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平成20年(行コ)第10002号却下処分取消請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成20年(行ウ)第82号)
平成21年3月26日判決言渡,平成21年2月19日口頭弁論終結
判決
控訴人(1審原告)パルミジャニフルリールエス.アー.
特許管理人弁理士滝口昌司,中里浩一,川崎仁,三嶋景治
訴訟代理人弁護士出縄正人,高橋祥子
被控訴人(1審被告)国
代表者法務大臣
処分行政庁特許庁長官
指定代理人福光洋子,青木明子,門奈伸幸,石田久隆,天道正和,山内孝夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2特許庁が意願2006−026075号について平成19年1月15日付け
でした手続補正書に係る手続を却下する処分及び同年3月27日付けでした優先権
証明書提出書に係る手続を却下する処分をいずれも取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
本件においても原判決の略語表記を使用する。
1本件の経過
本件は,控訴人が意匠登録出願と同時に,パリ条約による優先権主張の手続をし
ないで,その後の上記出願日中に,優先権主張に必要な事項を追加した手続補正を
し,さらに後日,適法な優先権主張があることを前提とした優先権証明書の提出書
を提出したのに対し,特許庁長官が控訴人に対し,上記手続補正及び同優先権証明
書の提出書に係る各手続をいずれも却下する処分(以下「本件各処分」という。)
をしたため,控訴人が被控訴人に対し,上記手続補正を却下した処分には意匠法1
5条1項で準用される特許法43条1項の解釈・適用を誤った違法があり,この違
法な却下処分の存在を前提とした上記優先権証明書の提出書を却下した処分には意
匠法60条の3の適用を誤った違法がそれぞれあると主張して,本件各処分の取消
しを求める事案である。
原審は,本件各処分には,意匠法15条1項で準用される特許法43条1項及び
意匠法60条の3の解釈・適用を誤った違法がないとして,控訴人の請求をいずれ
も棄却した。
そこで,これを不服とした控訴人は,原判決を取り消し,本件各処分をいずれも
取り消す旨の判決を求めて本件控訴を提起した。
2前提となる事実及び規定,争点及び争点に関する当事者の主張
本件の前提となる事実及び規定,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のと
おり,原判決を訂正し,後記3及び4に当審における当事者の主張を付加するほか,
原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1前提となる事実及び
規定」,「2争点」及び「第3争点に関する当事者の主張」(以上,原判決2
頁12行∼19頁18行)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決6頁1行目の「(顕著な事実)」を削る。
(2)原判決11頁13行目の「などとの」を「などの」に改める。
(3)原判決15頁9行目の「意匠法施行法」を「意匠法施行規則」と改める。
(4)原判決15頁22行目の「意匠法15条1」を「意匠法15条1項」と改
める。
(5)原判決16頁11行目の「生じることなる」を「生じることとなる」と改
める。
(6)原判決21頁4行目「生じていない」を「生じない」と,同頁11行目の
「原告による出願」を「本件出願」とそれぞれ改める。
(7)原判決23頁6行目の「同一発明」を「同一意匠」と改める。
3当審における控訴人の主張
原判決は,特許法43条1項の「同時に」の意義について,言葉の通常の用法に
おいて「同一日に」とは異なる意味であり,当該文言を「同一日に」と解釈するこ
とは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないと判断してい
るが,上記判断は,以下に述べるとおり,パリ条約4条D(1),意匠法15条1項
で準用される特許法43条1項,特許法60条の3の解釈・適用を誤ったものであ
る。
(1)特許法43条1項の「同時に」の意味
ア目的的かつ合理的解釈の必要
原判決は,「同時に」という文言を「同一日に」と解釈することは,そのように
解すべき特別の事情が認められない限り許されないと判示するが,法律上の文言の
解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠し,かつ,
由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合理的に解釈されるべき
である。
もともと,「同時に」という文言は,その用法によっては,「・・・したあとす
ぐに」「・・・やいなや」という時間的間隙を認める意味をも有するのであるから,
原判決のように,「同時に」という文言を「同一日に」と解釈するのに特別の事情
を要すると解しなければならない理由はない。
特許法43条1項は,パリ条約,特に同条約4条D(1)に由来する立法過程を持
つ極めて特徴的条文であって,パリ条約4条D(1)の正確な理解とともに,現在の
特許及び意匠の出願実務における第三者への具体的不利益性の有無の観点から合理
的に解釈するべきであり,原判決の上記判示は,緻密な個別条項解釈の作業努力を
放棄した文言解釈というほかなく,合理性を欠く不当なものである。
イパリ条約4条D(1)の「moment」の意味
特許法43条1項が依拠するパリ条約4条D(1)は,「Chaquepaysdéterminer
aàquelmoment,auplustard」(日本語訳:各同盟国は,おそくともいつまで
にこの申立てをしなければならないかを定めるものとする。)と定めているが,こ
の「moment」は,必ずしもある特定の瞬間である一時点のみを意味するものではな
く,「必ずしも短くない,時,時期,期間」としての「一定の継続期間」の意味を
も有するものである(甲20)。
パリ条約制定に際して想定されていたのは,この「必ずしも短くない,時,時期,
期間」であり,だからこそ,パリ条約の公定英語訳(甲16)も,かかる趣旨を反
映してパリ条約4条D(1)の上記部分につき,「Eachcountryshalldetermineth
elatestdateonwhichsuchdeclarationmustbemade.」として優先権主張の
最終日を定めるものとして「date」の文言を使い,公定西語(スペイン語)訳(甲
17)でも,「moment」の代わりに「満期日」や「期日」の意味を含む「plazo」
が使用されたのである。
上記のとおり,特許法43条1項が依拠するパリ条約の文言「moment」が若干の
時間差を認める意味を元々有し,かつパリ条約制定時において「moment」の文言が
「必ずしも短くない,時,時期,期間」を意味していたと解される以上,同様に,
特許法43条1項の「同時に」も,例えば「同じ時期に」「同一日に」など一定の
継続期間としての「幅」を包含する意味を有するものと解するのがパリ条約に忠実
な解釈というべきである。
ウ「同時に」の規定の趣旨
特許法43条1項が「同時に」と規定した趣旨は,①権利関係の安定と②先願主
義との関係の点にあるところ,出願時刻後の優先権の主張であっても,それが同日
中に,すなわち出願日の24時までにされている限り,権利関係は即日確定するこ
とから,出願と優先権の主張が同じ時刻にされた場合と比較しても,権利関係が不
安定となるとは言えず,また,日単位で判断されている先後願の判断にも全く影響
を与えず(意匠法9条),先願主義と矛盾する事態は発生しない。
にもかかわらず,「同時に」という文言を「まさにその時刻に」という意味に限
定し,意匠出願と同日中の優先権の主張を認めないことは,特許法43条1項がパ
リ条約に由来する点を無視し,法律の趣旨を超えた過剰な規制を帰結する解釈と言
わざるを得ない。
そして,上記イのとおり,特許法43条1項の「同時に」の文言は「幅」を有す
る概念であると解釈すべきところ,パリ条約4条D(1)の「moment」の文言が日単
位,特に暦日で理解されている(甲22)こと,特許法43条1項は「日」単位の
先願主義を前提にした国内法の手続であること,一般的用語としての「幅」の限界
としても,出願日と優先権の主張日が暦日として異なる場合であっても「同時に」
とすることは社会通念上の用語の使用と乖離を生じることから,優先権主張行為の
時間的「幅」は出願日の暦日内のものである限りにおいてのみ許容されると解すべ
きである。
以上より,特許法43条1項の「同時に」とは,「同一日に」までを含む趣旨と
解されるべきであり,かかる点を看過した原判決には取り消されるべき違法がある。
エオンライン出願の実務
特許法43条1項の「同時に」の概念が「幅」を持たないと解釈すると,現在の
特許庁のオンライン出願実務では,全ての優先権主張が無効となりかねない。
すなわち,オンライン出願は,願書,特許請求の範囲,明細書,図面及び要約書
をインターネット回線等を介して特許庁に送信し,出願を行うものである。そして,
出願行為は,デジタル化された一文字,一文字を順に願書の最初の文字から要約書
の最後の文字までの全ての記載を送信し,送信が完了して初めて出願行為も完了す
るのであり,仮に特許庁側のサーバー事情等の原因で通信が切断されるなどし,送
信完了まで数時間が経過したとしても,要約書の最終文字の送信及びその到達した
時点で出願行為が完了するのである。
一方,優先権主張は「願書」中に記載して行うものであり,理論上は出願行為と
は独立した行為であるから,当該優先権主張記載部分の文字の送信完了により完結
する。
このように,オンライン出願においては,理論上及び制度上,優先権主張完了後,
時間的間隔をおいて出願行為が完了するのであり,特許庁実務においては,かかる
時間的間隔が存在しても優先権主張が「同時に」されたものと扱っているのである
から,かかる点からも「同時に」という用語は「幅」を有する概念と解釈すべきで
ある。
(2)第三者の被る不利益の有無
原判決は,優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発
明の出願を完了した第三者が優先順位が覆ることとなる不利益を被り,また,当該
出願の後,同一日中に当該優先権主張の手続がされる前に出願した第三者も不利益
を被り,その不利益は到底看過し得るようなものではないと判示するが,以下に述
べるとおり,「同時に」を「同一日に」と解することによって第三者が予測不可能
な不利益を被ることはおよそ考えられないから,「同時に」を「まさにその時刻
に」と限定的に解する理由はない。
ア優先権基準時後の日で出願より前の日の第三者の不利益の有無
原判決は,優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発
明の出願を完了した第三者(以下「先出願第三者」という。)は,出願と「同時
に」されなかった優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱われることによって,
優先順位が覆るという不利益を被ると判示する。
しかしながら,パリ条約に基づく優先権主張制度は,第1国における出願により
観念的かつ潜在的に優先権を生じさせるものであって,先出願第三者にとっては,
爾後の第2国出願及び現実的効力を生じさせる優先権主張行為制度の存在自体が不
利益なのであり,原判決の判示する先出願第三者の優先順位が覆るという不利益は,
特許法43条1項の「同時に」が「幅」を有する概念であると解釈する結果として
新たに生じる不利益ではない。また,先出願第三者は,爾後の優先権主張手続が偶
々不備となることを期待して出願をしているものではなく,先出願第三者の出願人
として地位への期待権は,上記解釈によって何ら害されるものではない。
イ出願後,同一日中に優先権主張の手続がされる前に出願した第三者の不利益
の有無
(ア)原判決は,優先権を主張しようとした出願人の出願の後,同日中に当該優
先権主張の手続がされる前に出願した第三者(以下「同日出願第三者」という。)
も,出願と「同時に」されなかった優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱わ
れることによって,同日出願人の地位が失われることになる不利益を被ると判示す
る。
しかしながら,意匠法9条2項によれば,複数の意匠登録出願が同一日中に存在
した場合,出願の先後如何にかかわらず,協議が成立しない限り,実質審査がされ
ることなく「意匠登録を受けることができない」のであるから,優先権を主張しよ
うとした出願人が出願の日と同一日中に優先権の主張を行う限り,同日出願第三者
は,もともと意匠登録を受ける地位を有していない。
したがって,同日出願第三者は,特許法43条1項の「同時に」の解釈において,
控訴人の主張するように「幅」を持たせる解釈を採用した結果として不利益が生じ
ることはなく,そもそも,協議が成立しない限り意匠登録を受けることができない,
という地位に何ら変動はない。
(イ)また,パリ条約4条の優先権主張は,出願日それ自体を遡らせる効果まで
有するものではないから(甲23),優先権を主張しようとした出願人が出願の日
と同一日中に優先権の主張を行う場合であっても,出願日が遡ることによって同日
出願第三者の出願が「後願」とみなされて拒絶されるわけではなく,協議を行うこ
ととなるはずであり,同日出願第三者は「協議成立により意匠登録を受け得る地
位」を失うものではない。
(3)特例法施行規則14条に照らしても,以下のとおり,上記「同一日」と解
すべきであることは明白である。
(ア)特例法3条1項の文言
特例法3条1項は,「手続をする者は,経済産業大臣,特許庁長官,審判長又は
審査官に対する特許等関係法令の規定による手続であって経済産業省令で定めるも
の(「特定手続」特例法施行規則10条各号参照)については,経済産業省令で定
めるところにより,電子情報処理組織を利用して行うことができる。」と定め,第
2項では,「前項の規定により行われた特定手続は,前条第1項の電子計算機に供
えられたファイル(第5条第3項を除き,以下単に「ファイル」という。)への記
録がされたときに特許庁に到達したものとみなす」とし,第3項では,「第1項の
規定により行われた特定手続については,当該特定手続を書面に提出により行うも
のとして規定した特許等関係法令の規定に規定する書面の提出により行われたもの
とみなして,特許等関係法令の規定を適用する。」と定めている。
(イ)特例法施行規則14条の文言
特例法3条1項に基づく省令委任をうけ,特例法施行規則14条1項は,「特許
等関係法令の規定により同時にしなければならないとされている二の手続を電子情
報処理組織を使用して行うときは,当該二の手続については連続して入力を行わな
ければならない。」と,同条2項は,「特許等関係法令の規定により同時にしなけ
ればならないとされている二の手続のうち一の手続を電子情報処理組織を使用して
行い,他の手続等を書面の提出により行うときは,当該二の手続については同日に
しなければならない。」と規定している。
上記2項は,特許等関係法令の規定上,「同時」に行うとされている二の手続に
おいて,「電子情報処理」と「書面」で行う場合には,当該二の手続において時的
間隙が存在し得ることを前提にしているものであると同時に,その時的間隙の上限
は暦日としての「同日中」であることを意味することになる。
そして,特例法3条3項と特例法施行規則14条2項の双方を合わせて理解すれ
ば,二つの手続を書面の提出(一つは「みなされる」であるが)で行ったことと法
的に同視する,という趣旨と考えられる。特例法施行規則14条2項において「同
日」に行うことをあえて採択し規定したとすれば,立法者は,「同時」を「同一日
中」として取り扱っても第三者の利益を侵害するなどの実務上の不都合はないもの
と判断していたものと理解される。
とすれば,特定手続の一つ(特例法施行規則1条1項)である特許法43条1項
(もちろん特例法成立前から存在する。)においても,同項の「同時」という特許
法上の概念を「同一日」と理解することにおいて第三者の利益を侵害するなどの実
務上の不都合はないものと立法者は理解していたものと思料される。
(ウ)特許法,特例法及び特例法施行規則14条2項の関係
(a)被控訴人は,特許法43条1項に定める「同時に」とは,電子情報処理組
織を使用する場合,「願書に所定の事項を記録することにより意匠登録出願と同時
に(優先権主張)書面が提出されたこととなる」と主張するところ,かかる主張を
前提とした場合には,特許法43条1項,特例法3条及び特例法施行規則14条2
項の規定の整合性が全く説明できない。すなわち,上記主張を前提とすると,明ら
かに時的間隙を認めている特例法施行規則14条が特許法43条1項の文言と矛盾
しないとするためには,特例法は特許法43条1項の「同時に」を実体法的に拡張
することを定めた法律であって,かかる実体法としての変更権限に基づき,その範
囲内で委任規定(第3条)を明示し,当該委任に基づき特例法施行規則14条2項
において「同日」にとの文言として範囲を拡大した規定であると解さざるを得ない
ことになる。
(b)特例法の立法趣旨及び経済産業省令への委任事項の範囲
特例法が定められた趣旨は,出願から審査・審判・登録等の過程を総合的にコ
ンピュータ化するペーパーレス計画のうち法的手当が必要な項目について所要の措
置を講ずるものである。ペーパーレス計画の目的は,①工業所有権の審査期間の短
縮,工業所有権情報サービスの拡充,②事務処理の効率化及び③国際的な工業所有
権情報交換等の協力の推進にそれぞれ集約されるところ,ペーパーレス計画に伴う
法的措置については,昭和63年5月から工業所有権審議会において慎重な審議が
重ねられた結果,平成2年2月28日に「電子情報処理組織の利用などに伴う特許
等制度のあり方に関する答申」が提出され,この答申に基づく法律案が内閣法制局
の審査を経て作成されて成立し,同年6月13日に公布された(平成2年6月13
日法律第30号)。特例法施行規則については,特例法の制定をうけ,同年9月1
2日に制定された。このような工業所有権の審査期間の短縮,工業所有権情報サー
ビスの拡充,事務処理の効率化,国際的工業所有権情報交換等の協力推進などとい
う「技術的」目的と当該文言自体を素直に読めば,特例法3条を含めて特例法は,
特例法制定前から存在する特許法等の既存の法律の枠組みの中で,事務処理の効率
化を図るという技術的かつ手続的観点から「手続事項」を省令に委任しているのみ
と理解され,決して既存の特許法上の権利を制限し義務を課すような実体的事項ま
で委任している規定ではないものと思料される。
被控訴人の主張は,特例法が,単なる「手続事項」を超えて,特許法43条1項
の「同時に」の意味を「同日に」にと実質的に拡大変更するような規定(被控訴人
の主張を前提にすれば第三者の権利を不安定にするような規定)を省令に委任して
いるということにならざるを得ないが,上記審議会での立法過程,立法趣旨及び規
定文言からは到底解されないし,「同時に」を「同日に」と拡張しなければ特例法
の眼目の1つであるオンライン手続の導入それ自体が不可能ないし阻害されるとも
到底思われない。
また,仮に被控訴人の主張及び原判決のとおり「同時に」の解釈において,時的
間隙を認めると第三者が多大な不利益を被ることを主たる根拠として「同時に」を
「同一日」と解することはできないとした場合には,何故,優先権を主張しようと
する出願者が偶々オンライン出願を利用する場合に限って,当該出願者と「同日」
に出願した第三者が不利益を甘受しなければならないのかの合理的説明が全くつか
ない。
むしろ,もともと特許法43条1項の「同時に」とは,「同時に」と定めた趣旨
(権利関係の安定,先願主義)に反しない限りにおいて時的間隙を認める趣旨であ
って,特例法もそのように解した上で,同様にオンライン手続においても「同時
に」に時的間隙を認め,その時的間隙の限界を踏まえてそのまま省令に委任されて
いると解するのが素直であり,自然な解釈である。
(エ)よって,意匠法15条1項により準用される特許法43条1項に規定する
「同時に」との文言が,そもそも「同一日に」と解することが前提であるがゆえに,
特例法施行規則14条2項も「同日」と規定していたものであり,同条項は控訴人
の主張を明らかに裏付けるものと言える。
4被控訴人の反論
(1)意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」についての原判決
の解釈は正当であり,この点に関する控訴人の主張は理由がない。
(2)特例法施行規則14条について
ア特例法施行規則の制定について
特例法施行規則14条は,特許法施行規則が郵便を使用する方法あるいは特許
庁窓口に直接提出する方法による書面提出を規定している場合について,二つの手
続のうち一つの手続を電子情報処理組織を使用して行い,他の手続を書面の提出に
より行う場合について規定したものである。
(ア)特許法及び同法施行規則は,郵便による手続を前提として規定されたもので
あり,特許法及び同法施行規則が「同時に」行わなければならない旨規定する手続
(同法施行規則30条,特許法30条4項,同法41条4項,同法43条1項)は,
いずれも各手続書類が同一の郵便物に同封されて提出されることが前提となってい
たのである。
(イ)これに対し,電子情報処理組織を使用する方法により手続を行う場合,送信
する手続が複数あると,各手続ごとに特許庁のコンピューター内のファイルに記録
された時点で受理されたことになることから,電子出願受付が開始された平成2年
12月当時,システムの都合上,郵便による手続のように物理的に同時に到達する
ことが事実上不可能であった。そこで,電子情報処理組織による手続の普及を図る
措置が必要となったため,特例法施行規則14条1項により,二つの特定手続のう
ち一つの手続を電子情報処理組織を使用して行う場合で当該各手続内容が確定(手
続書面の作成が完了)した後に上記書面の情報を電子情報処理組織により送信して
手続を行う場合,システム上,特許庁のコンピューター内のファイルに同時に記録
できないものでも,電子情報処理組織上「連続して入力」する方法により手続を行
うことによって特許等関係法令に規定される「同時に」とみなすこととしたのであ
る。
イ特例法施行規則14条2項を適用すべき事例
A作成の報告書(乙第6号証)記載のとおり,特例法施行規則14条2項が適用
されるのは,特許法施行規則30条に規定されている出願の分割と同時にするもと
の出願の補正手続のみである。
(ア)特許法44条1項は「特許出願人は,次に掲げる場合に限り,二以上の発
明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。
1号願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることが
できる期間内にするとき」と規定し,特許法施行規則30条は「特許法第44条第
1項第1号の規定により新たな特許出願をしようとする場合において,もとの特許
出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を補正する必要があるとき
は,もとの特許出願の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の補正は,
あらたな特許出願と同時にしなければならない。」と規定している。すなわち,特
許法44条は,特許出願の分割出願が例外的に認められる場合を限定列挙した特則
であり,同条1項1号はその一つである補正ができる期間内に分割出願ができるこ
とについて規定し,同法施行規則30条により,もとの特許出願に係る補正を行う
ときは,その補正は,分割出願と「同時に」しなければならないものとされている
のである。
(イ)同法施行規則30条に規定されている「同時に」は,特許法及び同法施行
規則が前提とする書面による手続では,郵送による方法あるいは特許庁の窓口に直
接提出する方法により書面を提出することになるので何ら問題が生じない。
しかしながら,平成2年12月の電子出願受付開始当時,上記分割出願は電子情
報処理組織を使用して行う特定手続となったものの,分割出願のもとの特許出願に
係る補正は特定手続の対象とはなっておらず,書面に限定された手続であった。
このため,電子情報処理組織を使用して行う分割出願と書面により行う特許出願
に係る補正とを「同時に」行うことは物理的に不可能であるため,このような不都
合を是正する措置が必要となり,特例法施行規則14条2項を規定したのである。
(ウ)特例法施行規則は,二つの手続のうち一つの手続を電子情報処理組織を使
用して行い,他の手続を書面の提出により行う場合についての特例を規定したもの
であるから,特許等関係法令(この場合は特許法施行規則を指す。)において,書
面による手続を前提として「同時に」と規定したものを,電子情報処理組織と書面
とを併用する手続についてのみ「同日に」と規定することは特則として何ら問題は
ないし,これにより,特許法が規定する「同時に」を一律的に「同日に」と解釈す
ることにはならない。
なお,特許法が「同時に」と規定しているのに対して,特例法施行規則により
「同日に」と規定することができるのかが問題となり得る。
しかしながら,①特例法1条は「この法律は,電子情報処理組織の使用等により,
工業所有権に関する手続の円滑な処理及び工業所有権に関する情報の利用の促進を
図るため,特許法,実用新案法,意匠法,商標法及び特許協力条約に基づく国際出
願等に関する法律の特例を定めるものとする。」と規定し,特例法施行規則は,特
例法及び特例法施行令により委任された事項を定めるとともに同法及び同施行令を
実施するために制定されたものである(特例法施行規則制定文参照)と規定してい
るところ,特許法に「同時に」と規定された事項についての「特例」を特例法施行
規則により規定することを特例法は認めているものと解される。また,②上記した
とおり,そもそも,特例法施行規則14条が規定された趣旨は,二つの手続のうち
一つの手続を電子情報処理組織を使用して行い,他の手続を書面の提出により行う
場合,同時に行うことが物理的に不可能であったため,このような事態を是正する
ための救済措置を講ずる必要があったという点にあるのであって,特例法は,その
ような救済措置を講ずるための規定を特例法施行規則により規定することを許容し
ているものと解されることからすると,飽くまでも,上記のような救済措置を講ず
る必要がある場合に限って「同時に」を「同日に」と解釈し得ることを認めたもの
と解される。そして,③特例法施行規則14条の制定経緯(乙第6号証3,4ペー
ジ)をも考え合わせると,特例法が,特許法に「同時に」と規定されている事項を
一律的に「同日に」と解することを認めたものではないと解するのが相当である。
ウ特例法施行規則14条2項は特許法43条1項の優先権主張手続には適用さ
れないこと
(ア)本件出願手続と優先権主張の手続は,特許法43条1項が同時にしなけれ
ばならない旨規定している二つの手続であるが,これらの手続はいずれも同一の事
件手続に係るものであり,優先権主張の手続は,出願を電子情報処理組織により行
う場合,当該出願の願書に優先権を主張する旨を記録することにより実現されるも
のである。
(イ)特例法施行規則12条は「電子情報処理組織を使用して又は第25条の規
定による磁気ディスクの提出により特定手続を行う者は,次の表の上覧に掲げる手
続の区分に応じ,同表の中欄に掲げる書面の提出に代えて,特許出願,実用新案登
録出願,意匠登録出願,商標登録出願若しくは防護標章登録出願の願書又は登録料
納付書に同表の下欄に掲げる記載事項その他必要な事項を記載しなければならな
い。」とし,願書に特許法43条1項に規定する優先権を主張しようとする旨を記
載しなければならない旨規定している。
これは,電子情報処理組織を使用して優先権の主張を行う場合,何人がみても
「出願と同時に」に疑義が生じることがないように,同一事件に係る手続であるこ
とから当該出願の願書に優先権を主張しようとする旨を記載することによって「出
願と同時に」を担保することとしたものである。
(ウ)これに対して,本件出願手続を電子情報処理組織を使用して行う場合にお
いては,優先権主張のみを書面で行おうとしても書式自体規定されておらず,優先
権主張のみを書面で提出する手続自体予定されていないことは明らかである。
エ以上のとおりであって,本件出願手続を電子情報処理組織によって行う場合,
優先権を主張しようとする手続については特例法施行規則12条が適用されるので
あり,特例法施行規則14条2項が適用される余地はないのである。
オ以上のとおり,特例法施行規則14条は,本件出願手続に適用されないと解
するのが相当であるところ,本件出願手続については,特例法施行規則12条が適
用され,出願から2時間17分後に手続補正書により行われた本件出願の優先権主
張手続は,特許法43条1項に規定する「特許出願と同時」に行われたものではな
いことは明らかである。
したがって,本件出願手続は優先権主張が特許出願と「同時に」行われたもので
はなく,適法な手続ではないから,パリ条約による優先権等の主張欄を追加する補
正手続を認められないことを理由として行った本件補正書の却下処分は適法である。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の
「事実及び理由」欄の「第4当裁判所の判断」(原判決19頁19行∼24頁2
2行)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における控訴人の主張に対する判断
(1)特許法43条1項の「同時に」の解釈について
ア控訴人は,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された
趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的
かつ合理的に解釈されるべきであり,原判決が,特別の事情が認められない限り,
「同時に」という文言を「同一日に」と解釈することは許されないとしたことは,
緻密な個別条項解釈の作業努力を放棄した文言解釈というほかなく,合理性を欠く
不当なものであると主張する。
しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(21頁24行目から22頁
6行目まで),言葉の通常の意味として「同時に」と「同日に」は時間的接着の程
度において明らかに異なる概念として理解されていること,両語が有するかかる通
常の意味を踏まえて意匠法等において「同時に」と「同日に」とを使い分けて使用
していることからすれば,特許法43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈す
ることは,そのように解すべき特別の事情が認められない限り許されないというべ
きである。
確かに,法律上の文言の解釈は,その法律における当該条文が制定された趣旨,
当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の文言の持つ意味から,目的的かつ合
理的に解釈されるべきであるとする控訴人主張は,一般的な法律解釈の方法として
それ自体否定されるものではないが,特許法43条1項のような国民に一定の行為
の履践を求める手続に関する規定においては,手続を利用する一般国民が言葉の通
常の意味により理解することができることが特に強く要請されるのであり,言葉の
通常の意味ないしは用法において「同時に」と「同日に」とは明らかに意味が異な
るものとして理解されていること,立法者は,正に控訴人主張に係る「その法律に
おける当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来としている条約等の
文言の持つ意味」をも考慮した上で法律の条項における文言を定め,意匠法等にお
いて文言上「同時に」と「同日に」とを使い分けているのであるから,控訴人主張
に係る「その法律における当該条文が制定された趣旨,当該法律の依拠しかつ由来
としている条約等の文言の持つ意味」は法律の条項における文言の選択において既
に考慮済みであるといえること等に鑑みれば,特許法43条1項の「同時に」を
「同一日に」と解釈することは,手続の利用者である一般国民の理解や立法者の意
思に反するものというべきであり,特段の事情がない限り許されないことはむしろ
当然であると言わなければならない。
したがって,控訴人の主張は採用することができない。
イ控訴人は,特許法43条1項が依拠するパリ条約の文言「moment」は若干の
時差を認める意味を元々有し,かつ,パリ条約制定時において「moment」の文言は
「必ずしも短くない,時,時期,期間」を意味していたと解されるから,特許法4
3条1項の「同時に」も,例えば「同じ時期に」「同一日に」など一定の継続期間
としての「幅」を包含する意味を有するものと解するのがパリ条約に忠実な解釈と
いうべきであると主張する。
しかしながら,引用に係る原判決の説示するとおり(22頁14行目の「しかし
ながら」から同26行目まで),パリ条約4条D(1)の条項から特許法43条1項
の「同時に」を「同一日に」と解釈すべきであるとする控訴人主張を採用すること
はできない。
確かに,パリ条約4条D(1)の英語の公定訳(甲16)ではフランス語正文の「m
oment」の語に「date」が当てられているが,フランス語の「moment」自体には,
時間ないし時期を表す用語として「日,日付」など日を単位とするような意味はな
く,より一般的に「①短い時間,瞬間,②時,時期,期間【必ずしも短くない】」
を意味する(甲20)こと,控訴人が援用する甲第21号証の1,2(知的所有権
保護合同国際事務局の元事務総長であったボーデンハウゼン教授の「注解パリ条
約」と題する著書)においても,パリ条約4条D(1)の「各同盟国は,おそくとも
いつまでにこの申立てをしなければならないかを定めるものとする。」との部分の
解釈として「すべての加盟国にとって優先の権主張〔判決注:「優先権の主張」の
誤記と認める。〕の基礎となった先の出願についての上記事項を含む申立てをすべ
き最終日を定めることは義務である。この申立を,優先権の主張をした出願をする
のと共にしなければならないと定めることもできる。」(44頁10行目ないし1
3行目)と記載され,控訴人主張とは異なり,優先権の主張をする期限を日単位で
定める必要があるとはされていないことに照らすならば,パリ条約4条D(1)の条
項が,特許法43条1項の「同時に」の意味を控訴人の主張するように日単位など
一定の時間的な幅を有するものと解釈すべきことを規定したものとは到底いえない。
したがって,控訴人の主張は採用することができない。
ウ控訴人は,特許法43条1項が「同時に」と規定した趣旨は,①権利関係の
安定と②先願主義との関係の点にあるところ,出願時刻後の優先権の主張であって
も,それが同日中にされる限り,権利関係は即日確定することから,出願と優先権
の主張が同じ時刻にされた場合と比較しても,権利関係が不安定となるとは言えず,
また,日単位で判断されている先後願の判断にも全く影響を与えず,先願主義と矛
盾する事態は発生しないと主張する。
しかしながら,特許法43条1項の「同時に」を「二つ以上のことがほとんど同
じ時に行われるさま。まさにその時。いちどきに」といった言葉の通常の意味に解
釈するとすれば,優先権主張がされたか否かは出願がされた時点で確定するのに対
し,「同時に」を「同一日に」と解釈するとすれば,出願がされた時点では優先権
主張の有無が確定しないのであるから,前者に比較して後者の場合に権利関係が不
安定となることは明らかであるし,また,後記(2)に判断するとおり,「同時に」
を言葉の通常の意味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,先後願の判断
にも影響を及ぼすから,控訴人の主張を採用することはできない。
エ控訴人は,オンライン出願においては,優先権の主張が完了した後,時間的
間隔をおいて出願行為が完了するのであり,特許庁実務においては,かかる時間的
間隔が存在しても優先権主張が「同時に」されたものと扱っているのであるから,
「同時」という用語は「幅」を有する概念と解釈すべきであると主張する。
確かに,オンライン出願により優先権の主張を行う場合には,願書に優先権の主
張に係る所定事項を記録して手続を行うのであり(特例法施行規則12条),特例
法の特定手続は,特許庁の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下「特
許庁のファイル」という。)への記録がされた時に特許庁に到達したものとみなさ
れる(特例法3条2項)ことから,出願行為が完了した時点には既に優先権の主張
の手続は完了しており,両者の間に若干の時間的間隔が存在することは,控訴人の
主張するとおりである。
しかしながら,上記の場合には,出願手続を構成する願書の特許庁のファイルへ
の記録の際に,その記録の一部として優先権の主張に係る所定事項が記録されるの
であり,出願手続の開始時刻から終了時刻までの間に優先権の主張手続が行われて
いるのであるから,両者の開始時刻及び終了時刻が異なるとしても,両者の時間的
関係の表現として,言葉の通常の意味において「同時に(行われた)」と表現して
何ら差し支えがないものである。
したがって,控訴人主張に係るオンライン出願における特許庁の取扱いは特許法
43条1項の「同時に」を「同一日に」と解釈する根拠とはなり得ず,控訴人の主
張を採用することはできない。
(2)第三者の被る不利益について
ア控訴人は,先出願第三者の優先順位が覆るという不利益は,特許法43条1
項の「同時に」が幅を有する概念であると解釈する結果として生ずる不利益ではな
く,先出願第三者は,出願と「同時に」されなかった優先権主張の手続が事後的に
適法な手続と扱われることにより,不利益を被ることはないと主張する。
しかしながら,本件のように,出願と「同時に」優先権主張の手続がされなかっ
た場合に,特許法43条1項の「同時に」を言葉の通常の意味に解釈するとすれば,
同一日にされた優先権主張の手続が適法な手続と扱われることはないのであるから,
先出願第三者は先願者の地位を有するのに対し,「同時に」を「同一日に」と解釈
するとすれば,同一日にされた優先権主張の手続が適法な手続と扱われ,先出願第
三者は先願者の地位を失うこととなるのであるから,「同時に」を言葉の通常の意
味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,先出願第三者の先願者の地位に
影響を及ぼすことは明らかであり,後者の解釈を採ることにより,先出願第三者が,
優先順位が覆るという不利益を被ることは明らかである。
イまた,控訴人は,同日出願第三者についても,出願と「同時に」されなかっ
た優先権主張の手続が事後的に適法な手続と扱われることにより,不利益を被るこ
とはないと主張する。
しかしながら,上記アで説示したのと同様の理由から,「同時に」を言葉の通常
の意味に解釈するか「同一日に」と解釈するかにより,同日出願第三者の同日出願
人の地位(協議成立により特許を受け得る地位)に影響を及ぼすことは明らかであ
り,後者の解釈を採ることにより,同日出願第三者が,同日出願人の地位を失うと
いう不利益を被ることは明らかである。
なお,この点について,控訴人は,パリ条約4条の優先権主張は,出願日それ自
体を遡らせる効果まで有するものではないから,出願の日と同一日中の優先権主張
を認めても,出願日が遡ることによって同日出願第三者が同日出願人の地位を失う
ことはないと主張する。しかしながら,優先権主張の効果が出願日を遡及させる効
果を有しないとしても,パリ条約4条の解釈として,優先権主張を伴う出願は,特
許法39条2項の適用の関係においては,最初の出願の出願日(優先権主張日)に
されたものと取り扱われるのであって,優先権主張が認められれば,同日出願第三
者が同日出願人の地位を失うことは明らかであるから,控訴人の上記主張は失当で
ある。
(3)特例法施行規則14条に基づく主張について
控訴人は,特例法施行規則14条を根拠に意匠法15条が準用する特許法4
3条1項の「同時に」は「同一日に」を解釈すべきである旨主張するので以下検討
する。
特例法施行規則は,それまで書面で行われていた特許等関係法令の規定による手
続を電子情報処理組織を使用して行う(以下「オンライン手続」という。)ことを
可能にするための特例法の施行細則を定めるものであるところ,乙第6号証によれ
ば,その立法過程において以下のような検討がされ,特例法施行規則12条及び1
4条が制定されたものと認めることができる。
特例法の立法当時,特許等関係法令上「同時に」に行うものと規定されていた手
続は,①出願審査の請求と同時にする手続の補正(特許法17条の2第1号,但し,
平成6年法律第116号により削除された。),②出願の分割と同時にする手続の
補正(特許法44条1項1号,特許法施行規則30条),③新規性喪失の例外の規
定の適用を受けたい旨を記載した書面の提出,④国内優先権主張の手続(特許法4
2条の2第4項,なお法改正に伴い現在は特許法41条4項),⑤パリ条約に基づ
く優先権主張の手続(同法43条1項)及び⑥補正却下後の新出願の規定の適用を
受けたい旨の書面の提出(昭和60年改正前特許法53条6項,4項)の各場合が
あったところ,③ないし⑥の各手続については,「同時に」の通常の意味及びいず
れの場合も願書等の上にその旨を記載することによりその手続を省略することがで
きるものとされていたことを勘案し,特例法施行規則12条においてオンライン手
続による願書等の中にその旨を記録することにより行うものと定めた。これに対し,
①については出願審査請求書及び手続補正書,②については出願ともとの特許出願
手続の手続補正書の2つの書面の同時提出がそれぞれ必要になるところ,複数の送
信を同時に受信できない,すなわち時間的に「同時に」を実現できないという特例
法の立法当時の技術的制約の中で,上記の2つの手続を「同時に(行った)」もの
とするための法的手当てが必要になり,さらに,オンライン手続と従来の書面提出
等による手続が併存し得る事態に対する法的手当てが必要となり,これらの事態に
対処するために特例法施行規則14条が制定され,その1項において「当該二の手
続については連続して入力を行わなければならない」とし,その2項において「二
の手続のうちの一の手続を電子情報処理組織を使用して行い,他の手続を書面の提
出により行うときは,当該二の手続については同日にしなければならない」とされ
た。
以上によれば,本件においては前記第2の1に記載したようにパリ条約に基づく
優先権主張の手続をオンライン手続により行う場合であるから,特例法施行規則1
2条により意匠登録出願の願書中にその旨を記録して行う必要があるところ,控訴
人はオンライン手続で送信した願書中にその旨の記録をすることなく,その約2時
間後にオンライン手続で上記出願につきパリ条約に基づく優先権の主張をする旨の
送信を行ったことは当事者間に争いがないところであるから,かかる手続が特例法
施行規則12条に違反することは明らかである。
控訴人は,意匠法15条が準用する特許法43条1項の「同時に」が「同一日
に」を含むものと解釈し得る根拠として特例法施行規則14条を援用するのでこの
点を検討するに,確かに同条項は前述した②の場合について特許法施行規則30条
が規定する「同時に」を「同一日に」と手続を行い得る時間的範囲を拡張したもの
であるが,これは前述したオンライン手続で送信された情報を同時受信できないと
いう特例法制定当時の技術的制約及びオンライン手続と書面提出手続の併存という
2つの手続を「同時に(行う)」といういずれも特許法等の要請の実現を困難なら
しめる例外的事情の存在に基づくものであるから,かかる事態はオンライン手続の
導入,すなわち特例法の立法に際して当然に予想された事態であり,上記事態に対
処する限度における立法的措置はその委任の範囲内にあるものというべきであると
ころ,特例法施行規則14条は,その規定内容に照らすと,上記事態に対処するた
めに「同時に」の時間範囲を必要最小限度の範囲内に留めた合理的な立法的措置と
いうことができ,これが特例法の委任の範囲内にあることは明らかというべきであ
る。そして,既に説示したとおり,国民に履践を求める手続規定においては,特段
の事情がない限り,言葉の通常の意味において解釈されるべきところ,「同時に」
とは「二つ以上のことがほとんど同じ時に行われるさま。まさにその時。いちどき
に」といった意味であり,より長い時間的範囲を意味する「同一日に」とは区別し
て理解されるのが通常であるから,上記のような例外的事態に対処するための特例
法施行規則14条を根拠に,これを例外的事情のない上記の③ないし⑥のような場
合においても上記の通常の意味を超えて「同一日に」と拡大して解釈することが相
当でないことは明らかというべきである。
したがって,特例法施行規則14条を根拠とする控訴人の主張を採用することは
できない。
3結論
以上の次第で,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由
がないから,これを棄却することとする。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
浅井憲
裁判官榎戸道也は,都合により,署名押印することができない。
裁判長裁判官
田中信義

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