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平成22年7月20日判決言渡
平成22年(ネ)第10022号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平
成21年(ワ)第7735号)
口頭弁論終結日平成22年6月15日
判決
控訴人株式会社オーガニックランドシステムズ
同訴訟代理人弁護士鈴木和雄
同鈴木一毅
同村岡賢太郎
被控訴人財団法人グリーンクロスジャパン
同訴訟代理人弁護士上野廣元
被控訴人Y
被控訴人セントラル・エンジニアリング株式会社
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して5000万円及びこれに対する平成
19年5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。
4第2項につき仮執行宣言
第2事案の概要
1本件は,被控訴人(一審被告)セントラル・エンジニアリング株式会社(以
下「被控訴人セントラル」という)との間で,冷凍システム並びに凝縮用熱交換。
装置に関する後記特許権についての通常実施権の許諾を受ける契約をした控訴人
(一審原告)が,当該特許の共有特許権者である被控訴人(一審被告)財団法人グ
リーンクロスジャパン(以下「被控訴人グリーンクロス」という)及び被控訴人。
(一審被告)Y(以下「被控訴人Y」という)が被控訴人セントラルに対して設。
定した専用実施権は,特許原簿に設定登録がされていないため無効であり,この専
用実施権に基づき許諾された上記通常実施権も無効であるとして,被控訴人らに対
し,不法行為に基づき,損害賠償金5000万円及びこれに対する訴状送達の日の
翌日である平成19年5月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求めるとともに,被控訴人セントラルに対しては,さらに,債
務不履行に基づき,同額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める
事案である。
2原審は,専用実施権設定契約に基づく登録がされていないため専用実施権の
,,,効力が生じない場合であっても被控訴人セントラルはその約定の趣旨に沿って
独占的通常実施権を取得したものということができ,また,通常実施権者は,特許
権者の承諾がある場合には,通常実施権の再実施権を許諾することができると解す
べきであるところ,本件においても,専用実施権設定契約において,再実施権を許
諾したことが認められ,それによって,控訴人は通常実施権を取得したものという
ことができるから,控訴人の不法行為及び債務不履行に関する主張はいずれも前提
が誤りであると判断して,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が,これ
を不服として本件控訴を提起した。
3控訴人の本訴請求を判断する前提となる事実は,原判決の「事実及び理由」
の「第2事案の概要」中の「2前提となる事実」記載のとおりであるから,こ
(,,「」「」,「」れを引用するただし同記載中原告を控訴人と被告グリーンクロス
を「被控訴人グリーンクロス」と「被告Y」を「被控訴人Y」と「被告セントラ,,
ル」を「被控訴人セントラル」とそれぞれ読み替え,以下,原判決を引用する場合
は同様に読み替えるものとする。。)
,「」「」「」4争点は原判決事実及び理由中の第2事案の概要中の3争点
記載のとおりであるから,これを引用する。
第3争点に関する当事者の主張
1当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中
の「第2事案の概要」中の「4争点に関する当事者の主張」記載のとおりであ
るから,これを引用する。
2控訴人
(1)争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について
ア原判決が独占的通常実施権を認定した誤り
原判決が,独占的通常実施権としての有効な成立を認めた判断は,誤った特許法
の解釈と特許制度の運用に基づくものであり,違法である。
すなわち,本件専用実施権設定契約(乙1)と本件通常実施権許諾契約(甲7の
1)とを比較すると,相互に整合性がなく,また多くの矛盾する点が存する。例え
ば,被控訴人らの間で締結された本件専用実施権設定契約(乙1)では,本件専用
実施権の設定登録を行うことになっているのに対して,被控訴人セントラルと控訴
人との間で締結された本件通常実施権許諾契約(甲7の1)では,被控訴人セント
ラルは本件専用実施権の設定登録が義務付けられていないこと,また,本件専用実
施権の設定登録をせずに控訴人に対して通常実施権を許諾していること,共有特許
の場合は他の特許権者の同意(又は承諾)を得なければ第三者に通常実施権を許諾
することができないことになっているのに,被控訴人セントラルは控訴人に対して
単独で通常実施権を許諾したこと,本件専用実施権設定契約(乙1)には契約一時
金の取り決めがないのに本件通常実施権許諾契約(甲7の1)では高額な契約一時
金(3500万円)を定めていること,などである。
このように本件専用実施権設定契約の内容と本件通常実施権許諾契約の内容とが
必ずしも一致するものとは思われないのに,原判決が,これを一致しているとして
独占的通常実施権の効力を認めたのは,特許の効力につき総合的に検討をせず,安
易に無効行為の転換を行って有効と判断したもので,特許法の制度を没却するもの
である。
また,本件通常実施権の許諾は本件専用実施権の許諾に基づくものであるから,
上記のように整合性がない契約は無効である。
イ独占的通常実施権について再実施契約を認定した誤り
特許法77条4項は専用実施権者に,同法78条1項は特許権者にそれぞれ通常
実施権の許諾権を与えているが,同法には,通常実施権者に通常実施権の許諾権を
与える規定は存しない。
学説の中には通常実施権の再実施権を肯定するものもあるが,そのような学説は
再実施権者の前者が当然に通常実施権者である事案を前提とし「特許権者の承諾,
さえあれば,あえて契約自由の原則を破り,再実施許諾契約の有効性を否定するほ
どの反公序良俗性はないと考えられる」という価値判断の下で,通常実施権の再。
実施権を肯定しているにすぎない。
そして,再実施権者の前者が当然に通常実施権者である事案の場合,再実施権者
は,特許法上の登録を受けられないことを承知して再実施許諾を受けるのであるか
ら,何ら損害を被るものではない。しかし,本件においては,控訴人は,被控訴人
セントラルが当然に専用実施権者であるとの説明を信じて取引に入ったのであっ
て,その後,被控訴人セントラルが専用実施権者の登録を受けておらず専用実施権
者ではなかったことを知ったため,同社に対し,専用実施権の登録を受けるよう請
求を行い,被控訴人セントラルは,かかる請求を受けて,平成18年1月27日,
専用実施権登録を受けようとしたが,添付書面不備(主として専用実施権の許諾契
約書不備)の理由でもって設定登録の申請が却下されているのである。その結果,
被控訴人セントラルは本件特許の有効期間中は専用実施権の設定登録ができないこ
とになり,控訴人も通常実施権の許諾登録ができないことになった。このように,
前者が専用実施権者であると思っていたにもかかわらず,実は独占的通常実施権者
にすぎなかったような場合,再実施権者は特許法上の登録を受けようと思ってもこ
れを受けることができない。しかるに,登録を受けることができなければ,特許権
者が特許権を第三者に譲渡した場合や第三者に専用実施権を設定した場合,当該第
三者に対して不作為請求権を行使することができず,通常実施権の本質を全うする
ことができない。
以上のように,通常実施権の登録が一切認められない実施権は,特許法上の通常
実施権とはいえないというべきである。したがって,本件専用実施権の設定登録を
せずにされた本件通常実施権許諾契約は特許実務上の扱いにも反し,無効である。
(2)争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について
ア特許権者である被控訴人グリーンクロス及び被控訴人Yと専用実施権者であ
る被控訴人セントラルとの間で締結されている本件専用実施権設定契約(乙1)に
おいては,被控訴人らが協力して専用実施権の設定登録をすることが前提になって
いるが,その登録手続をしなかったことは違法である。
すなわち,特許権者と専用実施権者との間では専用実施権の設定登録がされなく
ても当事者間では有効であるが,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾(独占
的であるか否かは関係ない)する場合は専用実施権の設定登録は不可欠となる。こ
れは専用実施権の設定登録が効力発生要件であり第三者対抗要件であるという特許
法の解釈と特許実務の運用に反していることになるからである。
イ本件通常実施権許諾契約(甲7の1)の前提となる本件専用実施権設定契約
(乙1)において共同特許権者である被控訴人グリーンクロス及び被控訴人Yは専
用実施権者である被控訴人セントラルに対して本件専用実施権の設定登録が義務付
けられているのに,その登録手続を怠ったのであるから,この点につき,被控訴人
らは控訴人に対して連帯責任を負うものと解することができる。
ウ控訴人は,被控訴人セントラルが当然に専用実施権者であるとの説明を信じ
て取引に入っている。一方,被控訴人グリーンクロス及び被控訴人Yは,控訴人の
ような第三者の登場を当然に予定して被控訴人セントラルと本件専用実施権設定契
約(乙1)を締結しており,専用実施権設定登録を行わなければ第三者が通常実施
権を取得できないことを知りながら設定登録を怠っている。
その結果,前述のとおり,再実施権者である控訴人は,特許法上の登録を受けよ
うと思ってもこれを受けることができず,特許権者が特許権を第三者に譲渡した場
合や第三者に専用実施権を設定した場合,当該第三者に対して不作為請求権を行使
することができず,通常実施権の本質を全うすることができなくなったにもかかわ
らず,通常実施権実施料として拠出した3500万円と合わせて5000万円もの
出費をさせられているのであるから,被控訴人らが不法行為責任を負うことは明ら
かである。
3被控訴人
(1)争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)に対して
否認ないし争う。原審の判断には,事実誤認はなく,正当である。
(2)争点2(不法行為又は債務不履行の成否)に対して
否認ないし争う。原審の判断には,事実誤認はなく,正当である。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について
争点1に対する判断は,次のとおり加除訂正するほか,原判決「第3当裁判所
の判断」のうち「1争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について」記載
のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決8頁7行目の冒頭に「(1)」を付加する。
(2)原判決9頁2行目の冒頭に「(2)」を付加する。
(3)原判決9頁12行目の次に,改行して次の文を挿入する。
「(3)この点について,さらに,控訴人は,前記第3の1(1)のとおり主張する
ので,以下検討する。
ア原判決が独占的通常実施権を認定した誤りについて
この点について,控訴人は,本件専用実施権設定契約の内容と本件通常実施権許
諾契約の内容とが必ずしも一致するものとは思われないのに,原判決が,これを一
致しているとして独占的通常実施権の効力を認めたのは,特許法の制度を没却する
ものである等縷々主張する。しかしながら,前記認定のとおり,専用実施権設定契
約の当事者間では,独占的な実施権を付与するという合意は成立しているのである
から,このような契約当事者の合理的な意思を解釈すれば,専用実施権設定契約に
,,おいて何らかの事情で同契約に基づく専用実施権の設定登録ができなかった場合
独占的通常実施権の設定契約を排除することが認められる特段の事情がない限り,
専用実施権の設定契約に代えて独占的通常実施権の設定契約を締結する意思がある
と解するのが相当であって,この点は,本件専用実施権設定契約の内容と本件通常
実施権許諾契約の内容が一致しているか否かとは関係がないというべきである。そ
して,本件においては,全証拠を精査しても,独占的通常実施権の設定契約を排除
することが認められる特段の事情は認められない。
したがって,本件において,独占的通常実施権の効力を認めたとしても,何ら特
許法の制度を没却するものではない。
以上により,この点に関する控訴人の主張は失当である。
イ独占的通常実施権について再実施契約を認定した誤りについて
この点について,控訴人は,通常実施権の登録が一切認められない実施権は,特
許法上の通常実施権とはいえないものであるから,通常実施権の再実施権は認めら
れず,本件のように,専用実施権の設定登録をせずにされた実施許諾は無効である
旨縷々主張する。
確かに,専用実施権については,特許権者の承諾があれば,通常実施権を設定す
ることができる旨の明文の規定(特許法77条4項)があるが,通常実施権につい
ては,同様の明文は存しない。しかしながら,通常実施権者は,特許権者の承諾が
あれば,その通常実施権を第三者に譲渡したり,質権を設定したりすることができ
るのであるから(同法94条1項,2項,同様に,特許権者の承諾があれば,再)
実施契約を設定することも可能と解すべきである。そして,前記認定のとおり,本
件においては,本件専用実施権設定契約(乙1)において,再実施が許諾されてい
るのであるから,専用実施権設定契約に代えて独占的通常実施権設定契約が締結さ
れていると認められる以上,同契約においても,同様に,再実施契約について特許
権者の許諾があると認めるのが相当である。
また,控訴人は,特許庁の取扱いとして通常実施権に基づく再実施契約の登録が
できないことを問題とするが,通常実施権の登録は対抗要件にすぎないから,登録
の有無は再実施契約の有効性には影響しないというべきである。
以上により,この点に関する控訴人の主張も失当である」。
2争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について
争点2に対する判断は,次のとおり付加するほか,原判決「第3当裁判所の判
断」のうち「1争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について」記載のとお
りであるから,これを引用する。
原判決10頁8行目の次に,改行して次の文を挿入する。
「(3)この点について,控訴人は,前記第3の2(2)のとおり,被控訴人らは,
控訴人に対して被控訴人セントラルが通常実施権を許諾するに当たって専用実施権
の設定登録が不可欠の要件であること,専用実施権設定登録を行わなければ控訴人
が通常実施権を取得できないことを知りながら設定登録を怠っており,控訴人に対
する不法行為となる旨縷々主張する。
しかしながら,専用実施権に基づく設定登録がなくとも,独占的通常実施権を設
定したものと解されること,独占的通常実施権に基づく再実施契約も有効であるこ
とは前記のとおりである。また,仮に独占的通常実施権に基づく再実施契約につい
ては登録ができないとしても,本件では,全証拠を精査しても,特許権の譲渡等の
事実はなく,したがって,対抗要件の不備等による現実的な不利益の発生は認めら
れない。そして,被控訴人セントラルの控訴人に対する独占的通常実施権に基づく
再実施契約が有効である以上,控訴人が主張する損害は再実施契約が登録できない
こととは何ら因果関係がないというべきである。
以上により,この点に関する控訴人の主張も失当である」。
3結論
以上のとおりであるから,控訴人の被控訴人らに対する本訴請求はいずれも理由
がない。そうすると,原判決は正当であって,本件控訴は棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
東海林保
裁判官
矢口俊哉

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