弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
         理    由
 抗告代理人山田延廣、同生田博通、同我妻正規、同風呂橋誠、同長井貴義、同中
川美香の抗告理由について
一 記録によれば、原審裁判長は、抗告人らを含む二〇七名の者が原審に提出した
広島地裁平成一一年(行ウ)第一七号同年一一月二九日判決に対する控訴状につき、
右控訴提起の手数料は五三万一四五〇円であると認められるのに、印紙六一五〇円
のみがちょう付されていたので、控訴人全員に対し残額五二万五三〇〇円の追納を
命じたところ、控訴人のうちJ、K及びLの三名分として一万三八〇〇円の追納が
あったが、その余の控訴人二〇四名の分については右六一五〇円が全員の分である
として追納がなかったため、右控訴状のうち右二〇四名に係る部分を却下する命令
をした。抗告人らは、右命令に対して抗告をし、右控訴提起に係る訴えで主張する
利益が控訴人ら全員の各請求について共通であり、右訴訟の目的の価額は、民事訴
訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)四条二項、一項、民訴法九条一
項により、右二〇四名全員につき九五万円とみなされるから、控訴提起の手数料は
六一五〇円で足りていると主張する。
二 訴えや控訴の提起の手数料の算出の基礎となる「訴訟の目的の価額」は、「訴
えで主張する利益」によって算定し、一の訴えで数個の請求をする場合には、その
価額を合算したものを訴訟の目的の価額とするのが原則であるが、その訴えで主張
する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、右の合
算をしないものとされている(費用法四条一項、民訴法八条一項、九条一項)。し
たがって、現行法の採用している手数料制度の下においては、多数の者が共同して
訴えを提起した場合においても、原則として各原告の主張する利益によって算定さ
れる額を合算して訴訟の目的の価額を算定し、費用法別表第一に従って、手数料の
額を算出することになる。もっとも、同表が訴訟の目的の価額が増大するほどこれ
に対応する手数料の負担割合を逓減する仕組みを採用していることにより、多数の
者が共同して訴えを提起する場合には、各原告ごとにみれば、単独で同じ訴えを提
起する場合に比べて、低額の手数料を負担することで足りる。そして、例外的に、
共同原告がその訴えで主張する利益が共通であると認められる場合には、右の合算
が不要となり、共同原告が何名であっても、全員で一名分の手数料のみを負担すれ
ばよいことになる。
三 本件訴訟は、抗告人らを含む二四五名が共同原告となって、相手方を被告とし、
相手方が森林法一〇条の二に基づいて平成一〇年一二月四日付けで有限会社Gポー
トリーに対してした林地開発行為の許可処分(以下「本件処分」という。)の取消
しを求めるものである。訴状によれば、原告らは、右開発行為により、許可区域周
辺の水質の悪化、水量の変化、大気汚染、その他の環境悪化を生じ、許可区域周辺
に居住する原告らの水利権、人格権、不動産所有権等が害されるおそれがあるとこ
ろ、本件処分には、同条二項所定の不許可事由があるのにされたという実体上の違
法に加え、原告らの同意を得ないでされたという手続上の違法があるから、その取
消しを求めるなどと主張している。
 【要旨】これによると、本件訴訟において原告らが訴えで主張する利益は、本件
処分の取消しによって回復される各原告の有する利益、具体的には水利権、人格権、
不動産所有権等の一部を成す利益であり、その価額を具体的に算定することは極め
て困難というべきであるから、各原告が訴えで主張する利益によって算定される訴
訟の目的の価額は九五万円とみなされる(費用法四条二項)。そして、これらの利
益は、その性質に照らし、各原告がそれぞれ有するものであって、全員に共通であ
るとはいえないから、結局、本件訴訟の目的の価額は、各原告の主張する利益によ
って算定される額を合算すべきものである。そうすると、訴えを却下した一審判決
に対する本件控訴の手数料の額は、右合算額に応じて費用法別表第一の一項により
算出される訴えの提起の手数料額を基として、その一・五倍の額の二分の一の額と
なる(同二項、四項)。したがって、原審裁判長のした前記追納命令及び前記控訴
状却下命令(原命令)は、費用法及び民訴法の規定にのっとったものであって、適
法である。なお、抗告人らは右のような解釈は多数の住民が共同して提訴ないし控
訴することを困難にするものであるというが、本件において、各原告は、単独で控
訴をする場合には六一五〇円の手数料を負担しなければならないところ、共同して
控訴したことにより、右の合算をした上で前記の逓減がされる結果、約二五六七円
の手数料を負担すれば足りるのであって、右の所論は当たらない。論旨は採用する
ことができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷 玄)

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