弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告理由第一点について
 所論旧組合規約一七条には、組合員総会に諮るべき事項として、組合規約等の外
委員会において必要と認むる事項を掲げ、またその二〇条には、委員会に諮るべき
事項として組合運営に関する事項の外総会に諮るべき事項を挙げていることはいず
れも原判決の確定したところである。そしてこれら両規定を対照して考えれば、組
合員総会に諮るべき事項は規約上当然に委員会の先議を経べきことを予想したもの
と解さなければならない。このことは右両規定の文理上当然なるのみならず、原審
の確定した旧組合規約一八条によれば、総会の日時、場所、議案の通知等は緊急の
場合を除き、会日の五日前になさるべきことを原則とするのであるが、かかる事項
は当然に委員会の権限に属するものと解すべく、従つて委員会の議を経ない議案は
これを予想しなかつたものと見るのを妥当とするのである。しかし、以上の規定か
ら直ちに委員会の議を経ない議案は絶対にこれを総会に提出し得ないものと速断す
ることはできない。思うに議決機関と執行機関とを分離する立前の下においては、
議案の提出はこれを執行機関の管掌下に置くを通例とするも、各構成員にその権限
を認めないときは、その権利を適正に保護し得ないことに鑑み、かかる場合に対処
し、各構成員にはいわゆる少数株主権の如き、固有の総会招集権従つて議案提出権
を認めるのである。(会社法上の制度の如く)しかるに本件旧組合規約上かかる組
合員の権利を保護する規定のあることについては、原審において何等の主張のない
ところである。しかしかくては組合員の権利は蹂躙せられ、委員会において議案の
提出を肯しない以上、組合員は拱手傍観、ただ委員会の恣意に委ねざるを得ないこ
ととなるであろう。組合規約をかくの如く不合理に解することは解釈として決して
当を得たものではない。以上の見地から前記の規約を見れば、上記の規定はただ通
常の場合を予想したものにすぎず、緊急な特別の事情ある外合に少くとも組合員よ
り議案を提出するは何等その禁ずる趣旨でないものと解するを妥当とすべきである。
 しからば、叙上の規定から組合員総会は旧組合規約二〇条所定の事項以外は当然
に委員会の先議を経ずして審議し得るものとした原判決は失当たるを免れないが、
本件解散の動議を有効とした結論は正鵠たるを失わないものというべく、これと反
対の見解に立ち、原判決を非難する論旨は排斥を免れない。
 同第二点について
 旧組合規約一八条但書に所論の如き規定があることは原判決の確定したところで
あり、その趣旨が、総会の日時、場所及び議案の通知に五日の期間を置くを要しな
いとするにあることは論旨にいうとおりである。蓋し組合員総会が総会毎に組合員
により選出される代議員によつて構成されるものであること、従つてまた代議員は
事前に通知された議案について選出されるものであることは原判決の確定した事実
であつて、この事実は議案の通知については緊急を要する場合であつても少くとも
代議員を選出するに必要な期間の存置を必要とすることを示すものだからである。
しかし翻つて考えるに右一八条は組合員総会の召集の場合に関する規定であつて、
既に召集された組合員総会において新に議案を提出する場合に関する規定ではない。
そして第一点において説明したとおり既に召集された組合員総会においては緊急な
特別の事情ある場合には組合員より議案を提出することは妨げられないのであつて、
しかもこの場合の手続に関しては旧組合規約上何等特別の定めがなされていないと
認むべきである以上、組合員よりの議案の提出については事前の通知はこれを要し
ないものと解するを相当とする。しからば旧組合規約一八条をひいて本件解散決議
を無効とする論旨は結局理由なきに帰する。
 上告理由第三点について
 原判決の引用する第一審判決の事実摘示並に本件口頭弁論の結果によれば、被上
告人は上告人の所論主張事実中起立による採決の方法を執つたことを認めたに止ま
り、その方法を執るに至つたのは所論の如き威圧干渉を加えたためであるという事
実はこれを否定した趣旨であることが明である。所論は被上告人の答弁の片言隻句
を捉え、これを曲解した上での論であつて採用することはできない。
 上告理由第四点について
 被上告人が所論D地方労働委員会の第一、二回委員総会において上告人等を解雇
する理由として主張した能率低下の事実その他の解雇理由を明確にし得なかつたと
いうことは当事者間に争がないかのようであるけれども、被上告人が上告人の右主
張事実に対し答弁するに当り、その解雇理由を明にし得なかつたのは、旧組合解散
後の解雇のため労働委員会での審議を必要としなくなつたからであると附加陳述し
たことは記録上明であつて、これによると被上告人は上告人の右主張事実を無条件
に自認したものでないこと明白である。のみならず労働委員会において主張した解
雇理由のみが常に真実の解雇理由であつて、その余の解雇理由はすべて爾後の創作
であるということは常に必ずしもいえないから、論旨一ないし三項は畢竟原審の適
法に確定した事実を争うに帰し適法な上告理由とならない。次に原判決は、上告人
等を解雇したのは旧組合の解散に協力する意味でしたものであると判示し、被上告
人が一見組合の結成運営に介入した事実を確定したかの如くであるけれども、これ
を仔細に吟味すれば、上告人等の解雇されたのは上告人等が低能率且つ被上告人の
業務の運営を妨害したがためであるとした趣旨であることが窺われる。蓋し上告人
等の解雇されたのは旧組合の解散決議後のことであつて、被上告人が解散に協力す
るということはあり得る筈がなく、従つて原判決の趣意は要するに、既に解散によ
り消滅した旧組合の存否に関し更に紛争の継続するを回避しようとする意図もあつ
たことを説明せんとしたものに止まり、これをもつて解雇理由としたものと認め難
いからである。従つて本件解雇を不当労働行為なりとする四項の論旨も理由がない。
 なお原判決挙示の証拠によれば上告人等は論旨指摘の如く業務の運営を阻害しま
た低能率であつた事実が疏明されないことはない。そして右の事実自体当然に上告
人等の不当所為を示すものと認むべく、更に詳細にその具体的な事実を判示しなけ
ればならぬものではない(上告人等が所論のように正当の権利行使として右の所為
に出たという事実については原審においては何等の主張立証もないところである)。
論旨五項も理由がない。
 上告理由第五点について
 旧労働組合が解散して新労働組合が結成される場合、旧組合当時の労働協約が効
力を失うか否かの問題はこれを一概に論ずることはできないけれども、原判決の確
定した如く、旧組合の内紛によりその脱皮生長を図るため旧組合を解散し、新にこ
れと別個の組合を結成したような場合には、旧組合と新組合とはその関連性がなく、
団体としての統一的持続性を欠くものと認むべく、旧組合当時の協約はその効力を
失うものと解すべきである。所論は旧組合が消滅しないことを前提とし或いは独自
の見解により、旧組合の労働協約がその自動延長の定めにより旧組合の解散後も存
続することを前提とする論であつてすべて採用に値しない。
 よつて民訴三九六条三八四条八九条九五条により裁判官全員一致の意見で主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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