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平成23年6月29日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成22年(ワ)第18759号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成23年4月18日
判決
札幌市北区<以下略>
原告株式会社プロサイト
同訴訟代理人弁護士森田政明
同補佐人弁理士森正澄
東京都杉並区<以下略>
被告日本ヒューレット・パッカード株式会社
同訴訟代理人弁護士城山康文
同山本健策
同村田真揮子
同訴訟代理人弁理士山本秀策
同補佐人弁理士砂金伸一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,1億2540万円及びこれに対する平成22年6月1
7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,別紙商標権目録1ないし3記載の各商標(以下,それぞれ「原告商
標1」などといい,原告商標1ないし3を併せて「原告各商標」という。)に
ついて商標権(以下,それぞれ「原告商標権1」などといい,原告商標権1な
いし3を併せて「原告各商標権」という。)を有する原告が,被告に対し,被
告が別紙被告商品目録の「被告ヒューレット社製品名」欄記載の各商品(以下
「被告商品」という。)に関する広告に別紙被告標章目録記載1ないし3の各
標章(以下,それぞれ「被告標章1」などといい,被告標章1ないし3を併せ
て「被告各標章」という。)を付し,電磁的方法により提供するなどした行為
が,原告各商標権を侵害すると主張して(商標法25条,37条1号,2条3
項8号),民法709条及び商標法38条3項に基づき,平成19年5月から
平成22年4月までの損害賠償として1億2540万円及びこれに対する訴状
送達日の翌日である平成22年6月17日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。)
(1)当事者
原告は,コンピュータによる事務処理及び技術計算の請負,パッケー
ジソフトウェアの開発及び販売,事務機器販売等を業とする会社である。
被告は,卓上型・携帯型計算機,電子計算機,電子計算機用周辺機器,
民生用電気機械器具,電子応用装置及び通信機械器具並びにそれらの部
品及びそれらの関連機器の研究開発及び製造,前記機械,機器及び製品
のソフトウェアの作成及び製造等を業とする会社である。
(2)原告の商標権
原告は,別紙商標権目録1ないし3の各商標権(原告各商標権)を有
する(甲34,43ないし46)。
(3)被告の行為
被告は,別紙被告商品目録記載の被告商品を販売している(甲48な
いし57,59ないし84)。
2争点
(1)被告による被告各標章の使用が,原告各商標と同一又は類似の商標
を使用するものとして,原告各商標権の侵害行為又は侵害とみなす行為
(商標法37条1号)に該当するか。
ア被告各標章は,被告商品につき商標として使用されているか。
イ被告各標章は,原告各商標と同一又は類似の商標に該当するか。
(2)原告各商標権の効力が商標法26条1項2号により被告各標章に及
ばないか。
(3)ア原告商標1に基づく原告の被告に対する権利行使が権利濫用に当
たるか。
イ原告商標2及び3の商標登録に商標法46条1項1号(同法3条1
項3号)所定の無効事由があり,原告の原告商標権2及び3の行使が
同法39条により準用される特許法104条の3第1項の規定に基づ
き制限されるか。
(4)原告の損害
第3争点に対する当事者の主張
1被告各標章は,被告商品について商標として使用されているか(争点
(1)ア)。
(原告の主張)
(1)被告は,下記ア及びイのとおり,被告各標章を使用している。
ア商品に関する広告等の行為(商標法2条3項8号前段)
(ア)被告商品に関するカタログ(甲9,10)には,「必要な情報へ
の即時アクセスでお客様のビジネスを快適にするクイックルック」,
「ビジネスに欠かせない効率化を追求するHPQuickLoo
kとは?」,「HPノートPCに,『HPQuickLook
2』を搭載」,「電源OFFから個人データにアクセス『HPQ
uickLook2』」等と記載され,上記記載に並列して,被告
標章3が表示されているところ,このような記載のあるカタログの
頒布は,商品に関する広告に商標を付して頒布する行為に該当する。
(イ)被告商品には,キーボード前方に,被告標章2を想起させる図
柄のボタン又はキーが配置されているところ,これは,商品に関す
る広告に標章を付して展示する行為に該当する。
イ電磁的方法による商品情報提供行為(商標法2条3項8号後段)
被告は,被告商品のカタログを電磁的方法により提供するに当たり,
被告ソフトウェアの紹介中に「QuickLook」の文字を使用し,
また,「QuickLookボタン」や「QuickLookキー」
の写真及びこれらの文字を掲載している(甲47ないし57,59な
いし84)ところ,上記掲載は,電磁的方法による商品情報提供行為
に該当する。
(2)被告による上記(1)の行為は,被告商品を「商品」として,被告各標
章をその商標として使用する行為に該当し,原告各商標権を侵害する。
ア商標法上,「商品」の意義について特に定義はされていないが,同
法1条の立法趣旨からすれば,取引市場に提供され,それぞれが選択
と代替性を有する多数の競合する対象物の中から,特定の対象物を目
印(商標)によって選択し入手し得る限りにおいては,その対象物こ
そが商標法上の対象商品であるというのが相当である。
イ被告商品においては,ノート型コンピュータに所定プログラムがバ
ンドル(搭載)されることにより,ノート型コンピュータと同プログ
ラムが結合して,独自のデータアクセス機能を奏する1つのまとまっ
たシステム(以下「データアクセスシステム」という。)を構成する
ものである。このデータアクセスシステムは,ノート型コンピュータ
に,同システム専用に用いられる「ボタン」を設けており,ソフトウ
ェアとハードウエアが構成上機能上不離一体となっている(甲9,1
0)。そして,このデータアクセスシステムは,多数存在する他社同
種のコンピュータシステムとの間で,「クイックルック等」を標章と
して,選択され識別される。
そして,上記データアクセスシステムは,ノート型コンピュータに
構成上機能上不離一体でかつコンピュータと共に授受されるのである
から,上記データシステムのみならず,ノート型コンピュータもまた,
他社の同種のコンピュータとの間で,データアクセスシステムに係る
「クイックルック等」を標章として,選択され識別される。
そうすると,被告商品(コンピュータ)は,多数の競合する対象物
の中から,「クイックルック等」を目印として選択され,入手される
のであるから,被告各標章の付された商品ということができる。
(3)仮に,被告各標章が被告商品を「商品」として使用されているもの
でないとしても,被告による前記(1)の行為は,被告ソフトウェアを
「商品」として,被告各標章をその商標として使用するものであり,か
つ被告商品の商品識別機能をも有するから,被告商品について,原告各
商標権を侵害する。
ア被告各標章の被告ソフトウェアについての使用
被告各標章は,被告の販売するコンピュータ製品において,コンピ
ュータが待機・休止又は停止状態時に,電子メール,カレンダー,作
業,タスク及び連絡先の情報に即時にアクセスすることを可能とする
機能を果たすソフトウェアであって,マイクロソフトの各ウインドウ
ズOSに適合するソフトウェア(以下「被告ソフトウェア」とい
う。)の名称として使用されている。このことは,次の事実から明ら
かである。
被告は,「QUICKLOOK」商標(商願2008-1051
8)を商標登録出願するに当たり,米国出願商標(甲22の1)を優
先権主張の基礎とする優先権証明書提出書(甲89)を提出しており,
上記優先権証明書提出書には,米国出願においてされた被告ソフトウ
ェアの使用証明が宣誓書とともに添付されているのであって,上記優
先権証明書提出書に添付されたヒューレットパッカードデベロップ
メントカンパニーエル.ピー.(以下「米国HP」という。)作成に
係るウェブサイト(「HPQuickLookSoftware
-HPBusinessSupportCenter」)をダウ
ンロードした書面(甲90)には,被告の販売するコンピュータ製品
に使用されるソフトウェアとして「QuickLook」ソフトウェ
アが表示されているから,被告ソフトウェアは,市場において独立し
て商取引の対象とされ,流通の対象となる商品であるということがで
きる。
イ被告商品(完成品)に組み込まれた後の被告ソフトウェア(部品)の
独立商品性について
商標の付された商品が部品として完成品に組み込まれた場合において,
上記組込み後も,その部品が元の商品としての形態ないし外観を保って
いて,その商標が当該部品の商品識別機能を保持していると認められる
場合には,商標権の侵害が成立する(最高裁平成8年(あ)第342号
同12年2月24日第一小法廷決定)。以下に述べるとおり,被告ソフ
トウェアは,コンピュータに組み込まれた後もソフトウェアの存在が明
示され,認識されるのであるから,独立商品性を有し,商品識別機能を
喪失していない。
(ア)「QuickLook」ソフトウェアは,コンピュータに組み込
まれた後も,他のソフトウェアと異なり,それ自体が単体で広告され
る(甲9,10)等,独立商品性を維持している。
(イ)被告商品(コンピュータ)の販売促進広告において,「Quic
kLook」ソフトウェアの表示(甲47~57,59~84)がさ
れており,各カタログの「スペック」の「主なソフトウェア」にその
記載がある。これは,マイクロソフトオフィス等のビジネスソフトウ
ェアもインストールされている場合はその旨表示されているのと同様
である。このように,被告の「QuickLook」ソフトウェアは,
コンピュータをして所定のソフトウェア機能を発揮させるものであり,
これが被告商品(コンピュータ)に組み込まれた後も,そこに当該ソ
フトウェアが存在することが明示され,かつ認識されるのであるから,
独立商品性を維持している。
(ウ)加えて,「QuickLook」ソフトウェアは,被告商品(コ
ンピュータ)への組込み前及び組込み後において,一貫して,「Qu
ickLook」「クイックルック」と表示されているから,一般需
要者及び取引者は,被告ソフトウェアの組込み後においても,ソフト
ウェアについての「QuickLook」商標を認識する。したがっ
て,「QuickLook」商標は,被告ソフトウェアが被告商品
(コンピュータ)に組み込まれた後であってもなお,ソフトウェアに
ついての商品識別機能を保持している。
したがって,上記最高裁決定の趣旨によれば,被告各標章は,部品
たる被告ソフトウェアが完成品たる被告商品に搭載又はインストール
された後も,被告ソフトウェアの識別標章として機能し,その商標と
して使用されているものというべきである。
(エ)被告商品についての商品識別機能
そもそも,コンピュータはそれ自体では機能し得ず,必ずソフトウ
ェアを必要とするものであって,取引者又は需要者は,コンピュータ
の購入に際し,どのようなソフトウェアが搭載されているかをその判
断基準とするものであり,コンピュータのカタログ等においても,基
本ソフト及びアプリケーションソフトの記載は必須項目であるなど,
コンピュータとソフトウェア間には相互補完及び相互依存的な特殊事
情が存在するのであって,一般消費者は,被告ソフトウェアが搭載さ
れたコンピュータを購入したいとの認識をもって被告商品を購入する
ものであるから,コンピュータ購入の際の選択において,ソフトウェ
アの識別標章が,コンピュータの商品識別機能を有することは明らか
である。
したがって,被告各標章は,被告商品の商品識別機能をも有するも
のであり,被告商品に使用されたものとして,原告各商標権を侵害す
る。
(被告の主張)
(1)被告は,被告各標章を使用していないこと
ア被告標章2及び3の使用については否認する。被告は,ウェブサイト
等において,「HPQuickLook(クイックルック)」,「H
PQuickLook」,「HPQuickLook2」,「HP
QuickLook3」,「QuickLookボタン」又は「Qui
ckLookキー」と表示したにすぎず,また,黒地に白抜きで,上段
と下段にそれぞれ「Quick」及び「Look」と表示され,かつ,
上下段にまたがって「2」又は「3」との表示がされた標章(以下,そ
れぞれ「被告標章3-2」「被告標章3-3」という。)を表示したに
すぎないものであって,これらの標章は,それぞれ全体として一体とな
ったものであるから,被告が被告標章2及び3を使用した事実はない。
イまた,原告は,被告商品のキーボード前方に被告各標章を想起させる
図柄のボタン又はキーが配置されており,これが,商品に関する広告等
の行為(商標法2条3項8号前段)に該当すると主張するが,被告商品
のキーボードには,甲49号証及び甲55号証に記載されているとおり
の各図柄が表示されたボタンが配置されているにすぎず,被告商品のキ
ーボード上に被告各標章が表示されているわけではないから,この点に
関し,被告に,同法2条3項8号前段に該当する行為は存在しない。
(2)被告各標章は,被告商品が有する機能の一部を記述的に表示したものに
すぎず,商標法上の「商品」について使用されているものではないこと
アそもそも,商標法において,商標使用の対象は「商品」又は「役務」
であり,ある標章を商標として使用しているというためには,少なくと
も当該標章が「商品」又は「役務」について使用されている必要がある
のであって,商標法における「商品」とは,市場において独立した商取
引の対象として流通に供される物であると解されている(東京高判平成
16年11月30日,東京高判平成13年2月28日等)ところ,下記
(ア)ないし(コ)のとおり,被告各標章は,市場において独立した取引の対
象として流通に供されている何らかの物について使用されているもので
はないから,被告各標章は,「商品」について使用されているものでは
ない。
(ア)甲9,10について
甲9及び10においては,「必要な情報への即時アクセスでお客様
のビジネスを快適にするクイックルック」,「HPのノートPCに,
『HPQuickLook』新搭載」,「うれしい新機能『HP
QuickLook(クイックルック)』がHPのノートPCに新登
場」(甲9),「メールを見るためだけにOSを起動するのは面倒。
そこでHPはノートPCに『HPQuickLook2』を採
用。」(甲10)などと記載されているのみであって,被告標章1は,
被告商品が有する機能のうち,起動を待たずに素早くメール等を見る
ことができる機能についての説明文中の一単語として,または,「Q
uickLook」の読み方を片仮名表記するものとして使用されて
いるにすぎず,被告標章2は,被告商品が有する上記機能についての
説明文中の一単語として使用されているにすぎない。このことは,甲
9において,「必要な情報への即時アクセスでお客様のビジネスを快
適にするクイックルック」との記載に続けて,「OFFからでもすぐ
チェック」,「電源がOFFでも,ボタンを押すだけでメールや予定
がすぐ見られる。」などと,「素早く見ること(クイックルック)」
をより具体的に敷衍した説明が記載されていることからも明らかであ
る。
したがって,被告標章1及び2は,被告商品の上記機能を記述した
ものにすぎず,市場において独立した取引の対象として流通している
何らかの物について使用されているものではない。
また,甲10において,「Outlookのメールデータやスケジ
ュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,OSが起動
していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」,「「電源をオフ
してしまったが,今すぐメールをチェックしたい」,そんな時,すば
やくデータにアクセスできるので,忙しいビジネスパーソンにも嬉し
い機能です。」との記載に隣接して,被告標章3-2が掲載されてい
るところ,上記使用態様をみると,被告標章3-2が,被告標章1及
び2と同様に,被告商品の上記機能を記述したものにすぎず,市場に
おいて独立した取引の対象として流通している何らかの物について使
用されているものではないことが明らかである。
(イ)甲47について
甲47においては,「急いでメールや予定をチェックしたいのに,
OSの起動待ちでイライラ。そこでHPはノートPCに『HPQu
ickLook2』を採用。電源OFFからでも専用ボタンを押すだ
けで,メール,スケジュール,電話帳,仕事リストをパッと表示」,
「HPQuickLook2Outlookのメールデータやス
ケジュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,OSが
起動していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」など,コンピ
ュータ機能の説明文中に被告標章2が使用されているにすぎず,被告
標章2は,起動を待たずに素早くメール等を見ることができるという
点を記述したものにすぎないから,同標章が,市場において独立した
取引の対象として流通している物について使用されているものではな
いことが明らかである。
(ウ)甲48,50,52,60ないし62,65,67について
甲48,50,52,60ないし62,65,67において,「H
PQuickLook2」(甲48,61については「HPQui
ckLook3」)は,被告商品の有する特徴のうち,ビジネス用途
に最適な機能の一つとして,「世界をリードする3つのソリューショ
ングループ」の中の「簡易性」グループの中に位置付けられて表示さ
れており,かつ,「電源OFFから個人データにアクセス『HP
QuickLook2』」(甲48,61については「HPQui
ckLook3」)との表示が,「Outlookのメールデータや
スケジュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,OS
が起動していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」との説明文
を付して使用されている。したがって,「HPQuickLoo
k」は製品の一機能の名称にすぎず,被告標章2が,市場において独
立した商取引の対象として流通している物について使用されているも
のではないことが明らかである。
(エ)甲49,51,54,59,63,64,66について
甲49,51,54,59,63,64,66において,「HP
QuickLook3」は,被告商品の有する特徴のうち,ビジネス
用途に最適な機能の一つとして,「世界をリードする3つのソリュー
ショングループ」の中の「簡易性」グループの中に位置付けられて表
示されており,かつ,「QuickLookボタン」との表示が,
「電源OFFから個人データにアクセス『HPQuickLook
3』」というタイトルを付した上で,「『電源をオフしてしまったが,
今すぐメールをチェックしたい』,そんな時,QuickLookボ
タンを押せばすばやくデータにアクセスできるので,忙しいビジネス
パーソンにも嬉しい機能です。」との説明文中で使用されている。し
たがって,「HPQuickLook」は製品の一機能の名称にす
ぎず,「QuickLookボタン」は被告商品が有するクイックル
ック機能をワンタッチで起動させることができる付属ボタンを意味す
るにすぎないから,被告標章2が,市場において独立した取引の対象
として流通している物について使用されているものではないことが明
らかである。
(オ)甲53,55ないし57について
甲53,55ないし57において,「HPQuickLook
3」は,被告製品の特徴のうち,ビジネス用に最適な機能の一つとし
て,「世界をリードする3つのソリューショングループ」の一つであ
る「簡易性」グループの中に位置付けられて表示されており,かつ,
「QuickLookキー」との表示が,「電源OFFから個人デー
タにアクセス『HPQuickLook3』」とのタイトルを付し
た上で,「『電源をオフしてしまったが,今すぐメールをチェックし
たい』,そんな時,QuickLookキーを押せばすばやくデータ
にアクセスできるので,忙しいビジネスパーソンにも嬉しい機能で
す。」との説明文中で使用されている。したがって,「HPQui
ckLook」は製品の一機能の名称にすぎず,「QuickLoo
kキー」は製品の付属キーの名称にすぎないから,被告標章2が,市
場において独立した取引の対象として流通している物について使用さ
れているものではないことが明らかである。
(カ)甲68,74,76,81について
甲68,74,76,81においては,当該被告商品につき列挙さ
れたスペックのうち「ワンタッチボタン」の項目に,「無線オン/オ
フボタン」等の表示と併記して,「QuickLookボタン」の表
示がされているのであって,「QuickLookボタン」との表示
は,被告製品が有するクイックルック機能をワンタッチで起動させる
ことができる付属ボタンを意味するにすぎないから,被告標章2が,
市場において独立した取引の対象として流通している物について使用
されているものではないことが明らかである。
(キ)甲69ないし73,80について
甲69ないし73,80においては,当該被告商品につき列挙され
たスペックのうち「ワンタッチボタン」の項目に,「無線ボタン」等
と併記して,「QuickLookボタン」との表示がされ,かつ,
「プリインストール/プリロード」の項目に,「HPProtec
tToolsセキュリティマネージャー」等と併記して,「HPQ
uickLook」との表示がされているところ,上記各表示のうち,
「QuickLookボタン」については被告製品が有するクイック
ルック機能をワンタッチで起動させることができる付属ボタンを意味
するにすぎず,「HPQuickLook」についてはOSの起動
を待たずに素早くメール等を見ることができる機能がプリインストー
ルされていることを説明するものにすぎないことが明らかである。し
たがって,被告標章2が市場において独立した取引の対象として流通
している物について使用されているものではない。
(ク)甲75,77ないし79について
甲75,77ないし79においては,当該被告商品につき列挙され
たスペックのうち「主なソフトウェア」の項目に,「HPProt
ectToolsセキュリティマネージャー」等と併記して,「HP
QuickLook」との表示がされているところ,上記表示は,起
動を待たずに素早くメール等を見ることができる機能が当該被告商品
にインストールされていることを説明するものにすぎないのであるか
ら,被告標章2が,市場において独立した取引の対象として流通して
いる物について使用されているものではないことが明らかである。
(ケ)甲82,84について
甲82,84においては,当該被告商品につき列挙されたスペック
のうち「ワンタッチボタン」及び「主なソフトウェア」の項目に,そ
れぞれ「HPQuickLook」との表示がされているのであっ
て,上記表示は,起動を待たずに素早くメール等を見ることができる
機能が当該被告商品にインストールされていること及びこの機能をワ
ンタッチで呼び出す付属ボタンが付されていることを説明するものに
すぎないのであるから,被告標章2が,市場において独立した取引の
対象として流通している物について使用されているものではないこと
が明らかである。
(コ)甲83について
甲83においては,当該被告商品のスペックとして列挙された項目
中の「ワンタッチボタン」の項目に,「HPQuickLook」
との表示がされているのであって,上記表示は,起動を待たずに素早
くメール等を見ることができる機能をワンタッチで呼び出す付属ボタ
ンが付されていることを説明するものにすぎないのであるから,被告
標章2が,市場において独立した取引の対象として流通している物に
ついて使用されているものではないことが明らかである。
イこの点につき,原告は,被告ソフトウェアが市場において独立して取
引される商品である旨主張し,その根拠として,米国HPの「Busi
nessSupportCenter」のウェブサイト(甲90)
の記載を挙げているが,仮に,上記主張が,被告ソフトウェアが商標法
上の「商品」に該当するとの主張であるとすれば,当該主張は次のとお
り失当である。
すなわち,上記ウェブサイトは,被告の販売するコンピュータを購入
したカスタマーが,コンピュータに内蔵されるドライバやソフトウェア
等を再インストールするために当該ドライバやソフトウェア等をダウン
ロードしたり,バグ修正等を行った新しいバージョンをダウンロードし
たりすることにより,当該ソフトウェア等を無償で提供するものである。
被告ソフトウェアは,電源をオンにし,OSを起動させたときのみ稼働
する通常のソフトウェアとは異なり,電源がオフの状態でOSの起動を
待たずに専用ボタンを押すだけでメール等を表示させる機能を実現する
ものであり,この機能を出荷時において備えるモデル以外のコンピュー
タにおいて,被告ソフトウェアをダウンロードしたとしても,上記機能
は実現されない。
したがって,被告ソフトウェアは,市場において独立した商取引の対
象として流通に供されるものとはいえず,商標法上の「商品」に当たら
ないことが明らかである。
(3)被告各標章は,被告商品につき商品識別機能を果たす態様で使用され
ていないこと
ア商標は,自己の営業に係る商品を他人の営業に係る商品と識別するた
めの標章として機能する点にその本質があることから,標章の使用につ
き,自他商品識別機能を有しない場合には,商標としての使用とは認め
られないと解されているところ,次のとおり,被告による被告各標章は,
いずれも,被告商品につき,出所表示機能・出所識別機能を果たす態様
で用いられているとはいえない。
イすなわち,「クイックルック(quicklook)」なる用語は,
「クイック(quick)」との語句と「ルック(look)」との語
句を組み合わせて構成されているところ,「クイック(quick)」
とは「素早く。すぐに。」を,「ルック(look)」とは「見る」を
それぞれ意味する語句であることから,「クイックルック(quick
look)」が「すぐに見る」との意味を有することは一見して明らか
である。また,コンピュータ関連分野において,「クイックルック」及
び「quicklook」なる用語は,上記の「すぐに見る」という
意味を有する一般的な用語として広く使用されている(乙2ないし10
7)。
そうすると,「クイックルック」又は「quicklook」との
語句が,原告各商標の指定商品である「電子応用機械器具及びその部
品」について用いられた場合には,この語句に接した一般消費者は,こ
の語句の有する前記意味を想起した上で,被告商品の有する各種機能の
うちの一つである,起動を待たずに素早くメール等を見ることができる
という機能(又は少なくとも何らかの情報を素早く見ることができると
いう機能)を端的に表示したものとして認識することは明らかである。
したがって,被告各標章は,一般消費者において,被告商品が有する
機能の単なる記述又は当該機能の一つの名称であると認識するにとどま
り,商品の特定の出所を識別するための標識であるとは認識されないも
のであるから,自他商品識別機能を有しないため,被告各標章は商標と
して使用されていない。
ウむしろ,被告商品の広告物等(甲9,10,47ないし57,59な
いし84)において一般消費者の目を引くのは,被告又は米国HPのロ
ゴであるところの,左上部に表示されたデザイン化された「hp」の文
字である。また,被告各標章の近傍に表示された英文字(例えば,甲4
8号証では「HPMini5102NotebookPC」)
が被告商品の商品名を表していることも,一般消費者には明らかである。
そうすると,上記広告物等に接した一般消費者は,「hp」の表示や商
品名から被告商品の出所を想起するのであって,被告各標章から出所を
想起するものではなく,被告各標章は,自他商品識別機能を有する態様
で使用されているとはいえないから,上記広告物等における被告各標章
の使用は,商標としての使用に当たらない。
2被告各標章は,原告各商標と同一又は類似の商標に該当するか(争点(1)
イ)。
(原告の主張)
(1)原告商標1と被告標章1について
ア原告商標1は,「QuickLook」の欧文字に,「oo」のやや
中央部に黒点を配記したものであって,「Q」及び「L」を大文字で他
の文字を小文字とする「QuickLook」の外観と,「クイックル
ック」の称呼,「Quick=即」,「Look=見」から「即見
(すぐ見る)」の観念を備える。
イ被告標章1は,片仮名の「クイックルック」を横一連に配してなるも
のである。
ウ原告商標1の称呼は「クイックルック」のみであるから,原告商標1
と被告標章1は,称呼を同一にする社会通念上同一の商標である。また,
被告標章1は,「必要な情報へ即時アクセスでお客様のビジネスを快適
にするクイックルック」(甲9)と表示されていることなどから明らか
なように,「即見(すぐ見る)」の観念を顕在化しているものであり,
本件における具体的な取引状況を勘案すると,原告商標1と被告標章1
が観念において紛らわしい関係にあることが明らかである。
したがって,原告商標1と被告標章1は,商品出所について誤認混同
を生ずるおそれがあるものであり,両者は類似するというべきである。
(2)原告商標1と被告標章2
ア被告標章2は,「Q」及び「L」を大文字で他の文字を小文字とする
「QuickLook」の欧文字を横一連に配してなるものであり,
「QuickLook」の外観と,「クイックルック」の称呼及び「即
見(すぐ見る)」の観念を生じる。
イ原告商標1と被告標章2を対比すると,両者は,外観上,「Q」及び
「L」を大文字で他の文字を小文字とする「QuickLook」の欧
文字を横一連に表記して構成される点で同一商標であり,ただ,原告商
標1は「oo」のやや中央部に黒点を配記したものであるのに対し,被
告標章2にはこれがない点及び原告商標1は「QuickLook」
の欧文字を「oo」の箇所のみ接着し他は等間隔で配置しているのに対
し,被告標章2は「QuickLook」を等間隔に配置している点の
2点のみが異なるものである。このように,両者は外観が酷似し,称呼
も同一であり,「即見(すぐ見る)」の同一観念を生じる。
取引者が外観,称呼,観念を手がかりに商品商標を記憶することにか
んがみた場合,被告標章2は,「QuickLook」の外観,「クイ
ックルック」の称呼,「即見(すぐ見る)」の観念が重畳的又は混在し
たイメージとして記憶され,原告商標1との間で,商品の出所につき誤
認混同を生ずるおそれがあることは明白であるから,両者は類似すると
いうべきである。
(3)原告商標1と被告標章3
ア被告標章3は,黒地背景に白抜きで「QuickLook」を二段に
配し,「Look」の「oo」の文字に点状の模様を配記してなるもの
であり,上下二段に記載されてはいるが,全体として「QuickLo
ok」の外観と「クイックルック」の称呼及び「即見(すぐ見る)」の
観念を生じるものである。
イ原告商標1と被告標章3は,「QuickLook」の欧文字が同一
である上,「Look」の外観が酷似し,称呼及び観念が同一であり,
両者は極めて紛らわしい類似商標である。
(4)原告商標2と被告標章2
原告商標2は,「Q」及び「L」を大文字で他の文字を小文字とする
「QuickLook」の欧文字を横一連に配してなるものであり,被告
標章2と外観,称呼,観念のいずれにおいても一見明らかに同一である。
(5)原告商標3と被告標章1
原告商標3は,片仮名の「クイックルック」を横一連に配してなるもの
であり,被告標章1と外観,称呼,観念のいずれにおいても一見明らかに
同一である。
(6)被告の主張に対する反論
ア取引の実情について
(ア)被告は,取引の実情を考慮すれば,本件において原告各商標と被
告各標章が誤認混同を生じることはない旨主張するが,本件のように
被告各標章が原告各商標と同一の場合は,当然,商品出所の誤認混同
を生ずるので,取引の実情を考慮する余地はない。また,原告商標2
及び3は未使用であるから,類否判断に当たり,原告における取引の
実情を考慮することを要しない。加えて,取引の実情は,指定商品で
あるソフトウェアにおける一般的,恒常的な取引の実情を指し,単に
商標が現に使用されている商品についてのみの特殊的,限定的な状況
を指すものではない。
(イ)また,仮に取引の実情を考慮しても,本件において,なお,商品
出所の誤認混同を生ずるおそれがあることは明白である。
すなわち,原告商品と被告商品はソフトウェアで共通し,主にイン
ターネット上のカタログ販売により宣伝広告され,かつ,取引経路を
共通にするものであり,商品の購入がインターネットや電話取引等で
行われる場合は,商品出所の誤認混同を生ずるおそれがある。
また,原告商品の取引者が,仮に特定の業務に従事する者であると
しても,原告各商標と被告各標章の称呼は全く同一であるから,電話
取引等の口答による取引では,上記特定業務従事者といえども商品を
取り違えることがあり得る。
さらに,原告商品の取引に当たり,事務員等の一般需要者層と同等
の知識レベルの履行補助者が製品を購入することもあるから,当該補
助者がこれらの商品を取り違えることがあり得るものである。
イ「HPQuickLook」等の表示についても,当該標章の要部
は「QuickLook」又は「クイックルック」であって,これらは
原告商標2又は3と外観,称呼,観念が全く同じものであるから,原告
各商標と同一又は類似するものである。
(被告の主張)
(1)商品の類否の判断において,商標の有する外観,称呼及び観念の類似
は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させ
る一応の基準にすぎず,従って,上記の各点につき類似する点があるとし
ても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情によって,何ら
商品の出所を誤認混同するおそれが認められない場合には,商標の類似性
は否定されることになる(最判平成9年3月11日民集51巻3号105
5頁)。
(2)原告商標1と被告標章1について
ア原告商標1と被告標章1を比較するに,原告商標1は,「Quick
L」なる6文字の欧文字と,「k」なる1字の欧文字の間に2つの縦長
の楕円が挟まれており,上記各楕円は間隔を空けずに互いに接し,その
接点を挟む各楕円の内側にそれぞれ黒点が配されており,これらが全体
として横一列に記載されてなるものであり,寄り目で正視する縦長の両
目玉を想起させるという点に特徴がある外観を有しているのであって,
特に,「Look」の部分について上記のような特徴的な外観を有する
ことから,原告商標1が生じさせる「すぐ見る」との観念のうち,「見
る」という部分が殊更に強調される外観を有することになる。
これに対し,被告標章1は,単に片仮名文字を楷書体で横書き一列に
記載したものに過ぎず,外観において特筆すべき特徴はない。
そうすると,原告商標1と被告標章1は,外観において著しく異なる
ことになる。
イまた,取引の実情についてみると,原告商標1は,システム開発を行
う顧客向けのデータベースビューアという販売対象及び用途が極めて限
定されている商品の商品名を表す標準文字商標であり,しかも,上記商
標が使用される商品の対象となるのは,Oracle社が提供する「O
racle9I」以降のデータベース又はマイクロソフト社が提供す
る「SQLServer2000」以降のデータベースに限られる
ところ,これらは,いずれも一般消費者の間で広く使用されているもの
ではない。したがって,原告商標1が付された商品の需要者は,システ
ム開発という特定の業務に従事する企業のみであり,個人消費者はその
対象ではない。これに対し,被告商品は,専門分野を問わず,また,個
人であると企業であるとを問わず,PC関連市場において広く取引され
ているものである。そうすると,被告商品を購入する一般需要者は,被
告商品について,それがシステム開発向けのデータベースビューアでは
ないことは当然に認識しており,その出所が原告であると誤認すること
がないことは明らかである。
ウそうすると,原告商標1と被告標章1は外観において著しく相違して
おり,かつ,取引の実情にかんがみて出所の誤認混同を生じるおそれが
皆無であるから,両者は非類似である。
(3)原告商標1と被告標章2について
ア被告は,被告標章2を単独で使用したことはなく,「HPQuic
kLook」,「QuickLookボタン」又は「QuickLoo
kキー」として使用しているものであるところ,これらのうち,「HP
QuickLook」は,「HP」と「QuickLook」との語が
結合してなるものである。「HP」は,被告及びそのグループ会社の総
称である「Hewlett-Packard(ヒューレット・パッカー
ド)」の略称であって,「H」及び「P」という二つの欧文字からなる
極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなるものであるが,被告
による長年の使用の結果,需要者の間で被告の業務に係る商品の商標で
あると認識されるに至ったとして,商標法3条2項に基づく商標登録が
されている(乙108及び109)。これに対し,「QuickLoo
k」「クイックルック」との語は,「すぐに見る」という意味を有する
一般的な用語として,コンピュータ関連分野において一般に広く使用さ
れており,何ら商品の出所を識別させるものではない(乙2ないし10
7)。
そうすると,強力な出所識別能力を有する「HP」の部分が「HP
QuickLook」の要部となるが,これが原告商標1と類似してい
ないことは明らかである。
また,「QuickLookボタン」及び「QuickLookキ
ー」については,「QuickLook」に「ボタン」又は「キー」が
追加されている点で原告標章1と外観,称呼及び観念が異なる。
加えて,原告商標1は,前記(2)アで主張したとおりの外観を有する
ものであるのに対し,被告標章2は,「QuickLook」なる語を
欧文字で横書きにしたものであり,両者はその外観が著しく異なる。
イさらに,前記(2)ウで主張したとおり,取引の実情を考慮しても,両
者に誤認混同が生ずるおそれは全くない。
ウしたがって原告商標1と被告標章2は非類似である。
(4)原告商標1と被告標章3について
ア被告は,被告標章3につき,上下段にまたがって「2」又は「3」と
表示され,これらが「Quick」及び「Look」の表示と一体とな
ったロゴ(被告標章3-2,被告標章3-3)として使用しているとこ
ろ,上記標章は,黒地に白抜きであり,「Quick」と「Look」
が二段に配されているために全体的な形状が正方形であり,かつ,
「L」と「K」との間に挟まれているのは二つの正円であって,両者は
互いに接することなく間隔を空けて並んでおり,これらがそれぞれ英小
文字の「o」を示すことは明らかである。そして,上記各「o」文字の
内側の頂部には,それぞれ円形の白点が配されることにより,上目遣い
の目玉を想起させる外観を有している。加えて,被告標章3-2,被告
標章3-3では,他の文字よりも格段に目立つ大きさで,白抜きで
「2」又は「3」と記載されている。
これに対し,原告商標1は,前記(2)アで主張したとおりの外観を有
するものであって,両者は外観において著しく相違する。
イまた,前記(2)ウで主張したとおり,取引の実情を考慮しても,出所
の誤認混同が生じるおそれは全くない。
ウしたがって,原告商標1と被告標章3は非類似である。
(5)原告商標2及び3と被告標章1について
前記(2)ウで主張したとおり,取引の実情にかんがみれば,被告製品の
需要者である一般消費者が原告の商品と被告の商品との出所を誤認混同す
るおそれはないのであるから,原告商標2及び3と被告標章1との間で出
所の誤認混同が生じるおそれは皆無であり,これらは非類似である。
(6)原告商標2及び3と被告標章2について
ア前記(3)アで主張したとおり,被告は,被告標章2を「HPQui
ckLook」,「QuickLookボタン」又は「QuickLo
okキー」として使用しているものであるところ,「HPQuick
Look」については,「HP」の部分が要部であって,これは原告商
標2及び3のいずれとも類似せず,また,「QuickLookボタ
ン」及び「QuickLookキー」については,「ボタン」又は「キ
ー」が追加されている点で外観,称呼,観念が異なる。
イ加えて,前記(2)イで主張したとおり,取引の実情を考慮すれば,原
告商標2及び3と被告標章2との間で出所の誤認混同が生じるおそれは
ない。
ウしたがって,両者は非類似である。
(7)原告商標2及び3と被告標章3について
ア被告標章3―2,被告標章3-3は前記(4)アで主張したとおりの外
観を有するものであるところ,原告商標2及び3とは外観において著し
く異なる。
イまた,前記(2)イで主張したとおり,取引の実情を考慮すれば,原告
商標2及び3と被告標章3―2,被告標章3-3との間で出所の誤認混
同が生じるおそれはない。
ウしたがって,両者は非類似である。
3原告各商標権の効力が商標法26条1項2号により被告各標章に及ばない
ものか(争点(2))。
(被告の主張)
(1)争点(1)アに関する被告の主張(3)イで主張したとおり,「クイックル
ック」及び「quicklook」は,コンピュータ関連市場において
一般的に使用される言い回しであり,その意味も含め世の中において広く
認識されているものである。そして,被告各標章は,いずれも普通の書体
で表示されており,何ら特殊な表示は行われていない。
そうすると,被告各標章は,いずれも,起動を待たずに素早くメール等
を見ることができるという被告商品が有する一機能の効能,用途を普通に
用いられる方法で表示したものにすぎないから,原告各商標権の効力は商
標法26条1項2号により被告各標章には及ばないものである。
(2)なお,被告標章3―2,被告標章3-3は,「o」の字に白抜きの点
を一つずつ付すというシンプルなデザインが施されているにすぎず,被告
独自の創作が加えられた格別特異な構成を有するとはいえない。また,被
告標章3は,「Look」の「oo」の部分を両目に見立てたものである
が,被告標章3―2,被告標章3-3が「見る」という意味を有するもの
であることからすれば,横に二つ並んだ「o」から両目を連想することは
たやすく,かつ,ありふれたアイデアに基づくものである。
したがって,被告標章3―2,被告標章3-3も,被告標章1及び2と
同様に,被告商品が有する一機能の効能,用途を普通の書体で表示したも
のに当たる。
(3)したがって,原告各商標の効力は,商標法26条1項2号により,被
告各標章に及ばない。
(原告の主張)
被告の主張は争う。
被告各標章は,単独で取引される被告ソフトウェア,コンピュータに組み
込んだ後における被告ソフトウェア及び被告商品をそれぞれ表示する商標で
あるから,被告商品の効能,用途を普通の書体で表示したものには当たらな
い。
4原告商標1に基づく原告の被告に対する権利行使が制限されるか(争点(3)
ア)。
(被告の主張)
(1)原告商標1は,原告が被告各標章との類似を主張していることから明ら
かなとおり,争点(1)イ被告の主張(2)アで述べた特徴的な外観について要部
を構成するものではなく,ただ単に「QuickLook」との英文字から
成る商標と相違ないことになるところ,「QuickLook」との表示は,
「必要なデータをすぐに取り出す」という機能を示すものとして広く一般的
に使われているから,原告商標1は,コンピュータ関連商品の効能や用途を
普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり,商標登録の
要件を満たしていない(商標法3条1項3号)。
(2)よって,原告商標1は,本来,無効審判により無効とされるべきもので
あるから,除斥期間の経過にかかわらず,原告商標1に基づく原告の被告に
対する権利行使は制限されるべきものである(商標法39条,特許法104
条の3第1項)。
(原告の主張)
被告の主張は争う。原告商標1は,「QuickLook」の欧文字のう
ち,「oo」のやや中央部に黒点を配記してなるものであるところ,原告
商標1は,「QuickLook」自体が下記のとおり自他商品識別機能を有
するものであることから登録されたものであり,原告商標1は商標法3条1項
3号に掲げる商標に該当しないから,原告商標1に基づく原告の被告に対する
権利行使は制限されない。
(1)「QuickLook」が普通名称ではないこと
「QuickLook」及びその唯一の称呼である「クイックルック」は,
辞書等にその意味内容が掲載されていない造語商標である。すなわち,片仮
名の「クイックルック」は,一般的な国語辞典(甲93添付の乙1。以下,
同様に「添付乙1」などという。)や日本語大辞典(添付乙2),広辞苑
(添付乙3)に掲載されていないし,欧文字の「quicklook」も,
英和辞典(添付乙5,6)はもとより,英和大辞典(添付乙7)にも掲載さ
れていない。このように,「QuickLook」は,一般的に使用される
標章ではない。
(2)「QuickLook」の多義性について
「QuickLook」を「quick」「クイック」及び「look」
「ルック」の単語レベルに分解し,これらを組み合わせて用語の意味内容を
検討してみれば明らかなように,「クイックルック」「quickloo
k」は多様な意味をもち,一定したものがない。
すなわち,「クイック」及び「quick」には,「動作のすばやいこ
と。」(旺文社国語辞典),「はやいこと。すばやいこと。」(日本語大辞
典),「索引の作成法の一。」(広辞苑),「動作の速やかなさま。速いさ
ま。」(広辞苑),「①(動作などが)速い,敏速な,②りこうな、(頭の
働き・理解が)鋭い,③短気な」(スタディ英和辞典),「①(動作・行動
などが)速い,すばやい,迅速な,機敏な,②(人が)理解が早い,賢い,
(感覚などが)鋭い,敏感な,③(性質などが)短気な,怒りっぽい,④
(資産などが)すぐ現金化できる,⑤(人が)生きている」(ジーニアス英
和辞典),「①動きの速い,機敏な,敏捷に動く,(進行・手順などが)即
座の,急速な,(…するのに)すばやい,迅速な,②瞬時の,時間のかから
ない,すぐ終わる,「類語」fast,rapid,③せっかちな,性急な,
短気な,がまんのない,④(感情・感覚が)鋭い,鋭敏な,⑤理解が早い,
利口な,賢い,⑥(曲りなどが)鋭い,急な、⑦生きている,⑧(火・炎・
熱が)激しい,燃えさかった,(炉が)熱い,⑨すぐ現金化〔換金〕できる,
当座の,流動性のある,⑩(鉱脈などが)鉱石を含む,生産的な,⑪(衣類
が)ぴったり〔きちんと〕(身に)合う」(プログレッシブ英和大辞典)等
の多様な意味がある。
また、「ルック」及び「look」には,「他の語と複合して,ある雰囲
気を作り出す服装を表す。『サファリ・-』」(旺文社国語辞典),「様子。
スタイル。モード。『カレッジ・―』」(日本語大辞典),「外観。特に服
装についていう。『ミリタリー・-』」(広辞苑),「自動詞①(気をつけ
て)見る,注視する,眺める,②・・・のように見える,・・・のようす〔顔つ
き〕をする,③(家などが)・・・向きである,・・・に面する,④注意する,気
をつける,他動詞①〔人など〕を見つめる,熟視する,②(目つき・表情な
どで)・・・を示す,lookabout:見回す,・・・を探す,look
after:・・・の世話をする,・・・に気をつける,lookaroun
d:・・・を見回す,lookat:・・・に注目する,見る,lookba
ck;ふり返る,lookdown:・・・を見おろす,lookfo
r;・・・を探す,lookforwardto:・・・を楽しみにして待つ,
lookin:・・・を(ちょっと)のぞく,・・・に立ち寄る,looki
nto:・・・の中をのぞく,・・・を調べる,looklike:・・・のよう
に見える,・・・しそうである,lookon:・・・を傍観する,・・・とみな
す,lookout:外を見る,・・・を警戒する,・・・に注意する,loo
kover:・・・にざっと目を通す,lookthrough:・・・を通
して見る,・・・を調べる,lookto:・・・の方を見る,・・・に注意す
る,・・・にたよる,lookup:上をみる,・・・を調べる,looku
pto:・・・をあおいで見る,〔人〕を尊敬する,名詞①見ること,②目
つき,容ぼう,顔つき,外観,様子」(スタディ英和辞典),「自動詞①
(人・動物が)見る,注視〔注目〕する,見ようとする,②(人・物
が)・・・に見える,(外見上)のように見える,・・・に似ている,・・・しそう
だ,・・・らしい,③(家などが)〔・・・の方に〕向く,・・・に面している,④
〔命令形で;しばしば怒りやいらだちを示して〕ほら,いいかい,⑤〔・・・
しようと〕努める,他動詞①(人が)(事)を目つきで示す,態度・顔つき
で表す,②(人が)〔・・・かどうかを〕(見て)確かめよ,調べよ,③
(人)の〔・・・を〕じっと見つめる,直視する,・・・を見つけようとする,捜
す,・・・を調べる,④・・・にふさわしく見える,・・・のように見える,⑤〔・・・
することを〕期待する,⑥(人)を見つめて〔・・・〕させる,⑦〔・・・である
ように〕気をつける,注意する,lookabout:見回す、捜し回る,
lookafter:(人・物)の世話をする,(事)に気をつける、注
意する」(ジーニアス英和辞典)等,多様な意味がある。
そうすると,「QuickLook」は,「すぐに(素早く)見る」すな
わち「quicklook(at)」に限らず,「すぐに見回す『qui
cklook(about),quicklook(aroun
d)』」,「急にふり返る『quicklook(back)』」,「最
初に探す『quicklook(for)』」,「ちょっと立ち寄る『q
uicklook(in)』」,「すぐに中をのぞく『quicklo
ok(into)』」,「急に警戒する『quicklook(ou
t)』」,「せっかちに上を見る『quicklook(up)』」,
「ぴったり合う服装『クイック(プログレッシブ英和中辞典の⑪)ルック
(広辞苑)』」,「短気な様子『クイック(スタディ英和辞典の③)ルック
(日本語辞典)』」,「りこうそうな顔つき『quick(スタディ英和辞
典の②)look(スタディ英和辞典の②)』」,「賢く見える『quic
k(ジーニアス英和辞典の②)look(ジーニアス英和辞典の②)』」等
の意味内容や観念をもつことになる。
このように,「QuickLook」は,極めて漠然とした広範な意味内
容・観念を生ずる造語であることが明白であるから,指定商品「電子応用機
械器具及びその部品」とりわけ「コンピュータ」「ソフトウェア」において,
これらの品質や機能を表示するものでないことは明白である。
(3)「QuickLook」は,「コンピュータ」「ソフトウェア」の分野
において通常使用される言葉ではないこと
「新版コンピュータ英語活用辞典」,「2001-02パソコン用語事
典」,「コンピュータ&情報通信用語事典」,「最新・基本パソコン用語事
典」,「初・中級者のためのパソコン・IT・ネット用語辞典」,「日経
パソコン用語事典2011」には,「quicklook」及び「クイッ
クルック」は掲載されていない。
なお,「最新・基本パソコン用語辞典」(株式会社秀和システム)は,多
数の参考文献及び協力者(社)を擁しているところ,この協力者(社)に被
告が加わっているにもかかわらず,「クイックルック」「quicklo
ok」が掲載されていないことは,これが「コンピュータ」「ソフトウェ
ア」の分野において通常使用される言葉ではないことを裏付けるものである。
したがって,「QuickLook」は,「コンピュータ」「ソフトウェ
ア」の分野において通常使用される言葉ではないことが明白である。
(4)「QuickLook」はソフトウェアの品質等を表示するものではな
いこと
ア「QuickLook」の有する観念が特定のものに収れんされない
ことは前記の通りであるが、「QuickLook」の意味内容のうち
「すぐに(素早く)見る」に着目してみても,これは「ソフトウェ
ア」の品質等を表示するものではない。
すなわち,特許庁商標審査基準は,商標法3条1項3号の規定について,
「4.指定商品の『品質』,『効能』,『用途』等又は指定役務の『質』,
『効能』,『用途』等を間接的に表示する商標は、本号の規定に該当しな
いものとする。」としている。また,「ソフトウェア」は,「コンピュー
タシステム上で何らかの処理を行うプログラムや手続き,およびそれらに
関する文書を指す言葉」(ウイキペディア「ソフトウェア」の項)である。
また,ソフトウェアの品質は,「プログラマの観点からはソースコードの
品質,エンドユーザーの観点からはアプリケーションソフトウェアの品質
を意味する」(ウイキペディア「ソフトウェア品質」の項)ものであり,
さらに,ソースコードの品質としては,可読性,ソフトウェア保守等の容
易性を,また,アプリケーションソフトウェアの品質としては、信頼性を
始めとして,理解可能性,完全性,簡潔性等を意味するものである。
したがって,「QuickLook」が「すぐに(素早く)見る」との
観念を生ずるとしても,何をどのようにして見るのか,どのような操作・
手順によって見るのか,OSに組み込まれているのか,あるいは組み込ま
れていないアプリケーションソフトウェアなのか等について一定したもの
がなく,極めて漠然とした広範な意味を生ずるものである。さらに,「す
ぐに(素早く)見る」は,上記のソフトウェアの品質とは全く乖離してい
るものであることは明らかである。
このように,「QuickLook」は,当該ソフトウェアを用いて何
かを見ることを暗示的に表現したものということはできても,指定商品
「ソフトウェア」との関連において,商品が有する一定の品質を表示する
ものとして一般需要者,取引者に認識されるものでないことは明白である。
イ商標登録の要件に自他商品識別力が要求されるのは日本のみならず各国
も同様であるところ,「QuickLook」に関しては,日本において,
原告各商標に加え,「クイックルック/QuickLook」(登録第5
338895号)及び「QUICKLOOK」(同第5351986号)
が登録されている。また,米国HPは,アメリカ合衆国において,指定商
品を「パーソナルコンピュータ;ノートブック型コンピュータ;コンピュ
ータがスタンバイ又は休止状態時にeメール,カレンダー,タスク及び連
絡先情報にアクセスするためのソフトウェア」として,「QUICKLO
OK」について商標登録を得ている上,上記アメリカ合衆国商標の商標登
録出願を優先権主張の基礎として,同一商標及び同一指定商品について,
世界34か国で商標登録を受けている。これらの事実は,「QuickL
ook」が自他識別機能を有し,ソフトウェアの品質等を表示するもので
はないことを示すものであり,とりわけ,「QUICKLOOK」標章が,
英語を母国語・通用語とし,英語のニュアンスを明敏に看取できる諸国に
おいて登録されている事実は,これが商品の品質等を表示するものでない
ことを示すものである。
ウなお,被告は,日本において,前記イと同一指定商品について「QUI
CKLOOK」を商標登録出願した際に,特許庁から,上記標章は単に商
品の品質(機能)を表示するにすぎないから,商標法3条1項3号に該当
する旨の拒絶理由通知を受けたのに対し,上記標章は本願指定商品の品質
(機能)を明確に表示しているとは認められず,それとなく本願商標の内
容を暗示しているにすぎないのであって,指定商品の品質等を間接的に表
示しているにすぎない等の旨の意見書(甲18)を提出しており,その結
果,上記標章は,商標法3条1項3号には該当しないが,原告商標1に類
似するとして拒絶査定を受けているのであり,上記経緯からも,「Qui
ckLook」がソフトウェアの品質等を表示するものではないことが明
らかである。
5原告商標2及び3の商標登録に商標法46条1項1号(同法3条1項3号)所
定の無効事由があり,原告の原告商標2及び3の行使が商標法39条において準
用する特許法104条の3第1項の規程に基づき制限されるか。
(被告の主張)
(1)最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決の説示によれば,商標法3条
1項3号に該当する商標の類型としては,取引に際し,必要適切な表示として
何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認め
るのを公益上適当としないもの(独占適応性欠如商標)及び一般的に使用され
る標章であっても,多くの場合自他商品・役務識別力を欠き,商標としての機
能を果たし得ないもの(自他商品・役務識別力欠如商標)が挙げられる。
(2)原告商標2及び3は,欧文字「QuickLook」又は片仮名文字「ク
イックルック」を標準文字に書してなる文字商標であり,極めて没個性的で
あって,需要者は,上記商標の意味が「すぐに(素早く)見ること」である
ことを極めて容易に理解することができる。また,上記各商標の指定商品第
9類「電子応用機械器具及びその部品」の範ちゅうに含まれるコンピュータ
又はコンピュータソフトウェアの分野においては,「クイックルック(Qu
ickLook)」は,「すぐに(素早く)見ることができる」という機
能・性能を表示する語句として広く使用されている(乙2ないし107)。
したがって,上記商標は,いずれも必要適切な表示として何人もその使用を
欲する標章(独占適応性欠如商標)であることが明らかである。
(3)また,原告商標2及び3は,いずれもコンピュータ又はコンピュータソフ
トウェアの分野において,「すぐ(素早く)見ること」という意味で一般的
に使用されているものであり,とりわけ,「クイックルック(QuickL
ook)」がコンピュータ関連の辞典に掲載されている事実は,上記語句が
上記分野において一義的な意味を獲得していて,一般的に広く使用されてい
ることの証左であるから,上記商標は,いずれも自他商品識別機能を有しな
い標章(自他商品・役務識別力欠如商標)であることが明らかである。
(4)以上のとおり,原告商標2及び3は,電子応用機械器具及びその部品につ
いて使用された場合,一般消費者において指定商品が有する効能若しくは用
途そのものの記述又はその名称であると認識することが明らかであり,当該
指定商品に使用するときは,商標法3条1項3号に該当して登録要件を具備
しないものであるところ,被告は,原告商標2及び3につき,平成22年1
0月14日付けで特許庁に対し無効審判請求を行っており(原告商標2につ
き乙126,原告商標3につき乙127),上記商標は,いずれも上記商標
登録無効審判により無効とされるべきものであるから,商標法39条,特許
法104条の3第1項により,原告商標2及び3に基づく原告の被告に対す
る権利行使は制限されるべきである。
(原告の主張)
争点(3)アに関する原告の主張と同じ。
6損害額(争点(4))
(原告の主張)
被告が原告各商標権を侵害したことにより原告が被った損害(使用料相当損害
金)は,次のとおり,1億2540万円を下らない(商標法38条3項)。
(1)国内パソコンの出荷台数と被告の市場シェア
平成19年から平成21年にかけての国内パソコンの出荷台数は,調査会社
によって1200万台を切る数値から1400万台を超える数値まで差がある
が,概ね1300万台前後と推測される。また,上記時期における被告の市場
シェアも調査会社により差があるが,概ね8%程度と推測される。
(2)「HPQuickLook」の出荷数
「HPQuickLook」は,平成19年5月に発表と同時に出荷され
たものと推測されるところ,「HPQuickLook」はノート型パソコ
ンだけの搭載で発表され,現在は全ノート型パソコンに搭載されている。
全パソコンにおけるノート型パソコンの比率を,社団法人電子情報技術産業
協会の資料(甲32)から推定すると,平成19年度69.5%,平成20年
度67.8%,平成21年度70.6%と平均69.3%となるところ,「H
PQuickLook」が発売当初から全ノートパソコンに搭載されていた
と仮定すると,「HPQuickLook」の出荷本数は,下記計算式のと
おり,209万本程度と推定される。
1300万本×2.9×0.08×0.693=209万本
(3)商標使用料相当損害金
「HPQuickLook」は,被告ホームページなどで大々的に宣伝さ
れ,被告製のノートパソコンを差別化するための戦略商品とされており,バー
ジョンアップも2回にわたり行われている。
パソコンの価格を概ね10万円と算定し,「HPQuickLook」に
よる付加価値を2%と算定すると,「HPQuickLook」を搭載した
パソコンによって得られた利益は,下記計算式のとおり41億8000万円と
推定される。
10万円×0.02×209万本=41億8000万円
原告の被告に対する商標使用料を3%と考えると,原告の商標使用料相当損
害金は,1億2540万円(41億8000万円×0.03)と算定される。
(被告の主張)
否認する。
第4当裁判所の判断
1被告各標章は,被告商品につき商標として使用されているか(争点(1)ア)
について
商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役
務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他
商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,
ある標章が,当該登録商標の指定商品又は指定役務につき自他商品識別機能及
び出所表示機能を果たしていない態様で使用されている場合には,形式的には
同法2条3項各号に掲げる行為に該当するとしても,商標の「使用」には当た
らず,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害
とみなされる行為(同法36条1項,37条)には該当しないと解するのが相
当である。そこで,本件の事案にかんがみ,被告各標章が被告商品の自他商品
識別機能及び出所表示機能を有する態様で用いられているか,すなわち,被告
商品につき商標としての使用がされているかについて検討する。
(1)被告各標章の構成等
ア(ア)被告標章1は,別紙被告標章目録記載1のとおり,ゴシック体の片
仮名文字を横一連に配置した構成からなる標章である(甲9)。
(イ)被告標章2は,別紙被告標章目録記載2のとおり,「Q」と「L」
を大文字,他の文字を小文字として,ゴシック体のローマ文字を等間隔
かつ横一連に配置した構成からなる標章である(甲9,10,47ない
し57,59ないし84)。
(ウ)被告標章3は,別紙被告標章目録記載3のとおり,黒色の横長長方
形の中に,上下二段に分けて,白色のやや丸みを帯びたゴシック体のロ
ーマ文字により,「Q」及び「L」を大文字,他の文字を小文字とした
「Quick」の文字列と,「L」の大文字及び「k」の小文字の間に,
下から上にかけて次第に細くなる円形の線からなり,その頂部の内側に
接する位置に点が付された二つの円(「O」の欧文字とみられるもの)
を等間隔で配置した文字列とを配置した構成からなる標章である。
イ被告各標章は,いずれも「クイックルック」の称呼を生じると認められ
る。
ウ「quick」(クイック),「look」(ルック)は,それぞれ
「速い(素早い)」,「見る」等の意味を有する英単語であることを容易
に理解することができ,これらの英単語の組合せである「quickl
ook」(クイックルック)からは,「速く(素早く)見る」との意味を
理解できるのであって,被告各標章のいずれからも,同様の意味を理解す
ることができる。
(2)被告各標章の具体的使用態様
証拠(甲9,10,47ないし57,59ないし84)及び弁論の全趣旨
によれば,被告各標章は,具体的には下記の態様によって使用されているこ
とが認められる。
ア甲9及び10について
(ア)甲9は,被告のウェブサイトにおける「製品&サービス」に関する
「広告ギャラリー」を開いたウェブページの一部である。①甲9のウェ
ブページの上部には,当該ウェブページのタイトルとして,他より大き
な文字で「必要な情報への即時アクセスでお客様のビジネスを快適にす
るクイックルック」と表示され,②その下には,横長の青色の長方形の
背景の上に,右側にノート型コンピュータが広げられて鉛直方向に立ち
上げられた写真,左側に黄色で大きくプラグを差し込む手先の図柄が描
かれ,その手先の図柄の上には大きく黒い文字で「OFFからでもすぐ
チェック。」と記載されている。③その図の下には,「電源がOFFで
も,ボタンを押すだけでメールや予定がすぐ見られる。HPのノートP
Cに,『HPQuickLook』新搭載。」,「急いでいるときほ
ど,PCを起動し,スケジュール帳やメールソフトを立ち上げるのはめ
んどうなもの。そんなときにうれしい新機能『HPQuickLoo
k(クイックルック)』がHPのノートPCに新登場。システムオフ状
態でも,ボタンを押すだけ。わずか10秒※でメール,スケジュール,
電話帳,仕事リストの表示が可能に。」,「ビジネスに欠かせない効率
化を追求するHPQuickLookとは?」,「システムオフ状態
(スリープ,シャットダウン,休止状態)から,最短10秒,ワン・ボ
タンで,個人データにアクセスし,閲覧することができます。」,
「『電源をオフしてしまったが,今すぐメールをチェックしたい』,そ
んな時,すばやくデータにアクセスできるので,忙しいビジネスパーソ
ンにも嬉しい機能です。」と表示されている。
なお,原告は,被告が被告標章2を付したカタログ(甲9)を頒布し
ていると主張するが,甲9は,被告のウェブサイト上における「広告ギ
ャラリー」を開いたウェブページの一部であるものと認められ,被告が
当該ページと同一内容のカタログを頒布していると認めるに足りる証拠
はない。
(イ)また,①甲10のウェブページの上部には,当該ウェブページのタ
イトルとして,他より大きな文字で「起動を待たずに,素早くチェッ
ク。」と表示され,②その下には,紺色の長方形の背景の上に,中央下
側にノート型コンピュータが通常の使用状態で広げられた写真,その上
部に指先から引き出されるメールの図柄を挟んで,左側に「起動を待た
ずに」,右側に「素早くチェック」の文字が大きく記載されている。③
その図の下には,「電源がOFFでも,ボタンを押すだけでメールや予
定がすぐ見られる。HPノートPCに,『HPQuickLook
2』を搭載。」,「メールを見るためだけにOSを起動するのは面倒。
そこでHPはノートPCに『HPQuickLook2』を採用。ボ
タンを押すだけで,短時間でメール,スケジュール,電話帳,仕事リス
トの表示が可能に。」と表示されている。さらに,上記表示の下に,
「電源OFFから個人データにアクセス『HPQuickLook
2』」との表示がされ,さらにその下に,「Outlookのメールデ
ータやスケジュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,
OSが起動していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」との表示
と並列して,被告標章3-2が表示されている。
この被告標章3-2は,上記ウェブサイト上の広告(甲10)におい
て,黒色の正方形の中に上下二段に分けて,白色のやや丸みを帯びたゴ
シック体の欧文字により,「Q」及び「L」を大文字,他の文字を小文
字とした「Quick」の文字列と,「L」の大文字及び「k」小文字
の間に,下から上にかけて次第に細くなる円形の線からなり,その頂部
の内側に接する位置に点が付された2つの円(「O」の欧文字とみられ
るもの)を等間隔で配置した文字列とを配置し,上記正方形の右寄りの
部分に,上記文字列と重なる部分については上記文字列に隠れるように
して,白色のアラビア数字の「2」を配置した構成からなる標章である。
この被告標章3-2は,各文字が長方形ではなく正方形の中に配置され
ている点及び上記正方形内に「2」が配置されている点で被告標章3と
は異なるものであると認められる。
そうすると,被告は,甲10において被告標章3を使用しておらず,
かつ,被告標章3-2の上記構成をみると,被告標章3に相当する部分
を被告標章3-2から分離することも相当ではないと解されるから,甲
10に被告標章3が使用されているとする原告の主張は理由がないとい
うべきである(ただし,原告は,被告標章3-2及び他の書証にみられ
る被告標章3-3について,被告標章3に含まれるものと主張している
ものと解されるため,以下においては,被告標章3-2,被告標章3-
3についても,商標としての使用の有無を検討する。)。
イ甲47について
甲47は,被告のウェブサイトにおける「製品&サービス」に関する
「広告ギャラリー」を開いたウェブページの一部である。①上記ウェブペ
ージの上部には,当該ウェブページのタイトルとして,「急ぐときは,こ
のボタン。」と表示され,②上記表示の下に,黄色の長方形の背景の上に,
中央下側にノート型コンピュータが通常の使用状態で広げられた写真とコ
ンピュータのボタンが押されてメールが引き出される図柄とが合成され,
その上部に「急ぐときは,このボタン」と大きな文字が左右にわたって記
載されている。③その図の下には,「電源OFFでも,ボタンを押すだけ
でメール・スケジュールがすぐ見られる。」とやや大きい文字で表示され,
その下に,やや小さい文字で「急いでメールや予定をチェックしたいのに,
OSの起動待ちでイライラ。そこでHPはノートPCに『HPQuic
kLook2』を採用。電源OFFからでも専用ボタンを押すだけで,メ
ール,スケジュール,電話帳,仕事リストをパッと表示。」との表示がさ
れている。また,その下に,やや大きい文字で「HPQuickLoo
k2」との表示がされ,さらにその下に,「Outlookのメールデー
タやスケジュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,OS
が起動していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」,「『電源をオ
フしてしまったが,今すぐメールをチェックしたい』,そんな時,すばや
くデータにアクセスできるので,忙しいビジネスパーソンにも嬉しい機能
です。」との表示がされている。
ウ甲48ないし57,59ないし67について
(ア)甲48ないし57,59ないし67は,被告のウェブサイトにおい
て,別紙被告商品目録記載1ないし19の各商品の特徴等を説明,紹介
しているウェブページの一部である。
(イ)甲48ないし57,59ないし67の各冒頭ページの上部には,
「HPMini5102NotebookPC」,「HPEl
iteBook2740pTabletPC」,「HPEli
teBook2730pNotebookPC」,「HPPr
oBook4320s/CTNotebookPC」等,別紙被
告商品目録記載1ないし19の各商品名が表示されている。
(ウ)甲48,49,51,53ないし57,59,61ないし64,6
6の各冒頭ページの中段には,「世界標準をリードする3つのソリュー
ショングループ」(甲50,52,60,65及び67については「世
界標準をリードする3つのソリューション」)とのタイトルの下に「安
全性」,「信頼性」及び「簡易性」との見出しを付した三つのグループ
が枠を設けて表示されており,上記グループのうち,「簡易性」グルー
プの枠内に,「HPQuickWeb」,「HPDayStarte
r」,「HPIllumi-LiteDisplay」,「HPP
owerAssistant」,「HPNightLight」,
「周辺光センサー」,「HPファスト・チャージ・テクノロジー」等
の文字が,それぞれ黒色の正方形内に白色の線で電池やコンピュータ画
面の形などを表示した図形とともに表示されている。そして,これらと
並列して,「HPQuickLook2」又は「HPQuickL
ook3」との文字標章(なお,「HP」と「QuickLook2」
又は「QuickLook3」はそれぞれ上下二段に分けて表示されて
いる。)が,甲48ないし57についてはその上部の被告標章3-2又
は被告標章3-3とともに,甲59ないし67については,その上部の
文字と図形の複合標章(黒色の正方形内に白色の線で「Quick」
「Look2」又は「Quick」「Look3」をそれぞれ上下二段
書きにした文字からなるもの)とともに表示されている。
(エ)甲48ないし57,59ないし67の各2枚目又は3枚目のページ
には,「電源OFFからWebへアクセス『HPQuickWe
b』」(甲48,49,51,54ないし57,59,61,63,6
6),「暗い場所でも作業が出来る『HPNightLight』」
(甲50,52,60,65),「短時間充電でモバイル性能アップ
『HPファスト・チャージ・テクノロジー』」(甲54,62),
「周辺光センサー」又は「周辺光センサ」(甲50,52,60,65,
67)等の表示と並列して,甲50,52,60,62,65,67に
ついては「電源OFFから個人データにアクセス『HPQuickL
ook2』」,甲48,49,51,53ないし57,59,61,6
3,64,66については「電源OFFから個人データにアクセス『H
PQuickLook3』」との表示がされ,その下に,下記の表示
がされている。
・「電源をオフしてしまったが,今すぐメールをチェックしたい」,
そんな時,QuickLookボタンを押せばすばやくデータにア
クセスできるので,忙しいビジネスパーソンにも嬉しい機能です。
(甲48,49,51,54,59,61,63,64,66)
・「電源をオフしてしまったが,今すぐメールをチェックしたい」,
そんな時,すばやくデータにアクセスできるので,忙しいビジネス
パーソンにも嬉しい機能です。(甲50,52,60,62,65,
67)
・「電源をオフしてしまったが,今すぐメールをチェックしたい」,そ
んな時,QuickLookキーを押せばすばやくデータにアクセス
できるので,忙しいビジネスパーソンにも嬉しい機能です。(甲53,
55ないし57)
・さらに,QuickLook3ではメールの下書きやスケジュールの
編集も可能になりました。(甲48,49,51,53ないし57,
59,61,63,64,66)
・ボタンを押すだけでメールや予定がすぐに見られるHPQuick
Look3(48,49,51,53ないし57,59,61,63,
64,66)
・丸時計及び封筒を模した図形を表示したボタンの写真の下等に「Qu
ickLookボタン」との表示(甲49,51,59,63,64,
66)
・丸時計及び封筒を模した図形を表示した「f5」キーの写真の下に
「QuickLookキー」との表示(甲53,55ないし57)
また,上記「QuickLook2」又は「QuickLook3」
の説明の項の冒頭には,被告標章3-2(甲50,52,60,62,
65),被告標章3-3(甲48,49,51,53ないし57)又は
文字と図形の複合標章(黒色の正方形内に白色の線で「Quick」
「Look2」又は「Quick」「Look3」をそれぞれ上下二段
書きにした文字からなるもの。甲59ないし67)が表示されている。
(オ)原告は,被告が被告商品のキーボード前方に,被告標章2を想起さ
せる図柄のボタン又はキーを配置しているところ,被告の上記行為は商
品に関する広告に標章を付して展示する行為(商標法2条3項8号前
段)に該当すると主張する。
確かに,証拠(甲48ないし57,59ないし84)によれば,被告
商品のキーボードとディスプレイの間のスペース若しくはキーボードの
右側面にはボタンが配置され,又は,「f5」キーが存在し,被告商品
のウェブサイト上の広告又はカタログにおいては,それらについて,
「QuickLookキー」,「QuickLookボタン」との名称
が付与されていることが認められるが,それらの名称はウェブサイト上
の広告又はカタログを参照して初めて判明するものであり,被告商品に
おけるボタン又はキー上には,丸時計及び封筒を模した図柄が表示され
ているのみであって,これらの図柄の表示をもって,被告商品に被告標
章2が表示されているものとみることはできず,かつ,被告標章2を想
起させる図柄が表示されているともみることができない。もっとも,上
記「QuickLookキー」,「QuickLookボタン」の名称
は,上記のとおり,被告商品のウェブサイトの広告又はカタログにおい
て表示されているから,被告商品に関する広告中には表示されていると
いうことができるが,その使用態様は,被告商品のキー又はボタンの意
味を説明するものであって,被告商品そのものを表示するものとして使
用されているとはいえない。したがって,後に検討するとおり,被告の
上記行為が,被告商品の商標としての使用に当たるということはできな
い。
エ甲68ないし84について
甲68ないし84は,被告商品目録記載20ないし36の各商品の技術
仕様(スペック)を説明,紹介するウェブページの一部であり,各ウェブ
ページの左上部に,「HPProBook4310s/CTNote
bookPC」,「HPProBook4510s/CTNot
ebookPC」,「HPEliteBook2530pNot
ebookPC」等の,別紙被告商品目録記載20ないし36の各商品
名の表示及び「スペック」との表示があり,当該表示の下に,「OS」,
「プロセッサー」,「チップセット」等の項目及び上記各項目の具体的内
容(「OS」について「WindowsVistaHomeBas
ic正規版ServicePack1(SP1)適用済み」等)の
表示がされており,これらの表示と並列して,下記の表示がされている。
・「ワンタッチボタン」との項目において,「無線オン/オフボタン」と
並列して「QuickLookボタン」との表示(甲68)
・「ワンタッチボタン」との項目において,「無線ボタン」と並列して
「QuickLookボタン」との表示(甲69ないし73)
・「ワンタッチボタン」との項目において,「タッチ式コントロールボタ
ン6ボタン(プレゼンテーションモード,HPinfoCent
er(HPQuickLook),無線オン/オフボタン,音量ミュ
ート,音量大-小)」等との表示(甲74,76,80ないし84。な
お,甲74においては,「HPinfoCenter」及び「-
小」については印刷が途切れており,表示されていない。)。
・「ソフトウェアプリインストール/プリロード」,「主なソフトウェ
ア」又は「ソフトウェア」との項目において,「HPProtect
Toolsセキュリティマネージャー」,「PDFComplet
e」,「McAfeeTotalProtection(60日試
用版)」等と並列して「HPQuickLook2」との表示(甲6
9ないし73,75,77ないし80,82,84)
(3)被告各標章の使用の商標的使用該当性
以上を前提に,被告各標章(被告標章3については被告標章3-2及び
被告標章3-3として)の使用が商標的使用に該当するか否かについて検
討する。
ア甲9,10のウェブページ上の表示について
(ア)前記(2)アのとおり,甲9及び10において,被告標章1及び2は,
「必要な情報への即時アクセスでお客様のビジネスを快適にするクイ
ックルック」,「『HPQuickLook』新搭載」,「うれし
い新機能『HPQuickLook(クイックルック)』」,
「『HPQuickLook2』を搭載」,「ノートPCに『HP
QuickLook2』を採用」などのウェブページのタイトル又は
文章中でそれぞれ使用されているものであり,「必要な情報への即時
アクセスでお客様のビジネスを快適にする」,「メールや予定がすぐ
見られる」,「わずか10秒※でメール,スケジュール,電話帳,仕
事リストの表示が可能に。」,「システムオフ状態(スリープ,シャ
ットダウン,休止状態)から,最短10秒,ワン・ボタンで,個人デ
ータにアクセスし,閲覧することができます。」,「電源がOFFで
も,ボタンを押すだけでメールや予定がすぐ見られる」等の文章は,
「クイックルック」,「HPQuickLook」,「HPQu
ickLook2」,「HPQuickLook(クイックルッ
ク)」の内容をそれぞれ説明するために表示されているものと認めら
れる。また,被告標章3-2は,「電源OFFから個人データにアク
セス『HPQuickLook2』」との文章を中見出しとする
「Outlookの・・・(中略)・・・アクセス可能です。」との
文章の横に並んで表示されているものであって,上記文章は,被告標
章3-2の内容を説明又は意味するものとして表示されていると認め
られる。
(イ)また,証拠(甲9,10,47ないし57,59ないし84,8
9,90)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告製のノート型コ
ンピュータに,「HPQuickLook」(「HPQuick
Look2」及び「HPQuickLook3」は,いずれも,そ
のバージョンアップ版であると認められる。)との名称で特定される
プログラムを搭載することにより,コンピュータの電源を切った状態
やスリープ状態,休止状態等においても,当該コンピュータの「Qu
ickLookボタン」又は「QuickLookキー」との名称を
付されたボタン又はキーを押すことにより,十秒程度でメールやスケ
ジュール等の内容を確認することができる機能をもたせており,米国
HPは,そのビジネスサポートセンターのウェブサイトにおいて,マ
イクロソフト社製の特定のオペレーションシステム(OS)を搭載し
たコンピュータについては,「HPQuickLook」との名称
で特定される上記ソフトウェアをダウンロードできるようにしている
ことが認められる。
(ウ)また,前記(2)アでみた甲9及び10の表示内容からすれば,甲9
及び10は,被告製のノート型コンピュータ全般に関する機能として,
前記のとおり電源を切るなどした状態においても十秒程度でメール等
を表示することができる機能を有することを広告することを目的とす
るものであって,甲9及び甲10は,特定の型番又は商品名のコンピ
ュータ商品を対象とする広告情報ではないと認められる。
(エ)そうすると,被告は,「HPQuickLook」又は「HP
QuickLook2」,「HPQuickLook3」との表示
を,上記ソフトウェア又は機能の名称として使用しているものであっ
て,甲9又は10に接したコンピュータ商品の需要者は,前記(3)ア
(ア)でみた甲9及び10における「クイックルック」,「HPQui
ckLook」,「HPQuickLook2」,「HPQuic
kLook3」,「HPQuickLook(クイックルック)」
及び被告標章3-2に関する説明表示の内容並びに前記(ウ)でみた甲
9及び10の広告目的に加えて,前記(1)ウでみたとおり,「qui
cklook」が「速く(すばやく)見る」との意味を有するもの
と理解されることとも相まって,被告各標章(ただし被告標章3につ
いては被告標章3-2)につき,被告製のノート型コンピュータの電
源が切られているなど,直ちにメールやスケジュールを開くことがで
きない状態であっても,専用ボタンを押すことにより,すばやくメー
ル等の内容をコンピュータの画面に表示させることができるという,
被告製のノート型コンピュータが一般的に有する一つの機能又は上記
機能を実現させるために当該コンピュータに搭載されたソフトウェア
の名称を表示又は意味すると認識するにとどまるものと認められ,被
告各標章から,特定のコンピュータ商品としての被告商品の出所を識
別するものとしてその出所を想起するものではないと認められる。
(オ)したがって,被告各標章が甲9及び10のウェブページにおいて
被告商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられ
ているものと認めることはできないから,甲9及び10のウェブペー
ジにおける被告各標章の使用は,被告商品に関して,商標としての使
用(商標的使用)に当たらない。
イ甲47について
(ア)前記(2)イのとおり,甲47において,被告標章2は,「HPQ
uickLook2」として使用されているものであり,「電源OF
Fからでも専用ボタンを押すだけで,メール,スケジュール,電話帳,
仕事リストをパッと表示。」,「Outlookのメールデータやス
ケジュール,電話帳,仕事リストなどの個人データについて,OSが
起動していない状態から瞬時※にアクセス可能です。」などの文章は,
上記の「HPQuickLook2」の具体的内容を説明するもの
として表示されていることが認められる。
また,甲47には,上記表示と並列して,「またテンキー付きフル
サイズキーボードを搭載し,入力作業が効率アップ。多忙なビジネス
の現場を,実践機能でサポートするHPのノートです。」との表示が
あるのであって,これらの表示内容を併せて考慮すると,甲47は,
被告製のノート型コンピュータ全般に関し,すばやくメール等を表示
することができる機能や,テンキー付きフルサイズキーボードを搭載
していることにより,ビジネス用途に利便性を有する旨広告すること
を目的とするものであって,特定の型番又は商品名のコンピュータ商
品を対象とする広告情報ではないと認められる。
(イ)以上の甲47の表示内容に加えて,前記のとおり被告が「HPQ
uickLook2」との表示を,前記ソフトウェア又は前記機能の
名称として使用しているものと認められること及び前記(1)ウでみた
「quicklook」の意味を併せて考慮すると,甲47に接し
たコンピュータ商品の需要者は,被告標章2につき,被告製のノート
型コンピュータのOSが起動していない状態であっても,専用ボタン
を押すことにより,すばやくメール等の内容をコンピュータの画面に
表示させることができるという,被告製のノート型コンピュータが一
般的に有する機能又は上記機能を実現させるために当該コンピュータ
に搭載されたソフトウェアの名称を表示又は意味すると認識するにと
どまるものと認められ,被告標章2から,特定のコンピュータ商品と
しての被告商品を識別するものとしてその出所を想起するものではな
いと認められる。
(ウ)したがって,被告標章2が甲47のウェブページにおいて被告商
品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられている
ものと認めることはできないから,甲47のウェブページにおける被
告標章2の使用は,被告商品に関し,商標としての使用(商標的使
用)に当たらない。
ウ甲48ないし57,59ないし67について
(ア)前記(2)ウでみたとおり,甲48ないし57及び甲59ないし67
は,被告商品のうち,別紙被告商品目録1ないし19の各商品の特徴
等を説明,紹介しているウェブページの一部であり,被告標章2は,
「HPQuickLook2」,「HPQuickLook3」,
「QuickLookボタン」又は「QuickLookキー」との
表現の中で使用されているものであって,これらの表示のうち「HP
QuickLook2」又は「HPQuickLook3」は,
「HPQuickWeb」,「HPPowerAssistan
t」,「HPNightLight」,「周辺光センサー」等と並
列して表示されているものであるところ,甲48ないし57,59な
いし67の各2ページ目以降において,「HPQuickWeb」
につき「事前に専用ウィザードでネットワーク接続の設定をしておけ
ば,QuickWebボタンを押すことで,OSを起動しないで専用
ブラウザが起動し,すばやくWebにアクセスが可能です。」,「H
PPowerAssistant」につき「消費電力を管理するた
めにOSやデバイスの構成設定を簡単に変更が可能です。」,「HP
NightLight」につき「キーボードを照らすLEDライトを
ディスプレイ上に搭載しました。」,「周辺光センサー」につき「周
囲の明るさをセンサーが感知して,画面の明るさを自動調整しま
す。」等と各説明されていることからすれば,「HPQuickW
eb」,「HPPowerAssistant」,「HPNigh
tLight」,「周辺光センサー」等は,いずれも,当該被告商品
の有する設備,機能,特徴等を短い言葉で表現したものとして列挙さ
れているものと認められ,これらと並列して表示されている「HP
QuickLook2」及び「HPQuickLook3」は,前
記「HPQuickWeb」等と同様に,当該被告商品の有する設
備,機能,特徴等を短い言葉で表現したものの一つとして表示されて
いるものと認められる。
(イ)また,前記(2)ウ(オ)でみた使用態様に照らせば,「QuickL
ookボタン」又は「QuickLookキー」との表示は,「HP
QuickLook2」又は「HPQuickLook3」との表
示の後に,「QuickLookボタン(若しくはQuickLoo
kキー)を押せばすばやくデータにアクセスできる」との文章中で,
又は,コンピュータ製品上のボタン(若しくはキー)写真とともに表
示されているものであり,「HPQuickLook2」又は「H
PQuickLook3」で表現される設備,機能,特徴等におい
て使用されるボタン又はキーの名称として表示されているものと認め
られる。
また,簡易性の説明において「HPQuickLook2」「H
PQuickLook2」が被告標章3-2又は被告標章3-3
(「QuickLook2」又は「QuickLook3」について
の文字と図形の複合標章を含む。)とともに使用されている場合につ
いても,利用者の注目を集めるために機能の表示として用いられてい
るにすぎず,特に,特定の商品と結びついて使用されているものとは
認められない。
(ウ)そうすると,これらの事情に加え,前記(2)ウでみたとおり,「H
PQuickLook2」又は「HPQuickLook3」が,
「すばやくデータにアクセスできるので,忙しいビジネスパーソンに
も嬉しい機能です。」,「ボタンを押すだけでメールや予定がすぐ見
られる」などの文章と併せて表示されていること及び前記(1)ウでみ
た「quicklook」の意味とも相まって,甲48ないし57,
59ないし67に接したコンピュータ商品の需要者は,被告標章2に
つき,当該被告商品が有する設備,機能,特徴等のうち,OSが起動
していない状態等であっても,すばやくメール等の内容をコンピュー
タの画面に表示させることができるという機能又は当該機能において
使用されるボタン若しくはキーの名称を表示するものと認識するにと
どまると認められ,コンピュータ商品である当該被告商品そのものの
出所については,当該ウェブページの左上に記載された製品名から想
起するものであって,被告標章2から想起するものではないと認めら
れる。
(エ)したがって,被告標章2が甲48ないし57,59ないし67の
ウェブページにおいて被告商品の自他商品識別機能・出所表示機能を
果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,上記
ウェブページにおける被告標章2の使用は,被告商品に関し,商標と
しての使用(商標的使用)に当たらない。
エ甲68ないし84について
(ア)前記(4)エのとおり,甲68ないし84は,被告商品のうち,別紙
被告商品目録記載20ないし36の各商品の技術仕様(スペック)を
説明,紹介するウェブページの一部であり,被告標章2は,「Qui
ckLookボタン」又は「HPQuickLook2」との表示
の中で表示されているものであるところ,これは,「OS」「プロセ
ッサー」,「チップセット」等の項目と並列して表示されている「ワ
ンタッチボタン」や「ソフトウェアプリインストール/プリロー
ド」,「主なソフトウェア」との項目の後の,上記の項目の具体的内
容を列挙した表示の中で使用されているものであるから,当該表示は,
当該被告商品が,その技術仕様の一部として,「QuickLook
ボタン」との名称のワンタッチボタンや,「HPQuickLoo
k2」との名称のソフトウェアを搭載していることを表示するものと
して使用されているものと認められる。
(イ)そうすると,甲68ないし84に接したコンピュータ商品の需要
者は,被告標章2につき,当該被告商品に搭載されているワンタッチ
ボタン又はソフトウェアの名称を表示するものと認識するにとどまる
ものであって,コンピュータ商品である当該被告商品そのものの出所
については,各ウェブページ左上に表示されている各製品名から想起
し,被告標章2から想起するものではないと認められる。
(ウ)したがって,被告標章2が甲68ないし84のウェブページにお
いて被告商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用い
られているものと認めることはできないから,上記ウェブページにお
ける被告標章2の使用は,被告商品に関し,商標としての使用(商標
的使用)に当たらない。
(4)原告の主張について
ア原告は,被告商品に被告ソフトウェアが搭載又はインストールされる
ことにより,被告商品と被告ソフトウェアが結合して一つのまとまった
データアクセスシステムを構成し,これが,取引市場において多数存在
する他社同種のコンピュータシステムとの間で,被告各標章を識別標章
として選択され,識別されると主張するが,被告各標章が,被告商品の
機能又は被告ソフトウェアの名称を意味又は表示するものとして使用さ
れているにすぎないことは前記のとおりであり,これらがデータアクセ
スシステム全体を示す標章として使用されていることを認めるに足りる
証拠はない。
イまた,原告は,被告各標章は被告ソフトウェアの名称として用いられ
ているものであるところ,被告ソフトウェアは,被告商品に搭載又はイ
ンストールされた後も独立商品性を有し,かつ,その存在が明示される
ものであって,被告各標章は,被告ソフトウェアが被告商品に搭載又は
インストールされた後も,被告ソフトウェアの識別標章として機能する
ものであり,コンピュータの需要者は,被告各標章で識別される被告ソ
フトウェアが搭載又はインストールされたコンピュータを購入したいと
の認識をもって被告商品を購入するものであるから,被告各標章は被告
商品の商標として使用されていると主張する。
しかし,被告各標章が,被告商品の機能又は被告ソフトウェアの名称
を意味又は表示するものとして使用されているにすぎないことは前記の
とおりであり,被告ソフトウェアが被告商品に組み込まれた後において,
被告各標章が被告ソフトウェアを表示するものとして認識されることが
あるとしても,そのことから直ちに,被告商品の取引者,需要者が,被
告各標章を被告商品の識別標識として認識していることが認められるも
のではない。前記(2)ウ(ウ)の具体的使用態様において検討したとおり,
被告商品には,「HPQuickWeb」,「HPDayStar
ter」,「HPPowerAssistant」等の多くのソフ
トウェア又は機能が組み込まれており,それらも同様に被告のウェブサ
イト等によって広告されているのであるから,それらとは別個に,被告
各標章のみが,被告商品を識別するものとして取引者,需要者に認識さ
れているものとはいえない。また,甲8によれば,被告とは別会社が販
売するアップルコンピュータにおいても,「QuickLook」が
「ソフトの起動をまつイライラ」を解消する機能を有するものとして搭
載されており,この点からみても,コンピュータの取引者,需要者にお
いて,被告各標章が被告商品を識別し,その出所を表示するものとして
認識されていたものとは認め難い。
ウ以上のとおり,被告各標章が,コンピュータ商品である被告商品を他
の商品と識別する標章として機能し,かつ,被告商品の取引者又は需要
者が,被告商品を,被告各標章を識別標識として,他のコンピュータ商
品と識別し,これを選択しているものと認められず,原告の上記主張は
いずれも採用することができない。
2小括
以上によれば,原告の主張する被告による被告各標章の使用は,商標とし
ての使用(商標的使用)に当たらないから,その余の点について判断するま
でもなく,原告各商標権の侵害行為又は侵害とみなす行為(商標法25条,
37条1号)のいずれにも該当しないというべきである。
第5結論
以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,い
ずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官菊池絵理
裁判官森川さつき

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