弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件仮処分申請を却下する。
       理   由
 申請人代理人は、「被申請人は申請人に対し金一八八万七九三七円を仮に支払
え。」との裁判を求め、その理由とするところは別紙記載のとおりである。
 よつて検討するに、申請人提出の疎明によれば、申請人は、昭和三五年四月一日
被申請人会社に雇用され、同社武蔵工場に勤務していたが、就業規則に違反したと
して昭和四二年一〇月三〇日解雇され、該解雇の効力を争い、被申請人を相手とし
て東京地方裁判所八王子支部に対し、賃金仮払いを含む地位保全の仮処分を申請
し、昭和四六年一月二二日東京高等裁判所において同庁昭和四四年(ネ)第二六九
八号事件の判決により右仮処分申請を認容され、次いで右支部に対し、地位確認及
び賃金等支払請求の本案訴訟(昭和四六年(ワ)第二〇〇号)を提起し、昭和五三
年五月二二日勝訴の判決を受けたこと、右判決の内容は、申請人が被申請人との間
に雇傭契約上の地位を有することの確認と被申請人に対し昭和四二年一一月から昭
和五一年九月までの賃金・一時金の合計九四七万六五七〇円及び同年一〇月以降毎
月一三万七一八二円の賃金を申請人に支払うことを命ずる仮執行宣言付のものであ
ること(右判決に対しては被申請人から当裁判所に対し控訴の申立てがされ(ネ)
《昭和五三年(ネ)第一三八四号、第二三六六号》、現在審理中である。)、被申
請人は申請人に対し、前記東京高等裁判所昭和四四年(ネ)第二六九八号事件判決
及びこれに続いて東京地方裁判所八王子支部が、同裁判所昭和四七年(ヨ)第四五
四号、同四九年(ヨ)第四二二号、同五〇年(ヨ)第七二九号、同五二年(ヨ)第
八七〇号事件につき逐次発した仮処分決定に基づき、現時点では、昭和五二年の賃
金改訂を斟酌して算定された賃金として月額一五万一二三五円(手取り一三万九三
七八円)の支払いをしていること、申請人は被申請人に対し、労働協約(賃金協定
及び一時金協定)に基づき、昭和五三年から昭和五五年までの一時金(ボーナス)
についても、その主張のような一時金請求権を有していることが一応認められる。
 そこで、以下、右一時金仮払いの必要性の有無につき考察するに、賃金等の仮払
いを命ずる仮処分は、通常の保全処分と異り、申請人に仮りの満足を与えることを
目的とするものであるから、解雇の無効が疎明されているのにかかわらず、使用者
が労働者に対する賃金等の支払いを拒絶しているため、労働者及びその扶養する家
族の経済生活が危殆に瀕し、本案判決の確定を待てないほど緊迫した事態に陥り又
はそのような事態に当面すべき現実的かつ具体的なおそれが生じた場合、右緊急状
態を避けるに必要な限度において許容されるものというべきである。
 ところで、疎甲第一二号証(申請人の陳述書)によれば、申請人方家族は、申請
人、妻及び三人の子(小学校二年生、六歳、二歳)の五人家族であること、妻は稼
働していること、申請人方の一か月の収入は、前記判決等に基づき申請人が被申請
人から支払いを受ける賃金及び妻の収入を合計すると手取りで二七万八四八〇円に
達することが一応認められる。そして、右申請人方の収入は、東京都人事委員会の
算出にかかる昭和五五年四月当時の東京都における五人家族の標準生計費二三万四
三二〇円(労政時報第二五三〇号二ページ以下参照)と対比してみてもこれを四万
四一六〇円超えていることが明らかであり、申請人主張の最近における物価の上昇
を斟酌しても、申請人方の経済状態は、申請人が前記賃金のほかに一時金を、しか
も過去の一時金につき遡つて仮払いを受けなければならないほどの緊急状態にある
ものとは認められない。
 もつとも、右申請人の陳述書によれば、申請人方の一か月の支出は、(1)家賃
一万〇一〇〇円、(2)食費六万五〇〇〇円、(3)保育料二万四八〇〇円、
(4)生命保険料一万一八〇〇円、(5)光熱費一万六三八〇円(石油代七五〇〇
円を含む。)、(6)教育費四〇三〇円(給食費二五三〇円を含む。)、(7)教
養娯楽費五九五〇円(新聞代を含む。)、(8)医療費(歯科に四人通院、針、マ
ッサージ)一万円、(9)衣服費一万円、(10)電話料一万一三一三円、(1
1)二重保育料一万五〇〇〇円、(12)申請人の小遣い(昼食代、交通費他)五
万円、(13)妻の小遣い(昼食代等)二万円、(14)自動車の経費(ガソリ
ン、修理費、駐車料、保険料)三万一〇〇〇円、(15)交際会議費一万円、(1
6)雑費一万五〇〇〇円の合計三一万〇三七三円であること、右支出を前提とすれ
ば、申請人方の家計は一か月三万一八九三円の赤字を生ずることが一応認められ
る。
 しかし、右支出の中には、(10)の電話料、(12)の申請人の小遣い、(1
4)の自動車の経費、(16)の雑費等のように節減可能と思われるものがあり、
また、妻には月々の賃金のほかに六月及び一二月に一時金の収入もあるはずである
から、申請人方の月々の家計に赤字が生ずるとしても、そのことをもつて、直ちに
本件仮処分の必要性を充足する事由とすることはできない。
 以上のとおり、本件仮処分は、その必要性を肯認することができないので排斥を
免れない。
 よつて、本件仮処分申請を却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 蕪山厳 浅香恒久 安国種彦)
(別紙)
 申請の理由
一 債務者は、電気機器の製造等を業とする株式会社で東京都小平市に同会社武蔵
工場を保有している。
 債権者は昭和三五年四月一日債務者と雇用契約を結び所員として右工場に勤務し
てきた。
二 (解雇)
 ところが債務者は昭和四二年一〇月三〇日債権者に対し「これまで出勤停止三
回、譴責一回の懲戒処分を受けたにも拘わらずなお悔悟の見込みがない」との理由
で懲戒解雇した。
 しかし右解雇の意思表示は次の理由により無効であり債権者は、依然として債務
者の従業員たる地位を有している。即ち債権者は熱心な組合活動を行つていたが、
債務者はこの活動を嫌悪して解雇したもので、不当労働行為であつて無効である。
しからずとするも就業規則に該当しないもので解雇権の濫用であり無効である。
三 仮処分決定、及び本案判決の存否
 債権者は前項にかかげる理由をもつて地位保全等の仮処分申請を行い東京高等裁
判所において最終的に勝訴した(東京高裁昭和四四年(ネ)第二六九八号事件)。
債権者は更にこれの本案訴訟を東京地方裁判所八王子支部に提起し昭和五三年五月
二二日雇傭契約上の地位を有することを確認する旨の勝訴判決をえた(同庁昭和四
六年(ワ)第二〇〇号事件)。ところが債務者はこの一審判決を不服として御庁に
控訴し現在係属している(御庁昭和五三年(ネ)第一三八四号)
四 債務者は右各判決を一貫して無視し、債権者の労務提供を不当にも拒否してい
る。
 債務者は本案第一審判決言渡後昭和五三年度、昭和五四年度、昭和五五年度の各
夏期及び年末一時金の支払いをなしていない。
五 債権者の賃金請求権
(一) 前記工場に勤務する労働者の賃金と一時金の額は、債務者会社と労働組合
との間に結ばれる労働協約(賃金協定および一時金協定)によつて、毎年改訂され
る。債権者は本訴において債権者主張の基本給及び格付を前提とした賃金及び一時
金を主張するが本仮処分では会社と争のない基本給を右賃金協定中の最低保障を基
準として算出する。
(二)(イ) 一時金は当該年度末の一時金協定により年末一時金と来年度夏期一
時金の算出方法で決定される。
 一時金を構成する項目は①支給率(基本給×支給率%)②職務給賃率リンク分
(格付別による支給額)③職群調整金(基本給×職群別に定められたパーセント)
からなり右項目の合算額が一時金支給額となる。
(ロ) 算出の基準となる基本給について
 昭和五二年春闘結論にもとづく年令別最低保障をとることとする。
(ハ) 格付について。一時金は格付けによつて大幅に違つて来る。
 そこで基本給の基礎となる職群等級及び職務等級はいずれも年令別最低保障を採
用した。
 債権者は工業高校の新卒採用で二年間の実習期間終了後執務職となつた。
(ニ) 一時金の支給率査定部分は平均的労働者として平均をとる。
 右基準により各年度の春闘結論(賃金協定)各年度の一時金協定を適用すれば別
紙計算書記載のとおりである。
六 保全の必要性
(一) 債権者と債務者間には、現在御庁において労働契約確認等請求控訴事件
(昭和五三年(ネ)第一三八四号事件)の控訴が係属中であるが判決言渡まではな
お相当の日数を要する予定であり、債権者は直ちに別紙債権目録記載の一時金等の
支払いを受けなければ憲法で保障された健康で文化的な最低限度の生活はおろか、
その生活は危機的状況に陥る恐れがある。
 債権者は第一、第二審の地位保全請求事件および本案勝訴後、いずれも債務者会
社に労務を提供したにもかかわらず、債務者会社はあくまでも固くなにその受領を
拒否し、債権者の働く権利を侵害している。しかも債権者およびその家族らは、債
権者およびその配偶者の賃金のみで生計を維持しているところ、昨今の目に余る狂
乱ともいうべき物価高騰のためにその生活は危殆に瀕し後記のように借財によつて
なんとか暮しをたてている程である。そのうえ、インフレによる貨幣価値の下落は
甚しいものがある。すでに消費者米価、私鉄運賃、酒、灯油など軒並みに値上げが
決定され、さらに近いうちに郵便料金、電話代、国鉄運賃など公共料金の値上げが
必至であり、したがつて、今後さらに物価の異常な高騰、インフレのこう進が予想
されるところから、累積された一時金を今直ちに支払をうけなければ債権者はその
生活を維持することができない。
(二) すなわち債権者は妻および七歳、六歳、三歳の男児合わせて五人暮しで、
同人と病弱な妻の無理な働きで月収は金二七万円余であるが物価高の下できりつめ
ても毎月平均金三一万円の支出があり、毎月約三万円の赤字で苦しい生活である。
よつて、債務者に対する賃金等請求権に基づき債権者は申請の趣旨記載の金員の支
払いを求めるものである。
 一時金計算書
 (格付・基本給最低保障) 作成・A
<20260-001>
<20260-002>

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