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平成10年(ワ)第1276号損害賠償請求事件
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は原告に対し,5050万円及びこれに対する平成10年4月11日から支払
済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,平成4年3月31日,原告及び亡A(平成16年9月7日死亡。原告と併せ
て「原告ら」という。)を注文者,被告を請負人とする建物建築請負契約(以下「本件
請負契約」という。)が締結され,被告はこれに基づき別紙物件目録記載2の建物
(以下「本件建物」という。)を建築し,原告らに引き渡したが,原告らが,本件建物
には名古屋高速度鉄道第1号線(以下「地下鉄東山線」という。)の騒音及び振動
を伝搬する欠陥が存在すると主張して,被告に対し,債務不履行責任,不法行為
責任及び瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権として5050万円(内訳は①建替
費用4400万円,②取壊費用120万円,③建替期間中の賃借建物賃料相当損害
金90万円,④引越費用40万円,⑤慰謝料200万円,⑥弁護士費用200万円で
ある。)並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成10年4月11日から支
払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で
ある。なお,原告がAの死亡に伴い同人の本件原告たる地位を承継している。
2 前提事実
(1) 被告は,建築工事の請負を業とする株式会社である。
原告らは,平成10年4月3日,本訴を提起したが,Aが平成16年9月7日に
死亡したことに伴い,Aの相続人間の協議により,Aの子である原告がAの本件
原告たる地位を承継した。
(2) 本件請負契約の締結
ア 原告らと被告は,平成4年3月31日,以下の約定で,原告らの所有する別
紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)上に新築建物を建築す
る建物建築請負契約を締結した。
(ア) 請負代金
4413万5000円(うち消費税128万5485円)
(イ) 支払方法
契約時       100万円
中間時  2713万5000円
引渡時      1600万円
(ウ) 工期
着工  平成4年5月22日
完成  平成4年10月30日
イ 原告らは,被告に対し,本件請負契約に基づいて,平成4年3月末日に100
万円を,同年9月28日に中間金3276万0676円を支払った。
ウ 原告らは,平成4年9月30日頃,本件建物が完成したとして,被告から本件
建物の鍵を受領し,引渡しを受けた。
(3) 本件建物と地下鉄騒音
本件建物は,閑静な住宅街に位置し,地下鉄東山線から直線距離にして約2
00メートル離れたところにある。
しかしながら,本件建物内においては,地下鉄東山線によると思われる騒音
及び振動(以下「本件騒音等」という。)が発せられ,最大50デシベルに達した。
名古屋市交通局が,平成4年11月末頃から同年12月初旬にかけて東山線
1番線のレールを交換し,さらに平成5年6月頃に地下鉄東山線2番線のレール
を交換したことによって,本件騒音等は減少し,現在に至っている。
(4) 本訴提起に至る経緯
原告らと被告は,本件騒音等への対策を協議したものの,合意には至らなか
ったため,原告らは名古屋簡易裁判所に調停を申し立てたが,平成8年10月4
日,不調となった。
そこで,原告らは,平成10年4月3日,本訴を提起した。
(5) 本訴において,平成15年1月20日,当庁の民事一般調停に付されたが,平
成16年9月28日,不調となった。
3 争点
(1) 被告の債務不履行責任及び不法行為責任の有無
(2) 本件建物の瑕疵の有無
(3) 損害額
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(被告の債務不履行責任及び不法行為責任の有無)について
(原告の主張)
ア 被告の故意,過失
(ア) 施工前の故意,過失
被告は,いわゆる大手の建築業者であり,数多くの専門スタッフを揃えて
いる。また,建築業界では,現在,鉄骨系床構造の防振等に関する研究が
され,250メートル離れていても振動を受けるという研究発表がされてい
る。したがって,本件建物が,付近を走行している地下鉄東山線の騒音等
による影響を受ける可能性は十分にあったというべきであり,被告は事前
にその可能性を察知し,その防御を施すべきであった。
(イ) 施工中の故意,過失
仮にそうでないとしても,被告は,工事施工途中から本件騒音等を容易
に検知できたはずであるのに,これを安易に聞き逃し,またはこれを知って
いたのに漫然と工事を続行し,建物として完成させてしまった。
すなわち,地盤から伝搬されてきた振動と建築物内のどこかの振動系の
特性が一致すると,その部分が共振現象を起こし,騒音等が発生すること
から,建築物の施工途中であっても,施工(特に面材の施工)が進み,地盤
から伝搬されてくる振動の特性と一致する振動系が施工された段階で騒音
等が発生するというべきである。そして,本件においては,面材であるALC
パネルが貼られた時点で騒音等が発生するようになったものと考えるのが
合理的であることから,遅くとも,ALCパネルが設置され,その検査がされ
た平成4年7月24日の時点で本件騒音等が発生していたというべきであ
る。
また,本件土地の周辺は閑静な住宅街であり,本件騒音等が最大で50
デシベルに達していたことからすると,被告もしくはその下請業者は,平成
4年7月24日の時点で本件騒音等を感知し,もしくは感知し得たはずであ
る。
上記時点であれば,本件騒音等の原因を究明してそれを除去することは
容易であったにもかかわらず,被告はこれを無視して工事を続行して本件
建物を完成させ,その結果,原告らの平穏な生活を困難ならしめているの
である。
イ 本件騒音等の程度
名古屋市交通局の調査によれば,地下鉄東山線のレール交換前における
本件騒音等は50デシベルに達するものであった。公害対策基本法9条に基
づく環境基準によれば,本件建物の存する主として住居の用に供される地域
において「昼間50ホン以下,朝夕45ホン以下,夜間40ホン以下」という基準
が定められているところ,地下鉄東山線のレール交換前における本件騒音等
は,この基準に反するものである。
また,本件騒音等を騒音等級という観点からみると,本件建物の1階和室
においては,地下鉄東山線のレール交換前においてはN-45であると推測さ
れ,「かなり気になる」程度であるとされ,生活環境としては明らかに望ましくな
いものである。
ウ 以上によると,被告は,原告に対し,本件請負契約上の債務不履行責任な
いし不法行為責任を負うべきである。
(被告の主張)
ア(ア) 施工前の故意,過失について
本件請負契約においては,原告の主張する本件騒音等についての一般
的抽象的調査義務は契約の内容とはなっておらず,原告らから被告に対
し,本件土地周辺での地下鉄東山線の騒音等に関する申し出は一切なく,
また,本件土地が地下鉄東山線から直線で約200メートル以上も離れてい
る状況からして,被告が事前に地下鉄東山線の騒音等の影響を予見する
ことは不可能であり,それを調査すべき義務まではないというべきである。
(イ) 施工中の故意,過失について
本件建物の工事施工中において,地下鉄東山線の騒音は全く聞こえな
かった。
仮に,原告主張の騒音等があったとしても,その騒音は軽微なものであ
ったと思われる上,作業に伴う音や振動もあることから,これに気づくことは
できなかった。
イ 本件騒音等の程度
現状の本件騒音等は生活に支障を生じるものではなく,極めて軽微なもの
であり,たとえ将来レールの摩耗によって多少騒音レベルが高くなったとして
も生活に支障を生じる程度には至らないはずである。
ウ よって,被告が債務不履行責任ないし不法行為責任を負うべきいわれはな
い。
(2) 争点(2)(本件建物の瑕疵の有無)について
(原告の主張)
仮に,被告の故意,過失がなかったとしても,本件建物は本件騒音等を発生
させる欠陥があることから,被告には民法634条に基づき瑕疵修補に代わる損
害賠償責任がある。
(被告の主張)
本件建物の構造及び資材等において規格上問題はなく,地下鉄東山線の走
行による騒音等が地盤等の何らかの要因によって本件騒音等となって発生した
としても,それは地下鉄東山線の走行に起因するものであって,本件建物の瑕
疵ではない。
原告は,地盤から伝搬されてきた振動と建築物内のどこかの振動系の特性
が一致すると,その部分が共振現象を起こすことによって騒音等が発生すると
主張するが,建物を含むあらゆる物体には固有の振動系の特性があるはずで
あるから,仮に特定の振動と共振現象を起こすことを「瑕疵」というのであれば,
あらゆる建物がこの種の欠陥を内在していることになるが,かかる結論が不当
であることはいうまでもない。
また,地下鉄東山線のレールが交換されたことによって,本件建物での騒音
等は数値的に測定できない程度にまで沈静化している。
(3) 争点(3)(損害額)について
(原告の主張)
ア 建替費用               4400万円
本件建物の欠陥を回復するには相当な基礎構造に取り替える必要があ
り,そのためには本件建物を建て替えるほかない。
イ 取壊費用                120万円
本件建物を建て替えるには,本件建物を取り壊さなければならない。
ウ 建替期間中の賃借建物賃料相当損害金    90万円
本件建物の建替期間中,原告とその家族は本件建物に居住できないた
め,本件建物と同等の建物を借り受けるほかないところ,その賃料は月額15
万円で,建替期間として6か月間を要することから90万円必要となる。
エ 引越費用相当損害金            40万円
原告が本件建物と同等建物を借り受けるにあたっての引越費用は,1回に
つき少なくとも20万円を要するところ,2回の引越しを要することから40万円
必要となる。
オ 慰謝料200万円
原告らは,長年にわたり貯蓄した預貯金に長期の住宅ローンを加えて待望
の新築家屋を建築したものであるが,被告の欠陥工事に悩まされ,完成後何
度も被告との間で交渉の継続を余儀なくされ,被告からは何ら具体的な補修
方法の提示もされず心労を重ねてきた。「家」が家族の一家団らんの住まいで
あることに鑑みれば,欠陥住宅被害は同時に居住者の心を傷つける精神的
被害でもある。原告らの被った精神的損害は一人あたり100万円を下らな
い。
カ 弁護士費用               200万円
本件訴訟遂行には弁護士の依頼が必要不可欠であり,その費用は200万
円を下らない。
(被告の主張)
原告の主張はすべて否認ないし争う。
第3 争点に対する判断
1 前提事実に加えて後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が
認められ,他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 本件建物の構造は,鉄骨ALC造,3階建てである(甲1)。
(2) 被告は,平成4年9月30日,本件建物を完成させ,これを原告に引き渡した
上,本件建物の設備等について説明したところ,原告は,本件騒音等の存在に
気づいた。原告は,数日経過後,本件騒音等は地下鉄東山線によるものである
と考え,その旨を名古屋市交通局及び被告に伝えた(甲7,原告)。
(3) 名古屋市交通局の対応
名古屋市交通局は,原告からの申し出により,以下のとおり,本件騒音等を
測定し(測定方法は,連続20本の列車通過時の振動騒音値を,振動について
は本件建物玄関コンクリート床上にて,騒音については本件建物1階室内にて
それぞれ測定するというものである。),併せて地下鉄東山線のレールを交換し
た(甲5,12)。
ア 第1回測定(平成4年11月7日)
(ア) 地下鉄東山線1番線について
騒音は,39.5デシベルから50.0デシベルであり(測定時刻は午前10
時02分から午前10時38分),平均値は46.1デシベルであった。
振動は,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線による
振動は特定できなかった。
(イ) 地下鉄東山線2番線について
騒音は,33.0デシベルから43.0デシベルであり(測定時刻は午前10
時00分から午前10時37分),平均値は40.0デシベルであった。
振動は,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線2番線による
振動は特定できなかった。
イ 地下鉄東山線1番線のレール交換
名古屋市交通局は,平成4年11月24日から同年12月4日にかけて,地
下鉄東山線1番線のレールを交換した。
ウ 第2回測定(平成4年12月5日)
(ア) 地下鉄東山線1番線
騒音は,暗騒音(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線による
騒音は特定できなかった。
振動も,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線による
振動は特定できなかった。
(イ) 地下鉄東山線2番線
騒音は,37.0デシベルから42.0デシベルであり(測定時刻は午前10
時01分から午前10時38分),平均値は39.9デシベルであった。
振動は,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線2番線による
振動は特定できなかった。
エ 第3回測定(平成5年6月3日)
(ア) 地下鉄東山線1番線
騒音は,暗騒音(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線による
騒音は特定できなかった。
振動も,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線による
振動は特定できなかった。
(イ) 地下鉄東山線2番線
騒音は,34.2デシベルから38.5デシベルであり(測定時刻は午前10
時01分から午前10時38分),平均値は36.4デシベルであった。
振動は,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線2番線による
振動は特定できなかった。
オ 地下鉄東山線2番線のレール交換
名古屋市交通局は,平成5年6月10日から同月30日にかけて地下鉄東
山線2番線のレールを交換した。
カ 第4回測定(平成5年12月20日)
騒音は,暗騒音(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線及び同2
番線による騒音は特定できなかった。
振動も,暗振動(約30デシベル)内であり,地下鉄東山線1番線及び同2番
線による振動は特定できなかった。
(4) 被告の対応(甲7、乙1ないし3,5、原告)
被告は,平成4年11月11日に騒音調査を行い,同年12月9日に騒音振動
調査を行うとともに,本件騒音等の解消措置として,被告の費用負担で深さ1.2
メートルの防振溝を設置することを提案し,平成4年12月初旬に上記防振溝を
施工した。
そして,被告は,同月21日に再度騒音振動調査を行ったが,上記防振溝の
効果はあまりみられなかった(乙3)。なお,本件建物の1階洋室内における騒音
等の測定結果は,地下鉄東山線走行時の最大値の騒音等級がN-35であり,
本件騒音等が問題となる周波数(100~300ヘルツ)での最大振動加速度レベ
ルは,床面で52デシベル,内壁面で71デシベルであった(乙1,2)。
さらに,被告は,平成8年2月5日,同様の調査を行ったところ,地下鉄東山線
走行時の最大値の騒音等級はN-30であり,本件騒音等が問題となる周波数
(100~300ヘルツ)での最大振動加速度レベルは,床面で34デシベル,内壁
面で47デシベルであった(乙2)。
その後,被告は,防音・防振対策として本件建物の1階和室の壁に鉛板を貼
る工事の提案をする等,原告らと協議をしたが合意には至らなかった。
(5) 本件騒音等の原因等
ア 本件騒音等の原因
本件騒音等の原因は,外部騒音暴露に伴う屋内音圧の上昇ではなく,地
下鉄東山線の車両走行時に発生する地盤振動が地盤中を伝搬し,本件建物
近傍の地盤から本件建物へ入力されることによる建物内部の放射音であると
考えられる(鑑定人成瀬治興の鑑定結果[以下「本件鑑定」という。])。
イ 本件騒音等の発生時期
本件騒音等の発生時期は,木工工事(内装工事)の完了時,すなわち,壁
及び天井が仕上がり,遮音性能が整った時点であると考えられる(本件鑑定)
ところ、上記木工工事は,平成4年9月18日に完成している(乙4)。
(6) 本件建物の遮音性能
ア 屋内壁面上の振動加速度の増幅
地下鉄東山線の車両走行時における,屋外地盤上,屋内床面上及び屋内
壁面上の振動加速度レベルを調査したところ,①屋内壁面上の振動加速度レ
ベルは,ほぼすべての周波数域において屋外地盤上のそれを上回っているこ
と,②屋内壁面上の振動加速度レベルは,概ね,屋内床面上のそれを上回っ
ていること,③屋内床面上の振動加速度レベルは,屋外地盤上のそれに比
べ,増幅している周波数域もあれば,減衰している周波数域もあったことが判
明し,これらのことから屋内壁面上の振動加速度の増幅が屋内音圧レベルの
上昇を招いている可能性が考えられる。もっとも,近在する他の建物での同様
の実測を行っていないこと,既往の研究成果にも対応するデータがほとんど
見当たらないため,本件建物の屋内壁面上の振動加速度の増幅が,建物の
遮音性能上問題があるとの結論を出すには未だ検討を要するとされる(本件
鑑定)。
イ 本件騒音等の程度
平成14年1月12日当時の地下鉄東山線の車両走行時における室内音圧
の最大値は,日本建築学会編「建築物の遮音性能基準と設計指針」による
と,騒音等級はN-40,2級とされ,「遮音性能上標準的である(一般的な性
能水準)」と評価される。また,同日当時の地下鉄東山線の車両走行時の室
内音圧の平均値については,騒音等級は1級とされ,「遮音性能上すぐれて
いる(建築学会が推奨する好ましい性能水準)」と評価される。ただし,本件騒
音等が発生した当時の程度及びレールの摩耗等による本件騒音等の増大の
程度については不明である(本件鑑定)。
2 争点(1)(被告の債務不履行責任及び不法行為責任の有無)について
(1) 施工前の故意,過失について
原告は,本件建物が地下鉄東山線の騒音等による影響を受ける可能性は十
分にあったというべきであり,被告は事前にその可能性を察知し,その防御を施
すべきであったと主張する。
そこで検討するに,本件請負契約においては,地下鉄東山線による騒音等を
事前に調査し,これを防ぐべき措置を施すことについて,明示の合意があったこ
とを認めるに足りる証拠はなく,むしろそのような明示の合意はなかったことが認
められる(甲1,原告)。もっとも,請負人たる被告の規模,本件騒音等の発生原
因及び関連する建築学上の水準等の諸般の事情に照らし,本件騒音等が,被
告において予見可能であり,かつ,これを防止することが可能であると認められ
る場合においては,被告は,本件騒音等の発生原因を事前に調査し,これを防
ぐ措置を施すべき義務を,黙示の契約上の債務ないし一般的な注意義務として
負うものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,本件騒音等が発生する
機序は,地下鉄東山線の車両走行時に発生する地盤振動が地盤中を伝搬し,
それが本件建物近傍の地盤から本件建物へ入力され,建物内部の放射音とし
て発せられるというものであるが,その主たる原因が,車両,レール及びトンネ
ルの状態等の地下鉄東山線の防音設備にあるのか,地下鉄東山線から本件土
地までの地盤の状態にあるのか,あるいは本件建物の構造にあるのか等につ
いては本件各証拠を検討するも判然としないのであるから,一般に本件騒音等
の発生を事前に予測することは困難であったというべきである。また,地盤から
伝搬される振動に対する具体的な対処方法が存在したと認めるに足りる証拠も
ない。
そうすると,被告が大手建築業者であること(弁論の全趣旨)を考慮しても,本
件騒音等を事前に予見し,かつ,これを防止することが可能であったということ
はできない(なお,甲8,9によれば,コンサート会場における観客の動作によっ
て発生した振動が250メートル離れた地盤及び建物に伝搬されたとの研究結果
が存在することが窺われるが,この研究結果が地下鉄による振動についても当
てはまるのか,伝搬された振動によって住居としての機能に支障を来す程度の
騒音が発せられるのか,どのようにしたら振動の伝搬を防ぐことができるのか等
について不明であるといわざるを得ず,これをもって本件騒音等を事前に予見
し,かつ,これを防止することが可能であったと評価することはできない。)。
よって,被告は,本件騒音等の発生原因を事前に調査し,これを防ぐ措置を
施すべき義務を負っているとはいいがたく,原告の上記主張を採用することはで
きない。
(2) 施工中の故意,過失について
さらに,原告は,遅くとも,ALCパネルが設置され,その検査がされた平成4
年7月24日の時点で本件騒音等が発生していたというべきであり,この時点で
本件騒音等の原因を究明してそれを除去することは容易であったにもかかわら
ず,被告はこれを無視して工事を続行して本件建物を完成させたのであるから,
故意,過失があると主張する。
しかしながら,ALCパネルの設置及び検査がされた平成4年7月24日の時点
で本件騒音等が発生していたことを認めるに足りる証拠はなく,本件騒音等の
発生時期は,木工工事(内装工事)が完了時,すなわち,壁及び天井が仕上が
り,遮音性能が整った時点(平成4年9月18日)であったと考えられることは前記
認定のとおりであるところ,本件各証拠をもってしても,上記木工工事完了時に
おいて,本件騒音等を消滅ないし軽減できるかにつき具体的な対処方法が存在
したと認めることはできない。
このような事情に照らすと,被告が上記木工工事完了時以降,そのまま本件
建物を完成させ,原告に引き渡したとしても,そのことをもって,被告に本件請負
契約上の債務不履行ないし不法行為責任上の故意,過失を認めることはできな
いというべきである。
(3) 以上検討したところによれば,被告の原告に対する債務不履行責任及び不法
行為責任を認めることはできない。
3 争点(2)(本件建物の瑕疵の有無)について
(1) 一般に,「仕事の目的物に瑕疵あるとき」とは,請負契約で定められた内容に
違反している場合,あるいは建築基準法等の一般的建築基準に違反している場
合をいうものと解される。
(2) そこで検討するに,被告が本件騒音等の発生原因を事前に調査し,これを防
ぐ措置を施すべき契約上の義務を負っていたといえないことは前示のとおりであ
るから,本件請負契約で定められた内容に反する設計ないし施工があったとい
うことはできない。
(3) また,前記認定事実によると,本件建物においては,屋内壁面上の振動加速
度の増幅が認められるも,これが建物の遮音性能上問題があるとの結論を出す
には未だ検討を要するとされ、結局これを肯定するには足りないというほかない
のであるから,上記屋内壁面上の振動加速度の増幅が一般的建築基準に違反
しているということはできない。
さらに,前記2(1)で検討したところによれば,本件騒音等の発生原因を事前に
調査し,これを防止することが一般的な建築基準となっていたとはいいがたく,
被告が本件騒音等を防止できなかったことをもって一般的建築基準に違反した
ということもできない。
(4) 以上検討したところによれば,本件建物に瑕疵があるということはできず,被
告の原告に対する瑕疵担保責任を認めることはできない。
4 結論
以上の次第で,被告の原告に対する債務不履行責任,不法行為責任及び瑕疵
担保責任は,いずれも認めることができず,その余の点について判断するまでもな
く原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官   黒   岩   巳   敏
裁判官   河   本   寿   一
裁判官   渡   辺       諭
別紙
物 件 目 録
1 土地
(1) 所 在   名古屋市a区a町b丁目
地 番c番d
地 目宅地
地 積78.80平方メートル
(2) 所 在   名古屋市a区a町b丁目
地 番c番e
地 目宅地
地 積81.32平方メートル
2 建物
所  在   名古屋市a区a町b丁目c番地d,c番地e
家屋番号   c番d
種  類   居宅
構  造   軽量鉄骨造陸屋根3階建
床面積   1階 70.38平方メートル
2階 70.38平方メートル
3階 55.48平方メートル
以 上

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