弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人岡本尚一の上告趣意は末尾に添えた書面記載のとおりである。
 論旨第一点について。
 原判決は被告人の原審公判廷における自白によつて判示事実を認定しているが、
原審公判調書によれば、判示のような自白があるから、所論のように虚無の証拠に
よつて事実を認定した違法はない。なお、所論は右被告人の公判廷の自白は具体性
のない供述であるから、これを証拠とすることは違法であると言つているが、原審
裁判長は公判廷において犯罪事実の詳細については、被告人に対する司法警察官お
よび検事の各聴取書や犯罪事実一覧表を読聞けて具体的に訊問しており、被告人は
その訊問に対して其の通り相違ないと述べているのであるから、具体性のない供述
ともいわれない。されば、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原審がその公判廷における被告人の自白のみによつて犯罪事実を認定しても違法
ではなく、かかる当該裁判所の公判廷の自白は憲法第三八条第三項、並びに刑訴応
急措置法第一〇条第三項にいわゆる「本人の自白」にあたらないことは、当裁判所
の判例とするところである(昭和二三年(れ)第一六八号同年七月二九日大法廷判
決)。それゆえ、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 原審公判調書によると、原審裁判長は被告人に対し被告人の犯罪事実の詳細につ
いて、司法警察官および検事作成の各聴取書と共に、被告人作成の犯罪事実一覧表
を各読聞け且つ解示したと記されていること所論のとおりである。しかし、右犯罪
事実一覧表の下には「記録一四丁」ということが記載されており、記録一四丁の犯
罪事実一覧表をみると、右は巡査A作成にかかるものであつて、また他に犯罪事実
一覧表なるものがないのであるから、右公判調書にこれを被告人作成と書いてある
ことは明らかな誤記であり、右一覧表は巡査A作成にかかるものを指すこと明白で
ある。そして、原審公判調書にかかる誤記があるからといつて、直ちに所論のよう
に原審裁判官の心証の構成に瑕疵があると断ずることはできないのであるから論旨
は理由がない。
 同第四、五点について、
 論旨は、原審の事実誤認および量刑不当を主張するものであつて、いずれも適法
な上告理由となりえない。
 よつて本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決
する。
 以上は、公判廷の自白に関し裁判官井上登に反対意見ある外、全裁判官の一致し
た意見によるものであつて、裁判官井上登の反対意見は昭和二三年(れ)第一六八
号同年七月二九日大法廷判決記載のとおりである。
 検察官 十藏寺宗雄関与
  昭和二六年二月二七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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