窒素ガスによる加圧を大気圧よ
りも大,例えば1.2気圧としておくことにより外部からの酸素の流入を防止することができ
る。この場合,圧力制御弁V1の設定値を例えば1.5気圧としておく。
【0030】図7に示す運搬容器50において,本体62の下方には溶湯13を外部から抽
入あるいは外部へ抽出するための抽出入口69,及びこの抽出入口69の開閉を行うバルブV
3が設けられている。本体62の壁は上壁62a,側壁62b,底壁62cが全て内壁64及
び外壁65を有し,その内壁64と外壁65との間には断熱部となる減圧可能な空間8が形成
されている。また本体62の内部においては,上壁62a,側壁62b,底壁62cの全てに
おいて内壁64の内側に断熱材としての耐火レンガ7が設けられている。
【0031】また本体62には,図1∼図4に示す運搬容器1と同様に,圧力計P1及びP
2,温度計T1及びT2,圧力制御弁V1及びV2,窒素ガスボンベ16,真空ポンプ42,
取っ手9,フォーク挿入部5がそれぞれ設けられている。
【0032】以上のように構成される溶融金属運搬容器50に,溶解炉等により溶解された
溶湯を抽入する場合は,バルブV3を開とした後,真空ポンプ42を作動させて外部から抽出
入口69を介して抽入し,抽入終了後バルブV3を閉とする。
【0033】また,溶湯を抽出する場合には,V3を開として真空ポンプ42により容器内
を加圧して抽出入口69から外部へ抽出する』。
サ乙73(特開2004−209521号公報)には,以下の記載がある。
『0004】本発明の目的は,溶融金属が内部の気体の圧によって流れ出ることを防止で【
きる取鍋を提供するものである。
【0005【課題を解決するための手段】】
本発明では,溶融した金属を貯留し,溶融した金属を供給する位置まで搬送され,加圧用の
孔を介して外部から内部を加圧することで貯留している溶融金属を内部から外部に導出するよ
うに構成した取鍋において,上記の加圧用の孔には栓が設けられるようになっており,上記の
栓は取鍋内の空気は外部に排出できるが,取鍋内の溶融金属は外部に導出されないようなフィ
ルタを有していることを特徴とする取鍋を提供している。
【0006】このような栓は例えば孔に金属製配管を取り付け,この配管内にセラミクスフ
ァイバーの成型品からなるフィルター部材を詰めたものをあげることができる。この他にも焼
結金属,素焼き,などからフィルター部材を構成するようにしてもよい。
【0027】また,ハッチ62の中央,或いは中央から少しずれた位置には,容器100内
の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。貫通孔65は,例え
ば溶融アルミニウムの排出時には逆L字状の配管66を介して加圧タンクのエアーホースが接
続されるが,搬送時には栓318で塞がれている。栓318は栓は取鍋本体1内の空気は外部
,。に排出できるが取鍋本体1内の溶融金属は外部に導出されないようなフィルタを有している
このフィルタとしては,たとえばセラミックファイバーや焼結金属の成形品を用いたものが有
効であった』。
(4)ア前記(3)アのとおり,本件各特許発明5は『孔を塞いで容器を密閉した場,
合に,容器内の気体が温度上昇により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶
融金属が吐出するという問題が生じ,この問題は,容器のライニングの乾燥が不十
分な場合にはさらに顕著になるため,溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐこ
とができ,しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる
溶融金属供給用容器を提供すること』を目的とした発明であって,このような新規
の技術的課題を解決するために,貫通孔に通じる流路に規制部材を装着するという
手段を採ったものである。
イこれに対し,前記(3)イのとおり,乙65の段落【0058】には,圧力開
放用の貫通孔にリリーフバルブを取り付けること,これにより,容器内が所定の圧
力以上となったときに安全性の観点から容器内が大気圧に開放されるようになるこ
とが記載されている。
,,『』,『』しかし上記記載は容器内が所定の圧力以上となったとき安全性の観点
との文言から明らかなように,一般論を述べたものにすぎず,このほか,乙65に
は,圧力上昇に関し『加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介し,
て容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能』との記載しかなく(段落【0
056,本件各特許発明5のように『孔を塞いで容器を密閉した場合に,容器内】)
の気体が温度上昇により膨張し,配管から不意に溶融金属が吐出する』という,容
器内の圧力が上昇する具体的な理由やメカニズムについての記載はない。
また,乙65における『リリーフバルブの設置(これは,本件特許5に係る明』
細書の段落0132にも記載されていると本件各特許発明5における貫【】。),『
』,。通孔に通じる流路に規制部材を設けることではその課題解決方法も全く異なる
そもそも,本件各特許発明5において『リリーフバルブ』とは別に『規制部材』,
が設けられていることからしても,両者の役割が異なることは明らかであって,こ
のように,具体的課題(一般的な安全性確保)もその解決手段(リリーフバルブの
設置)も異なる乙65発明から,本件各特許発明5における『貫通孔に接続した配
管に規制部材を設けること』を想到するのが容易であるということはできない。
ウ前記(3)ウのとおり,乙8の1には,平成14年12月9日にトヨタ自動車
衣浦工場で発生した火災事故の発生原因につき『取鍋内の水分が,アルミ溶湯の,
熱により気化『密閉容器であるため,気化した文の体積変化が内圧上昇を引き起』,
こし,内部を加圧『※結果としては乾燥が不足であったと考えられる』などと推』,
定したことが記載されている。
また,前記(3)エのとおり,乙8の3に添付された焼結ベントのパンフレットに
は,焼結ベントが,ガス抜き用部材として使用されることが記載されている。
さらに,前記(3)オのとおり,乙28公報には,線径が20μm∼100μmの
多数の耐熱性金属細線を絡ませ,焼結した多孔質材からなり,繊維(固体)及び溶
融金属(液体)は通過させずに気体のみを通過させることができるフィルタが開示
されている。
しかし,乙8の1においては,複数の事故発生原因が推定されているものであっ
て,取鍋内の圧力が上昇したことが唯一の原因とされているものではない上,同書
面に記載された事項は,トヨタ自動車や被告など,火災事故に関する当事者等限り
のものとして,信義則上,第三者にみだりに開示しないとの義務があったというべ
きであり,そもそも非公知の情報というべきである。
また,乙8の3に添付されているのは,焼結ベントのパンフレットにすぎず,こ
こに,本件各特許発明5が問題とするような課題は一切示唆されていない。元来,
焼結ベントは,同パンフレットの記載からも明らかなように,鋳造,射出成形,樹
脂のブロー成形等におけるガス抜き用部材として用いられることが予定されてお
り,本件各特許発明5のように,取鍋の貫通孔に通じる流路に装着することは予定
されていなかったというべきである。
このほか,乙28で開示されているのは,金属部材の鋳造装置におけるフィルタ
に関する発明で,繊維(固体)及び溶融金属(液体)は通過させずに気体のみを通
過させることができ,溶融金属が凝固後に容易に離型可能であり,更に溶融金属に
侵されない耐熱性を有する再使用可能な鋳造用フィルタを提供することを課題とす
るものであって,本件各特許発明5とは,その課題が全く異なる。
本件においては,平成14年12月9日に火災事故が発生したことにより,初め
て,加圧式の気体の配管を搬送中に密閉した場合には,容器の内圧が上昇し,溶融
金属が供給側の配管から流出するおそれがあることが認識されたものと解されると
ころ,このような課題を認識しない限り『貫通孔に通じる流路に規制部材を装着,
する』との課題解決手段を想起することは困難というべきである。
エ以上のとおり,乙65を主引例として,乙8の1(ただし,同書面に記載さ
れた内容は,そもそも非公知の情報というべきである,乙8の3添付のパンフレ。)
ット,乙28公報等を参酌してもなお,解決すべき具体的課題やその解決手段にお
いて異なる本件各特許発明5を想到するのが容易であるとはいえない。
(5)ア前記(3)カのとおり,乙66考案は,溶融金属の移送装置に関する発明で
あって,取鍋をクレーンにより保持炉に移送すること,サイフォン作用を利用して
移湯を行うこと,減圧時及び移湯初期に溶湯が外部に流出することを確実に防止す
るため,減圧用パイプと大気開放用パイプの上端に,空気は流通させ溶湯を通過さ
せない焼結ベントを接続することが,それぞれ記載されている。
このように,乙66考案と本件各特許発明5とは,焼結ベントないし規制部材の
設置という,課題解決手段において類似する。
しかし,乙66考案における焼結ベントは,あくまで,減圧時や移湯初期におい
て溶湯が外部に流出しないようにすることを目的として設置されており,本件各特
許発明5のように『孔を塞いで容器を密閉した場合に,容器内の気体が温度上昇,
により膨張し,溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出するという問題』
を意図していない。
また,乙66考案では,サイフォン作用を利用して溶湯を供給しており,本件各
特許発明5とは,その供給方法において異なる。
このように,本件各特許発明5とは,課題や構成が全く異なる乙66考案におけ
『』,。る焼結ベントを乙65発明に組み合わせる動機付けはないというべきである
イ前記(3)エ,キないしケのとおり,乙8の3,乙67ないし69には,焼結
ベントがガス抜き用部材として使用できることが記載されており,被告は,これを
乙65発明に適用する動機付けがある旨主張する。
しかし,前述のとおり,乙8の3に添付されているのは焼結ベントのパンフレッ
トであって,ここに,本件各特許発明5が問題とするような課題は一切示唆されて
いない。また,乙67ないし69は,いずれも,鋳造の分野で焼結ベントを用いる
ことを開示するにすぎず『ガス巻込のない鋳造欠陥のない鋳物を得る鋳型を提供,
すること(乙67『断熱部材とゲートピストンとの熱膨張率の差に起因する力』),
がその断熱部材に加わらないようにすること『断熱部材が鋳型の下型上面に当接』,
しないようにすることにより,ゲートピストンが下型の上面に当接する際の衝撃が
直接,断熱層に加わらないようにする』こと(乙68『熱膨張率の差に起因した),
,』()断熱部材の剥離を防止してゲートピストンの耐久性を向上させること乙69
を,それぞれ目的とするものであって,これらの発明を,乙65発明に適用すべき
動機付けは全くないといわざるを得ない。
ウ前記(3)コのとおり,乙80は,アルミニウムやマグネシウム等の軽金属が
酸化しやすく,燃焼や爆発の危険性が高いことに着目し,容器の爆発を防止して安
全性を確保することを課題とするものであって,同課題は,抽象的に安全性の確保
という観点では本件各特許発明5の課題と類似するといえなくもないが,具体的な
レベルでは異なる。
また,乙80では,上記課題を解決するために,容器内を所定値まで減圧して酸
素量を減少させ,その後,不活性ガスである窒素ガスを投入するという手段を採っ
ており,規制部材を設けて圧力上昇を防ぐという本件各特許発明5の解決手段とは
大きく異なる。
以上からすれば,乙80を参酌しても,乙65発明から本件各特許発明5が容易
想到であるとはいえない。
エこのように,乙65発明を主引例として,乙66考案,乙8の3,乙67な
いし69,乙80をすべて参酌しても,なお,解決すべき具体的課題やその解決手
段において異なる本件各特許発明5が容易想到であるとはいえない。
(6)前記(3)サのとおり,乙73には,本件各特許発明5とほぼ同一内容の発明
が記載されているといえる。
しかし,乙73にかかる特許の出願日は,平成14年12月28日であり,これ
は,本件特許5の出願日(基準日)と同一日である。そして,乙73の特許出願人
である有限会社杉浦商店や発明者であるBが,同日以前に,乙73にかかる発明の
内容を熟知していたことは当然であるとしても,それによって,同発明とほぼ同一
内容である本件各特許発明5について,公然知られた状態であったとは到底いえな
い。
したがって,乙73に基づき,本件各特許発明5が新規性に欠けるとの被告の主
張は理由がない」。
29原判決170頁12行目の「11」を「12」とする。
30原判決173頁15行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「なお,被告は,乙8の2対策書添付の見取図に寸法等の記載がないことや,焼
結ベントのサンプルの取寄せや具体的に使用する焼結ベントの効果試験が後日され
たという事実は,実施品の開発が後日行われたことを示すにすぎない旨主張する。
しかし,乙8の2対策書添付の見取図は,単に寸法の記載がないだけでなく,そ
の記載全体が極めて大まかであることからして,抽象的なアイディアを記載したに
すぎないといわざるを得ず,当業者がこれに基づいて最終的な製作図面を作成しそ
の物を製造することが可能な状態には到底達しておらず,やはり,この段階で,発
明が完成したということはできない」。
31原判決174頁23行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「ウ確かに,日本坩堝の常務取締役であったCの報告書(乙59)には「焼,『
結ベント』を使用することについては,平成14年12月9日の火災事故直後の対
策会議において提案された対応策の1つで,この会議に参加した中央窯業のD及び
被告のEによれば,トヨタ自動車衣浦工場のAが最初に言い出した」旨の記載があ
る。
しかし,これは,あくまで伝聞にすぎない上,前記アのとおり,甲19,20の
議事録には,原告の社員が,同月10日,12日の打合せ時に,トヨタ自動車側に
対し『取鍋転倒時等には,ポート先端に焼結金属や金網などで熱容量が大きいも,
のを取り付け,気体を通し溶湯は固まって止まるようにする』と回答したことが記
載されている。
以上からすれば,少なくとも,本件各特許発明5に相当する技術的手段につき,
『被告及び同月9日の会議に参加した各社の従業員が共同で発案した』ことを認め
るに足りる証拠はなく,同発明につき先使用権を主張する被告において,この点に
関する立証に成功していない」。
32原判決175頁3行目の「12」を「13」とする。
33原判決179頁14行目の「13」を「14」とする。
34原判決184頁19行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「ウ原告は,平成15年2月22日に,乙9図面に基づく試作品につき結露テ
ストが行われておりその後もさらにテストが行われたことが推認されるので事,,『
業の準備』といえる状況が出現するのは,早くとも同日の結露テストの後である旨
主張する。
しかし,必ずしも結露テストを経なければ『事業の準備』に至っていないとはい
えない上,乙29の1,29の2上の写真からすれば,上記結露テストで用いられ
,,。」た取鍋は単なる試作品ではないものと認められ原告の上記主張は採用できない
35原判決185頁3行目を「15争点7−1(被告製品及び被告現製品,
の意匠は本件意匠に類似するか)について」と改める。
36原判決185頁3行目の後に行を改めて,以下のとおり挿入する。
「(1)登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を
通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)とされている。
そして,意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを
要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,目的,用途,使用態様,さらに公知
意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して,取引者・需要者の最も注意を惹
きやすい部分を意匠の要部として把握し,登録意匠と相手方意匠が,意匠の要部に
おいて構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である。
なお,意匠の新規性(意匠法3条1項)及び創作非容易性(同条2項)という創
作性の登録要件を充足して登録された意匠の範囲については,その意匠の美感をも
たらす意匠的形態の創作の実質的価値に相応するものとして考えなければならず,
公知意匠を参酌して,登録意匠が備える創作性の幅を検討する必要があるため,公
知意匠を参酌することの必要性は,意匠法41条によって特許法104条の3が準
用されるようになった後においても,完全に失われてはいないというべきである。
もっとも,意匠とは,様々な要素の組合せ全体から構成される全体としての視覚
情報が最終的には意味を有するものであり,一部に公知意匠が含まれても,他の要
素と併存することで異なる意匠を構成することも想定されるため,要部認定に際し
て,周知又は公知の意匠を参酌するものの,周知又は公知の意匠が包含されること
をもって,直ちにその部分が,要部から排除されるべきものとまではいえない。
以上を前提として,以下,本件意匠と被告意匠の類否を検討することとする」。
37原判決185頁4行目の「(1)」を「(2)」と訂正する。
38原判決186頁16行目の「(2)」を「(3)」と訂正する。
39原判決186頁18行目の「(3)」を「(4)」と訂正する。
40原判決188頁4行目の「ことは」から,同頁10行目の「あり得るの,
であり」を削除し「」を加える。,,。
41原判決189頁15行目の「(4)」を「(5)」と訂正する。
42原判決193頁11行目の「(5)」を「(6)」と訂正する。
43原判決193頁14行目の後に改行して,以下のとおり挿入する。
「そして,改造により,被告現製品は被告製品とは異なるものであるが,単にハ
ッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,全体としての美感に影
響を与えるような改造ではないものと解されるから,被告現製品にかかる意匠も,
本件意匠と類似し,本件意匠に係る物品と同一の取鍋に本件意匠と類似する意匠を
,。」使用する被告の行為についても本件意匠権を侵害する行為であると認められる
44原判決193頁15行目から195頁26行目までを以下のとおり改め
る。
「16争点7−2(本件意匠は公知意匠から容易に創作し得るか)について
(1)被告は,本件意匠につき,公知意匠1(乙1参照)及び公知意匠2(乙2の
6参照)に基づき,容易に創作できた意匠であり,意匠法3条2項に違反して登録
されたため,無効であると主張するため,以下,検討する。
(2)意匠法3条1項3号は,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠すなわち
登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と
類似の美感を生ぜしめる意匠にも,及ぶものとされている(同法23条)ところか
ら,上記のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題
とするのに対し,同法3条2項は,物品の同一又は類似という制限をはずし,社会
的に広く知られたモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新し
さないし独創性を問題とするものであって,両者は考え方の基礎を異にする規定で
あると解される(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号3
08頁参照。)
本件においても,以上に示された基準に沿って,本件意匠が公知意匠1及び2か
ら容易に創作し得たか否かにつき検討する。
(3)証拠(乙1,乙2の6)によれば,以下の事実が認められる。
ア公知意匠1について
,『』,,公知意匠1は乙1の第6図に掲載された取鍋の意匠であってその形状は
以下のとおりである。なお,同図は断面図であるが,乙1の『発明の詳細な説明』
『』,『』の欄の実施例の項に第1図に関して2は開口部が密閉可能な円筒形の取鍋
との記載があり,同記載に照らせば,取鍋の一例を示す『縦断正面図』として,第
1図と同じ符号を用いて説明された第6図も,取鍋本体が円筒形で,大蓋,小蓋も
円形であると解するのが合理的である。
a)基本的な構成態様
有底円筒形状の取鍋本体と,取鍋本体を覆う円形の大蓋と,大蓋の中心に設けら
れた円形の小蓋と,取鍋本体の側面に設けられ,その外周から上方に向けて徐々に
外側に突き出した形状の突出し部からなる。
b)各部の具体的な態様
①取鍋本体は,高さと径がおよそ等しく,上端にフランジを有し,下面に,断
面ロ字状のチャネル材が2本,両端が取鍋本体からわずかにはみ出す程度の長さと
して,やや間隔を空けて平行に配されている。
②大蓋は,径が取鍋本体と同径の円盤状で,下端にフランジが設けられて,閉
蓋時に取鍋本体のフランジと重なり合う。
③小蓋は,径が大蓋径の2分の1弱で,厚みが大蓋とほぼ等厚の円盤状で,上
面に取っ手が設けられている。
④突出し部は,概略円筒形と認められる筒体が,その外側辺を取鍋本体の側面
のほぼ中間の高さ位置として,約30度の斜め上向きで外方に突き出す態様で取り
付けられているもので,正面視がおよそ縦長逆三角形状を呈し,その外側辺が,横
断方向に,略半円状の曲面をなしていると認められ,上端が大蓋の高さとほぼ等し
い高さにおいて,傾斜方向に対して垂直に横断されている。
イ公知意匠2について
公知意匠2は,乙2の6の第1図に掲載された『溶湯運搬炉』の意匠であって,
乙2の6の第1図及びその他の記載からすれば,その形状は以下のとおりである。
a)基本的な構成態様
上面が塞がれた有底四角筒状の運搬炉本体と,上面中央に設けられた円形の小蓋
と,本体の一方の側面に,側面全体が底部付近から上方に向けて徐々に外側に突き
出す態様で形成された突出し部と,この突出し部の上面に取り付けられ,先端部が
下方に屈曲した配管を備えている。
b)各部の具体的な態様
①突出し部は,運搬炉本体の一方の側面の全幅において,正面視が縦長逆三角
形状をなす態様で形成されたもので,外側に当たる辺(傾斜辺)が運搬炉本体のほ
ぼ底部位置から,約30度の斜め上向きに外方に突き出たものであり,上端が運搬
炉本体の上端よりやや低い位置において,傾斜方向に対して垂直の斜め上向きに閉
じられて,頂面が矩形の傾斜面を形成するもので,配管が,この傾斜面に取り付け
られている。
②配管は,全体(運搬炉の内側部分は除く)が略逆U字状をなす態様で取り。
付けられたもので,具体的には,突出し部の傾斜と同じ角度で短く伸ばされた後,
外方に90度折曲されてフランジが設けられて中間管に連結され,中間管は水平方
向に対してやや下向きに短く伸び,再度,フランジを介して曲管に連結され,曲管
は下降部分がやや長く,先端が,運搬炉の側面から,運搬炉本体の横幅の1/2程
度外方に突出した位置において,運搬炉の高さの中間当たりで下向きに開口してい
る。
(4)以上を前提とすれば,本件意匠と公知意匠1とは,突出し部におけるパイプ
部材の有無,配管の有無の点で異なっており,これらの相違は,取鍋全体からみて
も,取鍋における溶湯が導出される部分,すなわち,看者(当業者)からその部分
により美感を異にすると認識され,注目される部分におけるものと認められる。し
かるに,公知意匠2も,パイプ部材に当たる部分がなく,その配管の形状もその全
体的な傾斜具合が概ね下向きである点において,概ねやや上向きに横の方向に広が
っている本件意匠と大きく異なるものである。
そうすると,このような公知意匠2を公知意匠1に適用したとしても,上記のよ
うな看者に注目される部分における形状差が存在し,着想の新しさないし独創性が
あるというべき本件意匠につき容易に創作できるとはいえない。
(5)これに対し,被告は,公知意匠1の突出し部の位置を,取鍋本体の側面の高
さの中ほどからできるだけ底部に近い位置に変更した上公知意匠2の一部分配,,(
),,管を取り出しこれを公知意匠1の突出し部の先端に組み合わせることによって
本件意匠を容易に創作し得る旨主張する。
しかし,意匠の構成要素を他の意匠に単に置き換えるか,複数の意匠をそのまま
組み合わせることにより,当該意匠と同一又はほぼ同一の形状の意匠を容易に創作
できる場合には,意匠の創作容易性が肯定されるとしても,被告の上記主張は,も
はやそのような範囲を超えているから,本件意匠は,公知意匠1,2を組み合わせ
ることにより容易に創作し得るとはいえない。
(6)このほか,被告は,傾動式取鍋にかかる公知意匠1を加圧式取鍋において利
用するために,機能的に必要な修正を加えると,必然的に本件意匠に類似する旨主
張する。
しかし,そもそも意匠法3条2項の創作容易性においては,物品の類似性を問題
としないことをも考慮すれば,機能的な観点に基づく被告の上記主張は妥当でない
,,,,上仮に傾動式取鍋から加圧式取鍋に変更する上で突出し部の位置を下げたり
配管を設ける必要があるなど,必然的な変更部分があるとしても,その変更におい
て,デザイン面で創作性を発揮する余地は十分にあるというべきで,傾動式取鍋に
かかる公知意匠1を加圧式取鍋において利用しようとした場合,必然的に本件意匠
と類似の意匠となるものではない。
(7)以上のとおり,本件意匠の創作容易性に関する被告の主張は採用できない。
17争点8(被告の過失の有無)について
確かに,特許法103条においては,特許権の侵害者の,侵害行為についての過
失が推定されているが,これはあくまで推定規定であり,無過失責任を定めるもの
ではない。
しかし,他方で,特許権者は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明
りょうでない記載の釈明を目的とする場合に限り,願書に添付した明細書,特許請
求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができ,その
場合,同訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはな
らないとされている(特許法126条1項,4項参照。)
そうであれば,訂正は,当初の特許請求の範囲を拡張するものではなく,第三者
に不測の不利益を及ぼすことはない。
,,,,したがって本件特許134につき複数回の訂正がされたこと自体によって
侵害者たる被告につき推定される過失が覆滅されるとはいえない。
このほか,被告は,自らは被告製品を使用しているだけで生産をしていないとも
主張するが,この点は,仮に違法性の程度に影響を与えるとしても,過失の有無に
影響を与える事実とはいえない。
以上のとおり,自らに過失がない旨の被告の主張は理由がない。
18争点9(損害)について
(1)特許権者は,故意又は過失により特許権を侵害した者に対し,その特許発明
の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額と
してその賠償を請求することができる(特許法102条3項。)
被告は,被告製品を使用して本件各特許発明1及び5を実施しているのであるか
ら,原告は,本件各特許発明1及び5の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する
額の金銭を被告に請求することができる。
なお,本件特許3,4についても,訂正の結果有効となっており,前記10(2)
のとおり,被告製品は,これらの特許を侵害していたことになるが,これらは,い
『,』,ずれも大小2枚の蓋を備え小さい方の開閉可能な蓋に貫通孔を設けるという
本件特許1と同様の構成を採用することで,初めて有効(進歩性あり)とされたも
,。のであって有効とされた根拠において実質的に本件特許1と変わらないといえる
したがって,原告の損害との関係では,本件特許1の侵害による損害額を算定す
ることで,本件特許3,4についても折込み済みとみるべきであって,本件特許1
の侵害とは別個独立に本件特許3及び4の侵害による原告の損害額を認定算出する
ことは,判決の結論に影響がないと認められるので,これを行わないこととする。
(2)ア被告は,平成18年1月1日以降の期間の原告の損害賠償請求につき,平
成21年2月19日付け訴え変更申立書が送達された日(平成21年2月23日)
までに,消滅時効が完成した部分がある旨主張し,消滅時効の抗弁を出している。
本件のように,特許権侵害行為が継続して行われ,そのために損害も継続して発
生する場合においては,損害の継続・発生する限り,日々新しい不法行為に基づく
,,,損害として各損害を知った時から別個に消滅時効が進行すると解されるところ
原告は,平成18年1月1日以降の損害につき,平成21年2月19日付け訴えの
変更申立書を提出するまでの間,損害の発生を知りつつ,請求しなかったことにな
るから,平成18年1月1日から同年2月23日までの損害に対応する賠償請求権
は,時効により消滅したことになる(当裁判所は,必ずしもこのような見解を是と
しているわけではなく,権利者が将来にわたって差止請求をしながら,既経過分の
実施料相当額の請求のみにとどめるのは,将来分の請求権適格性に疑問があること
によるものと思われるところ,このような場合には,未経過分についても,事情に
変更がない限り,訴訟係属により時効管理がされているものと解する余地がある。
しかしながら,本件では,原告が,被告による消滅時効の援用があれば,当然に時
効消滅するものと解して予備的請求を設定している経緯にかんがみ,上記のように
判断したものである。。)
イ原告は,これに備えて,予備的に,同期間の損害(損失)につき,不当利得
に基づく返還請求をしている。
特許権は民法703条にいう『財産』に該当するところ,無断実施者がこれによ
って『利益』を得て特許権者たる他人に損失を及ぼしている場合には,不当利得と
して同利益を返還すべき義務を負うといえる。もっとも,不当利得返還請求につい
ては,特許法102条の規定の適用はなく,専ら民法703条,704条の規定に
基づくことになるが,その際の不当利得の額(実施料相当額)自体については,特
許権侵害に基づく損害賠償の場合と特段の違いはない。
ウこれに対し,被告は,自らは善意の受益者であるから,少なくとも本判決確
定までの間は,利息を支払う義務を負わない旨主張する。確かに,民法703条な
いし704条に基づく不当利得返還請求において,利得者の悪意が推定されるもの
でもなく,その他,本件特許1,3,4,5に関して,特許庁でも,少なくとも一
部につき無効と判断され,訂正が繰り返されたこと等の本件での諸事情を考慮すれ
ば,被告が,本件での特許権侵害につき悪意であるとまでは認められない。
したがって,上記の損害賠償請求権が時効消滅した期間に対応する不当利得額に
ついては,利息は発生しない。
(3)本件では,原告は,被告に対し,特許法102条3項及び意匠法39条3項
に基づき,実施料相当額の損害賠償を求めるものであるが,本件特許権の対象物で
ある取鍋に関する取引事例がほとんどないこともあり,市場における実際の取引事
例を比較分析することなどによっては,実施料相当額を算出することはできないた
め,本件における実施料相当額を求めるには,被告が本件特許権の使用によって実
際に受けたと考えられる利益を基にして算出するほかに方法はない。
この点について,原告は,被告が取鍋の転売により利益を得ている事実はなく取
鍋を用いて溶融アルミニウムを納入販売していることを考えると,溶融アルミニウ
ムの売上額を基準として算出すべきであると主張するものであり,侵害製品そのも
,,,のの売上げではないため結果として過大な金額になることが予想されるものの
原告主張の算出方法には,試算値を算出する方法としては,相応の合理性があると
いうことができる。
他方,被告は,加圧式取鍋である被告製品ないし被告現製品を使用して,溶融ア
,,ルミニウムを衣浦工場に納入販売することにより利益を得ているものではあるが
本件各特許は『方法』の発明ではなく『物』の発明に係る特許であって,被告製,
品ないし被告現製品の『使用』とは,溶融金属の『運搬及び溶融金属の供給』に用
いることにすぎないとし,その使用に係る『利益』は,被告製品ないし被告現製品
の購入額・修理額に基づいて計算することができると主張するものであり,結果と
して,侵害製品を用いた場合の溶融アルミニウムの売上額を基準にする場合と比較
すると,過小な金額になることが否めないものの,被告主張の算出方法にも,実施
料相当額を算出する場合に斟酌する試算値を算出するものとして,若干の合理性が
あるということができる。
(4)ア証拠(甲28,44,51)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成
15年5月12日ころから平成18年8月ころまでは被告製品を用いて,同月ころ
から現在までは被告現製品を用いて,それぞれ溶融アルミニウムをトヨタ自動車の
衣浦工場に納入しており,平成15年(5月から12月まで)は8000トン,平
成16年は1万4610トン,平成17年は1万3960トン,平成18年は63
00トン,平成19年は8500トン,平成20年は1万1700トン,平成21
年は8910トンの納入をしたこと,溶融アルミニウムの納入価格は,1キログラ
ム当たり,①平成15年5月から同年12月までが平均187円(1円未満の端数
は切捨て。以下同じ,②平成16年1月から同年12月までが平均200円,③。)
平成17年1月から同年12月までが平均206円,④平成18年1月から同年1
2月までが平均296円,⑤平成19年1月から同年12月までが平均296円,
⑥平成20年1月から12月までが平均312円,⑦平成21年1月から12月ま
でが平均178円であることが認められる。
()イ以上認定判示したところ一部弁論の全趣旨によって認められる事実を補充
によれば,次のとおりいうことができる。
正確な時期はやや不明確ではあるが,被告が,平成18年7月31日までは被告
製品を使用し,同年8月1日以降は被告現製品を使用して,それぞれ溶融アルミニ
ウムを衣浦工場に納入したものと解される。
以上を前提として,溶融アルミニウムの納入価格総額を計算すると,別紙『裁判
所認定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日まで
が83億7687万6712円,同年8月1日から平成21年12月31日までが
85億3406万3288円となる。
被告が,衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際し,納入先であるトヨタ自
動車の承認が必要であるところ,平成14年12月の溶湯洩れ事故の影響もあり,
本件各特許発明5の安全装置(焼結金属等を用いた気体のみを通過させる規制部材
に関する発明であって,容器内の過度の圧力の上昇を防止するもの)を備えた被告
現製品又はこれと同等のものを使用する必要性が高いものと解される。
他方で,被告は,平成18年8月ころまでは,本件各特許発明1の構成(加圧式
取鍋において大小2枚の蓋を設け,小さい方の開閉可能な蓋に内圧調整用の貫通孔
を設けるもの)を備えた被告製品を使用していたものであるが,同月ころ以降,本
件各特許発明1の構成を必ずしも備えていない被告現製品を使用しているにもかか
わらず,これにつきトヨタ自動車から強い異議があったとは窺われない。
そして,本件各特許発明1の目的が『内圧調整に用いるための配管や孔の詰まり
を未然に防止する』というものであって,必ずしも事故の防止に直結するようなも
のでないことをも考慮すれば,被告が衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するに際
し,本件各特許発明1の構成を備えた取鍋を使用する必要性は,必ずしも高くはな
いというべきである。
このほか,本件各特許発明1及び5は,加圧運搬式取鍋の全体的な構成に関する
発明ではなく,部分的な改良発明であること,さらに,原告と被告は衣浦工場にお
いて競業関係にあり,被告が溶融アルミニウムを納入することができないことにな
れば,原告が溶融アルミニウムを納入することが可能な状況であること(この点は
特許法102条3項の本来想定する事情ではないためここでは参考として斟酌する
。),にとどめる等の取引関係の実情及び本件各特許発明1及び5の内容に照らせば
溶融アルミニウムの売上額を基準にした場合,本件各特許発明1及び5の実施料率
として普通に考えられるものとしては,本件各特許発明1及び同5を併せて,溶融
アルミニウムの納入価格の0.6%という試算値になる(その内訳は,本件各特許
発明1は0.2%,本件各特許発明5は0.4%となる。。)
ウ本件意匠権侵害について,被告が,被告意匠を用いた被告製品ないし被告現
製品を使用しなければ,トヨタ自動車の衣浦工場に溶融アルミニウムを納入するこ
とができなかったことを認めるに足りる証拠はないが,被告が,被告意匠を用いた
,,被告製品ないし被告現製品を使用することにより納入をスムーズに行えたことは
容易に推測可能である。
このほか,本件意匠が加圧式取鍋全体に係る意匠であること等を考慮すれば,本
件意匠の実施料率として普通に考えられるものとしては,溶融アルミニウムの納入
価格の0.1%という試算値になる。
エ以上のとおり,溶融アルミニウムの売上高を基準として,試算値として,原
,.告の損害額ないし損失額を計算してみると被告製品についての実施料率が合計0
7%,被告現製品についての実施料率が合計0.5%であるので,別紙『裁判所認
定損害額①』のとおり,平成15年5月12日から平成18年7月31日までが5
863万8137円,同年8月1日から平成21年12月31日までが4267万
0316円となり,合計は1億0130万8453円となる。
(5)他方で取鍋の購入・修理価格に基づく計算方法についてであるが証拠乙,,(
61の1ないし61の19,乙81の1ないし81の44)から認められる被告の
,『』,取鍋の購入価格・修理価格を前提とすると別紙裁判所認定損害額②のとおり
平成15年5月12日以降(原告が損害賠償の対象としている部分)から平成18
年7月までの取鍋の購入価格,修理・改修費用は,合計1億7185万6523円
となり,同年8月以降平成21年12月までの分は合計1億7929万3576円
(なお,被告現製品においては実施していない本件特許1についての部分を除くた
めに,7分の5を乗じると,1億2806万6840円)となる。
そして,被告は,本件特許1,5及び本件意匠の実施料率が合計2%であること
を自認しているので,これを前提とした場合,この算出方法による原告の損害額な
いし損失額の試算値は599万8467円となる。
(6)以上,2つの方法で計算した試算値を比較すると,原告の主張する溶融アル
ミニウムの売上額による算出方法は,特許法102条3項等が想定する実施料を算
出する方法として普通に用いられるものではなく,このため実施料率自体は通常の
場合の下限値を用いたものの,それでもなお,同方法によって算出された金額は真
実の数値を相当程度上回っているものと考えられる。他方,被告の主張する取鍋の
購入価格・修理価格による算出する方法も,同方法によって算出された金額は真実
の数値とは大きく懸絶しているものと考えられる。
両者の試算値には誤差の範囲を超えた大きな相違がある。その原因は,算出の考
え方,前提事実が全く異なっていることを考えると,当然の結果であり,両者を単
純平均した数値を採用することは相当であるとはいえない。
しかも,当事者は,それぞれ,自己の主張する算出方法が正当であると主張して
おり,当裁判所が独自に第三の算出方法を案出することも,これを相当とする状況
にはない。
そこで,当裁判所としては,民訴法248条の趣旨にかんがみ,口頭弁論の全趣
旨及び証拠調べの結果を参酌し,原告が主張した,溶融アルミニウムの売上高を基
準とする算出方法に基づいて得られた試算値を出発点として,公平の見地から,こ
れに0.5を乗じた金額をもって,実施料相当額であると認定するものである。
そして,本件では,原告が,侵害期間を4つに分けて請求し,それぞれにつき遅
延損害金を求めていることに加え,被告が取鍋を改造したことにより,平成18年
8月1日を境として侵害の態様が変化していることから,平成15年5月12日か
ら同年12月31日まで,平成16年1月1日から平成17年12月31日まで,
平成18年1月1日から同年7月31日まで,同年8月1日から平成20年12月
31日まで,平成21年1月1日から同年12月31日までの損害額をそれぞれ計
算すると,別紙『裁判所認定損害額③』のとおり,それぞれ523万6000円,
2029万2160円,379万0908円,1737万0208円,396万4
950円となる。
ただし,平成18年1月1日から同年2月23日までの期間の損害額である96
万5609円については,上述のように,消滅時効が完成しているとされるため,
損害賠償請求としては認められないが,附帯控訴人の予備的請求である不当利得の
返還請求としては理由がある。なお,悪意の受益者としての利息の請求は認められ
ないが,催告された日の翌日(平成21年2月24日)から民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払いを求める請求としては理由がある。
なお,原告は,損害賠償請求における予備的主張として,取鍋の購入価格及び修
繕費用に基づく請求もしているが,その前提となる取鍋の価格や修繕費用,修繕の
時期等について証拠上の根拠がなく,採用できない。
19差止め等の必要性について
被告が,本件特許1,5及び本件意匠につき,侵害の事実を争っていることに加
え,本件特許1に関しては,設計変更により,被告現製品では侵害していないとは
いえ,ハッチ上の内圧調整用の貫通孔をプラグで塞いであるだけで,これを元の構
成に戻すことが容易であると解されることからすれば,侵害のおそれはあるといわ
ざるを得ず,差止め,侵害品等の廃棄等の必要性はあるといえる」。
45原判決196頁1行目から11行目までを削除する。
46結論
以上のとおりであるから,原告の請求は,本件特許1及び5に係る特許権及び意
匠権侵害に基づく差止め及び侵害品等の廃棄等を求める部分は理由があり,この点
についての原判決は正当であるが,損害賠償額については,原判決が認容した額を
下回る金額(附帯控訴に基づき,期間的には原判決の対象とした期間を超える部分
を含む)である4968万8617円及び内金523万6000万円に対する平。
成16年12月1日から,内金2029万2160円に対する平成18年5月26
日から,内金2019万5507円に対する平成21年2月24日から,内金39
6万4950円に対する平成22年1月16日から,各支払済みまで民法所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余の主位的
請求は理由がなく,予備的請求(不当利得返還請求)については,96万5609
円及びこれに対する訴えの変更申立書の送達日の翌日である平成21年2月24日
から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があ
り,その余は理由がない。
よって,原判決を以上のとおり変更することとし,仮執行の宣言は金銭の支払い
を命じた部分につき付することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛