弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成29年(受)第468号建物根抵当権設定仮登記抹消登記手続請求事件
平成30年2月23日第二小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人高木健康の上告受理申立て理由について
1原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成13年2月13日,第1審判決別紙1物件目録記載の建物
の上告人持分について,極度額を300万円,債権の範囲を金銭消費貸借取引,債
務者を上告人,根抵当権者を被上告人とする根抵当権(以下「本件根抵当権」とい
う。)を設定し,同日,その旨の根抵当権設定仮登記がされた。
(2)上告人は,平成13年2月13日,被上告人との間で,金銭消費貸借取引
契約(以下「本件契約」という。)を締結し,以後,本件契約に基づき金銭の借入
れと返済をしていたが,平成17年9月28日を最後に,返済をしなくなった。
(3)上告人は,平成17年11月24日,破産手続開始の決定を受け,同時
に,破産手続廃止の決定を受けた。
上告人が上記破産手続開始の決定を受けたことにより,本件根抵当権の担保すべ
き元本が確定した。本件根抵当権の被担保債権は,本件契約に基づく被上告人の上
告人に対する債権(以下「本件貸金債権」という。)である。
(4)上告人は,平成18年1月26日,免責許可の決定を受け,同決定は,同
年2月24日に確定した。
本件貸金債権は,上記免責許可の決定の効力を受けるものである。
2本件は,上告人が,本件貸金債権につき消滅時効が完成し,本件根抵当権は
消滅したなどと主張して,被上告人に対し,上記仮登記の抹消登記手続を求める事
案である。
3原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,上告人の請求
を棄却すべきものとした。
(1)本件貸金債権は,免責許可の決定の効力を受ける債権であるから,消滅時
効の進行を観念することができない。
(2)民法396条により,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対してはその
担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しないから,上告人の請求は,そ
の余の点について判断するまでもなく理由がない。
4しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の
判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)免責許可の決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行
を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,上記債権については,もはや
民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅
時効の進行を観念することができないというべきである(最高裁平成9年(オ)第
426号同11年11月9日第三小法廷判決・民集53巻8号1403頁参照)。
このことは,免責許可の決定の効力を受ける債権が抵当権の被担保債権である場合
であっても異なるものではないと解される。
(2)ア民法396条は,抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,被担
保債権と同時でなければ,時効によって消滅しない旨を規定しているところ,この
規定は,その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを
前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期
間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在すること
となるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。
イそして,抵当権は,民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に
当たるというべきである。
論旨は,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合の抵当権自体
の消滅時効期間は被担保債権の種類に応じて5年(商法522条)や10年(民法
167条1項)である旨をいうが,そのように解することは,上記の場合にも被担
保債権の消滅時効の進行を観念するに等しいものであって上記(1)と相いれず,ま
た,法に規定のない消滅時効の制度を創設することになるものであるから,採用す
ることができない。
ウしたがって,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合に
は,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係において
も,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解す
るのが相当である。
(3)以上のことは,担保すべき元本が確定した根抵当権についても,同様に当
てはまるものである。
5以上によれば,免責許可の決定の効力を受けることによって消滅時効の進行
を観念することができなくなった債権を被担保債権とする抵当権は,民法396条
により,債務者及び抵当権設定者に対しては時効によって消滅しないことを理由
に,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤っ
た違法がある。
しかしながら,上記事実関係の下においては,本件根抵当権を行使することがで
きる時から20年を経過していないことは明らかであるから,上告人の請求には理
由がないことになる。
したがって,上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,結論において
是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官山本庸
幸の補足意見がある。
裁判官山本庸幸の補足意見は,次のとおりである。
抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合に民法396条が適用
されない理由について,若干の補足をしたい。
民法396条は,債務者及び抵当権設定者が被担保債権について弁済をしないで
抵当権の時効消滅を主張することは信義に反するため,これらの者については抵当
権自体の時効消滅を認めないという趣旨の規定であると解される。本件のように,
抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受けることにより訴えをもってその
強制的実現を図ることができなくなっている場合には,債務者及び抵当権設定者が
そのような被担保債権に対する弁済をせずに抵当権の時効消滅を主張しても,信義
に反するとはいえないのであり,上記のような同条の趣旨に照らしても,抵当権の
被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,同条の適用はないというべ
きである。
(裁判長裁判官鬼丸かおる裁判官山本庸幸裁判官菅野博之)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛