弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原告等の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告等の負担とする。
         事    実
 原告等訴訟代理人は「昭和二六年四月二三日執行せられた岩国市議会議員の選挙
は無効とする。」訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因と
して次のとおり述べた。
 昭和二六年四月二三日岩国市議会議員選挙が行われ、原告等はいずれも右選挙に
おいて選挙人であると共に候補者であつたが、右選挙の効力に関し同年五月七日岩
国市選挙管理委員会に異議を申立て同委員会は同月十日これを却下したので、原告
等は更に同月一七日被告委員会に訴願し、被告委員会は同年六月一〇日これを棄却
する旨の裁決書を原告等に交付した。しかしながら右選挙は左の理由により無効で
ある。
 第一、 不在者投票の違則
 (一) 本件選挙の岩国投票区の不在者投票中には不在者投票をすることが事実
上不能であり又不在者投票によることが許さしない者に対し不在者投票原因たる事
実があるかのような証明書が不当に交付せられて、不在者投票を行つた者が多数あ
る。
 (二) 右投票区の不在者投票一五二票については投票所を閉鎖した後投票と名
簿とを照合しただけで、投票所閉鎖前に投票立会人の意見をきいて投票を受理すべ
きか否かを決定しないで、しかも投票用封筒に入れたまま一把にして投票箱に投入
したのであつて、右は公職選挙法施行令第六三条の規定に違背したものである。
 第二、 投票箱の不正開放
 本件選挙の投票所閉鎖時刻後且つ開票日時前である昭和二六年四月二三日午後十
時頃岩国市選挙管理委員会委員は岩国市役所内の同委員会事務室において同委員会
職員及び雇等十人位の者の立会の下に本件選挙の岩国投票区の投票箱を、同時に行
われた岩国市長選挙の同投票区の投票箱と共に開函の上、数人でてんでに不在者投
票在中の封筒を取出してこれを切開し、権限のない者が投票を一々目撃してその数
を検算もせず投票箱に投入し、約二、三十分後に閉函し施錠に認印を施す等再度開
函のおそれを防ぐ何等の措置をも講じなかつた。
 第三、 投票箱の違法取扱
 本件選挙における各投票区の投票箱は岩国開票所に集められ、投票日から開票日
にかけて岩国市役所の宿直室の戸棚に入れ、鍵をかけないで選挙従事者でない市吏
員一名が同室に就寝したそしてそのうち岩国投票区の投票箱二箇を前記のとおり選
挙管理委員会事務室に出し入れしたり宿直室で投票箱を監守したリするについて特
定の責任者を定めることなく、その取扱の正確を期せられた事実が毫末も存しない
又開函処理後施錠の鍵を右事務室の机の抽出に施錠をしない儘一夜を過ごしたので
ある。かように違則で放漫に投票箱を取扱われたことは、投票の効力に対して侵害
が行われたことを疑わざるを得ない。
 第四、 投票管理者の投票用紙交付の違法
 本件選挙における川下投票区の投票所では投票開始時刻に選挙人が一時に多数押
しかけ、投票用紙の交付手続が正規に行われず、そのため一人で数枚の投票用紙を
勝手に抜取つて投票所に入つた事実がある。右投票手続の違則に選挙の結果に異動
を及ぼしたこと明らかである。
 第五、 開票立会人の職務執行不能
 本件選挙の開票立会人の席は投票箱の開披を見ることのできない距離に設けら
れ、且つC開票管理者は開票開始から約三十分間開票立会人がその席を離れて開票
場所に立入ることを禁止した。そのため立会人の立会なくして開票管理者だけで投
票箱を開き投票を混同した。右は公職選挙法第六六条の規定に違背したものであ
る。
 第六、 投票用紙の計算の不一致
 本件選挙においては投票用紙の計算が符合しない違法がある
 以上の各違則事実はその一つ一つが独立原因で本件選挙全体の無効を招来するも
のと考えられるが、更にこれらの各原因が組合わされることによつて選挙全体の無
効は到底免かわないのであつて、選挙の結果に異動を生ずること明らかである。よ
つて本件選挙を無効とするとの判決を求めるため本訴に及んだ次第である。
 原告等訴訟代理人は証拠として、甲第一乃至第七号証を提出し、証人A、B、
C、D、E、F、G、Hの各証首並に検証の結果を援用し、乙号各証の成立を認め
た。
 被告委員会代表者は主文と同旨の判決を求め、答弁として、次をとおり述べた。
 原告等の主張事実中本件選挙の結果原告等が右選挙の効力につき異議申立、訴願
に及び、被告委員会が訴願棄却の裁決をするに至るまでの経過事実が原告等主張の
とおりであること、投票管理者が不在者投票を処理するにあたり封筒から投票を取
出して投函すべきを誤つて封筒の儘投函し、これを是正するため選挙長Cが岩国市
選挙管理委員会事務局職員十名立会の上投票箱を開き、封筒の儘の不在者投票を取
り出し封筒を取り除いて再び投票を投函したことはいずれもこれを認めるが、その
余の原告等主張事実はすべてこれを否認する。
 仮りに開票の場所と開票立会人の席との距離が若干あつたとしても、開票立会人
はその席を自由に移動してその機能を果し得たばかりでなく、多少疑義のある投票
は特に開票立会人に示し、最後に全投票を一括してその自由な審査に任せた専実が
あつて、開票につき、原告等主張のような違法はない。前示のとおり投票箱を開い
た一事のみは選挙の規定に違反したことを認めるが、投票の増減その他選挙の結果
に異動を及ぼすべき不公正な行為の行われた事実はないから、原告等の請求は棄却
せらるべきものである。
 被告委員会代表者は証拠として、乙第一乃至第四号証を提出し、証人I、J、
K、L、M、N、0、C、P、H、Q、R、S、Tの各証言を援用し、甲号各証の
成立を認めた。
         理    由
 昭和二六年四月二三日岩国市議会議員選挙が行われ、原告等はいずれも右選挙に
おいて選挙人であると共に候補者でおつたこと、右選挙の効力に関し、原告等主張
の各日時に、原告等から岩国市選挙管理委員会に異議を申立てたところ却下せられ
たので更に被告委員会に訴願したが被告委員会はこれを棄却する旨の裁決書を原告
等に交付したこと投票管理者が不在者投票を処理するにあたり封筒から投票を取出
して投函すべきを誤つて封筒の儘投函し、これを是正するため選挙長Cが岩国市選
挙管理委員会事務局職員十名立会の上投票箱を開き、封筒の儘の不在者投票を取り
出し封筒を取り除いて再び投票を投函したことはいずれも当事者間に争のないとこ
ろである。そこで原告等主張の本件選挙の無効理由の有無につき順次判断する。
 第一、 不在者投票の違則について
 (一) 原告等の提出援用する全証拠資料によるも本件選挙の岩国投票区の不在
者投票中に不在者投票による投票を許されない者に対し不在者投票原因たる事実が
ある旨の証拠書が不当に交付せられて不在者投票を行つた者が多数ある旨の原告等
の主張事実はこれを認めることができないから、原告等の第一の(一)の主張は理
由がない。
 (二) 成立に争のない甲第二第六号証に証人H、岩木正生の各証言を綜合すれ
ば、前記岩国投票所の投票管理者はH、投票立会人はQ、U、Vの三名であるが、
投票管理者Hは投票所の閉鎖前民不在者投票一五三票の送致を受けたので、投票所
閉鎖後直ちに右投票立会人三名の立会の下に不在者投票名簿と右投票とを対照し、
投票立会人等の意見を求め、異議がないので不在者投票全部の受理を決定し、投票
用封筒に在中の儘これを投票箱に入れた事実を認めるに十分であつて、他に右認定
を左右するに足る証拠はない。そうすると、投票管理者Hの不在者投票の処置とし
ては、投票用封筒から投票を取出してこれを投函すべきであるのを誤つて投票用封
筒に在中の儘投票を投函した点において公職選挙法施行令第六三条の規定に違反し
たそしりを免れないが、その他の点については何等違法はないものといわなければ
ならない。そして右投票管理規定の違反は本件選挙を無効とする程度の重大なかし
とはいえないから、原告等の第一の(二)の主張も採用できない。
 第二、投票箱の不正開放について
 成立に争のない乙第二乃至第四号証に証人C、R、Sの各証言を綜合するたと、
昭和二六年四月二三日岩国市長選挙及び同市議会議員選挙が同時に行われ、同日午
後六時各投票所を閉鎖後、各投票所から投票箱を岩国市役所宿直室へ運ばれたとこ
ろ、同選挙長C(岩国市選挙管理委員会委員長)は同選挙管理委員会車務局長Wか
ら「岩国投票所の投票箱には不在者投票の封筒も入れてある」旨報告があつたの
で、同局長と相談の上同日午後十時頃車務局職員に命じて前記宿直室から岩国投票
所の投票箱二箇を同市役所内の選挙管理委員会事務室に運ばせ、同事務局職員六、
七名立会の下にこれを開函したところ、投票在中の封筒が入れてあつたのでこれを
取り出し、先ずC選挙長自ら封筒を二十枚位開封し、その余は同選挙長の監親の下
に職員の一名に市長選挙の不在者投票在中の封筒を、他の一名に市議会議員選挙の
不在者投票在中の封筒を逐次開封させ、両選挙の投票を混同しないよう細心の注意
を払つて約二十分後に右投票なそれぞれ投函して投票箱に施錠し再び右二箇の投票
箱を宿直室に運ばせたのであるが、その間投票の混同、増減、改ざん等不正行為は
全く行われなかつた事実を認めるに十分であつて、現に右認定を覆すに足る証拠は
ない。そうすると、<要旨>選挙長Cが一旦閉鎖された投票箱を開函した上前記のよ
うに不在者投票在中の封筒を開封して投票を投函したことは投票管理規定に
違反したものであること明らかであるけれども、その間に選挙の公正を害された事
実の認められない本件においては選挙の結果に異動を生する虞があるとはいえない
から、右違法を以て直ちに本件選挙を無効とするととはできない。(なお、投票箱
に施錠した上更に認印を施すことは必ずしも要しないことである。)原告等第二の
主張は理由がない。
 第三、投票箱の違法取扱について
 前掲乙第二号証に証人R、S、Tの各証言を綜合すると、本件選挙における各投
票所の投票箱は施錠の上岩国市役所に集められ、投票日の夕方から開票日の朝にか
けて同市役所の宿直室の戸棚に保管せられ、その間前記認定のとおり岩国投票区の
投票箱二箇を選挙管理委員会事務室に運んでこれを宿直室に返還されたけれども、
その後は各投票箱は全部施錠して宿直室の戸棚に保管せられ、同夜宿直室には選挙
管理委員会事務局書記Rと同市吏員Tとの両名が、出入口の障子に内側からつつぱ
りをかけて外部からの開閉を防止した上就寝したところ、翌朝何等異状が認められ
なかつたこと、前記岩国投票区の投票箱を開閉後、その鍵は右事務局雇Sにおいて
事務室のRの机の抽出に他の投票箱の鍵と共に入れて帰宅したことを認めるに十分
であつて、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
 かくすると、本件選挙の投票箱の保管については何等違法は認められないけれど
も、投票箱の鍵の保管に細心の注意が払われなかつた嫌がないでもない。しかしな
がら、右鍵の保管が不十分であるため本件選挙の公正を害されたという事実を認む
べき何等の証拠もない本件においては原告等第三の主張は採用できない。
 第四、投票管理者の投票用紙交付の違法について
 証人L、M、J、I、Kの各証言並に検証の結果を綜合すれば、本件選挙はおけ
る川下投票所では投票開始の午前七時前後には工場勤務者が出勤前に一時に多数押
しかけたため一時混雑したことが窺えるけれども原告等主張のように投票用紙の交
付手続が正規に行われず、そのため一人で数枚の投票用紙を勝手に抜取つて投票所
に入つたという事実は、これを認むべき何等の証拠もない。してみると川下投票所
において投票管理者の投票用紙の交付が違法であるとの原告等の主張は採用できな
い。
 第五、開票立会人の職務執行不能について
 証人N、0、D、A、P、F、Gの各証言並に検証の結果を綜合すれば、本件市
議会議員選挙の開票に当り開票立会人の席は開票台から最短距離八、五メートルの
距離に設けられ、開票管理者Cが開票立会人等に対し席を離れて開票台に近ずくこ
とを抑制したため、開票立会人等は当初二十分位もの間は投票の混同及び点検に関
与できなかつた事実を認めるに十分であつて、他にこれを覆すに足る証拠はない。
そうすると、右開票の手続は公職選挙法第六六条第二項の規定に違反したものとい
わなければならないが、その間に選挙の公正を害すべき事実を認めうる証拠は全く
ないし、前掲各証拠によれば開票開始後約二十分の後にはC開票管理者も開票立会
人等の要望を容れて同人等が開票場内に自由に立入るのを認め、有効、無効の疑の
ある投票については開票立会人等の意見を求め且つ全投票を立会人等の点検に供し
たことが認められるから、前記選挙手続の違反は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞
がないものというベく、原告等の第五の主張は理由がない。
 第六、投票用紙の計算不一致について
 原告等は本件選挙において投票用紙の計算が符合しないと主張するけれども、こ
れを認めうる証拠は全くないから、右主張は理由がない。
 以上認定のとおり、原告等主張の本件選挙無効原因はいずれも理由がないし、前
記認定の各選挙管理規定違反事実を綜合しても、本件選挙の結果に異動を生ずる虞
があるとは考えられないから、本件選挙を無効とする判決を求める原告等の本訴請
求は失当としてこれ棄却すべきである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第
八九条第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 植山日二 裁判官 宮田信夫 裁判官 池田章)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛