弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいうが,事案を異にする判例を引用するもので
あって,本件に適切でない。所論にかんがみ,職権で判断する。
1被告人は,第1審判示第8の事実と公訴事実の同一性が認められるわいせつ
略取,強盗強姦罪の被疑事実により勾留され,勾留中求令状として起訴され,同罪
につき新たに発付された勾留状で勾留されたが,同勾留は,その後の数次にわたる
勾留期間更新決定により継続されて第1審判決に至った。その間被告人に対して
は,別件勾留中として,いずれも勾留されないまま,合計7回の追起訴がされ,こ
れらの事件は併合審理された。第1審判決は,第1審判示第1ないし第14の各事
実を認定して,勾留された同第8の罪につき有期懲役刑を,勾留されていない同第
5の罪につき無期懲役刑をそれぞれ選択するなどした上,これらを刑法45条前段
の併合罪と認め,同法46条2項,48条1項により上記無期懲役刑に勾留されて
いない同第10の罪(法定刑は50万円以下の罰金)の罰金刑のみを併科して,被
告人を無期懲役及び罰金15万円に処し,同法21条を適用して,未決勾留日数の
うち,400日をその無期懲役刑に,30日を1日5000円に換算して罰金額に
満つるまでその罰金刑にそれぞれ算入した。そして,原判決もこれを維持した。
2所論は,刑法21条の解釈上,未決勾留日数は勾留された罪の刑を同条にい
う「本刑」としてこれに算入すべきものであり,本件では,無期懲役刑が本刑に当
たるから,第1審判決がした罰金刑への未決勾留日数の算入を原判決が是認したの
は誤りであるという。
そこで検討するに,刑法21条は,裁判所が未決勾留日数の全部又は一部を刑に
算入するのが相当であると認める場合に,勾留事実に係る罪に対する刑に算入する
のを原則とし,この原則によるのが相当でないと認められる特段の合理的理由があ
るときには,非勾留事実に係る罪に対する刑に算入することも許す趣旨と解するの
が相当である。そして,刑法は,併合罪関係にある数罪を併合審理して刑を言い渡
す場合,その数罪を包括的に評価して,それに対し1個の主文による刑を言い渡す
べきものとしているから,勾留事実に係る罪を含む併合罪関係にある数罪について
の刑に未決勾留日数を算入する限り,上記原則に従ったものであり,この理は,本
件のように懲役刑に罰金刑を併科するものであるときでも異なるものではないとい
うべきである。
そうすると,本件は,認定された各罪が併合罪関係にある事案であるから,勾留
されていない事実に係る罰金刑に,併合審理された他の事実に係る未決勾留日数を
算入した第1審判決を維持した原判決には,何ら違法はないというべきである。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁
判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官上田豊三裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平)

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