弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主      文
 被告人は無罪。
理      由
1 本件公訴事実の要旨は,「被告人及び分離前の相被告人A,同B,同C,同
Dの5名は,暴力団E組員であるが,以前の喧嘩がもとで別の暴力団F組員か
ら,E事務所付近路上で,クラクションを鳴らしながら車両を走行されるなど
の挑発行為をされたことなどに憤激し,その報復のため,共同して,F組員ら
の生命,身体等に危害を加える目的で,平成12年8月7日午後9時ころ,秋
田市ab丁目c番d号株式会社G店駐車場に,木刀3本,鉄パイプ4本等の凶
器の準備があることを知って集合した」というものである。
これに対して,被告人及び弁護人は被告人が当該日時に当該場所より若干離
れた場所に集合したことは認めるも,凶器が準備されていることの認識はなか
ったと無罪を主張している。
2 前記の分離前の相被告人ら及び同組組員のH(以下「Aら」と略称する)ら
が,本件公訴事実どおりの凶器準備集合の犯行を犯したことは同人らの認める
ところであり,本件証拠上明らかである。その経緯は,本件証拠によれば,次
のとおりである。
Aらは前記クラクションの件でFに対する憤激の情を強め,何とかしてクラ
クションを鳴らした張本人やその関係者をつきとめ,Fに詫びを入れさせなけ
ればならないと考え,その件のあった平成12年7月23日ごろから本件の8
月7日までの間,執拗に秋田市街を巡回してクラクションを鳴らした張本人や
その関係者を探索していた。
被告人はAらの上役にあたるE若頭補佐の地位にある者だが,山形県に居住し
ていて月数回事務所当番として秋田市内のE事務所に来ているにすぎなかった。
しかし,被告人は当時前記クラクションの件はAらから聞き知っており,Eと
Fとが緊張関係にあるということは認識していた。
8月7日,被告人は組当番のため秋田市内のE事務所に午後1時半ころ到着し,
当番の役目に就いていた。一方Aらは,この日も同様にF組員の探索に出かけ,
市内を巡回し,事務所に戻っては又出て行くということを繰り返していた。同
人らは,前日の6日クラクションを鳴らしたとみられる自動車の所有者である
F組員を見つけ,詰問したが,同人に否定され,さらに当7日には別のF組員
を捕らえて組事務所に連行しようとしたが,逃げられてしまい,焦燥感をつの
らせていた。当日は竿灯祭の最終日であり,F組員も街に繰り出すのは必至で
あり,Aらは,今夜がFに詫びを入れさせる最後の機会であるととらえ,場合
によっては暴力沙汰に及ぶことも想定し,いわゆる戦闘服を着用し,かなり興
奮状態にあった。この時既にB所有の乗用車セドリックの後部座席には同人が
主導して7月24,5日ころ集められた本件凶器がタオルに包まれ,その上に
座布団がかけられて積載されていたが,外見からはそれらしいものは見えない
ようにしてあった。
午後6時ころ,Aらは巡回から事務所に帰り,Aはその日の状況を事務所当番
の被告人に報告し,自分たちだけではF組員を発見してこれを詰問し詫びを入
れさせることは困難なので幹部組員である被告人の力を借りたい旨暗に願い出
た。これを聞いた被告人は「お前たちだけでは駄目だ。俺が行って話をつけて
やる」と答え,Aらと一緒に街に出かけることを了承した。そのため組当番を
他の組員と交代した。
午後9時ころ,被告人はBの運転する前記セドリックにAと共に乗車し,他の
C,D,Hは,Hの運転する乗用車ミューに乗車して,被告人ら6名はE事務
所を出て秋田市中心街に向かった。検察官の本件公訴事実は,この時の被告人
の出発時をとらえて,被告人が凶器が準備されているのを知って事務所のある
マンション北側のG駐車場に集合したとしている。これに対して被告人は,当
時Bの自動車に本件凶器が積載されていることを知らなかったと供述している。
3 本件凶器がAやBらによって準備された7月24,5日頃から8月6日まで
の間に被告人が本件凶器の準備状況を知るにいたったという証拠は本件におい
ては存在しない。そこで,本件当日の8月7日午後1時半ころ被告人が事務所
に到着してから,午後9時ころ,同所から出かけるまでの間の状況について検
討する。
前記のように,この間AらはF組員を探し出すため街を巡回したり,事務所
に戻って来てそこにたむろしたりするなどの行動を繰り返していたものであっ
て,被告人は事務所内に居て電話やファクス受けなど当番の仕事をしていたも
のであるが,AらはF組員を探し出す時の模様を被告人に報告するなど,両者
の間ではFの話題が出ていたことは,被告人もAらも認めるところである。し
かし,Aら5名のいずれの供述によっても,この際具体的にBの自動車に本件
凶器が積載されていることが語られたという形跡はない。たしかに,Cの検察
官調書には,被告人を交えた6人の話し合いの中で,木刀でF組員をやっつけ
るという話がなされたということが出ているが,もしこれが,Bの自動車に積
載されていた本件凶器を使用して今夜F組員を襲うという趣旨であるならば,
もっと進んで,どのような道具が準備されているのか,誰がどの道具を使うの
かなどの話し合いがなされる筈であるのに,それらのことが話された形跡がな
い。従って,前記C供述が真実だとしても,これは単なる一般的な話として誰
かが調子に乗って発言したにすぎないのではないかと推測され,これをもって,
被告人が本件凶器の準備を認識するに至ったと断定することは相当ではない。
又被告人やAらの供述によれば,事務所内においても,被告人とAらは終始同
じ部屋に居たわけではなく,被告人は電話のある部屋に,Aらはソファーやテ
レビのある部屋に居て,これらの部屋に必ずしも完全に仕切られた個室ではな
いけれども,テレビもつけ放しになっていて,必ずしも話の内容が全部筒抜け
になるということではなかったということである。さらに被告人は,自分自身
の生計上の用件(いわゆる「しのぎ」)に関し,盛んに携帯電話をかけていて,
Aらが勝手に話していることをよくは聞いていなかったと供述している。被告
人が山形登録の組員であり,月数回しか秋田の事務所に出て来ていないことか
ら,被告人とAらの間にはそれほど密着した人間関係がなかったと考えられる
ことから,前記のとおり被告人とAらが終始Fに関する話をしていたものでは
ないという被告人やAらの供述も一概には否定できないといわなければならな
い。
このようなことから,結局事務所内の状況からは,被告人が本件凶器の準備を
認識するに至ったとは断定できない。
4 そこで問題は,被告人がBの自動車に乗車する時,その後部座席に座ったか
否かである。すなわち,もし被告人が後部座席に座ったとすれば,そこにはタ
オルに包まれ,その上に薄い座布団を被せられた鉄パイプや木刀など本件凶器
が横に置かれていたのであるから,おのずから身体に対する感触から本件凶器
が認識される筈だからである。被告人は「助手席に乗った」と供述している。
Bの自動車には運転したBと,もう一人Aが乗車したわけであるが,同人らの
供述は変遷している。AとBは捜査段階では,被告人が「後部座席に乗った」
と供述しているが,法廷における証言では,Bは「どちらに乗ったか覚えてい
ない」とし,Aは「助手席に乗った」とし,その根拠に自分が後部座席が狭か
ったので被告人に助手席を少し前に引いてくれるように頼んだ記憶があると証
言している。同人らは,捜査段階の供述は,取調官から組の幹部が後部座席に
乗るのが当然ではないかとか,他の者がそう言っているなどと言われて,その
ことの重要性を認識しないまま,取調官の質問に迎合して,そのように供述し
たと証言している。写真撮影報告書(甲20)のBの自動車内の写真によると,
後部座席は助手席より狭く,かつ汚れていることが認められる。それに後部座
席は本件凶器が置かれていたから,座り心地が悪かったことは想像に難くない。
そうであるならば,被告人がいかにAらより上の地位にある者でも,AやBが
被告人に助手席を勧めること或いは被告人が自発的に助手席に乗ろうとした時
敢えて後部座席に乗るように勧めないことは十分に考えられることである。検
察官はAらが被告人の手前,又事前に組の上役から証言について注意されたこ
と等から被告人に不利なことを証言できないのであると主張する。たしかに,
そのようなことは一般的には考えられることである。しかし,A,B両証人が
そのことを否定している一方で,前記のとおり後部座席の狭さ,汚れ,座り心
地の悪さなどの事情から被告人が助手席に乗ることの合理性が認められるかぎ
り,A,Bらの法廷における証言が,同人らの供述調書より信用できるという
べきである(なお,D,Hの各供述調書の当該部分は撤回されている)。
  又Cは,DやHらと共に自分所有の自動車「ミュー」に乗車したわけであ
るが,この際,Cは自分の自動車とBの自動車がG駐車場に並んで駐車されて
いて同時に出発したので,被告人がBの自動車の後部座席に乗車したのを見た
と捜査段階では供述していたのに,法廷における証言では「見ていないからわ
からない」とし,捜査段階では取調官の皆がそう言っているからという誘導に
迎合して,そのように供述したものであると証言している。ところが,そもそ
もBの自動車がG駐車場にCの自動車と並んで駐車していたかについても疑問
がある。すなわち,被告人は捜査段階から一貫して,Bの自動車はG駐車場か
ら事務所の入っているマンションの建物をはさんで反対側つまり建物の南側に
面した路上に駐車されていたと供述しているところ,A,Bも捜査段階ではG
駐車場に駐車していたと供述していたが(なおAの警察官調書では,前記のと
おりの被告人の供述する位置に駐車していたと思うが,もしかしたらG駐車場
であったかも知れない,との供述もある),法廷ではいずれもよくわからない
と証言している。そして,Hは調書でG駐車場であったと供述しているが(D
の調書の当該部分は撤回されている),証人Iは被告人の供述どおりの位置で
あったと証言している。これらのことから,結局Bの自動車の駐車位置は判然
とせず,あるいは被告人の供述するとおりの位置に駐車していた可能性もあり,
そうなれば,Cが被告人のBの自動車における乗車位置を見るわけはないので
あるから,同人の捜査段階の供述にも疑問が残るといわなければならない。
このように見てくると,被告人がBの自動車の後部座席に乗車したとは断定
できず,それを前提として被告人が本件凶器の存在を認識していたという立論
も又否定されなければならない。
5 なお,本件公訴事実が犯行場所をG駐車場としていることから,被告人がB
の自動車に乗車する時点における行為をとらえて凶器準備集合罪を構成すると
しているものであるが,本罪が継続犯であって,凶器準備の状態がいまだ継続
しているとみられるBの自動車の走行中及び2台の自動車が停車して被告人ら
が降車した時の状況について,念のため検討する。
Bの自動車の走行中,車内において,被告人が凶器の存在を認識したという
状況は,本件証拠上存しない。ただ,自動車が秋田市ae丁目f番g号J南方
東寄りの駐車場に停車し,被告人やAら計6名が2台の自動車から降車した際,
被告人を除くAらがBの自動車に積載していた本件凶器を取り出し,その一部
を被服の下に隠して所持し,被告人を含む6名が連れ立って歩き始めたことは
本件証拠上明らかであるが,この間の状況につき,被告人は,自分は先に歩き
かけていたので,Aらが自動車から凶器を取り出して隠し持ったのを見ていな
いので当初は知らなかったが,しばらく歩いて行った後Bの衣服のふくらみか
ら何か物を所持しているのではないかと不審に思って問い質し,その結果同人
が特殊警棒を,その他2人が短い小木刀を所持していたことがわかったので,
「どこかに隠せ」と命じたと供述している。
この点に関するAら5名の供述は一様ではなく,Aらが凶器を取り出す時被告
人が傍らで見ていたとか,先の方を歩いていたので見ていなかった筈とか,被
告人が何をしていたか記憶がないとかいうもので,明確ではない。又しばらく
歩いた後警察官が居る大通りに出た時,Bらが所持していた凶器を植え込みに
隠したことも本件証拠上明らかであるが,これが被告人かAか又Bか誰の指示
によるものかについて各供述が符合していない。
たしかに,Aらが被告人が降車した直後,その車内から凶器を取り出して,「
長い物は置いて行こう」とか「お前これを持て」等と話し合いながらそれぞれ
いくつかを所持するに至った際,このことを,被告人が全く知らなかったとは
にわかに考え難い。しかし,一方F組員と話をつけに行くのに,凶器を持って
行くか否かは重要なことであって,被告人が「お前たちでは駄目だから俺が行
って話をつけてやる」と大見得を切って出かけて来たのに,部下の組員が凶器
を所持することについて,これを知りながら何らの発言も指示もしなかったと
いうことも又考え難い。Cの供述には,自分たちが凶器を取り出すのを被告人
は見ていたとあるだけで,何ら被告人の言動については述べられていないのは
疑問である。又同供述には,被告人が普通の服を着ていて隠し場所がなかった
から凶器を所持しなかったとされているが,これは理屈を述べただけで,被告
人の行動を述べたものとは言えない。
このようなことから,被告人のこの時の状況に関する前記供述も又一概に排斥
し難く,この時点における被告人の凶器に対する認識の存在を,にわかに断定
することはできない。
6 以上の次第であるから,結局本件は犯罪の証明がないことに帰し,刑事訴訟
法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(裁判官  穴  澤  成  巳)

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