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平成18年(わ)第794号,第902号,第923号
判決
本籍略
住居略
無職(元呉市助役)

昭和○年○月○日生
本籍略
住居略
無職(元呉市助役)

昭和○年○月○日生
上記2名に対する虚偽有印公文書作成,同行使,地方公務員法違反各被告事件に
ついて,当裁判所は,検察官長田守弘並びに被告人Aの弁護人岡秀明,被告人Bの
弁護人冨村和光それぞれ出席の上で審理し,次のとおり判決する。
主文
被告人両名をそれぞれ懲役2年に処する。
この裁判が確定した日から被告人両名に対し4年間,それぞれその
刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人両名は,いずれも呉市助役として呉市消防吏員の任命承認を専決する
権限を有していたものであるが,いずれも平成17年度呉市消防吏員採用試験
(以下「本件消防吏員採用試験」)の試験委員として本件消防吏員採用試験の
施行及びその成績に関する文書作成等の職務に従事していた呉市消防局長C,
同局次長D及び同局総務課長E,並びに,Cら3名の上記職務を補助し,本件
消防吏員採用試験の施行及びその成績に関する文書を作成するなどの権限を有
していた同局総務課課長補佐Fと共謀の上,本件消防吏員採用試験の第一次試
験合格者決定に当たって,
1平成17年10月3日ころから同月13日ころまでの間,行使の目的で,広島県呉
市中央3丁目1番34号呉市消防局において,Fが,「別添のとおりとりまとめ
てよろしいですか」と記載した書面に「F」と刻した印鑑を押捺し,さらに,
真実は,受験者中の13名の得点がそれぞれ別表1(省略)の各「真実の得点」
欄のとおりであったのに,パーソナルコンピュータ等を用い,上記13名につい
て,「一般教養」,「消防適正」,「筆記試験得点」,「体力検査」,「総得
点」及び「総合順位」の各欄に,別表1の各「虚偽の記載」欄のとおりの虚偽
の記載をした「平成17年度呉市消防吏員採用試験結果一覧表(一次試験)」と
題する一覧表を上記書面に添付し,よって,上記13名の本件消防吏員採用試験
の第一次試験の成績がその一覧表記載のとおりである旨のF作成名義の文書を
作成し,もって,その職務に関して,公務員の印章のある内容虚偽の公文書を
作成した上,同月13日ころ,これを内容の真実な文書として,消防局総務課内
に備え付けて行使した(平成18年8月10日付け起訴状公訴事実第1)。
2平成17年10月4日ころから同月13日ころまでの間,行使の目的で,呉市消防
局において,Eが,「平成17年度呉市消防吏員採用試験(第一次試験)の結果
通知について(伺い)」と題した書面に「E」と刻した印鑑を押捺し,さらに,
真実は,受験者中の13名の得点等がそれぞれ別表2(省略)の各「真実の得
点」欄のとおりであったのに,Fが,パーソナルコンピュータ等を用い,上記
13名について,「一般教養」,「消防適正」,「筆記試験得点」,「体力検
査」,「総得点」及び「総合順位」の各欄に,別表2の各「虚偽の記載」欄の
とおりの虚偽の記載をした「平成17年度呉市消防吏員採用試験受験者一覧表
(一次試験)」と題する一覧表を添付し,よって,上記13名の本件消防吏員採
用試験の第一次試験の成績がその一覧表記載のとおりである旨のE作成名義の
文書を作成し,もって,その職務に関して,公務員の印章のある内容虚偽の公
文書を作成した上,同月18日ころ,これを内容の真実な文書として,消防局総
務課内に備え付けて行使した(平成18年8月10日付け起訴状公訴事実第2)。
第2被告人両名は,それぞれ呉市助役として呉市消防吏員の任命承認を専決する
権限を有していたものであるが,平成17年4月1日から平成18年3月31日まで
消防長である呉市消防局長として呉市消防吏員を任命する権限を有していたC
と共謀の上,職員の任用は,競争試験の受験成績に基づいて行わなければなら
なかったのに,平成17年9月18日から同年10月29日までの間に消防局が実施し
た本件消防吏員採用試験の合格者を決定して消防吏員を任命するに当たり,同
月6日ころから同年11月9日ころまでの間,上記呉市消防局及び広島県呉市中
央4丁目1番6号呉市役所において,受験番号○○及び○○の受験者2名を本
件消防吏員採用試験の受験成績に基づかずに合格者とし,同年12月16日ころ,
上記2名を平成18年度呉市消防吏員採用予定者名簿に登載して平成18年4月1
日付けで消防吏員に任命するべきことを決定するなどして,能力の実証に基づ
かない職員の任用を企てた(平成18年9月19日付け起訴状公訴事実)。
第3被告人両名は,それぞれ呉市助役として呉市職員の任命を専決する権限を有
していたものであるが,平成13年11月19日から平成17年11月18日まで呉市長と
して呉市職員を任命する権限を有していたとGと共謀の上,職員の任用は,競
争試験の受験成績に基づいて行わなければならなかったのに,平成17年6月26
日から同年7月27日までの間に呉市が実施した平成17年度呉市職員採用試験
(Ⅰ種)(以下「本件市職員採用試験」)の合格者を決定して呉市職員を任命
するに当たり,同年7月5日ころから同年8月10日ころまでの間,上記呉市役
所において,受験番号○○及び○○の受験者2名を本件市職員採用試験の受験
成績に基づかずに合格者として呉市職員採用候補者名簿に登載した上,平成18
年3月7日ころ,被告人両名が,同年4月1日付けで上記2名を呉市職員に任
命するべきことを決定するなどして,能力の実証に基づかない職員の任用を企
てた(平成18年9月13日付け起訴状公訴事実)。
略(証拠の標目)
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の1及び2の各所為のうち各虚偽有印公文書作成の点は刑
法60条,156条,155条1項に,各虚偽有印公文書の行使の点は刑法60条,158条1項,
156条,155条1項に,判示第2及び第3の各所為は刑法60条,地方公務員法62条,
61条2号,15条にそれぞれ該当するが,判示第1の1及び2の各虚偽有印公文書作
成とその各行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,
10条により各虚偽有印公文書作成とその行使とをそれぞれ1罪として犯情の重い各
虚偽有印公文書行使罪の刑で処断することとし,判示第2及び第3について所定刑
中いずれも懲役刑を選択し,判示第1の1及び2,判示第2並びに判示第3の各罪
は刑法45条1項前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により刑及び犯情の
最も重い判示第1の2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名を懲
役2年に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年
間それぞれその刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
呉市助役であった被告人両名は,本件消防吏員採用試験の試験委員であった呉市
消防局幹部3名及び消防局総務課課長補佐と共謀の上,虚偽の内容の試験成績に関
する文書2通(試験合格者の決定に関する文書及び合否について受験者に通知する
こと等に関する文書)を作成し,その各文書をそれぞれ採用事務に供するため,同
局総務課内に備え付けて行使した(各虚偽有印公文書作成・同行使:判示第1の1
及び2)。
さらに,被告人両名は,消防吏員の任命権限を有していた上記消防局長と共謀の
上,本件消防吏員採用試験の成績に基づかずに受験者2名を合格者として,消防吏
員として任命するべきことを決定するなどし(判示第2),また,市職員の任命権
限を有していた呉市長と共謀の上,本件市職員採用試験の成績に基づかずに受験者
2名を合格者として,職員として任命するべきことを決定するなどして(判示第
3),それぞれ能力の実証に基づかない職員の任用を企てた(地方公務員法違反)。
1判示第1及び第2の各犯行について
被告人両名は,呉市助役として,呉市消防吏員の任命について市としての承認
を与える専決権限を有するほか,消防局に対する種々の権限を有する立場にあり
ながら,本件消防吏員採用試験の試験委員及びその補助者である共犯者らに対し,
呉市の住所の記載のある者を重視したり,特定の受験者を一次試験の合格者とす
ることなどを数次にわたって求めるなどして,共謀の上であえて公文書に虚偽の
内容を記載して行使した。その犯行は,呉市消防局における公文書に対する信頼
や作成された公文書の確実さを前提して遂行される呉市の公務自体に対する一般
の信頼を裏切るものである。
判示第2の犯行は,呉市長であるG又は被告人Bの依頼を受けた被告人Aが,
呉市消防吏員の任命権者である消防局長に対し特定の2名を本件消防吏員採用試
験の合格者とするよう求めたことによるもので,その行為は,地方公務員採用制
度に対する一般の信頼を損なうものであり,能力の実証に基づいて任用されるべ
き消防吏員に生命,身体及び財産の保護を委ねる呉市民の期待を裏切るものであ
る。呉市消防職員となるべきとの決定を得る機会を奪われた受験者を生じさせて
いる点も見過ごすことはできない。
2判示第3の犯行について
被告人両名は,呉市助役として呉市職員任命の専決権限を有する立場にありな
がら,呉市職員の任命権者である市長とともに,市議会の有力者が推薦した受験
者らを,本件市職員採用試験の成績に基づかず任命することを決定するなどした。
このような犯行は,地方公務員採用制度に対する一般の信頼を損ない,能力の実
証に基づいて任用されるべき職員に行政を委ねる呉市民の期待を裏切るものであ
る。また,呉市職員となるべきとの決定を得る機会を奪われた受験者を生じさせ
た点も見過ごせないことは上記1と同様である。
3被告人Aについて
判示第1及び第2の各犯行について,被告人Aは,どの受験者を合格させるか
などを自ら決定し,消防局職員らに対して犯行を指示するなど,犯行の中心とな
る重要で必要不可欠な役割を果たしている。被告人Aは,消防局担当助役であっ
たところ,自らの地位と権限の重要性に対する自覚を欠いた無責任な犯行と言わ
ざるを得ない。呉市出身者を消防局職員として採用することで呉市の就職難を少
しでも解消したいという思いや,消防職員の採用に当たっては学力よりも体力を
重視すべきとの持論から,あるいは,呉市長や同僚の助役である被告人Bから特
定の受験者を合格させるよう依頼があったというが,助役としての本分を取り誤
るものであり,到底その職務の公平性をなおざりにする犯行を正当化する理由と
はならない。
判示第3の犯行について,被告人Aは,市長である共犯者の議会対策等を慮り,
共犯者らとの相談の上で犯行に及んだものであるが,やはり自らの職責に対する
自覚を欠いていたと言わざるを得ない。
4被告人Bについて
被告人Bは,判示第1の各犯行について,各虚偽公文書の決裁権者であり,判
示第2の犯行においては,受験者のうち1名について,被告人Aにこれを合格さ
せるよう持ちかけるなど,重要で必要不可欠な役割を果たしている。被告人Bは,
知人からその親族を呉市消防吏員採用試験に合格させるよう依頼されて被告人A
にその協力を求めたり,被告人Aから特定の受験者を合格させることへの協力を
求められてこれに応じたりして各犯行に及んだというが,職員採用の公平性をな
いがしろにすることは到底許されない。判示第3の犯行についても,有力者が推
薦した特定の受験者を不正に合格させようという周囲の提案に加担したものであ
って,やはり無責任と言わざるを得ない。
5このように,被告人両名は,市政の中心となって職務執行の公平性を強く期待
される助役という重要な地位にありながら,その職責に背いて本件各犯行を敢行
したものであり,その刑事責任は重い。
6しかし,被告人両名は,いずれも,直接自らの利益を図ろうとしたものではな
いこと,各犯行について反省の情を示していること,これまで公務員として実直
に勤務し呉市民のために尽くしてきていること,被告人Aについては健康上の不
安を抱えていることなど配慮すべき事情がある。
そこで,以上の諸事情を総合考慮の上,被告人両名について,いずれもその刑
の執行を猶予することが相当と判断した。
(求刑−被告人両名につきそれぞれ懲役2年)
平成19年1月22日
広島地方裁判所刑事第一部
裁判長裁判官細田啓介
裁判官飯畑正一郎
裁判官稲田康史

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