弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人谷村唯一郎、塚本重頼上告趣意第一点について。
 しかし、所論食糧緊急措置令第一〇条末段には、「其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑
法ニ依ル」との明文が存するから、原判決が判示事実に対し同条末段にいわゆる刑
法の正条たる同第二四六条第一項のみを適用して右措置令の規定を適用しなかつた
のは当然であつて原判決には所論の違法は全然ない。論旨はその理由がない。
 同第二点について。
 旧刑訴第七一条(刑訴規則第五八条参照)には「官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニ
ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所属ノ官署又ハ
公署ヲ表示スヘシ書類ニハ毎葉ニ契印スヘシ」とあり、また、同第六八条(刑訴規
則第五五条参照)には「裁判書ニハ裁判ヲ為シタル判事(裁判官)署名捺印(押印)
スヘシ云々」とのみあつて、裁判書に特に裁判官の官名をも記載すべきことを要求
してはいないのである。されば、裁判書に裁判官又は裁判長なる官職名をも記載す
るのは、全く便宜に基く慣行たるに過ぎないものである。そして、原判決書には裁
判官の表示並びに署名捺印が存し、該裁判官が公判に関与した裁判官であること原
審公判調書により明白であるから原判決には裁判をした裁判官の署名捺印を欠く違
法はなく、その慣例に基く裁判官の表示を「判事」としたのは正当であつて原判決
には所論の欠点は毫も存しない。本論旨もその理由がない。
 同第三点について。
 しかし、裁判の審級制度について、上告審を純然たる法律審すなわち法令違反を
理由とするときに限り上告を為すことを得るものとするか又は法令違反の外に量刑
不当乃至事実誤認の上告理由をも認めて事実審理をも行うものとするかは立法を以
て適当に決定すべき事項であつて憲法の命令又は禁止するところでないから刑訴応
急措置法第一三条第二項の規定が憲法第三二条に違反するものでないことは、当裁
判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大
法廷判決参照)。そして訴訟法は訴訟手続に関する法規であつて、犯罪行為に適用
すべき実体法規ではないから、訴訟法上の行為たる上告の理由についても上告手続
を為すべき時に着目して規定を設けるのが当然であつて、所論のように、犯罪行為
時の如何により区別を設けねばならぬ理由は全然ない。しかも前示応急措置法の規
定は上告に際し、人種、信条、性別、社会的身分又は門地の如何を問わず、何人に
対しても等しく適用されるものであるから所論憲法第一四条に違反するところは毫
も存しない。されば所論憲法違反の主張はその理由なく、従つて、その違憲を前提
とする量刑不当の主張も採るを得ない。よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとお
り判決する。右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年三月二三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小谷勝重は差し支えにつき署名捺印する
ことが出来ない
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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