弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取消す。
     本件競落はこれを許さない。
         理    由
 本件抗告の趣旨は、
 原決定を取消すとの裁判を求める
 というのであり、
 抗告の理由は、
 別紙目録甲の不動産について昭和四二年一二月一一日競売期日が開かれ同月一五
日の競落期日において競落許可決定があつたのであるが、右競売期日の公告には、
右不動産についてA、B、Cとの間に賃貸借関係ありと記載されているところ、右
不動産中第二の物件については当初より賃貸借関係はなく(登記もない)、第一の
物件については従前は右A外二名との間に賃貸借関係があつたが、昭和四二年一〇
月一五日右賃借権の譲受人である件外蔦興業株式会社に対する賃貸借解除の判決が
確定して、前記の競売期日当時においては両物件とも賃貸借関係は存在せざるに至
つていたものである。そうすると本件競売期日の公告は目的不動産に賃貸借がない
のにこれありと記載した誤りがあり、民事訴訟法第六七二条第四号第六五八条第三
号に違反するから、本件競落は許されるべきではなく、原判決は失当である
 というのである。
 よつて一件記録を検討すると、別紙目録甲の不動産中第一の物件は破産者Dの所
有、第二の物件は件外Eの所有で共同担保となつている物件であるが、昭和四二年
一二月一一日の競売期日において競売に付され(第一の(1)(2)は一括競
売)、件外Fにおいて最高価競買の申出をなし、同月一五日の競落期日において競
落許可決定が言渡されたこと、右競売期日及び競落期日の公告(昭和四二年一〇月
一二日付のもの)は、徳島地方裁判所掲示場に同年同月一六日、徳島市役所掲示場
に同月一七日、それぞれ掲示されたが、競売の目的たる別紙目録甲の不動産には賃
貸借関係があつてその内容は、「契約年月日昭和三九年一二月二二日、賃借人A、
B、C、賃料一ヶ月二万三、〇〇〇円、支払期毎月末日、期限契約の時より三ヶ年
間」である旨記載されていたこと、ところで右不動産中第一の(1)の物件は、昭
和三九年一二月二三日A、B、Cに対し、賃料月金一万円、支払期毎月末日、存続
期間三年、特約として譲渡、転貸ができる約で賃貸され、また第一の(2)の物件
は、右同日Bに対し、賃料月金三、〇〇〇円、その他は前同様の約で賃貸されその
旨登記されたが、第二の物件は賃貸されなかつたこと、第一の物件についての賃借
権は昭和四〇年四月二八日件外Gに、同年一一月二五日蔦興業株式会社に、順次譲
渡されその旨登記されたが、賃貸借解除の訴が提起され、昭和四二年一〇月一五日
解除の判決が確定し、同年一二月六日賃借権設定登記の抹消登記が経由されたこ
と、以上の事実を認めることができる。執行吏の賃貸借取調報告書には右認定に反
し、第二の物件も賃貸の目的となつていた旨、賃料は別紙目録甲および乙の物件全
部で月金二万三、〇〇〇円である旨および賃借人は物件全部についてA、B、Cで
ある旨の記載があるが、この記載は甲乙各物件に対する登記簿謄本の賃借人、賃料
の具体的な記載に照らして信用し難く、他に右認定と相容れぬ資料はない。右認定
の事実によると、本件競売期日当時においては別紙目録甲の第二物件についてはも
とより第一物件についても賃貸借関係は存在しなかつたといわなければならず、本
件競売期日の公告は賃貸借関係がないのにこれありと表示した誤りがあることに帰
する。
 ところで、競売法第二九条によつて任意競売に準用される民事訴訟法第六五八条
第三号は、競売期日の公告には「賃貸借アル場合ニ於テハ其期限並ニ借賃及ヒ借賃
ノ前払又ハ敷金ノ差入アルトキハ其額」を記載すべきことを命じており、同法第六
七二条第四号第六八一条(競売法第三二条によつて任意競売に準用される)は、公
告に賃貸借関係の記載を欠いた場合は、競落許可に対する異議理由あるいは競落許
可決定に対する抗告理由となる旨を定めているのであるが、これとは逆に賃貸借関
係がないのにこれありとして公告した場合については直接に定めるところがない。
 <要旨第一>しかし、前記の規定は要するに賃貸借の存否等はその不動産の実質的
価値、利用方法に影響するところが多く、一般人がその不動産の競売に
参加するかどうかまたいくばくの代価で買受を申出るかを決意するについて重要な
関係のある事柄であるところから、これを広く一般に了知させ、以て競買申出に齟
齬を来たさないよう配慮したものであると考えられる。そうだとすると、賃貸借が
存在しないのに存在すると表示した公告も法の所期する目的に背馳するもので違法
たるを免れないというべく、かかる違法な公告に基づいて開かれた競売期日におけ
る競落は民事訴訟法第六七二条第四号第六五八条第三号によつて不許可とされるべ
きであると解しなければならない。
 もつとも本件の場合、執行裁判所が公告書を作成したと考えられる昭和四二年一
〇月一二日当時においては第一の物件に対する賃貸借は未だ消滅していなかつたば
かりか、その後においても裁判所は賃貸借の消滅を知る方法がなかつたと認めら
れ、第一物件に関して前記のような公告が掲示場に掲示されたこと自体はやむを得
なかつたと考えられるのであるが、前記のような法の趣旨から見れば、右のような
事情であつたからといつて本件の公告を適法なものとすることはできないというべ
きである。
 また執行官の原審裁判官に対する昭和四二年一二月二三日付報告書、本件競落人
F代理人の上申書および第一物件についての昭和四二年一二月八日付登記簿謄本に
よれば、昭和四二年一二月一一日午前一〇時に開かれた本件競売期日には、本件の
抗告人(弁護士)が在席していて、競買のため出頭した者一同に対し、第一物件に
ついての昭和四二年一二月八日付登記官吏認証の謄本を示し、公告に記載してあつ
た賃貸借は解除の判決確定により消滅し賃貸借の登記もすでに抹消されている旨を
説明し、高価買受を要望したので、一同は公告記載の賃貸借はすべて消滅したもの
と認識し、本件第一第二の不動産には賃貸借の負担がないとの前提の下に価額の申
出をし、結局Fにおいて第一の物件につき金二、〇〇六万円(最低競売価格は金
一、五二九万四、二四〇円)、第二の物件につき金九三五万円(最低競売価格は金
八一〇万円)の競買申出をして最高価競買人となつた事実を認めることができる。
そうすると、本件公告の誤りは本件競売期日に出頭した者に対しては影響
 <要旨第二>するところがなかつたというべきである。しかしながら、公告なるも
のは当日競売易に出頭した者のみを対象とするのでなくして社会の一般
人を対象とするものであり、賃貸借のない不動産はそのような不動産であるとして
広く一般に了知させることを目的とするのであるから、たまたま競売場に出頭した
者に対する関係で誤りが是正されたとしても、公告の瑕疵は治瘉されるものではな
いと解すべきである。
 以上の次第であるから、本件競売期日の公告は違法たるを免れず、別紙目録甲の
物件に対する競落は許可されるべきものではない。
 よつて原決定を取消し、本件競落を許さない旨の宣言をすべきものとし、主文の
とおり決定する。
 (裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 裁判官 藤原弘道)
別紙
   目 録 甲
第一
 (1)徳島市a町b丁目c番d
  一、宅地 三三〇坪(一、〇九〇・九〇平方米)
 (2)右同所c番地
  家屋番号ef番g
  一、木造瓦葺二階建居宅
     床面積 一階 一三坪四合三勺(四四・三九平方米)
         二階 一〇坪五合(三四・七一平方米)
  附属建物符合1
  一、木造瓦葺平家建事務所
     床面積 三坪(九・九一平方米)
第二
  徳島市a町b丁目h番i
  一、雑種地 一反歩(九九一・七三平方米)
   目 録 乙
徳島市a町b丁目j番地k
一、雑種地 二畝五歩(二一四・八七平方米)
右同所c番地l
一、雑種地 五畝五歩(五二・三八平方米)
右同所一八番地
家屋番号ef番m
一、木造スレート葺平家建工場
   床面積 五七坪(一八八・四二平方米)
附属建物符合1
一、木造スレート葺二階建事務所
   床面積 一階 五坪二合五勺(一七・三四平方米)
       二階 三坪七合五勺(一二・一二八平方米)
右同所一八番地
家屋番号ef番n
一、木造スレート葺二階建居宅
   床面積 一階 一三坪二合五勺(四三・七九平方米)
       二階 一二坪(三九・六六平方米)
附属建物 符合1
一、木造スレート葺平家建車庫
   床面積 六坪(一九・八三平方米)
同    符合2
一、木造スレート葺平家建便所兼浴室
   床面積 三坪五合(一一・五六平方米)
同    符合3
一、木造スレート葺平家建炊事場
   床面積 六坪(一九・八二平方米)

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