弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
第1弁護人加藤文也ほかの上告趣意のうち,憲法21条1項違反の主張につい

1原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実
関係は,次のとおりである。
(1)東京都立A高等学校の校長は,平成15年10月23日に東京都教育委員
会教育長が都立高等学校長等に対して発出した「入学式,卒業式等における国旗掲
揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」と題する通達を受け,平成16年3月1
1日に実施されることとなっていた同校の卒業式において,国歌斉唱の際,生徒,
教職員を始め,来賓や保護者にも起立を求めることとし,同日午前10時に本件卒
業式が開式となる旨及び全員が起立して国歌を斉唱する旨等が記載された実施要綱
を作成した。
(2)同校の元教諭である被告人は,希望がいれられて,本件卒業式に来賓とし
て出席することとなり,当日午前9時30分頃,本件卒業式が実施される体育館に
赴いた。そして,本件卒業式の開式前に,体育館の中央付近に配置された保護者席
を歩いて回り,ビラを配り始めた。
(3)その頃,校長及び教頭は,校長室から体育館に移動を始めたところ,被告
人がビラを配布している旨の報告を受けたことから,教頭が,校長より先に体育館
に向かった。
体育館に到着した教頭は,保護者席内にいた被告人に近づいてビラの配布をやめ
るよう求めたが,被告人は,これに従わずにビラを配り終え,同席の最前列中央ま
で進んで保護者らの方を向いて,同日午前9時42分頃,校長らに無断で,大声
で,本件卒業式は異常な卒業式であって国歌斉唱のときに立って歌わなければ教職
員は処分される,国歌斉唱のときにはできたら着席してほしいなどと保護者らに呼
び掛け,その間,教頭から制止されても呼び掛けをやめず,被告人をその場から移
動させようとした教頭に対し,怒号するなどした。
遅れて体育館に入場した校長も,被告人の近くに来て退場を求めるなどし,教頭
も退場を促したところ,被告人は,怒鳴り声を上げてこれに抵抗したものの,午前
9時45分頃,体育館から退場した。
(4)校長は,その後も体育館に隣接する格技棟廊下で抗議を続ける被告人に対
し,校外に退出するよう求めたところ,被告人はこれに応じる様子がなかったが,
入場のために待機していた卒業生の担任教諭が校長及び被告人に対して卒業式の開
式を促すなどしたことを契機に,被告人は校外に向かい,その様子を見た校長及び
教頭は体育館内に戻った。そして,卒業生が予定より遅れて入場し,本件卒業式は
予定より約2分遅れの午前10時2分頃,開式となった。
2以上の事実関係によれば,被告人が大声や怒号を発するなどして,同校が主
催する卒業式の円滑な遂行を妨げたことは明らかであるから,被告人の本件行為
は,威力を用いて他人の業務を妨害したものというべきであり,威力業務妨害罪の
構成要件に該当する。
所論は,被告人の本件行為は,憲法21条1項によって保障される表現行為であ
るから,これをもって刑法234条の罪に問うことは,憲法21条1項に違反する
旨主張する。
被告人がした行為の具体的態様は,上記のとおり,卒業式の開式直前という時期
に,式典会場である体育館において,主催者に無断で,着席していた保護者らに対
して大声で呼び掛けを行い,これを制止した教頭に対して怒号し,被告人に退場を
求めた校長に対しても怒鳴り声を上げるなどし,粗野な言動でその場を喧噪状態に
陥れるなどしたというものである。表現の自由は,民主主義社会において特に重要
な権利として尊重されなければならないが,憲法21条1項も,表現の自由を絶対
無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認す
るものであって,たとえ意見を外部に発表するための手段であっても,その手段が
他人の権利を不当に害するようなものは許されない。被告人の本件行為は,その場
の状況にそぐわない不相当な態様で行われ,静穏な雰囲気の中で執り行われるべき
卒業式の円滑な遂行に看過し得ない支障を生じさせたものであって,こうした行為
が社会通念上許されず,違法性を欠くものでないことは明らかである。したがっ
て,被告人の本件行為をもって刑法234条の罪に問うことは,憲法21条1項に
違反するものではない。このように解すべきことは,当裁判所の判例(昭和23年
(れ)第1308号同24年5月18日大法廷判決・刑集3巻6号839頁,昭和
24年(れ)第2591号同25年9月27日大法廷判決・刑集4巻9号1799
頁,昭和42年(あ)第1626号同45年6月17日大法廷判決・刑集24巻6
号280頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和59年(あ)第206号同
年12月18日第三小法廷判決・刑集38巻12号3026頁参照)。被告人の本
件行為について同罪の成立を認めた原判断は正当であり,所論は理由がない。
第2その余の主張について
弁護人加藤文也ほかの上告趣意のうち,最高裁昭和43年(あ)第1614号同
51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁を引用して判例違反をいう
点は,原判決は,保護者については国歌斉唱時の起立に協力を求める関係にある旨
判示するのみで,保護者にも起立を強制できるとしたものでないことが明らかであ
るから,所論は前提を欠き,その余は,憲法31条,35条違反をいう点を含め,
実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当
たらない。
よって,同法408条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決す
る。なお,裁判官宮川光治の補足意見がある。
裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
私は,前記東京都教育委員会教育長の通達(以下「本件通達」という。)及びこ
れに基づく校長の教職員に対する職務命令等は,教職員の思想及び良心の核心に反
する行為を行うことを強制することになり,憲法19条(思想及び良心の自由)に
違反する可能性があると考えるが(最高裁平成22年(オ)第951号同23年6
月6日第一小法廷判決・裁判所時報1533号3頁における私の反対意見参照),
被告人の本件行為が威力業務妨害罪の構成要件を充足し違法であることは疑いがな
く,検察官の求刑懲役8月を罰金20万円にとどめて有罪とした1審判決を維持し
た原判決は是認できると考える。
被告人が,本件卒業式には違憲違法な本件通達に基づく「君が代斉唱時の起立斉
唱」の強制が組み込まれていると考え,その事実を,ビラを配布したりして本件卒
業式に参加する保護者等に知ってもらうとともに,国歌斉唱時に着席したままでい
ることに協力してもらいたいと呼び掛けをすることは,それがいわゆるパブリック
・フォーラム(最高裁昭和59年(あ)第206号同年12月18日第三小法廷判
決・刑集38巻12号3026頁における伊藤正己裁判官の補足意見参照)たる性
質を有する場所,例えば校門前の道路等で行われるのであれば,原則として,憲法
21条1項により表現の自由として保障される。また,本件卒業式が実施される体
育館に赴いて,本件卒業式の開始前に,保護者席を歩いて回り,ビラを配布した行
為は,威力を用いて卒業式式典の遂行業務を妨害したとは評価できない。しかし,
続く被告人の行為が,本件卒業式の行われる体育館という場で,かつ,式の開始の
直前(約18分前)に,大声を上げて呼び掛けをするという態様のものであれば,
静穏かつ厳粛に本件卒業式を円滑に執り行うという業務を妨害するおそれがあるも
のとなるといえる。しかも,本件では,被告人は,保護者席の前方中央に立ち,保
護者に対し大声で呼び掛けを行い,これに対し教頭や校長が制止したり退場を求め
たりしたことは必要かつ合理的な行為であるというべきところ,これに従わず両名
に対し怒号を浴びせ,その結果,会場内を一時喧噪状態に陥れ,本件卒業式の開式
も遅れたという事実が認定できるのであるから,こうした一連の行為について,威
力業務妨害罪の成立を認めても,憲法21条1項に違反するものではない。
また,本件は,場所,時を選ばずなされた行為の態様が問題なのであるから,正
当行為及び正当防衛の主張に理由がないことは明らかである。
(裁判長裁判官櫻井龍子裁判官宮川光治裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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