弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 第一 申立
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの本件仮処分申請は、いずれもこ
れを棄却する。申請費用は、第一、一審とも被控訴人らの負担とする」との判決を
求め、予備的に、「原判決主文第二項を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人ら
に対し、昭和四一年九月三日以降本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り、原判
決別紙(一)賃金表記載の各金員から、別表記載の金員を控除した金員を支払え」
との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
 第二 主張
 当事者双方の事実上および法律上の主張は、次に付加するほか、原判決の事実の
項第二ないし第五に記載してあるとおりであるから、その記載を引用する。
 控訴代理人は、当審であらたに、次のとおり述べた。
 一 本件解雇の理由となつた違法な行為について、更に次のとおり付加主張す
る。
 1 ビラの配布
 本件において一般市民に配布されたビラは、その内容や表現において激越で侮辱
的であり、かつ誇張や虚偽にわたる事項が多く、しかもその内容は会社のみならず
役員個人に対しても強く向けられており、抗議先として役員の私宅や電話番号まで
も故意に記載されている。これらの点から判断すると、その目的は単に組合員の経
済的地位の向上を図るにとどまらず、積極的に会社の社会的信用や名誉の失墜なら
びに会社役員の個人的権利の侵害をも目的としたもので違法な争議行為と判断すべ
きものである。
 また組合は、組合名義および争議団共闘、安保破棄諸要求貫撤委員会の名におい
てビラ(乙第二三号証ないし第二九号証)を多数一般市民に配布して会社の名誉、
信用等を傷つけている。
 2 ロックアウト告示の破棄
 再度にわたるロックアウト告示の破棄は、その掲示箇所の高さや破棄された時間
等から判断すると、その場に集まつた被控訴人らを含む多数の組合員の共謀によつ
てなされたものとみるのが合理的である。かりに直接の破棄行為が外部の支援団体
員の手によつてなされたとしても、右多数の組合員との間の意思連絡ならびにその
協力がなければ不可能であつたと認めるべきであるから、いずれにしても、右告示
破棄行為について被控訴人らに責任があるものと解すべきである。
 3 センターおよび新聞社社屋内への立入行為等
 右立入行為の目的は会社に対する就労要求とか団体交渉の申入であつたとは決し
て認められない。就労要求はロックアウトに対する対抗戦術としてすでに当時連日
文書でなされていたし、また窓口交渉も継続していたのであるから、右のような目
的でことさらに多数の者が警備員ともみ合つてまで両社社屋内に立入る必要はなか
つたのである。思うに右立入行為の目的は、強行就労ないしは職場占拠により会社
の放送業務を止めることならびに両社への嫌がらせを目的としたものと解される。
その滞留時間も長い場合には三〇分にもわたつており、また侵入した社屋内でこと
さらに拡声器を使用したこと等は、明らかに両社に対する嫌がらせのため、業務の
妨害を企図したもので、正当な組合活動と解すべき余地はない。
 4 社屋への立入とドアの損壊行為ならびに座り込み
 右行為の目的も単なる就労要求や団交の申入にとどまるものではなく、強行就労
ないしは職場占拠により会社の放送業務の妨害を企図したものである。
 5 電報開披行為
 その時配達された電報は僅かに二通で、しかも表紙には名宛人が記載されている
のであるから、誤配であることは直ちに知り得たものである。誤配であることを知
りつつ開披し、開披後において敢えて多数組合員の面前で読みあげ、更にラジオ中
国労組へ通報したものであつて、これらの行為は公衆電気通信法等にも触れる違法
行為である。
 6 ピケツテイング
 組合が五月二一日から数日間にわたつてなしたピケツトは単なる平和的説得の域
にとどまるものではなかつた。
 7 ビラ貼り
 会社正面玄関の壁およびシヤツターの全面に貼られた多数のビラは、のりでベタ
ベタ貼つてあり、はがしてもそのあとがきれいにならないため、やむなく争議中は
とりあえず板囲いをしたうえ、その後において壁のぬりかえをせざるを得なかつた
実状であつた。本件ビラ貼りは刑法上も器物損壊罪を構成する違法な行為である。
 8 会社役員の私宅訪問行為
 訪問行為のなされた時間やその状況から判断すると、当の会社役員が不在である
ことを充分承知し、更に電話等によつてこれを確認していながらも、敢えて計画的
になした家族に対する嫌がらせ行為である。その結果発病する家族も出た程で、そ
の行為は私生活の平和を侵害する違法行為以外の何ものでもない。
 二 元来使用者は、企業の所有権に基づく経営権の行使として、生産性の向上と
秩序維持のため労働者を解雇し、これを懲戒する権利と自由を有するものであつ
て、この自由は充分尊重されなければならず、司法権を以てしても濫りにこれを奪
うことは許されない筋合である。従つて、解雇の適否を判断するに当つても、それ
が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか若しくは社会観念上著
るしく妥当を欠き使用者に与えられた解雇権を逸脱するものと認められる場合を除
き、使用者の裁量に任されていると解すべきである。この見地に立つて、被控訴人
ら四名の各違反行為の態様とその情状ならびに平素の勤務成績および処分の前歴等
を考慮すると、本件解雇はいずれも使用者に与えられた裁量の範囲に属する適法な
ものと解すべきである。
 三 控訴人がなした本件解雇は、被控訴人らを懲戒するのが目的ではなく、あく
までも被控訴人らとの間の雇用関係を消滅させることを目的としたものである。従
つて、かりに被控訴人らの行為が懲戒解雇事由に当らないとしても、本件解雇の効
力には影響がない。けだし、懲戒解雇事由に当らない場合においても、使用者は普
通解雇としてその従業員を有効に解雇することができるものであるからである。
 四 かりに、被控訴人らが昭和四一年九月三日以降も雇用契約上の権利を有し、
控訴人に対して原判決別紙
 (一) 賃金表記載の金員を請求する権利があるとしても、控訴人は労働基準法
第二四条の例外として、所得税法、地方税法、失業保険法、健康保険法、厚生年金
法に基づき、被控訴人らの給与えから別表記載の金員を源泉懲収すべき義務がある
ので、判決主文においては、賃金額から別表記載の金員を控除した金員について支
払が命ぜらるべきであり、右の範囲において原判決の一部取消を求める。
 被控訴代理人は、当審であらたに、次のとおり述べた。
 一 懲戒解雇と普通解雇とは、その根拠、内容、効果において相異なるものがあ
り、争議行為の違法性を問責するのは、職場秩序、規律違反の点にある(いわゆる
秩序罰)と考えられるので、懲戒解雇の普通解雇への転換を主張することは許され
ないと解すべきである。
 二 争議団共闘、安保諸要求貫徹実行委員会がビラを配布することは、それらの
民七団体の憲法に認められた言論、表現の自由として、当然の行為であり、本件ビ
ラの内容は何ら違法視されるべき内容のものではない。本件ビラは右の諸団体が高
知放送労働組合の昭和四一年春闘を支援する目的で作成配布したものであつて、組
合が作成、配布するというようなものではない。
 三 労働基準法第二四条第一項但書による控訴人主張の諸法令に基づく賃金の一
部控除の許されることは認めるが、右はいずれも賃金がその暦日に従い現実に当月
分を支払われている場合に、租税については源泉徴収を、保険料については当月分
(失業保険法第三三条)、又は前月分(健康保険法第七八条、厚生年金保険法第八
四条)を、それらの現実の全額賃金から控除することが許されているにすぎないも
のであつて、本件の如く解雇後賃金が全く支払われていない場合に、解雇時にさか
のぼつて控除することまでを許しているものではない。
 ちなみに、被控訴人らは、本件解雇後失業保険金を仮受領しており、健康保険法
による保険診療は中止されている。従つて、これらの問題は、被控訴人らが完全に
復職就労し得る状態になつた時に、事業主および関係諸官庁と協議して、過去の保
険料、租税等の納付が決済されるべきものであつて、労働基準法第二四条第一項但
書は、解雇無効を理由とする賃金支払請求という異常特別な場合には適用されない
のである(なお、解雇の効力を争う労働者に就労請求権ありとするならば別論であ
るが、控訴人は第一審判決後も被控訴人らの就労を拒否している)。
 第三 疎明(省略)
         理    由
 当裁判所は、結論において、本件仮処分申請を認容すべきものと判断するもので
あつて、その理由は、次に訂正、付加するほか、原判決の理由のとおりであるか
ら、それを引用する。
 一 原判決三七枚目表五行目以下の「被申請人の主張する各事由が……」より、
同枚目裏一行目の「……到底認められない。」まで(すなわち、申請人の「本件解
雇の理由が不明確、不特定である」との主張に対する判断の一部)を、次のとおり
訂正する。
 「被申請人の主張する各解雇事由に相応する事実が、本件解雇の意思表示以前
に、すでに客観的に存在していたことは、後記認定のとおりであり、その事実の態
様、証人A同Bの各証言(いずれも原審)の趣旨および本件仮処分審理における被
申請人の主張、立証態度に照らし、被申請人は、解雇当時右の各事実を解雇の原因
となるべき違法な事実として認識していたものと認めることができる。被申請人が
本件審理において、解雇事由を二回にわたつて主張したということのみからは、い
まだ右認定をくつがえすに足りない。」
 二 原判決四一枚目裏九行目の「しかし……」より、四二枚目裏一行目終まで
(すなわち、ビラの配布による会社ひぼろの点についての判断の一部)を、次のと
おり訂正する。
 「しかし、争議時においては、組合ビラの表現は概して激越、過激なものとなり
勝ちであることを考慮すべく、本件ビラ全体の趣旨としては、本件争議に際し、一
般労働者および市民の支援を得るため、ひろく被申請人の態度一般を攻撃し、組合
の要求の正当性を主張することを主眼としているものと認められ、前記のような表
現があるからといつて、直ちに正当性の範囲を逸脱した内容であるということはで
きない。成立に争のない乙第二三、第二四号証(その文面自体に照らし組合がその
作成に関与したものと認められる)、第二八号証の一、二、第二九号証も右の趣旨
以上に出るものとは認められない(乙第二五号証、第二七号証については、組合が
その作成に関与えしたと認めるに足りる疎明はない)。
 しかしながら、さきのビラに、抗議先として、被申請人会社の役員ないし労務担
当者の私宅の住所、電話番号を記載し、私宅への抗議を求めた点(前認定のよう
に、その結果として、一般市民から、昼夜を問わず、被申請人会社の役員および労
務担当者の私宅に、ハガキや電話による抗議が申込まれた)は、正当な組合活動と
認めることはできない。個人の私宅はほんらい団体交渉の場でないばかりでなく、
ハガキや電話による抗議でも、家族に対する精神的な威迫とならざるを得ず、個人
の私生活に対するいわれのない侵害として、一般通念上許容し難いものであるから
である。」
 三 原判決六八枚目表四行目初より同枚目裏六行目終まで(会社役員の私宅訪問
の点についての判断の一部)を、次のように訂正する。
 「そもそも会社役員や労務担当者がその私宅におらないことを知りながら、一〇
名前後の班をつくつて各私宅を訪問し、その妻に面接して組合の実情を訴えるよう
な行為は、正当な組合活動と認めることはできない。妻は会社業務に関して何らの
権限も義務も有しない者であるばかりでなく、右のような態様の訪問は、実質上、
妻および会社役員、労務担当者に対する精神的な圧迫となり、個人の私生活の平穏
に対する侵害となるからである。
 ただしかし、当時労使間に長期にわたつて団体交渉が開かれず(当審証人Bの証
言および同証言によつて成立を認め得る乙第七四号証によると、組合幹部は時折面
接又は電話により被申請人会社人事部長Bと接触し、また再三書面により就労要求
を申入れていたことが認められる。しかし、右証拠および原審および当審における
申請人C同Dの各尋問結果によると、被申請人会社の役員および総務局長は、四月
三〇日の回答は永久不変のものであるとし、組合側が新らしい提案をしてこない限
り、団体交渉はもとより面接をも絶対に行なわない、との態度を堅持していたこと
が認められる)、ロツクアウトの圧迫に屈して相当数の組合脱退者が出るに至り、
組合として局面の打開を求めて甚だ焦慮し、重役らとの面接ないしは団体交渉再開
の機会を得る手段として、私宅への訪問に思い及んだと認められるばかりでなく、
その訪問は相当多数の人数によるものとしては、まず平穏に行なわれており、一応
の節度を失なわなかつたと認められるので、この点情状としてしんしやくさるべき
である。
 四 原判決七三枚目裏二行目初めより六行目終まで(申請人らの行為に対する就
業規則の条項の適用)を、次のとおり訂正する。
 「そうすると、前判示(二)、2、の(1)のうち、会社役員、労務担当者の私
宅の住所、電話番号を記載し、私宅への抗議を求めたビラを配布した点および(1
1)の会社役員らの私宅訪問の点は、それぞれ右就業規則第三三条第一一号、第四
八条第一号に、(2)のミニスト実施の点、(5)の新聞社屋への立入りとドァ損
壊の点は、それぞれ同規則第三三条第一一号第四八条第一号第三号に、(4)の両
社社屋内への立入りの点、(6)の両社社屋内への立入りとすわりこみの点、
(7)の電報開披の点は、それぞれ同規則第四八条第三号に、該当するものと認め
られる。
 しかしながら、右各行為の情状については、すでに判断したとおりであつて、と
りわけて悪質重大な非違行為と認めるに足るものはない。」
 五 本件解雇の効力に関し、次のとおりの説示を付加する。
 本件の解雇は、控訴人において、被控訴人らには懲戒解雇に値する事由があると
しつつ懲戒解雇せず、普通解雇にしたものである。そして控訴人は第一次的に懲戒
解雇の事由ありとし、第二次的には、普通解雇の事由ありと主張しているものであ
る。
 この点に関し、被控訴人らは、「懲戒解雇と普通解雇とは、その根拠、内容、効
果において相違するから、懲戒解雇の普通解雇への転換を主張することは許されな
い」旨主張する。なるほど、解雇の効力の転換に関しては、被控訴人ら主張のよう
に解するのが相当であるが、本件は、使用者が懲戒解雇の意思表示をしておきなが
ら訴訟上普通解雇の効力を主張した事案ではなく、懲戒解雇に値する事由ありとし
つつも、当初より普通解雇としての告知(普通解雇としての効果の発生を意図した
告知)をした事案であるから、ただちに無効行為の転換の法理をもつて律するのは
相当でないといわなければならない。
 そこで、一般に、懲戒解雇に処すべき事由があるのに、普通解雇としての告知を
した場合の効力について考えてみる。この場合、普通解雇の事由が存在しないのに
かかわらず普通解雇の意思表示をしたものではあるが、懲戒解雇の事由は存在して
いたのであり、いずれにせよ解雇の事由が存在していたのである。そうだとする
と、このような解雇も、解雇原因の存在する解雇というに妨げないと共に、被解雇
者になんらの不利益を及ぼさず、法律関係を別段不安定ならしめる点もないから、
法律上許容されるものと解する。
 ただしかし、本件の場合は、原審が判断しているように、被控訴人らの行為は、
その情状よりみて、懲戒解雇に値しないと認められるものである。
 <要旨第一>そこで次に、懲戒解雇に値する事由ありとして普通解雇の意思表示を
したが、客観的にみて、懲戒解雇に値する事由が存在しなかつた場合、
普通解雇としての効力が認められるかどうかについて考えるに、普通解雇に該当す
る事由が存在する限りは、普通解雇としての効力を生ずるものと解する。けだし、
懲戒解雇の事由ありとしてなす解雇であつても普通解雇としての告知をしている以
上、法律上普通解雇の意思表示がなされたものと解すべく、普通解雇の要件の存在
する限りは、普通解雇の効力を認めざるを得ないと考えられるからである。
 そこで次に、「かりに被控訴人らの行為が懲戒解雇事由に該当しないとしても、
就業規則第一五条第三号のやむを得ない事由には該当するから、本件解雇は有効で
ある」旨の控訴人の主張について判断する。
 成立に争のない乙第一八号証の二、三(控訴会社の就業規則)の第一五条による
と、「従業員が次の各号の一に該当するときは、三〇日前に予告して解雇する。但
し会社が必要とするときは平均賃金の三〇日分を支給して即時解雇する。ただし、
労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。1精神又は身体の障害により業務
に耐えられないとき。2天災事変その他已むを得ない事由のため事業の継続が不可
能となつたとき。
 3 その他前各号に準ずる程度の已むを得ない事由があるとき。」となつている
ことが認められる。そうすると、右条項にいう已むを得ない事由とは、就労困難な
心神の障害や天災事変等による事業の廃止に準ずるような事由を指し、本件事案の
ような懲戒解雇事由に至らない程度の非違行為を指さないことが明らかである。む
しろ、職場規律、経営秩序に対する違反行為は、その程度に応じて懲戒処分により
措置し、前記の条項によつては解雇しないのが就業規則の本旨とするところである
と解される。もとより已むを得ない事由の判断に当つては、本人の行動態度も無関
係ではなく、たとえば、職務に対する甚だしい不適格性のごときも考慮に入るであ
ろうが、さきに認定した被控訴人らの行為の程度では、いまだ職務に対する甚だし
い不適格性ないしは已むを得ない事由が存すると認めることはできない。
 よつて、控訴人の前記主張は採用することができない。
 また控訴人は、「かりに被控訴人らの行為が、懲戒解雇事由に該当せず、また就
業規則第一五条第三号の已むを得ない事由に該当しないとしても、使用者はほんら
い解雇の自由を有するから、本件解雇は有効である」旨主張する。
 わが国の実定法上、解雇につき別段の事由を必要とする旨を定めた規定は存在せ
ず、その限りにおいて、使用者は解雇の自由を有すると称し得る。しかし、解雇の
自由を有するといつても、就業規則に解雇の事由を定めた場合には、その規則に拘
束を受けるのであり、また、解雇の権利を濫用することの許されないことはいうま
でもない。本件においては、結局、控訴人のなした解雇を、解雇権の濫用にあたる
ものと判断し、その解雇の効力を認めなかつたものであつて、控訴人の右の主張は
理由がない。
 六 控訴人はまた、「かりに被控訴人らが原判決別紙(一)賃金表記裁の金員を
請求する権利があるとしても、控訴人は、諸税金、諸保険料を源泉徴収すべき義務
があるので、判決においては、右賃金表の金額から別表記載の金員を控除した金額
について、支払が命ぜらるべきである」旨主張する。
 <要旨第二>しかしながら、まず諸保険料についていえば、これらの保険料を賃金
から控除することはなんら使用者の義務ではない。すなわち、失業保険
法第三四条第一項第三三条、健康保険法第七七条第七八条第一項、厚生年金法第八
二条第二項第八四条第一項等の規定によると、これらの保険料を納付する義務を負
担しているのは、労働者でなくして事業主であり、事業主として自己の出捐によつ
て保険料を納入して当然なのであるが、保険料の中に労働者負担分なるものがあ
り、結局使用者は労働者よりその分を取立りてることになるので、取立の便宜の措
置として、賃金から控除することが許されているにすぎないことが明らかである。
そうであるから事業主において末だ保険料を納付していないにかかわらず、判決に
おいて諸保険料を控除すると、法律の所期するところを越えて事業主に利便を与え
る結果になり、妥当ではないといわなければならない(前記の諸規定の趣旨からす
ると、労働者が判決に基づく強制執行によつて、賃金全額の満足を得、その後に使
用者が諸保険料取立のため債務名義を要することとなつてもやむを得ないというべ
きである)。
 次に税金についていえば、所得税法第一八三条、地方税法第三二一条の五等の規
定によると、使用者は、諸保険料の場合と異なり、右各税金について源泉徴収の義
務を負つていることが明らかである。
 しかしながら、源泉徴収は、その事務の性質上、使用者が任意に賃金を支払う場
合において負担する義務であり、その意に反して強制執行により取立を受ける場合
においてまで負担する義務ではないと解するのが相当である。したがつて、裁判所
としては、賃金の全額について支払を命ずべきであり、労働者が強制執行により賃
金の取立をした場合においては、税務官庁は労働者より税金を徴収すべく、使用者
に源泉徴収の責任を問うべきではないこととなる。
 なお付言すると、使用者が判決に従い任意に賃金支払義務を履行する場合におい
ては、賃金より税金の源泉徴収を行ない又は諸保険料の控除をなし得ることは当然
である。
 よつて、控訴人の前記主張も失当である。
 以上の次第で、原判決は相当で本件各控訴は理由がないからこれを棄却すること
とし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用の上、主文のとおり判決
する。
 (裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 裁判官 藤原弘道)
別 表
<記載内容は末尾1添付>

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