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○ 主文
一 原告らの被告愛知県収用委員会に対する請求のうち、権利取得裁決の取消しを
求める部分を棄却する。
二 原告らの被告愛知県収用委員会に対するその余の訴え及び被告愛知県に対する
訴えをいずれも却下する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 申立て
一 原告ら
1 主位的請求
被告愛知県収用委員会(以下「被告委員会」という。)が昭和五五年一一月一一日
付けで原告A、承継前原告B(以下「亡B」という。)及び原告Cに対してした権
利取得裁決及び明渡裁決をいずれも取り消す。
2 予備的請求
仮に第1項の請求が認められないときは、被告愛知県(以下「被告県」という。)
は、原告Aに対し別紙第二物件目録記載一及び二の各土地を、原告D及び同Eに対
し同目録記載三の土地を、原告Cに対し同目録記載四の土地(以下別紙第二物件目
録記載の各土地を合わせて「本件要求替地」という。)を、第1項の権利取得裁決
に伴う損失補償としてそれぞれ補償せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告ら
1 本案前の答弁
(一) 本件訴えをいずれも却下する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 本案の答弁
(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要(争いのない事実等)
本件は、その所有地を流域下水道の終末処理場用地として収用されることとなった
原告らが、主位的に収用委員会に対して収用裁決の取消しを、予備的に起業者に対
して替地による損失補償を求めた事案である。
一 当事者
原告Aは別紙第一物件目録記載一の各土地を、亡Bは同目録記載二の土地を、原告
Cは同目録記載三の土地をそれぞれ所有していた(以下、同目録記載一ないし三の
各土地を合わせて「本件土地」という。)。亡Bは、平成二年五月二七日死亡し、
その長男である原告D及び長女である原告Eが相続により原告の地位を承継した。
二 本件裁決
被告県は、昭和五三年一二月二〇日、本件土地を衣浦東部都市計画、豊田都市計
画、名古屋都市計画、知多北部都市計画及び衣浦西部都市計画下水道事業境川流域
下水道(以下「本件都市計画事業」といい、同事業に係る流域下水道を「境川流域
下水道」という。)に係る終末処理場(以下「本件処理場」という。)の事業地と
して収用するため、被告委員会に対し、起業者として、土地収用法三九条一項及び
四七条の二第三項の規定に基づいて土地収用裁決の申請をし、被告委員会は、昭和
五五年一一月一一日、原告A、同C及び亡Bに対し、別紙「裁決主文」記載のとお
り裁決した(以下「本件裁決」といい、別紙「裁決主文」別表1において定められ
た替地を「本件替地」という。)。
三 境川流域下水道に関する事実経過
流域下水道(下水道法二条四号)の建設は、流域別下水道整備総合計画(以下「流
域総合計画」という。)の策定(同法二条の二)、流域下水道基本計画の策定、都
市施設に関する都市計画決定(都市計画法一一条一項三号、同条二項)、流域下水
道事業計画の決定及び認可(下水道法二五条の三)、都市計画事業の認可(都市計
画法五九条)、事業の実施という手順で実施されるが、本件に関しては、流域総合
計画は現在に至るまで策定されていない。なお、後記2の流域下水道基本計画は、
法令の規定に基づくものではなく、下水道事業の整備方針を定め、全体の事業計画
を概括し、具体的な都市計画の策定作業の参考に資するため被告県において策定し
たものである(証人F)。
右手続の具体的な経過は、以下のとおりである。
1 被告県は、昭和四五年七月、社団法人日本下水道協会(以下「下水道協会」と
いう。)に矢作川、境川流域下水道基本計画調査を委託し、昭和四六年三月三一
日、同協会から、同基本計画に関する報告がされた(乙七一。以下「本件調査報
告」という。)。下水道協会は、同協会内に「矢作川流域下水道基本計画調査委員
会」(委員長はG京都大学教授。以下「本件調査委員会」という。)を設置して本
件調査報告についての調査、検討を行ったものである。
2 被告県は、同年二月、本件調査報告の原案に基づいて矢作川、境川流域下水道
基本計画を立案し、調査計画会議及び関係市町長会議に諮った上で、これを決定し
た(以下「本件基本計画」という。)が、その内容は本件調査報告と基本的に同じ
であった(甲一四二、証人F)。
3 本件都市計画の決定
(一) 愛知県知事(以下「県知事」という。)は、本件基本計画に基づいて矢作
川・境川流域下水道(境川処理区)にかかる都市計画の案を作成し、都市計画法一
六条の規定に基づく公聴会を、同年九月二〇日、刈谷市市民会館及び豊田市役所に
おいて、翌二一日、東郷町中央公民館及び大府市役所において、それぞれ開催した
(乙五三)
(二) 同年一〇月一五日、県知事は、同法一七条一項の規定に基づき、衣浦東
部、豊田、名古屋、知多北部及び衣浦西部都市計画境川流域下水道(以下「本件都
市計画」という。)の案の縦覧を公告し、同日から同月二九日まで愛知県土木部下
水道課、刈谷市役所、豊田市役所、安城市役所、大府市役所、知立市役所、豊明町
(当時)役場、東郷町役場、東浦町役場及び三好町役場において、同案を公衆の縦
覧に供した(乙五四)。
(三) 同月一四日、県知事は、同法一八条一項の規定に基づき、本件都市計画の
案につき、右の関係五市四町の意見を聴取した(乙五五の一ないし九)。
(四) 同月三〇日、県知事は、同項の規定に基づき本件都市計画の案を愛知県都
市計画地方審議会に付議し、同年一一月一八日同審議会が開催され、同月一九日同
審議会から原案通り議決した旨の答申があった(乙五六)。
(五) 同月二〇日、県知事は、同条三項の規定に基づき建設大臣あて本件都市計
画の決定の認可を申請し、同月二二日、同大臣の認可を受けた。
(六) 同月二四日、県知事は、同条一項の規定に基づき本件都市計画を決定し
(以下「本件都市計画決定」という。)、同法二〇条の規定に基づきその旨告示し
た。
4 同日、被告県は下水道法二五条の三第一項の規定に基づき建設大臣に矢作川・
境川流域下水道事業計画(境川処理区)(以下「本件下水道事業計画」という。)
の認可を申請し、同月二五日認可を受けた。
5 同月二四日、被告県は、都市計画法五九条二項の規定に基づき、建設大臣あて
に、本件都市計画に係る都市計画事業(本件都市計画事業)の認可を申請し、同月
二六日認可を受けた。建設大臣は、同年一二月六日、同法六二条一項の規定に基づ
き、右認可の内容を同日付で告示した。
6 その後、被告県は、本件都市計画事業につき、同法六三条一項の規定に基づ
き、昭和四八年四月七日事業地の追加、昭和五一年三月五日事業施行期間の延長を
それぞれ内容とする事業計画の変更の認可を受け、さらに、昭和五三年一〇月九
日、昭和五三年度から昭和五八年度までの五年間を建設期間とする事業計画の変更
の認可を受けた。
7 また、被告県は、昭和五三年一〇月九日、下水道法二五条の三第四項の規定に
基づき、本件下水道事業計画の変更につき建設大臣の認可を受けた。
8 被告県は、同年一二月二〇日、本件都市計画事業(右6のとおり事業計画につ
き変更の認可を受けたもの)について、土地収用法三九条一項の規定に基づき本件
裁決の申請をした(乙一)。
四 本件都市計画・本件下水道事業計画・本件都市計画事業の概要
1 本件都市計画
都市計画法一一条二項、一四条、同法施行令六条一項六号によれば、下水道に係る
都市計画においては、その種類、名称、位置及び区域並びに排水区域を定め、これ
らの事項を総括図、計画図及び計画書によって表示するものとされているところ、
前記三3(六)の決定に係る本件都市計画の概要は、次のとおりである。
(一) 都市施設の種類及び名称
衣浦東部、豊田、名古屋、知多北部及び衣浦西部都市計画境川流域下水道
(二) 排水区域
刈谷市、大府市、知立市、愛知郡<地名略>、同郡<地名略>及び西加茂郡<地名
略>の市街化区域の全部及び市街化調整区域の一部からなる面積約一万二三四四ヘ
クタールの区域
(三) 下水管渠の位置及び区域
(1) 下水管渠は、境川左岸幹線、逢妻川幹線、境川右岸幹線、猿渡川幹線及び
吹戸川幹線の五幹線で、その総延長は約四万八四八〇メートルである。
(2) 各幹線の位置及び区域は、次のとおり。
(1) 境川左岸幹線は、基点を刈谷市<地名略>、終点を<地名略>とし、管径
は最大径三・五〇メートルから最小径〇・九〇メートルまで、延長は約一万五三六
〇メートルである。
(2) 逢妻川幹線は、基点を刈谷市<地名略>、終点を豊田市<地名略>とし、
管径は最大径二・四〇メートルから最小径一・五〇メートルまで、延長は一万一八
五〇メートルである。
(3) 境川右岸幹線は、基点を刈谷市<地名略>、終点を<地名略>とし、管径
は最大径二・二〇メートルから最小径一・三五メートルまで、延長は約八八九〇メ
ートルである。
(4) 猿渡川幹線は、基点を刈谷市<地名略>、終点を安城市<地名略>とし、
管径は最大径二・〇〇メートルから最小径一・二〇メートルまで、総延長は約九八
七〇メートルである。
(5) 吹戸川幹線は、基点を刈谷市<地名略>、終点を安城市<地名略>とし、
管径は最大径一・二〇メートルから最小径一・一〇メートルまで、延長は約二五一
〇メートルである。
(四) 処理施設の名称、位置及び敷地面積
処理施設の名称は境川浄化センター、位置は刈谷市<地名略>、<地名略>及び<
地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地
名略>及び<地名略>並びに<地名略>及び<地名略>地内であり、敷地面積は約
四八ヘクタールである。
(五) 計画汚水量
本件都市計画において定められた事項は右(一)ないし(四)であるが、その前提
となった計画汚水量は九七万二八四一立方メートル、その内訳は、家庭汚水三九万
五二三二立方メートル、工場汚水五一万五七八六立方メートル、畜産汚水一七八八
立方メートル及び地下水六万〇〇三五立方メートルである。
2 本件下水道事業計画(工事着手・完成の時期につき乙六五)
下水道法二五条の四第一項によれば、流域下水道事業計画においては、排水施設
(これを補完する施設を含む。)の配置、構造及び能力、終末処理場の配置、構造
及び能力、流域関連公共下水道が接続する位置、流域関連公共下水道の予定処理区
域、並びに工事の着手及び完成の予定年月日を定めることとされているが、その概
要は次のとおりである。
(一) 変更認可前のもの
前記三4の認可に係る本件下水道事業計画の概要は、以下のとおりである。
処理区域の面積  一万二三四三・七ヘクタール
処理区域内の地名 <地名略>、<地名略>、知立市、刈谷市、<地名略>及び大
府市の全部並びに豊田市、安城市及び<地名略>の一部
流域関連公共下水道との接続箇所 三三か所
幹線管渠  境川左岸幹線はじめ五幹線、最大内のり寸法三・五メートル×三・五
メートル、最小内のり寸法〇・九メートル、延長四万八四八〇メートル
処理施設
名称     境川浄化センター
位置     刈谷市<地名略>、<地名略>及び<地名略>地内
敷地面積   四八ヘクタール
処理方法   二次処理 標準活性汚泥法
処理能力   四八万六〇〇〇立方メートル/日
工事着手の予定年月日 昭和四六年一一月二五日
工事完成の予定年月日 昭和五六年三月三一日
(二) 変更認可後のもの
前記三7の変更の認可に係る本件下水道事業計画の概要は、以下のとおりである。
処理区域の面積  二二八七・三ヘクタール
処理区域内の地名 <地名略>、<地名略>、知立市、刈谷市、豊田市、安城市、
豊明市、大府市及び<地名略>の一部
流域関連公共下水道との接続箇所 一四か所
幹線管渠     境川左岸幹線はじめ四幹線、
最大内のり寸法三・五メートル×三・五メートル、最小内のり寸法〇・九メート
ル、延長四万五九七〇メートル
処理施設
名称     境川浄化センター
位置     刈谷市<地名略>、<地名略>及び<地名略>地内
敷地面積   三三ヘクタール(乙六五)
処理方法   二次処理 標準活性汚泥法
三 次処理 凝集沈殿法及び急速砂濾過法
処理能力   一二万〇〇〇〇立方メートル/日
工事着手の予定年月日 昭和四六年一一月二五日
工事完成の予定年月日 昭和六三年三月三一日
3 本件都市計画事業
都市計画事業認可に係る事業計画においては、収用又は使用の別を明らかにした事
業地(都市計画事業を施行する土地)、設計の概要及び事業施行期間を定めるべき
ところ(都市計画法六〇条二項)、本件都市計画事業の事業計画の概要(ただし、
前記三6の変更認可後のもの)は、以下のとおりである。
(一) 事業地
収用の部分は、刈谷市<地名略>及び<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地
名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>及び<地名略>(以上終末処理場用
地)、<地名略>、<地名略>及び<地名略>、知多郡<地名略>、<地名略>、
<地名略>及び<地名略>並びに<地名略>、大府市<地名略>及び<地名略>並
びに<地名略>地内(以上幹線管渠用地)である(ただし、右のうち港町<地名略
>は、昭和四八年四月の変更認可によって追加されたものである(乙六一の
二)。)。
(使用の部分については省略。)
(二) 設計の概要(ただし、〈 〉内は変更認可前のもの。

予定処理面積 約九二〇ヘクタール〈九八ヘクタール〉
管渠延長   八〇七六・四メートル
処理施設   境川浄化センター
処理方式   標準活性汚泥法
敷地面積   約三三万平方メートル〈約四八万平方メートル〉
本館建築面積〈鉄筋コンクリート造一階 一万〇五〇〇平方メートル〉
処理室建築面積 約一万一三〇七平方メートル 一棟〈記載なし〉
(幅 × 長さ × 有効水深(単位メートル))
曝気沈砂池  四・五〇×八・〇〇×三・〇〇   四池
〈沈砂池   三・〇〇×一八・〇〇×二・八〇  二池〉
最初沈殿池  五・六〇×三〇・〇〇×二・五〇  六池
〈三・〇〇×四〇・〇〇×二・六〇  三池〉
曝気槽    五・六〇×六一・八〇×五・〇〇  六池
〈七・〇〇×一一〇・〇〇×四・五〇 四池〉
最終沈殿池  五・六〇×四一・六〇×三・二〇  六池
〈三〇・〇〇×五〇・〇〇×三・〇〇 三池〉
汚泥処理施設(単位メートル)
汚泥濃縮タンク 内径一五・五〇×側深三・三〇  一池
〈二〇・〇〇×三・七〇〉
汚泥消化タンク 直径二一・〇〇×側深一一・五〇 二槽
〈二五・〇〇×一二・五〇〉
汚泥洗浄タンク 直径一三・〇〇×側深三・〇〇  二池
〈二〇・〇〇×三・〇〇〉
〈汚泥焼却炉  立型多段炉  七五トン/日 一基〉
(三) 事業施行期間
昭和四六年一二月六日から昭和五九年三月三一日まで
(当初の事業計画によれば、昭和四六年一二月六日から昭和五一年三月三一日まで
であり(甲一の一)、昭和五一年三月の変更認可により昭和五七年三月三一日まで
と変更されていた(乙六一の三)。)
五 原告らによる替地等の受領
1 被告県は、本件裁決にかかる補償金を払い渡すため、原告らに昭和五五年一一
月一四日(原告Cについては同月一五日)及び同月一九日現実に提供したが、いず
れもその受領を拒んだので、土地収用法九五条、九七条に基づき、同月二一日、名
古屋法務局岡崎支局に弁済供託したところ(乙三三)、原告らは、昭和五六年四月
三日、それぞれ右供託金の払戻しを受けた。
2 被告県は、原告らに対し本件替地の譲渡及び引渡しをしようとしたが、原告ら
が受領を拒絶したので、土地収用法九五条に基づき、昭和五五年一一月二七日、名
古屋地方裁判所岡崎支部に供託物保管者の選任を申請し、同支部は、同年一二月二
〇日、
弁護士杉浦鉦典を供託物保管者に選任した(乙三四、三五の各一ないし三)。そし
て、被告県は、昭和五六年一月三一日、本件替地を同弁護士に引き渡して供託した
ところ、原告らは、同年六月一四日付で右替地の引渡しを受け、その所有権移転登
記手続を了した。
六 行政代執行
原告らは、本件明渡裁決において定められた明渡しの期限である昭和五六年二月一
四日までに本件土地及び同地上にある物件の引渡し及び移転義務の履行をしなかっ
たため、土地収用法一〇二条の二に基づく被告県からの請求を受けて、同年四月二
日、県知事により代執行が行われ、右代執行は同日完了し、本件土地は被告県に引
き渡された。
七 替地要求地
被告県は、原告らが替地として要求している本件要求替地を所有している。
第三 主位的請求に関する本案前の争点及び当事者の主張
一 原告らの供託物受領により、主位的請求は訴えの利益を欠き不適法となるか
(争点1の1)
1 被告委員会
(一) 原告らは、前記第二の五のとおり被告県が供託した本件裁決にかかる補償
金及び本件替地を受領したものであるが、その際、原告らは、何ら異議をとどめな
かった。
よって、原告らは、本件裁決が適法かつ有効なものであったことを承認し、本件裁
決の取消しを求める権利ないし利益を放棄したものであるから、もはや本件裁決の
取消しを求める法律上の利益を有せず、被告委員会に対する訴えは行政事件訴訟法
九条により不適法である。
(二) しかも、本件においては、原告らから替地補償の要求があり、被告県の提
供した本件替地についてこれを替地とすることに原告らが最終的に同意をした結果
認められたものである。また、明渡しに伴う損失補償についても、原告らの物件の
種類及び数量に関する主張を全面的に採用して補償額が定められたものである。そ
して、原告らは、本件裁決後、一旦、被告県からの本件替地の譲渡及び引渡し並び
に補償金の受領を拒否しながら、その後、供託された本件替地及び補償金を被告県
又は供託官らに対し何ら異議をとどめず受領したのであるから、裁決手続の過程で
原告らが主張した内容は原告らにとって完全に実現され満足を得たことになるの
で、その意味において、原告らの本件土地に対する所有権が収用されたという形の
権利侵害はもはや存続しなくなり、かつ、判決によって本件裁決を取り消す実益が
存せず、
裁判所による救済が無意味となるような状態が実現したものである。したがって、
この状態をみれば、行政事件訴訟法九条にいう訴えの利益を欠くものにほかならな
い。
(三) また、被収用者は、補償金等を受領しながら、なおかつ、収用権の発動自
体の適法性を争い、抗告訴訟の形式で収用委員会を被告とすることは許されないと
いうべきである。なんとなれば、法は損失補償の訴えの制度を用意しているから、
一方で収用裁決の効果たる補償金等を自ら進んで享受しながら、他方で基本的な収
用裁決処分の効力自体を争うことは、論理的に矛盾するのみでなく、仮に被収用者
が勝訴し、裁決が取り消された場合には、既に被収用者が受領した補償金等の返還
をめぐり、困難な問題が生じるからである。
2 原告ら
原告らは、本件裁決によって本件土地の所有権を奪われたものであり、収用裁決の
取消しを求める法律上の利益を有することは明らかである。
(一) 違法な行政処分によって侵害された利益が処分後の事情の変化によって回
復されたときは、訴えの利益が消滅するとされているが、本件においては、本件裁
決によって違法に侵害された利益である本件収用土地の所有権等は回復されておら
ず、そうである以上、訴えの利益は消滅していない。
(二) 供託物の受領と不服申立ての関係
本件の供託は土地収用法九五条二項一号に準拠してなされたものであるが、同法一
〇〇条等の規定を参酌すると、右供託の制度は、主として土地収用の効果を確保、
促進する目的から置かれたものであり、民法所定の弁済供託とは、おのずからその
趣旨、目的を異にしているものである。したがって、供託者が供託をしただけで
は、一方的に債務を免れたことにならず(これを肯定すれば、一方的な供託によっ
て一切の不服を封ずる結果となり、その不当なことは明白である。)、したがっ
て、供託の相手方についても、その者がその還付を請求してこれを受領したという
だけでは、他に特段の事情のない限り、補償金額についての不服申立ての権利を放
棄したり消滅させたりすることにはならないと解すべきである。
(三) 裁決手続における原告らの対応との関係について
裁決手続において、原告らは、(1)何よりもまず本件都市計画事業が無効である
として、本件裁決申請の却下を求め、(2)次に、本件裁決申請手続に違法がある
として本件裁決申請の却下を求め、(3)最後に、被告委員会が(1)の主張立証
を制限し、(2)を理由として本件裁決申請を却下しそうもないことが窺われたの
で、やむを得ず、第一二回以降の審理において損失補償につき第一次要求として本
件要求替地を替地補償するよう要求し、第二次的に、原告D及び同Cは本件替地を
畑に造成して替地補償するよう要求し、原告Aは本件替地及び本件要求替地をいず
れも畑に造成して替地補償するよう要求し、第三次的に右の替地につき現況での替
地補償につき同意したものである。
右のような経緯からすれば、被告委員会における審理において、被告委員会が原告
らの本件都市計画事業の瑕疵の主張立証を制限したため、原告らはこれについて審
理判断を求めることができず、単に裁決申請手続の瑕疵と損失補償について意見を
述べ、その審理判断を求めることができたに過ぎない。そして、右の二点について
原告らが意見を述べることは土地所有者に保障された権利であり、原告らが損失補
償について意見を述べるのは当然のことである。したがって、原告らが収用審理に
おいて替地補償等の損失補償について段階を分けて意見を述べ、被告委員会がその
最後のものを理由あるものと認めて替地補償等の損失補償を認める本件裁決をした
ことは、訴えの利益とは何の関係もないことである。
二 本件土地の明渡しについて行政代執行が完了しているため、主位的請求は訴え
の利益を欠くものとして不適法となるか(争点1の2)
1 被告委員会
仮に、本件裁決に何らかの瑕疵があるとしても、本件においては、土地収用法一〇
二条の二に基づく被告県からの請求を受けて、昭和五六年四月二日、県知事により
行政代執行が行われ、右代行執行は同日完了し、本件土地は被告県に引き渡され
た。そして、本件土地上における本件処理場に係る工事は既に一部完了し、本件各
土地に存した立木、立毛、小屋等の物件を原状に回復することは事実上不可能であ
り、本件土地についても原状回復は著しく困難である。
したがって、本件裁決の取消しを求めることによって、原告らの権利利益の救済を
図ることは不可能であり、その救済は損失補償に求めるべきものである。よって、
原告らには、この点からも、本件裁決の取消しを求める法律上の利益がない。
2 原告ら
本件裁決は権利取得裁決と明渡裁決とからなるところ、行政代執行は明渡裁決につ
いてされたものであって、行政代執行の完了は権利取得裁決にそもそも関係がな
く、権利取得裁決の取消訴訟の訴えの利益には何の消長もきたさない。また、本事
業で掘削した部分を埋め戻し、立木、小屋等を原状に回復することは何ら困難では
ないし、本件土地に対する原告らの占有を回復することも容易である。
第四 主位的請求に関する本案の争点及び当事者の主張
一 本件都市計画事業の認可の違法性は本件裁決に承継されるか(争点2の1)
1 原告ら
後記四1のとおり、本件都市計画事業の認可は違法なものであるところ、都市計画
事業の認可(土地収用法二〇条の規定による事業の認定に該当する)と収用裁決と
は、土地の収用という一つの法律効果を生じさせることを目的とする一連の行為で
あるから、都市計画事業の認可の違法性は後行処分である収用裁決に承継され、本
件裁決も違法となる。
2 被告委員会
(一) 行政処分は、仮にその処分に関して違法な点があったとしても、その違法
が重大かつ明白である場合を除いて、これを当然無効とすべきではないのであるか
ら、権限ある行政庁又は裁判所によって取り消されることなく、処分として存在す
る限り、完全にその効力を承認されるものと解すべきである。したがって、先行行
為に瑕疵があったとしても、そのことから直ちに先行行為に基づく後行行為が当然
に違法となるわけではない。
ところで、原告らが本件都市計画に関し違法な点があったと主張するところは、い
ずれも重大かつ明白な瑕疵には当たらず、仮に原告ら主張のとおりの瑕疵があると
しても、本件裁決が当然に違法なものとなるわけではないから、原告らの主張はそ
れ自体失当である。
(二) 本件裁決の先行行為である本件都市計画事業の認可は、行政処分であっ
て、これに対して抗告訴訟を提起することが可能である。違法性の承継を否定する
ことは、行政庁側の負担を減らし、法的安定性の点でも有利であり、しかも、先行
行為に瑕疵がある場合は先行行為に対する取消訴訟を提起してそこで争うことがで
きるから、違法性の承継を否定しても国民の権利利益の救済上格別の支障は生じな
い。
しかも、違法性の承継を肯定すると、行政処分である先行行為についての出訴期間
の制限が実質的に無意味なものとなり、結局先行行為の公定力を失わせるに等しい
結果となり、著しく不当である。また、先行行為及び後行行為の双方に対して取消
訴訟が提起された場合について考えると、違法性の承継を認めた場合には、両取消
訴訟の判決の間で先行行為の適法性の判断について相互に矛盾するおそれがある。
さらに、違法性の承継の当否については、後行行為の処分権者が先行行為の適否を
審査できるかどうかという点も重要である。法律があらかじめ処分権者を定め、か
つ、それぞれについて取消訴訟を提起する途が開かれているのに、先行行為につい
て処分権者を相手方として取消訴訟を提起せず、後行行為の取消訴訟において、先
行行為について何らの権限を有しない者に対してその違法を主張することを認める
ことは不自然であり、法律が処分権者を定め、かつ、先行行為をも抗告訴訟の対象
としている趣旨を完全に没却するものといわざるを得ない。
(三) 本件都市計画決定に関しては、愛知県知事による告示及び縦覧措置のほ
か、関係市町長の公告及び縦覧措置が講じられ、さらに、本件都市計画事業の認可
に関しても、都市計画法六六条に定める施行者による周知措置及び関係市町(刈谷
市、大府市、知立市及び東浦町)の長による同法六二条二項の定める関係図書を公
衆の縦覧に供する措置等が講じられており、これらの措置によって、土地所有者そ
の他の利害関係人は、本件都市計画決定及び本件都市計画事業の認可がされたこと
はもちろん、事業地についても、丁又は字単位まで知り得ることとなっていたので
あるから、容易に取消訴訟を提起することが可能であった。したがって、本件都市
計画決定及び本件都市計画事業の認可について、その違法を後行行為である本件裁
決に承継させることを必要とするような特段の事情は全く存在しない。
二 都市計画事業の認可の違法判断の基準時(争点2の2)
1 原告ら
抗告訴訟における違法判断の基準時は、行政処分の処分時であり、本件においては
本件裁決がされた時点である。そして、都市計画事業の認可と収用裁決とは、相結
合して収用という一つの効果の実現を目指し、これを完成する一連の行為である。
したがって、収用という効果を完成させてよいか否かが違法判断の基準であり、そ
の効果が完成される時期、つまり収用裁決時を基準として、先行行為も含めて全て
の行為の違法判断がされるべきであるというのが、制度目的や法体系からの論理的
帰結である。
2 被告委員会
行政処分の適否はその処分時を基準として判断すべきであり、本件都市計画事業の
認可の適否についても、認可時における法律状態及び事実関係に基づいて判断され
るべきものであり、本件裁決時を基準として判断することは誤りである。
三 行政事件訴訟法一〇条との関係で、原告らの主張する本件都市計画事業の認可
の違法事由を本件訴訟において主張することが許されるか(争点2の3)
1 被告委員会
行政事件訴訟法上、不服申立てをすることができる者は、法律に特別の定めがある
場合を除き、不服申立てをする法律上の利益がある者に限られる(九条)ととも
に、不服申立事項の範囲も、自己の法律上の利益に関係のある違法に限られるべき
である(一〇条)。
原告らは、本件都市計画の違法事由として、計画立案者による誤りの自認、工場排
水を受水する違法、発生汚水量の予測に関する違法、流域下水道方式に関する違法
という本件都市計画の一般的な形での評価(それは原告ら独自のものに過ぎない
が)を主張するのみであり、原告ら自身の法律上の利益に直接関係を有する違法事
由を主張していないことは明らかである。
しかも、都市計画をどのように決定するかは県知事の自由裁量に属するところ、原
告らは、単に自己が都市計画を決定したとすればどのような都市計画を決定したで
あろうか、すなわち、理想的な都市計画はかくあるべきであるとの観点から、これ
と本件都市計画との相違点を見出した上、これを本件都市計画の瑕疵として主張し
ているに過ぎず、本件都市計画が社会観念上著しく妥当を欠き、知事が裁量権を濫
用したものであるとの主張をしているわけではない。
したがって、右のような原告らの主張は、それ自体失当である。
2 原告ら
原告らに対する本件裁決は、公益上必要な特定の事業のために土地の所有権を収用
するという特別の犠牲を強いるものであり、このような特別の犠牲を強いる根拠と
なる事業は違法であってはならない。したがって、本件においては、土地収用の根
拠となる都市計画事業の認可を違法ならしめる事由であれば、本件裁決の取消事由
として主張することが許される。
また、本件都市計画は、土地収用という公用負担の根拠となるものであるから、自
由裁量ではなく法規裁量と解すべきであり、裁量の余地が認められるとしてもその
裁量の余地は相当狭いものであり、社会観念上著しく妥当を欠くと認められる場合
に限って違法となるものではない。
四 本件都市計画事業の認可の適法性(争点2の4)
1 原告ら
下水道の建設は、前記第二〇三冒頭部分のとおりの手順で進められるところ、実際
には、下水道建設に必要な事項は都市計画決定までの段階で確定してしまい、以後
の手続は右都市計画ないし基本計画に拘束される。そして、本件都市計画及び本件
基本計画には、以下のような違法事由があるから、これに基づいて決定、認可され
た本件下水道事業計画、本件都市計画事業の認可等も違法である。
(一) 下水道に関する計画の適法要件
下水道に関する計画については、都市計画法一三条一項四号(平成二年法律第六一
号による改正前のもの)及び下水道法二五条の五の規定する要件を満たす必要があ
り、公共用水域の水質保全、良好な都市環境の保持という目的に合致するものでな
ければならない。
そして、右のような要件を満たすため、下水道に関する計画は、次の(1)及び
(2)の要件を満たしていなければならず、そのためには、計画アセスメントが実
施されなければならない。
(1) 計画内容の適法要件
(1) 地形、降水量、河川流量、その他の自然条件が正しく把握されているこ
と。
(2) 排水の水質及び水量の予測が正しいこと。
(3) 排水によって環境負荷が増大しないこと(排水の中に工場排水など下水処
理の限界を超えている排水が含まれていないこと)。
ア 下水道に受け入れる排水が下水処理の可能かつ必要な汚水であること。
イ 排水によって下水処理が阻害されないこと。
ウ 排水が原因となって下水処理水、汚泥など下水処理からの発生物により環境負
荷が増大しないこと。
エ 地域の排水の排水方法が最も環境負荷をもたらさないものであること。
(4) 処理区域、処理場の位置、処理方法等が適切であること。
ア 公共用水域の環境保全に最も効果的であること。
イ 処理場周辺の環境破壊が少ないこと。
ウ 汚泥処理処分地が確保され、位置も最も適切であること。
エ 経済的であること。
オ 環境保全など事業効果が最も適切であること。
カ 事業地の価値が高くないこと。
(2) 計画手続の適法要件
計画決定手続において、次の要件を必要とする。
(1) 複数の計画案から計画が選択されること。
(2) 住民、特に不利益を受ける住民の計画(案)の跡付けができるようその根
拠資料が公開されること。
(3) 住民、特に不利益を受ける住民の意見が計画(案)に反映されるよう住民
参加と情報開示が保障されること。
(4) 計画決定後、計画の事後的監視をし、必要に応じて計画の修正、停止がさ
れること。
(二) 本件基本計画及び本件都市計画の違法性
(1) 流域総合計画の欠如
本件においては、下水道法二条の二に基づいて流域総合計画を定めなければならな
いこととされているのに、同計画が定められていないことは違法である。
また、被告県は、現在に至るまで、矢作川、境川流域の流域総合計画を定めていな
い。これは、被告県が同計画を策定する義務を怠っているものであって、このよう
な状態の下での本件都市計画事業は、少なくとも本件裁決申請時及び本件裁決時に
は違法というべきである。
(2) 本件調査委員会委員長らによる誤りの自認等
(1) 下水道協会に設置された本件調査委員会の任務は、流域下水道につき実施
設計をすることではなく、矢作川流域を対象とした調査研究であり、本件調査報告
も実施計画の性格を持つものではなかった。そして、その内容も、後記(4)以下
のような問題点について何ら検討をしていないものであった。ところが、被告県
は、本件調査委員会による本件調査報告の結論をそのまま本件基本計画となし、こ
れに基づいて本件都市計画を決定した。すなわち、被告県は、本件調査報告の性格
とその問題点を全く無視し、調査報告書をそのまま本件基本計画、本件都市計画と
したのである。
(2) しかも、右調査委員会の委員長及び委員二名(京都大学工学部の教官教授
又は助教授)は、本件調査報告の誤りを認め、被告県に対してこれに基づく以後の
計画の実施の中止を求めている。
(3) 工場排水の全量受入れの問題点
(1) 活性汚泥法による処理の限界
計画処理区域内の工場排水量の約四分の三を占める機械、鉄鋼という業種の工場排
水は、酸、アルカリ、油分、各種重金属、シアン等の有毒物質を多量に含んでいる
が、これらの物質の中には、活性汚泥法による処理に適さないか、処理機能を阻害
する物質が含まれており、この結果環境負荷が増大する。
(2) 不法投棄の助長
下水道は、二四時間暗渠でつながっており、工場排水の全量受入れは、不法投棄
(たれ流し)を助長する。法律上、除害施設の設置が義務付けられている場合で
も、不法投棄は跡を絶たないし、監視体制に限界があるので、工場排水は公共用水
域に放流することを原則とすべきである。これによって、放出したときの影響が誰
にも分かる状態になり、原因を突き止めやすく、新しい有害物の監視が適切にで
き、社会的な意味の規制が非常に効く、という利点があるのに対し、工場排水を下
水道に入れると排水源を探すことが困難となり、また、工場排水が相互に希釈され
ることにより、濃度が低下し、企業責任が曖昧になり、環境負荷が増大することに
なる。
(3) 汚泥処理処分の困難さ
下水中に含まれる重金属等の有害物は、終末処理場における処理の結果、処理場の
汚泥に蓄積されることとなる。汚泥は脱水ケーキの形で処分することとなるが、汚
染された脱水ケーキの埋立又は投棄は困難であるし、農緑地に利用することもでき
ず、また、焼却しても大気汚染につながる。
(4) 低BOD濃度の工場排水の受入れの問題点
計画処理区域内の工場排水のうち、BOD(生物化学的酸素要求量。分解性有機物
量の目安となる。)文はSS(浮遊物質量)のいずれかが下水処理場の放流水基準
を超える工場排水は約二二パーセントに過ぎないが、これを下回る排水について
は、全く処理効果を期待できないし、むしろ全体として公共用水域に排出される汚
濁負荷量を増加させることになる。しかも、本来受け入れる必要のない工場排水を
受け入れることにより、必要以上に施設を建設することになり、不経済である。
(5) 下水道法との関係
被告委員会は、工場排水を全て下水道に受け入れることは下水道法の原則であると
主張するが、これは、昭和三〇年代ころまでの工場の排水処理施設の完備しないた
れ流しの時代の法制の下において、公共用水域の浄化のために一定の合理性が認め
られたものである。ところが、昭和四〇年代から五〇年代になり、工場において排
水処理施設が完備し、公共用水域に放流しても問題が生じなくなったのであるか
ら、その時代にマッチした運用がされなければならない。
原告らは、本件において立法論を主張しているのではなく、下水道法一〇条を前提
とした上で、下水道に関する計画として最適な計画は何かを主張しているのであ
る。除害施設の設置により直接公共用水域に放流することが合理的な工場排水は、
計画汚水量から除外し、下水道に受け入れないものとするとの方針は、建設省自ら
も採用しているところであり、下水道法一〇条一項ただし書きによれば「特別の事
情」があれば利用強制は免除されるのであるから、工場排水の全量受入れを前提と
して策定された計画は誤りである。
(4) 計画汚水量算定の誤り
本件都市計画及び本件基本計画の計画汚水量は、工場排水量及び家庭排水量のいず
れについても、現実の排水量の推移よりも大幅に過大となっており、予測が誤って
いたことは明らかであるが、昭和四六年当時においても、正しい予測をすることは
可能であった。
また、本件裁決申請時には、本件基本計画の基礎となった計画汚水量は過大である
ことが明らかになっていたのであるから、本件基本計画ないし本件都市計画は変更
すべき状況にあった。
(5) 最適化計算の誤り
本件調査報告において行われた最適化計算は誤っている。すなわち、同報告におい
ては、最適計画を決定する過程で、ステップ1(費用計算)、ステップ2(建設年
次計画)、ステップ3(事業実施上の検討)、ステップ4(放流先の検討)の順に
検討しているが、最終的に採用されたケースは、右のステップ1の段階で落とされ
たケースに該当するので、本来採用されるべきでなかったものである。
もともと、本件都市計画決定以前には、碧南市の埋立地に終末処理場を建設し、そ
こに矢作川、境川流域の汚水を集中させて処理する計画であったのに、同計画はH
衆議院議員の反対で断念されたものであり、このような経緯があったため、本件調
査報告においては合理性のない処理区構成がとられているものである。
(6) 流域下水道方式そのものの問題点
(1) 流域下水道管理者(県)は、終末処理場と幹線管渠を管理するだけであ
り、単独公共下水道の場合と異なり、工場排水を直接監視することができず、この
ことにより、環境負荷が増大する。
(2) 流域下水道方式は、建設費、維持管理費のいずれの点でも、単独公共下水
道方式と比較して著しく不経済である。すなわち、幹線管渠の建設費用が余分に必
要となるし、また、幹線管渠の建設には時間がかかり、この間、上中流の市町の下
水道整備が遅れることになり、環境負荷が増大する。特に、境川流域の市町におい
ては、上流に位置する市町が大きな汚濁源となっているので、下流の方から下水道
整備が進められる流域下水道方式は不適切である。しかも、処理施設及び処理場用
地の先行投資が大きいことから、建設途上の費用が著しく高くなる。処理場用地の
確保についても、単独公共下水道の場合に比して流域下水道の場合は広大な用地を
必要とし、候補地を探すのが困難である。
(7) 環境への影響及び環境影響評価
河川の最下流部に終末処理場を設置し、河川流域の排水を全て下水道に受け入れる
と河川流量が枯渇することが多いのに、本件都市計画ではこの点について全く調査
が行われていない。
また、本件調査報告を通商産業省及び愛知県による「愛知県衣浦地区産業公害総合
事前調査報告書(海域関係)」と比較すると、本件調査報告にはCODのデータが
一桁小さく書かれている図があり、かつ、右事前調査報告書の末尾には「現在当地
域で計画されている下水道終末処理場の建設に際しては、その放流水の水質管理
等、慎重に検討する必要があるが、港内水の水質悪化を防ぐためには、港内に放流
することはのぞましくない。」との記載があるのに、本件基本調査においてはこれ
が無視されており、本件調査報告における衣浦湾に対する影響の検討は誤ってい
る。
(8) 既存計画との関係
矢作川、境川流域には、昭和四四年ないし四五年ころ、公共下水道計画、終末処理
場建設計画を持つ市があり、終末処理場用地を確保しているところもあった。これ
らの市は、本件基本計画に組み入れられなければ直ちに下水道計画の事業実施がで
き、速やかに下水処理による公共用水域の水質改善をすることが可能であった。
(9) 用地取得の難易
本件処理場予定地は、農林省による干拓事業により造成された畑地と中市流作新田
と称される水田とからなるが、いずれも、国や刈谷市の施策としても農地として利
用する方針、価値が認められるばかりか、地元農民としては、容易に手放すことが
できない愛着のある農地であり、原告らからこれを取得することは、著しく困難で
ある。
(10) 住民参加
本件都市計画決定に先立ち、地域住民等がその内容に詳しく立ち入った議論をして
計画決定に参加したということは皆無であり、都市計画法に基づく形式的な公聴会
があっただけである。
また、本件都市計画決定後、本件裁決申請前に、計画内容について、原告らを含む
地主によって構成される反対同盟等三団体と被告県とが討論し、その討論結果は、
本件基本計画(本件都市計画)の取扱いについて尊重され、計画の中止、変更もあ
り得ることが合意され、本交渉(公開討論会)が行われた。そして、本交渉では、
原告らが、右に述べたところを示したのに対し、被告県の担当職員は合理的な反論
ができずに終始したものである。したがって、本件基本計画(本件都市計画)は、
右討論結果に従って、三団体の意見に沿うように変更されなければならなかった。
しかるに、本件裁決申請は、本交渉を途中で一方的に中止してされたものである。
(三) まとめ
右のとおり、本件基本計画及び本件都市計画は、都市計画法及び下水道法に定める
適法要件を欠くものであって違法であり、したがって、これに基づいてされた本件
都市計画事業の認可も違法である。
2 被告委員会
本件都市計画は都市計画法一三条の都市計画の基準に、本件下水道事業計画は下水
道法二五条の五の認可基準に、本件都市計画事業は都市計画法六一条の認可基準
に、いずれも適合しており、法令に定める諸手続も確実に履践しているものであっ
て、本件都市計画事業の認可については何らの違法もない。原告らの主張は、要す
るに原告らが理想的であると考える都市計画の内容と本件都市計画のそれとが異な
るということに尽きるものであり、本件都市計画が県知事の自由裁量に属するもの
である以上、そのことのみで本件都市計画が違法になるものではない。
(一) 下水道に関する計画の適法要件の主張について
原告らの主張する適法要件なるものは、原告らの独自の見解に過ぎず、実定法上何
らの根拠も有しない。
(二) (1)流域総合計画の欠如の主張について
下水道法の流域総合計画の規定は、都道府県の行政上の責務を定めたものであり、
具体的にいつまでに同計画を策定すべしとの規定がないことからも、同計画が策定
されていないからといって、本件都市計画が違法となるとはいえない。このこと
は、同法二五条の五第四号の認可の基準に照らしても明らかである。
なお、下水道法の一部改正により流域総合計画に関する条項が追加されたのは昭和
四六年六月二四日であり、このころは、本件都市計画について原案作成、公聴会等
の諸手続を履行している最中であった。
また、本件基本計画は、原告らも認めているとおり、流域総合計画の策定と同様の
手法を採って策定されたものである。
(2) 本件調査委員会委員長らによる誤りの自認等の主張について
本件基本計画の立案及び策定者は、被告県である。被告県は、下水道協会に流域下
水道基本計画を立案するための調査報告書を作成する業務を依頼したものであっ
て、単に学問的研究を依頼したのではない。
また、本件調査報告の内容について、下水道協会からは訂正等の申出は受けていな
い。原告らの指摘する三教官の意見書は、三教官の個人的な見解に過ぎず、本件基
本計画ないし本件都市計画の当否を左右するものではない。右三教官の「誤りの自
認」が、三教官の自由な意思の下になされたか否かも疑わしい。
(3) 工場排水の全量受入れの問題点の主張について
下水道法一〇条一項本文は、都市の健全な発達や公衆衛生の向上への寄与という目
的から、個人、法人、家庭、工場を問わず、およそ公共下水道の供用が開始されて
いる者は全てその下水を公共下水道へ流入しなければならないとの「利用の強制」
を課しており、これが我が国における下水道法制の基本原則である。
したがって、工場排水についても、計画処理区域内の全ての排水の受入れを予測
し、計画汚水量に見込むのが原則であるから、本件基本計画等には何ら違法はな
い。原告らの主張は、右下水道法上の原則と例外を取り違えたもので、失当であ
る。
(1) 活性汚泥法による処理の限界の主張について
下水道法では、一定範囲の流入水質を担保するため、事業場からの下水を下水道が
受け入れる場合の水質の基準が定められているから、原告らの主張は紀憂に過ぎな
い。
(2) 不法投棄の助長の主張について
原告らが、公共用水域へ直接排出する場合の違反に対する抑止力として強調してい
る衆人監視機能については、一般に、排水基準を大きく超えた異常な事態の確認に
過ぎず、排水基準の違反等を未然に防止する本来の監視効果はない。さらに、この
議論は、現実の都市形態を無視した極めて感覚的なものに過ぎない。また、工場か
らの排水規制措置についても水質汚濁防止法の場合と対比して何ら遜色はなく、規
制対象事業場の範囲は、むしろ下水道法の方が水質汚濁防止法よりも広い。これら
の法規制が遵守されないことを前提とした原告らの主張は誤りである。
(3) 汚泥処理処分の困難さの主張について
処理場において発生する汚泥は、法令に定める処理基準に準拠して環境への影響を
最小限に抑えるように処理処分が図られるものである。なお、汚泥の有効利用につ
いては、建設省等関係機関において資源化利用に関する研究、開発が進められてい
る。
また、汚泥に含まれる重金属は、処分に関して質的に影響を与えるほどのものでは
ない。
むしろ、処理施設を集中管理することにより、下水汚泥はより効率的な処理処分が
可能となり、本件都市計画においても、この地域の特性に応じ、適法かつ適切な処
理方法を選択し得るものである。
(4) 低BOD濃度の工場排水の受入れの問題点の主張について
本件計画汚水量の中では、BOD、SSのいずれもが放流水基準を下回るものは僅
少である。低BOD排水を受け入れる場合、受け入れない場合に比べて流入汚水の
BODも低くなり、これに従って、放流水のBODも低くなるため、低BOD排水
を受け入れることによって環境負荷を増大させるという主張は誤りである。
(4) 計画汚水量算定の誤りの主張について
下水道法二五条の五第一号は、認可基準の一つとして、流域下水道の配置及び能力
を適切に定める際考慮すべき「下水の量及び水質に影響を及ぼすおそれのある要
因」に「降水量、人口その他」を掲げているところ、本件都市計画では、人口、工
業出荷額、畜産頭数等を考慮しており、何ら違法性はない。工場排水量について
も、本件基本計画の策定に当たり、業種別・業態別の排水量の実態調査を行い、こ
れに基づいて工場排水量単位を定め、これに昭和六五年における計画処理区域内の
工業出荷額を乗じて工場排水量を算出している。なお、冷却水・空調排水はこれに
見込んでいない。よって、原告らの主張するような誤りはない。
確かに、原告らの指摘するとおり、当初計画の際の予想と、現実の汚水量には多少
の差はでているが、流域下水道が長期にわたって事業実施されていくものであり、
長期展望に立って計画されたという性質を本来的に有するものである以上、当初予
想が現実と多少の誤差があったとしてもやむを得ない。右の誤差については、中途
での見直しが許されるものである。
(5) 最適化計算の誤りの主張について
本件都市計画の計画区域は、関係河川の集水域である境川流域の区域としたもので
ある。
本件基本計画の処理区域構成は、(1)投資効果に対する検討、(2)行政的側面
からの検討、及び(3)水域の環境基準を守るための検討を行い、総合的評価の結
果、四処理区構成としたものであり、第一段階(費用計算)のみに着目する原告ら
の主張は不当である。また、最適計画決定パターンと費用計算上最適とされたケー
ス14とを対比すれば、両者間の費用の差異は、他の処理区の取扱いによるもので
あって、本件都市計画に係る境川処理区の構成については、両者間に何らの差異は
ない。
本件基本計画においては、最適計画として流域下水道を選択したものであり、単に
経済性のみをもって選択したものではないから、単純に流域下水道と単独公共下水
道との経済比較をすることには意味がない。
なお、碧南市に終末処理場が建設されるという件は、具体的な計1画として立案さ
れたものではない。
(6) 流域下水道方式そのものの問題点の主張について
(1) 下水道法では、流域下水道管理者である県が関連公共下水道管理者である
市町村に対して悪質下水の流入に関して原因調査(二五条の八第一項)、条例の制
定その他必要な措置(同条二項)をとることを要請することができる。
(2) 単独公共下水道、流域下水道を問わず先行投資は避けられないところであ
るから、単に一定期間内の投資額のみにより、両者の経済性を比較することはでき
ない。幹線管渠の建設は、関連公共下水道の整備計画と終末処理場の建設計画を整
合させながら施行するものであり、幹線管渠の建設は、通常、終末処理場に近い下
流地域から整備を進めていくことになるため、上流都市の供用開始が遅れることは
やむを得ないことである。しかし、幹線管渠の建設速度は上流に向かうにつれて速
くなるものである。また、流域下水道の整備計画は事業計画の策定及び変更の段階
で関係市町の意見を聴き、調整の上定めている。
処理場用地の面積についてもトータルで見れば、単独公共下水道に比べ流域下水道
の方がスケールメリットが働くし、処理場用地の確保が難しいことは、単独公共下
水道、流域下水道を問わない。
(7) 環境への影響及び環境影響評価に関する主張について
本件流域下水道が完備されても、境川(境大橋)では、〇・三立方メートル毎秒、
逢妻川(境大橋)では、一・四立方メートル毎秒の自然の流水量に排水区域以外か
ら発生する排水量を加えた流量は確保できるのであり、原告らの主張は、誤った先
入観による杞憂に過ぎない。
衣浦湾の水質については、問題とされるほどの影響はない。
(8) 既存計画との関係について
本件都市計画は、都市計画法の定める手続により関係各市町の意見を聴き、決定し
たものである。さらに、事業実施についても諸法令に基づき、関係各市町の意見を
聴いて実施している。
(9) 用地取得の難易について
終末処理場の設置場所には一定の必要条件があり、右要件を具備する一定面積の土
地が公共的見地から終末処理場に充てられることがあり、本件もその一例である。
用地取得に当たっては、適正な価格で補償することはもちろんのこと、本件におい
ては、関係する農家が営農に支障を来さないようにとの配慮から、土地の交換、斡
旋等可能な限りの対応をしてきたのであり、本件裁決において替地補償の方法が取
られたのも同様の配慮に基づくのである。したがって、本件土地が終末処理場にな
ることによって失われる損失が大きいとの主張は当たらない。
(10) 住民参加について
本件都市計画決定については、都市計画法の規定に基づく公聴会の開催、縦覧によ
り提出された住民の意見は都市計画地方審議会にその要旨を提出するなどして計画
に反映させるよう努めており、原告らの主張は失当である。
(三) まとめ
原告らが指摘する点が特に問題とされるような内容のものでないことは既に指摘し
たとおりであるが、仮に、本件基本計画に何らかの問題が存するとしても、それに
より本件都市計画決定が違法となるものではない。けだし、一つの都市計画決定の
適格性あるいは違法性の判断は、満たすべき都市計画基準が充足されているか否
か、及び所定の手続が適法に履行されているか否かに求められるべきであって、基
礎調査及び基本計画の当否にまで遡及し得るものではないからである。
五 本件裁決そのものの適法性
1 土地物件調書の作成手続の瑕疵の有無(争点2の5)
(一) 原告ら
(1) 本件裁決申請の基礎となるべき事業認定の告示があったとみなされるのは
昭和五三年一二月七日であるのに、被告県が土地収用法三五条二項の規定に基づい
てした立入りの通知は、それ以前の同月四日になされており、法律上の根拠のない
ものである。
(2) 被告県は、同条一項の規定による立入調査に当たって、本件土地のうち刈
谷市<地名略>の土地に立ち入ろうとしたのみで実際には立入りをせずに引き揚
げ、他の土地については立ち入ろうともしなかった。したがって、測量又は調査を
することが著しく困難ではなかったのに、これをすることなく、同法三七条の二の
規定により本件土地の土地調書及び物件調書(以下、両者を合わせて「本件土地物
件調書」という。)を作成した。
(3) 被告県は、本件土地物件調書の作成に当たって、同月六日以前の土地及び
物件の状況を調査したのみで、土地及び物件が変更、固定される同月七日以降は調
査していないし、関係人を特定するための調査もしていない。このように、本件土
地物件調書は、土地及び物件の状況を正確に反映するための調査を怠って作成され
たものである。
(4) 本件土地物件調書は、同法三六条二項に規定する土地所有者の立会い、署
名押印という手続を経ないで作成されたものである。
(5) 本件土地物件調書には、刈谷市長Iの署名押印がされているが、刈谷市長
による署名押印がされたことは、以下の理由により違法である。
(1) 起業者である県から市長宛の依頼文書が、同月七日以前である同月四日に
発せられている。
(2) 同市長は、本件土地物件調書が正確な根拠資料に基づいて作成されたとの
説明及び資料の提示を受けずに署名押印している。
(3) 同市長は、本件土地物件調書の作成経過を認識しておらず、土地及び物件
についての知識もない。
(4) 同市長は、署名押印に当たってその理由を記載していない。
(6) 土地物件調書が違法に作成された瑕疵のある調書である場合は、収用委員
会は、収用対象の土地及び物件について土地物件調書に記載すべき事項について、
これらを調査し、自ら各事項を認定しなければならない。
しかるに、被告委員会は、右の調査を行わず、本件裁決をしたものであり、本件裁
決は違法である。
(二) 被告委員会
(1) 原告らの主張(一)について
都市計画事業は、その規模が遠大で執行に相当長期間を要するので、土地収用法に
よる事業認定の場合と同じように、一年以内に裁決申請がされないときに認可の効
力を失わせることは実情にそぐわないため、都市計画法七一条一項によって事業の
認可の効力を自動的に更新させている。この規定は、事業の認可の更新時において
それ以前の認可の効力が一旦消滅し、更新により別個の新しい認可の告示がなされ
るものと考えるべきではなく、更新の前後を通じて事業の認可の効力が継続してそ
の同一性が保たれていると解すべきである。本件都市計画事業の認可の効力は、昭
和四六年一二月六日以来、同項の規定により認定の告示があったものとみなされる
昭和五三年一二月七日の前後を通じて、同一性を保ちつつその有効性を継続してい
るのであるから、立入調査の通知が同日より前になされたとしても立入りの通知の
効力を左右しない。
(2) 同(2)について
被告県は、原告らの妨害により本件土地に立ち入って調査することができなかった
ため、境川地区土地配分図、土地台帳附図、不動産登記簿、現地観察、航空測量等
の方法を総合して知ることができる程度で調書を作成したものであり、本件土地物
件調書の作成手続に瑕疵はない。
(3) 同(3)について
昭和五三年一二月七日以後も、前記(1)のとおり、都市計画事業の認可の効力は
同一性を保ちつつその有効性を継続しているのであるから、必ずしも同日以降に調
査をする必要はない。しかも、被告県は、同日以降においても数度にわたって現地
観察を行い、関係人を特定する調査もしている。
(4) 同(4)及び(5)について
いずれも争う。
2 法定の周知措置に関する瑕疵(争点2の6)
(一) 原告ら
(1) 都市計画法六六条によれば、本件都市計画事業の施行者は同法に規定する
事業の施行について周知させるための措置を講じなければならないのに、被告県は
これをしなかったから、本件裁決は違法である。
(2) 土地収用法二八条の二によれば、昭和五三年一二月七日以降直ちに同条に
規定する補償等について周知させるための措置を講じなければならないのに、被告
県が周知措置を講じたのは本件裁決申請後の昭和五四年二月八日であり、また、原
告らに対する補償金額については同日以降いかなる周知措置も採られていない。し
たがって、本件裁決は違法である。
(二) 被告委員会
被告県は、いずれの点についても必要な措置を講じており、原告ら主張の違法はな
い。
第五 予備的請求に関する本案前の争点及び当事者の主張
一 主観的予備的併合の適法性(争点3の1)
1 被告県
原告らの被告県に対する請求は、被告委員会に対する請求が棄却される場合に備え
て予備的になされたものであるから、講学上の主観的予備的併合訴訟に当たり、次
の理由により不適法であって許されない。
(一) 主観的予備的併合がされた訴訟においては、予備的請求の当否について裁
判がされるか否かは、他人間の訴訟の結果いかんによることとなるのであり、予備
的被告は、応訴上著しく不安定、不利益な地位に置かれることとなり、両当事者間
の公平を害する。
(二) 主観的予備的併合を認めるとしても、主位的請求が認容されて、主位的被
告が上訴した場合には、主位的請求のみが上訴審に係属することとなるのであり、
裁判の矛盾を回避するという効用は、必ずしも十分には認められない。裁判の矛盾
を回避するためには、裁判所の適切な訴訟指揮が必要であるが、収用裁決取消訴訟
と損失補償に関する訴訟を当初から別訴として提起させ、前者についての判決が確
定するまで、後者についての審理を中止する方が合理的である。
(三) 仮に、行政事件訴訟において、被告相互間に行政主体と行政機関という関
係があって、しかも、両者に実質的一体性を認めることができる場合に限って、主
観的予備的併合が許されるとする見解に立つとしても、被告委員会と被告県との間
には実質的一体性はない。すなわち、収用委員会は形式的には都道府県知事の所轄
下に設置されているが、その職務権限は独立して行い、管理執行すべき事務は国の
事務であるから、実質的には国の行政機関というべきである。
2 原告ら
通常の民事訴訟において、一般に訴えの主観的予備的併合が不適法であるとされて
いる理由として、予備的請求の被告にとっては応訴上の地位の不安定と不利益を強
いられること及び上訴の場面において客観的予備的併合の場合と異なり、共同被告
間での統一的裁判の保障がないことが指摘されている。
しかし、本件のように、収用委員会に対する収用裁決の取消しの訴えを第一次的請
求とし、起業者に対する損失補償に関する訴えを第二次的請求とする主観的予備的
併合の場合には、以下のとおり、通常の民事訴訟とは異なる特殊の事情があり、こ
れを不適法とすることはできない。
(一) 収用裁決は、収用に関する部分と損失補償に関する部分との二つからなる
行政処分である。したがって、本来、損失補償に関する部分に対する不服も、収用
委員会を被告として、収用裁決の取消しを求める抗告訴訟として訴え提起をするこ
とができるはずであるのに、土地収用法一三三条二項は、損失補償に関する訴えに
ついて、その当事者を起業者とした。これは、損失補償に関する事項が、私益的な
性格をも有していることから、損失補償の支払、受領の関係に立つ者同士を訴訟の
当事者として争わせることが合目的的であるとの配慮に出たものに過ぎず、いずれ
にしても、裁決のうちの損失補償に関する部分が行政処分であること、したがっ
て、損失補償に関する訴えが抗告訴訟の本質を有するものであることは明らかであ
る。
したがって、損失補償に関する訴えについても、本来ならば、収用に関する訴えと
同じく収用委員会を被告として、客観的予備的な訴えとして提起することが可能な
のであり、土地収用法の前記規定により、たまたま起業者を被告とすべきものとさ
れたために、形式的に主観的予備的なものとなるに至ったに過ぎない。このよう
に、損失補償の訴えにおいて被告となる起業者の地位は本質的には収用委員会と同
一基盤に立つものであり、この点において、通常の民事訴訟とは明らかに事情が異
なる。
(二) 仮に、本件において主観的予備的併合が許されないとすると、土地所有者
は、収用裁決取消しの訴えと損失補償に関する訴えを同時に別訴をもって提起する
こととなるが、この場合であっても、確かに、収用裁決の取消訴訟とは無関係に損
失補償に関する訴訟について審理を進めることはできるが、収用裁決を取り消す判
決が確定した場合には、損失補償に関する判決が確定していたとしても無意味なも
のとなり(特に損失補償に関する判決に従って補償を了していた場合には、その原
状回復が必要となるから起業者の立場は不利である。)、また、損失補償に関する
判決が確定する前に収用裁決を取り消す判決が確定すると、その後の訴訟の続行は
不必要となり、起業者にとっては、もはや判決を得られるかどうか、あるいは訴え
の取下げに同意するかどうかは何の意味も持たなくなる。
したがって、この場合、起業者の地位の不安定不利益は主観的予備的併合を認めた
場合よりもむしろ大きいのである。
(三) また、主観的予備的併合訴訟において主位的請求を認容する一審判決があ
り、これに対して収用委員会が上訴すると、主位的請求のみが上訴審に移審し、統
一的な裁判の保障に欠けるかのごとくであるが、この場合には主位的請求に対する
判決が確定するまで予備的請求についての審理を待つことが可能であるのに対し、
別訴の形態による場合には初めから裁判の矛盾の回避という要請は放棄されている
のである。
(四) 土地収用裁決は収用に関する部分と補償に関する部分とからなるが、土地
所有者にとっては、自己の財産権を一定の対価による収用で奪われるという一個の
実質を有するものであり、できるかぎり一つの審理において一挙に解決することが
望ましいし、訴訟経済上も好ましい。
二 権利取得裁決に伴う損失補償として特定の譲渡を求める請求の適法性(争点3
の2)
1 被告県
(一) 土地収用法七〇条は、損失補償の方法として「金銭払いの原則」をとり、
替地補償等の金銭以外の方法による補償は収用委員会の裁決があった場合に限り例
外的に認められるものと定めているから、損失補償の訴えにおいて、替地による差
額の補償を求めることは、およそ法の予定しないところである。したがって、原告
らは、正当な補償額と裁決額との差額を金銭によって支払うことを求めるべきであ
って、金銭の全部又は一部に代えて、替地をもって右差額を補償するよう求めるこ
とは許されない。
(二) 仮に原告らの被告県に対する請求が、本件裁決によって定められた補償に
代えて本件要求替地による補償を求める趣旨であるとしても、損失補償の訴えにお
いて、収用委員会の定めた補償方法自体の変更を求めることは、やはり法の予定し
ないところであり、許されない。なお、原告らの請求が右のような趣旨であるとす
ると、本件裁決によって認められた替地及び金銭の返還と引換給付の関係にあるも
のであり、原告らは、無条件に本件要求替地の給付を求めるのではなく、原告らが
受領した金銭補償及び本件替地の返還と引換えに本件要求替地の給付を求めるべき
である。
(三) さらに、原告らが、本件替地による替地補償を定めた本件裁決を不当とす
るのであれば、被告委員会を被告として本件裁決の取消しを求めるべきであって、
起業者である被告県を被告とする損失補償の訴えによるべきではない。ただ、この
場合も、本件替地に代えて本件要求替地による替地補償をなすべきことを求める訴
えは義務付け訴訟に当たるが、その適法要件を欠くものとして、やはり不適法なも
のというべきである。けだし、替地補償の要否は、その要求の相当性という行政庁
(被告委員会)の合理的裁量に委ねられている判断によって決定されるべきもので
あるから、被告委員会に対して本件要求替地による替地補償を命ずる裁判は、行政
庁である被告委員会の第一次的判断権を侵害するものとして、許されない。
2 原告ら
被告県の主張はいずれも争う。
土地収用法七〇条によれば、損失補償の方法は原則として金銭をもってされるか、
一定の要件が認められる場合には被収用者に権利として替地による補償がされるこ
とになっているから、収用裁決によって認められた替地補償の内容に不服がある場
合、損失の補償に関する訴えを提起できることは明らかである。
そして、土地所有者が起業者所有の特定の土地を指定して、替地による補償を要求
した場合において、替地による補償要求が相当であり、かつ、替地の譲渡が起業者
の事業又は業務に支障を及ぼさないときは、替地による補償をしなければならない
(土地収用法八二条一項、二項)とされているから、原告らは被告県に対する損失
補償に関する訴えにより、本件要求替地による補償を求めることができる。
第六 予備的請求に関する本案の争点及び当事者の主張
一 権利取得裁決に伴う損失補償として本件要求替地の譲渡を求める請求の当否
(争点4の1)
1 原告ら
原告らは、被告委員会に対し、本件要求替地による補償をしたが、被告委員会は、
起業者の事業に支障があるとしてこれを認めなかった。しかし、本件においては、
以下のとおり、土地収用法八二条二項の要件がすべて満たされているから、被告県
は、本件要求替地を替地として補償すべきである。
(一) 本件においては、金銭による補償では不十分であって替地による補償をす
るのが相当である。
(二) 本件要求替地を譲渡しても、被告県の事業又は業務の執行に支障を及ぼす
ことはない。すなわち、右にいう「事業」とは都市計画事業の認可を受けた都市計
画事業を意味すると解すべきところ、本件要求替地は、本件都市計画事業及び本件
下水道事業計画のいずれとの関係でも、その予定する処理施設及び管渠の敷地予定
地に含まれていない。したがって、本件要求替地を譲渡しても、被告県の事業の執
行に支障を与えないことは明らかである。また、右事業の執行に関する業務の対象
地でもないから、被告県の業務の執行に支障を及ぼさないことも明らかである。
2 被告県
原告らの主張はすべて争う。
二 原告らの被告県に対する請求は信義則ないし禁反言の法理により許されないか
一争点4の2一
1 被告県
原告らは、何ら異議をとどめることなく供託を受領して供託金の払渡しを受けたの
みならず、供託にかかる替地の譲受けと引渡しに応じたのであるから、信義則ない
し禁反言の法理により、もはや本件裁決に係る損失補償に異議を述べることは許さ
れない。
2 原告ら
前記第三の一2で主張したとおり、供託物の受領によって不服申立ての権利を放棄
したことにはならない。
第七 主位的請求に関する本案前の争点に対する判断
一 原告らの供託物受領により、本件裁決取消しの訴えはその利益を欠き不適法と
なるか(争点1の1)
1 原告らは、前記第二の五のとおり、被告県が供託した本件裁決にかかる補償金
及び本件替地を受領したものであるところ、被告委員会は、原告らは何ら異議をと
どめず右補償金等を受領したことにより本件裁決が適法有効なものであったことを
承認し、本件裁決の取消しを求める権利ないし利益を放棄したものであり、原告ら
はもはや本件裁決の取消しを求める法律上の利益を有しないと主張する。
2 一般に私法上の権利関係において、金額に争いのある債権につき全額に対する
弁済を供託原因として供託した金額が、債権者の主張する額に足りない場合であっ
ても、債権者が供託書の交付を受けてその供託金を受領したときは、受領の際別段
の留保の意思表示をなした等特別の事情のない限り、その債権の全額に対する弁済
供託の効力を認めたものと解される(最高裁昭和三三年(オ)第一一九号同年一二
月一八日第一小法廷判決・民集一二巻一六号三三二三頁)。しかしながら、本件に
おいて原告らが受領した供託物は、起業者である被告県において土地収用法九五
条、九七条の規定に基づいて供託した補償金等であり、その権利関係について当事
者が自由に処分することのできる私法上の権利関係とは異なるのであるから、供託
物受領の際に被収用者において留保の意思表示をしたか否かによって収用裁決の適
否が左右されることとなるものと解するのは相当でない。したがって、被収用者に
おいて異議をとどめることなく供託物を受領した行為をもって、収用裁決の適法
性、有効性を承認したものとみることはできず、これによって収用裁決の取消しを
求める訴えの利益が失われるものと解することもできない。
また、土地収用法には、被収用者が補償金等の払渡しを受けた場合に裁決取消訴訟
を提起することができなくなるという趣旨の規定は見当たらず、むしろ同法一〇〇
条は、被収用者が補償金等を受領した上で裁決の効力を争うことを当然のこととし
て予想しているものと解することもでき、しかも、原告らは本件訴訟を昭和五六年
一月二九日に提起し、これを現在に至るまで維持して本件裁決の取消しを求めてい
るのであるから、本訴提起後に補償金等を受領する際に何ら異議をとどめなかった
としても、そのことをもって本件裁決の違法を争わないとの意思を表明したものと
みることはできず、したがって、信義則ないし禁反言の法理によって原告らが本件
裁決の取消しを求めることができなくなるものと解する余地もないというべきであ
る。
したがって、この点に関する被告委員会の主張は採用し難いものというほかない。
二 本件土地の明渡しについて行政代執行が完了しているため、本件裁決の取消し
を求める訴えはその利益を欠くものとして不適法となるか(争点1の2)
1 本件土地の明渡しについて行政代執行が行われ、本件土地が既に被告県に引き
渡されていることは、前記第二の六のとおりである。
2 本件裁決は権利取得裁決及び明渡裁決からなるところ、まず、権利取得裁決と
右代執行の事実との関係について検討する。
権利取得裁決の有する本来的な効果は、起業者に所有権又は使用権を原始的に取得
させるところにある(土地収用法一〇一条一項)と解されるところ、明渡裁決の代
執行によって土地の引渡しが完了している場合であっても、権利取得裁決が取り消
されれば、同裁決によって起業者が取得した所有権ないし使用権は当然に消滅し、
当該土地をめぐる権利関係は権利取得裁決のなかった状態に戻ることとなる。その
結果、被収用者は、土地所有権に基づいて、占有者である起業者に対し土地の返還
を求めることができるのであるから、権利取得裁決の取消しを求める訴えの利益
は、代執行によって土地の引渡しが完了しているという事実によって何ら影響を受
けるものではないというべきである。
なお、被告委員会は、本件処理場に係る工事は既に一部完了し、本件土地について
代執行前の原状に回復することは事実上不可能であると主張するが、社会的、経済
的損失の観点からみて、社会通念上、原状回復をすることが不可能であるとして
も、そのような事情は、行政事件訴訟法三一条の適用に関して考慮されるべき事柄
であって、権利取得裁決の取消しを求める原告らの法律上の利益を消滅させるもの
ではないと解すべきであるから(最高裁平成二年(行コ)第一五三号同四年一月二
四日第二小法廷判決・民集四六巻一号五四頁参照)、右主張は採用することができ
ない。
3 他方、明渡裁決の有する効果は、裁決時の土地等の占有者に対し裁決において
定められた明渡しの期限までに土地等の引渡し又は物件の移転をするという作為義
務を課すものに過ぎず(同法一〇二条)、明渡し後における起業者による土地等の
占有、使用を受忍する義務をも課しているものではないと解すべきである。したが
って、一旦土地等の明渡しが完了すれば、明渡裁決の効果としての土地等の占有者
の作為義務はもはや存続していないものと解される。
したがって、明渡裁決の対象となった土地等について代執行によってその引渡し等
が完了した後は、同裁決の取消しを求める訴えの利益は失われるものというべきで
あり、被収用者は権利取得裁決を争ってその取消しを求めることにより右2のとお
り自己の権利を回復することができるに過ぎないというべきである。
4 右のとおりであるから、原告らの本件裁決の取消しを求める請求のうち、権利
取得裁決の取消しを求める部分については代執行の完了により訴えの利益が失われ
たものとはいえないが、明渡裁決の取消しを求める部分については代執行の完了に
より訴えの利益が失われたものといわざるを得ず、不適法として却下を免れない。
したがって、以下においては、本件裁決のうちの権利取得裁決の部分について、そ
の適否を判断することとする。
第八 主位的請求に関する本案の争点に対する判断
一 本件都市計画事業の認可等の違法性の主張について(争点2の1)
原告らは、本件裁決の違法事由として、本件都市計画事業の認可が違法であること
並びにこれに先立って決定された本件都市計画決定及び下水道法二五条の三の規定
に基づく本件下水道事業計画が違法であると主張するので、まず、右の点が本件裁
決の違法事由となるか否かという点について検討する。
1 都市計画事業の認可等と収用裁決の関係
まず、土地収用法によれば、起業者は、事業のために土地を収用しようとするとき
は、建設大臣又は都道府県知事による事業の認定を受けなければならず(一六条、
一七条)、建設大臣又は都道府県知事は、起業者の申請に係る事業が法定の要件を
満たす場合には、事業の認定をすることができ(二〇条)、事業の認定がされた場
合には、起業者は、事業の認定の告示(二六条)があった日から一年以内に限り、
収用委員会に収用の裁決の申請をすることができ(三九条)、収用委員会は、申請
却下の裁決をすべき一定の場合を除いて収用裁決をしなければならない(四七条、
同条の二)とされている。右の事業の認定と収用裁決は、その直接の効果は異なる
ものの、結局は、互いに相結合して当該事業に必要な土地を取得するという法的効
果の実現を目的とする一連の行政行為であると解される。
ところで、下水道は都市計画法四条五項、一一条一項三号により都市施設とされ、
これが都市計画において定められた場合には、その整備に関する事業は都市計画事
業として同法五九条の規定による認可又は承認を受けて行われるものとされている
(同法四条一五項)ところ、同法七〇条一項は、都市計画事業については土地収用
法二〇条の規定による事業の認定は行わず、都市計画法五九条の規定による認可又
は承認をもってこれに代えるものとし、同法六二条一項の規定による告示をもって
土地収用法二六条一項の規定による事業の認定の告示とみなすと規定している。土
地収用法の事業の認定は、収用権を付与するのにふさわしい公共の利益となる事業
である旨を認定するものであり、右認定を受けるためには、第一に同法三条各号の
一に掲げる公共性の高い事業であること、第二に起業者が当該事業を遂行する充分
な意思と能力を有するものであること、第三に事業計画が土地の適正かつ合理的な
利用に寄与するものであること、第四に土地の収用、使用につき公益上の必要があ
るものであることのいずれの要件をも充足しなければならないこととされている
(同法二〇条)が、都市計画事業については、第一に都市施設に関する事業はほぼ
同法三条各号に掲げるものと同様のものであること、第二に事業主体は、地方公共
団体、国の機関及び特許施行者とされており、確実な事業遂行が見込まれることを
都市計画事業の認可等の際に十分審査していること、第三に都市計画決定の手続を
経ることにより利害関係人、第三者機関及び行政機関の調整を行うため、計画自体
の合理性は十分具備していることから、更に土地収用法の事業認定の手続をとらせ
るのは事業者に二重の手続をとらせることになるので、前記のとおり、都市計画事
業の認可又は承認をもって土地収用法の事業認定に代えることとし、事業認定の手
続を不要としているものと解される。
したがって、都市計画法に基づく都市計画事業の認可又は承認と収用裁決は、土地
収用法に基づく事業認定と収用裁決の場合と同様、その直接の効果は異なるもの
の、結局は、互いに相結合して当該事業に必要な土地を取得するという法的効果の
実現を目的とする一連の行政行為であると解するのが相当である。
2 都市計画事業の認可の違法性と収用裁決の関係
ところで、都市計画法五九条に基づく都市計画事業の認可は、これにより当該事業
の施行者に前記のとおり土地の収用又は使用の権限が付与され、また、事業地につ
いて建築制限等の法的な効果を生じるのであるから、国民の権利義務に直接変動を
及ぼすものとして、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解されるけれども、
都市計画事業の認可と収用裁決とは、右1で説示したとおり、先行行為と後行行為
とが相結合して一つの効果を形成する一連の行政行為に当たり、このような場合に
は、以下の理由から、原則として、先行行為の違法性は後行行為に承継され、後行
行為に対する取消訴訟において先行行為の瑕疵を主張することが許されると解すべ
きである。
(一) 先行行為と後行行為とが相結合して一つの効果を形成する一連の行政行為
である場合には、法が実現しようとしている目的ないし法的効果は最終の行政行為
に留保されているから、このような場合、先行行為を独立して争訟の対象にならな
い行政内部の手続的行為とし、先行行為の違法は最終の行政行為の取消訴訟におい
てのみ主張できるとすることも、立法政策上は可能であるが、そのような立法政策
を採らず、先行行為を独立の行政行為として扱い、それに対する争訟の機会を設け
ている場合であっても、なお、先行行為の違法性は後行行為に承継され、後行行為
の取消訴訟において先行行為の違法を主張できると解するのが相当である。なぜな
ら、この場合、法が先行行為を独立の行政行為としそれに対する争訟の機会を設け
た趣旨は、国民の権利利益に大きな影響を及ぼすような行政行為につき、その手続
がより慎重に遂行されるようにすることによって、行政行為の手続及び内容の適正
さを一層強く担保しようとしたものと解することができるのであって、先行行為が
独立の行政行為であり、かつ、それに対する争訟の機会が設けられていることを理
由に違法性の承継を否定することは、右のような法の趣旨に反するものと解される
からである。
(二) 被告委員会は、先行行為に対する取消訴訟によってその瑕疵を主張するこ
とができるから、違法性の承継を否定しても国民の権利利益の救済上格別の支障は
生じないのに対し、違法性の承継を認めれば、先行行為についての出訴期間の制限
が実質的に無意味となり公定力を失わせるに等しい結果になると主張する。
しかしながら、先行行為と後行行為が相結合して一つの効果を形成する場合におい
て、先行行為につき取消訴訟の提起を認めた趣旨が右(一)のとおりであると解さ
れる以上、違法性の承継を否定することが国民の権利利益の救済上支障を生じない
とはいえないし、また、先行行為については、違法性の承継を認めると否とにかか
わらず、行政事件訴訟法一四条の定める出訴期間の経過により形式的に確定し、も
はやその取消しを求めることのできない状態となるのであるから、その限りにおい
ては出訴期間の制限を設けた趣旨を没却するものではない。したがって、右主張は
採用できないというほかない。
(三) また、被告委員会は、違法性の承継を認めた場合には、先行行為に対する
取消訴訟と後行行為に対するそれとの間で裁判所の判断が矛盾するおそれがあると
主張するけれども、先行行為に対して現実に取消訴訟が提起され、これに対する請
求棄却の判決が確定している場合には、先行行為について違法事由のないことが確
定されるから、後行行為の取消訴訟においてこれに反する判断をすることは許され
ないこととなるし、また、そうでない場合であっても、弁論の併合等訴訟の指揮、
運営いかんによって解決可能な問題であって、右のような可能性があるからといっ
て、違法性の承継を否定する根拠とすることはできない。
(四) さらに、被告委員会は、先行行為について処分権者を相手方として取消訴
訟を提起せず、後行行為の取消訴訟において、先行行為につき何らの権限を有しな
い者に対してその違法を主張することを認めることは不自然であり、法律が処分権
者を定め、かつ、先行行為をも抗告訴訟の対象としている趣旨を没却すると主張す
るところ、後行行為の処分権者において先行行為の適法性を審査する権限を有しな
いとしても、審査権限の有無自体は行政庁相互間の権限の分配の問題に過ぎない
し、仮に後行行為の処分権者において先行行為の適否を審査する権限を有するので
あれば、先行行為が違法であるにもかかわらずこれを適法として後行行為を行った
場合には、後行行為自体に固有の瑕疵があることとなって、違法性の承継を論ずる
必要はないことになるから、処分権の存否を問題とすることは相当ではないという
べきであり、右主張は採用することができない。
(五) また、被告委員会が指摘するとおり、先行行為である都市計画事業の認可
については、その内容につき周知措置の制度が設けられているが、その趣旨とする
ところは、前記(一)において説示したとおり、行政手続のより慎重な遂行を図る
ことによりその適正さを担保することにあると解されるから、周知措置の制度が設
けられているからといって、違法性の承継を否定すべきものと解することはできな
い。
3 本件都市計画事業の事業計画の変更について
本件都市計画事業については、建設大臣の認可を受けた後、前記第二の三6のとお
り、昭和四八年四月、昭和五一年三月及び昭和五三年一〇月の三回にわたって、都
市計画法六三条に基づく事業計画の変更の認可を受けており、本件裁決申請は、前
記第二の三8のとおり、変更の認可を受けた事業計画についてされたものである。
右事業計画の変更の認可は、これにより新たに事業地に編入した土地については、
都市計画事業の認可として扱われることとなるのであり(同法七〇条二項。なお、
本件裁決申請に係る事業地については、変更前の都市計画事業の認可によって既に
事業地とされていたので、同項の適用はない。)、少なくともその限りでは、都市
計画事業の認可と同様、独立して抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解され
るが、変更前の事業計画において既に事業地とされていた土地所有者との関係にお
いては、収用権の付与という関係にないことから、右の者がこれに対して抗告訴訟
を提起できるかどうかについては疑問がある。しかしながら、いずれにせよ、収用
裁決との関係では、変更の認可に係る事業計画が収用裁決申請に係る事業計画とな
るものであり、収用裁決と互いに相結合して当該事業に必要な土地を取得するとい
う法的効果の実現を目的とする一連の行政行為であるという点では、都市計画事業
の認可と変わるところはないのであるから、結局、右事業計画の変更の認可が違法
である場合には、本件裁決も違法となると解すべきである。
4 本件都市計画事業の認可等の適法性の判断について考慮すべき事由の範囲
(一) 都市計画法五九条に基づく都市計画事業の認可及び同法六三条に基づく事
業計画の変更の認可は、同法六一条の定める基準に基づいてされるべきものである
ところ、同条は、建設大臣は、申請手続が法令に違反せず、かつ、申請に係る事業
が次の各号に該当するときは、同法五九条の認可をすることができるものとし、
「一号 事業の内容が都市計画に適合し、かつ、事業施行期間が適切であること。
二号 事業の施行に関して行政機関の免許、許可、認可等の処分を必要とする場合
においては、これらの処分があったこと又はこれらの処分がされることが確実であ
ること。」としている。
ところで、本件においては、都市計画そのものが違法であると主張されているとこ
ろ、都市計画事業は、都市計画において定められた都市施設の整備に関する事業等
をいうものであって、都市計画を前提として施行されるものである。そして、都市
施設に関する都市計画決定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらず(最高裁昭
和六一年(行ツ)第一七三号同六二年九月二二日第三小法廷判決・裁判集民事一五
一号六九五頁)、また、同法一八条三項による都市計画決定に対する建設大臣の認
可も、国民の権利義務に直接変動をもたらすものではなく、やはり抗告訴訟の対象
となる行政処分には当たらないと解されるから、都市計画が違法である場合には、
当該都市計画は無効であって、これを前提としてされた都市計画事業の認可処分は
違法となると解すべきである。
そして、都市計画法は、「都市計画は、農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康
で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適
正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定める
ものとする。」(二条)とし、「都市計画は、全国総合開発計画・・・・・・その
他の国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画及び道路、河川、鉄道、港
湾、空港等の施設に関する国の計画に適合するとともに、当該都市の特質を考慮し
て、次に掲げるところに従って、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に
関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体
的かつ総合的に定めなければならない。」(一三条一項柱書)とし、さらに「都市
施設は、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要
な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持す
るように定めること。この場合において、市街化区域については、少なくとも道
路、公園及び下水道を定めるものとし、第一種住居専用地域、第二種住居専用地域
及び住居地域については、義務教育施設をも定めるものとする。」(同項四号(平
成二年法律第六一号による改正前のものごとし、「前各号の基準を適用するについ
ては、第六条第一項の規定による都市計画に関する基礎調査の結果に基づき、か
つ、政府が法律に基づき行なう人口、産業、住宅、建築、交通、工場立地その他の
調査の結果について配慮すること。」(同項七号(昭和五五年法律第三四号による
改正前のものごとしているので、都市計画は右のような都市計画法の定める基準に
従って決定されなければならないが、その基準は、抽象的な文言で定められている
にすぎないので、その性質上、専門技術的な判断と同時に、都市政策全体の見地か
らの政策的な判断を必要とするものということができる。したがって、具体的にど
のような都市計画を定めるかという点については、第一次的には決定権者である県
知事の裁量に委ねられているものであって、その適否を判断するに当たっては、右
のような都市計画法上の考慮要素についての県知事の判断に社会通念上著しく不相
当な点があり、その裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権の濫用があったと認められ
る場合にのみ、当該都市計画決定が違法となると解するのが相当である(行政事件
訴訟法三〇条参照)。
したがって、都市計画事業の認可及び事業計画の変更の認可の適否を判断するに当
たっては、その前提となった都市計画について、都市計画法の定める基準に照ら
し、決定についての裁量権の逸脱、濫用があるか否かについて検討する必要がある
というべきである。
(二) 次に、本件都市計画事業の認可と下水道法の規定の関係について検討する
に、本件都市計画に係る下水道は流域下水道(二条四号)であるところ、流域下水
道管理者は、流域下水道を設置しようとするときは、あらかじめ、政令で定めると
ころにより、事業計画を定め、建設大臣の認可を受けなければならないものとされ
(二五条の三第一項)、認可を受けた事業計画の変更をしようとする場合も同様で
あるとされている(同条四項)。そして、右認可は都市計画法六一条二号にいう
「行政機関の免許、許可、認可等の処分」に該当すると解されるので、右認可があ
ったこと又はこれがされることが確実であることは、都市計画事業の認可の適法要
件の一つであるということができる。そして、都市計画法上右のような適法要件が
定められている趣旨は、施行される都市計画事業が、他の法令との関係でも必要な
要件を満たしており、かつ、その点につき関係機関による審査を受けていることを
前提として、都市計画事業の認可がされるべきであるとするところにあると解され
る。
ところで、流域下水道管理者による事業計画の決定・変更及びこれに対する建設大
臣の認可については、私人の権利義務ないし法的地位に直接に変動を与える効果は
認められておらず、右の決定・変更ないしその認可がされたことを告示し、又は関
係権利者に通知すべきことを定めた規定及びこれに対する不服申立てに関する規定
も置かれていない(もっとも、下水道法三七条一項は、右の認可を受けないで流域
下水道に関する工事を施行する流域下水道管理者に対して、建設大臣は、その工事
の中止、変更その他の必要な措置を命ずることができると規定しているけれども、
右の規定が私人の法的地位に直接に変動を与えるものとは解されない。)。したが
って、右の事業計画の決定・変更及びその認可は、抗告訴訟の対象となる行政処分
に当たらないというべきであり、右の認可に係る事業計画が違法である場合には、
当該事業計画ないしこれに対する認可は無効であって、これを前提としてされた都
市計画法五九条による建設大臣の都市計画事業の認可も同法六一条二号の基準を満
たさない違法なものとなると解すべきである。
そこで、流域下水道の事業計画の適法要件についてみるに、下水道法二五条の五
は、建設大臣は事業計画の認可(変更の認可を含む。)をしようとするときは、事
業計画が次の基準に適合しているかどうかを審査してこれをしなければならないも
のとし、次の一ないし五のとおり定めている。
「一 流域下水道の配置及び能力が当該地域における降水量、人口その他の下水の
量及び水質に影響を及ぼすおそれのある要因、地形及び土地の用途並びに下水の放
流先の状況を考慮して適切に定められていること。
二 流域下水道の構造が第二五条の一〇において準用する第七条の技術上の基準に
適合していること
(注・七条は「公共下水道の構造は、政令で定める技術上の基準に適合するもので
なければならない。」と定めている。)。
三 流域関連公共下水道の予定処理区域が排水施設及び終末処理場の配置及び能力
に相応していること。
四 当該地域に関し流域別下水道整備総合計画が定められている場合には、これに
適合していること。
五 当該地域に関し都市計画法第二章の規定により都市計画が定められている場合
又は同法第五九条の規定により都市計画事業の認可若しくは承認がされている場合
には、流域下水道の配置及び工事の時期がその都市計画又は都市計画事業に適合し
ていること。」
右の要件については、いずれも専門技術的な判断を要するものであり、また、用い
られている文言も抽象的であって政策的な判断が必要であると解されることからす
れば、右の事業計画の適否に関する判断も、計画策定者である県(流域下水道管理
者)の裁量に委ねられているというべきであり、その判断に社会通念上著しく不相
当な点があり、裁量権の逸脱ないしその濫用があったと認められる場合にのみ、右
事業計画及びその認可が違法となるものと解すべきである。
したがって、都市計画事業の認可の適否を判断するに当たっては、下水道法二五条
の三の定める事業計画について、同条の五の定める基準に照らし、計画策定者の判
断に裁量権の逸脱、濫用があるか否かについて検討する必要があるというべきであ
る。
なお、本件都市計画事業の事業計画の変更の認可に先立って、本件下水道事業計画
の変更の認可(同条の三第四項)がされているところ(前記第二の三7)、都市計
画事業の事業計画の変更の認可と下水道事業計画の変更の認可の関係は、都市計画
事業の認可と下水道事業計画認可の関係と同様であると解することができるので、
下水道事業計画の変更の認可の適否についても検討する必要があるというべきであ
る。
(三) 以上のとおりであるから、本件都市計画事業の認可及びその変更の認可の
適法性を検討するに当たっては、本件都市計画が都市計画法の定める都市計画の基
準を満たしているか、本件下水道事業計画の認可及びその変更の認可が下水道法の
定める認可の基準を満たしているかという点について、それぞれの決定権者にその
裁量権の逸脱、濫用があったかどうかを判断する必要があるというべきである。
(四) なお、原告らは、本件都市計画に先立って定められた本件基本計画の違法
性についても主張するところ、被告県において本件基本計画を策定したことは前記
第二の三2のとおりであるが、右基本計画は法律上の根拠に基づいて策定されたも
のではないから、それ自体の適法性については判断する余地がないというべきであ
る。もっとも、本件基本計画の内容は概ね本件都市計画に採用されているのである
から、本件基本計画について指摘し得る問題点については、本件都市計画の適否の
検討に当たって検討する必要があるというべきである。
二 違法判断の基準時(争点2の2)
1 原告らは、本件裁決時を基準として、先行行為も含めて全ての行為の違法判断
がされるべきであると主張する。
2 取消訴訟における行政処分の違法判断の基準時については、一般に処分時を基
準とすべきものと解されるから、本件裁決の適否の判断は、本件裁決がされた昭和
五五年一一月一一日を基準とすべきであるが、本件裁決の先行行為である本件都市
計画事業の認可の適否の判断の基準時は、当該認可がされた時点であると解するの
が相当である。けだし、一般に行政処分の違法判断について処分時を基準とすべき
ものとされる根拠は、行政処分に対する司法判断がその事後審査であるという基本
的性格からくるものであり、違法性の承継が認められるような場合であっても、都
市計画事業の認可の適否の判断に当たって、認可時以降の事情の変化を考慮してこ
れを判断するということは、右のような司法審査の性格に反することとなるし、ま
た、右のように解さなければ、認可の当時において適法であった都市計画事業の認
可は、これに対する取消訴訟においては適法とされるのに対し、後行処分である収
用裁決に対する取消訴訟においては、その前提となった都市計画の適否の判断に当
たり、都市計画事業の認可以降の事情の変化をも考慮しなければならないこととな
り、均衡を欠くこととなるからである。
したがって、本件都市計画事業の認可の適否を判断するに当たっては、認可時にお
ける事情を基礎とすべきであり、認可後の事情の変化については、考慮する余地が
ないというべきである。
3 なお、ここで本件都市計画の適否の判断の基準時及び都市計画変更の義務につ
いて検討するに、都市計画を定めるに当たっては、前記一4(一)のとおり、都市
計画法上の基準に従うべきものであるところ、右の判断は、その性質上、都市計画
を決定する時点の状況を基礎として、都市の将来の発展の見通しを立て、これに基
づいて都市政策的な観点からされるべきものであり、都市計画を定めた後に右の見
通しとは異なる事情が生じたとしても、そのことから、一旦適法に定められた都市
計画が違法なものとなることはないというべきである。もっとも、時代の進展に伴
う社会的、経済的条件の変化などにより、都市計画もこれに応じて変更する必要の
生ずる場合があることは当然であり、このため、概ね五年ごとに都市計画に関する
基礎調査を行うこととされ(都市計画法六条)、その調査等の結果、都市計画を変
更する必要が明らかになったときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければな
らないとされているのである(同法二一条一項)。このような制度を前提とすれ
ば、都市計画事業の認可ないし事業計画の変更の認可の適否を判断するに当たって
は、当該都市計画が決定後相当の長期間を経過したものであり、その間、社会的、
経済的条件が著しく変化し、これに応じて都市計画を変更しなければ、当該都市計
画が都市計画法の定める都市計画基準を満たさないこととなり、かつ、都市計画の
決定権者において当該都市計画を変更しないで維持することが決定権者に与えられ
た裁量権を逸脱、濫用するものといえるような特段の事情がある場合には、都市計
画そのものは適法に決定されたものであるとしても、これを変更すべき義務を尽く
していない点において、右都市計画事業の認可ないし事業計画の変更の認可が違法
とされることがあり得るというべきである。
三 処分の取消しの理由の制限の規定(行政事件訴訟法一〇条一項)との関係(争
点2の3)
被告委員会は、行政事件においては不服申立事項の範囲は自己の法律上の利益に関
係のある違法に限られるべきであると主張する。
しかしながら、前記一のとおり、本件都市計画事業の認可の適法性を検討するに当
たっては、本件都市計画決定が都市計画法の定める都市計画の基準を満たしている
か、及び本件下水道事業計画の認可が下水道法の定める認可の基準を満たしている
か、という点を判断する必要があり、その結果、本件都市計画事業の認可が違法で
あると判断されれば、原告らの所有地についてされた本件裁決も違法なものとな
る。言い換えれば、土地所有者は、適正な都市計画決定及び下水道法上の事業計画
の認可を前提とする都市計画事業の認可処分に基づかない限り、その所有地を事業
の用に供されないという利益を都市計画法上保障されているというべきである。し
たがって、原告らの主張する本件都市計画事業の認可の違法事由は、右のような意
味において、いずれも原告らの法律上の利益に関係があるものであり、行政事件訴
訟法一〇条によって主張が制限されるものではないというべきである。
また、被告委員会は、本件都市計画決定は県知事の自由裁量に属するものであると
ころ、原告らはこれについて本件都市計画が社会観念上著しく妥当を欠き、又は県
知事が裁量権を濫用したものであるとの主張をしないので、原告らの主張は失当で
あると主張するけれども、原告らは本件都市計画決定が違法であるとし、その違法
事由を前記第四の四において主張しているのであるから、右主張事実から直ちに裁
量権の逸脱・濫用があったといえるかどうかはさておき、主張自体が失当であると
はいえない。
したがって、被告委員会の右主張は採用することができない。
四 本件都市計画事業の認可等の適法性(争点2の4)
1 本件都市計画の適否について
(一) 本件都市計画決定の経緯
本件都市計画の概要は前記第二の四1のとおりであるが、その決定の経緯について
は、前記第二の三の事実並びに証拠(甲一一、一四二、乙六三の一、二、乙六九な
いし七一、一三六、証人G、同F、同J、同K)及び弁論の全趣旨を総合すると、
次の事実を認めることができる。
(1) 昭和四五年前後ころ、日本経済は高度成長期にあって生産活動が急速に増
大し、そのため、都市及びその周辺では土地開発や工業化が進み、公共用水域の水
質汚濁、生活環境の悪化が深刻な社会問題となっていたため、被告県においても、
排水に関わる関係各課の職員により排水対策研究会を設けて検討し、その結果、広
域下水道の方向が打ち出され、昭和四四年九月、広域下水道調査計画会議が設置さ
れ、具体的な調査や検討が進められるようになった。さらに、被告県の企画部企画
課に広域下水道調査担当が設置されて、排水基本調査、一般河川現況調査、総合排
水基本調査などが実施され、その調査結果が総合排水基本計画としてまとめられ、
右調査計画会議で審議され、広域下水道の基本構想が生まれた。
(2) 右基本構想は、木曽川水系、矢作川水系及び豊川水系の三流域の流域下水
道並びに伊勢湾及び知多湾の二つの臨海下水道を内容とするものであり、これが、
第三次愛知県地方計画委員会によって昭和四五年一月に策定された第三次愛知県地
方計画に盛り込まれた。すなわち、右地方計画によれば、「排水」の項目におい
て、「産業の発展、地域開発の進展による公共用水域の汚濁は、現在すでに大きな
社会問題となっており、今後ますます進むものと考えられ、水資源の効率的確保と
住みよい生活環境の保持、あるいは水産資源の保護のための対策が必要となってい
る。したがって、生活環境に対応する水質基準の設定、水質保全法等に基づく排水
規制の強化と、その実効を促すための諸施策の積極的な実施を図るとともに、水質
管理のための諸対策を強力に推進する。一方、県下の水質汚濁公害に対処し、地域
開発に寄与するための抜本策として取り上げられた広域的下水道事業は、早急に計
画樹立を図り、昭和六〇年度完成を目途として、強力に推進するものとする。」と
され、前記の三流域の流域下水道及び二つの臨海下水道の計画が掲げられた。
(3) 被告県においては、これを実現するために公共用水域の水質汚濁の現状、
産業経済の進展、土地利用、利水等を調査して環境基準を達成できる下水道を検討
することとし、昭和四五年四月、企画部に開発調査課を新設して広域下水道の調査
をすることとし、緊急度の高い矢作川、境川流域(前記地方計画との関係では矢作
川水系及び知多湾臨海下水道に該当する。)に調査範囲を絞って調査を行った。
(4) さらに、被告県は、全国的なレベルで専門的知識のある者の意見を取り入
れるため、昭和四五年七月、下水道協会に矢作川、境川流域下水道に関する調査及
び下水道の根幹となる施設の配置や構造の概略についての策定を委託したが、その
趣旨は、公共用水域の水質汚濁の現状と将来の産業経済の進展、土地利用、利水等
を考慮し、併せて水質環境基準を十分取り入れた、広域的な流域下水道の最適計画
を策定するというものであった。
(5) 下水道協会においては、本件調査委員会を設置して調査及び最適計画の策
定を行ったが、その委員は京都大学教授工学博士G(途中から委員長。昭和三六年
から昭和四五年まで衛生工学の設備講座、その後化学工学の講座を担当)、同大学
助教授工学博士L(衛生工学の講座を担当)、同大学助教授工学博士M(水質工学
の講座を担当)、建設省都市局下水道課課長補佐N、農林省農地局計画部技術課課
長補佐O、P、Q、R及びS(以上四名は下水道関係のコンサルタント会社関係
者)並びに下水道協会技術部長Tの一〇名からなり、そのほか建設省都市局及び愛
知県の係官五名が幹事であった。同委員会は一二回開催されたが、その間通産省工
業技術院公害資源研究所関係者より衣浦湾の潮流、拡散等についての資料の提供、
考察及び京都大学関係者の電子計算機等による最適化計算などの協力を受けた。
(6) 昭和四六年三月三一日、同協会から、矢作川、境川流域下水道基本計画に
関する報告(本件調査報告)がされたが、その内容は、同流域下水道の最適計画を
策定するために、矢作川、境川流域の概況、同流域の開発計画、同流域に発生する
汚濁負荷予測、同流域下水道計画におけるシステムパターンの考察及び同流域の環
境予測等の項目について検討し、結論的に「矢作川、境川流域下水道基本計画」と
して、概ね以下の内容の計画案を提示するものであった。すなわち、両河川の流域
を境川処理区域、衣浦西部処理区域、衣浦東部処理区域、矢作川処理区域の四系統
に分割し、このうち、境川処理区域は、東郷町、三好町、豊明町、東浦町、大府
市、知立市、刈谷市及び豊田市並びに安城市の一部などの境川流域に属する地域を
包含する処理区域とし、計画区域面積は一万二三九一・二ヘクタール、計画人口は
六〇万〇一二五人、計画汚水量(日最大)は九七万一〇一八立方メートル(家庭汚
水三九万四八七〇立方メートル、工場汚水五一万四四二二立方メートル、畜産汚水
一七一二立方メートル及び地下水六万〇〇一四立方メートルの合計)で、終末処理
場は境川の河口部に当たる境川と猿渡川の合流点に予定する。流域下水道幹線とし
ては境川左岸幹線、逢妻川幹線、猿渡川幹線、吹戸川幹線、境川右岸幹線の五幹線
とするものであり、各幹線のルート、ポンプ場施設の位置・概要、処理場施設も示
された。右のうち、処理場施設については、位置は境川と猿渡川の合流地点、敷地
面積は三八五〇アール、下水処理の方針は経済的に許される最も高度の処理をし、
処理方法は標準活性汚泥法を基本とすることとし、処理場施設として、沈砂池、汚
水ポンプ、最初沈殿池、エアレーションタンク、送風機、最終沈殿池、消毒設備、
汚泥濃縮タンク、汚泥消化タンク、汚泥洗浄タンク、汚泥濾過設備及び汚泥焼却炉
を設けることとされた。
なお、下水道脇会において右調査報告をまとめる過程では、各項目ごとに愛知県関
係者より、行政的、技術的意見を述べ、協議検討することにより、被告県の意見が
反映されている。
(7) 他方、被告県は、同年二月、下水道協会の本件調査報告の原案に基づいて
矢作川、境川流域下水道基本計画(本件基本計画)を立案し、調査計画会議及び関
係市町長会議に諮った上で、これを決定したが、本件調査報告も右の審議経過を踏
まえて最終的に取りまとめられたので、両者は基本的に同じ内容となっている。
(8) そして、本件都市計画は、前記第二の三3のとおりの手続を経て決定され
た。
(二) 本件都市計画決定の理由
本件都市計画が前記第二の四1のとおりの内容に定められた理由については、証拠
(甲四、一一、二二、乙六二、乙六三の一、二、乙六九ないし七一、一二七、証人
G、同U、同J、同K)及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおり認められる。
(1) 排水区域
境川流域下水道に係る都市計画区域は、衣浦東部、豊田、名古屋、知多北部及び衣
浦西部の五都市計画区域に属するものであり、昭和四四年に右都市計画区域に係る
都市計画が定められ、昭和四五年には市街化区域及び市街化調整区域に係る都市計
画が定められている。境川流域下水道に係る排水区域は、当該区域に含まれる市街
化区域の全部と将来開発が見込まれる区域を想定して土地利用計画を勘案し、関係
市町と協議して定められた。
(2) 計画汚水量
(1) 計画汚水量は、工場排水、家庭汚水、畜産汚水等から構成されており、各
汚水量はそれぞれの原単位を用いて算定された。原単位とは、工場排水にあっては
業種別の工業出荷額年間百万円当たりの一日排水量、家庭汚水にあっては計画人口
一人一日当たりの汚水量、畜産汚水にあっては畜産頭数一頭一日当たりの汚水量を
表わす。なお、下水道計画は、原則として二〇年後を目標年次として策定されるの
が一般であり、本件都市計画にあっては昭和六五年の数値として予測されるところ
を基礎とした。
(2) 工場排水量については、昭和四四年度に愛知県下の市町村を対象として業
種、業態別の排水量基本調査を行い、汚濁源の分布と汚水量を把握し、業種別の汚
水量の合計をその業種の工業出荷額で除して工場排水量原単位(立方メートル/
日・百万円)を算出し、その将来値は、安全側を与えるため、プロセス内の水利用
の体系が変わらないものとして現在値が用いられた。また、昭和六五年における各
業種別の工業出荷額を、第三次愛知県地方計画において行われた昭和六〇年におけ
る予測値を基礎にし、過去の伸び率、アンケートによる確率、立地係数等を考慮し
て推計した。右の工場排水量原単位及び昭和六五年に3ける工業出荷額に基づい
て、工場排水量を境川処理区域については五一万四四二二立方メートル/日(調査
報告書の数値。本件都市計画では五一万五七八六立方メートル/日)と算出した。
(3) 家庭汚水量は家庭汚水量原単位に処理人口を乗じたものであるが、処理人
口については、第三次愛知県地方計画による昭和六〇年の人口予想値に基づいて昭
和六五年の人口予測を行い、これを関連の市町の昭和六五年における市街化想定区
域に割り振って処理人口とした。汚水量原単位については、昭和四四年度の愛知県
総合排水計画によって示された流域別汚水量原単位(矢作川流域について一人一日
当たり六四七リットル)に基づいて昭和六五年の汚水量原単位を一応七〇〇リット
ルとし、さらに、地域性を考慮して七一〇リットルないし六三〇リットルの幅で変
更し、平均値を六七四リットルとした。地域性の考慮については、一般家庭汚水
(家庭汚水、営業汚水等)の原単位は地域の特性(商業地域、住居地域、準工業地
域、工業地域)によって変化するものとし、まず、平均給水量を三五三・四リット
ル/人・日としてこれを家庭汚水量とし、営業汚水については当該地域における地
域面積と営業用地面積との比率等に基づいて算出し、これを右の家庭汚水量に加え
て地域ごとに異なる家庭汚水量原単位を定め、これに基づいて境川処理区域の家庭
汚水量を三九万四八七〇立方メートル/日(調査報告書の数値。本件都市計画では
三九万五二三二立方メートル/日)と算出した。
(4) 畜産汚水量については、被告県の実態調査に基づいて定めた。
(3) 下水管渠の位置及び区域
幹線管渠の大きさは計画汚水量に基づいて定め、その設計は、下水道施設基準解説
(下水道協会発行)に従い、流速が毎秒〇・六メートル以上二・五メートル以下の
範囲で計画汚水量が流下できるように管径と勾配を選定する方法によって行った。
幹線管渠の位置は、終末処理場及び各幹線管渠の接合点を基点とし、各幹線管渠の
最上流市町の汚水の流入に適した位置を終点としたもので、そのルートの選定に当
たっては、原則として道路等公共施設に埋設すると共に自然流下で汚水の集水がで
きるよう計画し、また、接続する関連公共下水道の管渠が可能な限り自然流入でき
るよう配慮した。
(4) 処理施設の位置
境川流域の自然的条件からすると、境川、逢妻川、猿渡川の三つの河川が本件土地
に向かってなだらかな勾配で流れ込んでおり、本件土地を処理場用地とした場合に
は、幹線管渠の配置との関係で汚水が原則として自然流下で集水できる地形にあ
る。また、土地利用の観点からも、本件土地は三方を河川に囲まれていて周辺に住
宅地域が隣接しておらず、かつ、処理水の放流に適した公共用水域が近くに存在す
るという適切な位置にある。さらに、公共用水域の水質保全の上からも有利である
こと、適当な広さでまとまりのある一団の土地の確保が可能であること、周辺環境
上からも支障とならないこと等の事情を総合的に検討した結果、処理施設の位置が
決定された。
敷地面積は、計画汚水量一日当たり九七万二八四一立方メートルの処理に必要な処
理施設の配置計画、敷地の形状、周辺環境に配慮した保全対策、三次処理用地等を
考慮して定められ、処理方法としては標準活性汚泥法が採用された。
(三) 右(一)、(二)の事実によれば、本件都市計画は、都市計画法に定めら
れた基準に従って、県知事の裁量の範囲内で適法に定められたものと一応認めるこ
とができる。
2 本件下水道事業計画及び変更認可後の事業計画の適否について
(一) 本件下水道事業計画の内容は前記第二の四2のとおりであるが、このよう
に定められた理由に関しては、右事実、前記1(二)認定の事実、証拠(甲五四、
一五二、乙六三の二、乙六四、六五、七二、一七〇、証人V、同K)及び弁論の全
趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(1) 流域下水道の配置及び能力(下水道法二五条の五第一号)
次の諸要因を考慮して設計指針に準拠して定められた。
(1) 下水の量及び水質に影響を及ぼすおそれのある要因
ア 降水量境川流域下水道は、汚水を対象とした下水道であるため雨水の下水道へ
の流入は施設計画上考慮していない。
イ 人口 行政人口は、第三次愛知県地方計画を基本にして推計し、処理人口は用
途地域別に適正な計画人口密度で人口配分して推計した。
ウ その他 計画汚水量の算定については前記1(二)(2)と同一である。
(2) 地形
本件計画区域は、上流域が丘陵・台地をなし、下流域は台地と狭い沖積地をなして
おり、起伏の弱い地形である。境川等流域には境川逢妻川及び猿渡川等の河川が流
れており、境川は三好町北端の丘陵を、逢妻川は豊田市南端の丘陵を、猿渡川は本
流域南東部の台地をそれぞれの水源とし、これらの河川は台地のせまった地形の中
を緩やかな勾配で扇の要に集まるように流下して、衣浦港に注いでいる。本件下水
道事業計画では、この地形に従い、幹線管渠については自然流下で汚水を集水でき
るように扇状の河川に沿って配置しており、終末処理場については幹線管渠による
汚水の集水に適し、処理水の放流に適するように、いわば扇の要に当たるこれらの
河川の合流地点に配置したものである。
(3) 土地の用途
本件計画区域は、衣浦東部、豊田、名古屋、知多北部、及び衣浦西部の各都市計画
区域に含まれ、右都市計画区域においては市街化区域、用途地域が定められてお
り、本件下水道事業計画は、この用途地域のうち下水道を緊急に整備する必要があ
る商業地域及び住居地域を中心にして流域関連公共下水道の予定処理区域を選定し
た。
(4) 下水の放流先
下水の放流先は境川、逢妻川及び猿渡川の三河川の合流地点近傍の衣浦港であり、
この水域には水質汚濁防止法三条三項に基づく県条例により上乗せ排水基準が適用
されているので、この基準を考慮して施設計画を定めた。
(2) 流域下水道の構造(同条二号)
本件流域下水道の構造は、主として設計指針に準拠して定められたものであり、政
令で定める技術上の基準に適合している。
(3) 流域関連公共下水道の予定処理区域(同条三号)
流域関連公共下水道の予定処理区域から発生する計画汚水量を排除し処理するのに
必要な排水施設及び終末処理場が定められている。
(4) 流域総合計画に対する適合性(同条四号)
本流域については、流域総合計画は定められていない。
(5) 流域下水道の配置及び工事の時期(同条五号)
本件下水道事業計画は本件都市計画に係る施設の配置に従い、その施設の一部を流
域関連公共下水道の予定処理区域の整備計画に整合させて、昭和四六年度から昭和
六二年度まで(変更認可前の事業計画においては昭和五五年度まで)に建設するも
のである。また、この事業計画のうち供用開始に必要な幹線管渠及び終末処理場に
ついては、本件都市計画事業において昭和四六年度から昭和五八年度までに建設す
ることになっている。したがって、本件流域下水道の配置及び工事の時期は、本件
都市計画及び本件都市計画事業に適合している。
(6) 事業計画変更の理由
境川流域下水道の事業は昭和四六年に始まったが、一部地主の反対等から用地買収
が進まず、昭和四八年ころから工事も止まっていた。昭和五〇年ころ、被告県にお
いて工場の実態調査を行ったところ、水質汚濁防止法の規制の強化とその制度の定
着が進んだことから、各工場においては除害施設を設置し、又は必要な箇所に施設
を設置してそのまま公共用水域に放流している工場が多く、公共下水道への接続を
希望しない工場も多いことが判明した。被告県としては、学識経験者からなる下水
道懇談会の報告を得るなどして検討した結果、工場排水の取扱いの見直し等をする
こととした。工場排水の見直しについては、有害物質を取り扱う工場、あるいは日
量一〇〇〇トン以上を排水する大規模な工場、さらに点在、偏在しているような工
場地帯の工場排水を主として除外していくとの方針を採ることとなった。そして、
工事促進を図り、一日も早く供用開始するために本件下水道事業計画を変更するこ
ととした。
その内容としては、まず、施設配置について、敷地面積四八ヘクタール全部が買収
できなければ機能を発揮しないというような配置を改め、処理場最南端の通称干拓
地といわれている部分九ヘクタールの中で一貫した機能が発揮できるような配置と
し、そのようなブロックを数列並べるような配置とした。処理区域についても、人
口の密集している住宅地、商業地域を優先することとして、概ね一〇年間における
妥当な整備量とし、市街化区域の範囲で下水道整備の緊急性の高い区域とすること
とし、処理区域の面積を一万二三四三・七ヘクタールから二二八七・三ヘクタール
に、日最大汚水量を九七万二八四一立方メートルから九万八一七〇立方メートル
に、幹線管渠の本数を五本から四本に、処理能力を四八万六〇〇〇立方メートル/
日から一二万〇〇〇〇立方メートル/日に、それぞれ変更した。また、処理方法に
ついても、被告県の公害防止条例に基づく総量規制に整合させるため、三次処理の
方法を追加し、汚泥の焼却も取り止めることとした。
ただし、変更の前後を通じて、全体計画は同一であり、本件都市計画に基づくもの
である。
(二) 右事実によれば、本件下水道事業計画は、前記第二の三7の事業計画の変
更の前後を通じて、下水道法二五条の五に定められた適法要件を一応満たしている
ということができる。
なお、処理区域の面積及び工場排水の取扱いの見直しのため、汚水量等は本件都市
計画の前提となった計画汚水量よりも相当程度少ないものとなっているが、いずれ
においても全体計画は同一であって本件都市計画に適合するものであり、処理区域
の範囲、幹線管渠の位置、終末処理場の位置等の流域下水道に関する基本的な点に
ついては変更がないから、下水道法二五条の五第五号に定める「流域下水道の配置
及び工事の時期」が都市計画に適合していなければならないとする要件を欠くもの
ではないというべきである。
3 原告らの主張に対する判断
次に、原告らの主張する本件都市計画及び本件下水道事業計画の違法事由について
検討する。
(一) 流域総合計画の欠如について
原告らは、本件都市計画は下水道法により定めなければならないこととされている
流域総合計画のないまま定められたものであり、違法であると主張する。
下水道法によれば、都道府県は、公害対策基本法九条一項の規定に基づき水質の汚
濁に係る環境上の条件について生活環境を保全する上で維持されることが望ましい
基準(水質環境基準)が定められた河川その他の公共の水域又は海域で政令で定め
る要件に該当するものについて、その環境上の条件を当該水質環境基準に達せしめ
るため。それぞれの公共の水域又は海域ごとに、下水道の整備に関する総合的な基
本計画すなわち流域総合計画を定めなければならないとされている(二条の二第一
項)。そして、流域総合計画は、当該流域における個別の下水道計画の上位計画と
して策定されるものであり、右計画においては、(1)下水道の整備に関する基本
方針、(2)下水道により下水を排除し、及び処理すべき区域に関する事項、
(3)右の区域に係る下水道の根幹的施設の配置、構造及び能力に関する事項、
(4)右下水道の整備事業の実施の順位に関する事項を定めなければならず(同条
二項)、また、これを定めるに当たっては、(1)当該地域における地形、降水
量、河川の流量その他の自然的条件、(2)当該地域における土地利用の見通し、
(3)当該公共の水域に係る水の利用の見通し、(4)当該地域における汚水の量
及び水質の見通し、(5)下水の放流先の状況、(6)下水道の整備に関する費用
効果分析などの事項を勘案しなければならないものとされている(同条三項)。
ところで、このような規定が置かれた趣旨は、都市地域における水質環境基準を達
成するための基本的、効果的な対策としての下水道の整備に当たっては、単に市町
村の行政区域内の市街地といった狭い観点からではなく、行政区域を越えた流域全
体における下水道の整備を効果的に進めていくという広域的な観点に立脚した整備
計画を策定する必要があるというところにあると解される。そして、右のような規
定の趣旨に加え、流域総合計画を策定することなく流域下水道事業に関する計画を
進め、これを実施することを禁止する規定がないことからすれば、流域総合計画が
定められていないことから、直ちに流域下水道に関する都市計画ないし下水道事業
計画が違法なものとなると解することはできない。
もっとも、流域総合計画を定めなければならないとされている公共の水域又は海域
に関しては、その環境基準を達成するために、下水道の整備に関する総合的な計画
が必要であるとされているのであるから、このような見地からの検討を全く行うこ
となく流域下水道を計画することは、下水道法が流域総合計画についての規定を置
いた趣旨に反することとなり、許されないこととなると解される余地がある。しか
しながら、前記1及び2の事実によれば、本件都市計画及び本件下水道事業計画を
定める前提として、流域総合計画を定めるについて検討すべきものとされている事
項についても検討されているということができるので、いずれにせよ、本件におい
て流域総合計画が策定されていないとの事実をもって、本件都市計画等の違法事由
に該当するということはできないというべきである。
(二) 本件調査委員会委員長らによる誤りの自認等について
(1) 前記1(一)認定の事実によれば、本件調査報告は、矢作川、境川流域下
水道の最適計画を策定するために種々の検討をし、その結果、具体的な計画案を示
したものというべきである。なお、この点について、本件調査委員会の委員長であ
ったG教授は、証人として、「そのまま実施計画だという認識はなかった。」「矢
作川、境川流域全体としての下水道を計画するのにどれくらいの大きさの下水道処
理プラントをどこにいくつぐらい建てれば全体として一番合理的かということを調
査、研究するのが目的であった。」旨の供述をしているが、前記1(一)認定の事
実、特に、被告県が下水道協会に調査を委託した趣旨、及び本件調査報告が施設の
配置、構造にまで及ぶ具体的な基本計画案を提示していること等に照らせば、本件
調査報告が学問的な調査、研究にとどまるものでないことは明らかであり、右の供
述は措信することができないというべきである。
そして、前記1(一)(6)のとおり、被告県における本件基本計画の立案、決定
と本件調査報告の取りまとめは関連していたものであり、両者が基本的に同一の内
容であるからといって、本件調査報告の内容が無批判に本件基本計画の内容にされ
たものということはできない。
また、本件調査報告(乙七一)は、その「むすび」の部分において、問題点として
二つの点を指摘しているところ、第一の点として最適計画の計算結果とその実現と
の関係を挙げて、「最適化計算からは、確かに最適な計画が決定されるのである
が、この計算には各設置場所の土地利用の問題や、付近の人々の心理、感情的問題
などに関する項ははいっておらない。したがって、実際の実現にあたっては、最適
な計算結果を重要な参考資料として、別に前の問題などについて検討を加えて最終
的に決定をくだすべきであろう。」とし、第二の点として「より大きいシステム、
すなわち、環境システムへの影響を考えた計画の実施についてである。本報告書に
おいても、通産省工業技術院公害資源研究所関係者の協力を得て、三河湾の水質へ
の影響が一応検討されたわけであるが、河川、湖沼、近海の水質をどの程度に維持
するか、あるいはどの程度によくしていくかという目的をも考慮した下水道の基本
計画でなければならない。」「つまり緊急を要するのは、各水域の数式モデルの作
成である。そのためには、現在の水域に相当数の観測点を設けることと、大規模な
実験を前記の目的のために行うことである。」と指摘している。しかしながら、右
のうち第一の点については、基本計画を策定する被告県において行政的な立場から
検討を加えるべきものであって、本件調査報告において右のような問題点が残され
たとしても、そのこと自体は何ら問題とすべきではないし、また、第二の点につい
ても、本件調査報告において必要な検討を終えた上でなお今後の問題として残る点
を指摘したものとみるのが相当であり、基本計画策定のための調査として不十分で
あることを述べているものではないというべきである。
以上の説示に照らせば、被告県における本件調査報告の取扱いについては、何ら問
題がないというべきである。
(2) G教授らが被告県に対して本件都市計画の実施の中止を求める意見書を提
出した事実は争いがないが、その経過については、証拠(甲五、一二、乙七五の
一、二、乙七六の一ないし三、乙七七、七八、乙七九の一、二、乙八〇の一、証人
G、同W、F、同J、同X、原告D)によれば、以下のとおり認められる。
(1) 昭和四八年五月ころから、原告らを含む境川流域下水道建設に対する反対
運動の関係者から、右委員のうち京都大学のG、L、Mの三教官に対して質問状を
送付し、あるいは京都大学構内で教官をまじえて討論会が開かれるなどした。
(2) その後、右三教官の連名で、同年六月二二日付で愛知県土木部長に宛て
て、本件調査報告は、工場排水の受入れ、二次公害の発生、汚泥処理、海洋汚染等
の問題についての検討が欠如していること、したがって、工場排水を切り離して処
理することの検討、計画年限の見直し、最適化計算の結果の価値の再検討などが必
要であり、現段階で右報告に基づく実施計画を土地収用等の手段で強行すべきでは
ないという内容の書面が提出された。
(3) さらに、同じく連名で同年七月二日付で愛知県土木部長に宛てて、本件調
査報告の前提条件の設定に関して、工場排水の取入れの可否、汚泥処理・処分の方
法とそれに対する汚染対策(焼却による大気汚染や、投棄による水域、土壌汚染に
対する対策)、海洋汚染防止の検討、処理場の大規模化、処理場用地選定の問題等
の検討が欠けていたとし、右報告を根拠にした実施計画は根本的に誤っているの
で、計画の実施、収用委員会に対する裁決申請手続を即時中止すべきであるという
趣旨の書面が提出された。
(4) しかしながら、右三教官は下水道協会に対しては本件調査報告に関して何
らの申出もしておらず、また、本件調査委員会の他の委員は、愛知県及び下水道協
会に対して、何らの申出もしていない。
(5) 被告県は、下水道協会に照会したところ、同協会から、本件調査委員会全
体の意見ではなく右三教官の意見であると解釈してほしいとの回答を得たので、本
件基本計画は必要な諸手続を経て関係者の総意で作成されたものであり、同教授ら
によって指摘されている点に関しても本件基本計画を変更する必要はないと考え、
手続を進めるべきであると判断した。
右事実によれば、G教授ら三教官の意見は、本件調査報告の主体である下水道協会
ないし調査等を担当した本件調査委員会としての意見ではなく、個人的な見解の表
明に過ぎないといわざるを得ない。
そして、右のような個人的な見解の表明があったからといって、これをもって直ち
に本件都市計画の違法事由を構成することはないというべきである(なお、右意見
書によって指摘された問題点の存否については、後記(三)以下において検討する
とおりである。)。したがって、この点についての原告らの主張は理由がない。
(三) 工場排水の全量受入れについて
(1) 原告らは、本件都市計画等が境川流域の工場排水を全て受け入れることを
前提としている点に違法がある旨、及びその理由として前記第四の四1(二)
(3)のとおり主張し、証人Wは右主張を裏付ける供述をし、またこれに沿う内容
の記載のある証拠(甲七、九、一〇、二五、五三、五七、六〇、六八ないし七一、
八一ないし八三、一六二、一六三)が提出されている。
(2) ところで、下水道法一〇条一項は、「公共下水道の供用が開始された場合
においては、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者または占有者
は、遅滞なく、次の区分に従って、その土地の下水を公共下水道に流入させるため
に必要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。)を設置し
なければならない。ただし、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場
合その他政令で定める場合においては、この限りでない。」と定めている。右規定
は、公共下水道の供用が開始された場合における排水区域内の一般私人の排水設備
の設置義務について一般的に規定したものであり、その趣旨は、公共下水道が整備
されても、各家庭ないし工場等の下水がその公共下水道に流入せず依然として地表
に停滞し、又は在来の管渠を流れていたのでは、土地の浸水の防止及び清潔の保持
は不可能であり、都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、あわせて公共用
水域の水質の保全に資するという公共下水道の目的(同法一条参照)を達成するこ
とができないので、右のような一般的な利用の強制を課することとし、ただ、排水
の水質が終末処理場の放流水の基準と比べて同等以上であり、その排水水質が将来
にわたって保障されると判断し得る場合で、かつ、公共用水域に放流することをそ
の工場等が希望する場合には、右一〇条一項ただし書きの許可を受けることによ
り、直接公共用水域に放流することが許されるものとしたのである。
下水道法は、右のような前提の下に、継続して政令で定める量又は水質の下水を排
除して公共下水道を使用しようとする者の使用の開始等の届出義務(一一条の
二)、著しく公共下水道の施設の機能を妨げ、又はその施設を損傷するおそれのあ
る下水、及び多量の有毒物質を含む下水その他流域下水道からの放流水の水質を同
法八条の技術上の基準に適合させることを著しく困難にするおそれのある下水を継
続して排除する者に対する除害施設(下水による障害を除去するために必要な施
設)の設置の義務(一二条(昭和五一年法律第二九号による改正前のもの))、水
質の測定義務等(同法一二条の二(同じく右改正前のもの。改正後は同条の一
一))、排水設備等の検査(同法一三条)、報告の徴収(同法三九条の二)などの
規定を置き、また、これらの規定に違反した者に対しては罰則を定めている(同法
四五条以下)。
なお、昭和五一年法律第二九号による法改正により、水質汚濁防止法二条二項に規
定する特定施設を設置する工場又は事業場(特定事業場)については、その水質が
当該公共下水道への排出口において政令で定める基準に適合しない下水を排除して
はならないとし(下水道法一二条の二第一項)、右の政令で定める基準は、下水に
含まれる物質のうち人の健康に係る被害又は生活環境に係る被害を生ずるおそれが
あり、かつ、終末処理場において処理することが困難なものとして政令で定めるも
のの量について、当該物質の種類ごとに、公共下水道からの放流水又は流域下水道
からの放流水の水質を政令で定める技術上の基準に適合させるため必要な限度で定
めるものとし(同条二項)、具体的には、カドミウム及びその化合物、シアン化合
物、有機燐化合物、鉛及びその化合物、六価クロム化合物、砒素及びその化合物、
水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物、PCB、フェノール類、銅及びその化
合物、亜鉛及びその化合物、鉄及びその化合物(溶解性)、マンガン及びその化合
物(溶解性)、クロム及びその化合物、弗素化合物について基準を設けている(同
法施行令九条の四第一項(平成元年政令第一一四号による改正前のもの))。ま
た、特定施設についての設置等の届出(同法一二条の三)、計画変更命令(同法一
二条の五)、前記政令による水質基準ないし条例で定める水質基準の満たさない下
水を排除する者に対する除害施設の設置等の義務付け(同法一二条の一〇)などの
規定、さらには、改善命令(同法三七条の三)の規定を設けている。
右のような規定によれば、下水道法上は、排水区域内に存する工場の工場排水はす
べて公共下水道に受け入れることを原則とし、例外的に排水の水質等の点から直接
公共用水域に排水してもよいもののみを、個別に公共下水道管理者の許可を受け
て、下水道に受け入れないことができるものとされているということができる。
さらに、証拠(乙一三〇の一、三、乙一四四ないし一四六、証人Y、同U、同Z)
によれば、工場排水を原則として公共下水道に受け入れるという方法は、下水道整
備の実務においても一般的な考え方であったと認めることができる。
したがって、都市計画の決定に当たって、右のような法制度及び実務を前提として
処理区域内の工場排水を全て公共下水道に受け入れる内容の計画を策定すること自
体は、下水道法の趣旨に合致し、都市計画法上も何ら違法なものではないというべ
きである。
(3) もっとも、法制度及び一般的な実務が右のとおりであるとしても、その地
域の実情によっては工場排水を全て公共下水道に受け入れるという前提をとること
によって、かえって、不合理な点が生じ、そのために公共用水域の水質の保全、あ
るいは都市の健全な発展、良好な都市環境の保持といった、都市計画法及び下水道
法の定める目的に反することとなることが考えられないではない。したがって、仮
に、公共下水道への工場排水の全量受入れを原則とすることによって、右(2)の
ような水質規制を前提としてもなお、かえって環境負荷が増大し、都市計画法ない
し下水道法の法目的が達成できないというような事情が明らかであり、かつ、その
ため都市計画決定の段階においても、下水道法一〇条一項ただし書きの規定の適用
により、相当量の工場排水について公共下水道に受け入れないこととなるという事
情が明らかである場合には、このような事情を無視して都市計画を決定すること
は、右法の趣旨に反することになると解する余地がないではない。
そこで、右のような前提の下で、原告らが工場排水の全量受入れに伴う問題点とし
て指摘する点について、都市計画決定に当たっての裁量権の逸脱、濫用を基礎付け
る事情といえるか否かを順次検討することとする。
(1) まず、原告らは、本件処理区域内の工場排水は、重金属、有毒物質等の活
性汚泥法による処理に適さないか、処理機能を阻害する物質を含んでいると主張す
る。
確かに、本件都市計画の前提となっている汚水処理方法は、標準活性汚泥法すなわ
ち微生物を利用して汚水を処理する方法であり、BOD(生物化学的酸素要求量)
又はSS(浮遊物質量)の指標で表わされる汚濁成分を除去するのには高い除去率
を示すが、重金属などの有害物の中には除去できないもの、処理場の運転に悪影響
を及ぼすものもあり、また、いわゆる難生物分解性物質については処理できないと
いう限界がある(甲二四、証人W、同Z、同P1)。しかし、そのような有害物に
ついては、前記のとおり、下水道法及びこれに基づく政令によって排水が規制され
ており、工場等における除害施設の設置によって対応することとなっている。しか
も、終末処理場から公共用水域に排出される放流水の水質は、政令で定める技術上
の基準に適合するものでなければならず(下水道法二五条の一〇、八条)、かつ、
終末処理場は水質汚濁防止法二条二項、同法施行令一条、同別表第一により同法の
適用を受ける特定施設とされているので、その放流水については同法の規制をも受
けることとなる。したがって、右のような法制度を前提とすれば、工場排水の処理
については標準活性汚泥法による処理に限界があるとしても、そのことから、工場
排水を公共下水道に受け入れることが環境負荷を増大させるものということはでき
ない。
なお、証人W及び同P1は、工場排水はそれぞれの工場で自己処理するのが最も能
率的な処理方法であり、多くの種類の工場排水を終末処理場で処理することは能率
的でない旨を供述するけれども、各工場において排水に関する基準が遵守されて
も、なお除害施設においても除害しきれなかった排水基準以下の量の有害物が含ま
れている場合があり得るのであるから、公共用水域の汚染の問題等を考慮すると、
一概に、工場排水を直接公共用水域へ排出するのが適当で、これを終末処理場で処
理することが不適当であるとはいえないのであり、下水道法の原則に従って工場排
水を原則として公共下水道に受け入れることとすることが、裁量権の逸脱、濫用に
当たるとはいえないというべきである。
(2) 次に、原告らは、工場排水を公共下水道に受け入れることは有毒物質の不
法投棄を助長することになると主張する。
しかしながら、下水道法は前記(2)のとおりの規定を設けて受け入れる工場排水
の水質そのものを規制し、これを遵守させるために事前の届出、水質の測定義務等
種々の手段を規定し、違反者に対する罰則も定めているのであるから、このような
規制を前提として都市計画を策定することは何ら違法ではないし、現実にも、右の
ような下水道法の規定を前提として、工場等に対する行政指導、重点的な監視、ま
た、除害施設の建設資金の無利子貸付け、用地の確保等の行政による援助を通じ
て、公共下水道に受け入れる工場排水の水質確保を行うことができるとされている
(乙八八、証人Y、同Z)。
なお、工場等が直接公共用水域に放流する場合であっても、排水基準を守らない不
法投棄が行われる可能性は残るのであり、その場合には、有害物が直接公共用水域
に放流されるのであるから、公共用水域の水質に対する悪影響はむしろ大きいとも
考えられる。したがって、工場等が公共用水域に直接放流する場合であっても、行
政的な監視、監督の措置は不可欠であって、目で見て監視が容易であるからそのよ
うな違反が抑止されるとすることには、具体的な裏付けがないといわざるを得な
い。
原告らは、他の公共下水道における違反事例の存在を指摘し、これを裏付けるため
の証拠(甲七、三一ないし三三、五三、五七、八五、九八、九九、甲一三一の一、
二、甲一五九の一ないし四、証人W、同P2、同X)を提出するけれども、都市計
画の適否を論ずるに当たり、右のような事例が存在するからといって、これを一般
化し、工場排水を公共下水道に受け入れることにより不法投棄が助長されるものと
することは、到底できないというべきである。
(3) 原告らは、工場排水を受け入れた場合の汚泥処理処分の困難さを指摘し、
証人P1はこれを裏付ける趣旨の供述をしているけれども、そもそも原告らのいう
ような有害物は法規制によって公共下水道には一定の基準以下のものしか流入しな
いようにされており、かつ、終末処理場において生成する汚泥については、有毒物
質の拡散を防止するため、政令で定める基準に従い適正に処理しなければならない
ものとされ(下水道法二五条の一〇、二一条三項)、かつ、廃棄物の処理及び清掃
等に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)も適用されるのである。そし
て、このような汚泥の具体的な処理方法としては、焼却、埋立、農緑地への還元、
建設資材への利用等がされる(甲五六、乙一三二、一三三、一六三、一六四、証人
Y、同Z)のであるが、焼却する場合には大気汚染防止法、埋立については海洋汚
染及び海上災害の防止に関する法律、農緑地への還元については肥料取締法等の規
制を受けるものであり、工場排水を公共下水道に受け入れた上で汚泥処理をするこ
とにより環境負荷が増大するということは必ずしもできないというべきである。
なお、工場排水中に法定の基準値以下であっても重金属等の有害物が含まれている
とすれば、工場排水を含まない下水のみを処理する場合と比較して、処理場で生成
する汚泥中により多くの有害物が含まれることとなる(甲四二、証人P1)こと自
体は、そのとおりであるとしても、工場排水が各工場で処理される場合であって
も、水質汚濁防止法の規制値を超えない範囲の有害物は直接公共用水域に放流され
ることとなるし、工場等における処理の結果発生する有害物を含む汚泥について、
その処理は廃棄物処理法等の規制の範囲内でそれぞれの工場に委ねられることとな
るのであるから、いずれの方法が環境負荷のより少ない方法であるかは、必ずしも
明らかであるとはいえない。
(4) また、原告らは、処理区域内の工場排水には低BOD濃度のものが多く、
このような工場排水を公共下水道に受け入れることは全体として汚濁負荷量を増大
させ、また、施設の建設の面でも不経済であると主張するけれども、証拠(乙七
一、証人K、同Z)によれば、標準活性汚泥法は流入下水のBOD濃度が一〇〇な
いし二〇〇ppmのときに最も効果的に汚泥を処理することができること、公共下
水道に受け入れる排水のBOD濃度は六〇〇ppmを超えるものもあり得るところ
であり、BOD濃度の低い工場排水も、汚水を効果的に処理できる濃度に薄めると
いう役割を果たすことができ、したがって、低BOD濃度の工場排水を公共下水道
に受け入れること自体は意味のあることであること、本件調査報告の基礎となった
数値によれば、汚水全体のBODは一五〇ppmで、処理の結果これを一五ppm
とする見込みであり、標準活性汚泥法による効果的な処理ができる濃度となってい
ること、以上のとおり認めることができる。
したがって低BOD濃度の工場排水を受け入れることから汚濁負荷量が増大すると
いう主張は、採用し難いというべきである。
また、本来受け入れる必要のない工場排水を受け入れることは不経済であるとの指
摘についても、右認定によれば、低BOD濃度の工場排水であっても必ずしも受け
入れる必要がないとはいえないし、また、前記のとおり下水道法が工場排水の全量
受入れを原則とするのは経済性のみを問題としているわけではないから、右主張は
採用することができない。
(四) 計画汚水量算定の誤りについて
本件都市計画における計画汚水量の算出の根拠については前記1(二)(2)のと
おりであるが、原告らは、右の計画汚水量の算出は誤っていると主張するので、こ
れについて検討する。
(1) 工場排水量について
(1) 原告らは、工場排水量が減少することは昭和四六年当時においても予測す
ることができたと主張し、具体的には、ア工場排水量原単位の将来値を現在値と同
じにしたのは誤っている、イ冷却冷房用水を含めて原単位を算定している点は合理
性がない、ウ工場排水量原単位を定める基礎となった県下全域の実態の調査結果
は、境川処理区域内の工場の排水量原単位の実態と大きく乖離している、というよ
うな点を指摘する。
(2) まず、証拠(甲二〇、甲一六一の一、二、証人P3)によれば、工場排水
量そのものの統計はないが、工業用水の動向によって工場排水量の動向は把握でき
ること、本件都市計画の関係地域を含め愛知県下においては昭和四八年まで工業用
水は増加し続けたが、その後は減少していること、現に昭和五〇年の本件都市計画
に係る処理区域の工場排水量は、被告県の調査によっても約一八万立方メートル/
日であり、本件都市計画の計画汚水量のうちの工場汚水五一万五七八六立方メート
ルよりも減少していることが認められる。
ところで、現実に工場排水量が減少したこと自体から直ちに本件都市計画が誤って
いたということはできず、問題は、計画決定当時すなわち昭和四六年においてこれ
を確実に予想することができ、都市計画策定者において前記1(二)(2)のよう
な算定をしたことが合理性を欠き、その裁量権の逸脱、濫用に当たるというべき事
情があったかどうかである。
(3) このような前提で原告らの指摘する点について検討するに、まず(1)ア
の工場排水量原単位の推移に関しては、証人P3は、通産省の工業統計表及び経済
企画庁の経済要覧より作成したグラフ(甲一六一の八の一、二)によれば、製造品
出荷額等当たりの工業用水原単位は、鉄鋼業、化学工業、自動車工業のいずれにつ
いても、昭和四〇年以降昭和六〇年まで減少の傾向を示しており、昭和四五年の時
点でも工業用水原単位の減少を考慮すべきであったと供述し、また、原告らは、建
設省の利水に関する担当者の論文(昭和四二年一二月発行。甲一六一の一一)にお
いても工業用水原単位は経年的に小さくなる傾向にあると指摘されていたこと、
「琵琶湖周辺下水道基本計画」(甲一六七)、岐阜県の「木曽川及び長良川流域別
下水道整備総合計画説明書」(甲一六)及び兵庫県の「加古川流域下水道事業計画
認可申請書」(甲一七)においても工業排水量原単位の算定に当たり節減率を考慮
していること、建設省編集に係る昭和四九年版の「流域別下水道整備総合計画調査
指針と解説」(甲一八)においても「工場の排水量は、産業中分類別に排水量原単
位を求めて算出するものとする。排水量原単位は過去の経年変化を十分検討し、節
減率、回収率を決め計画年次ごとに将来値を推定するものとする。」との記述があ
ることなどを指摘する。
(4) しかしながら、同証人の供述によっても、昭和四〇年代においては工場に
おいて水の浪費が行われており、水使用の合理化は徐々に行われてきたというので
あって、必ずしも、下水道計画策定の実務において、排水量原単位が将来において
減少するものとして扱うことが、昭和四六年当時定着していたというのではない
し、同証人の指摘する建設省の解説(甲一八)は、本件都市計画決定後の昭和四九
年に発行されたものである。
むしろ、証拠(乙一三九、一四二、一四四ないし一四七、証人G)によれば、将来
値の予測は非常に難しい問題で、汚水量が何かの原因で増えた場合に処理できない
のは困るので、安全をみて答を出すという考え方は、一般にプロセスとかプラント
を計画するに当たって常識的な考え方であったこと、昭和三七年から昭和四五年に
かけての排水量原単位の推移を見ても、必ずしも一貫して減少の傾向が明らかであ
るとはいえないこと、昭和四五年八月から昭和四六年一二月にかけて策定された他
の地方公共団体の下水道計画においても、節減率が考慮されていない例があるこ
と、昭和四六年当時の国の水利用計画(広域利水一次計画)においても、工業用水
は昭和六〇年においては昭和四〇年の三倍近くになると予測されていたことが認め
られる。このような事情に照らすと、前記1(二)(2)のとおり、昭和四六年の
本件都市計画決定当時、将来の工場排水量原単位について、安全を見込んで昭和四
六年当時の値と同一の値としたことについては、合理性がなかったとはいえないと
いうべきである。
また、前記(1)イの冷却冷房用水の点については、本件調査報告(乙七一)に
は、工場排水量原単位の算定に当たって、これをどのように扱ったかの記載はない
けれども、証拠(甲一一、証人U、同K)によれば、昭和四四年に行われた排水量
調査の際には用途別の調査も行われており、基本調査報告書において用いた工場排
水量原単位からは冷却水は除かれていることが認められる。原告らはこの点につい
て、「琵琶湖周辺下水道計画策定のための調査報告書」(甲一六七)との対比や被
告県における工場排水量の算定方法、本件調査報告書の記載等から、冷却水も工場
排水量原単位に含まれていると主張するけれども、本件調査報告書においてされて
いる業種別の全国平均との比較の表を見ても、業種によっては全国平均をかなり上
回るものが二、三あるが、その他の多くは全国平均を下回っているのであって、そ
の記載をもって右認定を左右することはできないし、また、原告らのその他の指摘
も、右認定を左右するに足りないというべきである。
さらに、前記(1)ウの点については、仮にそのような事実があるとしても、計画
の策定方法として、被告県が採用した方法自体が不合理であるということはできな
いから、右事実をもって工場排水量原単位の算出方法が不合理であるということは
できない。
(2) 家庭汚水について
原告らは、家庭汚水についても、昭和四六年の時点でその増加傾向が鈍ることが予
測できたと主張するところ、証拠(甲一六一の一三、一六、一七、証人P3)によ
れば、家庭汚水量についての直接の統計はないが、本件都市計画の関係地域におけ
る水道用水の配水量及び有収水量の動向をみると、昭和四〇年から昭和四七年ころ
にかけて増加率は大きかったが、その後、増加の傾向が比較的緩やかになってきて
いること、人口一人当たりの平均配水量は、昭和四一年に二二一リットル、昭和四
七年に三三一リットルであったものが、昭和六一年でも三五〇リットルと計算され
ることが認められ、このような傾向からすると、必ずしも昭和四六年の時点で家庭
汚水の原単位が減少するとの予測が可能であったとはいえない。また、前記1
(二)(2)(3)の平均給水量三五三・四リットル/人・日という数値について
も、証拠(乙一五〇ないし一五二)に照らすと、必ずしも根拠のない数値ではない
というべきである。したがって、家庭汚水の算定が合理性を欠くものということは
できない。
(五) 最適化計算の誤りの主張について
原告らは、本件調査報告において行われた最適化計算は誤っていると主張する。
(1) 証拠(乙七一、証人G、同F、同K)によれば、以下の事実が認められ
る。
(1) 本件調査報告は、矢作川、境川の流域を一五のユニットに分割し、ユニッ
トごとの汚濁負荷量、汚水量を定め、これに基づいて、イ投資効果に対する検討
(建設費、維持管理費が経済的であること、建設年次計画に対する検討)、ロ種々
の行政的側面から検討(処理場用地の確保が容易であること、他の関連都市計画事
業が少ないこと(道路、埋立、その他)、処理水の再利用が容易であること(将来
水利用計画))、ハ水域(河川、湾)の環境基準を守るための検討(環境基準を保
守すること、処理水の放流が現状に比較して影響が少ないこと(処理水放流点の変
更による河川流量の変化、その他))などの事項を考慮して、最適計画を検討し
た。
(2) 一五のユニットの連結ルート・処理場の設置位置に応じて、ケース1から
ケース36までの三六のケースを設定した上、ステップ1(費用計算。建設費及び
維持管理費の算定→最小費用順位1ないし11の決定)、ステップ2(建設年次計
画。順位1ないし11について昭和五〇年、五五年、六五年の費用を算定)、ステ
ップ3(事業実施上の検討。ステップ1、2、3によりケースの決定)、ステップ
4(放流先の検討。ステップ3の決定したケースについて放流水域のモデル実験)
の手順で最適計画の決定を行った。なお、ステップ1及び2においては、管渠建
設・ポンプ場建設・処理場建設・ポンプ場維持管理・処理場維持管理に要する費用
関数を設定し、これを前提として各ケースに要する費用を計算した。
(3) 費用計算の結果、ステップ3の段階で、処理場一か所の場合はケース1
2、二か所の場合はケース33、三か所の場合はケース14及び23を採用するも
のとし、以上の四ケースについて、選定条件の難易性を検討し、一応の結論として
ケース14(すなわち、矢作川流域を一処理区域、境川流域を二処理区域としたケ
ース)が総合的に優れているとの判断に達した。
(4) しかし、ケース14はユニット5(半田市、東浦町等)と15(碧南市
等)を接続するもので、これを接続するためには衣浦港横断のルートを建設する必
要があったが、維持管理上及び施工技術上の問題から、右横断ルートの建設を断念
することとし、結局、ユニット5と15にそれぞれ単独の処理場を設置することと
した。
(5) この結果、最適計画決定パターンは、ユニット12に処理場を設けてユニ
ット1ないし4及び6を処理し、ユニット14に処理場を設けてユニット7ないし
11及び13を処理し、ユニット5と15に単独の処理場を建設するという案(費
用は一二一五億七〇〇〇万円)となり、本件調査報告はこれを基本計画の案として
提示している。結果的に見ると、この決定パターンは、ステップ1で検討されたケ
ース31に該当するところ、同ケースは費用が一二三六億一〇〇〇万円であって、
費用計算では二一番目に当たり、この段階で落とされるべきものであった。
(6) 当時、平面的に広がっている区域の中で、どれくらいの大きさの下水道処
理プラントをどこにいくつくらい建てれば全体として最も合理的かという点につい
ては、工学的な手法で決める方法が確立されておらず、本件では経済的な指標によ
って右の最適化計算をしたが、結果的には一〇億円台の数値の大小で順位を決める
こととなり、右計算は現実的には余り意味のあるものではなかった。
(2) 右事実によれば、原告らの指摘するとおり、ステップ1、2で最適ケース
を選んだ後にユニット間の接続を一部変更したために、結果的に費用計算の面で最
適とされなかったケースが選定されたものであり、最適化計算そのものとしては正
しくない選定がされたこととなる。しかしながら、右計算の前提条件にはその性質
上多くの不確定な要素が含まれているのであるから、計算された費用の差自体に
は、さほどの意味はないということができるし、しかも、最適計画を工学的に決定
する手法は確立されておらず、その意味では、本件におけるステップ1からステッ
プ4に至る最適化計算の方法が唯一の正しい方法であったというわけではないので
ある。これに対し、本件調査報告における最適計画の選択は、前記(1)(1)認
定のとおり諸々の条件を勘案してされたのであり、同(2)ないし(5)のような
選択の経過については、一応の合理性を肯定することができないではないから、本
件調査報告における最適化計算が全体として無意味であったとか誤っていたという
ことはないというべきである。したがって、原告らの主張は理由がない。
また、碧南市における終末処理場の建設計画があったとの主張については、証人F
及び同Jの証言に照らせば、原告ら指摘の証拠(甲六、一三六、一三八、一三九、
甲一七七の一、二、甲一八九、証人X、原告C)によっても、具体的な建設計画が
立案されていたものと認めることはできないから、原告らの主張はその前提を欠く
といわざるを得ない。
(六) 流域下水道方式そのものの問題点の主張について
(1) 流域下水道は、下水道法に定められた下水道の一つの方式であって、個々
の市町村が設置、管理する公共下水道(同法三条一項)に対し、都道府県が設置、
管理する(同法二五条の二)もので、市町村の行政区域を越えた流域全体における
下水道の整備を可能にする制度である。そして、証拠(甲七二、乙八三、乙一二
九、証人Y、同U、同P4)によれば、一般的には流域下水道方式の利点として、
(1)効率的な水質保全効果(自然的条件、社会的条件、水利用の状況等水域の諸
条件を勘案した上、行政区域にとらわれず、流域内の下水道整備を一体として行う
ことにより、水質保全を効率的に図ることができ、流域内における最適な処理区
域、終末処理場の位置を選び、水質環境基準を達成する上で最も効果的な地域に処
理水を放流することが可能となる。)、(2)経済性(処理施設を集約すること
で、単位水量当たりの建設費の逓減を図ることができ、また、人件費、運転経費等
の維持管理費の節減を図ることができる。)、(3)処理場用地の節約(処理場数
を減らし、効率的な施設配置を行うことにより、下水処理に必要な用地面積を全体
として節約することができる。)、(4)処理の安定化(流域下水道のように広域
的な処理区域をもつ処理場では、流入する下水の量及び質が平準化され、処理が容
易になり、安定した処理水質を得ることができる。)、(5)下水道整備の誘導促
進効果(都道府県が処理場及び幹線管渠の整備を行うことにより技術力、執行力の
不足から単独では下水道整備を行うことが困難な市町村についても、下水道の整備
を促進することができる。)、(6)維持管理要員の効率的活用(道府県が集約し
て処理場の維持管理を行うため、維持管理要員の効率的な活用ができ高度な技術力
を有した技術者を確保できるため技術力の集約向上を図ることができる。)などが
あるとされていることが認められる。
ところで、下水道法は、単独公共下水道方式によるべきか、あるいは流域下水道方
式によるべきかについては具体的な基準を示しておらず、当該地域に関して流域総
合計画が定められている場合にはこれに従うこととなる(同法六条五号及び二五条
の五第四号参照)けれども、流域総合計画が定められていない場合には、流域下水
道方式を採用するかどうかは、もつぱら都道府県の裁量に委ねられていると解され
る(もっとも、流域下水道の事業計画の内容そのものについて基準が設けられ、こ
れについて建設大臣の認可を受けなければならないこととされていることは前記一
4(二)のとおりである。)。そして、右の裁量判断は、具体的な状況に応じて、
流域下水道方式の前記の利点の有無、関係市町村における公共下水道の整備の状況
等の諸事情を総合考慮した上で都市政策的な立場から決定すべき問題であるという
ことができる。
(2) 右のとおり、流域下水道の制度自体は法律上定められているものであるか
ら、流域下水道方式を採ること自体が違法であるといえないことは当然であり、原
告らの主張(前記第四の四1(二)(6))がそのような意味であるとすれば、主
張自体失当である。
そこで、本件の具体的な状況の下で流域下水道方式を採用したことについて、原告
ら指摘のような問題点があるか否かについて検討する。
まず、環境負荷の増大の点については、流域関連公共下水道管理者には単独公共下
水道の場合と同様の措置を採る権限が認められており(二五条の一〇)、流域下水
道管理者においても、流域関連公共下水道管理者である市町村に対して、悪質下水
の流入に関する原因調査(二五条の八第一項)、条例の制定その他必要な措置(同
条二項)を採ることを要請することができる制度となっており、流域下水道である
から当然に環境負荷が増大するものとはいえない。
また、流域下水道を選択するかどうかは、前記のとおり、当該地域の諸事情を総合
的に考慮して判断すべきものであり、経済性のみが基準となるわけではない。しか
も、本件において単独公共下水道方式によって関連市町における下水道整備を行う
こととした場合に、その建設費用、建設期間がどのようなものとなるのかについて
は、個々の市町における立地条件や財政事情等多くの不確定な要素があり、これを
本件都市計画決定当時において確実に予測することはできないので、結局、前記
(五)(1)のとおり、本件調査報告において検討された程度の費用計算をもって
足りるものというほかはなく、本件都市計画が明らかに経済性を無視した不合理な
計画であるとみるべき根拠はない。なお、付言するに、原告らは、流域下水道と単
独公共下水道の費用対効果の比較から流域下水道は不経済であると指摘し、これに
沿う証拠(甲六五、六八、七〇、七六、証人W、同X)を提出するけれども、証人
P4の証言によれば、右の比較は両者を同一のベースで比較したものではないと認
められるので、原告らの右主張はその前提を欠くといわざるを得ない。
さらに、流域下水道は複数の行政区域における下水を一つの終末処理場で処理しよ
うとするものであり、これをつなぐ幹線管渠の建設には相応の期間が必要であるか
ら、上流の市町において幹線管渠に接続するまで下水道の整備が遅れること自体
は、その性質上やむを得ないことというほかないし、下水道整備の遅れによる環境
負荷の増大との点についても、流域下水道方式を採用しなかった場合のそれぞれの
市町における公共下水道の具体的な建設時期が明らかでない以上、流域下水道方式
を採ったために環境負荷が増大するものとみるべき根拠はない。なお、原告らは、
境川流域においては、下流に比べて上流の市町が汚濁源となっているから、終末処
理場に近い下流の方から下水道整備が進められる流域下水道方式は不適切であると
主張し、証人Wは、昭和五六年から昭和五七年にかけて反対同盟の者らが行った境
川流域の河川の水質調査の結果(甲五一、七〇)を援用して、右主張を裏付ける供
述をするけれども、右調査結果が本件都市計画決定時の状況と一致していると解す
べき根拠はなく、関連市町ごとの汚濁負荷の分布については、本件調査報告におい
ても検討されたところであり、本件都市計画はこれを無視して定められたものとい
うことはできないから、流域下水道方式を採用したことが違法事由に当たるという
ことはできない。
原告らの主張は、採用することができない。
(七) 環境への影響及び環境影響評価について
(1) 河川流量の枯渇
原告らは、河川の最下流部に終末処理場を設置し、河川流域の排水を全て下水道に
受け入れると河川流量が枯渇することが多いのに、本件都市計画ではこの点につい
て全く調査が行われていないと主張する。
まず、河川流量の調査に関しては、本件調査報告(乙七一)によれば、その第五章
「矢作川、境川流域の環境予測」の第一節「農業との関係」の箇所において、下水
道が農業用水量に及ぼす影響を検討し、また、河川の水質に対する影響を検討する
について河川流量との関係を考慮していることが認められる。したがって、本件都
市計画において河川流量に対する影響について全く調査が行われなかったというこ
とはできない。
また、証拠(証人U)によれば、境川水系の特徴としてその固有の流量は少なく公
共用水域の環境基準も厳しいことから、水系の水質を保全するためには、汚濁負荷
をできるだけ水系に入れないという対応が必要であること、そのためには、高度な
処理をして放流する方法と、本件のように最下流で放流する方法の二つの選択肢が
あること、前者は多大の建設費・維持管理費を要する方法であること、本件におい
ては、放流先の水質についての検討を経て、後者の方法が選択されていること、以
上のとおり認めることができ、このような選択の下で、河川流量の減少が生じるこ
と自体はやむを得ないというべきである。
なお、証人Xは、証拠(甲一七四、一七五)を援用して、境川流域下水道が完成
し、排水が全てこれに取り込まれることになると年間のうちで一割近くの日は境川
等の川の水がなくなる旨証言しているが、本件都市計画によっても、自然の流水量
は河川流量となるし、雨水は分流式であって直接河川に流れ込み、また、境川流域
のうちの排水区域とされている区域以外における排水も河川流量として残ることと
なるのであるから、右証言は直ちに採用し難く、ほかに境川流域の河川の枯渇が生
じるとすべき具体的な証拠はない。
(2) 衣浦湾に対する影響
証拠(乙七一、証人K)によれば、(1)本件調査報告においては、最適計画決定
パターンとされたケースについて放流先の水域に対する検討として、水域モデルに
よる衣浦湾、三河湾に処理放流した場合の拡散実験が参考とされたこと、(2)す
なわち、昭和四五年、五〇年、五五年及び六五年の状態について、本件調査報告に
おいて選択したケースを前提とする流域下水道の完成した状態及び衣浦湾の埋立計
画を考慮して、水理模型実験を行って検討したこと、(3)その結論として、「流
域下水道施設が完成した昭和六五年時点での水理模型実験結果・・・・・・によれ
ば、CODは矢作川河口で八〇〇~一〇〇〇ppb、衣浦湾奥で六〇〇〇~九〇〇
〇ppbと予測される」「衣浦湾の特性から、再循環による蓄積の影響を考慮する
と、矢作川河口では、実験結果の約五倍程度(四〇〇〇~五〇〇〇ppb)、衣浦
湾奥では、ほぼ実験結果と同じであると思われるが、BOD(COD)について
は、五日間BODだけでは問題があるので、硝化作用等も考慮しなければならな
い。」「以上により、衣浦海域については、Estuary(注・河口の意)とし
ての機能しか持たないので、三次処理の手法の選択については十分に検討し、今後
とも広域かつ、総合的に検討していく必要がある。」とされ、結論的には「湾施設
が大幅に変わらないかぎり、水域(湾)に対し悪影響は少なく、十分水質を保全し
て行けるものである」と判断されたこと、以上のとおり認めることができる。
右によれば、衣浦湾に対する影響についても相当な方法によってこれを予測し、水
質保全の目的を達成できると判断したのであるから、この点について違法はないと
いうべきである。
原告らは、通商産業省及び愛知県による「愛知県衣浦地区産業公害総合事前調査報
告書(海域関係)」(甲一一六、一一七、一五五)と比較すると、(1)本件調査
報告にはCODのデータが一桁小さく書かれている図があること、(2)右事前調
査報告書の末尾には「現在当地域で計画されている下水道終末処理場の建設に際し
ては、その放流水の水質管理等、慎重に検討する必要があるが、港内水の水質悪化
を防ぐためには、港内に放流することはのぞましくない。」との記載があることを
指摘し、本件調査報告における衣浦湾に対する影響の検討が誤っていると主張す
る。しかしながら、右の(1)の点は、それぞれの報告の本文の趣旨を比較すると
模型実験結果のCOD濃度については実質的に差はないと解されるから、右指摘の
事実をもって本件調査報告の信用性に疑いをさしはさむべきものとはいえない。ま
た、右(2)の点についても、本件調査報告は昭和六五年の本件流域下水道完成時
の実験まで含んでいる(乙七一)のに対し、事前調査報告書においては昭和五五年
までの埋立計画、火力発電所の設置等を条件として実験したものである(甲一一
六)から、両者を単純に比較することはできず、右のような記載から、本件調査報
告における前記判断が誤っているということはできない。
したがって、これについての原告らの主張はいずれも理由がないというべきであ
る。
(3) 計画アセスメントの必要性の主張について
原告らは、前記第四の四1(一)のとおり、下水道に関する計画の適法要件を挙げ
た上、右要件を満たすためには計画アセスメントの実施が必要であると主張するけ
れども、本件都市計画及び本件下水道事業計画の適法要件は前記一4のとおりであ
り、法律上定められた内容及び手続に関する適法要件とは別個に、原告ら主張のよ
うなアセスメントの手続が必要であると解すべき根拠はないから、原告らの右主張
は失当である。
(八) 既存計画との関係について
流域下水道方式を採用したことの適法性については、前記(六)のとおりであり、
仮に、本件都市計画決定当時、関連市町の一部において単独公共下水道の計画が準
備されていたとしても、そのことから本件都市計画が違法となるものと解すべきで
はない。また、本件都市計画は、前記第二の三3(三)のとおり、関連市町の意見
を聴取した上で決定されたものであり、関連市町において既存の計画を準備してい
たとしても、それを無視して本件都市計画を決定したとはいえない。
したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。
(九) 用地取得の難易の主張について
前記一4(一)のとおり、都市施設は「適切な規模で必要な位置に配置する」必要
があり(都市計画法一三条一項四号)、また、下水道法上も、前記一4(二)のと
おり、適切に位置を選定する必要があるとされているところ、本件においては、前
記1及び2のとおり、法律上必要な考慮をした結果本件土地が処理場用地として選
定されたものであって、適法なものというべく、用地取得の難易自体を考慮しなか
ったとしても、そのために違法なものとなるとは解されない。
(一〇) 住民参加について
本件都市計画決定に当たっては、前記第二の三のとおり、公聴会の開催等の法律上
必要な手続が採られているのであり、法定の手続以外に住民の意見を聴取しなかっ
たとしても、そのことから本件都市計画が違法なものとなるわけではない。
また、原告らは、本件裁決申請前に、計画内容について、原告らを含む地主によっ
て構成される反対同盟等三団体と被告県の討論の結果を尊重するとの合意がされ、
その討論においては、被告県の担当職員は原告らの主張に対して合理的な反論がで
きなかったから、本件基本計画(本件都市計画)は変更しなければならなくなった
と主張するけれども、証拠(甲五、六、一八七、一八九、原告D、同C)による
も、右反対同盟等と被告県との間の討論の結果両者の合意ができていたとの事実を
認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないので、原告らの右主
張はその前提を欠くものというべきである。
4 都市計画の変更義務について
なお、本件都市計画決定以降、前記2(一)(6)及び3(四)に認定したとお
り、工場排水の全量受入れの点あるいは計画汚水量の算定の点について、都市計画
の前提となった状況には変化があり、現に本件下水道事業計画は、昭和五三年一〇
月にされた変更の認可により、計画汚水量、処理区域の面積等の点で、相当程度規
模を縮小したものとなっている。
ところで、このような社会的、経済的条件の変化により、本件都市計画事業の事業
計画の変更認可がされた昭和五三年一〇月の時点において、本件都市計画は変更す
べきであったかという点(前記第四の四1(二)(4)の原告らの主張参照)につ
いては、前記二3において説示したところに従って検討すべきである。そして、都
市計画に関する基礎調査は概ね五年ごとにすべきものとされていることからすれ
ば、昭和四六年一一月から約七年後の時点においては未だ決定後相当の長期間を経
たとはいえないし、また、確かにこの間の社会的、経済的条件の変化は、いわゆる
高度成長期からオイルショックを経たものであって著しいものがあり、現に下水道
事業計画については前記のとおり変更されているのであるが、流域下水道の建設の
必要性、あるいは、本件処理場が地形上、水質保全上等の理由から選択されたこと
自体については、本件都市計画を変更して流域下水道の建設そのものを取り止めた
り、あるいは、本件土地以外の場所を処理場用地として選定すべきであるとするよ
うな事情は全く窺われないところである。このような点からすれば、昭和五三年一
〇月の時点において本件都市計画を変更すべき必要性が明らかとなっていたとはい
い難く、本件都市計画を変更しなかった点については何ら違法な点はないというべ
きである。
5 まとめ
以上検討したところによれば、本件都市計画及び本件下水道事業計画(変更認可後
のものを含む。)については、前記1及び2のとおり、いずれも法律上の基準に従
って定められたものと認めることができるところ、本件都市計画ないしこれを受け
て決定された本件下水道事業計画には違法事由があるとする原告らの主張について
は、右3において個々に検討したとおり、いずれについても、決定権者に与えられ
た裁量権の範囲を逸脱し、又はその濫用があるとすべき事由は認められないという
べきであり、さらに、原告らの右主張に対する検討結果を総合して考慮しても、そ
のような裁量権の逸脱、濫用があるということはできないというべきである。
したがって、本件都市計画及び本件下水道事業計画(変更認可後のものを含む。)
は適法であるということができる。
そして、本件都市計画事業の認可については、適法な都市計画を前提として定めら
れた事業計画についてされたものであり、前記第二の三及び四の各事実によれば、
都市計画法六一条の要件を満たす適法なものであるということができる。
さらに、本件都市計画事業の事業計画の変更認可についても、前記第二の三及び四
の各事実によれば、本件都市計画で定められた施設の規模の範囲内にあり、かつ、
その事業施行期間は建設期間を考慮して定められたものということができ、適法な
ものということができる。
五 本件裁決そのものの適法性
1 土地物件調書の作成手続の瑕疵の主張について(争点2の5)
(一) 土地収用法によれば、起業者は、裁決申請に当たって、収用し、又は使用
しようとする土地の所在、地番及び面積、権利者の氏名及び住所等を明らかにしな
ければならず(四〇条一項)、このため、起業者は、原則として裁決を申請するに
先立って土地調書及び物件調書(土地物件調書)を作成すべきこととされている
(三六条)。右のように事前に土地物件調書を作成すべきものとされているのは、
事前に右のような事項について権利者の確認を得ておき、確認を得た事項について
は一応真実であると推定することとし(三八条参照)、これによって収用委員会に
おける審理を円滑かつ迅速に進行させるためであると解される。したがって、土地
物件調書の作成手続に瑕疵があるとしても、そのことから直ちに収用裁決が違法に
なるものと解すべきではなく、調書作成手続に瑕疵がありそのため調書としての効
力を有しないと判断される場合であって(この場合には当該調書には土地収用法三
八条の効力はないこととなる。)、収用委員会が当該調書のほかに裁決を基礎づけ
る資料なしに審理を行い裁決に至ったときに、当該裁決が瑕疵を帯びることになる
というべきである。
そこで、右のような見解に立って、本件土地物件調書の作成手続に瑕疵がありその
結果右調書の効力が否定されるというべきか否かについて検討する。
(二) 本件土地物件調書の作成に関しては、証拠(甲九四、乙一、乙二の二、乙
四の一ないし三、乙五、六、八ないし一〇、乙一一の一ないし四、乙一二、乙一三
の一、二、乙一四、一五の各一ないし三、乙一六ないし二二、八一、証人P5、証
人P6)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 昭和五三年一二月当時、本件処理場用地の所有者のうち、原告ら三名を含
む五名の土地所有者が任意買収に応じていなかったため、起業者としては収用裁決
を申請する必要を生じ、県知事は、同月四日付けで、右五名の土地所有者(占有者
でもあった。)に対し、本件土地につき土地収用法三五条一項の規定による立入り
の調査を同月九日午前一〇時から一二時までに行う旨の通知をした(同月四日付け
で立入りの通知がされたことは争いがない。)。
(2) 同月九日、被告県の職員二〇人からなる測量調査隊が本件土地付近に到着
したところ、既に通路等には角材等でバリケードが築かれていた。右調査隊が午前
一〇時ころ原告Aの所有する<地名略>の土地(別紙第一物件目録記載一1)にそ
の東側から立ち入ろうとしたところ、原告A及び反対同盟の者ら四〇ないし六〇名
の者は、古タイヤを燃やし、空缶を棒で叩き、あるいはハンドマイクを用いて口々
に「愛知県帰れ」「立入調査反対」「帰れ、帰れ」と叫ぶなどした。測量調査隊
は、一旦後退し、再度接近を試みたが、右の者らは、手回しサイレンを鳴らし、動
力撒粉機を用いて白色の粉末を振りかけるなどした。測量調査隊は、数回接近を試
み、あるいは説得を繰り返したが、右の者らがこれに応じなかったので、これ以上
立入調査をしようとすれば身体の危険があると判断して、午前一〇時四六分ころ立
入調査を断念した。
(3) 被告県は、本件土地が愛知県施行(農林省代行事業)の干拓事業により造
成され、昭和三七年ころに農地法の規定に基づき処分された土地であるため、その
際作成された境川干拓地区土地配分図を基礎とし、旧土地台帳附図、不動産登記
簿、現地の観察、航空写真、航空測量図等を総合して知ることができる程度で、昭
和五三年一二月一五日ころ、本件土地物件調書の原案を作成した。
(4) (1) 被告県は、同月四日付けの文書で原告らに対し、立会及び署名押
印につき、同月一八日又は一九日の午後一時から四時までの間刈谷市役所第三応接
室で行うので、希望する一日を指定のうえ、同月一四日までに回答すること、及び
同日までに返事がないときは、立会及び署名押印を拒否したものとして代行による
署名押印の手続を進めることを通知し、原告らから同月一九日を指定する旨の回答
がされた。
(2) 原告ら(ただし、亡Bについては代理人)は、土地所有者の代理人と称す
る約二〇名ほどの者と共に同日午後〇時三〇分ころ、刈谷市役所に集合し、まず刈
谷市長との面談を求めたためその折衝に時間を要し、立会指定場所の第三応接室へ
は午後三時四〇分ころ到着した。そこで、入室者の数の問題、代理人の委任状の問
題等について県係員と折衝するうち予定の立会終了時刻の午後四時になったが、さ
らに、原告らは、刈谷市長との面談の約束があるので立会時間をずらして欲しいと
要請し、県係員もこれを認めて立会終了時刻を午後六時まで延長することとした。
(3) 立会は、午後五時一五分ころから始められ、まず、被告県職員が土地物件
調書となるべき印刷物を直接原告らに交付した上、立会の目的を告げ、次に調書作
成の経緯、方法等について説明し、原告らの確認を求め、異議があれば付記して署
名押印することができる旨を説明した。これに対し、原告らは、立入測量前に撮影
された航空写真に基づく調書の適否、調書の記載事項が航空測量以外のどのような
調査に基づくものか、土地収用法三七条の二の特例を適用したことの適否、同月七
日以前にされた土地立入の通知の適否等について同職員に説明を求めた。そこで、
同職員は調査の方法を説明し、調書の内容に異議のある者はその旨を付記して署名
押印することができることを説明した。しかし、原告ら及びその代理人らは納得せ
ず、専ら調書作成の過程に違法な点があるとの主張を繰り返し、その立場から同職
員に対しさらに詳細な説明を求めた。
(4) 同職員は、午後六時を経過した段階において、原告らに対し、個別に署名
押印をする意思の有無を確認したところ、原告らは、まだその時期ではなく、十分
な説明ないし話合いを継続すべきであることを強調し、現段階では署名押印をする
意思のないことを明らかにした。
そこで、午後六時二〇分、同職員は、原告らが土地物件調書に対する署名押印を拒
絶したものと判断し、立会を終了する旨を宣言した。
(5) その後、県職員が、刈谷市長に対し、原告らから土地物件調書への署名押
印を拒否された顛末及び調書作成の過程で参考とした資料、補償費の算定方法等を
説明し、かつ、前記署名押印が拒否されたことを確認する旨を記載した県知立土木
事務所用地課長作成の文書を交付して、同市長の立会並びに本件土地物件調書への
署名押印を求めた。同市長は、右説明を了知した後、両調書に署名押印し、午後八
時二〇分ころ、本件土地物件調書の作成事務が終了した。
(三) 原告らは、本件裁決申請の基礎となるべき事業認定の告示があったとみな
されるのは昭和五三年一二月七日であるから、同日以前になされた立入りの通知は
法律上の根拠のないものであると主張する。
土地収用法によれば、起業者等は、土地物件調書の作成のために、その土地又はそ
の土地にある工作物に立ち入って、これを測量し、又はその土地及びその土地若し
くは工作物にある物件を調査することができるとされ(三五条一項)、右の規定に
よって土地又は工作物に立ち入ろうとする者は、立ち入ろうとする日の三日前まで
に、その日時及び場所を当該土地又は工作物の占有者に通知しなければならないと
されている(同条二項)。
ところで、土地収用法による事業認定の告示とみなされる都市計画法五九条二項に
よる本件都市計画事業の認可は、前記第二の三5のとおり、昭和四六年一一月二四
日になされたものであり、同法七一条一項の規定により、同日から一年以内に収用
又は使用の裁決の申請がないときは、その時点で新たに事業の認定の告示があった
ものとみなされるところ、これについては、更新時にそれ以前の認可の効力が一旦
消滅し、更新によって別個の新しい認可の告示がされるものと解すべきではなく、
更新の前後を通じて事業の認可の効力が継続して、その同一性が保たれているもの
と解するのが相当である。したがって、本件都市計画事業の認可の効力は昭和五三
年一二月七日の前後を通じて継続しているものとみるべきところ、本件において立
入りの通知がされたのは同月四日であるから、立入調査の予定日が同月九日であっ
ても、土地収用法上何ら問題はないというべきであり、原告らの主張は理由がな
い。
(四) 次に、原告らは、被告県は立入調査に当たって、刈谷市<地名略>の土地
に立ち入ろうとしたのみで、実際には立入りをせずに引き揚げ、他の土地について
は立ち入ろうともしなかったものであって、測量又は調査をすることが著しく困難
ではなかったと主張する。
土地収用法三七条の二によれば、起業者は、土地所有者、関係人その他の者が正当
な理由がないのに土地物件調書の作成のための立入りを拒み、又は妨げたため、測
量又は調査をすることが著しく困難であるときは、他の方法により知ることができ
る程度でこれらの調書を作成すれば足りるとされているところ、前記(二)(2)
の事実によれば、本件においては、同法三五条一項の規定による測量又は調査をす
ることが著しく困難であるときに当たるということができるから、起業者として
は、他の方法により知ることができる程度で土地物件調書を作成すれば足りる場合
に該当するというべきである。
そして、右の「他の方法」とは、航空測量、聴取調査、公簿の記載事項の援用、近
隣地からの観察等の外部から行い得る方法で足りる趣旨と解するのが相当であるか
ら、前記(二)(3)の事実によれば、本件土地物件調書は適法に作成されたもの
ということができる。
なお、原告らは、被告県は、本件土地物件調書の作成に当たって、昭和五三年一二
月六日以前の土地及び物件の状況を調査したのみで、土地及び物件が変更、固定さ
れる同月七日以降は調査していないし、関係人を特定するための調査もしていない
と主張するけれども、その間の事情は前記(二)(3)のとおりであるから、原告
らの右主張は理由がない。
(五) さらに、原告らは、本件土地物件調書の作成については、土地収用法三六
条二項所定の土地所有者の立会及び調書の署名押印を欠く違法があると主張するの
で、これについて検討する。
同条によれば、起業者は、土地物件調書を作或する場合において、土地所有者及び
関係人を立ち会わせた上、土地物件調書に署名押印させなければならないとされ
(二項)、また、土地所有者及び関係人のうちに同項の規定による署名押印を拒ん
だ者又は署名押印することができない者があるときは、起業者は、市町村長の立会
及び署名押印を求めなければならないとされている(四項)。そして、前記(二)
(4)の事実によれば、被告県は、原告らのために、立会期日、立会時間について
その希望を容れ、立会時間は原告らの求めに応じて順次変更し、立会に入ってから
はその目的を説明し、調書となるべき印刷物の配布を行い、同法三七条の二の規定
を適用した理由、具体的な調査方法等を原告らに説明していたものであり、原告ら
のとった行動は同法三六条四項にいう「署名押印を拒んだ」ことに該当するという
べきところ、被告県は、同項の規定に従って刈谷市長の立会及び署名押印を求めた
ものであるから、以上の手続について、何ら違法な点はないということができる。
さらに、原告らは、刈谷市長の署名押印の手続について、(1)起業者である県か
ら市長宛の依頼文書が昭和五三年一二月七日以前である同日四日に発せられている
点、(2)同市長は、本件土地物件調書が正確な根拠資料に基づいて作成されたと
の説明及び資料の提示を受けずに署名押印している点、(3)同市長は、本件土地
物件調書の作成経過を認識しておらず、土地及び物件についての知識もない点、
(4)同市長は署名押印に当たってその理由を記載していない点などを指摘して、
刈谷市長の署名押印手続は違法であると主張する。しかしながら、右(1)の点は
何ら違法とはいえず、また、土地収用法が、土地所有者らが署名押印を拒んだ場合
に市町村長の立会及び署名押印を求めている趣旨は、調書が測量・調査その他の資
料に基づいて適正に作成されたものであることを公的に確認させようとするところ
にあると解されるから、前記認定のとおり県職員が調書作成の経過について説明し
た上で市長の署名押印を求めたことは、右趣旨に沿うものであって何ら違法な点は
なく、したがって、原告らの指摘する右(2)ないし(4)の点についても、違法
な点はないというべきである。
(六) 右(二)ないし(五)の認定説示によれば、本件土地物件調書の作成手続
については、瑕疵はなく、本件土地物件調書は適法有効に作成されたものであり、
これに基づいてされた本件裁決には、原告ら主張のような瑕疵はないというべきで
ある。
2 法定の周知措置に関する瑕疵の主張について(争点2の6)
(一) 都市計画法上の周知措置について
都市計画法六六条は、都市計画事業の認可等の告示があったときは、施行者(本件
においては被告県)は、速やかに、建設省令で定める事項を公告するとともに、建
設省令で定めるところにより、事業地内の土地建物等の有償譲渡について、同法六
七条(土地建物等の先買い)の規定による制限があることを関係権利者に周知させ
るため必要な措置を講じ、かつ、自己が施行する都市計画事業の概要について、事
業地及びその付近地の住民に説明し、これらの者から意見を聴取する等の措置を講
ずることにより、事業の施行についてこれらの者の協力が得られるように努めなけ
ればならないと規定している。
そして、証拠(乙二三ないし二六、乙二七の一ないし三、乙二八ないし三一)によ
れば、前記第二の三3及び6のとおりの都市計画事業の認可ないしその事業計画の
変更の認可について、都市計画法により必要とされる周知措置が講じられたことを
認めることができ、これに反する証拠はない。
したがって、右の点については原告主張のような違法はない。
(二) 土地収用法上の周知措置について
土地収用法二八条の二は、起業者は、同法二六条一項の規定による事業の認定の告
示(本件においては本件都市計画事業の認可)があったときは、直ちに、建設省令
で定めるところにより、土地所有者及び関係人が受けることができる補償その他建
設省令で定める事項について、土地所有者及び関係人に周知させるため必要な措置
を講じなければならないと定めている。右の規定を受けて定められた同法施行規則
一三条の二によれば、周知措置を講ずべき事項は、裁決申請の請求に関する事項、
補償金の支払請求に関する事項及び明渡裁決の申立てに関する事項である。
そして、証拠(乙三二)によれば、昭和五四年二月八日、原告らに対し、同法二八
条の二、同法施行規則一三条、一三条の二所定の事項を記載した書面を送付するこ
とにより周知措置を講じた事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
原告らは、被告県が周知措置を講じたのは本件裁決申請後の昭和五四年二月八日で
あり、また、原告らに対する補償金額については同日以後いかなる周知措置も講じ
られていないと主張するけれども、右時期が本件裁決申請以後であったとしても、
本件裁決が違法なものとなると解すべき理由はない。また、土地収用法上、各人別
の具体的な補償金額まで周知させることは要求されていないと解されるから、右の
点についても何ら違法な点はないというべきである。
したがって、右の周知措置に関して、原告ら主張のような違法はない。
第九 予備的請求に関する本案前の争点に対する判断
一 いわゆる主観的予備的併合の可否(争点3の1)
1 本訴請求のうち被告県に対する請求は、収用裁決が取り消されないときに備え
て予備的に、土地収用法一三三条に基づき、損失の補償に関する訴えとして起業者
に対し替地による補償を求めるものであって、主位的請求である収用裁決の取消し
の訴えとは主観的予備的併合の関係に立つものである。
そして、行政事件訴訟法一七条一項は、数人は、その数人に対する請求が処分又は
裁決の取消しの請求と関連請求とである場合に限り、共同訴訟人として訴えられる
ことができるものとしているところ、本件における被告委員会に対する請求と被告
県に対する請求とは、同法一三条二号又は五号に準ずる同条六号の関連請求に当た
るということができるので、前記共同訴訟の要件を満たすものということができ
る。
2 ところで、一般に民事訴訟においては、客観的予備的併合は適法であるとされ
ているが、主観的予備的併合は不適法であるとされている(最高裁昭和四二年
(オ)第一〇八八号同四三年三月八日第二小法廷判決・民集二二巻三号五五一
頁)。その根拠は、第一に、客観的併合の場合には、訴訟の当事者が同一であり、
予備的併合を認めても、被告とされた者を応訴上著しく不利益、不安定な地位に置
くことにはならないが、主観的併合の場合には、主位的請求の被告と予備的請求の
被告が同一でないことから、予備的請求の被告を応訴上著しく不利益、不安定な地
位に置くことになること、第二に、主観的予備的併合を認めることの利点は、複数
の被告に対する請求が法律上両立し得ないことから、訴訟当事者間で統一的裁判が
保障される限り、複数の被告のうちいずれか一人に対して勝訴の機会を確保するこ
とができる点にあるところ、共同訴訟人独立の原則(民訴法六一条)を採る現行法
のもとでは、主位的請求との併合関係が訴訟の終結まで維持されて複数の被告の間
で統一的な裁判がされるという保障がないこと、以上の二点にあると解される。
しかし、抗告訴訟においては国又は地方公共団体の機関である行政庁が被告とされ
るが、右抗告訴訟と関連請求の関係にある国又は地方公共団体に対する請求とが両
立し得ない場合に、訴訟当事者たる機関と国又は地方公共団体とが実質的に同一で
あると解されるときには、抗告訴訟が容れられないときに備えて予備的に国又は地
方公共団体に対する請求を併合することも、実質的に客観的予備的併合と差異がな
いものとして、許容されることが考えられないではない(最高裁昭和三三年(オ)
第一〇七八号同三七年二月二二日第一小法廷判決・民集一六巻二号三七五頁参
照)。
3 (一)そこで、収用裁決取消訴訟の被告と損失補償に関する訴訟の被告との関
係についてみるに、前者は国の機関たる地位に立って収用という国家事務を行う収
用委員会であり、その裁決に係る事務は国に帰属するのに対し、後者は起業者とさ
れているところ、起業者は、私法人の場合もあるのであって、常に国又はこれと実
質的に同一であると解される関係にあるわけではない。そして、主観的予備的併合
の可否について、例えば起業者がたまたま国の機関である場合と私人である場合と
で、区別して考えるべき理論的根拠に乏しいというべきである。しかも、本件予備
的請求の被告である起業者は愛知県であり、国と実質的に同一であるとみることは
できない。原告らは、損失補償に関する訴訟もその本質は抗告訴訟であり、起業者
の地位は本質的には収用委員会と同一基盤に立つと主張するけれども、採用するこ
とができない。
(二) そもそも、土地収用法一三三条が収用そのものに対する不服の訴えとは別
個に損失補償に関する訴えを規定したのは、収用に伴う損失補償に関する争いは、
収用そのものの適否とは別に起業者と被収用者との間で解決させることができる
し、また、それが適当であるとの見地から、収用そのものに対する不服と損失補償
に関する不服とをそれぞれ別個独立の手続で争わせることとし、後者の不服の訴え
については前者の不服の訴えと無関係に独立の出訴期間を設け、これにより、収用
に伴う損失補償に関する紛争については、収用そのものの適否ないし効力の有無又
はこれに関する争訟の帰すうとは切り離して、起業者と被収用者との間で早期に確
定、解決させようとする趣旨に出たものと解される(最高裁昭和五四年(行ツ)第
一二九号同五八年九月八日第一小法廷判決・裁判集民事一三九号四五七頁)とこ
ろ、収用裁決取消訴訟に損失補償に関する訴訟を予備的に併合することを認める
と、予備的請求については常に主位的請求についての判断の後に判断すべきことに
なるのであるから、収用に関する争訟の帰すうとは切り離して早期に確定、解決さ
せようとする趣旨に反することになる。また、起業者にとっても、損失補償に関す
る紛争を早期に解決し、応訴の負担から開放される利益を不当に奪われることにな
る。
(三) さらに、主観的予備的併合という併合形態を認める必要性は、主位的請求
に対する判断と予備的請求に対する判断の矛盾抵触を防ぐところにあると解される
ところ、収用裁決取消訴訟においては、損失補償の適否は問題とならず、収用裁決
に取消事由が存するか否かが判断の対象となるのに対し、損失補償に関する訴訟に
おいては、右の点は問題とならず、具体的に定められた補償の適否だけが判断の対
象となるのであるから、それぞれの請求について別個に審理判断をしても、審理の
重複や両請求に対する判断の矛盾抵触という事態は生ぜず、ただ、収用裁決の取消
判決が確定した場合には、損失補償に関する審理判断が結果的に無益に帰すること
になるにすぎないと解される。したがって、右の観点から主観的予備的併合を認め
る必要性はないというべきである。
4 なお、損失補償に関する請求は収用裁決が適法であることを前提とするもので
あるが、損失補償に関する訴えの出訴期間は裁決書正本送達の日から三か月以内と
定められている(土地収用法一三三条一項)ので、収用委員会の裁決のうち収用そ
のものに関する部分及び損失補償に関する部分の双方に不服がある者としては、収
用裁決取消訴訟において敗訴する場合に備えて、右出訴期間内に損失補償に関する
訴えをも提起しておかなければならないところ、右の訴えを収用裁決取消訴訟に予
備的に併合できないとすれば、常に収用裁決取消訴訟とは別に損失補償に関する訴
えを提起、追行することが必要になり、また、損失補償に関する判決が確定した後
に収用裁決が取り消されたときは、損失補償に関する判決は結果的に無意味なもの
となり、逆に損失補償に関する判決が確定する前に収用裁決を取り消す判決が確定
すると、その後の損失補償に関する訴訟の続行は不必要となるので、当事者が不安
定、不利益な地位に置かれることは否定することができないが、前記の立法趣旨に
照らせば、このような結果を生ずることがあってもやむを得ないものとして、前記
の規定が設けられたものというべきであるから、右のような結果が生ずることをも
って、主観的予備的併合を認める根拠とすることはできないというべきである。な
お、前記のとおり、収用裁決取消請求と損失補償に関する請求とが関連請求の関係
にあるものとすれば、両請求を単純併合の態様において訴えを提起することは差し
支えないのであるから、主観的予備的併合を認めなかったとしても、これを認める
場合に比して、原告が著しい不利益を被るものということもできない。
5 右に説示したところによれば、本件は主観的予備的併合を認めるべき場合には
当たらないというべきであり、主観的予備的併合の態様において提起された被告県
に対する予備的請求は不適法といわざるを得ない。
二 小結
被告県に対する請求は、これを主位的請求から分離したとしても、それ自体として
は条件付きの訴えとして不適法なものといわざるを得ないので、結局、その余の点
について判断するまでもなく、被告県に対する訴えは、却下を免れないというべき
である。
第一〇 結論
以上のとおりであるから、原告らの被告委員会に対する本訴請求のうち、本件裁決
のうち権利取得裁決の取消しを求める部分は理由がないから棄却し、原告らの被告
委員会に対するその余の訴え及び被告県に対する訴えは、いずれも不適法であるか
ら却下することとする。
(裁判官 瀬戸正義 後藤博 入江猛)
別紙第一及び第二物件目録並びに別紙「裁決主文」(省略)

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