弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告らの各請求を棄却する。
     訴訟費用は原告らの負担とする。
         事    実
 (請求の趣旨)
 一、 被告は、
 1. 原告A1に対し、金一万五〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年四月二六
日から、
 2. 原告A2に対し、金二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年一〇月二
日から、
 3. 原告A3に対し、金三万八〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年七月一六
日から、
 4. 原告A4に対し、金四万二〇〇〇円及びこれに対する昭和四五年一月一六
日から、
 5. 原告A5に対し、金一万六〇〇〇円及びこれに対する昭和四五年七月九日
から、
 6. 原告A6に対し、金一万六三〇〇円及びこれに対する昭和四五年一月一五
日から
 7. 原告A7に対し、金七〇〇〇円及びこれに対する昭和四三年六月一七日か
ら、
 8. 原告A8に対し、金一万円及びこれに対する昭和四五年七月三一日から、
各支払いずみに至るまで年五分の金員をそれぞれ支払え。
 二、 訴訟費用は被告の負担とする。
 三、 仮執行の宣言
 (請求の原因)
 一、 被告は、カラーテレビ受信機等、主として、家庭用電気器具の製造販売を
業とするものであつて、その製造にかかるカラーテレビ受信機等その国内向け家庭
用電気器具(以下「ナシヨナル製品」という。)の殆どすべてを、ナシヨナル製品
を総合的に取扱う卸売業者(以下「代理店」という。)に販売している。
 二、 被告は、ナシヨナル製品の小売価格の維持をはかるため、昭和三九年九月
頃から、少なくとも昭和四六年三月一二日(後記三の同意審決の日)までの間、ナ
シヨナル製品を販売するに当つて、代理店に対し、家庭用電気器具を廉売する販売
業者に対するナシヨナル製品の販売を行なつてはならないとともに、その取引先販
売業者に右販売を行なわせないようにしなければならない旨を指示し、これを実施
させて代理店と取引した結果、右小売価格を維持して来た。
 さらに、被告は、昭和四〇年二月頃から、少なくとも上記昭和四六年三月一二日
までの間、ナシヨナル製品を販売するに当つて、代理店(但し、一部の特約代理店
を除く。)に対し、ナシヨナル製品のうち、季節的製品を除く大部分の製品につい
て、被告が定める卸価格でその取引先販売業者に販売しなければならない旨を指示
して実施させたうえ、その取引先販売業者に対するいわゆるリベートの支払いにつ
いて、被告が定める基準による以外の独自のリベートを支払つてはならない旨を指
示し、かつ実施させて代理店と取引をし、これによつても上記製品の小売価格を維
持してきたものである。
 三、 右二、記載の各事実によれば、被告は、ナシヨナル製品の販売価格の維持
をはかるため、代理店とその取引先販売業者との取引を拘束する条件をつけて、代
理店と取引していたものであり、これは、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関
する法律(以下独禁法と略称するが、本判決では昭和五二年法律第六三号による改
正前の同法を指す。)二条七項、一般指定(昭和二八年公正取引委員会告示一一号
「不公正な取引方法」)八に該当し、同法一九条の規定に違反するものである。
 そこで、公正取引委員会は、被告に対し昭和四二年八月一四日審判手続(昭和四
二年(判)第四号)を開始したところ、昭和四六年三月一二日に至り同意審決がな
され、右審決は確定した。
 四、 1.原告らは、別紙第一表記載の各「契約日」に、各「買受先」から、右
記載の「機種」のカラーテレビ受信機各一台を、同記載の「価額」で買受ける契約
をし、各「支払日」に右代金の支払をした。
 原告らの買受先である各小売業者は、被告が右二、記載の拘束条件を付して販売
した卸売業者から、右受信機を仕入れたものであるから、右小売業者の原告らに対
する価格(小売価格)は、被告のした右二、記載の独禁法違反行為により、不当に
高く維持されていたものであつて、もし、右の違反行為がなければ、原告らが買受
けた各受信機は、高くとも別紙第二表記載の適正価格(C価格ー被告の違反行為な
かりせば形成されるであろう市場価格)を超えることはなかつたものである。
 従つて、原告らは、被告のした右独禁法違反行為により、上記の価額による代金
の支払いを余儀なくされ、そのため、それぞれ右適正価格との差額に相当する額
(前記第二表損害額欄に記載のとおり。)の損害を被った。
 2. 前記C価格は、第二表記載の「まや価格」「井原価格」「D価格」「E価
格」「F価格」を、次のとおり彼是比較考量のうえ決定したものである。
 (一) まず、右表の「仲値」とは、代金の決済を現金でしている家庭電気製品
を取扱う問屋(但し、小売業者に卸す問屋)間において、カラーテレビ受信機が売
買される際形成される市場価格であつて(なお、右表に記載したものは、日本経済
新聞社が上記問屋に照会して現実の売買価格を調査し、これを平均して同紙上に関
東価格及び関西価格として発表したところによる。)、この価格は、メーカーの付
した条件等に拘束されない自由な取引ができる市場で形成されるものであるから、
客観的な価格である。
 そうして、中小企業庁の示すところによれば、昭和四四・四五年当時における、
電気器具小売商の、売上高対総利益率は二一.三%とされているから、これを右
「仲値」に乗じて、小売価格を計算したのが「D価格」である。
 (二) 次に「まや価格」及び「井原価格」とは、それぞれ訴外株式会社まや商
会及び訴外井原電気(個人営業)の仕入れ及び小売価格であるが、これら訴外人
は、東京に店舗を有し、被告の付する条件に拘束されないで自由な取引ができる市
場から、家庭電気製品を自由に仕入れ、かつ自由に販売している小売業者であるか
ら、その仕入価格は、右仲値と同様、本件各受信機の客観的な価格を直裁に示すも
のである。
 (三) また「E価格」は、全国地域婦人団体連絡協議会(以下全国地婦連と略
称する)が各都道府県の連絡協議会に対してした依頼により、傘下の市町村婦人会
が、近隣の電気器具店を無差別に選んで訪問し、カラーテレビ受信機等の店頭実売
価格を口頭で質問調査し、その結果を全国地婦連において集計したものであり、
「F価格」は、公正取引委員会の依嘱を受けた約六〇〇名のモニターが、前同様の
方法によ、つて、公正取引委員会が特定した比較的よく購入される機種の受信機に
ついて、店頭実売価格を質問調査し、その結果を公正取引委員会が集計したもので
あるが、これらのうちには、被告のした前記二、の行為によつて、不当に高くつり
上げられた価格のものも、そのままはいつている。
 (四) さらに、利潤率(すなわち、小売価格から仕入価格を引いたものを、仕
入価格で除したもの。)についてみると、「まや価格」のそれは平均〇・一一七
五、「井原価格」のそれは平均〇・一二二六であり、「仲値」を仕入価格とした
「C価格」のそれは平均〇・一五二である。
 (五) 以上の各価格及び利潤率からみると、「C価格」は、「まや価格」及び
「井原価格」と原告らが支払つた代金額(第二表中の「B価格」)との中間に在る
ことが明らかであるから、これを以て、1に述べた趣旨における適正な価格という
べきである。
 3.被告のした右二、記載の独禁法違反行為と原告らの前記損害との間の因果関
係について、更に次のとおり付言する。
 被告は、右二、記載の措置をナシヨナル製品を総合的、継続的に取扱う多数の代
理店(卸売業者)に対し、いわば一般的、制度的に実施し、しかも、右の措置ない
し被告の行為は実効性を有していたものである(右三、記載の審決がなされたこと
は、とりもなおさず、右の実効性があつたことを示す。)から、本件における右因
果関係の主張としては、原告らが購入した受信機は、いずれも右の代理店から各小
売業者が仕入れて販売したものである、ということで十分であつて、これ以上更
に、被告のいうように、個別的、具体的な因果関係を主張し、かつ立証する要はな
いものと思料する。
 五、 よつて、原告らは被告に対し、独禁法二五条に基づき前記各損害の賠償を
求めるとともに、これらに対する被告の前記独禁法違反行為の後である請求の趣旨
記載の各日から支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払を求め
る。
 六、 なお、審決にあらわれた独禁法違反行為の存否に関する事実関係が、同法
二五条に基づく損害賠償請求事件を審理する裁判所の判断を拘束するか、について
の原告らの見解は、次のとおりである。
 1. まず、正式審決(公正取引委員会の審判において実質的審理の結果なされ
たものをいう。)は、当然右の拘束力を有する。その理由は、(一)独禁法二六条
により、同法二五条の訴訟は、審決が確定した後でなければ提起できないこと、
(二)損害賠償請求に関する民事訴訟における判断と、独禁法違反事件における公
正取引委員会の判断とがくいちがわないよう要請されること、(三)独禁法八〇条
に、いわゆる実質的証拠の法則に関する規定があること、(四)独禁法違反事件の
事実認定を、できるだけ公正取引委員会に集中しておく要請のあること及び(五)
損害賠償請求訴訟が地方裁判所ではなく、東京高等裁判所の専属管轄とされている
ことの五である。
 2. 同意審決も同様拘束力を否定する理由はないと考える。けだし、前記五つ
の理由は同意審判の場合にもまた妥当するうえに、独禁法は、正式審決と同意審決
との間に区別を設けておらず、しかも、同意審決は、行為者において独禁法違反行
為を承認したうえでなされる(独禁法五三条の三参照)ものだからである。
 ところで、被告は、右三、の審判事件において徹底的に争つたうえで、審決案も
作成された後に至つて、本件同意審決を受けたものであるが、被告から同意審決の
申出を受けた当時、審判事件の審理をかさねて結審し、審決案も作成されていた公
正取引委員会には、既に事案に対する心証ができ上つていたと推測されるから、被
告が審判開始決定書記載の事実と法令の適用を認めて同意審決を申出た場合、公正
取引委員会が認定した事実関係と右事実とがくいちがつていたならば、公正取引委
員会は右申出を受入れることはなかつたものというべきである。従つてこのような
特段の事情のもとになされた本件同意審決は、その内容をなす事実の真実性におい
て、正式審決とかわりないものというべきであつて、これが拘束力を有することは
いうまでもない。
 3. 右二、に記載したところと、前記審判開始決定書記載の事実との間に、後
記被告指摘のような差異のあることは事実である。しかし、原告ら主張の、小売価
格が維持されたという事実は、右二、記載の被告のとつた措置から当然に生ずるも
のであり、しかも右措置は実効性を有していたのである(前述のとおり、本件同意
審決がなされたのは、このことの証左である。)から、本件同意審決が、その内容
をなす審判開始決定書記載の事実について拘束力を有する以上、当然に上記小売価
格維持の事実についても拘束力を有するものというべきである。仮に、そうでない
としても、小売価格維持の事実は、拘束力を有する上記審判開始決定書記載の事実
から、当然に事実上推定されるものである。
 (被告の本案前の主張)
 一、 「原告らの各訴を却下する。」との判決を求める。
 二、 原告らは、本訴につき、原告たる適格を有しないものである。
 すなわち、本件のような不公正な取引方法という態様の独禁法違反の行為が行な
われた場合には、競争の手段が不公正なため、公正な競争が阻害されるに止まり、
私的独占又は不当な取引制限の場合のように、自由競争機構そのものが破壊され、
拘束されるわけではなく、従つて、一般消費者は自由競争の利益を奪われないか
ら、右行為によつて損害を被ることはない。換言すれば、不公正な取引方法を禁止
することによつて法が達成しようとするところは、公正な競争秩序の維持であり、
上記秩序は事業者間の競争について形成される秩序であるから、その侵害により被
害を受けるのは事業者のみであつて、一般消費者ではない。従つて、一般消費者で
ある原告らは、仮に被告が請求原因二、記載のような行為、すなわち不公正な取引
方法を用いたとしても、それによつて損害を被るものではないから、本訴のような
損害賠償の請求をなす利益はなく、これが訴を提起する適格を持たない。もつと
も、不公正な取引方法の結果、販売業者間の競争が阻害された場合には、これによ
り一般消費者も、間接的、反射的に損害を被ることは絶無とはいえないが、そのよ
うな事実上の、間接的な損害発生の可能性をもつて、本件の原告らに原告適格ない
し訴の利益を肯定することはできない。
 なお、私的独占及び不当な取引制限と不公正な取引方法との、取引上の自由競争
に及ぼす影響に、画然たる差異があることは、本法二条のそれぞれの定義(五項及
び六項と七項)を見れば直ちに明らかであるが、更に、前者には重い罰則があり、
後者には何等罰則がない事実に顧りみればいつそう明白であろう。
 (請求原因に対する答弁等)
 一、 「原告らの各請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判
決を求める。
 二、 請求原因一、記載の事案及び同三、記載の事実のうち、原告ら主張の審判
手続が行なわれ、同意審決がなされ、右審決が確定したことは認める。同三、記載
のその余の事実及び同二、記載の事実は、すべて争う。
 特に、被告が小売価格を維持ないし規制したことなど全くない。けだし、本件審
判において問疑された事実は、被告が代理店に対し、(一)その販売先、(二)卸
価格及び代理店が支払うリベートを規制する拘束を加えて代理店と取引したことで
あつて、被告が、小売業者の販売価格であるところの小売価格を維持ないし規制し
たとの事実は間疑されておらず、同意審決によつても何ら認定されていないからで
ある。もつとも、審判開始決定書には「小売価格の維持をはかるため……」との記
載があるが、被告はそのような目的を持つたことを否定するものであり、よしんば
被告に右のような主観的意図があつたとうけとられたとしても、独禁法違反の成否
とは関係のないことであつて、ましてや、原告らが主張するように「被告は……昭
和四六年三月一二日までの間……小売価格を維持してきた」などとの事実は、本件
審判において問疑された事実とは全く無関係なのである。このことは、本件訴訟に
関する公正取引委員会の意見(本件記録添付の昭和四七年七月一三日付意見書記載
のもの)が、「この同意審決においては……小売価格自体については認定する必要
がなかつたため、この認定はしていない」と述べていることから明らかである。そ
もそも、本件審判においては、小売価格維持とはどんな意味かさえ何ら明確にされ
なかつたのである。さらに、被告は小売価格を維持ないし規制などしたことがない
という右主張は、被告の違反行為が継続していたとされる期間における被告のカラ
ーテレビの小売実売価格が、原告ら提出の甲第四三号証の三記載のとおり全国的に
区々様々であり、また、原告らの購入価格間においても、全国小売実売価格より低
廉な原告A7の場合を含め、その価格は区々であることから、極めて明白に裏打ち
されているものと考える。そこには、被告が小売価格を制度的、一般的に維持した
という事実は全く見られないのである。
 三、 1.同四、記載の事実のうち、原告らが、その主張の日に、その主張の機
種の受信機を、その主張の者から買受ける契約をしたことは認めるが、同項記載の
その余の事実は、すべて争う。
 2. 前述したように、被告は小売価格維持行為をしていないのであるから、被
告の行為と小売価格維持との間、及び、これらと損害との間には何ら因果関係がな
いのである。このことは又、原告らの被つたとする損害の発生に関する主張が不十
分であることからも言い得るのである。つまり、原告らが、その損害発生に関する
主張のよりどころとしている、いわゆる「自由市場」なるものは、被告が以下にも
述べるとおり、通常のルートとは異なり、一部大都市にのみ存在する特殊なもので
あり、しかも、被告の違反行為があつたとされる期間以前から現在までずつと、そ
の特殊性が変わることなく存在しているものである。従つて、被告の違反行為とか
かわりなく存在している「自由市場」に、その影響が及ばなかつたであろうこと
は、原告ら主張のとおりともいえるが、「自由市場」における価格が、原告らの購
入価格より安いのは、単に、被告の違反行為が及ばなかつた為ではないのである。
すなわち、「自由市場」における価格は、被告の違反行為とは関係なしに、もとも
と安いのであり、原告らの購入価格がそれよりも高いからといつて、被告の違反行
為があつた為であるとする原告らの主張は首肯し難い。
 さらに、視点を変えて見るに、被告製品はすべて、原告らのいわゆる「制度的、
一般的に」拘束を受けていたとされる代理店を通して市場に販売されるのであつ
て、「自由市場」といえども、そこで取扱われる被告製品は、一度は必ず、拘束を
受けていたとされる代理店を経由したはずであり、その販売価格に及ぼす影響は、
「自由市場」以外の市場におけるそれと変わりがない。それでいて、両者の販売価
格に大きな差異が生じるのは、まさしく「自由市場」の特殊性の故であつて、被告
の違反行為により高く買われたとする原告ら主張に、根拠がないことを雄弁に物語
るものといえよう。さらに、原告らは、被告の再販売価格維持行為によつて損害を
蒙つたと繰り返し主張している。再販売価格維持とは、広く一般に解せられるとこ
ろによれば、商品の供給者が、自己の手を離れた後の転売価格を自ら決定し、これ
を維持し、その結果、その商品につき販売業者間の価格競争が絶滅することをい
う。而して、原告らの請求は、被告製品の小売段階における価格維持を原因とする
ものである。しかし、本件同意審決の事実認定中には、被告が小売価格を決定し、
又は小売業者間の価格競争を妨げたということは何処にも記載されていない。現
に、原告らの購入当時、被告の製造販売するテレビ受信機の小売価格が区々であつ
たことは、前記二、に述べたとおりである。小売店間に自由な価格競争が行なわれ
ている以上、原告らがたまたま比較的高い店で買つたとしても、それは原告らの任
意の選択によるものであつて、その損失につき被告が責を負うべき筋合ではない。
以上のように、あらゆる観点からみて、被告の行為と原告らの主張する損害との間
には何ら因果関係はないのである。しかるに原告らは、被告の行為により損害を蒙
つたと主張するのであるから、その被告の行為との因果関係について具体的に主張
すべきであるにもかかわらず、原告らがそれを行なわないのは、原告らの主張とし
て極めて不十分である。
 すなわち、被告が何人に対して、どのような内容の規制をしたかが、被告の具体
的違反行為の内容であり、この被告の違反行為と原告らの被つた損害との間の因果
関係が明らかにさるべきである。しかも、本件において、被告の違反行為とされる
ところは、必ずしも一個の行為ではないのであるから、そのいずれの行為と原告ら
の損害とが、具体的にどのような経路をたどつて結びつくかを明らかにしなけれ
ば、因果関係の主張としては十分でないと考える。そうして、本件において、因果
関係について、右のような主張をすることは、原告らの最少限度の責務であると思
量されるのに原告らはこの責務すら尽していないのであるから、この点だけでも原
告らの請求は失当である。
 3 特に、被告は、原告ら主張の代金額を争うものである。すなわち、まず、原
告ら主張の各代金額には、いずれもアンテナ代とその取付工事費が含まれているか
ら、その合計額一万円は控除さるべきものである。つぎに、原告A1については四
〇〇〇円、同A4については一万八〇〇〇円、同A6については一万〇七〇〇円そ
れぞれ値引きがされているから、これも控除さるべきである。更に、原告A1、同
A3、同A4は銀行ローンの方法によつて、また原告A6は二〇回分割払の方法に
よつて、それぞれ代金を支払つているが、このような支払方法によるときは、金利
のほか、前者については約五%の調査費等が、後者については約八%の集金費、調
査費等がかかり、代金額砥これらを含めて定められているから、右の原告ら主張の
代金額は、当然にその買受けた受信機の代金額とはいえないものである。
 4 かりに、原告らが何らかの損害を被つたとしても、それは原告ら主張のよう
な態様及び額のものではない。
 (一) 原告らの主張は、カラーテレビの小売段階において均一的な「適正価
格」がありうることを前提としているようであるが、カラーテレビは、一般小売
店、大型販売店、百貨店スーパー等において販売され、これら各店舗は、自己の営
業形態、営業基盤、他店とのつり合い、自己の信用及び営業の維持等を考え、適正
と考える利益を仕入価格に加え、相互に競争販売しているのであつて、店舗によつ
て、小売価格は異なり均一ではないし、他方消費者は、各自が適当と考える店舗に
おいて、自由に購入すればよいのであるから、このようにしてそこに形成されるも
のは、むしろ均一でない適正な価格である。従つて原告らの前提とする均一な適正
価格などはありえない。原告らの前記主張は、この点で失当である。
 (二) 原告らが本件において主張している「まや価格」「井原価格」「D価
格」等は、極めて特殊な市場で形成され、またそれを基盤として算定された特殊な
価格であるから、これを以て「C価格」を根拠づけることはできないし、これらの
価格と「B価格」との差が被告の独禁法違反行為により生じたものと推定すること
もできない。
 すなわち、まず、原告らのいう「仲値」は、そのいうところによると、卸売業者
間の取引において形成される価格である。ところで、全国を市場として大量生産さ
れる消費財の流通経路は、生産者↓卸売業者↓小売業者↓消費者の順序をたどるの
が通常であるから、右卸売業者間の取引の如きは、通常のルートから外れたもので
あり、そこで形成されるものは、特殊例外的な価格であり、これを通常の卸売価格
とみることは到底できないから、この「仲値」を基礎として、「適正価格」の算定
を理由づけることは許されない。また、まや商会及び井原電機は、通常の流通経路
によつて商品を仕入れることは殆どなく、特殊な卸売業者から仕入れて販売してい
るものと認められ、家庭電器製品小売業界においても、特異な存在として周知され
ているものであるから、その小売価格は、その特殊な業態に基因して、通常のそれ
に比して特に低廉なのである。
 従つて、このような価格を基礎として、適正価格を判断することは、これまた許
されない。
 一般に家庭用電化製品は、高度の技術的要素をもつ耐久消費財であつて、小売業
者としては、常時生産者又は卸売業者から技術的な指導、情報、部品の供給等を受
けなければならないこと等の理由により、その流通経路は、前記のとおり単純化す
る傾向にあるのが実情であつて、原告らのいう自由な市場とは、この流通経路を外
れたところで形成されたもので、結局、一部の特殊な店が、資金ぐりや倒産のため
放出された商品(いわゆる金融品、換金物)等を、現金問屋と呼ばれるものから非
常な安値で買受けて、販売している市場を指すものであるが、このような市場は、
比較的大都市にのみ存する極めて小さなもので、決して全国的一般的なものではな
い。このように、原告らのいう自由な市場とは、極めて特殊なものにすぎないので
あるから、前記のとおり、そこで形成された価格を以て、原告ら主張の「適正価
格」を合理的に理由づけることは到底できないというべきである。
 また、原告らは、その主張の利潤率をも右「適正価格」算定の根拠としている
が、原告ら主張のような、一機種の一販売実例についてのみの利潤率は、その店舗
全体の平均利潤率でも、また小売店の経営が成り立つ基準利益率でもないのである
から、それだけでは、右の根拠としては十分ではない。
 四、 審決の拘束力(その趣旨は、原告らが請求原因六、の冒頭で主張している
とおり。)についての被告の意見は、次のとおりである。
 1 正式審決(その意味は原告らのいうところと同じである)も、その本質にお
いては、行政処分に外ならないから、司法優位の憲法のもとにおいては、明文の規
定のない以上、その拘束力を認めることはできないものというべきところ、右の拘
束力を認める規定はない。
 なお、独禁法八〇条は、いわゆる実質的証拠の法則を定めるが、この規定の合憲
性について疑いがあるうえに、そもそも、右の規定は、審決の取消訴訟に関するも
のであるから、本件の如き損害賠償請求訴訟において、この規定を根拠に拘束力を
認めることはできない。つぎに、同法二六条は、審決の確定を、同法二五条の訴訟
の要件としているが、それは、同法二五条二項が、この訴に限り、異例の無過失責
任を定め、被害者を極度に保護した反面、そのなす訴の提起を慎重ならしめ、その
濫用なきを期したことと、審決未確定の間にこの訴を認めるときは、後に審決が取
消されたときは、折角の損害賠償請求訴訟が無に帰するので、これを防止しようと
することによるものであると解せられるから、右二六条の規定は、審決の拘束力を
肯定する根拠とはなり得ない。なお、同法八四条は、裁判所は遅滞なく「損害の
額」について公正取引委員会の意見を聞くべきものと定めているが、同条は、独禁
法違反の事実については、既に公正取引委員会としては認定ずみであるので、再度
の意見聴取は不要であり、単に「損害の額」についてだけ意見を求めれば足る、と
の趣旨で設けられたものであるから、同条は審決の拘束力とは何の関係もない。
 従つて、正式審決については、拘束力を認めることはできない。
 2. 右のとおり、正式審決についてさえ拘束力を認めることはできないのであ
るから、まして、簡易手続による同意審決に拘束力が認められるわけはない、とい
うべきである。
 (一) まず、第一に同意審決には、正式審決におけるような証拠に基づく事実
認定はない。従つて、拘束力を考える余地がない。
 (二) もつとも、独禁法五三条の三によると同意審決は、被審人において審判
開始決定書記載の事実を認めたときになされることになつている。ところで、同意
審決は勧告審決と共に、公正取引委員会と被審人とが妥協ないし合意によつて、簡
易迅速に、同法違反の行為を排除するという行政目的を達成するための制度である
ことを考えると、右五三条の三が同意審決につき「被審人が、審判開始決定書記載
の事実及び法律の適用を認めて」と規定するのは、右述の制度の趣旨にそわない不
当ないし不要なものというべきである。従つて、同意審決にあたり被審人が右の事
実を認めたといつても、それは法の擬制に基づいて認めるはかなかつたと評価すべ
く、右事実を真実存在するものとして積極的に自認したというのではなく、むし
ろ、消極的に「強いて争わない」という程度の意味をもつに過ぎないものと解すべ
きである。従つて、上記の点は、拘束力を肯定する理由とはならない。
 かりにそうでないとしても、前記の事実を認めたのは審判手続においてであるに
すぎないから、手続を異にする本件訴訟においてもまた、被告が当然に右の事実を
認めたことになるわけのものではない。
 (三) また、一般に審判開始決定書記載の事実は、極めて粗雑、簡略かつ広汎
であつて到底独禁法違反の事実を特定するに足るものではない。従つて、もし、こ
のような事実を前提にして、同意審決に拘束力を認めると、実際上も著しく不都合
な結果を生ずることになる。
 そうして、本件同意審決においても、一般の例にもれず、審判開始決定書記載の
事実は甚しく不特定である(このことは、右記載自体からも、また右の事実の記載
と同審決主文掲記の排除計画との間に、多くの顕著なくいちがいがあることからも
明らかである。)。
 従つて、この点からもまた、拘束力を肯定することはできない。
 (四) なお、原告ら主張の六、2、後段記載の点には、所論の審判事件を審理
したのは審判官であつて公正取引委員会ではないことを看過した誤りがある。
 3. 原告らは、また、事実上の推定を云々するが、同意審決にあたり、審判開
始決定書記載の事実を認めることの趣旨が右2、(二)のとおりであり、しかも右
の事実の記載が右2、(三)のとおり特定を欠くものであることを考えると、本件
同意審決は、そもそも、これを以て、原告ら主張の推定の基礎となし得ないという
べきである。
 しかも、本件における審判開始決定書記載の事実は、「被告がその取引先卸売業
者である代理店に対し、その販売先及び販売価格(卸売価格)について、拘束条件
をつけて取引した」というのであるから、この事実から、原告らが請求原因二、に
おいて主張する、「被告は、小売価格を維持することを目的とし、その手段とし
て、代理店との取引について拘束条件を付し、もつて小売価格を維持してきた」と
いう事実を、事実上にもせよ推定することはできないというべきである。
 (被告の主張に対する原告らの反論)
 一、 被告の(本案前の主張)二、記載の主張はこれを争う。
 およそ被告のような巨大会社が不公正な取引方法を行なうときは、業界の販売秩
序はこれにより大きな影響を受けるから、その結果一般消費者もまた何らかの影響
を受け、被害を被らざるを得ないものである。従つて、不公正な取引方法の被害者
は、競業関係にある事業者のみであるという被告主張の見解は、学説上も少数説で
あつてこれにくみすることはできない。
 二、 被告の答弁三、3記載の主張について。
 1. アンテナ代とその取付工事費が合計一万円であることは争う。アンテナ代
とその取付工事費として、原告A1については七〇〇〇円、同A6については五五
〇〇円をそれぞれ控除して別紙第一表記載の価額を算出した。原告A4の同表記載
の価額にアンテナ代とその取付工事費が含まれていることは認める。その余の原告
らについては、同表記載の各価額にアンテナ代とその取付工事費が含まれているか
どうかは不明である。
 2. 原告A1については四〇〇〇円、同A4については一万八〇〇〇円、同A
6については五二〇〇円(一万〇七〇〇円ではない)それぞれ値引きがあつたこと
は認めるが、右各値引額はいずれも右表記載の価額に含めていない。
 3. 原告A1、同A3及び同A4が銀行ローンで、また原告A6が二〇回分割
払で購入したことは認めるが、銀行ローンの場合約五%の調査費等が、また二〇回
分割払の場合に約八%の集金費、調査費等がかかることは争う。原告A1について
は一万二〇〇〇円、同A3については二万一七六八円、同A4については一万五九
六〇円を銀行ローンの利息として支払つたが、これらはいずれも右表記載の各価額
に含めていない。また原告A6については、二〇回分割払価格が一七万四〇〇〇
円、現金正価が一五万五〇〇〇円の機種で、その差額一万九〇〇〇円が分割払によ
る金利その他の諸掛りに相当すると考えられ、右表記載の価額はこれを控除して算
出した。
 (証拠)(省略)
         理    由
 (被告の本案前の主張について)
 <要旨第一>独禁法は、事業者間の公正な競争を阻害するおそれがある特定の行為
を不公正な取引方法とし(同法二条七項及び四項)、これを禁止するこ
とによつて公正かつ自由な競争を促進し、ひいて一般消費者の利益を確保しようと
している(同法一条)のであるが、これは、事業者の不公正な取引方法を用いる行
為を放置しておけば、事業者間の競争秩序が侵害され、その結果一般消費者の利益
が害される危険を招くからにほかならない。したがつて、事業者が不公正な取引方
法を用いた場合に、これによつて損害を被る者が競争関係にある事業者のみである
とはいえず、一般消費者も、間接にではあつても、損害を被る場合があるといわな
ければならず、その損害は、単に事実上の反射的なものに過ぎないこともあるが、
各消費者について具体的、個別的に生ずることもあるのである。不公正な取引方法
によつて商品の小売価格が不当に高額に維持された場合に、その維持された価格で
その商品を買受けた消費者は、不公正な取引方法が用いられなければ自由かつ公正
な競争によつて形成されたであろう適正価格との差額につき損害を被つた者であ
り、この損害を目して、不公正な取引方法による事実上の反射的な損害に過ぎない
ということはできない。独禁法二五条の規定により、不公正な取引方法を用いた事
業者が損害賠償の責に任ずべき被害者には、右の場合の消費者を含むものと解すべ
きであつて、原告らは、その意味での被害者として本件損害賠償請求訴訟を提起し
ているのであるから、原告らが一般消費者であることから直ちに本訴につき当事者
適格ないし訴の利益を欠くとする被告の主張は、到底採用しがたいところである。
 (本案について)
 一、 被告が、カラーテレビ受信機等主として家庭用電気器具の製造販売を業と
し、その製造にかかるナシヨナル製品(カラーテレビ受信機等その国内向け家庭用
電気器具)の殆どすべてを、ナシヨナル製品を総合的に取扱う代理店(卸売業者)
に販売していること、公正取引委員会が、被告に対し、独禁法一九条に違反し同法
二条七項、昭和二八年公正取引委員会告示一一号不公正な取引方法の八に該当する
行為があるとして、昭和四二年八月一四日審判手続(昭和四二年(判)第四号)を
開始し、昭和四六年三月一二日同意審決がなされ、同審決が確定したこと、原告ら
が、それぞれ別紙第一表記載の各契約日に、各買受先から、各機種のカラーテレビ
受信機各一台を買受ける契約をしたこと(各価額及びその支払の点を除く。)、以
上の事実は当事者間に争いがない。
 二、 ところで、原告らは、審決に現われた独禁法違反行為の存否に関する事実
関係の認定判断は同法二五条に基づく損害賠償請求事件を審理する裁判所の判断を
拘束すると主張し、被告はこれを争うので、まずこの点について検討する。
 <要旨第二>一般に、公正取引委員会が独禁法違反行為をしている者に対しその違
反行為を排除するための措置を命ずる審決は、その名宛人を受命者とす
る行政処分であつて、名宛人以外の第三者にまで直接効力が及ぶものではなく、第
三者に対する関係において当該名宛人の違反行為の存否を確定するものでもない。
したがつて、審決の認定した独禁法違反行為によつて損害を被つたとしてその賠償
を訴求する第三者は、その審決がなされたことを主張立証するだけでは足りず、被
告に右独禁法違反行為があつたことを主張立証しなければならないのである。しか
し、独禁法が禁止する私的独占、不当な取引制限又は不公正な取引方法に該当する
行為であるかとうかということは、その行為の性質上、経済や事業活動の分野の専
門的かつ具体的な知識をもつてしなけんば判断が困難であり、またそのような行為
があつたことを立証する資料は行為者自身が所持することが多く、右のような知識
も十分でなく強制的な調査権限も有しない者が、被告に独禁法違反行為があつたこ
とを主張立証することは、極めて困難なことである。独禁法二六条一項が、同法二
五条の規定による損害賠償請求権は審決確定後でなければ裁判上主張することがで
きない旨規定しているのは、審決の確定により、事業者の独禁法違反行為があつた
ことを前提として命じられた排除措置義務が確定した後は、被害者は当該事業者に
対し特別の無過失損害賠償を訴求できることとしたものであるが、被害者として
は、それのみにとどまらず、事業者の独禁法違反行為の事実を認定した審決が確定
すれば、その審決及び公正取引委員会が審査(調査)又は審判の手続において収集
した証拠を利用することによつて、事業者の右違反行為の存在を主張立証すること
が容易になるのである。独禁法八〇条、独禁法運用の専門機関である公正取引委員
会のした事実認定を尊重する趣旨の下に、審決取消訴訟について、公正取引委員会
のした事実認定は実質的証拠があるかぎり裁判所を拘束し、その実質的証拠の有無
は裁判所が判断する旨規定しているが、この場合、右規定自体から明らかなよう
に、裁判所が無条件で公正取引委員会の事実認定に拘束されるわけではなく、実質
的証拠の有無についての判断が裁判所の権限として留保されているのであつて、公
正取引委員会の事実認定の尊重はその制約の下での尊重なのである。これは、憲法
三二条、七六条の規定による司法権の行使を侵さないよう配慮したものにほかなら
ない。前記独禁法二六条の規定が、前述の趣旨を超えて、同法二五条の規定による
損害賠償請求権の前提となる事業者の独禁法違反行為の存否を、あたかもいわゆる
先決問題の訴訟と同様に、公正取引委員会の審決によつて確定させ、その審決の事
実認定が損害賠償請求訴訟を審理する裁判所を拘束する趣旨を含むものとすれば、
審決の事実認定が無条件で裁判所を拘束することとなるのであつて、前記八〇条の
ような規定すら欠く右二五条の規定による損害賠償請求訴訟については、審決の事
実認定が裁判所を拘束するものとは到底解することはできない。
 三、 右に述べたように、独禁法二五条の規定による損害賠償請求訴訟につい
て、審決に示された公正取引委員会の事実認定が裁判所を拘束するとはいえないの
であるが、公正取引委員会が独禁法運用の専門機関として準司法的権限を有する行
政委員会であり、独禁法上、前記八〇条の規定にみられるように、公正取引委員会
の事実認定を尊重すべきものとされていることにかんがみると、確定審決の存在が
立証されれば、そこに認定された独禁法違反行為の存在を事実上推定することがで
きるというべきである。そして右損害賠償請求訴訟において、前記のとおり、原告
らが被告の独禁法違反行為を立証することが通常極めて困難であるのに対し、問題
の行為に関する資料は被告が所持していることが多いのであるから、この点から
も、被告がその違反行為の存在を争うときは、右の推定を動かすに足る反証を挙げ
させることが妥当であるということができる。
 本件は同意審決が確定した場合であるけれども、この場合も右と別異に解すべき
理由はない。すなわち、同意審決は、被審人が審判開始決定書記載の事実及び法律
の適用を認め、審判手続を経ないで審判を受ける旨申し出た場合になされるもので
あつて、審決書に示される事実は、公正取引委員会が審査手続において収集した証
拠に基づいて認定した審判開始決定書記載の事実のとおりであるのが通常であり、
公正取引委員会に対しその事実を認め、かつこれに対する独禁法の規定の適用を認
めて審決を受けた被審人は、右に述べたところに従い、前記損害賠償請求訴訟にお
いて、審決に示された審判開始決定書記載の独禁法違反行為の存在を推定されても
やむをえないところであり、これを争うには、その違反行為が客観的に存在するこ
とを疑わしめるような反証を挙げる必要があるとするのが相当であるからである。
 原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証によると、本件同意審決の内容は本
判決末尾添付の別紙審決(写)のとおりであり、事実及び法令の適用については審
判開始決定書の記載が引用されているが、その審判開始決定書の記載は、事実とし
て、被告は、「(一)ナシヨナル製品の小売価格の維持をはかるため、昭和三九年
九月ごろから、ナシヨナル製品を販売するに当つて、代理店に対し、家庭用電気器
具を廉売する販売業者に対するナシヨナル製品の販売を行なつてはならないととも
に、その取引先販売業者に右販売を行なわせないようにしなければならない旨を指
示し、これを実施させて代理店と取引している。(二)また、ナシヨナル製品の代
理店販売価格の維持をはかるため、昭和四〇年二月ごろ、ナシヨナル製品を販売す
るに当つて、代理店(一部の特定代理店を除く。)に対し、ナシヨナル製品のう
ち、季節的製品を除く大部分の製品について、同社(被告会社)が定める卸価格で
その取引先販売業者に販売しなければならない旨およびその取引先販売業者に対す
るいわゆるリベートの支払について、同社(前回)が定める基準による以外の独自
のリベートを支払つてはならない旨を指示し、これを実施させて代理店と取引して
いる。」とし、法令の適用として、右事実によると、被告は「ナシヨナル製品の販
売価格の維持をはかるため、代理店とその取引先販売業者との取引を拘束する条件
をつけて代理店と取引しているものであり、これは、昭和二八年公正取引委員会告
示第一一号不公正な取引方法の八に該当し、独禁法一九条に違反する。」としてお
り、被告は、右事実及び法令の適用を認めて(成立に争いのない甲第三八号証は、
被告が公正取引委員会に提出した同意審決申出書であるが、同書面に「独禁法五三
条の三の規定に基づき」とあるのは、その趣旨を含むものと解すべきである。)本
件同意審決を受けたものであることが明らかであるから、上記の理由により右審決
の引用する審判開始決定書に摘示された被告の独禁法違反行為の存在が事実上推定
されるものとするのが相当である。なおいずれも成立に争いのない甲第三七号証の
一ないし二八(同号証の一七については、さらに一、二)、第三九号証、乙第二な
いし第四号証、第六号証、第一二号証、第一四号証、第一七号証、第一九号証、第
二一号証、第二四ないし第三四号証、第三六ないし第三八号証、第四一号証、第四
三ないし第四九量証並びに前掲甲第三八号証及び乙第一号証によると、被告に対す
る本件独禁法違反事件は、昭和四二年八月一四日審判開始決定がなされた後、審判
官によつて審判手続が進められ、昭和四三年一一月八日の第二六回期日まで証拠調
が行われ、その結果に基づいて審査官及び被審人である被告が意見陳述(被告は結
審後書面で意見を補充した。)の上、昭和四四年五月八日の第二八回期日に結審と
なり、昭和四五年一〇月一日公正取引委員会の審査及び審判に関する規則六六条に
基づく審判官の審決案が作成され、右審決案は前記審判開始決定書記載の事実が摘
示する(一)及び(二)の各指示の撤回を命ずる趣旨のものであつたが、これに対
し被告から同規則六八条に基づく異議申立書が提出されていたところ、昭和四六年
三月一一日に至つて被告から同意審決の申出があり、同月一二日本件同意審決がな
されたことが認められるのであつて、このように、被告が、審判手続における攻撃
防禦を経て右手続が結審となり、審判官の審決案が作成された後になつて、審判開
始決定書記載の事実及び法令の適用を認めて同意審決を受けたことは、前記推定を
一層強めるものといわなければならない。
 被告は、右審判開始決定書記載の事実に摘示された被告の独禁法違反行為の存在
を否認し、特に(一)の「小売価格の維持をはかるため」という目的を有していた
ことを争うのであるが、前記推定を左右するに足る反証は存しない。(証人B1の
証言によると、被告がいわゆる新販売制度を行つた昭和三九年、同四〇年当時、電
器業界では、白黒テレビ受信機の需要がすでに一巡し、一般の景気も不況であつた
のに、各メーカーの設備投資が拡大したため、供給が需要を上廻つて値くずれが起
り、メーカーの業績が非常に悪化した時期であり、被告が新販売制度を行つたの
は、そのためだけではないが値くずれの克服という面もあつたというのであつて、
本件独禁法違反行為について被告に価格維持の目的がなかつたとはいえない。)
 原告らは、被告の右独禁法違反行為は少なくとも本件同意審決のなされた昭和四
六年三月一二日まで継続したと主張し、被告はこれを争うのであるが、被告は本件
同意審決によつて右違反行為の排除措置を命じられており、これは被告が当時なお
違反行為が存続していることを自認し、公正取引委員会も同様に認定したからにほ
かならず、被告の右違反行為は少なくとも本件審決当時まで存続していたものと認
めるのが相当であり、これを覆えすに足る証拠はない。
 さらに原告らは、被告は本件独禁法違反行為によつて少なくとも右時期までナシ
ヨナル製品の小売価格を維持してきたと主張し、被告はこれを争うのであるが、こ
の点は原告ら主張の損害の発生に直接関係するところであるから、後に判断するこ
ととする。
 四、 原告A2については原本の存在及び成立に争いのない乙第五一号証の一、
二により、原告A5については成立に争いのない乙第五四号証の一ないし五によ
り、原告A7については成立に争いのない甲第四五号証並びに原本の存在及び成立
に争いのない乙第五六号証により、原告A8については成立に争いのない甲第四六
号証の一、二により、それぞれ別紙第一表記載の価額欄の金額を買受けたテレビ受
信機の代金として支払日欄の日に支払つたことが認められる。ただし、いずれも右
金額にアンテナ代(取付工事費とも)が含まれているかどうかは明らかでない。
 原告A1については、成立に争いのない乙第五〇号証の一及び三並びに原本の存
在及び成立に争いのない同号証の二によると、本件テレビ受信機の購入は銀行ロー
ンの方法によつたもので(この事実は当事者間に争いがない。)、昭和四四年四月
二五日、販売価格一一万九〇〇〇円、初回金(申込金)一万九〇〇〇円、借入希望
額一〇万円(利息を加え返済金合計額は一一万二〇〇〇円)とする二四回払のロー
ンを申込み、同日四〇〇〇円の値引を受けて(右値引額は当事者聞に争いがな
い。)初回金一万五〇〇〇円を支払つたことが認められ、また右価格にアンテナ代
(取付工事費とも)七〇〇〇円を含んでいたことは同原告の自認するところであ
り、結局同日ごろ本件テレビ受信機本体の代金として一〇万八〇〇〇円を支払つた
ものということができる。
 原告A3については、成立に争いのない乙第五二号証の一、二によると、同原告
も本件テレビ受信機を銀行ローンの方法により購入したものであるが(この事実は
当事者間に争いがない。)、昭和四四年七月一五日購入価格一八万七〇〇〇円、初
回金二万円、借入金一六万七〇〇〇円(利息を加え返済金合計額は一八万八七六八
円)とする二四回払のローン契約を締結し、同月二五日貸出を受けたものと認めら
れるから、右二五日までに一八万七〇〇〇円を支払つたものということができる
が、これにアンテナ代(取付工事費とも)が含まれていたかどうかは不明である。
 原告A4については、原本の存在及び成立に争いのない乙第五三号証の一ないし
四によると、同原告も本件テレビ受信機を銀行ローンの方法により購入したもので
あるが(この事実は当事者間に争いがない。)、昭和四五年一一月八日現金正価一
九万三〇〇〇円のうち一万八〇〇〇円の値引を受け(右値引額は当事者間に争いが
ない。)、初回金四万八〇〇〇円のところ三万円を翌九日支払い、残額一四万五〇
〇〇円(利息を加えた返済金合計額は一六万一五三六円)につき同月一五日二四回
払のローン契約を締結し、その頃までに計一七万五〇〇〇円を支払つたものと認め
られるが、これにアンテナ代(取付工事費とも)が含まれていたかどうかは不明で
ある。
 原告A6については、いずれも成立に争いのない甲第四四号証の一ないし二二及
び乙第五五号証の一並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第五五号証の二によ
れば、同原告は、本件テレビ受信機を二〇回の分割払の方法で購入したものであり
(この事実は当事者間に争いがない。)、分割払価格は一七万四〇〇〇円である
が、初回金二万七七〇〇円のところ五二〇〇円の値引を受けて二万二五〇〇円を昭
和四四年一二月三一日に支払い、残額一四万六三〇〇円を昭和四六年八月九日まで
に分割して支払い、支払額は合計一六万八八〇〇円であつたが、これにはアンテナ
代(取付工事費とも)が含まれているので、テレビ受信機本体のみの代金としては
一六万三三〇〇円となり、なお、右テレビ受信機の現金正価は一五万五〇〇〇円で
あることが認められる。
 五、 ところで原告らは、原告らが本件各テレビ受信機を購入した小売業者は、
被告が前記独禁法違反行為により拘束条件を付して販売した卸売業者からこれを仕
入れたものであり、原告らの購入価格は被告の右違反行為により不当に高く維持さ
れていたもので、右違反行為がなければ、原告らの購入価格は別紙第二表記載の
「C価格」を超えることはなかつたのであるから、原告らはそれぞれこれを超える
額の損害を被つたと主張する。
 被告が、その製造にかかるナシヨナル製品の殆どすべてを、ナシヨナル製品を総
合的に取扱う代理店(卸売業者)に販売していることは、さきに認定したとおりで
あり、被告の本件独禁法違反行為は、ナシヨナル製品の販売価格の維持をはかるた
め、代理店とその取引先販売業者との取引を拘束する条件をつけて、代理店と取引
するものであるから、少なくとも本件同意審決当時まで、右違反行為によつて殆ど
のナシヨナル製品の小売価格が影響を受けていたと推定することができる。しか
し、ナシヨナル製品を小売店から購入した一般消費者が、被告の右違反行為によつ
て損害を被つたとするためには、その損害は、購入価格の全額についてではなく、
その価格のうち被告の違反行為によつて不当に高く維持された部分について生ずる
のであるから、さらに、右価格のうちのいくばくの部分が右不当に高く維持された
部分に当るのかを明らかにしなければならず、その前提として、代理店が、被告か
ら拘束条件を付せられることなく仕入れ、公正かつ自由な競争によつて形成される
卸価格で小売店に販売し、ついで小売店が、代理店から拘束を受けることなく、公
かつ自由な競争の下に、適正な収益を加えて一般消費者に販売する場合に、その小
売価格がいくばくとなるかを明らかにする必要があるのである。
 原告らは、右の意味での適正な小売価格は、別紙第二表記載の「C格」―すなわ
ち、メーカーの条件に拘束されない自由市場である現金問屋間の売買で形成される
いわゆる「仲値」(日本経済新聞紙上に発表されるもの)に、中小企業庁発表の電
気器具小売商の昭和四四年及び同四五年の売上高対総利益率二一・三%を乗じて算
出した同表記載の「D価格」、被告の条件に拘束されない自由市場から仕入れかつ
自由に販売している東京の小売業者である訴外株式会社まや商会及び訴外井原電気
の仕入価格及び小売価である同表記載の「まや価格」及び「井原価格」、全国地婦
連が全国の店頭実売価格を調査して集計した結果に基づく「E価格」、公正取引委
員会が委嘱したモニターによつて全国の店頭実売価格を調査し集計した結果に基づ
く「F価格」、以上を原告らが比較考量して求めた小売価格―であり、利潤率の点
からも、「まや価格」は平均〇・一一七五、「井原価格」は平均〇・一二二六、
「仲値」を仕入価格とする「C価格」は平均〇・一五二であつて、「C価格」が適
正な価格であるということができると主張する。そして鑑定人C1の鑑定の結果
は、全国の平均的電気器具小売店が、原告ら主張の「仲値」で仕入れ、これを自由
な競争条件の下で販売する場合には、その適正な小売価格は、原告ら主張の「まや
価格」及び「井原価格」の水準になるとするものである。
 しかし、右の「仲値」は問屋仲間の現金による取引で形成される価格であるとい
うのであるが、成立に争いのない甲第四一号証の一ないし四並びに証人B2、同B
1及び同B3の各証言を総合すると、右のような現金問屋が取扱う商品には、仕人
の見込違いや資金繰りの必要から換金のため処分されたもの、担保流れのもの、倒
産した店のもの等が含まれており、したがつて右の「仲値」には、被告が代理店に
販売するときの蔵出し価格より下廻るものもあることが認められるので、「仲値」
が果して正常な取引市場において形成されるものであるかどうか多分に疑問があ
り、「D価格」は、右「仲値」に電気器具小売商の売上高対総利益率を乗じたもの
で、成立に争いのない甲第四三号証の一及び二によれば、右率が原告ら主張のとお
りであることは認められるが、これは、全国の小売商の、カラーテレビ受信機のみ
ならず、多種の電気器具の販売、修理等の売上高に対する総利益率の平均であるか
ら、本件の適正な小売価格を探究するのにどの程度参酌すべきものか問題がある。
また「まや価格」及び「井原価格」が別紙第二表記載のとおりであることは、証人
B4及び同B5の各証言並びにこれによつて成立を認めうる甲第四二号証の一ない
し三(同号証の二及び三のうち弁護士春日寛作成部分は成立に争いがない。)によ
つて認めうるのであるが、右各証言によれば、その仕入価格は前記現金問屋から前
記仲値を参考として現金で仕入れた価格であり、また小売価格は薄利多売のかつ現
金売りの方式の経営によるそれであることがうかがわれるのであつて、このような
経営はある程度大きい資金力、取引量等がなければできないのであるから、これら
の価格をもつて、すべての小売店に通ずる一般的に適正な価格であるとすることに
は疑問がある。前記C1鑑定は、「まや価格」及び「井原価格」の仕入価格及び小
売価格が同一ないし近似していることを重視するが、類似の仕入先から仕入れて類
似の経営方式で営業する場合の価格であることを看過している点で、同調しがたい
ものがある。さらに「E価格」及び「F価格」は、成立に争いのない甲第四三号証
の三を参照すると、全国地婦連及び公正取引委員会が、ナシヨナル製一九型カラー
テレビについて、全国を関東甲信越地区、中部地区、関西地区等八地区に分け、各
地区ごとの値引率を調査して求めた平均値引率のうち、原告らの居住地がそれぞれ
属する地区のものを使用して、原告ら購入の各機種の現金正価から値引後の価格を
算出したものである(ただし、この計算方法によれば、別紙第二表の原告A7の
「E価格」は一五万九一三八円が正しいこととなる。)ことが認められるが、右の
各調査時点がいつであるか明らかでなく、一機種のみについてのかなり広い地域の
平均値引率によるものであつて、本件の適正な小売価格を求めるのにどの程度寄与
するものか、疑問である。
 このように、原告らが比較考量したとする各価格及びその算定資料にはそれぞれ
問題がある上、その比較考量によつて「C価格」が導びき出される過程に明確さを
欠くものがあり、右「C価格」をもつて原告ら主張のような適正な小売価格とする
には十分でなく、C1鑑定もまたにわかに採用しがたいところである。
 なお、当裁判所は、本件につき独禁法八四条一項の規定によつて公正取引委員会
の意見を求めたのであるが、同委員会委員長の当裁判所あて昭和四七年七月一三日
付意見書によれば、「本件同意審決においては、被告の家庭用電気器具の小売価格
自体については認定する必要がなかつたため、その認定をしておらず、原告らが前
記審判開始決定書記載の被告の行為によつて生じたとする損害の額については、右
同意審決及びこれに関連して同委員会が知得した資料に基づいて算定することはで
きない。」というのであつて、右意見書は、原告らの主張する損害について判断す
るための資料とすることはできない。
 他に、原告らの各購入価格に、被告の本件独禁法違反行為によつて不当に高額に
維持された部分があるかどうか、及びその額について認定することができるような
証拠はなく、結局、原告ら主張の各損害の点につきこれを認むべき証拠がないこと
に帰する。
 六、 よつて、原告らの各請求はいずれも理由がないものとして棄却するほかな
く、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判
決する。
 (裁判長高等裁判所長官 青木義人 判事 江尻美雄一 判事 小林信次 判事
 蕪山巌 判事 滝田薫)
(別 紙)
<記載内容は末尾1添付><記載内容は末尾2添付>

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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