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平成26年9月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(ワ)第19768号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年7月18日
判決
仙台市<以下略>
原告株式会社コンピュータ・システム研究所
同訴訟代理人弁護士岩永利彦
同訴訟代理人弁理士藤原英治
岡山市<以下略>
被告吉備システム株式会社
岡山市<以下略>
被告ケイ・エス・エス株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士平野和宏
同訴訟代理人弁理士森寿夫
木村厚
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,別紙被告製品目録1記載の製品及び別紙被告製品目録2ない
し4記載の製品を組み合わせた製品を生産し,譲渡等(譲渡,貸渡し,電
気通信回線を通じた提供)をし,又は譲渡等の申出をしてはならない。
2被告らは,前項記載の製品を廃棄せよ。
3被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告らは,原告に対し,別紙謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を別紙
謝罪広告掲載条件記載の要領で,同記載の新聞に各一回,掲載せよ。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「労働安全衛生マネージメントシステム,その方法及
びプログラム」とする特許権を有する原告が,被告らによる別紙被告製品目録
1記載の製品(以下「被告製品1」という。)及び別紙被告製品目録2ないし
4記載の製品(以下,それぞれを「被告製品2」又は「被告統合プログラム」,
「被告製品3」又は「被告土木積算プログラム」,「被告製品4」又は「被告
安全管理プログラム」といい,被告製品1及び被告製品2ないし4の組合せを
総称して「被告製品」という。)を組み合わせた製品の譲渡等は原告の特許権
を侵害し,又は侵害するものとみなされると主張して,被告らに対し,特許法
100条1項及び2項,民法709条並びに特許法106条に基づき,①被告
製品の譲渡等の差止め及びその廃棄,②原告の損害3億9600万円(特
許法102条2項により原告が受けた損害の額と推定される被告らが侵害
の行為により受けた利益3億6000万円と弁護士等費用3600万円の
合計)のうち1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,③これとともに信用
回復措置をそれぞれ求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実)
(1)本件特許権(甲1,2)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特
許」という。)を有している。
特許番号第4827120号
発明の名称労働安全衛生マネージメントシステム,その方法及びプ
ログラム
出願日平成17年7月14日
登録日平成23年9月22日
(2)本件特許権に係る発明
本件特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1,16,18の
記載は,本判決添付の特許公報の該当項記載のとおりである(以下,請求項
1に係る発明を「本件システム発明」といい,請求項16に係る発明を「本
件方法発明」といい,請求項18に係る発明を「本件プログラム発明」とい
い,これらを併せて「本件発明」という。)。
(3)被告らによる被告製品の譲渡等
被告吉備システム株式会社は,業として,被告製品2ないし4を生産,譲
渡等し,被告ケイ・エス・エス株式会社は,業として,被告製品2ないし4
を譲渡等している。
(4)本件発明の構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1-A」のようにいう。)。
ア本件プログラム発明
1-A労働安全衛生リスクマネージメント方法をコンピュータに実行さ
せるための労働安全衛生リスクマネージメントプログラムであって,
1-B記憶手段に,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の
各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブル
と,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含
む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブルとを格納
させる格納ステップと,
1-C入力手段に,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入
力させる入力ステップと,
1-D前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテーブルを参照
して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工事名称に基
づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳データを生成
させる内訳データ生成ステップと,
1-E前記危険源評価マスターテーブルを参照して,前記内訳データ生
成ステップにより生成された内訳データに含まれる各要素に基づき,
当該各要素に関連する危険有害要因および事故型分類を抽出し,該
抽出した危険有害要因および事故型分類を含む危険源評価データを
生成させる危険源評価データ生成ステップと,
1-Fを含むことを特徴とする労働安全衛生リスクマネージメントプロ
グラム。
イ本件システム発明
2-A労働安全衛生マネージメントシステムであって,
2-B複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の各々にそれぞれ
関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルと,前記要素に
関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含む危険情報が規
定されている危険源評価マスターテーブルとが格納されている記憶
手段と,
2-C少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入力する入力手
段と,
2-D演算手段を使用して,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マ
スターテーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に
含まれる工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を
含む内訳データを生成する内訳データ生成手段と,
2-E前記演算手段を使用して,前記危険源評価マスターテーブルを参
照して,前記内訳データ生成手段により生成された内訳データに含
まれる各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および
事故型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を
含む危険源評価データを生成する危険源評価データ生成手段と,
2-Fを含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメントシステム。
ウ本件方法発明
3-A労働安全衛生マネージメント方法であって,
3-B記憶手段が,複数の工事名称,および,前記複数の工事名称の
各々にそれぞれ関連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブル
と,前記要素に関連付けられた危険有害要因および事故型分類を含
む危険情報が規定されている危険源評価マスターテーブルとを格納
する格納ステップと,
3-C入力手段が,少なくとも工事名称を含む評価対象工事の情報を入
力する入力ステップと,
3-D演算手段が,前記記憶手段に格納されている前記歩掛マスターテ
ーブルを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる
工事名称に基づき,前記評価対象工事に含まれる各要素を含む内訳
データを生成する内訳データ生成ステップと,
3-E前記演算手段が,前記危険源評価マスターテーブルを参照して,
前記内訳データ生成ステップにより生成された内訳データに含まれ
る各要素に基づき,当該各要素に関連する危険有害要因および事故
型分類を抽出し,該抽出した危険有害要因および事故型分類を含む
危険源評価データを生成する危険源評価データ生成ステップと,
3-Fを含むことを特徴とする労働安全衛生マネージメント方法。
2争点
(1)被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せは1個のプログラムだと評
価できるか
(2)被告製品の譲渡等は本件特許権を侵害し,又は侵害するものとみなされ
るか
ア被告製品は本件プログラム発明の技術的範囲に属するか
イ被告製品の譲渡等が特許法101条1号及び4号,同条2号及び5号に
該当するか
(3)本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認め
られるか
3争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せは1個のプログラ
ムだと評価できるか)について
(原告の主張)
被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せは,規範的に見れば1個のプ
ログラムであり,1個の物である。被告安全管理プログラムは,被告積算プ
ログラムで生成したSKF600からテキスト出力した「工事内容.txt」な
どにより積算連動するのであるから,もともと連動が予定されている機能的
一体性の高い製品である。また,被告製品2ないし4の組合せは,被告製品
1として,1つのパッケージに入れて販売されている。さらに,被告製品の
セットアップ手順書の記載からは,被告積算プログラムと被告安全管理プロ
グラムについては顧客のセット購入を前提としていることが伺われる。
(被告らの主張)
原告が本件発明に対応すると主張する被告製品1又は被告製品2ないし4
の組合せは,1個のプログラムではない。すなわち,被告土木積算プログラ
ム及び被告安全管理プログラムは,それぞれ独立して稼働,機能するプログ
ラムであり,独立したプログラムとして販売されている。被告製品は店頭販
売をしておらず,被告製品2ないし4を併せて購入した顧客に対してこれら
を1つのパッケージに入れて直送することがあるに過ぎない。被告統合プロ
グラムは,被告土木積算プログラムや被告安全管理プログラムを稼働させる
ために各プログラムの起動制御やバージョン管理等を行う必須の基本プログ
ラムであって,被告土木積算プログラムと被告安全管理プログラムとを1個
のプログラムとして統合して利用するものではない。そうであるから,これ
らを組み合わせたもの全体をもって労働安全衛生リスクマネージメントに関
するプログラムと主張する原告の主張は失当である。
(2)争点(2)(被告製品の譲渡等は本件特許権を侵害し,又は侵害するものと
みなされるか)について
ア被告製品は本件プログラム発明の技術的範囲に属するか
(原告の主張)
本件プログラム発明に対応する被告製品の構成は,別紙「被告製品の構
成」の「1本件プログラム発明に対応する被告製品1又は被告製品2な
いし4の組合せの内容」記載のとおりであり,以下に主張するほか,本件
プログラム発明の構成要件を充足することが明らかであるから,本件プロ
グラム発明の技術的範囲に属する。
(ア)構成要件1-B
「歩掛マスターテーブル」は,被告土木積算システム中の歩掛データ
ベース,すなわち「2012_K.mdf」ファイルに当たり,「危険源評価マ
スターテーブル」は,被告安全管理システム中の「AKD2011.mdf」フ
ァイルに含まれるリスクテーブルに当たることなどからして,被告
製品は,構成要件1-Bを充足する。
(イ)構成要件1-D
「内訳データ」に相当するのは,被告土木積算システムの工事内訳
画面中,直接工事費の表題で表された画面を裏付けるデータベース
であり,具体的には,積算システム中のSKF600というファイル
である。「内訳データ」は,少なくとも,各要素,例えば,掘削,押
土,整地作業などの下位概念の作業に関するデータを含むものであり,
様々な工種や工程が混在したいわば工程の集合体のデータを含むから,
SKF600は内訳データに相当する。
仮に「内訳データ」がある特定の工種や工程に関連する要素のみのデ
ータからなるものであると限定的に解釈するしかないとしても,「内
訳データ」であるSKF600は,その中に,特定の工種や工程に関
連する要素のみのデータを現に含んでおり,被告安全管理システムは
要素のみのデータを利用している。そうであるから,その場合には,
SKF600の特定の一部分が「内訳データ」に相当する。
したがって,被告製品は構成要件1-Dを充足する。
(ウ)構成要件1-E
「危険源評価マスターテーブル」は,被告安全管理システム中の
「AKD2011.mdf」ファイルに含まれるリスクテーブルに当たり,被告
安全管理システムにおいては,これを参照して「内訳データ」に当
たるSKF600に含まれる各要素に基づき各要素に関連する危険
有害要因等を抽出し,それを含む「危険源評価データ」を生成して
いる。被告安全管理システムにおいて業務ツリーが介在するとして
も,内訳データの各要素に基づいて危険源評価データを生成するこ
とに変わりはない。したがって,被告製品は構成要件1-Eを充足す
る。
(被告らの主張)
本件プログラム発明と被告土木積算プログラムで作成した積算データを
活用する場合の被告安全管理プログラムとでは,対象作業の選択対象や内
訳データ等において技術思想を異にするから,被告製品が本件プログラム
発明の技術的範囲に属することはない。
仮に本件プログラム発明と被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せ
を対比するとしても,以下のとおり,被告製品は,本件プログラム発明の
技術的範囲に属しない。
(ア)構成要件1-B
本件プログラム発明の「歩掛マスターテーブル」は,「内訳データ」
を作成するために参照され,「危険源評価マスターテーブル」は,
「内訳データ」に含まれる各要素に基づき,「危険源評価データ」を
生成するために参照されるものであり,「内訳データ」との関連が必
須の要素となっているところ,被告安全管理プログラム及び被告土木
積算プログラムでは「内訳データ」が生成されることはない。したが
って,被告製品は,構成要件1-Bを充足しない。
(イ)構成要件1-D
被告安全管理プログラム及び被告土木積算プログラムでは「内訳デー
タ」が生成されることはないから,被告製品は,構成要件1-Dを充
足しない。
原告は,積算データすなわちSKF600なるファイルが「内訳デー
タ」に相当する旨主張するが,SKF600は,被告土木積算プログ
ラムで積算の対象となっている工事全体から抽出したデータであり,
特定の工種のみのデータではなく,全ての工種におけるデータであっ
て,各工種における作業が混在した工程の集合体たる作業データであ
る。すなわち,被告土木積算プログラムは,対象工事に含まれる作業
を歩掛データベースで規定された作業に置き換えて積算データを作成
するものであり,操作者は,設計書に基づいて,工事全体のデータを
入力する必要があり,工程・種別・細別をそれぞれ入力して初めて一
つの工程が対応し,これを繰り返して工事全体の工程の集合体である
積算データ,すなわちSKF600が生成される。被告土木積算プロ
グラムには,被告安全管理プログラムで使用するために,対象範囲を
限定した「内訳データ」を生成するという技術思想は全くなく,被告
安全管理プログラムには積算データから対象範囲を限定して取り込む
という技術思想は全くない。
(ウ)構成要件1-E
被告安全管理プログラム及び被告土木積算プログラムでは「内訳デー
タ」が生成されることはないから,「危険源評価マスターテーブル」
も存在しない。被告安全管理プログラムに格納されているリスクテー
ブルは,被告安全管理プログラムで設定された業務ツリーから作業を
選択するものであり,本件プログラム発明の「危険源評価マスターテ
ーブル」とは異なる。したがって,被告製品は構成要件1-Eを充足
しない。
イ被告製品の譲渡等が特許法101条1号及び4号,同条2号及び5号に
該当するか
(原告の主張)
本件システム発明及び本件方法発明に対応する被告製品の構成は,別紙
「被告製品の構成」の「2本件システム発明に対応する被告システムの
内容」及び「3本件方法発明に対応する被告方法の内容」記載のとおり
であり,上記アと同様に,本件発明の技術的範囲に属する。
被告製品は,OS的に用いられる被告統合プログラム(被告製品2),
土木工事の見積もり等を算出する被告土木積算プログラム(被告製品3)
及び本件発明の作用効果を直接に発揮する被告安全管理プログラム(被告
製品4)の3つのソフトを必須とするから,本件システム発明に係る物
(システム)の生産ないし被告方法の使用「にのみ」用いる物である。
また,被告製品は,本件システム発明ないし本件方法発明による課題の
解決に不可欠である。被告らは,本件訴状の送達により,本件システム発
明ないし本件方法発明を知り,また被告製品をインストールした被告らの
ユーザーが所有等するパソコンないしその使用が本件システム発明ないし
本件方法発明の実施に用いられることを知った。
(被告らの主張)
上記アと同様に,被告システム及び被告方法は,本件発明の技術的範囲
に属さないから,そもそも間接侵害が成立する余地はない。
被告土木積算プログラム及び被告安全管理プログラムは,独立した製品
として販売され,使用されているものであり,経済的,商業的,実用的な
観点から積算プログラムとしての用途があるから,「のみ」要件を満たさ
ない。また,方法の発明については,被告らは,被告安全管理プログラム
及び被告土木積算プログラムをインストールしたパソコンの生産,譲渡等
又は譲渡の申出を行っている訳ではないから,特許法101条4号に該当
しない。
被告土木積算プログラム及び被告安全管理プログラムは,本件発明にお
いて課題解決のために新たに開示する特徴的技術手段を直接形成するもの
ではないから,「発明による課題の解決に不可欠なもの」に当たらず,特
許法101条2号及び5号に該当しない。被告土木積算プログラムと被告
安全管理プログラムを組み合わせたものを1つのプログラムとする解釈は
確立された見解ではないから,「その発明が特許発明であること及びその
物がその発明の実施に用いられることを知りながら」という主観的要件も
満たさない。
(3)争点(3)(本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきも
のと認められるか)について
ア実施可能要件違反,サポート要件違反,明確性要件違反について
(被告らの主張)
本件発明は,構成要件1-D,2-D,3-Dで規定されているとおり,
「内訳データを生成」することを構成要件とするが,本件特許出願の願書
に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明や
特許請求の範囲にはこれを具現する記載が全くなく,出願時の技術常識に
基づいても,当業者はどのように「内訳データを生成」するのかを理解す
ることができないから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能
要件違反を満たさず,特許請求の範囲の記載はサポート要件及び明確性要
件を満たさない。
(原告の主張)
「内訳データ」の生成処理は,ごく基本的なデータベースの処理である。
すなわち,工事名称及び要素という2つの項目が関連付けられたシンプル
なデータベースに対して,工事名称やそれに準ずる検索用コードを検索キ
ーとしてそれに関連する要素を生成するといっただけのものである。そう
であるから,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明や特許請求
の範囲の記載から,どのように「内訳データを生成」するのかを理解する
ことができるのであって,実施可能要件,サポート要件及び明確性要件を
満たしている。
イ進歩性の欠如について
(被告らの主張)
本件特許出願前に頒布された刊行物(乙5)には,本件発明の発明特定
事項のほとんどが記載されており,「危険源評価データ」が生成される点
等についても,公知技術等(乙3,6,7,10ないし13)により当業
者が容易に想到することができるから,本件特許は進歩性を欠く。
(原告の主張)
被告らの主張する刊行物(乙5)の構成は誤っており,本件発明と刊行
物(乙5)に記載された発明との相違点は多数存在し,これらについて,
被告らの主張する公知技術等を組み合わせる動機付けがないし,当業者で
あっても,本件発明の構成に容易に想到することができるとはいえない。
第3当裁判所の判断
1本件の事案に鑑み,争点(2)ア(被告製品は本件プログラム発明の技術的範
囲に属するか)のうち,本件プログラム発明と被告製品1又は被告製品2ない
し4の組合せを対比したときに,被告製品が本件プログラム発明の構成要件1
-Dを充足するかという点について,まず検討する。
(1)本件プログラム発明において,「内訳データ」は,構成要件1-Dの文
言によれば,複数の工事名称,および,複数の工事名称の各々にそれぞれ関
連付けられた各要素を含む歩掛マスターテーブルを参照して,評価対象工事
の情報に含まれる工事名称に基づき生成されるものであり,評価対象工事に
含まれる各要素を含むものである。
そして,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,
「本発明は,建設関連の会社を対象とした労働安全衛生マネージメントシス
テムであって,より詳細には,既に存在し,定量化されている建設工事積算
システムにおける歩掛データや積算データを効率的に利用して,人手やコス
トをかけずに簡易かつ簡便に危険源評価データを自動生成し,このデータを
編集した危険源評価書(表)を出力する労働安全衛生マネージメントシステ
ムを提供することを目的とする。」(段落【0005】),「建設会社では,
多数の工事に関する詳細なデータを含む建設積算(建設情報管理)システム
を導入して,通常の積み上げ方式であってもユニットプライス形式であって
も,工事に含まれる詳細な工程(要素),その各工程の詳細な単価などの蓄
積情報を持つデータデース(さらに,標準統計情報を含む歩掛マスターテー
ブル,当該会社にカスタマイズされた統計情報を含む建設積算データテーブ
ルも含まれている。)を保持している場合が多い。本発明は,建設業界では
このような建設積算システムが導入されている場合があることに着目し,こ
の建設積算システム(本システムから見て外部にあるシステムであるため便
宜上「外部システム」と呼ぶ。)に蓄積されているデータを利用することに
よって,当該建設会社の工事関連の危険源評価データを自動的に生成するこ
とを可能にする。従って,建設会社に建設積算システムが導入されており必
要な工事関連データが存在すればこのデータをそのまま利用することによっ
て,人手をかけずに危険源評価データ(危険源評価表など)を自動的に作成
することが可能となる。」(段落【0014】),「本システム100は,
入力手段の代わりに,受信手段140を使って,外部システム250から,
評価対象工事の名称および前記工事に含まれる各要素の実数値を含む「評価
対象工事データ」をネットワーク200を介して受信することもできる。」
(段落【0027】),「評価対象工事の情報は,別途,工事の名称及びそ
の数量を直接的に入力したり,外部システムから評価対象工事の情報を受信
したりすることもできる。この評価対象工事の情報に基づき,選択した省庁
用の歩掛マスターテーブルを参照して,前記評価対象工事に含まれる各要素
および望ましくはそれらの数量を含む内訳データを演算手段を使用して生成
する(S16a)」(段落【0028】)と記載されていることが認められ
る。
そうすると,本件明細書中の発明の詳細な説明の記載を考慮すれば,本件
プログラム発明の「内訳データ」は,評価対象工事の全範囲における積算デ
ータではなく,当該積算データ等に基づいて,工事名称を入力することによ
り,工事名称と歩掛マスターテーブルを対応付けて,工事に含まれる要素を
抽出するというステップで生成されるものであると解することができる。
(2)証拠(甲6,8,11,13,乙4)及び弁論の全趣旨によれば,被告
土木積算プログラムは,対象工事に含まれる作業を歩掛データベースで規定
された作業に置き換えて積算データを作成することが認められる。これによ
れば,被告土木積算プログラムにおいては,操作者が,工程・種別・細別を
それぞれ入力して初めて一つの工程が対応し,これを繰り返して工事全体の
工程の集合体である積算データ,すなわちSKF600が生成されるという
ものである。換言すれば,操作者は,設計書に基づき,工事全体のデータを
入力する必要があるのであって,このようにして生成されるSKF600は,
工事名称を入力することにより,工事名称と歩掛マスターテーブルを対応付
けて,工事に含まれる要素を抽出するというステップで生成されるものでは
ない。
そうであるから,被告製品のSKF600は,対象工事の全範囲における
積算データであって,本件プログラム発明における「内訳データ」とは生成
過程が異なり,その全体ないし一部をもって「内訳データ」に相当すると見
ることはできない(被告製品のSKF600は,これを本件プログラム発明
に対応させるとするならば,本件明細書記載の外部システムなどから得られ
る評価対象工事の情報に対応するものと解される。)。
(3)したがって,被告製品においては「内訳データ」が生成されないから,
本件プログラム発明の構成要件1-Dを充足しない。
2以上のとおりであって,被告製品は,本件プログラム発明の技術的範囲に属
すると認められない。そして,被告製品において「内訳データ」が生成されな
い以上,その譲渡等は,特許法101条1号及び4号や同条2号及び5号に該
当することもない。原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,
いずれも理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官高野輝久
裁判官藤田壮
裁判官宇野遥子
添付の特許公報は省略する。
(別紙)
被告製品目録1
1商品名
「積算システムメビウスZERO」(被告製品1)
2被告製品1の説明
被告製品1は,被告製品目録2ないし4記載の,被告製品2(統合システ
ム),被告製品3(土木積算システム),被告製品4(安全管理システム)の
各ソフトを必須の一部とする土木積算及び安全管理マネージメントためのパー
ソナルコンピュータ用パッケージソフトである。
(別紙)
被告製品目録2
1商品名
「積算システムメビウスZERO統合システム」(被告製品2)
2被告製品2の説明
被告製品2は被告製品1を構成するパッケージソフトの一つでもあり,「積
算システムメビウスZERO」の各機能(積算機能,安全管理マネージメント機
能など)を制御するものである。
簡単に,「統合システム」ともいう。
(別紙)
被告製品目録3
1商品名
「積算システムメビウスZERO土木積算システム」(被告製品3)
2被告製品3の説明
被告製品3は被告製品1を構成するパッケージソフトの一つでもあり,「積
算システムメビウスZERO」の積算ソフト機能を発揮するものである。
簡単に,「積算システム」ともいう。
(別紙)
被告製品目録4
1商品名
「積算システムメビウスZERO安全管理システム」(被告製品4)
2被告製品4の説明
被告製品4は被告製品1を構成するパッケージソフトの一つでもあり,「積
算システムメビウスZERO」の安全管理マネージメント機能を発揮するもので
ある。
簡単に,「安全管理システム」ともいう。
(別紙)
謝罪広告目録
当社ら,吉備システム株式会社及びケイ・エス・エス株式会社は,当社らの販
売するソフト「積算システムメビウスZERO」が,株式会社コンピュータ・シ
ステム研究所様の特許権を侵害することを知りながら,今まで販売しておりま
した。
その結果,当社らの販売するソフト「積算システムメビウスZERO」が市場
でシェアを伸ばし,ユーザー各位を混乱させ,株式会社コンピュータ・システ
ム研究所様に多大なご迷惑をおかけしました。
ここに,当社の販売するソフト「積算システムメビウスZERO」が株式会社
コンピュータ・システム研究所様の特許権を侵害することを明言するとともに,
速やかに販売を中止し,ご迷惑をおかけした株式会社コンピュータ・システム
研究所様に心よりお詫び申し上げます。
(別紙)
謝罪広告掲載条件
1使用する活字
(1)「株式会社コンピュータ・システム研究所様に対する謝罪文」という見

10.5ポイントのゴシック体
(2)本文
10.5ポイントの明朝体
2掲載場所
記事下広告部とする。
3謝罪広告を掲載する新聞は以下のとおりとする。
(1)朝日新聞全国版
(2)読売新聞全国版
(3)毎日新聞全国版
(別紙)
被告製品の構成
1本件プログラム発明に対応する被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せの
内容
1-a労働安全衛生リスクマネージメント方法をコンピュータに実行させるた
めの労働安全衛生リスクマネージメントプログラムであって,
1-bHDD(ハードディスクドライブ)に,複数の工種・種別など,および,
前記複数の工種・種別などの各々にそれぞれ関連付けられた各種別・細別など
を含む「歩掛選択」画面のデータベースと,前記種別・細別などに関連付けら
れたリスクの内容・原因および事故型を含む危険情報が規定されている「業務
に付随するリスク」の画面のデータベースとを記憶し,
1-cディスプレイ上の「歩掛選択」画面の「工種」→「種別」→「細別」の
選択インターフェースにおいて,少なくとも工種・種別などを含む評価対象工
事の情報をマウスで入力し,
1-d前記HDDに記憶されている前記「歩掛選択」画面のデータベースを参照
して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工種・種別に基づき,前
記評価対象工事に含まれる各種別・細別を含む「工事内訳」画面中「直接工事
費」の表題で表されたデータなどを生じ,
1-e前記「業務に付随するリスク」の画面のデータベースを参照して,前記
「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表されたデータなどに含まれる各
種別・細別に基づき,当該各種別・細別に関連するリスクの内容・原因および
事故型を抽出し,該抽出したリスクの内容・原因および事故型を含む「リスク
確認」画面中「リスク一覧」のデータを生じる,
1-f労働安全衛生リスクマネージメントプログラム。
2本件システム発明に対応する被告システムの内容
被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せをインストールしたシステム(パ
ソコン),すなわち被告システムの内容は,以下のとおりである。
2-a労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパソコンで
あって,
2-b複数の工種・種別など,および,前記複数の工種・種別などの各々にそ
れぞれ関連付けられた各種別・細別を含む「歩掛選択」画面のデータベースと,
前記種別・細別に関連付けられたリスクの内容・原因および事故型を含む危険
情報が規定されている「業務に付随するリスク」の画面のデータベースとが記
憶されているHDDと,
2-c少なくとも工種・種別などを含む評価対象工事の情報を入力するディス
プレイ上のインターフェース及びマウスと,
2-dCPU(中央演算処理装置)を使用して,前記HDDに格納されている前記
「歩掛選択」画面のデータベースを参照して,前記入力された評価対象工事の
情報に含まれる工種・種別などに基づき,前記評価対象工事に含まれる各種
別・細別を含む「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表されたデータを
生じさせる手段と,
2-e前記CPUを使用して,前記「業務に付随するリスク」の画面のデータベ
ースを参照して,「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表されたデータ
に含まれる各種別・細別に基づき,当該各種別・細別に関連する危険有害要因
および事故型分類を抽出し,該抽出したリスクの内容・原因および事故型を含
む「リスク確認」画面中「リスク一覧」のデータを生じさせる手段と,
2-fを含む労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパソ
コン。
3本件方法発明に対応する被告方法の内容
被告製品1又は被告製品2ないし4の組合せをインストールしたシステム(パ
ソコン)による方法,すなわち被告方法の内容は,以下のとおりである。
3-a労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパソコンに
よる労働安全衛生マネージメントの方法であって,
3-bHDDが,複数の工種・種別など,および,前記複数の工種・種別などの
各々にそれぞれ関連付けられた各種別・細別を含む「歩掛選択」画面のデータ
ベースと,前記種別・細別に関連付けられたリスクの内容・原因および事故型
を含む危険情報が規定されている「業務に付随するリスク」の画面のデータベ
ースとを記憶し,
3-cディスプレイ上のインターフェース及びマウスが,少なくとも工種・種
別などを含む評価対象工事の情報を入力し,
3-dCPUが,前記HDDに格納されている前記「歩掛選択」画面のデータベー
スを参照して,前記入力された評価対象工事の情報に含まれる工種・種別など
に基づき,前記評価対象工事に含まれる各種別・細別を含む「工事内訳」画面
中「直接工事費」の表題で表されたデータを生じ,
3-e前記CPUが,前記「業務に付随するリスク」の画面のデータベースを参
照して,前記「工事内訳」画面中「直接工事費」の表題で表されたデータに含
まれる各種別・細別に基づき,当該各種別・細別に関連するリスクの内容・原
因および事故型を抽出し,該抽出したリスクの内容・原因および事故型を含む
「リスク確認」画面中「リスク一覧」のデータを生じる,
3-f労働安全衛生マネージメントプログラムをインストールしたパソコンに
よる労働安全衛生マネージメントの方法。

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