弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     上告人A1工業株式会社、同A2の上告を棄却する。
     右上告人両名に関する上告費用は右上告人両名の負担とする。
     上告人A3に対する原判決中昭和二三年一月一日以降同二五年一〇月二
二日迄の期間につき、同上告人に金員の支払を命じた部分を破棄し、本件を東京高
等裁判所に差し戻す。
     上告人A3の上告中その余の部分を棄却する。
         理    由
 上告理由第一点(一)について。
 原判決は被上告人が昭和二二年五月九日本件建物を買受け同年六月九日その旨の
所有権移転登記を了した旨を認定しているのであつて、上告人A3が原審において、
被上告人の同年六月一日以降の賃料の請求に対し、同年六月八日迄の分につき登記
の欠缺を主張してその請求を争つたことは記録上認められないから、右六月一日以
降、同月八日迄の期間につき同上告人に賃料支払義務ありとした原判決に所論のよ
うな違法は認められない。
 同第八点について。
 造作買取代金債権は造作に関して生じた債権であり、建物に関して生じた債権で
はないから、これにより本件建物につき留置権を行使してその明渡を拒み得ないと
解すべきことは当裁判所の判例とするところである(昭和二八年(オ)第七五五号、
同二九年一月一四日第一小法廷判決)。所論はこれと反対の見解に立つものであつ
て、採用できない。
 その他の上告理由について。
 原判決は、被上告人が上告人A3に対し昭和二二年六月中解約を申入れた事実を
認定した趣旨と解し得られるから、借家法三条所定の六月の期間を同年七月一日か
ら起算した点につき原判決に違法があるとはいえない。従つて上告理由第一点(二)
の所論は理由がない。しかし、原判決は「原告(被上告人)は、被告(上告人)A
3が本件建物の中央部分を賃借使用していることを承知の上で買取つたものであつ
て、買受当時の使用目的が原告主張のとおりであるからといつて、それだけでは、
借家法にいう正当の事由があるとするには必ずしも十分でない」と判示した上、「
右解約申入後である昭和二四年七月被告A3は、その賃借部分のうち、三階一二坪
を訴外株式会社D社に敷金七万五千円を受取り、賃料は一ヶ月千五百円の約で、同
二五年二月頃二階裏側六坪を訴外Eに賃料一ヶ月一万円で、同年五月頃、被告(上
告人)A2に権利金六五万円を受取り、賃料は一ヶ月千五百円で何れも原告の承諾
を得ないで転貸した」事実を認定し、右事実をもつて、上告人A3は賃借人として
の信義に著しくそむくものであるから、被上告人は上告人A3に対する本件賃貸借
解約申入につき正当事由を有するに至つたものとし、被上告人が昭和二二年六月中
にした前記解約の申入は正当に帰するから本件賃貸借は同年一二月末日、六月の期
間満了により終了したものと判示している。即ち原判示は賃貸借終了後である昭和
二四年七月以降同二五年五月中迄の間に生じたる事実をもつて、遡つて昭和二二年
六月に被上告人がなした解約申入につき正当事由あるものとするに帰著するのであ
るが、思うに、凡そ被上告人が上告人A3に対してなした前記解約申入により、本
件賃貸借が昭和二二年一二月末日有効に解除されたものとするためには、借家法一
条ノ二にいわゆる正当の事由は、おそくも前記解約申入のなされた昭和二二年六月
当時において存することを要するものと解すべきであるから、前記原判示には、借
家法一条ノ二の解釈適用を誤つた違法があるというべきであつて、上告理由第一点
(三)、第二点乃至第六点において右違法を主張する所論は理由があるものといわ
なければならない。しかし、一方原審は、その判文において、上告人A3の前記無
断転貸の事実に基き「原告(被上告人)が予備的に主張する転貸を理由とする解除
の主張もまた理由がある」と判断している。そして右被上告人の原審における予備
的主張というのは、被上告人は、上告人A3に対し、前記無断転貸を理由とする賃
貸借解除の通知をなし、右通知が同上告人に到達した昭和二五年一〇月二二日をも
つて、本件賃貸借は終了したというのであり、右通知の到達した事実については、
上告人A3の認めて争わないことは、原判決事実摘示により明らかである。それ故、
前記原判示は、右被上告人の予備的主張を容認した趣旨に外ならないと認めること
ができるのであつて、原審の右判断は、原判示事実に徴し相当と認められる。され
ば賃貸借終了を理由として上告人A3に対し本件家屋の明渡を命じた原判決を違法
とする上告理由第七点前段の所論は理由がない。また、同第七点後段の所論は、原
判決の認定に副わない事実を前提とする主張であるから、採るを得ない。(原判決
は「かりに被告A3と前賃貸人との間に右様の黙契があつたとしても」云々といつ
ているのであつて、右様の黙契のあつたことを認定しているのではなく、所論原判
示は仮定の事実を前提とする注意的の説示であるから、この点に対する違法の主張
は採用の限りでない。)
 以上説示したところにより、昭和二五年一〇月二二日、被上告人と上告人A3と
の間の本件賃貸借が終了したことを前提として、上告人等に対し、夫々その占有部
分につきその明渡を命じた部分については、原判決は結局正当であつて、この点に
ついての上告人等の上告は何れも理由がない。しかし、本件賃貸借の終了前と認め
るべき昭和二三年一月一日以降同二五年一〇月二二日迄の期間につき、右期間が賃
貸借の終了後にかかわるものであることを前提として、上告人A3に対し損害金の
支払を命じた部分は、結局違法たるを免れず、上告論旨第七点前段中この点を攻撃
する所論は理由があり、破棄を免れない。そうして右期間における賃料額について
は、なお原審において審理する必要があるものと認められるから、これを原審に差
し戻すべきものとする。
 よつて、民訴三九六条、三八四条、四〇七条、八九条、九五条により、裁判官全
員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
 裁判官岩松三郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎

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