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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟の総費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
経済産業大臣が,平成17年9月26日付けでAに対してした場外車券発売施
設「サテライト大阪」の設置許可処分を取り消す。
第2事案の概要
1事案の骨子
本件は,経済産業大臣が,平成17年9月26日付けで,Aに対して場外車
券発売施設「サテライト大阪」(以下「本件施設」という。)の設置許可処分
(以下「本件許可処分」という。)を行ったところ,本件施設の敷地(以下「本
件敷地」という。)の近隣において医療施設を開設する原告らが,本件許可処
分は場外車券発売施設の設置許可要件を満たさない違法なものであるなどと
主張して,その取消しを求めた事案である。
本件の原告ら3名を含む49名は,平成18年3月18日,本件許可処分の
取消しを求める訴え(当庁平成18年(行ウ)第47号)を提起したところ,
第1審裁判所は,原告ら全員の原告適格を否定して,上記訴えを却下した。こ
れに対し,本件の原告ら3名を含む21名が大阪高等裁判所に控訴したところ
(大阪高等裁判所平成19年(行コ)第33号),同裁判所は,控訴人ら全員
の原告適格を肯定し,原判決を取り消して本件を第1審に差し戻す旨の判決を
した。これに対し,被告が最高裁判所に上告したところ(最高裁判所平成20
年(行ヒ)第247号),最高裁判所は,被上告人の1名について,同人の死
亡により訴訟が終了した旨を宣言して控訴審判決を破棄し,その余の被上告人
らに関する部分につき,第1審判決中,本件の原告ら3名に関する部分を取り
消して本件を当裁判所に差し戻し,その余の被上告人らの控訴を棄却する旨,
控訴審判決を変更する旨の判決(以下「本件上告審判決」という。)をした。
本件は,上記により第1審に差し戻された原告ら3名に係る事件である。
2関係法令の定め
(1)自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの。以下「法」
という。)1条1項は,都道府県及び人口,財政等を勘案して総務大臣が指定
する市町村(以下「指定市町村」という。)は,自転車その他の機械の改良
及び輸出の振興,機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目
的とする事業の振興に寄与するとともに,地方財政の健全化を図るため,こ
の法律により,自転車競走を行うことができると規定する。
法4条1項前段は,車券の発売等(車券の発売又は法9条の規定による払
戻金若しくは法9条の3第5項の規定による返還金の交付をいう。法1条6
項2号。以下同じ。)の用に供する施設を競輪場外に設置しようとする者は,
経済産業省令で定めるところにより,経済産業大臣の許可を受けなければな
らないとし,法4条2項は,経済産業大臣は,前項の許可の申請があったと
きは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が経済産業省令で定める基準に
適合する場合に限り,その許可をすることができると規定し,同条3項は,
競輪場外における車券の発売等は,同条1項の許可を受けて設置され又は移
転された施設でしなければならないと規定する。
(2)自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前
のもの。以下「規則」という。)15条1項1号は,法4条2項の経済産業省
令で定める基準として,「学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設か
ら相当の距離を有し,文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがない
こと」(以下,当該基準を「位置基準」という。)を定めている。
3前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記各証拠(書証番号は特記しな
い限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨から容易に認めることがで
きる。なお,争いのない事実には認定根拠を付記しない。
(1)本件許可処分に至る経緯について
Aは,平成17年7月22日付けで,経済産業大臣に対し,本件施設の設
置の許可を申請した。これを受けて,経済産業大臣は,法4条2項に基づき,
同年9月26日付けで,Aに対し,本件許可処分を行った(乙新23)。
本件施設は,差戻前第1審判決の言渡日である平成19年3月14日に営
業を開始し,以後現在まで営業を継続している(弁論の全趣旨)。
(2)本件施設の概要等
本件敷地は,大阪市営地下鉄千日前線,同堺筋線の「日本橋駅」及び近畿
日本鉄道の「近鉄日本橋駅」(いずれも地下施設である。以下,併せて「日本
橋駅」という。)にほど近い大阪府道102号線恵美須南森町線(通称堺筋。
以下「堺筋」という。)に面した商業地域内にある。
本件施設は,鉄骨造地上7階地下1階建ての建物(高さ29.2m,延床
面積8121.30㎡)である。本件許可処分当時,Aから競輪施行者(岸
和田市)に対して賃貸され,競輪施行者においてその運営等を行うこととさ
れており,本件施設における営業の日数として年間340日が予定され,1
日当たり約1700人の来場が見込まれていた。
(3)原告ら
原告らは,いずれも本件施設から直線距離約200m以内に病院又は診療
所(以下,併せて「本件各医療施設」という。)を開設する医師である。
(4)本件上告審判決
本件上告審判決は,次のとおり説示した上で,本件の原告ら3名について
は,いずれも本件敷地の周辺から約120mないし200m離れた場所に医
療施設を開設する者であり,後述の考慮要素を勘案することなく原告適格を
有するか否かを的確に判断することは困難というべきであるとして,本件を
第1審に差し戻すのが相当であるとした。
位置基準は,場外車券発売施設(以下「場外施設」という。)が医療施設等
から相当の距離を有し,当該場外施設において車券の発売等の営業が行われ
た場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないことを,その
設置許可要件の一つとして定めるものである。場外施設が設置,運営される
ことに伴う上記の支障は,基本的には,その周辺に所在する医療施設等を利
用する児童,生徒,患者等の不特定多数者に生じ得るものであって,かつ,
それらの支障を除去することは,心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の
向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。
そして,当該場外施設の設置,運営に伴う上記の支障が著しいものといえる
か否かは,単に個々の医療施設等に着目して判断されるべきものではなく,
当該場外施設の設置予定地及びその周辺の地域的特性,文教施設の種類・学
区やその分布状況,医療施設の規模・診療科目やその分布状況,当該場外施
設が設置,運営された場合に予想される周辺環境への影響等の事情をも考慮
し,長期的観点に立って総合的に判断されるべき事柄である。規則が,場外
施設の設置許可申請書に,敷地の周辺から1000m以内の地域にある医療
施設等の位置及び名称を記載した見取図のほか,場外施設を中心とする交通
の状況図及び場外施設の配置図を添付することを義務付けたのも,このよう
な公益的見地からする総合的判断を行う上での基礎資料を提出させることに
より,上記の判断をより的確に行うことができるようにするところに重要な
意義があるものと解される。
このように,法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは,
第一次的には,上記のような不特定多数者の利益であるところ,それは,性
質上,一般的公益に属する利益であって,原告適格を基礎付けるには足りな
いものであるといわざるを得ない。したがって,場外施設の周辺において居
住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や,医療
施設等の利用者は,位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求
める原告適格を有しないものと解される。
もっとも,場外施設は,多数の来場者が参集することによってその周辺に
享楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすものであるから,位置基準は,
そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保
健衛生にかかわる業務上の支障について,特に国民の生活に及ぼす影響が大
きいものとして,その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を
禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であ
ると解することができる。したがって,仮に当該場外施設が設置,運営され
ることに伴い,その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい
支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には,当該場外施設の設置許
可が違法とされることもあることとなる。
このように,位置基準は,一般的公益を保護する趣旨に加えて,上記のよ
うな業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者におい
て,健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を,個々の
開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであ
るから,当該場外施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそ
れがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は,位置基準
を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するも
のと解される。そして,このような見地から,当該医療施設等の開設者が上
記の原告適格を有するか否かを判断するに当たっては,当該場外施設が設置,
運営された場合にその規模,周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測
される来場者の流れや滞留の状況等を考慮して,当該医療施設等が上記のよ
うな区域に所在しているか否かを,当該場外施設と当該医療施設等との距離
や位置関係を中心として社会通念に照らし合理的に判断すべきものと解する
のが相当である。
第3争点及び当事者の主張
本件の争点は,①原告らの原告適格の有無(本案前の争点),②本件許可処分
の違法性(本案の争点)であり,これに対する当事者の主張は以下のとおりであ
る。
1争点①(原告らの原告適格の有無(本案前の争点))について
(1)被告の主張
ア最高裁の示した基準によると,本件における原告適格の有無の判断基準
は,場外施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生じるおそれがあ
ると位置的に認められる区域内に原告らの開設する本件各医療施設が所在
しているかどうかであり,この点については,場外施設が設置・運営され
た場合にその規模,周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測される
来場者の流れや滞留の状況等を考慮しつつ,当該場外施設と本件各医療施
設との距離や位置関係を中心として社会通念に照らし,合理的に判断する
ことになる。
このような著しい業務上の支障とは,具体的には,多数の来場者の参集
により,救急自動車による救急指定病院への患者の円滑な搬送が阻害され
る場合や,来場者の発する騒々しい音声や物音により,適切な診療行為を
することができなくなる場合をいうものと考えられる。そして,このよう
な著しい業務上の支障は,単なる個人の主観的な基準によるものではなく,
客観的・合理的に見て業務上の支障といえる程度に達している必要がある。
イ本件施設の収容人数は1724人であり,本件施設の予測来場者数は,
1日平均1700人であるから,来場者が本件施設に入場することができ
ずに本件施設周辺に滞留するということは考え難いし,本件施設内には休
憩や軽食を摂ることが可能な施設が整備されていることから,来場者が飲
食や休憩のために本件施設外に出ることも考えられないことなどからすれ
ば,本件施設が設置・運営された場合に予測される来場者の流れや滞留の
状況等については,本件施設への来場者の入退場時における混雑等の状況
や程度を考慮すれば足りる。
そして,本件施設は,日本橋駅から徒歩1分の距離にあり,公共交通機
関の交通の便がよいことから,公共交通機関を利用し日本橋駅から来場す
るのが最も一般的であり,自動車,バイク及び自転車による来場者は多く
なく,仮にいるとしても,本件施設付近にある有料駐車場の収容可能台数,
バイク・自転車の駐輪場が豊富にあること,本件施設の来客用出入口が面
する堺筋は,従来から交通量の多い地域であること等に鑑みれば,本件施
設への自動車,バイク及び自転車による来場者により,環境の変化をもた
らす滞留は生じ得ないと考えられる。
そして,本件施設の来客用出入口は,本件施設の西側の堺筋沿いに1か
所設けられているだけであり,日本橋駅から本件施設への最短経路は,日
本橋駅の6番出口から地上に出て,堺筋の東側歩道を北方向に進行し,本
件施設の来客用出入口に至る経路であることからすると,本件施設の入退
場に際して,本件施設の周辺で,周辺の医療施設等に著しい業務上の支障
が生じるおそれにつながるような来場者の流れや滞留など,一定数以上の
多数者による動静の変化が生じ得るのは,上記本件施設の来客用出入口と
日本橋駅6番出口までの間の堺筋東側歩道上の区間(別紙2の「動線」と
示した線上の区間)に限られ,それ以外の区域においては,多数の来場者
の参集により,救急自動車による救急指定病院への患者の円滑な搬送が阻
害されたり,来場者らの発する騒々しい音声や物音により適切な診療行為
をすることができなくなるといった著しい業務上の支障が生ずるおそれは
ないということができる(なお,上記本件施設と日本橋駅の6番出口まで
の間の区間においても,合理的に本件施設への来場者の時間ごとの予測入
場者数を集計し,本件施設周辺の交通量を踏まえて本件施設への来場者の
通行による影響を検討してみると,本件施設設置前における入場者数及び
退場者が最も多くなると考えられる時間帯についてさえ,環境の変化をも
たらすような本件施設への来場者の流れや滞留などの支障が生じるとは認
められないといえる。)。
ウそうであるところ,原告らの開設する本件各医療施設は,上記本件施設
と日本橋駅6番出口までの間の区域内に所在していない。また,原告P1
の開設するB医院は,本件施設とは数軒の建造物を隔てており,上記区間
からかけ離れているし,原告P2が開設するC医院は,B医院前の道路を
更に東進した位置にあり,さらに,原告P3が開設するD医院は,本件施
設とは道頓堀川に加え,ホテルその他の複数の建造物によって隔てられて
いる。
また,本件各医療施設が存在する本件施設の北東側の地区は,本件施設
から日本橋駅あるいは本件施設の南西方向にある大規模な繁華街方面に向
かう来場者ルートとも無関係である。以上のとおり,本件施設との距離や
位置関係を中心として社会通念に照らして合理的に判断した場合,原告ら
が本件施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがある
と位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者に当たるとする余地
はなく,原告適格は認められないというべきである。
(2)原告らの主張
ア位置基準は,場外施設周辺の医療施設の開設者が,健全で静穏な環境の
下で円滑に業務を行う利益を個別的利益として保護しているものであり,
このような利益とは,病院経営者,職員,患者等が,風俗環境の悪化によ
るストレス,不安感,不快感等の精神的苦痛にさらされることなく,医療
に従事することができる利益を指すものである。被告は,このような利益
を位置基準が個別に保護しているものではない旨主張するが,患者の命と
健康を守るために常に緊張感を持って医療に当たっている医療従事者にと
って,精神的苦痛にさらされることなく,平穏な環境のもとで職務に当た
ることは極めて重要なのであって,これらの利益は原告らの主観的好悪や
価値観,個人の感覚にとどまるものではない。
そして,場外施設の開設により,著しい業務上の支障,すなわち上記利
益への侵害が生ずるおそれがあると位置的に認められる地区に医療施設を
開設している者については,原告適格が認められる。
イこのような著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認めら
れる区域の判断においては,法秩序全体が,ギャンブル施設等による環境
悪化との関係で,医療施設等をどのように保護する趣旨であるかを考慮す
ることが必須である。
そうであるところ,パチンコ・パチスロ等の風俗営業施設と本件施設は,
風俗環境を悪化させ,特に未成年者や患者等への配慮が要請される点で共
通点が多く,パチンコ・パチスロ等の風俗営業に関する風俗営業等の規制
及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)は,そのよう
な風俗環境を悪化させる施設についての規制を行うという点で,法と趣旨
目的が合致することからすれば,上記著しい業務上の支障が生ずるおそれ
があると位置的に認められる区域の判断においては,風営法に基づく規制
の仕方を参考にすべきである。そして,競輪は,パチンコ・パチスロ等の
風俗営業に比べて格段に規模が大きく,周辺環境に対する悪影響が大きい
ことから,法は,風営法の風俗営業に対する規制よりも強度な規制をして
いると解すべきである。また,本件施設よりも前から本件施設周辺に設置
されていたJRA専用の場外発券施設であるウインズ道頓堀と本件施設に
よる複合的な支障が生じる可能性があるため,本件施設の設置・運営によ
り生じる支障は,通常の場外施設の設置よりも重大かつ周辺の広範な区域
に影響を及ぼすものとなる可能性が高い。
以上の事情を総合的に考慮すると,本件施設は,医療施設等から400
m以内に設置することが許されないものというべきであり,本件施設から
400m以内の医療施設の設置者には基本的に原告適格が認められるとい
うべきである。
ウそうであるところ,本件各医療施設は,いずれも本件施設から400m
以内に設置されているから,原告らについては,基本的に原告適格が認め
られるというべきである。
また,本件各医療施設については特に,いずれも本件施設から200m
程度の至近距離に位置し,かつ,その間に本件施設の来場者の移動を遮断
するものは何ら存在しないこと,本件施設の来場者数は,時間帯によって
は一般の通行人よりも格段に多く,本件施設前の歩道に充満し,相当数が
本件施設周辺に拡散し,近隣の風俗施設やウインズ道頓堀で遊興すること
が考えられること,本件各医療施設の患者の多くは,通院途中に本件施設
の前を通過する必要があることなどを考慮すれば,なおさら,本件施設の
設置・運営による原告らの業務にもたらす支障は著しいものということが
でき,原告らについては,優に原告適格が認められるといえる。
実際,本件施設が設置された後,原告らは,周辺環境の悪化により精神
的苦痛を被っており,また,通勤上の支障等が生じ,著しい業務上の支障
が生じている。
エ被告は,本件施設の設置・運営により環境の変化がもたらされる可能性
があるのは本件施設と日本橋駅の6番出口との間の区間のみであるから,
それ以外の場所に医療機関を設置する者については原告適格が認められな
い旨主張する。
しかしながら,来場者が本件施設と日本橋駅との間を単純にまっすぐに
往復するとは限らない。本件施設東側周辺は風俗店の密集地帯となってい
るので,来場者が立ち寄る可能性が高い。実際,本件施設の営業開始後の
来場者の動向をみると,四方八方に移動していることが認められるのであ
り,被告の主張には全く理由がない。
2争点②(本件許可処分の違法性(本案の争点))について
(1)被告の主張
ア位置基準を満たすか否かについての経済産業大臣の判断は,諸事情を総
合的に考慮し,将来予想も含めて長期的観点に立って行われるべきもので
あるから,その性質上,経済産業大臣の裁量に属するものである。
そして,場外施設の設置・運営によって多数の来場者が参集し,それに
より周辺に享楽的な雰囲気や喧噪といった環境の変化がもたらされること
によって,周辺の医療施設等の開設者に文教又は保健衛生にかかわる著し
い業務上の支障が生じるおそれが具体的に認められる場合には,当該場外
施設の設置許可が違法とされることもあり得ると思われる。もっとも,本
件施設の設置・運営によっては,以下のとおり,周辺の医療施設に対する
上記のような支障は生じない。
イ前記のとおり,本件施設の設置・運営により,その交通量が増大する可
能性があるのは,本件施設の来客用出入口から日本橋駅の6番出口の間の
堺筋東側歩道上の区間に限られるところ,本件施設の存在とは関係なく,
堺筋はもともと歩行者や自転車の交通量の多い地域であること,本件施設
は,会員規約に公共交通機関での来場を明記した上,駐車場設備も設けな
いこととされており,来場者が自動車で来場することは想定し難いこと,
自転車での来場者に対しては,相当規模の駐輪場が設けられており,その
利用が期待されることからすると,本件施設の設置・運営により,周辺交
通に生じ得る支障は限定的であると考えられる。
また,本件施設は,車券売場窓口が施設内部に設けられ,外部との遮断
に必要な構造を備えていること,周辺道路には警備員が配置され,交通整
理がされることが期待されるため,来場者らの滞留が生じる可能性は低い
こと,本件施設付近は繁華街であり,その設置以前からウインズ道頓堀も
存在していたことなどからすると,本件施設の設置・運営により周辺環境
にもたらされる享楽的な雰囲気や喧噪が,その設置前に比して質的に増大
するとはいえない。
なお,原告らは,本件許可処分後,本件施設の周辺に風俗店が急増した
などと主張するが,本件施設及び本件各医療施設が所在する日本橋駅の北
東側地域は,本件許可処分以前より,ラブホテルや風俗店が多く存在して
いた地域であるし,ラブホテルや風俗店の増加は大阪府全域でみられる傾
向であり,本件許可処分との関連性はない。
ウ以上からすると,本件施設の設置・運営により,多数の来場者が参集し,
周辺地域に享楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすことにより,原
告らの行う医療業務に著しい支障が生じるおそれを具体的に認められると
いうことはできないから,本件許可処分は位置基準に反するものではなく,
適法である。
(2)原告の主張
ア競輪施設は,立法政策として一定の範囲で許容される賭博施設であるが,
このような施設の設置許可につき,法の定めた違法性阻却の要件を満たさ
ないにもかかわらず設置許可をする裁量は,経済産業大臣には与えられて
いないというべきである。そして,位置基準は,本件施設の違法性阻却の
要件として規制されたものであるから,位置基準を満たしているかどうか
の経済産業大臣の判断に裁量はないといえる。
そうであるところ,前記のとおり,医療施設の400m以内に場外施設
を設置することは,当該医療施設に著しい業務上の支障を生じさせるおそ
れがあるから,位置基準に反するものである。そして,本件施設は,本件
各医療施設の周辺400m以内に設置されたものであるから,本件許可処
分は位置基準を満たしていないのであり,また,この点を措くとしても,
原告らは実際に,本件施設の設置・運営による周辺環境の悪化により,精
神的苦痛を被り,また,職員や患者の通勤・通院に支障が生じているので
あって,著しい業務上の支障が生じているといえるから,位置基準に反し
ているといえる。
したがって,本件許可処分は,位置基準に反するものであり,違法であ
る。
イなお,仮に経済産業大臣に本件施設の設置の可否について一定の裁量権
が認められたとしても,経済産業大臣は,本件許可処分に当たり,原告ら
を含む周辺住民の激しい反対があり,かつ,公営ギャンブル施設による周
辺環境の悪化については,先に開業していたウインズ道頓堀の開業前にも
予想されており,本件施設の設置許可がされた場合には周辺環境に著しい
環境の悪化が生じることが容易に想像できたにもかかわらず,およそ調
査・検討に値することもせず,許可申請者であるAから提出された申請書
をうのみにし,無批判的に許可をしたのであり,その違法性は著しく,裁
量権の逸脱は明らかである。
第4当裁判所の判断
1争点①(原告らの原告適格の有無(本案前の争点))について
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」と
は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた
行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにい
う法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然
的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を
有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも
勘案すべきものである(同条2項,最判平成17年12月7日・民集59巻
10号2645頁参照)。
(2)上記の見地に立って,原告らが本件許可処分の取消しを求める原告適格
を有するか否かについて判断する。
ア位置基準は,場外施設が医療施設等から相当の距離を有し,当該場外施
設において車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著
しい支障を来すおそれがないことを,その設置許可要件の一つとして定め
るものであるところ,場外施設の設置・運営に伴う上記の支障は,基本的
には,場外施設周辺に所在する医療施設や文教施設を利用する児童,生徒,
患者等の不特定多数者に生じ得るものであって,法及び規則が位置基準に
よって保護しようとしているのは,第一次的には,上記のような不特定多
数者の利益であるといえる。もっとも,場外施設は,多数の来場者が参集
することによってその周辺に享楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたら
すものであるから,位置基準は,周辺の医療施設等の開設者がそのような
環境の変化によって文教又は保健衛生にかかわる業務上の著しい支障を被
ることなく,健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益
についても,個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定
であるというべきである。したがって,当該場外施設の設置・運営に伴い
著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医
療施設等を開設する者は,位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可
の取消しを求める原告適格を有するものと解される。そして,このような
見地から,当該医療施設等の開設者が上記の原告適格を有するか否かを判
断するに当たっては,当該場外施設が設置・運営された場合にその規模,
周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測される来場者の流れや滞留
の状況等を考慮して,当該医療施設等が上記のような区域に所在している
か否かを,当該場外施設と当該医療施設等との距離や位置関係を中心とし
て社会通念に照らし合理的に判断すべきものと解するのが相当である(本
件上告審判決参照)。
イこの点,原告らは,パチンコ・パチスロやその他の風俗営業に対する風
営法に基づく規制との比較等から,本件施設から400m以内の医療施設
の経営者には一律に原告適格が認められるべきであると主張する。
しかしながら,本件上告審判決が説示するとおり,本件許可処分の取消
しを求める原告適格の有無については,個々の医療施設について,本件施
設が設置・運営された場合に予測される来場者の流れや滞留の状況を考慮
し,本件施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあ
ると位置的に認められる区域内にあるかどうかについて判断する必要があ
るところ,原告らが主張するパチンコ・パチスロ等の営業所に対する風営
法等による規制は,ギャンブル施設の設置の規制という面では法による規
制と共通する要素を備えているものの,場外施設が,大規模で極めて多人
数の来場者が参集し,終わればいちどきに施設から出てくるといった特徴
を有することから周辺の医療施設等への支障が問題とされるのに対し,パ
チンコ等の営業所は,比較的小規模で,騒音等による支障が主に問題とな
るものであって,両者の施設には生ずる支障との関係で相当の差異がある
ことに加え,法と風営法等では規制の仕方も異なっているのであって,風
営法等を法と目的を共通にする法令ということはできず,風営法等の制限
区域を考慮して,本件施設から一定範囲内にある医療施設であるかどうか
によって原告適格の有無を判断することはできない。
ただし,原告適格の有無の判断は,訴訟の入口の段階における問題であ
り,簡明にかつ迅速に判断することが本来望ましく,本件上告審判決が,
「当該場外施設と当該医療施設等との距離や位置関係を中心として社会通
念に照らし合理的に判断すべき」としているのも,原告適格の判断に当た
っては,社会通念に基づく一般的類型的な判断で足りることを含意するも
のというべきである。
そうすると,本件の原告適格の有無の判断に際しても,著しい業務上の
支障が生ずるおそれの有無について,本案判断のような具体的なおそれの
有無についての厳密な検討をする必要はないというべきであり,本件施設
と本件各医療施設との距離や位置関係を中心として,本件各医療施設が,
本件許可処分が保健衛生上の配慮を欠く違法な処分であれば,上記のよう
な支障が生ずるおそれがあるとすることが社会通念上合理的といえる区域
内にあるといえるかどうかという観点から,判断をすれば足りるというべ
きである。
ウ本件においては,原告らが医療施設の開設者であることに争いはないか
ら,以下,本件施設の設置・運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそ
れがあると位置的に認められる区域内に,原告らが開設する本件各医療施
設があるかどうかについて検討する。
(3)検討
ア証拠(甲新24,25,乙新18)及び弁論の全趣旨によれば,本件各
医療施設は,本件施設の北東方向に,本件敷地の北東角から直線距離にし
て約60m~140mの範囲内(B医院は約60m(本件施設の来客用出
入口から直線距離約120m),C医院は約140m(本件施設の来客用出
入口から直線距離約220m),D医院は約116m(本件施設の来客用出
入口から直線距離約180m)である。),道路沿いの移動距離にして約1
60m~300m(B医院は約165m,C医院は約285m,D医院は
約262mである。)の範囲内の地域にあり,いずれも本件施設から徒歩で
数分程度の場所にある上,本件各医療施設と本件施設との間に,物理的に
その行き来を大きく妨げるような建物,自動車専用道路,橋のない河川そ
の他の施設等は存在しない(別紙1参照。なお,D医院と本件施設との間
には道頓堀川が存在するが,堺筋上の日本橋を渡って行き来をすることが
できる。乙新18)。
また,本件施設は競輪の場外車券販売施設であって,その収容予定人員
は約1700人,1日当たりの予想来場者数も1700人という極めて多
数の来場者が予想される施設であり(甲新G1,乙新23),しかも,施設
の性質上,人気のあるレースには来場者が一時的に集中し,レース終了後
には短時間のうちに極めて多数の来場者が本件施設から出てくることも予
想され,さらに,本件施設の北西約100mの場所には,同じく多数の来
場者が想定されるJRAの場外馬券売場(ウインズ)が存在している。ま
た,本件施設には来客用の駐車設備はないところ,本件施設の最寄駅は,
本件施設の南方向にある日本橋駅であるが,本件施設から同駅に向かう歩
道の幅は約3mで,もともと人通りの多い歩道であり(乙新12,弁論の
全趣旨),上記のように極めて多数の来場者が本件施設から短時間に出てき
た場合,通行しきれず本件施設周辺が極めて混雑する可能性も否定できな
い。また,本件施設の北方向には徒歩で10分程度の距離に大阪市営地下
鉄堺筋線及び長堀鶴見緑地線の「長堀橋駅」(以下「長堀橋駅」という。)
があり(弁論の全趣旨),コインパーキングや飲食店等も本件各医療施設の
付近を含め周囲に散在している(別紙1参照。乙新18)。
イこれらの事情を考慮すると,本件施設の来場者の相当数が,レース終了
後に本件施設を出て遊興等のため,又は日本橋駅へ向かう混雑を避けて,
周囲の路地等に流れ込むことも十分予想できることであり,本件施設から
約60mから140m離れ,間に格別通行を妨げるものも存在しない本件
各医療施設の周辺区域は,多数の本件施設の来場者が周囲を通行し又は滞
留するといったことが社会通念上十分考えられる区域というべきである。
D医院については,本件施設から見て道頓堀川の反対側に所在するが,前
記のとおり,本件施設が面する大規模な道路である堺筋上に日本橋が架か
っており,その先には長堀橋駅があり,D医院が面する日本橋北詰の交差
点を東方向に進んだ道沿いには比較的大規模なコインパーキングが相当数
あることも考慮すると(別紙1参照),D医院の周辺区域も本件施設の来場
者の相当数が流れていくことが十分あり得る区域ということができる。
ウしたがって,本件各医療施設はいずれも,社会通念に照らし合理的に判
断するに,本件許可処分が保健衛生上の配慮を欠く違法な処分であれば,
本件施設が設置,運営された場合に,本件施設から流れてきた多数の来場
者が相当時間にわたりたむろするなどして,著しい業務上の支障が生ずる
おそれがあると位置的に認められる区域に所在しているというべきであり,
したがって,原告らは,いずれも本件許可処分の取消しを求める原告適格
を有すると認めるのが相当である。
エなお,被告は,本件施設の来場者は,専ら最寄駅である日本橋駅と本件
施設との間を行き来するのみであり,日本橋駅とは反対方向の北東方向に
ある本件各医療施設周辺に多くの来場者が流れ込んでいく可能性はない旨
主張する。確かに,上記のとおり,日本橋駅が本件施設の最寄駅であるこ
とから,来場者のうち多くが日本橋駅と本件施設との間を往復するとみら
れるものの,上記説示した内容に照らせば,それ以外にも相当数の来場者
が,本件各医療施設の周辺を通行し又は滞留するといったこともあり得る
ということができ,また,原告適格の判断において,厳密にどの程度の数
の来場者がどういった行動を取るのかといった詳細な予測及び検討をする
ことが相当とはいえず,上記のような類型的な判断も社会通念に基づく合
理的な判断として許容されるというべきである。したがって,被告の上記
主張は採用することができない。
2争点②(本件許可処分の違法性(本案の争点))について
(1)総論
位置基準は,場外施設が医療施設等から相当の距離を有し,当該場外施設
において車券の販売等の業務が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい
支障を来すおそれがないことを,場外施設の設置許可要件の一つとして定め
るものである。
ところで,「文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがない」という
文言には抽象的な評価概念が含まれており,一義的かつ明確に判断すること
ができる性質のものではないこと,また,この点は,場外施設が設置,運営
された場合に予想される周辺環境への影響等の事情をも考慮し,長期的観点
に立って総合的に判断されるべき事柄であることなどからすると,位置基準
を満たすかどうかの判断については,経済産業大臣にある程度の裁量権が認
められるものと解される。そして,位置基準は,場外施設の設置,運営に伴
う環境の変化によって周辺の医療施設の開設者が被る保健衛生にかかわる業
務上の支障について,特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして,そ
の支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設
等の開設者の行う業務を保護する趣旨を含むものと解されるから,場外施設
の設置・運営に伴い,その周辺に所在する特定の医療施設等に当該著しい支
障が生ずるおそれが具体的に認められるにもかかわらず,これを看過し又は
不当に軽視するなどして,位置基準に係る判断が行われた場合には,当該場
外施設の設置許可は,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものとして,違法
となるというべきである。
そうであるところ,原告らは,本件施設の設置・運営により,原告らが設
置する医療施設に著しい業務上の支障が生じるおそれが具体的に認められ,
本件許可処分は位置基準に反し違法である旨主張するので,以下検討する。
(2)認定事実
前記前提となる事実,掲記各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
ア本件施設の概要
本件施設は,地上7階,地下1階の建造物であり,地下1階が駐輪場で
ある(収容可能台数は,自転車315台,バイク35台)。なお,本件施設
の1階の北側には駐輪場の入り口があるが,その付近にも20台程度のバ
イクを駐輪することができる(乙新14,23)。また,本件施設に専用駐
車場は設置されていない。本件施設の収容人員は1724人であり,1日
当たり約1700人の来場が見込まれており,年間の営業日は340日が
予定されていた(甲新G1,乙新1,2,23,弁論の全趣旨)。
本件施設は,1階から6階までが投票所となっており,テレビモニター,
発券・払戻所(自動発売払戻機を含む)がある(なお,本件施設の発券設
備は全て建物内部にあり,外部には設置されていない。)。各階には飲料の
自動販売機が設置されたドリンクコーナー,喫煙所が設置されており,ま
た1階には売店が設けられ,軽食等や雑誌・新聞等を購入することができ
る。本件施設の入り口付近には無料の出走表が置かれているほか,売店に
はスポーツ紙・専門誌が置かれ,また,投票所のテレビモニターにおいて
出場選手の紹介が行われており,来場者はこれらを見て,勝者の予想を行
うことができる。なお,本件施設は冷暖房が完備されている(甲新G1,
乙新1,2,23,弁論の全趣旨)。
イ本件施設の利用方法等
本件施設の来場者は,1階の来客用出入口から入場し,1階から6階ま
での投票所において,勝者投票券(車券)を購入し,TVモニターにおい
て放映されるレースを観戦する(乙新1,2)。
一般的に,競輪の開催時間帯は,昼間開催の場合には,午前10時30
分前後から午後4時30分前後まで,ナイター開催の場合には,午後3時
30分前後から午後8時30分前後までの時間帯で行われることが多く,
これに合わせて,本件施設の営業時間は,通常午前9時30分から午後5
時まで,ナイター開催のレースがある場合には,午後9時までとされてい
る(弁論の全趣旨)。
競輪の競走にはグレード制が採用されており,一般的にはグレードの順
に人気が高いが,昼間開催のレースは,グレードが高いビッグレースや記
念レースが開催されるのに対し,ナイター開催のレースは,グレードの低
い通常開催のレースが行われるため,昼間開催のレースの方が人気が高く,
来場者が多くなる傾向がある(弁論の全趣旨)。また,レースは,1日に9
回から12回程度行われるが,競輪はトーナメント制を採用しており,前
半のレースには,競走得点の低い選手やトーナメントに勝ち残れなかった
選手が出場し,後半のレースには,競走得点の高い選手やトーナメントに
勝ち残っている選手が出場するため,一般的に遅い時間に行われるレース
ほど人気が高い傾向がある。そのため,昼間開催の最終レースが最も人気
があり,当該レースの車券の購入,観戦を目的とする来場者が多い(弁論
の全趣旨)。
ウ周辺の交通状況及び交通安全対策等
(ア)本件施設の最寄駅は日本橋駅である。本件施設の来客用出入口は,本
件施設の西側の堺筋に面した場所に1か所設けられており,日本橋駅の
6番出口から地上に出て,堺筋の東側歩道を北方向に約100m進行し
た場所に位置している(別紙2参照,乙新8,18)。日本橋駅の6番出
口から本件施設までは,徒歩約1分程度の距離である(弁論の全趣旨)。
なお,本件施設には,北側にある地下駐輪場の入り口からも出入りする
ことが可能である(乙新23)。
また,本件施設の北方向には,長堀橋駅があり,本件施設から徒歩で
約10分程度を要する位置に所在している。
(イ)本件施設の来客用出入口が面する堺筋は,大阪市の中心を南北方向に
貫く幹線道路の一つであり(甲新G1,乙新8,9),本件施設付近は,
全5車線,幅員21.82メートルの北行き一方通行の大通りである。
堺筋の車道の両側には,幅約3メートルの歩道が設置されている(弁論
の全趣旨)。
(ウ)Aは,本件施設の設置許可申請に際し,本件施設は,公共交通機関の
利便がよく,会員規約に公共交通機関での来場を明記するため,来場者
用の専用駐車場は設けないこととし,来場者の交通安全対策については,
「電車等公共交通機関の利用の徹底を図るとともに,JR,私鉄及び地
下鉄の駅出入口等から場外車券販売施設までの動線の整理,誘導並びに
万一車での来場者があった場合の対策について,所轄警察署と十分協議
し,万全を期す」こととしており(甲新G1,乙新23),本件施設のパ
ンフレット(乙新1)には,「自動車でご来館はお断りいたします。各種
公共交通機関をご利用ください。」と記載されている。
本件施設の営業開始後には,本件施設の来客用出入口前や,堺筋沿い
に警備員が配置され,営業時間中は常に日本橋駅の出口から本件施設ま
での間の来場者の整理,誘導を行っており,その他にも,本件施設周辺
には,駐輪場の出入口周辺や本件施設の裏側等に警備員が多く配置され,
交通の整理や,周辺を通行する来場者の監視,誘導等を行っている(乙
新17,証人P4,原告P1本人)。
エ本件施設周辺の状況
(ア)本件施設の堺筋を挟んだ西側には,大阪府の代表的な繁華街の一つで
あるミナミの繁華街が広がっており,飲食店,大規模なショッピングセ
ンター,電化製品の販売店,パチンコ店やカラオケ店等の娯楽施設等が
多く存在している(乙新8,9,18)。より具体的には,日本橋駅の西
側の方向にはJR難波駅,近鉄難波駅,地下鉄四つ橋線,御堂筋線及び
千日前線のなんば駅(以下,これらを併せて「なんば駅」という。)があ
るが,本件施設の西側からなんば駅の間には,ミナミの繁華街の一角で
ある道頓堀の繁華街が広がっており,本件施設の来客用出入口を出て堺
筋を隔てた西側のほど近い位置に,飲食店,娯楽施設等が多数存在して
おり,堺筋の西側付近には,コンビニエンスストアも数軒ある。また,
本件施設から100メートル南側を東西に走る千日前通りを挟んで南西
方向には,なんばの繁華街があり,南側には,電気街である日本橋の繁
華街がある(乙新9)。また,千日前通りの地下には,東は堺筋(日本橋
駅)から西は四つ橋筋(なんば駅)までの約800メートルを東西に貫
く巨大地下街であるなんばウォークが広がっている(乙新9)。
(イ)本件施設の堺筋を隔てた西側には,JRA専用の場外発券施設である
ウインズ道頓堀があり,レース開催日には多くの来場者がある。JRA
のレース開催は,土日祝日に限られ,レースは昼過ぎから開始される(別
紙1参照,乙新12,18,弁論の全趣旨)。
(ウ)本件各医療施設が所在する本件施設の北東方向には,コインパーキン
グ,雑居ビル,ホテル(いわゆるラブホテルが多い。),ビジネスホテル
等が多くあり,小規模の店舗や飲食店も少数ながら点在している。本件
施設の東側には,国立文楽劇場があるが(別紙1参照,乙新8,18),
周辺に大規模な繁華街はない。
オ本件各医療施設
(ア)原告P1が開設するB医院は,歯科を診療科目としており,診療時間
は,平日は午前10時から午後6時まで,土曜日は午前10時から午前
12時まで,日曜・祝日は休診日である(甲新35,原告P1本人)。B
医院は,別紙1のとおり,本件施設の北東方向にあり,本件施設の来客
用出入口から堺筋沿いに北方向に進行し,一つ目の信号がある交差点を
道頓堀通り沿いに東進した位置にある(乙新18,弁論の全趣旨)。B医
院の周辺にはコインパーキング,雑居ビル,ラブホテル,風俗店等があ
り,理容店・喫茶店等の小規模な店舗も点在している(乙新18)。
(イ)原告P2が開設するC医院には,外科,胃腸科及び内科の各診療科目
があり,診療時間は,平日の午前診療が午前9時30分から午後1時ま
で,午後診療が午後3時から7時までで,水曜日と土曜日は午後診療が
休診であり,日曜・祝日は休診日である(甲新37,原告P2本人)。C
医院は,本件施設の北東方向にあり,別紙1のとおり,B医院から更に
東に約120m進んだ位置にある(乙新18,弁論の全趣旨)。C医院の
周辺には,雑居ビル,コインパーキング等が多く立ち並んでいる(乙新
18)。
(ウ)原告P3が開設するD医院には,外科,整形外科,胃腸科,肛門科,
泌尿器科,皮膚科及び放射線科の各診療科目があり,また入院施設もあ
る。D医院は,外科・整形外科の第2種救急指定病院である。D医院の
外来の診療時間は,平日の午前診療が午前9時から午前12時まで,午
後診療が午後1時から午後5時までで,土曜日の午後診療は休診であり,
日曜・祝日が休診日である(甲新36,原告P3本人)。D医院は,本件
施設の北東方向にあり,別紙1のとおり,本件施設の来客用出入口から
堺筋沿いに北方向に進行し,日本橋を渡って道頓堀川を越え,日本橋北
詰の交差点を東進した位置にある(乙新18,弁論の全趣旨)。D医院の
周辺には,コインパーキング,雑居ビル,ホテル等が立ち並んでおり,
小規模な飲食店等も点在している(乙新18)。
カ本件施設の営業開始後の状況
(ア)本件施設は,平成19年3月14日に営業を開始した後,ほぼ1年中
毎日営業を行っており,連日多数の来場者が参集している(弁論の全趣
旨)。
(イ)本件施設の来場者の入退場の動向は,入場者については,開館時間で
ある午前9時30分から夕方頃までほぼ一定の割合で,多人数が集中す
ることなく入場している(乙新15から17まで)。なお,本件施設にお
いては,入場者数が収容人数を超えるおそれがある場合には,入場制限
を行うことになっているが(乙新5(29条1項)参照),実際に入場制
限が行われたことはない(弁論の全趣旨)。
一方,退場者については,昼間開催の最終レースが終了する午後4時
30分頃から5時までの5分から20分程の間に集中して一度に多数の
来場者が退場し,一方,それ以外の時間帯に退場する者はそれほど多く
ない(乙新15から17まで)。そのため,上記多くの来場者が一度に退
場してくる時間帯においては,本件施設の来客用出入口が面する堺筋東
側歩道が混雑し,一般の通行者の通行に困難が生じることがあるが,そ
れ以外の時間帯には,そのような事態が生じることはあまりない(乙新
16,17,証人P4,原告ら各本人)。また,本件施設からの退場者の
多くは,堺筋東側歩道を南向きに移動しており,平成21年12月30
日の調査では,堺筋を北向きに移動する者は全体の2割程度であった(甲
新14,乙新15,17)。なお,退場者が集中する午後4時30分頃か
ら午後5時頃までの時間帯においては,本件施設の来客用出入口前の堺
筋東側歩道上の警備員が増員され,退場してくる来場者の整理・誘導に
当たっている(乙新17)。
(ウ)本件各医療施設の周辺道路においては,現在,上記本件施設からの退
場者が集中する時間帯を含めて人通りがそれほど多くなく,本件各医療
施設の周辺に多数の来場者が参集し,相当時間にわたりたむろしたり,
騒がしい状況を生じさせるなどの事態は生じていない(乙新22,原告
ら各本人)。
また,本件施設周辺が来場者で混雑していても,堺筋を走行する救急
自動車等の通行に支障が生じるという事態も,本件施設の営業開始から
現在までの間,特に生じたことはない(原告P3本人)。
(3)検討
ア多数の来場者が周辺に参集することによる支障について
上記1で述べたとおり,本件施設と本件各医療施設とは徒歩数分程度の
近接した位置関係にあり,物理的にその行き来を大きく妨げるようなもの
もないことから,具体的事情によっては,本件施設が設置・運営された場
合,多数の来場者が,原告らが開設する医療施設周辺に参集し,それらの
者が医療施設周辺に相当時間たむろしたり,騒がしい状況を生じさせるな
どして,医療業務に著しい支障を生じさせる可能性がある。そこで,本件
施設が設置・運営された場合に予測される来場者の合理的な動きや流れに
ついて,前記認定事実を踏まえ,以下具体的に検討する(なお,本件施設
においては,前記認定事実のとおり,施設内でテレビモニターを観戦し,
車券の購入と払戻し等が行われるのみであるから,本件施設自体から激し
い騒音等が生じるものではない。そのため,本件においては,本件施設に
参集した来場者が周辺に多数集合することにより生じる騒音や静穏でない
雰囲気等により,業務上の支障が生じるかどうかが主に問題となるため,
以下その点を中心に検討する。)。
(ア)本件施設来場者の流れについて
a前記認定事実のとおり,本件施設は,堺筋の東側歩道に面した来客
用出入口から南方向に徒歩約1分進行した位置に日本橋駅の6番出口
があり,当該駅を利用しやすい位置関係にある上,日本橋駅は3路線
の駅が交差した駅で,交通の便がよいことを考えると,本件施設の来
場者の多くが,日本橋駅を利用して本件施設に来場することが予想さ
れる。特に,前記認定事実のとおり,本件施設には専用の駐車場が設
置されておらず,パンフレット等で公共交通機関による来場を呼びか
けていることから,自動車で来場する者は,通常のギャンブル施設と
比べればそれほど多くなく,公共交通機関を利用して日本橋駅から本
件施設に来場する者が多数を占めるものと考えられる。また,前記認
定事実のとおり,本件施設の北側には長堀橋駅もあるが,本件施設か
ら徒歩10分を要する位置にあり,徒歩1分の距離にある日本橋駅と
比べると,利便性がかなり劣ることから,長堀橋駅を利用する者が一
定数いるとしても,多くは日本橋駅を利用するものと考えられる。そ
うすると,本件施設の利用者の多くは,本件施設への入退場時等にお
いて,堺筋の東側歩道上の日本橋駅の6番出口と本件施設の西側来客
用出入口との間を行き来することになると考えられる。なお,前記認
定事実によれば,本件施設には駐輪場の北側から出入りすることも可
能であるが,この場所は駐輪場の出入口であることからすると,当該
出入口から出入りする来場者は比較的少数にとどまると考えるのが自
然である。
bまた,本件施設の来場者のうちには,本件施設に来場する前や,目
的とするレースの観戦が終了し本件施設から退場した後などに,周辺
の娯楽施設や飲食店等に立ち寄る者も相当数いるものと予想されると
ころ,本件施設の北西方向及び南方向にかけて大規模な繁華街があり,
飲食店・娯楽施設・ショッピングセンター等が多数存在していること,
また,日本橋駅から繁華街を挟んだ西側にはなんば駅もあり,本件施
設の退場後に繁華街に寄り,そのままなんば駅から帰宅することも可
能であることなどからすると,その多くは,上記の繁華街が存在する
本件施設の北西方向から南方向から来場し,またそちらへ向かうもの
と考えられる。
c一方,本件各医療施設が所在する本件施設の北東方向は,上記のと
おり多くの者が利用することが予想される日本橋駅や,多くの者が立
ち寄るであろう繁華街のある方向とは逆方向にあり,また,周辺には
電車の駅や大規模な繁華街もないことからすると,本件施設の来場者
のうち,本件施設への行き帰りの際などに,あえて本件各医療施設の
周辺に流れていく者が,それほど多くいるとは考えにくい。
もっとも,上記のとおり,本件施設に自動車で来場することは禁止
されているものの,全ての者がこれを遵守するとは考えにくく,一定
数の者は自動車で来場する可能性があると考えられるところ,本件各
医療施設周辺にはコインパーキングが比較的多くあり,自動車で来場
した者が,コインパーキングを利用するため,本件各医療施設周辺に
移動してくる可能性があると思われる。もっとも,本件施設の周辺に
は,南側や堺筋を隔てた西側などに,本件各医療施設周辺よりも来客
用出入口に近接した位置に相当な台数を収容することができるコイン
パーキングが複数あることからすると(乙新13),コインパーキング
に駐車をするため,本件各医療施設周辺に流れてくる来場者は一定程
度いると考えられるものの,多数の来場者が一度に参集することは少
ないと考えられる。また,本件施設の来場者の中には,自転車やバイ
クで来場する者も相当数いるものと考えられるが,前記認定事実のと
おり,本件施設には相当数の自転車及びバイクを収容することができ
る駐輪場が確保されているため,それらの者が本件施設の周辺に滞留
するということは考えにくい。
さらに,本件各医療施設が所在する本件施設の北東方向には,風俗
店,ラブホテル,小規模の店舗や飲食店等が点在しており,本件施設
の行き帰りの際などに,一定数の者がそれらの施設を利用しようとし
て本件各医療施設周辺へ流れていくことが考えられるものの,それら
の施設の数,規模,性質等に鑑みれば,多数の者が当該店舗等を利用
しようと一度に参集するということは考えにくい。
dまた,本件施設の来場者の中には,レースとレースの合間に本件施
設から出て,休憩,飲食,情報の収集,時間つぶし等のため,周辺を
徘徊する者もいることが予想されるものの,前記認定事実によれば,
レースとレースの合間は20分から30分と比較的短く,来場者の多
くは,前のレースが終わると,引き続き次のレースの勝者を予想して
車券を購入する場合が多いと考えられ,本件施設には,内部に喫煙所,
ドリンクコーナーがあり,売店等で軽食を買うこともでき,また,入
り口付近に置かれた出走表,売店で販売されているスポーツ紙・専門
誌,TVモニターにおいて放映される選手紹介等を参考に勝者の予想
を行うことができ,本件施設外に出る必要性もそれほど大きくないと
考えられることからすると,レースの合間に本件施設外に出る者がい
るとしても,それほど多数の者が一度に退場するというものではなく,
また本件施設から遠く離れた地点にまで多くの者が押し寄せたり,長
時間にわたって周囲を徘徊するということはないと考えられる。
そして,前記認定事実によれば,本件施設の堺筋を隔てた北西方向
から南方向にかけては大規模な繁華街が広がっており,本件施設の来
客用出入口からほど近い場所にコンビニエンスストアや飲食店,パチ
ンコやカラオケ等の娯楽施設が多く存在していると認められることか
らすると,レースの合間に本件施設から出てきた者は,これらの店舗
等を利用し,またその周辺を徘徊することが多いと思われる。一方,
本件各医療施設が所在する本件施設の北東方向にも,小規模な店舗や
飲食店が一応存在するため,レースとレースの合間にこれらの店舗を
利用する者も一定数いるものと考えられるが,店舗数が繁華街と比べ
て格段に少なく,規模も小さい上,距離が格別近いわけでもないこと
からすると(乙新18),これらの施設を利用しようと本件各医療施設
周辺を徘徊する者はそれほど多くないと考えられる。
e以上を総合して検討すると,本件施設の来場者については,日本橋
駅や繁華街のある西方向から南方向にかけて,本件施設との間を行き
来する者が多数を占めるものと考えられ,本件各医療施設が所在する
北東方向には,一定数の者が流れていくということはあっても,多数
の者が一度に参集したり,滞留したりするということは考えにくい。
この点は,前記認定事実のとおり,本件施設の営業開始後の調査によ
れば,本件施設から退場する来場者のほとんどは,堺筋東側歩道を南
向きに移動するか,堺筋を横断して堺筋の西側に向かい,北向きに移
動する者はそれほど多くなかったと認められることからも裏付けられ
るものである。
(イ)レース終了後の退場者の動静について
aまた,本件施設の性質上,人気のあるレースの後等には,一時期に
集中して多数の来場者が本件施設から退場してくることも想定され,
その場合,それらの一度に出てきた多数の来場者が,本件施設の周辺
に滞留し,四方八方に拡散し,本件各医療施設の方向に流れていく可
能性も否定できない。
bしかしながら,前記のとおり,本件施設から退場した者の多くは,
日本橋駅や繁華街の方向に向かうと考えられることから,一度に多数
の来場者が退場しようとし,本件施設周辺で滞留するという事態が生
じたとしても,日本橋駅や繁華街とは逆方向である本件各医療施設周
辺に多数の者が流れていくとは思われない。
さらに,前記認定事実によれば,本件施設の来客用出入口前や,堺
筋沿いに警備員が配置され,営業時間中は常に本件施設と日本橋駅の
出入口の間を通行する来場者の誘導・整理を行っているほか,駐輪場
の出入口,本件施設の裏側の道路等,本件施設の周辺に警備員が配置
され,交通の整理や周辺を通行する来場者の整理,誘導を行っている
ことが認められるから,多くの来場者が一度に本件施設から退場して
きたとしても,適切な整理・誘導が行われ,多数の来場者が本件施設
周辺で滞留したり,四方八方に拡散し,本件各医療施設周辺に多く流
れ込むという事態は相当程度防止することができると考えられる。
なお,前記認定事実によれば,競輪のレースは,1日に複数回のレ
ースが行われ,来場者はそれぞれ車券購入及び観戦を目的とするレー
スの時間に合わせて来場すると考えられるため,多くの者が一度に本
件施設周辺に来場することはあまりないと考えられる(前記認定事実
のとおり,本件施設においては,入場者数が収容人数を超える場合に
は入場規制が行われることとされているが,本件施設の収容人数が1
日当たりの予想来場者数を上回っていることからすれば,入場規制が
行われ,本件施設周辺に入場できない来場者が滞留したりすることは
あまりないと考えられ,実際にも,これまでに入場規制が行われたこ
とはないと認められる。)。
cそして,前記認定事実によれば,競輪のレースは,昼間開催の最終
レースが最も人気があるため,当該レースが終了した頃に集中して来
場者が退場することが予想され,一方,それ以外の時間帯については,
多くの来場者が一度に本件施設から退場することはあまりないと考え
られる。そのため,本件施設から一度に出てきた来場者が,本件施設
の周辺に滞留し,四方八方に拡散し,本件各医療施設が所在する方向
に相当数流れていくような事態が生じ得るのは,上記昼間開催のレー
スが終了する時間帯に限定されると考えられる。実際,本件施設の営
業開始後には,昼間開催の最終レースが終了する午後4時半から午後
5時までの15分から20分間に一挙に多数の来場者が本件施設から
出てくることが認められ,他方,その他の時間帯については,それほ
ど周辺が混みあうことはないと認められる。そうすると,一度に多数
の来場者が本件施設から退場した際,それらの者が周辺に滞留し,拡
散し,多くの者が本件各医療施設周辺に流れて行くなどの事態は,仮
に生じ得るとしても,上記のような時間に限定されていると考えられ,
それにより原告らの行う医療業務に与える影響は限定的であると考え
られる。
しかも,前記認定事実によれば,上記のように多数の来場者が一度
に退場してくる時間帯においては,本件施設の来客用出入口前に警備
員を増員し,特に厳重に来場者の誘導・整理を行っているというので
あるから,当該時間帯においても,多数の来場者が滞留し,四方八方
に拡散し,本件各医療施設周辺に多く流れ込むという事態が生じるお
それはそれほどないものと考えられる。
d以上からすれば,本件施設から一度に退場してきた多数の者が,本
件施設の周辺に滞留し,四方八方に拡散し,本件各医療施設の方向に
流れていくという事態が生ずるおそれが具体的に認められるというこ
とはできない。
(ウ)ウインズ道頓堀について
なお,原告らは,本件施設付近には,本件施設同様に多数の来場者が
見込まれるJRA専用の場外発券施設であるウインズ道頓堀があるため,
相乗効果で来場者が増加し,両施設を行き来する来場者により周辺道路
等が混雑するなどの事態の発生が懸念される旨主張するが,前記認定事
実によれば,ウインズ道頓堀は,本件施設の堺筋を隔てた西側に所在す
るため,本件施設の来場者がウインズ道頓堀と本件施設とを行き来する
としても,本件各医療施設周辺にこれらの者が多く流入するとは考えに
くい。また,前記認定事実のとおり,ウインズ道頓堀に多数の来場者が
あるのは土日祝日に限られ,かつ昼過ぎからレースが開始されるという
のであるが,本件各医療施設が日曜日はいずれも休診日であり,土曜日
も午前中のみの診察であることからすれば,ウインズ道頓堀との相乗効
果による来場者の増加があり,万一本件各医療施設周辺に多くの者が流
れていく事態が生じるとしても,それにより原告らが行う医療業務への
影響はあまりないと考えられる。
(エ)来場者の参集による支障について
以上からすると,本件施設の設置・運営により,多数の来場者が本件
各医療施設の周辺に多く流れ込んでいくという事態が生じるおそれは,
それほど高度のものではないと考えられ,多数の来場者が,本件各医療
施設周辺で相当時間たむろし,騒がしい状況や静穏を欠く雰囲気等を生
じさせるなどして,原告らの医療業務に著しい支障を生じさせる具体的
なおそれがあるとは認められない。実際にも,前記認定事実によれば,
本件施設の運営開始後において,本件各医療施設の周辺に多数の来場者
が参集し,相当時間にわたりたむろし,騒がしい状況を生じさせるなど
という事態は生じていないことが認められ,この点からしても,上記具
体的なおそれがないことが裏付けられるということができる。
イ救急自動車の通行の支障について
(ア)前記認定事実によれば,D医院は外科・整形外科の第2種救急指定病
院であるところ,D医院の所在する位置と周辺の道路の状況を勘案する
と,日本橋駅方面からD医院に緊急の患者を搬送する救急自動車は,本
件施設前の堺筋を北方向に走行することが多いと予想される。そのため,
原告P3については,本件施設の設置・運営により,多数の来場者によ
り周辺道路が混雑するなどして,周辺の医療施設に患者を搬送する救急
自動車の通行に支障が生じ,それによりD医院において行われる医療業
務に著しい支障が生じる可能性も否定はできない(なお,B医院及びC
医院については,救急指定病院ではないため,上記のような支障は生じ
ないと考えられる。)。
(イ)しかしながら,前記認定事実によれば,堺筋は片道5車線の大規模
な幹線道路であり,また,本件施設への自動車での来場は禁止されてい
る上に,実際にも,本件施設には駐車場も設けられていないことから,
本件施設周辺まで自動車で来て,コインパーキングに駐車し徒歩で来場
するよりも,日本橋駅から徒歩で来場する方が一般的には利便性が高い
と考えられることも考慮すると,自動車が本件施設付近に殺到すること
により,本件施設付近の堺筋が混雑し,救急自動車の通行が困難となる
おそれはそれほど高くないものと考えられる。
また,前記のとおり,堺筋は片道5車線の大規模な幹線道路であり,
本件施設周辺の歩道も相当程度の幅員があることからすれば,本件施設
の来場者が堺筋の車線を遮り,一定期間自動車の通行を大きく妨げるよ
うな事態は考えにくい上,本件施設周辺の道路においては,警備員によ
る整理・誘導等が行われることも考慮すると,本件施設の来場者が堺筋
の車道部分にあふれ,好き勝手に横断するなどして,救急自動車の進行
が妨げられるという事態が生じる具体的なおそれがあるとは認められな
い(なお,原告らは,本件施設周辺の警備員は,堺筋を横断する歩行者
に対して適切な注意をしておらず,警備員による整理・制止に期待する
ことはできない旨主張するが,来場者の整理・誘導を目的として警備員
が配置される以上,警備員による交通規制の有効性を無視することはで
きず,上記により救急自動車の進行が妨げられる具体的なおそれが認め
られるものではない。)。また,前記のとおり,本件施設から多数の者が
一度に退場し,本件施設の来客用出入口前の堺筋が混雑するおそれがあ
るのは,昼間開催の最終レースが終了する午後4時30分頃から午後5
時頃までのうちの数十分程度にすぎないと考えられるから,仮に多数の
来場者により周辺道路に混雑等の事態が生じるとしても,それがD医院
における医療業務にもたらす支障の程度は限定的である。
そして,実際にも,前記認定事実のとおり,本件施設の運営開始後,
本件施設周辺が来場者で混雑することにより,救急自動車の通行に支障
が生じたことはなかったと認められ,当該事実からも上記のような事態
が生じる具体的なおそれがないことが裏付けられるというべきである。
(ウ)したがって,本件施設が設置・運営されることにより,D医院に患
者を搬送する救急自動車の通行が妨げられ,これによりD医院において
業務上の著しい支障が生じる具体的なおそれがあるとは認められない。
ウ小括
以上からすれば,本件施設が設置・運営された場合に,多数の来場者が
本件各医療施設の周辺に相当時間たむろし,騒がしい状況や享楽的な雰囲
気を生じさせ,また,多数の来場者より周辺道路が混雑し,患者を搬送す
る救急自動車の通行に支障が生じるなどして,原告らの行う医療業務に著
しい支障が生じるおそれが具体的に認められるということはできない。
(4)原告らの主張について
ア患者の通院の支障について
(ア)原告らは,本件各医療施設の患者は,日本橋駅の方向から通院する者
がほとんどであるところ,本件施設の設置・運営により,多数の来場者
が参集し,日本橋駅と本件施設との間の堺筋の東側歩道が混雑し,また,
本件施設周辺の路上に違反駐輪が増加することなどによって,周辺道路
の通行が困難になり,これによって,病気や障害を抱える患者の通院に
支障が生じ,これが位置基準にいう保健衛生上の著しい支障に当たる旨
主張する。
(イ)しかしながら,前記のとおり,本件施設の多数の来場者が退場し,
周辺の道路が混雑し,患者らの通行に困難が生じるおそれがあるのは,
昼間開催の最終レースが終了する午後4時30分頃から午後5時頃まで
のうちの数十分程度にすぎないと考えられる。そして,それ以外の時間
については,本件施設の設置・運営以前と比べて若干通行量が増加する
ことは予想されるものの,障害や病気を抱えた患者の通行に支障が生じ
るほどに混雑するということは,それほどないと考えられる。
また,本件各医療施設と日本橋駅との位置関係からすれば(別紙2参
照),日本橋駅から本件各医療施設までは,地下鉄日本橋駅の東側の7番
出口から出て,北に進むという経路によることも可能である(B医院及
びD医院については,そのような経路によることは,本件施設の来客用
出入口前を通行するよりも遠回りとなるものの,患者にとって過度に負
担となるとまでは認めることができない。また,そもそも,B医院につ
いては,診療科目が歯科であることからすれば,その患者は,基本的に
は,病気や怪我により歩行に困難があったり,混雑した道を歩くことで
病状が悪化するような者であることは考え難いから,上記のような保健
衛生上の支障はさらに小さいものと考えられる。)。
以上からすれば,本件施設設置・運営により,多数の来場者が本件施
設から日本橋駅との間を通行することによって,患者らの通行が困難と
なるという支障は,それほど大きいものではないと考えられる。
(ウ)また,原告らは,違法駐輪等が増加することによって本件施設周辺の
歩道・道路が混雑し,それにより患者の通院に支障が生じている旨主張
する。
しかしながら,前述のとおり,本件施設前の歩道を避けて7番出口を
利用する方法もある上,前記認定事実のとおり,本件施設には十分な規
模の駐輪場が整備されており,また,本件施設周辺の違法駐輪について
も,来場者に支障のない範囲で地下駐輪場の開放等について検討するこ
とが予定され(甲新G1,乙新23),本件施設の営業開始後には,駐輪
場を周辺の住民にも開放し,違法駐輪の抑止に努めていたことが認めら
れるなど(乙新14),周辺道路において違法駐輪に対する対策が行われ
ていることからすれば,一部の来場者が違法駐輪を行う可能性は全くな
いわけではないものの,患者の通院に著しい支障が生ずる具体的なおそ
れがあるとまではいえず,また,それが本件施設の設置・運営による支
障であるということも困難である。
したがって,本件施設の来場者による違法駐輪により,本件各医療施
設の患者の通院に著しい支障が生じるおそれが具体的に認められるとい
うことはできない。
(エ)以上からすれば,本件施設の設置・運営により,本件各医療施設に
通院する患者の通院に著しい支障が生じるおそれが具体的に認められる
ということはできないから,原告らの上記主張を採用することはできな
い。
イ原告らのストレス・精神的苦痛について
(ア)原告らは,本件施設が設置・運営されると,周辺地域に風俗店が増加
するなどの周辺環境の悪化が生じ,また,マナーの悪い本件施設の来場
者が徘徊すること等により,原告ら及び本件各医療施設で医療業務に従
事する医師がストレス・精神的苦痛を感じ,これにより医療業務に悪影
響が生じており,保健衛生にかかわる著しい業務上の支障が生じるおそ
れが具体的に認められる旨主張する。
しかしながら,原告らの上記主張は,原告ら及びその他の医師が,本
件施設やその来場者,周辺の風俗店の増加等の環境の変化に対して抱く
不快感,そこから生じるストレス,精神的苦痛により,医療業務に悪影
響が生じるというものであるが,そのような本件施設及びその来場者に
対する嫌悪感,不快感を中心とする主観的な感情は,本件各医療施設に
おける医療業務の遂行を直接に妨げるものではないし,また,こういっ
た嫌悪感,不快感に基づくストレス等が,業務上の著しい支障をもたら
すほどのものであることを認めるに足りる証拠もなく,これにより,原
告らの行う医療業務について著しい支障が生ずるおそれが具体的に認め
られるということはできない。
また,原告らが嫌悪感,不快感の主たる原因として主張する風俗店の
増加は,周辺の環境,交通事情等,多様な要因が関与するものであって,
必ずしも本件施設の設置が唯一又は主要な要因という訳ではない。本件
施設の周辺には,本件施設の設置・運営以前から風俗店が多数存在して
いたことがうかがわれること(乙新24),風俗店の増加は大阪府全域で
みられること(乙新25),さらに,本件施設の南西方向に大規模な繁華
街が多くあること等に鑑みても,本件施設周辺における風俗店の増加が
専ら本件施設の設置・運営によるものということはできないのであり,
また,風俗店については本来風営法等によって別途規制されるべきもの
であることからすれば,本件施設の設置・運営と,風俗店の増加により
原告らが感じる嫌悪感,不快感との間に,直接の因果関係を肯定するこ
とは困難である。
(イ)また,原告らは,薬物依存者や常識を逸脱した本件施設の来場者が,
本件各医療施設に通院することにより,何か問題が生じるかもしれない
という不安感からストレスを抱え,これにより原告らが行う医療業務に
支障が生じるおそれがある旨主張する。
しかしながら,証拠上,原告らの上記主張を裏付けるような具体的な
事情は見当たらない。しかも,上記主張は,結局のところ,本件施設の
来場者に対する原告らの嫌悪感,不快感を原因とするストレスや精神的
苦痛により医療業務に悪影響が生じるというものであって,上記(ア)と同
様,このような感情が医療業務の遂行にもたらす支障の有無・程度も明
らかでないことからすれば,これにより,本件各医療施設における医療
業務に著しい支障が生じるおそれが具体的に認められるということはで
きない。
ウ職員に生じる支障について
(ア)原告らは,本件施設の設置・運営により治安の悪化,風俗店が増加す
るなど,周辺環境が悪化したことによって,本件各医療施設の職員が嫌
悪感・不安感を抱き,それらの職員が離職し,職員の採用が困難となる
おそれがあり,保健衛生にかかわる著しい業務上の支障が生じるおそれ
がある旨主張する。
しかしながら,職員の離職や採用上の困難が生じるおそれがあるとい
うのみでは,保健衛生にかかわる業務上の著しい支障とはいい難い。ま
た,本件施設の設置・運営による周辺環境の変化により抱く嫌悪感・不
安感等の有無及び程度は,個々人の受け取り方によって様々であり,本
件施設の設置・運営により職員が本件施設や周辺環境等に対する否定的
な感情を抱いたとしても,それによりただちに当該職員の離職・採用の
困難が生じるおそれがあると認めることもできない。さらに,前記のと
おり,風俗店の増加により職員が嫌悪感・不快感を被るという主張につ
いては,風俗店の増加の主要な原因が本件施設の設置・運営ということ
もできない。
(イ)原告らは,本件施設の設置・運営により本件各医療施設に勤務する職
員の通勤に困難が生じ,それにより,医療業務に支障が生じるおそれが
あるとも主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,本件各医療施設の診療時間は,
いずれも午前9時から午前10時頃に開始し,終了時刻は平日は午後5
時以降,土曜日は午前のみの診療で,日曜・祝日は休診日とされている
ところ,前記のとおり,本件施設の来場者が多数退場し,周辺の道路が
混雑し,歩行者の通行に困難が生じるおそれがあるのは,午後4時30
分頃から午後5時までのうちの数十分程度の間に限定されると予想され
るから,本件各医療施設の職員のうち本件施設の来客用出入口の前を通
って通勤する必要がある者についても,基本的にはそのような混雑した
時間に本件施設の来客用出入口前を通行する必要はないと考えられ,し
たがって本件施設の設置・運営により,本件各医療施設の職員の通勤に
困難が生じるおそれがあるとも認められない。
エ経営の悪化について
(ア)原告らは,本件施設の設置・運営による周辺環境の悪化により患者数
が減少し,それにより,本件各医療施設の経営が悪化し,業務上の著し
い支障が生じている旨の主張をする。
(イ)しかしながら,仮に当該支障が生じているとして,そのような支障は,
原告らの経営上の支障にとどまり,保健衛生にかかわる著しい業務上の
支障に当たるとは解し難い。
また,患者数の増減や医療施設の経営状況は,様々な原因に起因して
生じるものであって,仮に本件施設の営業開始後に本件各医療施設の患
者数の減少等が生じたとしても,それが本件施設の設置・運営によるも
のと認めることも困難である。
(ウ)以上からすれば,原告らの上記主張を採用することはできない。
オ患者の通院回数の減少について
(ア)原告らは,本件施設の設置・運営を原因として,本件各医療施設の患
者が,通院回数を減らしたり,通院自体を止めてしまい,これにより十
分な治療を行うことができなくなるおそれがあるとして,保健衛生にか
かわる業務上の著しい支障が生じている旨主張する。
(イ)しかしながら,前記のとおり,本件施設が営業を開始しても,本件各
医療施設の患者の通院に著しい支障が生じるとは認められず,その他,
本件施設の設置運営に伴う通院上の困難により患者が通院回数を減らし
たり,通院自体を止めるといった状況が生じると認めるに足りる十分な
証拠はない。
原告らの上記主張は,結局,患者が本件施設や来場者に対する嫌悪感
等から,医療施設への通院を避けてしまうという危惧をいうものにすぎ
ず,このような嫌悪感等の有無及び程度並びにそれが及ぼす影響は,個々
人の感じ方によって様々であり,それにより,本件各医療施設の患者が
通院回数を減らしたり,通院を止めたりするおそれがあると具体的に認
めることは困難であるし,そもそもそのような嫌悪感等により通院回数
の減少や停止があったとしても,それは患者らの選択によるものであっ
て,患者らが他の医療施設で必要な治療を受けられないものでもなく,
上記を本件各医療施設における保健衛生にかかわる業務上の著しい支障
に当たるということも困難である。
(ウ)以上からすれば,原告らの主張する上記事情をもって,本件各医療施
設における医療業務に著しい支障が生じるおそれが具体的に認められる
ということはできない。
カその他の主張について
(ア)原告らは,本件施設の設置・運営により,患者が不安感を覚えるよう
な環境において医療行為を行うことは医療機関としての価値と評価が下
がる旨主張するが,患者が不安感を覚える事態が生じる具体的なおそれ
を認めるに足りる証拠はない上,仮に不安感を覚える患者がいたとして
も,それが保健衛生にかかわる業務上の著しい支障に当たるとはいい難
い。
(イ)原告P2は,本件施設の設置・運営による周辺環境の悪化により,医
療施設の移設をやむなくされた旨主張し,これが位置基準にいう保健衛
生上の著しい支障に当たる旨主張するが,それが原告P2がC医院にお
いて行う医療業務についての支障であるとは解し得ず,またC医院での
医療業務に著しい支障が生じたため移設したとも認められないのであっ
て,上記主張を採用することはできない。
(ウ)さらに,原告らは,本件施設の設置・運営により,風俗店の急増,
本件施設周辺の歩道の一般通行者の歩行の困難,危険,違法駐車・駐輪,
スピード融資の張り紙の増加による街の美観の損失,注射器やハズレ車
券等の投棄,夜間の騒音の増加,犯罪の増加・治安の悪化等が生じてい
るなど縷々主張するが,これらはいずれも本件各医療施設において行わ
れる医療業務に対する著しい支障を裏付けるものではなく,採用するこ
とができない。
キ小括
以上からすれば,本件施設の設置・運営により本件各医療施設において
行う業務に著しい支障が生じる旨の原告らの主張はいずれも採用すること
ができない。
(5)まとめ
以上のとおり,本件施設の設置・運営により,本件各医療施設周辺に多数
の来場者が流れ込み,周辺でたむろし,騒がしい状況や享楽的退廃的な雰囲
気を生じさせるなどして,本件各医療施設において行われる医療業務に著し
い支障が生じたり,また,多数の来場者により周辺道路が混雑し,救急自動
車の通行に支障が生じるおそれが具体的に認められるということはできない。
また,原告らのその余の主張もいずれも採用することができず,その他本件
施設の設置・運営により,原告らについて業務上著しい支障が生じるおそれ
があると具体的に認めることはできない。したがって,本件施設につき位置
基準を満たすものとして本件許可処分をした経済産業大臣の判断に,裁量権
の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできないから,本件許可処分
は適法である。
3結論
以上からすれば,本件許可処分が違法であるとは認められず,原告らの請求
はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官藤根桃世

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