弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人早川忠宏の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 D信用金庫(以下「D信金」という。)は、株式会社E木工に対し、昭和五
三年二月六日に一五〇万円を利息年八・二パーセントの約定で貸し付け、また、株
式会社Fに対し、昭和五四年三月二四日に六〇〇万円を、同年五月八日に一〇〇〇
万円をいずれも利息年七・五パーセントの約定でそれぞれ貸し付けた。
 2 被上告人は、株式会社F及び株式会社E木工(以下両社を「本件各社」とい
う。)から、被上告人が代位弁済したときは代位弁済額に対する弁済の日の翌日か
ら年一四・六パーセントの割合による損害金を支払うとの約定で保証の委託を受け、
右各貸付日ころ、D信金との間で、本件各社の右各貸付金債務を保証する旨の契約
をした。
 3 上告人は、被上告人との間で、右各貸付日ころ、本件各社の被上告人に対す
る右の保証の委託に基づく求償債務について連帯して保証する旨の契約をした。
 4 その後、本件各社は、いずれも昭和五四年に破産宣告を受けた。
 5 D信金は、本件各社の各破産手続において、昭和五五年一月一六日にそれぞ
れ右各貸付金の残金について債権の届出をし、同月二四日の各債権調査の期日にお
いて異議がなかったので、その旨各債権表に記載された。
 6 被上告人は、D信金に対し、昭和五五年三月六日株式会社E木工に対する前
記貸付金の残元利金四五万九一九九円を、同年六月二六日株式会社Fに対する前記
六〇〇万円の貸付金の残元利金六〇二万八九三五円と前記一〇〇〇万円の貸付金の
残元利金一〇四一万四二四六円を弁済して本件各社に対する右各貸付金の元利金を
完済し、株式会社E木工の破産手続において同年三月一二日、株式会社Fの破産手
続において同年七月八日、それぞれ破産裁判所に債権の届出をした者の地位を承継
した旨の届出名義の変更の申出をし、その旨債権表に記載された。
 二 被上告人の本件請求は、前記の弁済による各求償権の連帯保証人である上告
人に対し、求償債権の残額である一六八〇万二八三三円とその遅延損害金の支払を
求めるものである。
 原審は、前記一の事実関係の下において、前記の各貸付金債権の消滅時効は、D
信金が本件各社の破産手続において債権の届出をしたことにより中断し、破産手続
で右債権が確定したことにより、その期間が破産終結決定の日の翌日から一〇年に
変更されたものであり、それに伴って、被上告人のD信金に対する保証債務、右債
務の代位弁済の結果発生した被上告人の本件各社に対する求償権、及びその連帯保
証債権である本件請求権についても、いずれも同様にその消滅時効期間が一〇年に
変更されたものであるところ、本件が提起された平成元年九月二一日までには破産
債権の債権表記載のときから起算しても一〇年を経過していないことが明らかであ
るから、本件請求権の消滅時効はいまだ完成していないと判断して、本件請求を認
容した。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 債権者が主たる債務者の破産手続において債権全額の届出をし、債権調査の期日
が終了した後、保証人が、債権者に債権全額を弁済した上、破産裁判所に債権の届
出をした者の地位を承継した旨の届出名義の変更の申出をしたときには、右弁済に
よって保証人が破産者に対して取得する求償権の消滅時効は、右求償権の全部につ
いで、右届出名義の変更のときから破産手続の終了に至るまで中断すると解するの
が相当である。けだし、保証人は、右弁済によって破産者に対して求償権を取得す
るとともに、債権者の破産者に対する債権を代位により取得するところ(民法五〇
一条)、右債権は、求償権を確保することを目的として存在する附従的な権利であ
るから(最高裁昭和五八年(オ)第八八一号同六一年二月二〇日第一小法廷判決・
民集四〇巻一号四三頁参照)、保証人がいわば求償権の担保として取得した届出債
権につき破産裁判所に対してした右届出名義の変更の申出は、求償権の満足を得よ
うとしてする届出債権の行使であって、求償権について、時効中断効の肯認の基礎
とされる権利の行使があったものと評価するのに何らの妨げもないし、また、破産
手続に伴う求償権行使の制約を考慮すれば、届出債権額が求償権の額を下回る場合
においても、右申出をした保証人は、特段の事情のない限り、求償権全部を行使す
る意思を明らかにしたものとみることができるからである。
 しかし、右の場合において、届出債権につき債権調査の期日において破産管財人、
破産債権者及び破産者に異議がなかったときであっても、求償権の消滅時効の期間
は、民法一七四条ノ二第一項により一〇年に変更されるものではないと解するのが
相当である。けだし、破産法二八七条一項により債権表に記載された届出債権が破
産者に対し確定判決と同一の効力を有するとされるのは、届出債権につき異議がな
いことが確認されることによって、債権の存在及び内容が確定されることを根拠と
するものであると考えられるところ、債権調査の期日の後に保証人が弁済によって
取得した求償権の行使として届出債権の名義変更の申出をしても、右求償権の存在
及び内容についてはこれを確定すべき手続がとられているとみることができないか
らである。
 これを本件についてみるに、被上告人が、前記の弁済により本件各社に対して取
得した各求償権については、被上告人が破産裁判所に届出名義の変更の申出をした
時に消滅時効が中断し、破産手続の終了の時から更に五年の消滅時効が進行するこ
とになり(最高裁昭和四〇年(オ)第一二三四号同四二年一〇月六日第二小法廷判
決・民集二一巻八号二〇五一頁参照)、このことは、その連帯保証債権である本件
請求権についても同様である(民法四五七条一項)。ところが、原審は、これと異
なる見解に立って、本件各社の破産手続の終了の時期を確定しないまま、被上告人
の本件請求権について消滅時効が完成していないと判断し、その請求を認容したも
のであり、原審の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に
影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、右の趣旨をいうものとして理由があり、
原判決は破棄を免れない。そして、以上判示したところに従って更に審理を尽くさ
せる必要があるから、本件を原審に差し戻すことにする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    三   好       達
            裁判官    高   橋   久   子

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