弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人西川誠の上告趣意第一点について。
 しかし、被告人は所論のように昭和二一年三月七日警察署に留置されたとしても、
その五日後なる同月一二日司法警察官の取調を受けた際、本件犯行の一切を自白し
(記録四〇丁以下聴取書)、次で検事の第一回(同月一四日、記録六二丁以下聴取
書)及び第二回(同月一六日、記録八〇丁以下聴取書)の取調の際にも同様自白し、
第三回(同月二〇日、記録八三丁以下聴取書)第四回(翌二一日、記録一二四丁以
下聴取書)及び第六回(同月二三日記録一五五丁以下聴取書)の取調の際にはいず
れも自白をひるがえし、犯行を否認したのであるが、第七回(同月二四日、記録一
七五丁以下、聴取書)取調べの際に否認をひるがえして再び本件犯行を詳細に自白
し、第九回(同年四月八日、記録二〇八丁以下聴取書)取調の際にも同様自白をつ
づけ、所論第二回予審訊問調書の自白とその内容を同じくしていることは記録上明
白である。されば所論の第二回予審訊問調書の自白が、たとい、所論のように被告
人が勾留されてから数月後になされたものであるとしても、そのことだけでは、こ
の自白を目して不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白というのは当らない。
(判例集二巻七号七一五頁参照)また、面接禁止や独房生活をしたからといつて直
ちに自白を強要されたものとはいえないし、その他所論予審調書が強制又は拷問に
因るものであることを認むべき資料が存しないから、所論憲法三八条違反の主張は
その前提を欠き採るをえない。
 同第二点について。
 しかし、自己又は配遇者の直系尊属であるか否かは、刑法二〇〇条の罪となるべ
き事実に属するものであるから、その犯罪成立当時における民事法規等によつて判
定すべきものである。従つて、同条の犯罪成立後刑罰法令以外の民事法規が改正さ
れ従来の民事法規によれば直系尊属であつた者が仮りにその改正によりその身分を
失うに至つたとしても、既に成立した尊属殺の成立を阻却しないばかりでなく、犯
罪後の法律に因りその刑に変更のあつたときといえないこと多言を要しない。今こ
れを本件に観るに、原判決の確定したところによれば、被告人は、昭和一八年一月
中Aと結婚し同年一〇月四日その届出をも了し、昭和二〇年一二月二日同人死亡後、
同人の実母Bに無断で翌二一年一月二一日附を以てAの選定家督相続人の届出をし
てC家の戸主となつた者であるところ、同二一年二月二四日午後二時半頃同居中の
右Bの不在中殺意を以て自宅炊事場の飯櫃に残つていた飯の上に青酸加里粉末約一
瓦を撒布して置いたが、Bにおいて同日午後六時頃右飯を一口口にしただけでその
異変に感ずき吐き出したため殺害の目的を遂げなかつたというのである。従つて、
右犯行当時の民法七二九条二項によれば、被害者Bは、被告人の配偶者Aの直系尊
属であつたこと明白である。されば、昭和二二年法律七四号(日本国憲法の施行に
伴う民法の応急的措置に関する法律)三条、及び附則一項の規定によつて、右民法
七二九条二項の規定が本件犯行後一年二箇月余を経た同二二年五月三日以後適用が
なくなり、それと同時に仮りに所論のごとく姻族関係が消滅したとしても(当裁判
所は右措置法施行後も姻族関係は夫婦の一方が死亡しただけでは消滅しないという
見解を支持する)、前述の理由により本件犯罪の成立又は法定刑に影響を及ぼすも
のとはいえない。それ故、所論は、既にその前提において採用できない。なお記録
を精査するも本件には刑訴四一一条を適用すべきものとも認められない。
 よつて刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い主文のとおり判決する。
 右は第二点に関する裁判官真野毅の反対意見を除き裁判官一致の意見である。
 第二点に関する裁判官真野毅の反対意見は次のとおりである。
 原判決は尊族殺に関する刑法二〇〇条を適用して処罰したのである。しかしなが
ら、同条は憲法一四条の平等の原則に違反する違憲無效の規定であるから、これを
適用した原判決は破棄さるべきものである。その詳細の論議は最高裁判所判例集四
巻一〇号二〇四一頁以下に述べたところと同一である。
  昭和二七年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎
 裁判長裁判官沢田竹治郎は退官につき、署名捺印することができない。
            裁判官    真   野       毅

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