弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高見之忠の上告趣意第一点について。
 犯罪事実を直接証明する証拠がない場合でも、証拠によつて諸般の事実を認定し、
その認定された事実から推理して犯罪事実を認定することのできることは当裁判所
の判例とするところである(昭和二三年(れ)七九九号同年一一月一六日第三小法
廷判決、集二巻一二号一五四九頁、昭和二五年(れ)七二五号同年一〇月一七日第
三小法廷判決、集四巻一〇号二一〇九頁)。この点についての原審の判断は、右判
例の趣旨に副うものであつて何等違法はない。なお、原判決が「推認する」という
語を用いていることは所論のとおりであるが、その意味は原判決の掲げる証拠によ
つて認定できる原判示事実から推理して認定をするという趣旨であつて、その不当
でないことは前記のとおりである。又、論旨引用の大審院判決は右の趣旨を肯定し
た判決であつて、原判決の判断と何等反するところはない。のみならず記録を検討
すると、一審判決挙示の証拠によつて被告人と一審相被告人との間に共謀関係を認
めるに十分であつて、事実誤認は認められない。されば論旨前半の主張は、すべて
採用の限りでない。
 論旨後半は、単なる訴訟法違反の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らな
い。のみならず所論は、被告人が本件配給売渡米を食糧配給公団の代位配給所のた
め保管していたことを前提とするのである。しかし、原判決は所論のごとく被告人
が本件配給売渡米を食糧配給公団の代位配給所のため保管していたもので、一審判
決が判示組合のための保管と認定したのは誤であると断定しているわけではなく、
仮に所論のごとき事実関係であるとしても、その程度の事実誤認は一審判決を破棄
すべき暇疵とは認められないと判断したものであることは判文上明らかである。そ
して記録を調べると、一審判決認定のごとく本件配給売渡米は、食糧配給公団富山
支局から委託を受けて配給業務を行う判示組合に引渡された米であつて、被告人が
右組合長として右組合のため業務上保管していたものと認めることができ、何等事
実誤認はない。従つて所論はその前提をも欠くものといわなければならない。
 同第二点について。
 記録を調べると、一審における検事の訴因、罰条の追加請求書によれば、訴因と
して被告人はA農業協同組合長で同組合の配給係B(一審相被告人)と共謀の上食
糧配給公団富山支局から引き渡された配給売渡米を、富山県知事の推示に従わない
で法定の受配者でないCに対しほしいままに売渡した事実が記載されており、又、
罰条として食糧管理法施行規則四五条の三(昭和二五年一二月二七日農林省令一三
四号による改正後のもの)が示されているのであるが、検事は同審一〇回公判にお
いて裁判官の問に答えて、訴因、罰条の追加請求書中「富山県知事の指示に従わな
いで」とあるのは「法定の除外事由がないのに」という趣旨であると釈明している
のであつて、一審判決においても本件罪となるべき事実として、被告人は一審相被
告人と共謀の上右配給売渡米を「法定の除外事由がないのに」右Cに対して(一)
昭和二五年九月上旬頃に三六〇瓩、(二)同年一〇月下旬頃に三〇〇瓩、(三)同
年一一月中旬頃に一五瓩、(四)同年一一月下旬頃に三六〇瓩をほしいままに売渡
した旨を判示しているところである。そして一審は、右事実に対し刑法二五三条の
外食糧管理法九条一項、三一条、同施行令七条、同施行規則四五条の三を適用した
のである。これに対し原審は、一審が右規則四五条の三を適用したのは誤であつて、
一審の右判示事実中(一)についてはその犯行時における同規則二七条の四、(二)
ないし(四)についてはその犯行時における同規則四五条の四を適用すべきもので
あるが、その法令の適用の誤は判決に影響するところがないと判断しているのであ
る。されば、原判決が何ら公訴なき事実に法令を適用したか又は公訴の提起が刑訴
二五六条に違反した違法があるとの所論は認めることができない。尤も右(一)の
所為はその犯行時における右施行規則二三条(昭和二五年九月一一日農林省令一〇
一号による改正前のもの)(二)ないし(四)の所為はその犯行時における同規則
四一条(同年一二月二七日同省令一三四号による改正前のもの)に違反するものと
して処断すべきであつたのであり、訴因罰条追加請求書記載の罰条中の右施行規則
四五条の三、一審の適用した同規則四五条の三、原審が適用すべきものとした同規
則二七条の四及び四五条の四は、いずれも一審判決判示事実に対する適用法令とし
ては誤であると認めざるを得ない。しかし、本件において右罰条の誤が訴因の追加
請求を無効ならしめるものとは認められない。又、本件食糧管理法違反の罪は、同
法九条の規定にもとずく命令違反の行為として同法三一条の罰則が適用されるので
あるから、右九条、三一条の適用に誤のない原判決には、たとい当該命令規定の適
用について右のような誤があるとしても、その誤は刑訴四一一条を適用すべきもの
とは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三一年一〇月一二日
     最高裁判所第二小法廷
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克
 裁判長裁判官 栗山茂は退官につき署名押印することができない。
            裁判官    小   谷   勝   重

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